羽二重(HUBTAE)とオーディオ(その8)
話がそれるように思われるかもしれないが、ひとつ思い出したことがあるので書いておく。
1987年に大建工業がスピーカーシステムCRAFT-α9000を出した。
それまでオーディオとは関係のなかった企業のオーディオへの参入であり、
大建工業のスタッフの方が、ステレオサウンドの試聴室にCRAFT-α9000を持ち込まれた。
音を聴き、説明を受けた。
後日、井上先生の新製品の試聴があった。
そのときにCRAFT-α9000の話になった。
どうだった? ときかれたので、話した。
そのとき井上先生がいわれたことが今も記憶に残っている。
「それは、もう木じゃないね」だった。
CRAFT-α9000は振動板にαウッドと呼ばれる新素材を採用した平面振動板による3ウェイのシステムだった。
αウッドは、中部コーン製作所と京都大学の木材研究所との共同開発で生れてきたもので、
アセチル化処理により木材の欠点を改良した、というものだった。
細かなことはインターネットで検索すれば出てくるので省略するが、
大きな特徴として水を吸いにくい(吸わない)ので腐らない、ということだった。
経年変化もわずかということだった。
自然素材である木の欠点を改良する。
いいことのように思えるけれど、そこに井上先生の一言で考えさせられた。
木の欠点をなくすことで、木の良さも失っている。
それはもう木とは呼べない、ということだった。