ホーン今昔物語(その8)
ステレオサウンド 60号では、アルテックのスピーカーシステムは、
A4、A5F、それにMANTARAY Systemの三機種が取り上げられている。
49号の新製品紹介のMANTARAY Systemと60号のMANTARAY Systemは基本的には同じである。
マンタレーホーンはMR94、エンクロージュアは817Aなのだが、
ユニットが49号時点ではアルニコマグネットの515B、288-16Gだったのが、
フェライトマグネットの515E、288-16Kに変更になっている。
ユニット構成に関しては、A4、A5Fも同じである。
A4とMANTARAY Systemは、515Eをダブルで使用している点でも同じで、
A4とMANTARAY Systemの違いはホーンとエンクロージュアということになる。
ネットワークはA4もMANTARAY Systemも、N500FAで同じ。
60号の特集は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦、瀬川冬樹の四氏による試聴と座談会で構成されている。
MANTARAY Systemに関しては、四氏とも、高評価とはいえないところがある。
ここでは菅野先生の発言を引用しておく。
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菅野 理屈をこねると、これはやっぱり、トラディショナルなテクノロジーとニューテクノロジーの葛藤から生れた産物だという感じがしますね。
まずセクトラル・ホーンというのは歪が多い、ということを、このマンタレー・ホーンの設計者が言っています。それから指向性はぜったいにもっとよくしなきゃいけないとも言っています。
これは、まったくアルテックの伝統を知らない技術者ですね。だから、あたらしいヤング・ジェネレーションの技術者としての立場があって、古いものはひとつの勉強として学んで、それでその上に立って、自分たちで改良しようと、こういうかたちでつくったものだ、と思うんです。事実、そうなんですが……。
だから、そこにどうしても、新しい技術と、古い伝統的な技術と──古いものをぜんぶ捨てちゃって新しくつくってるなら、まだいいのですが──その二つのあいだに、いろんな葛藤がある。
それがぜんたいの音として、すくなくとも、まとまりとか完成度とか、さっきから言っているようなアルテック独特の、あの充実した音のまとまりという点ではたしかにくずれているかもしれませんね。
ただ、これは、これからのアルテックの次のジェネレーションの発展へのひとつの転機になるものだと思うんです。技術的にも非常に興味があります。
ただ、ここで聴いたかぎりの音では、やっぱり、瀬川さんが言われたように抑制がききすぎています。ほかの二つとくらべてみると、音がとにかく生き生きとしていません、朗々としていませんね。どこか、もうひとつ欲求不満が起きるような鳴り方ですね。その意味で、これは未完成なんだと思います。
それから、このエンクロージュアは817ですね。A5なんかの828のうえにマンタレー・ホーンをのせて、すごくせまい部屋で、いい音を聴いたことがあるんですよ。8畳ぐらいだったかな。だから、その組合せでも聴いてみたかったな、という気がします。要するに、上と下のつながりがもうひとつしっくりこないんです。
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MANTARAY Systemの、上と下のつながりに関しては、
岡先生も《上下の音がバラバラなように》聴こえると指摘されている。
抑制に関しては、瀬川先生はアンプに喩えられている。
《アンプでいえば、特性を一生懸命によくしようとして、NFBをたっぷりかけちゃったみたいな、そういう音みたいな感じがする。ですからおとなしいですね。》
と発言されている。
上杉先生は、抑制がきいた音のため、
《〝聴いた〟という感じのあんまりしない音》と表現されている。
A5の上をマンタレーホーンに換えたオーディオマニアのことは、瀬川先生も話されている。
はっきりとしないが、たぶん同じであろう。