Archive for category スピーカーとのつきあい

Date: 10月 21st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その3)

スペンドールはBCIIの復刻は手がけても、BCIIIは復刻しなかった。
理由はいくつかあるのだろう。

新しくなった輸入元からのリクエストもあったのかもしれない、
そのリクエストにしても、売行きがあまり見込めない機種の復刻を打診することはない。

BCIIIは、イギリスでの評価はどうだったのか知らないが、
日本ではBCIIばかりが評価されていたし、
BCIIIを早くから(BCIIよりも)評価されていたのは岡先生ひとりくらいだった。

オーディオ評論家ではないが、トリオの創業者の中野英男氏もBCIIよりもBCIIIを高く評価されていた。
     *
 私の仕事部屋、つまりトリオの会長室には、今十二本のスピーカーが並んでいる。正確に申せば六セット。うちニセットは机の前あとの四セットは左手の壁ぎわに置かれてある。最近机の前に据えられて定位置を獲得したスピーカーのひとつにスペンドールBCIIIがある。このスピーカーは永い間名器BCIIの名声に隠れて世に喧伝されるところまことに少なかった。BCIIは、菅野沖彦、瀬川冬樹両先生をはじめ、何人かの方によってしぱしぱとりあげられ、その独特の硬質かつ艶麗な語り口が世のクラシック愛好者の注目を集めたが、BCIIIについては今迄推す人はほとんどなく、かの瀬川さんすら幾分疑問視する向きがないでもなかった。
 私はここ何ヵ月かBCIIを聴き込ん来たが、その良さは認めるにせよ、ブルックナーやマーラーの再生時におけるスケール感の貧しさは覆うべくもなかった。
(「音楽、オーディオ、人びと」より)
     *
《かの瀬川さんすら幾分疑問視する向きがないでもなかった》とある。
たしかにそうだった。

ステレオサウンド 44号の試聴記の冒頭に書かれている。
     *
 弟分のBCIIがたいへん出来が良いものだから、それより手のかかったBCIIIなら、という期待が大きいせいもあるが、それにしてはもうひとつ、音のバランスや表現力が不足していると、いままでは聴くたびに感じていた。たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない。
     *
《たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない》
とある。
これは中野英男氏のBCIIIのことなのではないのか。

もちろん別の人なのかもしれないが、
私には中野英男氏のことだと思えてならない。

Date: 10月 21st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その2)

スペンドールのBCIIは、ステレオサウンド 45号の特集に、
BCIIIは44号と46号の特集に登場している。

44号と45号は「フロアー型中心の最新スピーカーシステム」が特集で、
二号にわたってのスピーカーの総テストが行われている。

46号は「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質を探る」で、
モニタースピーカーに限ってではあっても、ここでもスピーカーの総テスト、
つまり三号続けてのスピーカー特集だった。

スピーカー特集のひとつの前の43号はベストバイが特集だった。
BCIIの存在はそれ以前に知っていたけれど、
その評価の高さを知ったのは43号だった。

上杉佳郎、岡俊雄、菅野沖彦、瀬川冬樹、山中敬三の五氏が、
BCIIをベストバイコンポーネントとして選ばれている。
「光沢をおびたみずみずしい音が魅力的(上杉)」、
「ピアノより弦楽器やヴォーカルが見事である(岡)」、
「音の美しさでは、ベストといってよく(菅野)」、
「クラシック中心の愛好家には、ぜひ一度耳にする価値ある名作だ(瀬川)」、
「かけがえのないコンパクト機である(山中)」、
コメントの一部だけの抜粋だけでも、
BCIIというスピーカーシステムが、1977年当時、どれだけ高く評価されていたのかわかる。

とにかく品位の高い音、みずみずしい音を特徴とすることは伝わってくる。
BCIIの音は、はやく聴きたい、と思っていた。

BCIIの音を聴けたのは、瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られた時だった。
43号に書いてあったとおりの音が鳴っていた。

43号でBCIIIは……、というと、岡先生の一票を得ただけだった。
BCIIIについての文章は掲載されてなかったが、
岡先生はBCIIのところで、BCIIの若干の弱みも指摘されていて、
「こうした不満はBCIIIではほとんど感じさせないことは附記しておきたい」と書かれていた。

Date: 10月 20th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その1)

私にとってスペンドールの代表的スピーカーといえば、やはりBCIIである。
私だけに限らないはずだ。
少なくとも私と同世代、上の世代のオーディオマニアの人に同じことを聞けば、
九割以上の人がBCIIと答える、と言い切れる。

それほどBCIIの評価は好ましいものだった。
輸入元が今井商事からかわり、復刻されたBCIIの音は聴いていない。
ここでのBCIIとは、あくまでも今井商事が輸入元だったころのBCIIのことである。

BCIIには、BCIIIという上級機があった。
BCIIは3ウェイ、というより2ウェイ・プラス・スーパートゥイーターといえる構成。
BCIIIは、そのBCIIにウーファーをさらに加えたかたちだ。

BCIIのウーファーは口径20cmのベクストレンのコーン型、
BCIIIは、この20cmウーファーに、30cmのベクストレンコーン型を足している。
カタログには、ふたつのウーファーのクロスオーバー周波数は700Hzとなっている。
20cmウーファーは3kHzまで受け持つのは、BCIIもBCIIIも同じである。

この700Hzという値は、もう少し低く設定することは考えなかったのだろうか、と思わせる。
BCIIにも採用されている20cmウーファーをもう下の帯域まで受け持たせていれば、
スピーカーの印象もずいぶん変ってきたはずなのに……。
それはつまりBCIIのイメージそのままに、
スケールアップしたよさをBCIIIは出せたかもしれない、と思うからである。

日本ではBCIIとBCIIIとでは、圧倒的にBCIIのほうが人気が高く、
売行きも大きな差があったはずだ。

BCIIは、よく見かけたし、何度も音を聴いている。
ステレオサウンドの試聴室でも聴いている。

BCIIIは、というと、これも聴きたくても聴く機会がなかったスピーカーのひとつである。
見かけることも、数えるほどもなかった。

Date: 8月 31st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その15)

Interface:Dを開発していたころ、
エレクトロボイスは、ジム・ロングが語っているように他社ほど成功しているとはいえなかった。

過去の名器としてPatricianシリーズがあっても、
メーカーには、そういう時期も必ず来る。
JBLもそういう時期があったし、アルテックにもARにもあり、
他のメーカーにもある。

そういう時期だったからエレクトロボイスは、
他社が取り入れていない理論を受け入れやすかった、ともいえよう。
だから定指向性ホーン(Constant-Directivity Horn)が、
エレクトロボイスに在籍していたドン・キールによって打ち立てられた、ともいえよう。

ドン・キールはエクスポーネンシャルホーンが、それほど神聖か、という論文も書いているそうだ。

アルテックのマンタレーホーンの縦長のスリットをみていると、
トーンゾイレ型スピーカーと重なってくる。

トーンゾイレ型も、
スピーカー軸上から外れたところでも指向特性の範囲内でのエネルギー分布を均一するという目的で、
マッキントッシュのXRT20のトゥイーターアレイも同じ設計思想であり、
これをホーンを上下に何段も積み重ねるでなく目指したのが、定指向性ホーンである。

そう考えると、トーンゾイレ型スピーカーにホーンを取り付けたら……、となる。
コーン型ウーファーに縦方向に数発並べてのトーンゾイレ型をつくり、
その前にホーンを置く。

そんなことを考えていたら、アルテックの817Aエンクロージュアは、それに近い。
15インチ口径ウーファーを二本、縦方向に配置し、フロントショートホーンがつく。

817Aをひとつではなくもうひとつ用意して重ねれば、
よりトーンゾイレ型に近づく。

下側の817Aには515Eを二発、
上側の817Aには604-8KS(フェライト仕様になり奥行きが短くなったことで収まる)を二発、
その上にマンタレーホーンを置く。

604-8KSのトゥイーターを使うことで3ウェイにできる。
あまりにも大型すぎて、聴くことは叶わないが、悪くはないはずだ。

Date: 7月 24th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スピーカーとのつきあい(その2)

その1)で、スピーカーを友と書いた。
別項で「スピーカーシステムという組合せ」を書いている。

このことと、スピーカーを友とするのは関係している。
少なくとも私のなかでは。

オーディオというシステムは、
単体のオーディオ機器だけでは音を出せない。

これまでくり返し書いているように、
それにオーディオ雑誌にも昔から書かれているように、
プレーヤー(アナログもしくはデジタル)、
アンプ、スピーカーシステム、
最低でもこれだけのモノが揃わなければ、音は出せない。

どんなに優れた性能のアンプであっても、
それ一台だけでは、音は聴けない。

スピーカーを接ぎ、
入力になんらかの信号が加わらなければ、スピーカーから音は鳴ってこない。

つまりオーディオはコンポーネント(組合せ)の世界である。
このことが、私に、オーディオは道具でなく、意識である、と考えさせている。

オーディオ機器を道具として捉えるよりも、
意識として捉えている。
このことは、以前「続・ちいさな結論(その1)」、「使いこなしのこと(その33)」でも書いている。

オーディオ機器は確かに道具である側面をもつ。
けれど、それだけにとどまらず、組合せにおいて、
というよりも組合せそのものが、鳴らし手の意識である、と認識をもつようになった。

Date: 7月 15th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その14)

ST350トゥイーターを搭載したInterface:Dは、
ティール&スモール理論によって設計された、
少なくともコンシューマー用スピーカーシステムとしては最初のモデルのひとつである。

いつのころからかスピーカーのカタログにはTSパラメーターが記載されるようになった。

ティール&スモール(Thiele & Small)理論なるものを、
私が初めて目にしたのは、ステレオサウンド 49号(1978年12月発売)でだった。

巻末近くに、特別インタビューとして、
チャートウェルのデビッド・ステビング、エレクトロボイスのジム・ロング、
タンノイのリビングストンが登場している。

エレクトロボイスのジム・ロングが語っている。
     *
 そこて、インターフェースシリーズのことについてですが、このシリーズはオーストラリアのティール博士の理論に基づいてウーファーを作ったことがセールスポイントになっています。ティール理論というのは、一九六二年にオーストラリアで発表されたもので、雑誌に発表されました。アメリカで出版物に紹介されたのは一九七一年のことです。その時に技術部長のニューマンのところへ出版物が送付されてきたのです。彼はその記事を読み、大いに引きつけられて、あくる日に私のところにこの本を持ってきたわけです。しかし、そのときは私は今までのバスレフ理論とそれほど違うようには思えなかったので、たいして気にもとめなかったのですが、ニューマンと話し合っているうちにその素晴らしさがわかってきたのです。しかも、エンクロージュアの小型化と低音再生能力、能率の向上という相反する条件が満たされるというので、これは素晴らしいセールスポイントになると思い、採用すべきだと主張したわけです。しかし、JBLやアルテック、ARはこの記事に関して興味を示しませんでした。それはおそらく、他のメーカーはすでに成功していたからだと思います。EV社は新しいモデルについて思案している時でしたので、条件的にも受け入れやすかったこともあり、タイムリーだったと思いますね。ですから、それまで考えていたプロトタイプを中止してまで、このティール理論のバスレフ型を採用することにしたわけです。
     *
Interface:Dは3ウェイバスレフ型である。
バスレフ型なのはウーファー(底板に取り付けられている)だけでなく、
350Hz以上を受け持つスコーカー(13cmコーン型)もバスレフ型であり、
もちろんティール&スモール理論によって設計されている。

Date: 7月 8th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その13)

定指向性ホーン(Constant-Directivity Horn)は、
エレクトロボイスに在籍していたドン・キール(Don Broadus Keele, Jr)によって開発されたことを知ったのは、
いつだったかは正確に憶えていないが1980年代に入ってからだった。

1974年に開発していた、とのこと。
1975年に特許申請して、1978年に特許取得している。
公告番号US4071112 Aである。

どうしても輸入元を通じて日本市場に紹介される製品のみを見がちになる。
そのころのエレクトロボイスのホーンで、
定指向性を謳ったモノは、日本のコンシューマー市場にはなかった。
だからアルテックのマンタレーホーンが、定指向性ホーンの走りだと認識してしまった。

定指向性ホーンは1974年には開発されていた。
そのころ、すでにSentry IVAはあった。
トゥイーターはST350がついている。

このころST350はラジアルホーンということになっていた。
ST350の開発者が誰なのかはわからない。
ドン・キールなのだろうか。
ドン・キールは1972年から’76年までエレクトロボイスに在籍していた。

ドン・キールは、その後(1977年)にJBLに移っている。
JBLのバイラジアルホーンはドン・キールによる開発で、
1980年に特許申請され、1982年に特許取得している。
公告番号US4308932 Aである。
検索すればPDFがダウンロードできる。

ドン・キールは1984年までJBLに在籍していた。
ということは4430、4435に搭載されているバイラジアルホーン2344は、
彼の設計によるものなのだろうか。

4430、4435の設計責任者は、デヴィッド・スミスというエンジニアだが、
彼が2344まで設計しているとは限らない。

エレクトロボイスのトゥイーターST350の形状と2344の形状、
アルテックのマンタレーホーンからJBLのバイラジアルホーンへの形状の変化、
それらを考え合わせると、2344はドン・キールの手によるモノと思えてくる。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その9・補足)

(その9)でA4の上にマンタレーホーンを……、と書いた。
別項を書くためにステレオサウンド 60号を開いていたら、エレクトリの広告に気づいた。

そこにマンタレーホーンをのせたA4の写真があった。
これは見ていた。
にも関わらず、すっかり忘れてしまっていた。

今回改めて見て気づいたのは、
マンタレーホーンの開口部の大きさは、
210エンクロージュアに合せたのかもしれない、ということだ。

A4は210エンクロージュアの両サイドにウイング(サブバッフル)を取り付けたかっこうのモノだ。
A2は210二基にウイングをつけた、さらに大がかりなシステム。

210エンクロージュアはフロントショートホーン付きで、
210の横幅とマンタレーホーンの横幅が、
エレクトリの広告を見るかぎりではぴったり一致している。

ということは、マンタレーホーンはもともと210クラスのエンクロージュアとの組合せを前提していたのか。
ますますマンタレーホーン搭載のA4の音に関心が涌いてきた。

Date: 6月 28th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スピーカーとのつきあい(その1)

10代から20代のころまでは、よくスピーカーを擬人化して捉えていた。
この捉え方がいいのか悪いかは別にして、スピーカーにはそういう捉え方ができる面をもつ。

オーディオ機器は、家庭で音楽を聴くための道具だ、という捉え方をすれば、
スピーカーシステムも、家庭で音楽を聴くための道具だ、ということになる。

道具であれば、優れたモノがいい。

スピーカーは、果して道具なのだろうか。
完全にそのことを否定はしないけれども、
オーディオ機器、その中でもスピーカーシステムは、
家庭で音楽を聴くうえで欠かせない友、という捉え方もできる。

スピーカーを友として捉えれば、
他と比較することの無意味さ、愚かさに気づく。

オレの友だちは、アイツの友人よりも優れている(劣っている)──、
そんなことをいう人はいるだろうか。

友だちの顔を、ひとり思い浮べてほしい。
その友だちよりも、もっといい友だちがいるんじゃないか、とか、
その友だちを、家柄、学歴、職業、収入などで判断してつきあっているのかどうか──、
そんなことはないはずだ。

友だちは友だちである。
いつしかそういう仲になっていた。
そこには学歴とか職業とか、そんなことは関係なかった。

スピーカーもそうだろう。

Date: 6月 26th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その12)

2344は発売になったけれど、
2344と同形状のホーン型トゥイーターはすぐには登場しなかった。

JBL PROFESSIONALには、4300シリーズ、4400シリーズの他に4600シリーズもあった。
SR用としてキャバレーシリーズとも呼ばれていた。

1983年に4612というモデルが登場した。
20cm口径ウーファー二発に、ホーン型トゥイーターを搭載した可搬型モニターで、
この4612のトゥイーターが、2404Hである。

2344を小型にしたトゥイーターで型番も与えられていたにも関わらず、
1983年の時点では2404Hは、すぐには販売されなかったようだ。

STEREO GUIDEの1983年度版に4612は掲載されているが、
2404Hは載っていない。
2402H、2405H、2403Hしか掲載されていない。

4435、4430の登場からやや遅れて、より小型のバイラジアルホーン型トゥイーターの登場である。
2404Hの外形寸法は一辺が13cmである。

CDのプラスチックケースとほぼ同じ寸法で出てきた。
これも単なる偶然なのだろうが、バイラジアルホーンはCDホーンなだけに、
2344と2404をならべると、LPのジャケット、 CDのケースの比較になる。

2404Hが登場して、あることに気づいた。
4435が登場した時に気づくべきだったことだが、
2404Hまでサイズが小さくなったことで気づいたのは、
エレクトロボイスのスピーカーシステムに搭載されていたホーン型トゥイーターに近い、ということだ。

1970年代後半から80年ごろにかけてのエレクトロボイスのスピーカーシステム、
Interface:D、Sentry IVB、Sentry Vのトゥイーター(ST350)と2404、
横向きか縦向きの違いはあるが、実によく似ている。

Date: 6月 25th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その11)

4435、4430搭載のバイラジアルホーンには、登場したばかりのころは、
ホーン単体の型番はなかった。

通常JBLのスピーカーシステムのカタログには使用ユニットの型番が明記されている。
けれど4435、4430にはウーファーとドライバーに関してはあっても、ホーンはなかった。

4435搭載のバイラジアルホーンは、単体で発売されないのか、と思いつつも、
JBLの新型ホーンをみて、私は4343のこのホーンで置き換えたら……、
そんなことを考えてはヘタなスケッチを何枚か描いていた。

2405もそのままではなくは、バイラジアルホーンのより小型なモノを勝手に想像して、
上二つのユニットをバイラジアルホーンにした4343は、
どんな音がするのだろうか、と、4435、4430の音を聴いてもいないのに想像していた。

4343は、その後4344になり、4344MKIIになる。
中高域のホーンはスラントプレート型音響レンズつきは継承したまま、
2405の採用も変更はなかった。

4435搭載のホーンは、一、二年後に型番がついて単体で買えるようになった。
2344という型番は、4400シリーズに搭載されていたからだろう。

4435、4430を見た時から気になっていることがあった。
ホーンの開口部のサイズである。
ウーファーは15インチだから、そこから推測するに一辺が12インチくらいに見える。

2344が登場して、やっと外形寸法もわかった。
一辺は31.8cmだった。

レコードジャケットとほぼ同じ大きさである。

ホーンの大きさはカットオフ周波数などで決ってくるわけで、
レコードジャケットと同じサイズを目差して設計されたものではないのはわかっていても、
CD登場の前年に、別の意味をもつCDホーン(Constant-Directivity Horn)の2344が、
LPのジャケットと同寸法といえるサイズなのは、どこか意図的な感じがしてならない。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その10)

ステレオサウンド 61号「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」に、
JBLのスタジオモニターの新製品が登場した。

スタジオモニターといっても、4300シリーズではなく、4400シリーズ。
4320の2ウェイから4343、4350の4ウェイへと発展してきた4300シリーズから一転して、
2ウェイのスタジオモニターが4400シリーズである。

2ウェイであることが4400シリーズの特徴ではなく、
だれもが初めて目にする特異な形状の新型ホーンこそが、
4400シリーズの特徴である。

最初4435の写真をみて、また新しいホーンの登場なのか、と早とちりした。
菅野先生による4430、4350の記事の冒頭には、バイラジアルホーンとある。

58号の「ユニット研究」に登場した2360と同じバイラジアルホーンなのである。
そのことに気づいてみても、すぐには同じ理論のホーンとはすぐには理解できなかった。

まずあまりにも大きさが違いすぎる。
4435のクロスオーバー周波数は1kHz。
2360の推奨クロスオーバー周波数は500Hzとはいえ、あまりにも開口部の大きさも、
いちばん気になる奥行きの長さも違う。

4435に搭載されているバイラジアルホーンは、ショートホーンである。
そのかわりというか、半球状の凸部を縦に二分割して左右に振り分け──、
といっても分割面が近接しているのではなく、分割面がホーンの両サイドにくる。

臀部のように見えなくもない、このホーンをよく見ると、
縦に長いスリットがあり、そこから急に開口部がひろがっていることに気づく。

確かにアルテックのマンタレーホーン、JBLの2360に共通するかたちである。

マンタレーホーンは1978年に、2360は1980年のオーディオフェアに登場している。
登場したばかりの定指向性ホーンが、1981年には4400シリーズに搭載されるまでになっている。

定指向性ホーンの理論はそのままであるはずなのに、
そこから導き出されたかたちは、わずかのあいだに変化した。

そしてJBLが、本気でバイラジアルホーンに取り組んでいることを感じていた。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その9)

ステレオサウンド 60号を読んでいて、ふと思ったのは、
A4のホーン(マルチセルラホーンの1005Bをマンタレーホーンに換えてみたら……、だ。

マンタレーホーンMR94の大きさを見ていると、
817Aでもバランス的に不釣合いのように感じることがある。

MR94ホーンをA4のホーンにしたら……。
A4のエンクロージュア210は高さ213cmある。
この上にMR94がくると3m近くなる。

通常の部屋ではなんとか収まったとしても、いい結果は期待し難い。
でも60高ではステレオサウンド創刊15周年ということで、
いつものステレオサウンド試聴室から外に飛び出して、
1920年代に建てられた旧宮家邸(90㎡)を試聴室としている。

天井高も210エンクロージュアの上にMR94を置いても、まだ余裕がある。
こういうところでないと試せない組合せである。

アルテックのMR94もJBLの2360も、聴いたことはないけれど、
どちらもダブルウーファーでも、817Aは縦に二発、210は横に二発、
フロントショートホーンの大きさも210の方が大きい。
なんとなくだが、横二発の方がMR94には合うのではないだろうか。

210の奥行きは100cmあるから、MR94+288-16Kの設置も817Aよりも楽であり、
ウーファーとドライバーの音源位置合せも210のほうが容易に行える。

MR94搭載のA4の音を聴く機会は、まずないだろうが、
817Aよりも、いい結果は期待できる、と信じている。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その8)

ステレオサウンド 60号では、アルテックのスピーカーシステムは、
A4、A5F、それにMANTARAY Systemの三機種が取り上げられている。

49号の新製品紹介のMANTARAY Systemと60号のMANTARAY Systemは基本的には同じである。
マンタレーホーンはMR94、エンクロージュアは817Aなのだが、
ユニットが49号時点ではアルニコマグネットの515B、288-16Gだったのが、
フェライトマグネットの515E、288-16Kに変更になっている。

ユニット構成に関しては、A4、A5Fも同じである。
A4とMANTARAY Systemは、515Eをダブルで使用している点でも同じで、
A4とMANTARAY Systemの違いはホーンとエンクロージュアということになる。
ネットワークはA4もMANTARAY Systemも、N500FAで同じ。

60号の特集は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦、瀬川冬樹の四氏による試聴と座談会で構成されている。
MANTARAY Systemに関しては、四氏とも、高評価とはいえないところがある。

ここでは菅野先生の発言を引用しておく。
     *
菅野 理屈をこねると、これはやっぱり、トラディショナルなテクノロジーとニューテクノロジーの葛藤から生れた産物だという感じがしますね。
 まずセクトラル・ホーンというのは歪が多い、ということを、このマンタレー・ホーンの設計者が言っています。それから指向性はぜったいにもっとよくしなきゃいけないとも言っています。
 これは、まったくアルテックの伝統を知らない技術者ですね。だから、あたらしいヤング・ジェネレーションの技術者としての立場があって、古いものはひとつの勉強として学んで、それでその上に立って、自分たちで改良しようと、こういうかたちでつくったものだ、と思うんです。事実、そうなんですが……。
 だから、そこにどうしても、新しい技術と、古い伝統的な技術と──古いものをぜんぶ捨てちゃって新しくつくってるなら、まだいいのですが──その二つのあいだに、いろんな葛藤がある。
 それがぜんたいの音として、すくなくとも、まとまりとか完成度とか、さっきから言っているようなアルテック独特の、あの充実した音のまとまりという点ではたしかにくずれているかもしれませんね。
 ただ、これは、これからのアルテックの次のジェネレーションの発展へのひとつの転機になるものだと思うんです。技術的にも非常に興味があります。
 ただ、ここで聴いたかぎりの音では、やっぱり、瀬川さんが言われたように抑制がききすぎています。ほかの二つとくらべてみると、音がとにかく生き生きとしていません、朗々としていませんね。どこか、もうひとつ欲求不満が起きるような鳴り方ですね。その意味で、これは未完成なんだと思います。
 それから、このエンクロージュアは817ですね。A5なんかの828のうえにマンタレー・ホーンをのせて、すごくせまい部屋で、いい音を聴いたことがあるんですよ。8畳ぐらいだったかな。だから、その組合せでも聴いてみたかったな、という気がします。要するに、上と下のつながりがもうひとつしっくりこないんです。
     *
MANTARAY Systemの、上と下のつながりに関しては、
岡先生も《上下の音がバラバラなように》聴こえると指摘されている。

抑制に関しては、瀬川先生はアンプに喩えられている。
《アンプでいえば、特性を一生懸命によくしようとして、NFBをたっぷりかけちゃったみたいな、そういう音みたいな感じがする。ですからおとなしいですね。》
と発言されている。

上杉先生は、抑制がきいた音のため、
《〝聴いた〟という感じのあんまりしない音》と表現されている。

A5の上をマンタレーホーンに換えたオーディオマニアのことは、瀬川先生も話されている。
はっきりとしないが、たぶん同じであろう。

Date: 6月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その7)

アルテックのマンタレーホーンMR94、MR64、
JBLのバイラジアルホーン2360、2365、2366は分割構造になっている。

これだけ奥行きの長いホーンだから分割構造にするのも当然とまず考えるが、
両社の定指向性ホーンに共通する形状からいえるのは、
スロートアダプターとホーンとが分割できる、とみたほうがいい。

JBLのバイラジアルホーンも縦に細長いスリットで音を絞り込んで、
急に広がる開口部のホーンという形状は、マンタレーホーンと共通だ。

ホーン部がアルテックは金属製で直線で構成されているのに対し、
バイラジアルホーンはFRP製で曲線で構成されているために、
マンタレーホーンに感じる、やや平面的な印象はなく、
むしろ光沢のある黒ということもあって、肉感的ともいえる。
スロートアダプターは、アルテック、JBLともに鋳鉄。

2360の音は、どうだったのか。
ステレオサウンド 58号の「ユニット研究」は園田隆史氏が書かれている。
最近のステレオサウンドにも園田隆史氏の名前をときどきみかけるが、
この「ユニット研究」の園田隆史氏とは別人である。
     *
 音の印象は、2350ラジアルホーンのシステムと比べると、構造、材質の差がそのまま音に出たのか、かなりソフトな聴きやすいウォームトーンだった。しかし、柔らかい中にも微妙なニュアンスを十分再現してくれる音で、同じ075を使っていても、他のホーンよりいっそう繊細な高音が聴けた。いままで聴いてきたシステムの音がハード肌とすれば、これはとてもソフトな音で、E145の中低域の張りと2360の厚みがマッチして、ボリュウムたっぷりの中低域だ。
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園田隆史氏の2360の試聴は、別のシステムでも試されている。
ウーファーは同じE145だが、エンクロージュアがこのころ登場したばかりの4508になっている。

バスレフ型で15インチ・ウーファーを二発搭載できる4508エンクロージュアの上に、
2360ホーンの2ウェイシステムは、
4560エンクロージュアとの組合せよりも、視覚的に2360とよくマッチしている。
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 4560BKAのシステムの時同様、この組合せでも2360は、高域のレンジこそ広くないものの、ナチュラルな、透明で応答性の高い中高音を聴かせてくれた。ソフトで厚みのある中低域も魅力的だ。ホーンの開口部が大きいので、クロスオーバー(2441との組合せでは500Hzが指定)付近のレスポンスが安定していて、歪が少ないためだろう。また、音像がホーンに集中する傾向があり、ウーファーの帯域の音までが、あたかもホーンから出てくるように聴きとれた。ただし、よく聴き込んでいくと、ホーンの材質(FRP)による固有の振動が音に影響しているようだ。高域が多少不足気味なので、トゥイーターを追加してみたい気もする。
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「ユニット研究」は56号から始まっていて、
前号、前々号だけでなく、58号以降もあわせて読むことで、
2360という新しいホーンの性格は多少なりとも浮び上ってくる。