Archive for 7月, 2011

Date: 7月 9th, 2011
Cate: 欲する

何を欲しているのか(その13)

井上先生は、使いこなしの達人のように受けとめられている読者の方も多いことだろう。

私がまだステレオサウンドの読者だったときは、使いこなしに関しては、瀬川先生というイメージがあった。
岡先生が、たしか「ソフトウェア(使いこなし)の達人」と呼ばれていたからだ。

読者だったころの井上先生のイメージは、正直掴みにくかった。
黒田先生の書かれたものを読むと、井上先生は「鬼の耳」の持主だということはわかる。
とにかく耳がいい、ということだ。

毎年12月に出るステレオサウンドの別冊「コンポーネントステレオの世界」でも、
他の評論家の方たちとは少し違う何かがあるのは、なんとなくは感じていたものの、
あくまでもなんとなくであり、それ以上になることは、読者のままでいたらなかった、と思う。

ステレオサウンド編集部で働くようになり、
井上先生の使いこなしの目のあたり(耳のあたり、と書くべきか)にして、
そこで井上先生がやられたことを自分なりに見様見真似で最初は試して、
少しずつ身につけていったうえで、井上先生の書かれたものを読んでいくと、多くのことが得られるようになった。

井上先生はシステマティックな使いこなしの達人である。
音を聴き、ほほ即座に的確に判断をくだし、次の段階に進み、
そこでもさっと音を聴き分け、さらに次の段階へ……ということを、階段を駆け足であがっていくように、
ほぼ無駄なく、迷うことなく、音を磨きあげられる。
その様子を、初めてみる人ならば、なぜ、そんなことで音がこれだけ変るのか理解できないまま、
気がつくと、鳴らしはじめた音との違いの大きさと、そこにかかった時間の少なさに驚き、
井上マジックだ、と思われるかもしれない。

Date: 7月 9th, 2011
Cate: 瀬川冬樹

確信していること(その10)

瀬川先生は、グルンディッヒのProfessional 2500を聴かれたのは、ステレオサウンド 54号が最初ではない。
その前に、ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’80」で、予算50万円の組合せで、
このグルンディッヒのスピーカーシステムを使われている。
でも、これも最初ではなく、この記事の中にあるように、別の雑誌の企画で聴かれたのが最初である。

その雑誌とは、おそらくレコード芸術のことだろう。
このとき、レコード芸術で瀬川先生は連載で、「音と風土を探る」という記事を2年ほど続けられている。
連載のタイトルからもわかるように、この連載では毎号国別にスピーカーシステムを集めて試聴するというもので、
ドイツ製のスピーカーシステムが集められた回に、グルンディッヒが登場したのだろう。
あいにく、レコード芸術の連載は数号分しか手もとになく、ドイツのスピーカーシステムの号は未読だ。

グルンディッヒは、レコード芸術の取材では、はじめたいして期待もせずに聴いた、とある。
それでも、鳴らすうちにその素晴らしさに驚いて、今度の企画(コンポーネントステレオの世界 ’80)で、
ぜひ聴きなおしてみようと、ノミネートした、と語られている。

ということは、おそらくステレオサウンド 54号のスピーカーの特集に登場しているのも、
瀬川先生の推しがあったからなのかもしれない。

厳密には、54号のグルンディッヒは、Professional 2500で、
「コンポーネントステレオの世界 ’80」のグルンディッヒは、Professional BOX 2500となっている。
単に表記の違いだけのようにも思われるが、写真を見ると基本的には同じスピーカーシステムではあるが、
見た目の印象はずいぶん異る印象を与えるだけの違いが両者にはある。

Date: 7月 9th, 2011
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(その32)

「五味オーディオ教室」の中の一章「どんなレコードを持たないかも、コレクションである。」に、
どういう曲をコレクションに持っているかは、どんな曲を持たないかと同等の意義がある、と書かれている。

これは、どういう曲をコレクションに持たないかは、どんな曲を持っているかと同等の意義がある、
と言い変えることもできるはずだ。

世界中で発売されたレコードすべてを購入できるだけの財力があったとしても、
人が一生をかけても死ぬまでに聴くことのできるレコードには限りがある。
それに実際には、そんな財力には遠く及ばない現実の中で、仕事をして、家族のために時間を費やし、
その残った時間で音楽を聴く──。
時間も金も限りある中で、音楽を聴いていくには、何かを選択することであり、何かを選択しないことでもある。

だから、その人のコレクションには意義がある。
大金持ちがすべてをコレクションしたものとは、そこが決定的に違う。

前者のコレクションには、その人の音楽的教養が求められる。
何を選び、何を選ばないかをくり返しながら、音楽的教養は身につき磨かれていき、
コレクションにはそれがはっきりと現れてくる。

Date: 7月 9th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その10)

一度はボツにしたアイディアは、いまになってこうやって、しかも長々と書いているのは、
やっと実現可能なスピーカーユニットが登場したからである。

マンガーのBWTである。

マンガーのBWTを日本で最初に紹介したのは、ラジオ技術だった、と記憶している。
製品紹介ではなく、技術紹介の記事だった。
この記事を読んだころは、ベンディングウェーヴということについて知識がなかったため、
しばらく理解できなかった。
スピーカーの理想は、より正確なピストニックモーションという考え方にとらわれていては、
マンガーのBWTの本質的なところが、欠点にさえ思えてくる。

正直、このときは、なにか不思議なスピーカーユニットが登場したな、ぐらいの感想しか持てなかった。
それから数年、BWTが日本に登場することはなかった。

1996年、オーディオ・フィジックから、このマンガーのWBTを採用したスピーカーシステムが登場した。
Medeaである。
このMedeaは、BWTを正面にひとつ、左右にそれぞれひとつずつ、計3発使っている。
通常のコーン型のウーファーもBWTと同じように3発。

Medeaを記事で見たとき、不思議なユニットを使ったスピーカーシステムがやっと登場した、
でもすこし変った構成のスピーカーシステムとして、と思ってしまった。

だが、このスピーカーシステムに対する井上先生の評価は高い。
これは、これまでの常識はいったん捨てた上で聴いておくスピーカーシステムだ、と思い直した。
でも残念ながら、Medeaはいまだ聴く機会がない。

Date: 7月 9th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その2)

BBCモニターの開発過程における試聴プログラムソースに、
音楽だけではなくアナウンサー(主に男性)の朗読も使われていたのはよく知られていることだ。

そのこととLS3/5Aのサイズのことを一緒くたにして、
LS3/5Aというスピーカーはアナウンサーの声のチェック用モニターであって、
音楽を聴くために開発されたスピーカーではない──、
こんなことを言う人が、残念ながらいる。

KEFの創立者であるレイモンド・クックも、音楽以外にアナウンサーの声でチェックしている、と、
音楽之友社から出ている「ステレオのすべて ’75」の中で語っている。
レイモンド・クックは、BBCモニターの開発にも携わっていた人だから、
その開発手法のよいところは、そのまま受け継いでいるからだろうと思われるが、
クックは、音楽を聴いているとマスクされてしまうピーク、あるいはディップといった欠点が、
アナウンサーのスピーチでは聴きとれるからだ、としている。

「ステレオのすべて ’75」の、クックの発言は日本語訳がわかりにくいところがあるうえに、
省略されていると思われるところもある。
だから読み手側でクックの発言を深読み、というか、補うような読み方をしなければならない。

私なりの読み方では、次のようなことだと思う。
音楽がプログラムソースでは、音の強弱がある。ピアニッシモもあればフォルティッシモもあって、
大編成のオーケストラで優秀録音であればダイナミックレンジは広い。
その反対にアナウンサーのスピーチに、音楽のような、広い音の強弱はない。
クックのいうアナウンサーのスピーチは、朗読家による小説の朗読の類いではなく、
おそらくニュース原稿を読むアナウンサーのそれであろう。

それに音楽とスピーチとでは、録音に使うマイクロフォンの数とその使い方が大きく違う。
モノーラルならばスピーチの録音に使われるマイクロフォンの数は1本、
そこに凝った録音手法は使われることはない。

こういう違いのある音楽の音源と、スピーチの音源の両方を使い、
スピーカーシステムの開発を行っている、ということであって、
スピーチ用のスピーカーシステムとして作っているわけではない、ということだ。

Date: 7月 8th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その9)

だが実際に市販されているスピーカーユニットの中から、
100Hzから4kHzまでをカヴァーできるモノはなかった、といっていい。
単に周波数特性(それも振幅特性のみ)でよければ、20cm口径の良質のフルレンジであれば、
一見使えそうな気がする。

この20cm口径のユニットのバックキャビティにどれだけの容積をあたえるかによるけれども、
100Hzという値はとくに問題なくカヴァーできる。
もちろんLCネットワークでウーファーとのクロスオーヴァー周波数が100Hzとなると、
ウーファー側のローパスフィルターを構成するコイルの値が大きくなりすぎて、
実際の製作面では別の問題が浮上してくるが、これはバイアンプ駆動という方法もある。

問題となるのは高域が果して4kHzまで、良好な指向特性を確保しながらカヴァーできるかということ。
結論をいえば、せいぜい2kHzどまりが限度となる。
もし仮に4kHzまで問題なくカヴァーできるユニットがあったとしよう。
もしくは10cm口径のフルレンジユニットを複数個(たとえば4発)使用するという方法もある。

それでも、今度はトゥイーターが問題となってくる。
JBLの2405はまず使えなくなる。2405は9kHzあたりからのトゥイーターである。
パイオニアのリボン型トゥイーターのPT-R7もきつい、
テクニクスのリーフ・トゥイーターの10TH1000も4kHzからだと無理がある。
ドーム型トゥイーターであれば、4kHzあたりから使えるものもあるが、
ここでも考えのベースとなっていたのは、瀬川先生の4ウェイ構想の記事であり、
そこに書かれていた内容のスピーカーを超える可能性を持つものとして考えていただけに、
正直、ドーム型トゥイーターでは、もの足りなさ、中途半端な印象がある。

そうなると、結局、瀬川先生の4ウェイの構成に行き着いてしまう。
ふたつの40万の法則を目ざそうとすると、1970年代後半のスピーカーユニットでは無理なことだった。
だから、この考えによるスピーカーシステム構想はボツにするしかなかった。

Date: 7月 8th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その8)

JBLの4343のミッドバス(ユニットは2121)の受持ち帯域──、
言い換えればウーファー(2231A)とミッドハイ(2420)とのクロスオーヴァー周波数は、
300Hzと1.25kHzであり、ほぼ40万の法則だということは、すでに別項に書いているとおりである。

4343だけではなく、その前身の4341(4340)も使用ユニットは同じでクロスオーヴァー周波数も同じ。
JBL初の4ウェイの4350では、ミッドバスは30cm口径の2202ということもあり、
ウーファーとのクロスオーヴァー周波数は250Hzに、ミッドハイとのクロスオーヴァー周波数は1.1kHzと、
どちらも少し下り2つの積は27.5万となる。
だから4350は、ここで述べた2440のエッジの共振を含めて、4341、4343よりも鳴らし込みが格段に難しくなる、
とは言わないけれども、後継機4355のクロスオーヴァーの変更(290Hzと1.2kHzで、積は34.8万)をみると、
あながち見当はずれのことでもないような気もしてくる。

4343のミッドバスと40万の法則の関係については、かなり以前に気がついていた。
それは当時はまだ高校生になったばかりで、4343を欲しい、と思っていても、
買えるようになるのは社会人になってからだろうから、ずいぶん先のこと。
だから4343に関する記事はできるだけ目を通すようにしていたし、4343のことをできるかぎり知ろうとしていた。
買えないからこそ、自分のモノにできないからこそ、
その想いを4343に関することはすべて、手に入れるまでに知っておこう、という気持が強かった。
それと40万の法則を知った時期もほぼ同じころだったかも関係していての結果である。

このことに気づいたときから考えていたのが、ならば4343のミッドバスの帯域を、
40万の法則に従って拡大していけば、ということだった。
300Hzと1.25kHzから、200Hzと2kHz、100Hzと4kHz、というふうにできれば、
4ウェイではなく、3ウェイで、いいスピーカーシステムができ上がるかもしれない、とその頃は思っていた。

Date: 7月 8th, 2011
Cate: 「本」

オーディオの「本」(その13)

この項の(その8)に、「展く」について書いた。

iPadで、自分でつくったePUB形式の電子書籍を読むのに使っているのは、iBooks。
このソフトウェアは、本棚が画面いっぱいに表示され、そこにインストールした電子書籍の表紙が並べられている。
インストールしている電子書籍の冊数が増えていけば、本棚のイメージはスライド式書棚となっていくだろうし、
さらに増えていけば、それは本棚・書棚から書斎となっていくはず。
さらにもっともっと冊数が増えていけば、小さな図書館となっていく。

電子書籍を収める電子書棚(本棚)から電子書斎、そして電子図書館へと、iPadが展開していく。
iPadで触れられるのは、電子書籍だけではなく、電子図書館まで拡がっていく。

Date: 7月 7th, 2011
Cate: audio wednesday

第7回公開対談のお知らせ

来月の公開対談は、8月3日に行います。

昨夜の公開対談の終りに、話の流れとしてのリクエストというかたちで、
あえて、いまの時代にJBLの4343をどう鳴らすか、について話すことになりました。

発売から35年が経っている4343は、ただ古くなってしまったスピーカーシステムなのか、
そのへんのことも含めて話す予定です。

Date: 7月 7th, 2011
Cate: 「介在」

オーディオの「介在」こそ(ヘッドフォンで聴くこと・続々続余談)

「若い人にオーディオが売れない」は、この数年、耳にすることが多くなった。
どのくれい売れなくなったのか、正確なデータはおそらくないのだろうが、
オーディオに関わっている人たちに共通する印象として、
「若い人にオーディオが売れない」が広がりつつあるから、私の耳にもそのことが届いてきているのだろうか。

そういえば数年前に菅野先生から、
20代の若いオーディオマニアの方が、オーディオに関心のない友人・知人に、
「オーディオが趣味だ」ということを言えない、
そんなことを言ってしまうと、奇異な目でみられてしまうかもしれない──、
という話を聞いたことがある。

これはひとつの実例にすぎないけれど、
若い人の趣味として、関心事として、オーディオはそこに含まれていないのかもしれない。

これらのことを聞いていたから、喫茶茶会記の常連の方から聞いた、
恵比寿の店に若い人が大勢来ることと結びつかなかった。
「若い人にオーディオが売れない」のに、なぜ、この店には若い人が集まるのか。
そのことについて考えていたところに目にしたのが、大和田氏の記事だったわけだ。

機能的な理由で音楽を聴く、のであれば、
躍りたいからクラブで聴く音楽とも、ひとりで泣きたいからヘッドフォンで聴く音楽とも異り、
いい音で聴きたいから、と思ったときに、自分でいい音を出せるオーディオ機器を購入し調整して鳴らすよりも、
自分ではなかなか購入できそうにない高額なオーディオ機器で鳴らしている店に行き聴くことが、
機能的な音楽の聴き方、といえなくもない。

Date: 7月 7th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その7)

2ウェイのスピーカーシステムで、仮に20Hzから20kHzまでをほぼフラットにカヴァーしていれば、
ひとつめの総合特性としての周波数特性においては、40万の法則どうりに仕上がっている。

この2ウェイのスピーカーシステムのクロスオーバー周波数が1kHzだとしよう。
ウーファーの受持ち帯域は20Hzから1kHz、トゥイーターの受持ち帯域は1kHzから20kHz。
それれのユニットの下限と上限の積は、ウーファーが2万、トゥイーターは2000万となり、
40万という値からは大きくズレてしまう。

2ウェイでは、クロスオーバー周波数をどこにもってきても、
ふたつのポイントにおける40万の法則は成り立たない。あくまでもトータルでの周波数特性のみである。

3ウェイでは、(その6)に書いたようにクレデンザ+555の組合せをスコーカーに持ってくれば、
2つの40万の法則が成りたつ。とはいうものの、スコーカーにもってくるユニットの受持ち帯域次第である。

クレデンザ+555は100Hzから4kHzと、5オクターヴをすこしこえる帯域幅をもつ。
ここではカヴァーできるスコーカーは、実際のところはほとんどない。
もしうすこしウーファーのスコーカーのクロスオーバー周波数をあげて200Hzとすると、
スコーカーの上限は2kHzとなるが、市販された3ウェイのスピーカーシステムのクロスオーバー周波数が、
200Hzと2kHzに設定されているものは、私は見たことがない。

ではウーファーとスコーカーのクロスオーバー周波数を300Hzにしたら、
トゥイーターとスコーカーのクロスオーバー周波数は約1.3kHzとなる。
300Hzと1.3kHzのクロスオーバー周波数となると、
JBLの4300シリーズの4ウェイのスタジオモニターのミッドバスの受持ち帯域が、ほぼ合致する。

4ウェイにおいて、やっとふたつの40万の法則が成りたつことになる。

Date: 7月 7th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その5・追補)

友人のOさんからのメールに、
知合いの方がクレデンザ+555のステレオ再生を実践されていた、と書いてあった。

ただその方はボストン在住なので、Oさんもクレデンザ+555によるステレオの音を聴く機会はまだない、とのこと。

とにかくひとりおられたということは、他にも実践されている方は、
日本のどこかにおられても不思議ではない、と思う。

Date: 7月 6th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その6)

クレデンザと555を組み合わせてのステレオ再生を、仮に実現できたとしよう。
その音を聴けたら、すぐに次の段階に移る準備をはじめたくなるだろう。

モノーラルであればクレデンザと555の組合せの音だけでも満足して、そのまま聴いているだろうが、
ステレオとなると、どうしてもクレデンザ+555を核として、ウーファーとトゥイーターをもってきたくなる。

そんてことは邪道だといわれようが、クレデンザを2台用意して、ということを考えた時点で、
そんなことはわかっている。それでも一度は、どんな音がするのか、聴いてみたい欲求がある。

おそらくクレデンザ+555の組合せがカヴァーできる帯域は、100Hzから4kHzだろう。
仮にもう少し帯域が広かったとしても、この100Hzから4kHzのあいだで使いたい。
それは、この帯域が40万の法則になっているからである。

40万の法則からスピーカーを考える際、
スピーカーシステムとしての周波数特性、エネルギーバランスが40万の法則になっていればいい、とするのか、
それとも現時点ではスピーカーシステムはマルチウェイにするしかない、
いくつかのスピーカーユニットを使うことになるわけだが、そのうちのひとつが40万の法則に則っていること、
このふたつの40万の法則を満たすことができないか、と思う。

クレデンザ+555の組合せを核として、ウーファーとトゥイーターを加え、
低域を30Hzあたりまで延ばせたとしたら、高域は40万を30で割った13.33kHzまで延ばす。

つまりただワイドレンジを目指すのではなく、
つねにふたつのポイントにおいて40万の法則を意識してレンジを延ばしていく、ということだ。

Date: 7月 5th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その5)

おそらくクレデンザは一台一台職人の手による完全な手作業によるモノだろうから、
作られた時期が違えば、多少の違いは仕方ないだろう。
できるだけ同じ時期に作られたもので、程度のいいモノを2台探し出して、
さらにウェスターン・エレクトリックの555も、程度のいいモノを2つ……となると、
いったいどれだけの予算を必要とするのか。

個人で、こんなことをやっておられる方は、きっといないはず、ではなくて、
どこかにおられるはず、だと思う。
一度でもクレデンザと555の組合せの音を聴いたことがある人で、
つまりその人は、そういう音に興味を持っている人であろうから、聴けば惹かれる、と思う。

以前、朝日新聞社が発行していた「世界のステレオ」の1号のカラーページに、
野口晴哉氏のリスニングルームが6ページにわたり紹介されている。

当時、この記事を見たとき、そこに紹介されているオーディオ機器の多くは、まだ知らないものばかりだった。
1976年の冬のことで、オーディオに関心をもってまだ数ヵ月、しかもこの本はこづかいが足りなくて買えなかった。
世の中には、すごい人がいるものだ、とただ驚いていた。

いま野口氏のコレクションを見ても、凄いと思う。
これだけのモノを、あの時代、よく集められたものだ、と思ってしまう。
予算がどれだけ潤沢にあっても、ただそれだけでは、あの時代、これらのモノのいくつかは入手し難かったはず。

野口氏のような御仁は、まだ他にもおられるはず。
そういう方の中に、きっとクレデンザ+555でステレオを楽しまれている方がおられても不思議ではない。
むしろひとりもいない、というほうが、私には不思議に感じられる。

Date: 7月 5th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その10)

たとえばレコード店に寄った際に、未知の演奏者のディスクが目にとまる。
その演奏者のことはまったくなにひとつ知らない。でも何か惹かれるものを感じて買って買える。
封を切りプレーヤーにセットして鳴らす。

レコードをこれまで聴いてきた時間が永ければ、買ってきたディスクについてなにも知らなくても、
なんとなく予想はできる、期待もする。
鳴ってきた音楽を、予想通りととらえるか期待通りととらえるか、は、
鳴ってきた音楽によって変ってくる。

新しい音楽を聴く喜びが、そのディスクに収められた音楽にあれば期待通り、であるし、
そうでなければ予想通り、ということになるだろう。

ときには、こちらの期待を大きく上廻る喜びを与えてくれるディスクと出合える。
そういうとき、音楽好きの多くの人は、誰かにそのことを、そのディスクのことを、
そのディスクに収められている音楽のことを、その音楽が与えてくれた喜びを、伝えたくなる。
誰でもいいというわけにはいかない。

そういうディスクと出合えたときには、そのディスクの存在を誰かに伝えたいと思ったときには、
ほぼ当時に、この人に伝えたい、と、誰かの顔が浮ぶはずだ。

昔だったら電話をする。いまだったら、仕事を邪魔をしてはいけないと思い、メールで伝えるかもしれない。
伝える内容は、ことこまかにそのディスクに収められている音楽について書く必要はない。
演奏者の名前とレーベル、それにディスク番号──、
つまり同じディスクを買うために必要なことだけを伝えれば、それを受けとった友人は、きちんと理解してくれる。

これこそが「情報」だと思う。