BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その2)
BBCモニターの開発過程における試聴プログラムソースに、
音楽だけではなくアナウンサー(主に男性)の朗読も使われていたのはよく知られていることだ。
そのこととLS3/5Aのサイズのことを一緒くたにして、
LS3/5Aというスピーカーはアナウンサーの声のチェック用モニターであって、
音楽を聴くために開発されたスピーカーではない──、
こんなことを言う人が、残念ながらいる。
KEFの創立者であるレイモンド・クックも、音楽以外にアナウンサーの声でチェックしている、と、
音楽之友社から出ている「ステレオのすべて ’75」の中で語っている。
レイモンド・クックは、BBCモニターの開発にも携わっていた人だから、
その開発手法のよいところは、そのまま受け継いでいるからだろうと思われるが、
クックは、音楽を聴いているとマスクされてしまうピーク、あるいはディップといった欠点が、
アナウンサーのスピーチでは聴きとれるからだ、としている。
「ステレオのすべて ’75」の、クックの発言は日本語訳がわかりにくいところがあるうえに、
省略されていると思われるところもある。
だから読み手側でクックの発言を深読み、というか、補うような読み方をしなければならない。
私なりの読み方では、次のようなことだと思う。
音楽がプログラムソースでは、音の強弱がある。ピアニッシモもあればフォルティッシモもあって、
大編成のオーケストラで優秀録音であればダイナミックレンジは広い。
その反対にアナウンサーのスピーチに、音楽のような、広い音の強弱はない。
クックのいうアナウンサーのスピーチは、朗読家による小説の朗読の類いではなく、
おそらくニュース原稿を読むアナウンサーのそれであろう。
それに音楽とスピーチとでは、録音に使うマイクロフォンの数とその使い方が大きく違う。
モノーラルならばスピーチの録音に使われるマイクロフォンの数は1本、
そこに凝った録音手法は使われることはない。
こういう違いのある音楽の音源と、スピーチの音源の両方を使い、
スピーカーシステムの開発を行っている、ということであって、
スピーチ用のスピーカーシステムとして作っているわけではない、ということだ。