オーディオと「ネットワーク」(編集について・その10)
たとえばレコード店に寄った際に、未知の演奏者のディスクが目にとまる。
その演奏者のことはまったくなにひとつ知らない。でも何か惹かれるものを感じて買って買える。
封を切りプレーヤーにセットして鳴らす。
レコードをこれまで聴いてきた時間が永ければ、買ってきたディスクについてなにも知らなくても、
なんとなく予想はできる、期待もする。
鳴ってきた音楽を、予想通りととらえるか期待通りととらえるか、は、
鳴ってきた音楽によって変ってくる。
新しい音楽を聴く喜びが、そのディスクに収められた音楽にあれば期待通り、であるし、
そうでなければ予想通り、ということになるだろう。
ときには、こちらの期待を大きく上廻る喜びを与えてくれるディスクと出合える。
そういうとき、音楽好きの多くの人は、誰かにそのことを、そのディスクのことを、
そのディスクに収められている音楽のことを、その音楽が与えてくれた喜びを、伝えたくなる。
誰でもいいというわけにはいかない。
そういうディスクと出合えたときには、そのディスクの存在を誰かに伝えたいと思ったときには、
ほぼ当時に、この人に伝えたい、と、誰かの顔が浮ぶはずだ。
昔だったら電話をする。いまだったら、仕事を邪魔をしてはいけないと思い、メールで伝えるかもしれない。
伝える内容は、ことこまかにそのディスクに収められている音楽について書く必要はない。
演奏者の名前とレーベル、それにディスク番号──、
つまり同じディスクを買うために必要なことだけを伝えれば、それを受けとった友人は、きちんと理解してくれる。
これこそが「情報」だと思う。