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Date: 11月 28th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その25)

スピーカーのネットワークの並列型と直列型で、
もしこんなことが試されるのであれば──と思っていることがある。

アルテックの同軸型604とタンノイの同軸型を、それぞれ直列型、並列型のネットワークで鳴らしてみる、
ということである。
アルテックもタンノイも15インチ口径の同軸型ユニットを長年つくり続けてきている(いた)。
共通するところもあれば、そうでないところもあるアメリカとイギリスの同軸型ユニットである。

アルテックは低域用と高域用のマグネットを独立させている。
ただし磁気回路の一部は兼用しているので、磁気回路すべてが独立しているわけではない。
タンノイは、マグネットを独立させている同軸型ユニットも存在しているが、
このマグネット独立型のユニットが使われるのは、
同軸型ユニットにウーファーなりトゥイーターをつけ足してワイドレンジ化を図ったモデルであり、
同軸型ユニットのみを搭載したモデルに関しては、一貫してマグネット兼用型のユニットとなっている。
ここにタンノイの見識があらわれている、ともいえよう。

そんな違いのあるふたつの同軸型ユニットを、
直列型ネットワーク、並列型ネットワークで鳴らしてみると、どういう結果になるのか。

マグネットの独立と呼応するように、アルテックは並列型、タンノイは直列型が向いていることになるのか、
意外にもアルテックに直列型に向いていて、タンノイには並列型向いている、という結果になるかもしれない。

これは完全な推測にすぎないのだが、
並列型のネットワークのほうが、いわゆる音の分離、明瞭度は高く、
音の細部の表現においては直列型の上をいくのかもしれないが、
音のまとまり、ハーモニーの美しさ、それに音像のしっかりした感じなどは直列型のほうが優位なのでは……、
そんなふうに想像している。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: SUMO

SUMOのThe Goldとヤマハのプリメインアンプ(その11)

アンプの動的ウォームアップはスピーカーを接続して音を鳴らすことでしかすすまないものなのだが、
やっかいなのは電源を入れっ放しにしていて音楽を聴いていて充分に動的ウォームアップがすんで、
いい音で聴ける状態になってきた。

そこで音楽を聴くことを一休みする。
アンプの電源は入れたままで。

アンプによって、その時間は違うから一概にはいえないものの、
たとえば30分、1時間経過して音楽を聴きはじめると、また動的ウォームアップの時間を必要とするアンプがある。
このときの動的ウォームアップにかかる時間は、アンプによって異る。
わりと早く動的ウォームアップがすむアンプもあれば、なかなか目覚めてくれないアンプもある。

この動的ウォームアップは、やっかいというか、聴き手側にとっては面倒なことといおうか、
できれば静的なウォームアップだけで満足のいく音を聴かせてほしいところだが、
アンプの中身のことを考えると、そうもいかないこともわかっているので、
せめて一度動的ウォームアップがすんだら、できるだけ維持できるようにしてほしい。

ウォームアップに時間も手間もかかるアンプを、寝起きの悪いアンプという。
いい音を聴かせてくれるのであれば、寝起きが多少悪くてもがまんしよう。
そのかわり、いちど目覚めたら、ずっと起きていてほしいのだ。
音楽信号が流れてこないと、すぐに寝てしまうアンプ、そしてなかなかしゃきっと目覚めないアンプは、
その分、聴き手の時間を奪っているともいえる。

実際に動的ウォームアップによる音の変化は、はっきりと聴きとれるのか、と疑問に思われる方もいるだろう。
あるレベル以上の音を鳴らしているシステムであれば、はっきりと聴きとれることが多い。

いつ、どんなふうに音が変化するのか、と、まちかまえて聴いているよりも、
ゆったりと音楽に耳をすましている聴き方であれば、
あっ、変った、と感じられる瞬間があるのがわかる。

動的ウォームアップによって、どう音が変化するのかは、アンプによって変ってくる部分もあり、
ここがこんなふうに変りますとはいえない。

でも音楽の鳴り方が明瞭になる、と、これだけは確実にいえる。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: audio wednesday

第23回audio sharing例会のお知らせ(音色と音場について)

12月5日のテーマは、「音色と音場について」を語ろうと考えています。

オーディオにおける術語として、1980年代にはいってから音色よりも音場について語られることが増えてきている。
一部の人たちのことなのかもしれないが、音色の再現よりも音場の再現を優先する、
または音場の再現のほうが音色の再現よりも、より高度である──、
そんな風潮を感じないわけではない。

けれど、これはよく考えてみれば不思議というより、あきらかにおかしなことで、
音色の再現と音場の再現は、絶対に切り離せないものである。

音色といっても、オーディオ機器固有の音色と楽器の音色という、
大きなふたつの音色がある、ということと、
音場の再現に関しては、音場感というように、語尾に感がつく。

このあたりのことを中心に、音色と音場について語っていく予定です。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・余談)

アナログプレーヤーのデザインのことについて書いていて浮んでくることは、
自転車のことである。

自転車もアナログプレーヤーと同じところをもっている。
自転車を構成するものは、大きくわければ3つある。
まずはフレーム、リム、タイヤ、スポークを含めたホイール,
そしてそれ以外のパーツ、
つまりブレーキ、フロント・リアディレイラー(変速機)、クランク、チェーンなどのコンポーネントパーツ。

この3つの構成要素のなかで、もっとも大きく、自転車のデザインを大きく左右するのはフレームだと思い、
1995年、ロードバイクを買おう、としたときに、まず決めたのは当然フレームだった。

オーディオへの取組みと自転車への取組みは若干違うところがある。
自転車はプロの選手になろうんて考えていたわけでもないし、
アマチュアとしても速い選手になりたかったわけでもない。
自転車という趣味を、ひとりでただ楽しみたかった。

そのためには性能の優れた自転車であってもデザインが気に入らなければ買いたい、とは思わず、
逆にデザインが気に入れば、最高の性能を持っていなくてもいい──、
それが私の、そのときの自転車の選び方であり、
とにかく気に入ったフレームで、自分に合うサイズが見つかったら、それで組もうとしていた。

自転車の専門店に行けば、吊し、とよばれる、フレームだけが単体で展示してある。
フレームだけの状態でみていると、イタリアのチネリはカッコイイ。

1995年はスーパーコルサだけでなく、チノ・チネリの復刻フレームが残っていた。
サイズも合うのが見つかった。やっぱりチネリだな、と思っていたし、
チネリとともにイタリアを代表する老舗のフレーム・ビルダーであるデ・ローザは、いかにも武骨だった。

仕上げもチネリの方がいい。フロントフォークの肩の部分が、チネリはなだらかなカーヴを描いているが、
デ・ローザは昔の自転車のフロントフォークのように、肩の部分が水平であり、
チネリに感じられるスマートさが、まったく感じられない。

色も私が見たのは、オレンジ色のデ・ローザだった。
デ・ローザがいいフレームであることは知ってはいたけれど、
デ・ローザにすることはないな、と思い、
チネリを第一候補として、次はどの自転車店で購入するかを決めるために、いくつもの店をまわった。

そうやって結局最初に行った浜松町にあるシミズサイクルで購入することにして、ふたたび向った。

デ・ローザのオレンジ色のフレームを見たのは、このシミズサイクルだった。
二度目のシミズサイクルで見たのは、完成されていたデ・ローザのオレンジ色の自転車だった。

フレーム単体で見ているときと、完成車で見ているときとでは、こうも印象が変ってくるものか。
そのことを実感しながら、フレーム単体で見ていたときには候補から外していたデ・ローザに決めてしまった。

フレーム単体では武骨な見え、欠点のように思えていたところが、
完成されると、そこが力強さを感じさせる長所へと変っていることに気づかされる。

フレーム単体では、雑な仕上げにみえる塗装も完成されてしまうと、
映える印象へとうつっていく。
オレンジ色のフレームなんて、と思っていたのが、いかにもイタリアらしい、とさえ思ってしまうほど、
印象が変る。

アナログプレーヤーもシステムであるのと同じように、
自転車もシステムであることを一瞬にして実感・理解できた。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: SUMO

SUMOのThe Goldとヤマハのプリメインアンプ(その10)

パワーアンプのウォームアップには、
静的なウォームアップと動的なウォームアップとがあり、
静的なウォームアップに関しては電源スイッチをオンにしておけばそれで足りるわけだが、
動的なウォームアップとなると、実際に音を出しながら、ということになる。

オーディオには、このように静的なと動的な、と頭につけたくなることが意外にある。

音のクォリティにしてもそうだ。
静的なクォリティと動的なクォリティがある、といえる。

静的なクォリティと動的なクォリティは、いくつかの意味にわけられる、と考えている。
そのひとつとして、ここで書いておきたいのは、
静的な特性、動的な特性とほぼ同じ意味での、静的なクォリティ、動的なクォリティである。

簡単にいってしまえば、動的なクォリティは、ここでは音楽を聴いてのクォリティということになる。
では静的なクォリティとは、なにかといえば、
静的な特性の測定に使われるのがサインウェーヴがメインであるように、
そんな意味での静的なクォリティである。

ケーブルを変えても音は変化しない、と頑なに主張される人の中には、
よく測定結果を持ち出す人がいる。
そして、測定上の差はほんのわずかであり、そのわずかな差は人間の耳では感知できない、という、
非常に乱暴なこじつけでもって、音は変らない、と結論づけられる。

なぜ、わずかな差は人間は感知できない、と言われるのかが、まずわからない。
その人はわからない、のであれば、納得できても、なぜか、すべての人という意味で「人間は」と書かれる。

そしてもうひとつ不思議なのは、測定上の差はごくわずかといわれる、
その測定に使われるのはサインウェーヴがほとんどだということ。

音楽信号を使っての測定方法が確立されていない以上、サインウェーヴ、パルスを使うのはわかる。
でも、あくまでもそれらを使っての測定結果は、音楽を再生したときの結果を反映しているとは、
誰にもいえない、ということである。

サインウェーヴで測定したら、ケーブルを変えた差はごくわずか。
だから音楽を聴いても音は変らない、は、理屈として通らない。
この場合、理屈として通るのは、
サインウェーヴを再生して聴いたら、ケーブルの違いはわからない、ということでしかない。

それならば、私も納得できる。
私だって、サインウェーヴ(たとえば1kHzのみのサインウェーヴ)のみを音源として、
ケーブルの違いを聴き分けろ、といわれたら、自信がない。

だが何度でも書くが、聴くのは(聴きたいのは)音楽である。

Date: 11月 27th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その7)

ガラード301、401とトーレンスTD124の違いは、
トーレンスには専用キャビネットが用意されていた、ということもある。
TD124を専用キャビネットにおさめた姿は、昔も今も見ていると欲しくなる魅力を放っている。
トーンアームが3012-Rというロングアームでなければ、
TD124にしてしまいたい、とすら思ってしまうほど、いいプレーヤーだと思う。

でも、そうするとトーンアームは限られてしまう。
TD124と専用キャビネットの組合せによく似合うのはSMEの3009、
それともEMTの929ぐらいである。

これはこれで私にとって魅力的なプレーヤーシステムとなるけれど、
3012-Rを中心にプレーヤーシステムの構築を考えていたのは、
一にも二にも、ステレオサウンド 58号での新製品紹介の頁での瀬川先生の書かれた文章を読んだからであり、
この文章が頭から切り離すことができなかったわけだから、
私にとって、この時期のプレーヤーシステムは、3012-Rがつねに中心にあった。

散々あれこれ迷って、結局何を選んだかは、
これも以前書いているから憶えておられる方もいるだろう、マイクロのRX5000 + RY5500だった。

できれば瀬川先生が3012-Rの試聴をされたときのターンテーブル、
同じマイクロのSX8000にしたかったのだが、それを買えるほどの余裕はなかった。
RX5000も中古で、かなり安く購入したものである。

はっきり書けば、SX8000(のちのSX8000IIではなく初代のモデルで、ベースが青色)にしても、
RX5000にしても、3012-Rのデザインと肩を並べるモノではない。
だから、正直、これか(RX5000)という気持を持ちながらの購入だった。

とはいえ、オーディオマニアゆえ、自宅にRX5000とRY5500が届いたときは、
これでやっと3012-Rを箱から取り出して、トーンアームとして機能させられる、と喜び、
その取付け作業は、楽しかった。

RX5000のベースを設置、砲金製のターンテーブルをそこにのせる、
それからトーンアームベースを仮止めして、3012-Rの取付けテンプレートで向きをきっちりと決める。
3012-Rをベースに取り付けたら、カートリッジもセットしてオーバーハングの調整。
モーターのRY5500もセットする。

このころはSX8000が登場していたおかげで糸ではなく、専用のベルトが登場していた。
砲金製のターンテーブルプラッターの周囲をきれいにクリーニングしてベルトをかける。
そしてRY5500の位置を、このあたりかな、というところでとりあえず決めて……、
こんな作業を、はやる気持を静めながら行っていたことを、思い出していた。

Date: 11月 27th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(続×六・余談)

スピーカーの型番もアンプの型番も四桁の数字だけで揃えるのならば、
アナログプレーヤーもそうしたい。

数字だけの4桁の型番のアナログプレーヤーは、すぐに思い浮ぶ。
デュアルがそうだ。
1019、1219、1249などがある。
最初の二桁がターンテーブルプラッターの直径をインチで表していて、
1019は10インチ、1219、1249が12インチ(30cm)となっている。

スピーカーのウーファーの口径が10インチだったら1019をあえて選ぶということも考えるけれど、
4411のウーファーは12インチ口径だから、1219、1249のどちらかを選びたい。

デュアルのアナログプレーヤーは、とにかくハウリングに強いことで知られている。
この点でも、本棚にスピーカー、アンプ、プレーヤーを収めようとしているだけに、
ハウリングマージンの大きさは重要な項目だから、デュアル以外のプレーヤーは選びにくい。

ここまできたらカートリッジも、ということになるけれど、
思い出したのはラウンデールリサーチの2118。
たしかに数字だけの四桁の型番なのだが、ここでの組合せの意図には似合わない。
音の傾向としても、4411、マランツの1250とは違うところにあるカートリッジだから、候補から外す。
そうなると、厳密には四桁の数字だけの型番ではなくるけれど、
数字の前には何もつかない、ということで、エンパイアの4000D/IIIを、ここにはもってきたい。

チューナーはプリメインアンプと同じマランツにしたい。
四桁数字の型番のマランツのチューナーは、2100と2120がある。

とここまではわりとすんなり決めていけるのだが、CDプレーヤーだけは見つからない。
四桁の数字のつくモデルは数多くあるけれど、数字だけの型番のモデルはなにがあるだろう……。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: Wilhelm Backhaus

バックハウス「最後の演奏会」(その9)

この項を書き始めて考え続けているのは(ずーっと考えているわけでもないけれど)、
骨格のしっかりした音を、具体的に説明するにはどうしたらいいのか、ということ。

バックハウスのベートーヴェンを愛聴盤とされている人ならば、
なんとなくかもしれないが、私がいいたいことをわかってくださっている、そんな気もする。

でもいまバックハウスのベートーヴェンを愛聴盤としている人は、そう多くないだろう。
それにクラシックを聴く人ばかりとは限らない。
バックハウスのベートーヴェンをまったく聴いたこともない人も少なくないと思う。

そしてスピーカーに関しても、現在市販されているモノで、
骨格のしっかりした音までは求めないものの、
すくなくとも、その音を聴いたときに、音の骨格を意識させるスピーカー、
骨格をいう表現を思いつかせる音のスピーカーでもいいのだが、
はたしてあるのだろうか。

そういう時代にあって、そういう音楽、そういう音しか聴いたことのない人に、
骨格のしっかりした音を説明するのは、どうしたらいいのか、正直わからない。

そういえば、瀬川先生が、読者から「品位のある音というのがわからない」と相談された、という話がある。
そういうものか、と思うし、そうなんだ、とも思う。

どんな音楽を聴いてきたのか、どんなスピーカーを聴いてきたのかによっても、
理解できない(しにくい)音が確かにある。
この問題は、それでは品位のある音を聴かせたり、骨格のしっかりした音を聴かせればすむことじゃないか、
と思われるかもしれない。

けれど人はみなスピーカーから出てきているすべての音を聴き取っているわけではないし、
感じとっているわけでもない。

音の品位に、音の骨格に対する感知能力が聴き手側になければ、
そこで品位の高い音が鳴っていても、骨格のしっかりした音が鳴っていても、理解されることは難しい。

それでも言葉で説明していくとなると、どうしたらいいのか。
骨格のしっかりした音──、とはどういう音なのか。

ひとつ浮んできたことがある。
骨格は文字通り骨から構成されている。
だが骨がただひとつあるだけでは骨格とはなりえない。
骨格には関節がある。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(続×五・余談)

本棚におさめてレベルコントロールを積極的に使うJBLの4411を鳴らすアンプに求めたいことがすこしある。

まずプリメインアンプであること。
それほど大袈裟にならなければセパレートアンプでも……という気持はまったくなく、
プリメインアンプの良質なもの、そして物量を投入したモノにしたい。
なぜかといえば、4411がアメリカのスピーカーシステムであり、
4411がイギリスのBBCモニター系統のスピーカーであれば、
アンプに投入されている物量ということにはまったくこだわらないけれど、
4411はブックシェルフ型ではあるが、はっきりとアメリカのスピーカーシステムなのだから、
スマートなアンプで鳴らすことよりも、物量投入型のアンプで鳴らしたい。

それからA級動作のもの、A級動作でなくとも発熱量が極端に多いものはさけたい。
スピーカーを本棚におさめるくらいだから、プリメインアンプも本棚に置きたい。
そういう使い方をするから、放熱に気をつかうものはなるべくさけたいわけだ。

トーンコントロールがついているアンプ。
それもおまけ的なトーンコントロールではなく、しっかりと機能するトーンコントロール。
できればターンオーバー周波数が選択できるもの、高・低の2バンドに中域を加えた3バンドのもの。

この3つを満たしてくれるアンプとなると、
マランツのプリメインアンプ、それも4411とほぼ同時代のアンプが真っ先に浮ぶ。
Model 1250、Model 1152、もう少し新しいところではPM6、PM8がある。

これらのマランツのプリメインアンプは、いまのマランツのプリメインアンプのパネルフェイスとは異り、
Model 7の流れを汲む、いまとなっては古典的なスタイルのものである。

ツマミが多すぎて……、といまどきのアンプを見慣れた人はそう感じるかもしれない。
でも、あのころのプリメインアンプは、このくらいのツマミがフロントパネルに、
各社、特色のある配置がなされていた。

1250、1152、PM6、PM8、
この4機種ならば、コンディションのいいものが見つかれば、それでいいという気持なのだが、
できれば1250のコンディションのいいものがあれば、と思ってしまう。

1250が、この4機種の中で音がいい、という理由ではない。
スピーカーが4411と四桁の型番だから、アンプもできれば四桁の型番に合せたい、だけなのだ。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その9)

ほんとうのところは、まだまだスピーカーとアンプの関係性について書いていきたいのだが、
そうするといつまでも本題である「瀬川冬樹氏とスピーカーのこと」に移れなくなるのでこのへんにしておく。
けれど、スピーカーのアンプの関係性については書きたいことだけでなく、
考えていきたいとも思っているので、項を改めて書く予定ではある(といってもいつになるかは……)。

なぜ少しばかりの脱線とはいえないくらいアンプのことを書いてきたのは、
瀬川先生が最後に鳴らされていたJBLの4345から、
もしいまも存命だったら絶対に鳴らされているはずのジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットまで、
いったいどのスピーカーを鳴らされていたのかを考えていくのに、
スピーカーのことだけを考えていては、答に近づけないと思うからである。

リスニングルームの条件も考慮しないといけない。
瀬川先生が砧に建てられた家から移られたのは目黒のマンションである。
ここは決して広いとはいえないスペースだった、と聞いている。
そこに4345を置かれていた。

1981年以降、瀬川先生はどの程度のリスニングルームのスペースを確保されただろうか……。
そういうことも勘案していく必要がある。

それにアンプのこともある。

1981年の初夏にステレオサウンドから出たセパレートアンプの別冊の巻頭に掲載されている文章、
いま、いい音のアンプがほしい」を読んでいくと、
瀬川先生が求められている音にも変化があり、
マークレビンソンのアンプの音にも変化があり、
このふたつの音の変化は同じところを向っていないことが感じとれる。

瀬川先生は、アンプは何を選ばれただろうか──、
このことも考えていかなければ、スピーカーに何を選ばれたのかについての確度の高い推察はまず無理であろう。

このスピーカーとアンプの関係性からみていくときに、
この項の(その2)で書いているアルテック620Bとマイケルソン&オースチンのTVA1の組合せ、
それにずっと以前の、604Eをおさめた612AとマッキントッシュのC22とMC275との組合せ、
このふたつの組合せのもつ意味を考えていく必要がある、と私はそう確信している。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その6)

1970年代のステレオサウンドには「オーディオの名器にみるクラフトマンシップの粋」という連載記事があった。
39号ではガラード301とともに、トーレンスのTD124、TD224が取り上げられている。

「クラフトマンシップの粋」でターンテーブル、プレーヤーが取り上げられたのはこの時だけで、
ガラードだけでもなく、トーレンスだけでもなく、
ガラードとトーレンスがいっしょに取り上げられているところに、
ガラードとトーレンスの日本のオーディオ界におけるポジションをとらえている。

「クラフトマンシップの粋」の記事構成はカラーグラビアが4頁あり、
それから岩崎千明、長島達夫、山中敬三の三氏による鼎談である。

カラーグラビアの見開きでは右頁にガラード301、左頁にトーレンスTD124/IIが並んで撮られている。
301とTD124、このふたつのターンテーブルのデザインを見比べてすぐに気がつくのは、
TD124はトーンアームベースを含めてデザインされて、製品としてまとめられている。
301はあくまでもターンテーブル単体としてのデザインである。

この違いがプレーヤーシステムとしてまとめられたときのデザインの違い、完成度の違いになってあらわれる。

私はガラードの301よりも401に惹かれ、
401よりもトーレンスのTD124に惹かれる。
それはなんども書いているようにプレーヤーシステムとしてのまとまりのよさがTD124には、
はっきりと感じられるからだ。

トーレンスはプレーヤーシステムとして完成度を考えてのデザインであり、
ガラードにはプレーヤーシステムとしてのデザインという考えが、私にはどうしてもみえてこない。

ガラードは301、401で、どんなプレーヤーシステムを目ざしていたのか。
ガラードからもプレーヤーシステムは登場している。
でもそれらは301、401をベースにしたものではない。

ガラードの顔といえるのは、301であり401である。
なのに、その顔をベースにしたプレーヤーシステムがないし、その姿をイメージできない以上、
ガラードの301、401をトーレンスのTD124を比較することは、
プレーヤーシステムということを念頭におくかぎりは無理なことである。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その8)

D40は、ステレオサウンド 44号の新製品紹介のページで登場している。
井上先生と山中先生が試聴されていて、次のようなことが語られている。
     *
井上 この場合は、スペンドールのスピーカーを鳴らした場合には、という条件つきでないとこのアンプの本来の姿を見失ってしまいますね。ある一つのスピーカーを鳴らすことに的を絞ってアンプを開発した場合は、特別な回路構成をとらないでも、コントロール機能を必要なものに簡略化してしまっても、スピーカーを含めたトータルな再生音のクォリティは非常に高い水準に持っていけるという好例として注目できます。
     *
私はD40を他のスピーカーで聴く機会はなかった。
でも、聴いたことのある人の話では、BCIIと同系統のスピーカーではよかったけれど、
そうでないスピーカーとの組合せでは、精彩を欠いてしまう、と。

そうだと思う。
一般的なアンプの常識では、優秀なアンプとは考えられない。
D40の音は、不思議にいい音であって、その意味では優秀なアンプとは言い難い。
なのに優秀なアンプで鳴らしたBCIIよりも、BCIIの魅力を抽き出し弱いところをうまく補うアンプはない。

もうすこし引用しておく。
     *
山中 このアンプでスペンドールのスピーカーを鳴らしてみますと、他のアンプで聴いたときの印象と違って、かなり中音域が充実して聴こえます。
井上 そうなんですね。以前にいろいろなアンプで聴いたスペンドールのスピーカーの音は、大変バランスがいいといってもやや中域がエネルギー的に不足している部分に感じられたのです。またそれがデリケートで微妙なニュアンスの再現性に優れた、特有の音色と結びついていたともいえるのですが場合によっては神経質な音といった感じに聴こえてしまうこともありました。このD40で鳴らすとその辺をうまく補って、中域にある種のエネルギー感がついて、全体的な音のまろやかさ、余裕といったものが出てくるようです。
山中 もちろん中域のエネルギー感が加わったといっても大変元気な音になったというわけではないですね。スペンドール独得のひめやかな、雰囲気のある音はやはりベースになっています。
     *
D40は優秀なアンプではないし、アンプの理想像に近いわけでもない。
それでもアンプは単体でなにかをするものではない。スピーカーを鳴らしてこそアンプの存在があり、
つねにスピーカーとの関係において語っていくものとしたら、
スペンドールのスピーカーシステムとD40の関係は、
スピーカーとアンプの関係のひとつの理想に近いものといえるところがある。

Date: 11月 25th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その7)

スペンドールのD40は、
スペンドールの設立者であるスペンサー・ヒューズの息子、デレク・ヒューズの設計となっている。

スペンドールのスピーカーシステムの型番は、
たとえばBCシリーズは、
ウーファーの振動板のベクストレンとトゥイーターに採用されているセレッションを表しているし、
小型のSA1は、
自社製のウーファーとフランス・オーダックス製のトゥイーターを採用していることからつけられている。

そういう型番のつけ方をしているスペンドールだから、
D40のDは、デレク・ヒューズの設計を表している、と考えていいはず。

D40はコンパクトなプリメインアンプで、
機能も最小限度のものしかついていない。
入力セレクター、バランサー、レベルコントロールだけ。
外形寸法はW33.2×H9.6×D22.3cm、重量は6kg。
出力は型番からわかるように40W+40W。

回路についての技術的な説明はなにもない。

D40についての製品解説をしようと思っても、あまり書くことが見当たらない、
そういうプリメインアンプである。

けれど、このD40は、スペンドールのスピーカーシステムと組み合わせたとき、
なぜ、こんなつくりのアンプなのに、と思いたくなるほどの音を聴かせてくれる。

私はいちどだけBCIIとの組合せで聴いたことがある。
D40よりも物量を投入したプリメインアンプ、セパレートアンプのいくつかでBCIIを聴いたことはある。
そのどれよりも、D40で鳴らしたときに、BCIIは、こういう音も鳴らせるのか、という驚きがあった。

Date: 11月 25th, 2012
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その17)

編集部の人たちは、自分たちがつくっているのはオーディオ専門誌、と思っているのかもしれない。
オーディオ専門誌とまではいかなくても、オーディオ誌をつくっているのであり、
オーディオ雑誌と呼ばれることに抵抗や嫌悪感をもつ人もいることだと思う。

私だって、ステレオサウンドにいたころはオーディオ専門誌だとステレオサウンドのことを思っていたし、
オーディオ専門誌をつくっているつもりでいた。

でも、いまはよほどのことがなければ私はオーディオ専門誌という言葉は使わないし、
あえてオーディオ雑誌、と書くようにしている。
これは嫌味で、そう書くようにしているわけではない。

雑誌と書いてしまうと、雑という漢字が使われているため、
専門誌と表記されるよりも、一段低いレベルの本という印象になってしまいがちである。

けれど、雑誌とは別に雑につくられた本、という意味ではない。
雑誌だから、雑につくっていいわけでもない。

雑の異体字は、襍、旧字は雜(これは人名漢字としても使える)、
同じ系統の漢字として緝だ、と辞書には書いてある。

雑誌と書いてしまうから、なにか低いものとして捉えてしまいがちになるが、
異体字、旧字、同系統の漢字をあてはめてみると、雑誌という言葉が意味するところが見えてくる。

オーディオ襍誌、オーディオ雜誌である。
どちらも「おーでぃおざっし」と読む。

緝は、ザツと読むことはできないけれど、
この緝が、編集につながっていることがわかる。

Date: 11月 24th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その5)

ステレオサウンド 48号の表紙は、EMTの930stを真上から撮っている。
これを見るたびに、プレーヤーシステムとは、930stのことをいうものだと思っていた。

930stが高い評価を得ているのも、ステレオサウンド 48号の表紙を見れば、すぐに納得がいく。
48号は1978年発行、私はまだ15歳、930stは115万円だった。

その3年後、3012-Rを購入したときでも、アナログプレーヤーに100万円を出すことはできなかった。
9万円弱の3012-Rだって、分割払いでなんとか買っていたのだから。

それでも48号の930stの姿は、強烈だった。
930stの写真はそれ以前にも何度も見ている。
でも、48号の表紙(安齊吉三郎氏の撮影)ほど、
930stの、プレーヤーシステムとしての完成度の高さを伝えてくれる写真はなかった。

実は、いまもこれを書きながら、ステレオサウンド 48号の表紙を横目で見ている。
いい写真であり、いいプレーヤーシステムだ、と改めて実感している。

930stよりも音の点で上をいくプレーヤーはいくつかある。
でも、それらはプレーヤーシステムとして930stの上にある、とはいえないプレーヤーである。

世の中にアナログプレーヤーは、それこそ無数といっていいほどある。
けれどプレーヤーシステムとほんとうに呼べるアナログプレーヤーとなると、
その数はほんとうに少ない。しかも優れたプレーヤーシステムとなると、さらに少なくなる。

3012-Rとともに使うターンテーブル選びに悩んでいたときに気づかされたのは、
私が求めているのはプレーヤーシステムであり、
そのころの私には単体のターンテーブル、トーンアームを買ってきて、
キャビネットを自分で考え作り、プレーヤーシステムとしてまとめあげるだけのものは持っていなかった、
ということである。

そしてアナログプレーヤーのデザインは、
オーディオ機器のなかでもっとも難しいのではないか、と感じていた。