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Date: 7月 20th, 2011
Cate: 表現する

音を表現するということ(続々・聴いてもらうということ)

「音は人なり」といわれてきている。
私もここで何度か書いている、さらに「人は音なり」とも書いている。

私は、これはオーディオのひとつの真理だと思っているが、
果して言葉にしていいものだろうか、という気持が、最近になって芽生えてきた。

よほどひねくれ者でないかぎり、人から悪く思われたくはない。
だからオーディオマニアにとって、
「音は人なり」という言葉が、本来の意味から少し外れたところの意味をもってくるように思うからだ。
「音は人なり」はときとして強迫観念的な色を帯びてきはしないだろうか。
「音は人なり」は、そういう意味でいわれてきたことばではないにもかかわらず、そう思われてしまうことで、
決着を急ぎさせすぎてしまうことにつながっていく……。
そうなってしまっては、オーディオの楽しさは半減していく。
これはもったいない、という話ではなく、おかしいことにもなっていくかもしれない。

オーディオは、もっともっと楽しまれていくもののはず、と改めて思うからだ。

Date: 7月 20th, 2011
Cate: コントロールアンプ像

私がコントロールアンプに求めるもの(その13)

チェロのAudio Suiteについて、もう少し詳しく眺めてみる。
Audio Suiteの構造はリアパネルから見ることで、ほぼつかめる。

リアパネル中央下部にバリアターミナルがある。ここに外部電源ユニットからのケーブルをネジ止めする。
このバリアターミナルから、リアパネル下部を横切る10本のバスバーの中央4本にケーブルが延びている。
つまりこの4本が、各モジュールへの電源供給ラインとなる。
のこりのバスバーは6本となり、この6本が入力モジュールと出力モジュールと信号ラインとなる。

Audio Suiteの出力モジュールは2ユニット分の幅がある。入力モジュールは1ユニット分で、最大8枚搭載できる。
電源ユニットには、入出力モジュールをすべて装着しても容量に余裕があるように設計されているものの、
実際には、もしアナログディスクのみしか聴かないのであれば、フォノ入力モジュールと出力モジュールだけ、
CDのみであればライン入力モジュールと出力モジュールだけ、というふうにモジュールの数を最少限に抑えた方が、
より透明度が増し、Audio Suiteならではの芳しさはより香り立つようになる。
そして音の変化はモジュールの数だけが関係してくるのではなく、モジュールをどこにするのか、
その位置によっても、モジュールの数ほどの差ではないにしても変化する。

リアパネルのバスバーで信号とやりとりと電源が供給されるわけだから、
つまりこのバスバーはケーブルと同じことで、入力モジュールと出力モジュールを中央に集めることで、
信号と電源が通るバスバーの距離はもっとも短くなる。
その反面、ふたつのモジュールの距離が最小になるため、モジュール間の干渉は最大になるとはいうものの、
私が聴いたかぎりでは、やはりモジュールの数を入力モジュールと出力モジュールそれぞれ1つずつにして、
中央に集めたほうがよかった。

ただこういう配置にしてしまうと、見栄えがなんとなくよくない。
出力モジュールはフロントパネル右端にあったほうがおさまりよく感じる。

こういうモジュールの数、位置による音のわずかとは言い難いが、
だからといって、そのアンプの本質までも変えてしまうわけではない「差」は、
QUADの44にしてもメリディアンのMCA1、MLPについてもいえる。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十七 K+Hのこと)

平行面が存在していたら、定在波が発生する。
物理現象である定在波は、律義なことに、どんなに狭い面積であっても平行面があれば、そこに発生する。
このくらいのごく小さな平行面ぐらい見逃してよ、といったことは通用しない。

この定在波が、スピーカーからの音に悪影響を与える。
無響室でどれだけフラットな周波数特性を誇っていたスピーカーシステムでも、
定在波がひどく発生している部屋にもちこみ、聴取位置で周波数特性を測れば低域にピーク・ディップを生じる。
このピーク・ディップを、電気的に、つまりグラフィックイコライザーによる補整で抑え込むというのは、
ひとつの手法ではあるけれども、音響的なピーク・ディップを電気的に完全に補整することはまず無理だと思う。
とくに音響的なディップは、電気的に補整することはまず無理だと思っていい。
グラフィックイコライザーの使いこなしをきちんと身につけて、じっくりと取り組むことで、
定在波による音の癖をある程度抑え込む、というよりも、うまくごまかすことはできても、解消できるとはいえない。

グラフィックイコライザーにできること、と、できないことがある、ということ。
使いこなせれば万能というわけではない、ということ。
でも、そのことを踏まえて使いこなせれば、グラフィックイコライザーは有効な手段でもある。
グラフィックイコライザーの有効性を唱える人の中には、
グラフィックイコライザーに頼り過ぎではないか、と思われる人もいる。

グラフィックイコライザーに頼り過ぎる前に、いろいろやることはある。
そうやっていくうちに気がつくのは、ひどく癖のある部屋なのに、
スピーカーシステムによって癖の感じ方に差がある、ということだ。

部屋の癖の影響をもろに受けてしまって精彩を欠く鳴り方しかできないスピーカーシステムがある一方で、
不思議なことに、それほど癖の影響を受けていないかのように鳴ってくれるスピーカーシステムがある。

これを部屋とスピーカーシステムの相性という一言で片づけてしまっていいのだろうか。
以前は指向特性の狭いスピーカーシステムのほうが部屋の影響を受けにくい、などといわれていた。
だけど、私の経験では指向特性と部屋の影響、特に定在波の悪影響を受けやすい、受けにくいは関係ない、といえる。

関係してくるのは、スピーカーシステムの累積スペクトラムとインパルス応答だと思う。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その18)

こうやって40万の法則、いいかえをすると630Hzという周波数に注目してスピーカーシステムを眺めて、
あれこれ考え書いていて気がついたことが、実はある。
思い出したこと、と言い換えたほうがより正しいのだが、
それはステレオサウンド 124号で、井上先生があげられているスピーカーシステムのことである。

124号の特集は「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう」で、
朝沼予史宏、井上卓也、上杉佳郎、小林貢、菅野沖彦、長島達夫、傅信幸、三浦孝仁、柳沢功力──、
9人の筆者によるによる「独断的オーディオの流儀を語る」という座談会が載っている。
この記事の中で、各筆者が、それぞれのシンボル的スピーカーシステムをあげている。
参考までに書き写しておく。

朝沼予史宏:JBL S7500+GEM TS208、プラチナム Air Pulse 3.1
井上卓也:パイオニア Exclusive 2404、アクースティックラボ Stella Elegans
上杉佳郎:アルテック 515C×2+311-90+288-16G+JBL 2402H+テクニクス 10TH1000、タンノイ Westminster
小林 貢:レイオーディオ RM7V
菅野沖彦:マッキントッシュ XRT26、タンノイ Kingdom
長島達夫:コースタルアコースティックス Boxer T2
傅 信幸:B&W Nautilus
三浦孝仁:ウィルソンオーディオ System5、エグルストン・ワークス Andra
柳沢功力:プラチナム Air Pulse 3.1

井上先生があげられているスピーカーシステム2機種とも、
この項で書いてきていることと見事に重なっている。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その17)

JBL以外にも、600Hzあたりにクロスオーバー周波数をもつスピーカーシステムは、他にもある。
アルテックのA5が500Hzで、A7は800Hz仕様と500HzのA7-500-8がある。
イギリスのヴァイタヴォックスのスピーカーシステムは、CN191、Bitone Major、Bass Binすべて、
クロスオーバー周波数は500Hzになっている。
これはすべてウーファーは15インチ・コーン型で、中高域にホーン型を使っている。

ただ、以上列挙したスピーカーシステムのなかでも、JBLのパラゴン、ハーツフィールド、
ヴァイタヴォックスのCN191などが500Hzにクロスオーバー周波数をもってきたのは、
エンクロージュアの構造にも起因している、といえる。

パラゴンもハーツフィールドもCN191も、正面からウーファーの姿を見ることはできない。
これらのスピーカーシステムは低域にもホーン型を採用しており、しかもホーンはストレートではなく、
折曲げ式であるため、中域以上の減衰が多くて、500Hzあたりが限度だったのだろう。

JBLのS9500、DD66000、アルテックのA5、パイオニアのExclusive 2402、2404などでは、
そういったこととは関係なく600Hzあたりにクロスオーバー周波数を設定している。
アルテックのA7は最初ホーンに811を使用していたから、おそらく800Hzのクロスオーバー周波数で出てきて、
のちにホーンをより大型の511に変更するとともにクロスオーバー周波数を500Hzに下げた
──というべきか、それとも500Hzに下げるために511ホーンにしたのか──A7-500-8を出している。

500Hzか800Hz──、どちらが630Hzに近いかというと同じである。
500Hzと800Hzの積は40万だからだ。
私が知る限り、アルテックの2ウェイ・システムに630Hz近辺のクロスオーバー周波数をもつものはない。
だからというわけでもないが、もし私がA7-500-8を鳴らす機会があれば、
630Hzで分割した音をぜひ試してみたい、と思っている。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その16・追補)

S9500は、JBLでは初の試みである仮想同軸配置を採用している。
仮想同軸という言葉が一般化してきたのも、ちょうどこのころであったし、
JBL以外にも仮想同軸配置のスピーカーシステムは増えていっていた。

S9500は2ウェイであったからウーファーを上下に配置し、その間に中高域のホーンを配置するという、
もっと基本的な仮想同軸の配置であったが、
他社製の3ウェイのシステムでは、ウーファーだけでなくスコーカーも2本使用して、
トゥイーターを中心に、その上下にスコーカー、ウーファーと配置していっていた。

この仮想同軸を最初に採用したメーカーはいったいどこなのか。
S9500の少し前に、日本ではレイオーディオがすでに採用していたが、
レイオーディオよりも前にイギリスのメリディアンが、
1985年ごろに発表したM2で、この仮想同軸配置を行っている。
私がこれまで聴いてきたスピーカーシステムの中で、最初に聴いた仮想同軸配置のスピーカーシステムがM2だ。
このときは仮想同軸という言葉がなかったこともあり、
M2のユニット配置については話題にのぼることはなかったように記憶している。

このM2以前に仮想同軸配置のスピーカーシステムはなかったのだろうか。
今日、偶然見つけたのが、ダイヤトーンのDSS-S91Mだ。
正確な発売日はいまのところ不明だが、1971年には現行製品だった。

DSS-S91Mときいても、どんなスピーカーシステムなのか、思い出せない方も多いだろう。
DSS-S91Mはスピーカーシステムの型番ではなく、セパレート・ステレオの型番だからだ。

セパレート・ステレオとはスピーカー、アンプ、チューナー(もしくはレシーバー)、
プレーヤーがラックに収められメーカー側でシステムとしてまとめられている装置一式のことだ。

DSS-S91Mのスピーカーは3ウェイ構成。
コーン型ウーファーを2本、フロントロードホーンのエンクロージュアにおさめ、
そのフロントロードホーンの開口部に中域のホーン型ユニットが、
2本のウーファーの間にくるように配置され、
トゥイーターは中域用ホーンの上にスペースをとって、ウーファーのホーン開口部の上部に取りつけられている。
だからトゥイーターに関しては厳密には仮想同軸とは呼びにくいところがあるが、
ウーファーとスコーカーの位置関係は、まさしく仮想同軸配置である。
そして、DSS-S91Mのスピーカーは、オールホーン型にもなっている。

いまのところ、私が探し出したなかで、もっとも古い仮想同軸配置のスピーカーである。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その16)

JBLのDD66000のカタログに発表されているクロスオーバー周波数は、
150Hz(LF1/LPのみ)、700Hz、20kHz(UHF/HPのみ)とある。

DD66000は15インチ(38cm)口径のウーファー(1501AL)を2本、
4インチ・ダイアフラムのコンプレッションドライバー(476Be)とバイラジアルホーン、
1インチ・ダイアフラムのコンプレッションドライバー(045Be-1)とバイラジアルホーンから構成されている。

2つのウーファーは単純に並列に接続・動作させているわけではなく、
横方向に並んでいる2本のウーファーのうち外側に位置するウーファーは150Hz以上をカットしている。
内側のウーファーは700Hzまで使っている。
つまり150Hz以下ではダブルウーファーとして動作している。

700Hz以上を受持つ476Beだが、20kHz以上をカットしているわけではない。
カタログに記されている20kHz(UHF/HPのみ)とは、トゥイーター、
というよりもスーパートゥイーターと呼ぶべきの045Be-1のカットオフ周波数を指している。
HPのみ、とは、ハイパスフィルター(ローカットフィルター)のみ、ということで、つまりDD66000は、
15インチ・ウーファーと大型ホーンをもつコンプレッションドライバーによる2ウェイが基本となっている。

JBLのスピーカーシステムで、630Hzあたりにクロスオーバー周波数を設定したものは過去にいくつかある。
まずパラゴンがそうだ。500Hzと7kHzの3ウェイ。それからオリンパスS8Rも同じく500Hzと7kHz。
オリンパスの2ウェイ使用のS7Rは500Hz。ハーツフィールドも500Hzである。
もうひとつ思い出す。
1989年に登場したS9500のクロスオーバー周波数は650Hzと、
JBLのスピーカーシステムのなかで、もっとも630Hzに近い値に設定されている。

S9500はJBLとして珍しい14インチ口径のウーファー2本と、
コンプレッションドライバーと大型ホーンによる2ウェイ・システムである。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その15)

田口泖三郎博士によれば、
人間の口をポカンとあけた時の口の中の共鳴周波数が大体630Hzだという。
もちろん個人差は多少あるものの平均値として630Hzあたりに落ちつくとのこと。

田口博士の研究は、なぜ人間は20Hzから20kHzまでが聞こえるか、ということだったらしい。
そして口の共鳴周波数630Hzを中心として、上下の帯域に均等に広げていった結果が、
一般的にいわれている20Hzから20kHzといわれている可聴帯域となり、
これを対数グラフで表わすと、20Hzから20kHzという周波数特性は、
約630Hzを中心として左右対称に広がったかたちとなる。
つまり40万という値は、この630Hzを二乗した値ということになる。

この630Hzという数字が、40万の法則によるスピーカーシステムを考えていく上での基点であり、
もうひとつのスピーカーシステムを在り方を発想させる。

630Hzを中心にして上下の周波数に均等に帯域幅を広げていくのに、
フルレンジから発想したのがいままで述べてきたBWTを中心としたスピーカーシステムであり、
630Hzを中心としてできるだけ、単一のユニットで広い帯域を受持ち、
それだけでは及ばない上下の帯域をウーファーとトゥイーターを附加する、というもの。

630Hzを中心にして均等に広げていく、という、このことをどう解釈してどう実現するかだが、
ベンディングウェーヴのユニットを使っても、
いまのところフルレンジ1本ではカヴァーできる範囲はまだ限られている。
ウーファーとトゥイーターを必要とする。
このウーファーとトゥイーターは振動板の口径も大きく異るし、
ウーファーはコーン型、トゥイーターはベンディングウェーヴならAMT、
ピストニックモーションならばホーン型、ドーム型、リボン型、コーン型などになる。
ウーファーとトゥイーターは、いわば違うユニットであり、これでは均等に広げたということになるのか、
という捉え方ができ、結局100Hz以下の低音と4kHz以上の高音では、波長も大きく異っているし、
どうせ異るスピーカーユニットを使うことになるのだからいっそのこと、
630Hzをクロスオーバーとした2ウェイのスピーカーシステムも考えられる。

630Hzなら、38cmコーン型ウーファーとホーン型との組合せであれば、実現できる。
少し前のスピーカーシステムではあるが、パイオニアのExclusive 2402、2404がすぐに頭に浮ぶ。
Exclusive 2402、2404、どちらもクロスオーバー周波数は650Hzである。

クロスオーバー周波数が700Hzとすこし高くなってしまうし、
ややユニットの使い方がExclusive 2404からすると複雑というか変則的になるが、JBLのDD66000がある。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その14)

ここで話は前にもどる。
40万の法則そのものに関しては、もういちど書くことにする。

一般的に40万の法則は、人間の可聴帯域の下限(20Hz)と上限(20kHz)の積が40万になるからだ、
といった説明がなされてきているが、人によって可聴帯域は異る。
同じ人間でも年齢によって高域が聴こえなくなるから可聴帯域は変化していく。
高域が聴こえなくなってきたら、40万の法則にしたがって、
下限の値(低域の再生域)も変えていかなければならないのか。

これは考えていくと、どうもおかしいと感じる。
ということは、40万の法則そのものが間違っているのか、ということになるのか。
そうとは、どうしても思えない。

3ウェイ・システムにおいてスコーカーの受持ち帯域も40万の法則どおりにする、ということを考えていると、
40万の法則は、上限と下限の積から導き出されたものではなく、
じつは別のところから導き出されたものではないか、と思える。

4ウェイの4343のミッドバスがほぼ40万の法則どおり、
3ウェイでは、100Hzから4kHzをスコーカーに受持たせることで、ここも40万の法則。
つまり4343のミッドバスと、BWTの3ウェイのスコーカーで共通するのは、その中心周波数である。
632.455Hz、約630Hzがそれにあたる。
この630Hzを受持つユニットの上限と下限を均等に広げていくことが、
そのユニットの受持ち帯域が40万の法則どおりになるわけだ。

この630Hzがもつ意味については、瀬川先生の「虚構世界の狩人」「オーディオABC」、
どちらかを読んだことのある人なら、この630Hzの数字とともに、田口泖三郎博士の名前も思い出されるはず。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その13)

マンガーのBWTの指向特性が4kHzから落ちていくのは、私にとって好都合だった、といえる。
もしBWTの指向特性が20kHzまでは無理でも、10kHzあたりまでほぼフラットだったら、
そこまではBWTに受持たせたくなる。あえて4kHzから上を別のスピーカーユニットにするのは、多少気がひける。

偶然なのかもしれないが、BWTの周波数帯域は、40万の法則どおりに100Hzから4kHzまでが、
周波数特性、指向特性ともに平坦である。
BWTのいちばん特性のいい帯域が、ぴったり40万の法則どおりの帯域ともいえる。

4kHzから上を受持たせるユニットには、BWTと同じベンディングウェーヴのモノ、
つまりAMT(ハイルドライバー)をもってくる。
AMTにとって、4kHzから上の帯域は問題なく使える。
これで、100Hzから20kHzまでベンディングウェーヴでいけることになる。

100Hzから下もベンディングウェーヴ方式でいきたいところだが、
現実的には従来どおりピストニックモーションのコーン型を使うことになる。
この点に関しては、ジャーマン・フィジックスのDDD型でも、ウーファーは現時点ではコーン型に頼らざるをえない。

これで3ウェイ・システムの構想が見えてきた。
ウーファーはコーン型、口径は38cmだろう、やはり。
スコーカー(システムの中核)はBWT、トゥイーターもBWTと同じベンディングウェーヴのAMT。
クロスオーバー周波数は100Hzと4kHzで、システム全体の周波数特性は20Hzから20kHzまでをめざす。

これでひとつのシステムのなかに、40万の法則がふたつ成り立つことになる。
これが、瀬川先生のフルレンジからスタートする4ウェイ構想にインスピレーションを受けて、
私が行きついた、ひとつのスピーカーシステム構想である。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その12)

100Hzから4kHzまでをひとつのスピーカーユニットで受持たせ、
100Hzから下、4kHzから上をそれぞれユニットを追加して、
3ウェイとしてまとめることが結局いままで無理だったのは、
ピストニックモーションのスピーカーユニットばかりだったから、ともいえる。

ピストニックモーションを間違っている、といいたいのではなくて、
ピストニックモーションだけが正解ではない、といいたい。も
もうひとつの正解としてベンディングウェーヴがあり、ここ10年ほどで、
1930年にはすでに製品化されていたベンディングウェーヴが、ようやく市民権を得てきた、ともいえる。

まだまだベンディングウェーヴのユニットの数は、ピストニックモーションのユニットくらべると、
圧倒的に少ない。トゥイーターの数は増えつつあるが、フルレンジとして使えるものとなると、
しかもユニットが単売されているものとなると、マンガーのBWTとジャーマン・フィジックスのDDD型だけだろう。

100Hzから4kHzまで受持たせるのであれば、BWTもDDD型ユニット、どちらも使える。
選択肢は2つあるわけだが、ここではBWTをとる。
DDD型は、私の中では、これをフルレンジとして使ったUnicornの印象と分かちがたく結びついているためであり、
DDD型を使うのであれば、Unicornにしたい、という気持があるのと、
DDD型では、4kHz以上においても、これだけでほぼ問題なくいける。

そう、私はあえて3ウェイにしようとしている。
くり返し書いているように、2つの40万の法則によるスピーカーシステムをつくって、その音を聴いてみたいからだ。

本末転倒といえば本末転倒な考え方だが、BWTは振幅特性こそかなり上の帯域まで延びているが、
おそらく指向特性は4kHzあたりからなだらかに落ちはじめているのではないかと思っていた。
ピストニックモーションではないから、指向特性の劣化しはじめる周波数は違うだろうが、
可聴帯域まで指向特性がフラットになるとは到底思えないからだ。
この点、DDD型は水平方向に関しては、真の無指向性だから、4kHz以上まで問題なくいける。
ただし、別の問題がDDD型にはあるけれども。

とにかくBWTの指向特性は、おそらく4kHzあたりだとにらんでいたが、事実、
マンガーのサイトにある周波数特性のグラフをみると、
このあたりから指向特性に関しては落ちていっているのが確認できる。

別項の「ワイドレンジ考」で述べているように、
周波数特性(振幅特性と位相特性)と指向特性をできるかぎり広帯域において平坦にしていきたい、
それがワイドレンジだと考えているから、BWTの使用は4kHzどまりとする。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: D44000 Paragon, JBL, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その40)

グラシェラ・スサーナの歌は、よく聴く。
タンゴ、フォルクローレもいいけれど、グラシェラ・スサーナによる日本語の歌に惹かれるものが、
はじめてグラシェラ・スサーナの歌を聴いた、中学2年のときから、ある。

グラシェラ・スサーナの歌には、夜の匂いがある。
グラシェラ・スサーナによって歌われるのは、夜の物語が多い。
彼女の声質も関係してのこともあって、夜の質感を描き出している。
「別れの朝」も、歌われているのは朝の情景だが、夜のとばりがまだそこにある「夜の歌」だ。
グラシェラ・スサーナのしめりけをおびた声で表現されるとき、そのことを意識せざるをえない。

グラシェラ・スサーナの歌を収めたLPなりCDに、夜の匂いが刻まれているわけではないのに、
最初にグラシェラ・スサーナの歌を聴いた時にも、いま聴いても、
夜の匂い、としか表現しようのないものを嗅ぎとってしまう。

この夜の匂いをまったく感じさせないもの、かろうじてそれらしきものを感じさせるもの、
色濃く感じさせるものが、大まかにいってスピーカーシステムにある。
少数なのは、まったく感じさせないものと、色濃く感じさせるものである。

夜の匂いなんてものは、実のところ、どこにも存在していないのかもしれない。
グラシェラ・スサーナの声が十全に再現されたからといって、夜の匂いがそこにあるとは限らない。
それでも、はじめてグラシェラ・スサーナの歌を貧弱な装置で聴いた時も、
そしていまも感じられるときがあるということは、
やはりどこかに存在しているということになるのだろうか。
オーディオの再生系のどこかで生み出されたもの、とはどうしても思えない。

スピーカーシステムの中には、とにかくごく少数ながら、
グラシェラ・スサーナの歌に夜の匂いを喚起させる何かをもつモノがあって、
それらを私は、インプレッショニズムの性格をもつスピーカーと受けとめている。

Date: 7月 16th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その11)

2008にブログをはじめた。
2009年に黒田先生の「情報と情報擬き」についての文章を読んだ。
2010年にTwitterをはじめた。
2011年にfacebookもはじめた。

これらをやってきて、いま感じていることは、情報は一対一の人間関係にほかならないということだ。
そうなると「編集」についての考え方も自ずと変化・修正されてくる。
そのうえで、ネットワークを見てみると、ここに書いた「編集者の不在」について、
そう言い切れないのではないか、ということにも気づく。

Date: 7月 16th, 2011
Cate: D44000 Paragon, JBL, 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その39)

プリメインアンプのオラクルSi3000にコントロールアンプを組み合わせようとして、
さらにその間にトランスを挿入しよう、とまで考えている。
わざわざこんなことをしなくて、素直にSi3000をパワーアンプとしてではなく、
本来のプリメインアンプとして使えばこんなことをする必要はまったくなくなるわけだ。

それでも、ここで鳴らしたいスピーカーシステムがパラゴンだから、
こんな、どこかアマノジャク的な組合せ・使い方をしようとしている。
すべてのスピーカーシステムに対して、こういう組合せ・使い方を試みようとは思わない。
それは、やはりパラゴンが相手だから、であって、
それは私がパラゴンをインプレッショニズムのスピーカーシステムとして捉えているからであり、
ここでは目的のための手法として、積み重ねていくことを貫きたい気持がある。

具体的に使用するトランスの候補は、
ジェンセン(アメリカ)、ルンダール(スウェーデン)、マリンエア(イギリス)あたりだが、
マリンエアは会社がなくなってしまい入手はかなり困難である。

ジェンセンがうまくあうのか、それともルンダールのほうがひったりいくのか、
このへんは実際に確かめてみるしかないし、トランスは、伊藤先生の言葉を借りれば「生き物」だから、
使い方・取りつけ方法によって、音の変化は想像以上に大きい。
トランスの扱い方に関しては、私なりにノウハウがあるから、
しっかりしたトランスであれば、期待外れという結果に陥るようなことにはならない自信はある。

トランスにはトランス固有の音があるの事実で、安易な扱い方をしてしまうと、
そのトランス固有の音が、ネガティヴな方向に強く出てしまうことが多い。
電源も必要としない、結線すれば動作するトランスだけに、どこまでも気を使って取り扱ってほしい。

Date: 7月 16th, 2011
Cate: 瀬川冬樹

確信していること(その17)

「コンポーネントステレオの世界 ’80」でのグルンディッヒのProfessional BOX2500の組合せは、
予算が50万円の制約がある。
ぴったり50万円ということではなくて、50万円台ならば一応OKというということはあっても、
この予算ではセパレートアンプを使うことは無理ということで、
プリメインアンプを4機種を候補としてあげられている。
アキュフェーズのE303、マランツのPm8、トリオのKA9900、ルボックスのB750MKIIで、
いずれも20万円以上するもの。
KA9900とPm8は、スピーカーシステムがグルンディッヒでクラシックを、
それもオーケストラの再生に焦点を合せるという組合せの意図に、すこしそぐわないところがあり候補から外れる。

E303は、B750MKIIよりも「周波数レンジとか歪とか、そういった物理的な表現能力」で明らかに上廻っていて、
音の美しさで上かもしれないと思わせながらも、
瀬川先生は、あえてB750MKIIを選択されている。
クラシックを「聴くにあたってどうしても必要な、いうにいわれない一種の雰囲気、それからニュアンス」、
それらのものがルボックスB750MKIIにあったからである。

ここまで読んでくると、瀬川先生の選び方に気がつくことがある。
スピーカーシステムもグルンディッヒ、ヴィソニックの他に、
JBLのL50、ロジャースPM210、ハーベスMonitor HLも聴かれている。
これらの中から、ヴィソニックとグルンディッヒが残り、
ここでもスピーカーシステムとしての性能(音のことを含めての)の高さでは、ヴィソニックとされながらも、
あえて、どこか古めかしささえ感じさせるグルンディッヒを最終的に選ばれた。
アンプの選び方と共通するものが、ここにも感じられる。

アナログプレーヤーはトリオのKP7070、カートリッジはエラック(エレクトロアクースティック)のESG794E。
組合せのトータル価格は571,500円。

この組合せから鳴る音について語られている。
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たとえば最近のオーディオ・レコードといわれるような、いわゆるデモンストレーション的なさまざまなレコードを鳴らした場合は、国産のハイパワーアンプとワイドレンジのスピーカーの組合せで鳴らす、一種独特の音の世界にはかなわないでしょう。
しかし、音楽好きレコード好きの人間のひとりとしていえば、クラシック音楽に焦点を合せた場合、何年も前に買ったレコードも、昨日買ったばかりの新録音盤も、この組合せだったら安心して楽しむことができる。そしてこれからも長く付き合える、そういう音だと思うんですね。
たしかに一聴では耳をそはだてる音ではありません。どちらかといえば、ややものたりない感じさえあるでしょう。とくにグルンディッヒの音が、なんとなく素朴な、ときには古めかしささえ感じさせる響きをもっているわけですが、そこを聴きこんでいって、だんだんとその音が自分の耳なり身体なりになじんでくると、ちょっと手放せなくなるだろうという気がします。ぼく自身も、自分の部屋に置いてみたいような感じがありますね。