Date: 3月 11th, 2015
Cate: 「本」

オーディオの「本」(読まれるからこそ「本」・その1)

古書店に、きれいなステレオサウンドのバックナンバーが並んでいるのを見つける。
きれいであることは嬉しい。
けれど、きれいであるということは、そのステレオサウンドはほとんど読まれていないということでもある。

これは、元とはいえ編集者だった者には悲しくみじめな気持になる。

そういえば、定期購読しているけれど、ここ十年くらいほとんど読んでいない、という声もきく。
別にステレオサウンドに限ったことではない。
他の雑誌・書籍についても同じことがあり、同じことがいえる。

私のところには、ステレオサウンド 38号が二冊ある。
一冊は岩崎先生が読まれていた38号である。
かなりボロボロになっている。

この38号は39号、40号などといっしょに私のところにある。
38号だけがボロボロになっている。

岩崎先生にしっかりと読まれたことで、38号は「本」としての役目を果したといえる。
岩崎先生によって「本」になったといえる。

書店に並んでいるのは、たしかに本である。雑誌であり書籍である。
けれど購入されても、禄に読まれなければ、紙の束でしかない。
しかも何も書かれていない紙の束は他の用途に使えるが、
印刷されている紙の束は、あまり他のことには使えない。

出版社にとっては、読まれようが読まれまいが、売れればそれでいい、ともいえる。
発行部数が多ければ広告は多くはいってくるし、広告料も強気でいられる。
それでもいいのが資本主義(商業主義)なのかもしれない。

どれだけの人が読み、どれだけの人が読まないのかはわからないが、
読んでいない人がいることは事実である。
そういう「本」になりそこね紙の束のままで終えてしまうものに、
文章を書いていくことに、まったく疑問を持たずにいられるのだろうか。

疑問を持っている人、いない人がいると思う。
疑問をもたずに書いている人は、商業主義的書き手といえるのか。

そして編集者は……、とおもう。

Date: 3月 11th, 2015
Cate: バスレフ(bass reflex)

バスレフ考(調整の仕方)

バスレフ型の音(低音)を極端に嫌う人がいる。
そういう人の中には、バスレフ型のスピーカーで聴く場合、
曲ごとにバスレフポートのチューニングをするという人もいる。

ポートになにもつめない状態。つまりメーカーの意図通りの使い方。
ポートに吸音材をつめていく。
吸音材の種類を変えたり、量を変えたりしてチューニングしていく。

バスレフ型のスピーカーを使った経験のある人ならば、
一度は試したことのある人も多いと思う。
いい悪いではなく、かなりの変化があるのは確かで、
でも、曲ごと(レコードごとに)ポートのチューニングを変えるというのは、
やっている本人にしてみれば最適のチューニングポイントを見つけ出して、
それに合わせる行為と思っているだろうが、
実のところ、最適のポイントから少しズレているからこそ、極端なことに走ってしまうともいえなくもない。

もちろんすべての曲(レコード)に対して、最適のポイントが必ずしもあるとはいえない。
けれど、そんな極端なことをやっている(やらざるをえない)のは、
どこか間違っているのではないか、と疑うことも必要ではないのか。

バスレフのチューニングは手軽にやれる。
しかもすぐに元に戻せる。

音に不満がある場合、
それは必ずしもバスレフポートに原因があるとは限らないのだが、
それでもバスレフポートのチューニングをすることを否定はしない。

あれこれやってみて経験を増やしていくことは大事だからだ。

そういえば、井上先生が以前、バスレフ型の簡単なチューニング方法を書かれている。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」パイオニア号に載っている「音づくりチャレンジプラン」。

ここにこんなことを書かれている。
     *
①アンプの入力端子のプラス側にシールドされていないコードをさし込み、ハム音を出す。このときの出力はできるだけ小さくしておき、だんだん必要な音量にあげること、最初からボリュウムを上げておくとアンプやスピーカーを破損する場合もある。このハム音によって低域のバスレフチューニングをとる。角型ダクトの場合には、ある程度の厚さをもつ板を入れることによりダクトの容積が可変できるので便利だ。このハム音によって低域のレスポンスの変化を聴きとる。
②乾電池の使い古したものを使う方法もある。電池の両端にスピーカー端子をつけたときは、電池の内部抵抗だけでアンプの実装状態に近くなり、放した瞬間は、オープンになったときと同じで、音の消え方が大体判断できるわけだ。こうして電池によって音の立上りや立下りが、とくに低域についてよくわかるので、バスレフチューニングをとる場合などには役立つ方法だ。
     *
試されるのであれば、井上先生が書かれている注意点を守ることである。

Date: 3月 11th, 2015
Cate: JBL, ステレオサウンド

JBL DD77000とステレオサウンド 200号

JBL PROFESSIONALのスタジオモニターM2の存在を二年遅れで知り、
発表当時から知っていた人からすれば、いまさら……、と思われていようと、
M2というスタジオモニターは非常に興味深いだけでなく、
なぜM2に採用された技術がコンシューマー用スピーカーに採り入れられていないのかについて、
つい考えてしまう。

少なくともデュアルダイアフラムのD2ドライバーは、
すぐにもコンシューマー用に採用されても不思議でないのに……、である。

なぜか、という答はすぐに思いつく。
来年(2016年)は、JBL創立70周年である。
ということは、60周年記念モデルのDD66000に代るモデルとしてDD77000が開発中と考えられる。

JBLに関心のある人ならば、多くの人がDD77000の登場を予測しているだろう。
どういうシステム構成になるのか、DD66000と何が同じで何が違ってくるのか。

その最大のヒントとなるのが、D2ドライバーの存在といって間違いはないはず。
DD77000にはデュアルダイアフラムのコンプレッションドライバーが搭載されるはず。

ウーファーはM2と同じシングルなのか、DD66000と同じダブルなのかはわからない。
ホーンの形状もM2のホーンに多少変更が加えられるのか。
少なくとも材質は変更されるように思う。

それからM2はマルチアンプ駆動なのに対して、DD77000はネットワーク内蔵となることは間違いないだろう。
M2は単なるマルチアンプ駆動ではない。
そのへんをネットワークでどう対応するのか、もしかするとオプションでマルチアンプ駆動、
それも専用アンプとデジタル信号プロセッサーによるものが用意されるのだろうか。

M2はクラウン(アムクロン)のアンプがそうであるから、
DD77000では同じハーマングループのマークレビンソンのアンプが専用アンプとなるのか。

こんなことをM2の存在を知ってからの数日、考えていた。
この予測がどこまで当るのかは来年になればはっきりする。

仮にDD77000が登場するとして、それはいったいいつになるのか。
これに関してはけっこう自信がある。
おそらく9月になるはずだ。

2016年9月に出るステレオサウンドは200号、つまり創刊50周年記念号である。
ここに合わせてくるし、200号の表紙はDD77000のような気がしている。

つまりステレオサウンド 200号でDD77000はお目見えとなるはずだ。
発表は9月よりも少し早いかもしれない。
それでも情報解禁はステレオサウンド 200号の発売日になるのではないか。

あと一年と六ヵ月である。

Date: 3月 10th, 2015
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(その6)

私がステレオサウンドにいたころ、JBLの4344はリファレンススピーカーであったから、
長いこと聴いていたことになる。
4343も入ったばかりのころは、まだ試聴室に置いてあったから、何度か聴くことができた。
ステレオサウンドの試聴室以外でも、4343は聴く機会はけっこうあった。

けれど4345は、ステレオサウンド試聴室で聴く機会は一度もなかった。
1982年、4345は現行製品ではあったけれど、ステレオサウンド試聴室では聴けなかった。

4345は、4343、4344と比較試聴したこともないし、
聴いた回数もごくわずか。それも販売店での試聴とオーディオフェアで、くらいでしかない。

もっと聴いておきたかったスピーカーなのに、縁がなかったのか……。
でも、同年代のオーディオマニアと話をしても、4345を聴いている人はやはり少ない。
話題になっていたスピーカーなのに、不思議なことである。

やはり大きすぎたのだろうか。

4345はステレオサウンド 58号に登場し、60号の特集「サウンド・オブ・アメリカ」にも登場している。
この60号で、瀬川先生が興味深いことを発言されている。
     *
 ただ、ぼくは今聴いているとちょっと不思議な感じを抱いたのだけれど、鳴っている音のディテールを論じたら違うんですが、全体的なエネルギーバランスでいうと、いまぼくがうちで鳴らしているJBL4345のバランスに近いんです。非常におもしろいことだと思う。もちろん細かいところは違います。けれども、トータルなごく大づかみな意味ではずいぶんバランス的に似通っている。ですから、やはり現在ぼくが鳴らしたい音の範疇に飛び込んできているわけです。飛び込んできているからこそ、あえて気になる点を言ってみると、菅野さんのところで鳴っている極上の音を聴いても、マッキントッシュのサウンドって、ぼくには、何かが足りないんですね。かなりよい音だから、そしてぼくの抱いている音のイメージの幅の中に入ってきているから、よけいに気になるのだけれども……。何が足りないのか? ぼくはマッキントッシュのアンプについてかなり具体的に自分にとって足りない部分を言えるつもりなんですけれども、スピーカーの音だとまだよくわからないです。
     *
マッキントッシュのXRT20の試聴を終えての発言である。
アメリカ西海岸のJBLの4345と東海岸のマッキントッシュのXRT20の、
全体的なエネルギーバランスが近いということ。

瀬川先生も「非常におもしろいことだと思う」といわれているように、
これは非常におもしろく、興味深いことであり、
4345の音がどうであったのかを、
もっといえば瀬川先生が4345をどういう音で聴かれていたのかを、
正確にさぐっていくうえで非常に重要なことだと思っている。

Date: 3月 10th, 2015
Cate: バッハ, マタイ受難曲

カラヤンのマタイ受難曲(その5)

カラヤン/ベルリン・フィルハーモニーによるマタイ受難曲を聴き終えて、
もう一度、黒田先生の「バッハをきくのはメービウスの輪を旅すること」を思い出していた。

メビウスの環の裏と表、
カラヤンの場合、片方がマタイ受難曲でもう片方がパルジファルであるような気がしたからである。
メビウスの環だから、どちらが表で裏なのかは同じことであるから、
マタイ受難曲が表でパルジファルが裏とはいえない。

続いているように聴こえてくるのは、
ずっと以前とはいえ「バッハをきくのはメービウスの輪を旅すること」を読んでいたからなのか、
そしてマタイ受難曲を聴く前にも読み返していたからなのか。

なんにしても、いまの私はカラヤンのマタイ受難曲とパルジファルを切り離して受けとめることはできない。

そしてすこしだけ思うのは、
マタイ受難曲もパルジファルと同レベルの録音であったなら……、である。

Date: 3月 9th, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その1)

スタートレックに登場するU.S.S. ENTERPRISE NCC-1701。
スタートレックをみるたびに、アメリカが生んだ最高のデザインのひとつだと思うとともに、
アナログプレーヤーに、このカタチをもってこれないだろうか、とも思ってしまう。

エンタープライズ号は建造物である。
アナログプレーヤーもまた建造物として捉えた方がいいのではないか。

これまでにいくつかの、そう捉えられるアナログプレーヤーが登場しているものの、
エンタープライズ号の域に達しているとは、まだまだいえない。

Date: 3月 9th, 2015
Cate: JBL

JBL PROFESSIONALの現在(その3)

JBLとアルテック。
同じウェスターン・エレクトリックの流れを汲むメーカーであり、
どちらもコンシューマー用とプロフェッショナル用のスピーカーを手がけていても、
JBLは早い時期からレンジの拡大に積極的で3ウェイ、さらには4ウェイのシステムを発展させてきた。
アルテックは2ウェイという枠のなかで高域レンジの拡大を図っていた。

けれどアルテックも6041を発表してからは、4ウェイ路線に奔ってしまった。
当時のスピーカー技術では、どうしても2ウェイでまだ無理なところがあったともいえよう。

そんなJBLとアルテックだが、
JBLは1981年に4400シリーズを発表する。
それまで誰も見たことのない形状をしたバイラジアルホーンを搭載した、このスタジオモニターは、
4ウェイでもなく3ウェイでもなく、2ウェイだった。

高域を受け持つユニットは、4343のミッドハイを受け持つ2420のダイアフラムのエッジを改良した2421。
2420よりは高域レンジがのびているとはいえ、2405ほどのびているわけではない。

4435、4430とも発表されている再生周波数帯域は、30Hz〜16kHz ±3dB(4430は35Hzとなっている)。
この時代のスピーカーとしては、高域に関してはナローレンジといえるモノを、
4ウェイを積極的に展開していたJBLが、あえて出してきた。

4435、4430とも、私は音を聴いていない。
けれど、4435の音を気に入っていまも鳴らされている人を知っている。

4400シリーズは続いて出た4411では3ウェイになっているし、
1983年には2404Hという、小型のバイラジアルホーンをもつトゥイーターも出している。
2404Hの再生周波数帯域は3000〜21500Hzとなっている。

それでもJBLは1989年にS9500で、2ウェイにまた挑戦している。
M2は、そういうJBLの最新の・最先端の2ウェイ・システムであり、
JBL PROFESSIONALのスタジオモニターとして今後3ウェイ、4ウェイが登場することはない、といえよう。

Date: 3月 9th, 2015
Cate: JBL

JBL PROFESSIONALの現在(その2)

JBL PROFESSIONALのM2は、2013年1月に発表されたスタジオモニターである。
二年前の製品の存在にいまごろ気づいて、遅れて昂奮している。

つまりヒビノのサイト、それからJBL PROFESSIONALのサイトにも二年以上アクセスしていなかったわけだ。

これといったはっきりとした理由はなかったけれど、
JBL PROFESSIONALのサイトをみると、
スタジオモニターとして、いまだにControlシリーズが現役として残っているのがわかる。
(ヒビノでは扱っていないようだが)

それにM2以前の大型スタジオモニターであったDMS1のイメージが芳しくなかったのも影響している。
14インチ口径のウーファーのダブル試用の2ウェイのシステムだったDMS1がどういう音だったのかは知らない。
実物を見る機会はなかったけれど、写真を見て、その音を聴きたいとは一度も思わなかった。

JBL PROFESSIONALのスタジオモニターから輝きが消えてしまったように感じていた。
4320から始まったJBL PROFESSIONALのスタジオモニターは、4343をピークに、ほんとうに輝いていた。

いまでは”Studio Monitor”は、4300シリーズの型番の一部になってしまった感がある。
だからといって、現在の4300シリーズがダメだとは思っていないが、
JBL PROFESSIONALではなくJBLブランドのスピーカーシステムに、4300シリーズの型番をつけるのは、
そろそろ終りにしてほしい、と思う。

もしくは4300シリーズの型番を続けるのであれば、スタジオモニターは謳わない方がいいようにも思う。
そのくらいに、JBL PROFESSIONALのM2の登場に昂奮している。

4320が登場した時に、当時のオーディオマニアが体験してであろう昂奮は私は世代的に味わえなかった。
けれど、いまM2によって、同じレベル(もしかするとそれ以上の)昂奮を味わえるような気がしてならない。

Date: 3月 8th, 2015
Cate: JBL

JBL PROFESSIONALの現在(その1)

いまもJBLの4300シリーズのスピーカーシステムは売られている。
JBLの輸入元であるハーマンインターナショナルのサイトには、
4365、4338、4312をはじめ、10機種の4300シリーズがラインナップされている。

これらは、けれどJBLブランドである。

ハーマンインターナショナル以前は山水電気がJBLの輸入元だった。
このころは、コンシューマー用スピーカーはJBLブランド、
プロフェッショナル用スピーカーはJBL PROFESSIONALブランドだった。
4300シリーズはJBL PROFESSIONALブランドのスピーカーシステムだった。

いまもJBLはコンシューマー用とプロフェッショナル用とがある。
コンシューマー用はハーマンインターナショナルが輸入元であり、
プロフェッショナル用はヒビノと、輸入元がわかれている。

4300シリーズがコンシューマー用の型番となってしまった現在、
録音スタジオで使われるモニタースピーカーに対するJBLの答はどうなっているのだろうか、
と数年ぶりにヒビノのウェブサイトを見てみた。

M2というモデルが、現在のJBL PROFESSIONALのスタジオモニターのフラッグシップである。
正直、見た目はあまりそそられない。
けれど、このM2に搭載されているドライバーは、ひじょうにそそられる。

D2 Dual Driverと名づけられている、このユニットの構造図は、
いままで見たことがないコンプレッションドライバーの構造を示している。

Date: 3月 8th, 2015
Cate: 快感か幸福か

オーディオレコード的という意味でのオーディオ機器(その3)

はっきりとドンシャリ型といえる音は、下品である。
けれど、ドンシャリすれすれといえる音を出すオーディオ機器(特にスピーカーにおいては)が、
魅力的に聴こえることがあるのも事実である。

たとえばイギリスのスピーカー、フェログラフのS1。
     *
 聴きようによっては、いわゆるドンシャリすれすれのような特異なバランスだが、音像定位のシャープさ、音色の独特の魅力、デザインの美しさ、ともかく捨てがたい製品。
(ステレオサウンド 35号)
     *
瀬川先生が書かれたものだ。
S1は初期のモノと後期のモノとでは音のバランスに違いがあるといわれている。
ドンシャリすれすれなのは、おそらく初期のS1のことだろう。

人によっては、S1の音のバランスはあきらかにドンシャリだと感じるかもしれない。
けれど瀬川先生にとっては、あくまでもドンシャリすれすれであり、ドンシャリではない。

それはやはり下品な音かそうでないかによって、その境界線は決ってくるからである。
総じてフェログラフのS1と同時代のイギリスのスピーカーシステムの音のバランスは、
ドンシャリすれすれまでいかなくとも、ドンシャリ的傾向のモノがいくつかあった。

ステレオサウンド 36号「実感的スピーカー論 現代スピーカーを展望する」の中で、
瀬川先生は書かれている。
     *
数年前からイギリスの新しい世代のスピーカー、KEFやB&Wやスペンドールやフェログラフなどの新顔が少しずつ入ってきた。その新顔たちにまず顕著だったのが、先にも書いたハイの強調である。B&WのDM2など、13キロヘルツから上にスーパートゥイーターをつけて、あくまでも高域のレインジを延ばす作り方をしている。この方法論はスペンドールにも受け継がれている。ハイを延ばすことの割合に好きなはずの日本でも、12~13キロヘルツ以上にトゥイーターのユニットを一個おごるという作り方は、かつてなかった。
 しかしレインジを延ばしたことが珍しいのであるよりも、その帯域をむしろ我々には少しアンバランスと思えるくらい強調した鳴り方におどろかされ、あるいは首をかしげさせられる。イギリス人の耳は、よっぽど高音の感度が悪いんじゃないかと冗談でも言いたくなるほど、それは日本人の耳にさえ強調しすぎに聴こえる。同じたとえでいえば、イギリス人は中音域を張らすことをしない。弦や声に少しでもやかましさや圧迫感の出ることを嫌うようだ。そして低音域は多くの場合、最低音を一ヵ所だけふくらませて作る。日本にも古い一時期、ドンシャリという悪口があったように、低音をドンドン、高音をシャリシャリ鳴らして、中音の抜けた音を鳴らしたスピーカーがあったが、イギリスのは、低音のファンダメンタルは日本のそれより低く、高音は日本より高い周波数で、それぞれ強調する。むろん中域が〝抜けて〟いたりはしない。音楽をよく知っている彼等が、中音を無視したりはしない。けれど、徹底的におさえこむ。その結果、ピアノの音が薄っぺらにキャラキャラ鳴ったり、サックスの太さやスネアドラムのスキンの張った感じが出にくかったり、男声が細く上ずる傾向さえ生じるが、反面、弦合奏や女声の一種独特の艶を麻薬的に聴かせるし、楽器すべてをやや遠くで鳴らす傾向のある代りにスピーカーの向う側に広い演奏会場が展開したような、奥行きをともなって爽やかに広がる音場を現出する。
     *
ドンシャリといっても、
ドンとシャリとがどれだけ離れているのか、
そして中音域が抜けていないこと、
これらによって、ドンシャリとドンシャリすれすれの境界線ができてくるのではないだろうか。

Date: 3月 7th, 2015
Cate: ジャーナリズム

オーディオの想像力の欠如が生むもの(その2)

オーディオの想像力の欠如が端的にあらわれたのが、
「名作4343を現代に甦らせる」の記事であり、その試聴記である。

Date: 3月 7th, 2015
Cate: 戻っていく感覚

戻っていく感覚(再会という選択)

戻っていく感覚」というテーマで書いている。
昨年の10月から書き始めた。
今年は、もっと書いていこうと考えている。

昨晩書いた「オーディオ機器を選ぶということ(再会という選択)」も、
やはり戻っていく感覚なのだろうか、といま思っている。

Date: 3月 7th, 2015
Cate: 快感か幸福か

オーディオレコード的という意味でのオーディオ機器(その2)

ドンシャリ、という表現があった。
いまも使うようではあるが、以前からするとオーディオ雑誌で目にすることはかなり減ったし、
オーディオマニア同士の会話でも(少なくとも私の周りでは)、
ドンシャリという単語を耳にすることはほとんどない。

説明するまでもないと思うが、ドンシャリとは
低音がドンドン、高音がシャリシャリと表現されるような音のことだ。

日本の、ずっと以前のオーディオ機器(特にスピーカー)は、ドンシャリの傾向が強いといわれていた。
けれど、中音域が大事だという動き・考えが起ってきて、やがてドンシャリ型の音は消えていった。

いわばドンシャリ型とはナローレンジのカマボコ型とは正反対の特性の音ともいえ、
それは技術が進歩して低域も高域も、以前より延ばせるようになってきたから登場したといえるだろう。

私がオーディオに興味を持ち始めたころは、ドンシャリ型の音は消えはじめていた。
ところが、面白いことにアメリカからドンシャリ型のスピーカーシステムが登場するようになっていた。

ステレオサウンド 60号・特集の座談会で瀬川先生が、そのことについて語られている。
     *
彼らが挑戦しようとしている過去のアメリカの音というは、非常に乱暴な分類をしてしまうと、スピーカーでいえばカマボコ型の特性をしている。中域をたっぷりさせて、高域と低域はスローダウンさせる。それはアルテックだけに限らず、JBLだって初期のスピーカーはそうだし、エレクトロボイスにしても、ARにしてもいってみればカマボコ型だったそこで、それらの反動として、いまのアメリカ若い世代は、突然低域と高域を強調した「ドンシャリ」に目覚めたのではないかと思います。このドンシャリというのは、カマボコ特性に対するものとしていっているので、決して悪い意味でいっているわけではありません。これはぼくの勝手な思い込みではなくて、何人かの若いオーディオファイルやオーディオ関係者に会って、彼らの音を聴かせてもらってわかったことなのです。いままでのアメリカのスピーカーでは出なかったところのハイエンドやローエンドに、絶対彼らはびっくりしていると思う。このIRSというスピーカーにしても、そのドンシャリ型の音を彼らの現在の理論、方法論でどこまで煮詰めていけるかというような考え方の一つの現れではないかと思います。
 日本でもかつてドンシャリ時代がありましたよね。それに対して、中音も大事にしようという動きが起こってきて、そのうちにアメリカやイギリスのバランスのいいスピーカーがだんだん日本に入ってくるようになり、本当に低音から高音まできちんとエネルギーバランスのとれた音はどういう音かということを、ようやく日本人もここ数年来広く理解するようになってきた。ところが、アメリカというのは、その点もう一遍本卦還りしているんじゃないですか。つまり、菅野さんも言われたように、アメリカの過去のオーディオの黄金時代をつくった人間が齢をとってしまった、という思い込みから、しかもその良き伝統を受け継いでいないから、アメリカの若い世代のエンジニアというのはまったくのゼロからスタートしているのです。ゼロからスタートするとやはり、まずドンシャリにひっかかりますよね。これはいまの世代の人にかぎらないと思う。個人的には、少し幼いところがあるという感じがするのですが、こういうものを果敢につくる開拓精神というのはすごいものだと思います。
     *
「ゼロからスタートするとやはり、まずドンシャリにひっかかりますよね」とある。

Date: 3月 7th, 2015
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その3)

facebookのタイムラインに表示されていて読んでみて、驚いた。
そこに引用されていたのは,次の文章だった。
     *
北口 ちょっと話の腰を折ってしまうんですけど、スピーカーでハイレゾって聴けるんですか?
井上 聴けます。
北口 それは、みんながふつうに持っているもので?
井上 いや、ハイレゾに対応しているスピーカーじゃないと無理ですね。あ、でも、本当に昔から出ているような、ひとつ100万円とかするようなものだと、対応しているものもあります。スタジオなどで使っているスピーカーなどはそういうものですね。
     *
このとんでもないことを話している井上という人を、最初はIT関係のライターだと思った。
けれど、リンク先の記事を読むと、そこには「ソニーのビデオ&サウンド事業本部」とある。

ソニーの社員によるハイレゾ解説が、このレベルであるのを、どう受けとったらいいのだろうか。
ソニーの社員が話したことであるから、多くの人がこれをソニーの見解として受けとめてもおかしくはない。

ハイレゾに興味をもちはじめている人がこれを読んだら、どう思うのか。

そして、個人的にもっとも驚いたというか、
ほんとうなのか、と目を疑ったのは、この井上という人のフルネームだった。
そこには、井上卓也、とあった。

同姓同名の人はいる。
オーディオ業界にもいて不思議はない。
けれど、よりによって井上先生と同姓同名の人が、こんないいかげんなことを話している……。

貧すれば鈍す、なのだろうか。

Date: 3月 6th, 2015
Cate: チューナー・デザイン

チューナー・デザイン考(その12)

1992年、サザーランドからC1000というコントロールアンプが登場した。
ステレオサウンドの新製品紹介のページで、C1000を見た時に「やられたぁ」と思っていた。

そう思ったのにはいくつか理由があるが、
そのひとつはB&Oの4チャンネル・レシーバーBeomaster6000のことがあったからだ。

前回も書いたが、もう一度書いておく。
B&OにはBeomaster6000という型番の製品が二機種ある。
ひとつはよく知られている、1980年代のレシーバーで、
私がここで書いているのは1974年に登場したBeomaster6000のことである。

Googleで画像検索すれば、どちらのBeomaster6000もヒットする。
見てもらえば、どちらなのかはすぐおわかりいただけるはずだ。

4チャンネル・レシーバー、つまり古い方のBeomaster6000を最初に見たのは、
なんだったのかはもう憶えていない。
それでも、これが4チャンネル・レシーバーではなくコントロールアンプだったら……、
と強烈に思ったことは憶えている。

サザーランドのC1000を見た時、
このコントロールアンプの開発者もBeomaster6000を知っているはず、とだから思ってしまった。
それゆえの「やられたぁ」だった。

C1000の開発者がBeomaster6000を知っていたのか、
その影響を受けていたのか、ほんとうのところはわからない。
それでもC1000の写真を初めて見て、頭に浮んでいたのはBeomaster6000だった。