Archive for category テーマ

Date: 9月 17th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その3)

金と振動の関係について、実際に耳で確かめられるのにSMEのトーンアームがあった。
3012-R Specialが好評だったため、SMEは3010-R、3009-Rを続けて出し、
さらに金メッキを施した3012-R Goldと3010-R Goldも続けて出した。

このGold仕様の製品が出ることは、製品が届く前から伝わっていた。
金メッキ? と私だけでなくほとんどの人が思っていた。

そんなとき、長島先生(だったと記憶している)が、
「金メッキといっても、日本と向うとではずいぶん違うから、想像しているような金メッキではないはず」
そんなことをいわれた。

実物はまさにそうだった。
イメージしていた金メッキのいやらしさは感じなかった。

3012-R Specialは持っていた。
欲しい気持はなかったといえばウソになる。でもあの時36万円だったはず。
手は出なかった。

この3012-R Goldは、オルトフォンのSPU Goldとペアで、Sound Connoisseurの表紙を飾っている。
この3012-R Goldは金メッキ以外は、どこも変更点はなかったはずだ。
だから通常の3012-R Specialと聴き比べれば、金の振動に対する効果が耳で確認できる。

まだハタチになる前だった、あのころは、良さは感じられても、無理としてまでも……、とは思わなかったが、
いま聴いてしまったら、どうなるかは、なんともいえない。
そういう、金ならではの魅力はあった。

Date: 9月 17th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その2)

接点に使用した時の、それぞれの金属素材の特質を考えると、
AC電源関係の接点に金メッキをする意味は、いったいなんだろう、といいたくなる。

金メッキがされていると、それだけて高級そうに見える。
見えるから、それでいい、と満足できる人ならば金メッキのモノを購入すればいい。
だが現実にAC電源関係の接点に流れる電流値がどのくらいか計算すれば、
金メッキが、この部分にいかに不向きな接点材料であるからがわかる。

電気的にはそうなのだが、機械的に見た場合、
金はやわらかくひじょうに薄く伸ばせる素材であることはよく知られている。
金メッキを施すか施さないかで、その部分の振動モードは変化している、とはいえる。
そういうダンプ効果は認められるけれど、接点材料としてはどうか、ともう一度考えてほしいところだ。

金の振動を抑えることに関しては、以前、井上先生から興味深い話をきいている。
あるメーカーがシャーシーの試作を行った際に、
鉄ベースに銅下メッキをして、そのうえに金メッキをしたものと通常シャーシーとの比較試聴をされた話だった。

アンプの中身はまったく同じ。異るのはシャーシーの材質と処理。
これが驚くほどの音の差であり、鉄・銅・金のシャーシーの音の良さはほんとうによくて、
いまでも忘れられない、といったふうに話された。

しかもこの話は井上先生から何度もきいている。
それだけ井上先生の中に印象に残っている音だということでもある。

ただこのシャーシーは銅下メッキを施しているから、銅が金を吸収してしまうため、
かなりの量の金を使うことになり、コスト的に不採算で結局は市販品に採用されることはなかった。

Date: 9月 17th, 2014
Cate: 素材

オーディオと金(その1)

オーディオと金、といっても、金は(かね)ではなく、素材の金(gold)である。

オーディオ機器に金が採用されることになったのは、
RCAコネクターの金メッキが早かった。
それまでニッケルメッキだったRCAプラグとジャックが、一挙に金色になっていたのを憶えている。
ちょうど私がオーディオに興味を餅始めた時期とだいたいそれは重なっている。

この金メッキの流行りは日本から起っている。
当時の海外製のアンプは本国ではニッケルメッキなのに、
日本に輸入される製品は金メッキ仕様になっているモノもあった。
たとえばRFエンタープライゼスが輸入していたAGIのコントロールアンプ511もそうだった。

正規輸入品と並行輸入品はフロントパネルの色も違っていたが、
RCAジャックの色も違っていたのである。

なぜ金だったのか。
当時講読していた無線と実験に、興味深い記事(見開き2ページだった)が載った。
接点材料としての流せる電流値が表にまとめられていた。

なにかの専門書からの引用であったようだが、
確かに金は微小電流の流れる部分への使用は納得できる値が、その表にはあった。
30数年前のことだから値まではもう憶えいないが、
金は微小電流向きであり、銀は大電流向き、銅はその中間、
微小電流から大電流まで、という理想的な接点材料は水銀だった。

ことわっておくが、これは線材としての電流値ではなく、あくまでも接点材料としての値である。

Date: 9月 16th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その12)

ステレオサウンド、無線と実験、ラジオ技術を読みながら、初歩のラジオも講読していた時期がある。
初歩のラジオも、そのころはDCアンプの製作記事も載っていたし、真空管アンプの記事もあった。
そして初歩のラジオには、実体配線図が三つ折りで毎号ついていた。

この実体配線図は,いわば塗り絵であった。
読んでいたのは中学二年の時。
真空管アンプを製作しようにも、そんな予算(小遣い)はない。
作る予定などまったくないアンプの実体配線図のワイアリングを、色鉛筆で一本一本塗りわけていた。

お金がないから、こんなことをやっていた。
でも、そのおかげというか、伊藤先生のアンプに出合ってから、
今度は伊藤アンプの実体配線図を自分で描いた。

無線と実験の古い記事は写真が不鮮明でしかも小さすぎるから無理だったが、
サウンドボーイではカラー写真が載っていたし、
無線と実験もあとになってから、写真も鮮明になり、サイズも大きくなった。
実体配線図が描きやすくなった。

写真ではっきりと確認できなくとも、
真空管アンプは回路図と真空管の規格表があれば、どのフックアップワイアーがどこに接続されているのかは、
容易に判断できるし、回路図も必然的に頭にはいってくる。

掲載されているアンプの内部写真とまったく同じに絵によるワイアーをはわせていく。
描き終ったら、中学二年の時のように色鉛筆で塗っていく。

お金はほとんど必要としない。
やろうと思えば、ほとんどの人にできることだ。
これをやっていた。

Date: 9月 16th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その11)

何度も書いているように、私にとって真空管アンプとは伊藤先生のアンプが判断の根本にある。
プリント基板に頼らない手配線が必ずしもいい、とはいわない。

無線と実験、ラジオ技術になどに発表されている真空管アンプの製作記事を読むと、
なんともいえない気持になることもある。

高価で珍しい真空管を使っている。
内部の部品もそこそこのものを使っている。
けれど、絶望的にワイアリングが拙いアンプが、ときどきある。

真空管アンプを作りはじめたばかりの人の制作例ではなく、
その雑誌に長いこと記事を書いている人のアンプの内部がそうであると、
正直「またか……」と思ってしまう。

この人は、これまでにどれだけの数の真空管アンプを作ってきたのだろうか。
どうしても、そう思ってしまう。

数をこなせば上達するわけではない──、
まさしく、その見本となっている。

ただ漫然とアンプを、数だけ作っていたのでは悪い手癖が身についてしまうだけである。
それは身についてしまうと、残念なことに抜け難い。

そうなる前に気づくべきことに気づかずに、作ってきた人なのだろう。
伊藤先生とは対極にある真空管アンプである。

Date: 9月 15th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その10)

とにかく知人から、早く作ってほしい、とせかされていた。
だから知人と一緒に秋葉原に行き必要な部品を買い、そのまま知人宅に行き組み立てることになった。

部品点数も少ないから、それで困るわけではない。
回路図は頭にはいっている。
そんなに複雑な回路でもない。

あとは部品を眺めて大きさを把握して、おおよその位置にラグ板を配置していく。
そして部品を取り付け、フックアップワイアーで、
それぞれのラグ板、入出力端子、アッテネーターなどを接続していく。

ここの枝ぶりは、伊藤先生の流儀で、すこしの余裕の持たせてやっていく。
20年以上の前のことだから、製作時間がどのくらいかかったのかは正確に憶えていないが、
夜には完成した、このパッシヴのネットワークを使ってマルチアンプのシステムから音が出た。

後日、このパッシヴのネットワークの内部を、知人が井上先生に見せたらしい。
「よく出来ているじゃないか、いまメーカーのエンジニアでも、こういう配線ができる人はほとんどいない」
ということだった。

意外だった。
だからといって、私がメーカーのエンジニアよりも優れているというわけではない。
私はプリント基板、それも高周波を扱うものは無理である。
メーカーのエンジニアは、そこはプロである(はずだ)。

得手不得手が違う、という話なのだが、
それでも1990年くらいで、
すでにメーカーにフックアップワイアーによる配線をまともに出来る人がほとんどいない、という事実は、
アメリカ、ヨーロッパのガレージメーカーに求めるのも無理な話だと思わせた。

Date: 9月 15th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その9)

プリント基板でなければ成り立たない機器があるのはわかっている。
けれど部品点数が、半導体アンプにくらべて少ない真空管アンプでは、
しかも部品そのものもそれほど小さくない、ということも考え合わせれば、
なぜプリント基板を使うのだろう……、と疑問に感じる。

市販品の真空管アンプの中には、プリント基板に真空管のソケットを取り付けているものも少なくない。
そういうアンプにかぎって、プリント基板の固定もさほど考慮されていない。

以前のアメリカ製の真空管式のコントロールアンプに多く見受けられたのは、
フレキシブルな、といえるプリント基板にソケットをとりつけて、
この基板をゴムで、いちおうフローティングしている。

こういうつくりの真空管アンプを見ると、残念に思う。
しかも昔のアンプとは異り、トーンコントロールやその他の機能も持たないから、
内部の配線はずっと簡略化されているのだから、
もう少し気を使ってワイアリングをやってくれたら、どんなにいいアンプになっただろうか……、と思うからだ。

以前、知人に頼まれてパッシヴのクロスオーバーネットワークを作ったことがある。
ようするにコンデンサーと抵抗とアッテネーターといった受動素子だけによる、
減衰量-6dBのチャンネルデヴァイダーである。

市販のシャーシーにラグ板をいくつか取り付けて、部品、フックアップワイアーをハンダ付けしていく。
プリント基板は使わなかった。

ラグ板の端子にはそれぞれの部品のリード線が接触するようにからげてハンダ付け。
あくまでもラグ板は部品の固定のためである。

Date: 9月 14th, 2014
Cate: ジャーナリズム

Mac Peopleの休刊(その1)

漢字Talk7が出る一年ほど前からMacを使っている。
私にとって最初のMacはClassic II。OSは漢字Talk6だった。

これより少し前からMac関係の雑誌を読みはじめた。
1991年ごろからだろうか。
当時はMAC POWER、Mac Life、Mac World、Mac Japanがすでにあった。
すべて買っていた。
それから数年後、Mac User、日経Mac、Mac Fanなどが続いた。

MAC POWERの姉妹誌としてMac People、Mac Japanの姉妹誌としてBrosとActiveが出た。
これらすべてを買って読んでいた時期もある。

このころだったと記憶しているが、コンビニエンスストアにMAC POWERが売られていたこともある。

そのころよりもMacを含めてAppleの製品は売れている。
けれどMac関係の雑誌は、Mac PeopleとMac fanの二誌だけに減ってしまった。

20年の変化を読者としてみてきた。

今月末発売の号でMac Peopleが休刊になる。
Mac fanだけになる。

Mac PeopleはMAC POWERが休刊になってから、
いつのまにか誌面をリニューアルしてMAC POWERのようになっていた。
MAC POWERは、Mac関係の雑誌の中で、もっとも長く買いつづけていた。
だからといって、MAC POWERのようになったMac Peopleを買うことはなかった。

Design Talkがないからだった。

Date: 9月 14th, 2014
Cate: 測定

耳はふたつある(その1)

1977年ごろ、ポータブル型のスペクトラムアナライザーのIvieが登場し話題になった。
価格は100万円をこえていたように記憶している。

いま当時のIvieの製品のスペックをみれば、貧弱といえるが、当時はそうでもはなかった。
だから岡先生は購入された。

このころオーディオマニアが自分のリスニングルームの音響特性を測定することは、
まず機材を揃えることが大変だった。
いまはもう違う。
特性が保証されているマイクロフォンがあれば、
以前とは比較にならないほど誰でもできるように思えるくらいになっている。

とはいえ実際にやってみると、マイクロフォンを立てる位置をどうするのか。
これが意外と難しい。
聴取位置に立てればいいじゃないか、と思うだろうが、
実際に聴取位置で測定した結果と聴感とは必ずしも一致しないことがある。

それにマイクロフォンの位置をわずか動かしただけでも測定結果は変ってくる。
聴取位置(頭)をほんのわずか動いても、測定結果ほどの音の違いは生じないにも関わらずだ。

なぜなのか。
答は耳はふたつあるからだ。
左右に、10数cm以上離れて耳はある。

音響測定に使うマイクロフォンは一本である。

Date: 9月 14th, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その3)

ステレオサウンド 54号でTDKのMA-Rをセットした広告を出したパイオニアは、
57号では自社ブランドのカセットテープを発売していたこともあって、MA-Rではなくなっている。

54号と57号でのCT-A1の広告で使われている写真はまたく同じアングルによるもので、
違いはCT-A1にセットされているカセットテープの違いだけ。
しかもCT-A1は、通常のカセットデッキとは違い、カセットテープをユーザーが直に装着するようになっている。

パイオニアがフルオープンローディング方式と呼ぶ、この機構にはだから開閉ボタンがない。
垂直にカセットテープを装着するデッキでは、カセットテープの収納ケースの同じようになっている。
開閉ボタン押せば、フタが開く。下部を支点にして上部が開くから斜めにカセットテープを挿入する。
そしてこのフタを閉じればいい。

このフタがあることで通常のカセットデッキでは、
装着しているカセットテープの全面が見えるわけではない。
多少なりともカセットテープの一部が隠れてしまう。

CT-A1では、そんなフタが存在しないから、カセットテープを視覚的に隠すものは存在しない。
こういうカセットデッキはCT-A1と同じパイオニアのCT710、CT910、ダイヤトーンのM-T01ぐらいか。

そういうカセットデッキであるCT-A1だから、ステレオサウンド 54号と57号の広告の写真を比較すると、
カセットテープのデザインの重要性をはっきりと見る者に意識させる。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その4)

パイオニアから七月にアナログプレーヤーが発表になった。
PLX1000だ。

誰が見ても、テクニクスのSL1200だ。
ブランドと型番の表示を隠してしまえば、誰もがSL1200と思うことだろう。

SL1200はMK6で製造が終了した。
現行製品ではないから、とはいうものの、オーディオ専業メーカーとしてスタートしたパイオニアが、
こういう製品を恥ずかしげもなく出してしまうが意外だったが、
何かの記事で、ユーザーインターフェイスを変えないため、あえてこういうデザインにした、とあった。

テクニクスのSL1200は、オーディオマニアにはそれほど話題になった機種ではなかった。
最初のSL1200が登場し、MK2の登場までの間、一時的に製造中止になっていた、と記憶している。
ステレオサウンドでも、ほとんど取り上げられていない。
ベストバイでも、最初のころはSL1200は登場していなかった。

そのSL1200が、ディスクジョッキーのあいだで評価が高い、ということを聞くようになったのはいつごろだったか。
ほとんど憶えていない。SL1200がねぇ……、というふうに思ったことだけは憶えている。

結局、そのSL1200がテクニクスのアナログプレーヤーとして最後まで製造されていた。
そんなこともあってSL1200を名器として紹介する記事もある。

私は個人的にSL1200が名器とは思わない。
SL1200はディスクジョッキーにとっての標準原器であったと思っている。
そう考えれば、パイオニアがPLX1000においてSL1200の操作性と同じにしたことは、理解できないわけではない。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その2)

カセットテープ、カセットデッキの最盛期は、メタルテープが登場し、
いくつかのメーカーからドルビー以外のノイズリダクションが搭載されるようになった1980年あたりだろう。

このころ各社からカセットテープが発売されていた。
1980年版のHI-FI STEREO GUIDEには、アイワ、アカイ、オーレックス、クラリオン、デンオン、ダイヤトーン、
フジフイルム、ジュエルトーン、Lo-D、ラックス、マクセル、ナガオカ、ナカミチ、オットー、サンヨー、シャープ、
ソニー、TDK、テクニクス、ビクター、アンペックス、BASF、フィリップス、スコッチのブランドが並んでいる。

いくつかのブランドはOEMであるが、これらのブランドが数種類のカセットテープを発売していたし、
カセットデッキを製造しているブランドもある。

そういったブランドは、当然だが、自社のカセットデッキの広告、カタログには、
同じブランドのカセットテープを使う。

カセットデッキの広告、カタログに掲載されている製品写真は、
多くがカセットテープがセットされているものである。
同ブランドのカセットテープがあるのに、
他社製のカセットテープをセットして広告に使うことは、それまでなかった。

TDKのMA-Rの広告がステレオサウンドに掲載されたのが51号、
九ヵ月後の54号のパイオニアとアイワの広告の写真には、MA-Rがセットされたカセットデッキがある。
パイオニアがCT-A1、アイワはAD-F55Mである。

パイオニアは1981年ごろから自社ブランドのカセットテープを発売し始めるから、
54号(1980年春)の時点では他社製のカセットテープを使うのもわかる。
けれどアイワはメタルテープの発売は1981年ごろからだから、
54号の広告時点では自社ブランドのメタルテープを持たなかったとはいえ、他社製のテープを使っている。
それもひと目でTDKのMA-Rとわかるカセットテープを使っている。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その1)

ステレオサウンド 51号に東京電気化学工業の広告が載っている。
東京電気化学工業のブランドはTDKで、同社初のメタルテープ、MA-Rの広告だった。

MA-Rの広告を初めて見たのは51号だったのか、
そのころはFM誌も他のオーディオ雑誌(月刊)も買っていたから、ステレオサウンドではなかったかもしれない。

とにかくMA-Rの広告に載っていた写真を見て、どきっ、としたことはいまでもはっきりと憶えている。

トランスルーセントに、亜鉛ダイキャストのハーフ。
それまで見慣れていたカセットテープの印象とはまったく違っていた。
クリアーだった。

メタルテープの登場は少し前からオーディオ雑誌でも話題になっていた。
カセットテープの枠をさらに拡げただけでなく、
おそらくメタルテープの登場がエルカセットにとどめをさしたともいえる。

TDKはメタルテープの発売にあたって、まずMA-Rを、それからMA(通常のプラスチック製ハーフ)を出した。
他のメーカーであれば、逆だっただろう。
まずMAを出して、その上位版としてMA-Rを華々しく登場させる。

だがTDKは違っていた。
だからこそMA-Rは、いまでもその登場が印象に残っている。
こんなカセットテープはTDKのADくらいである。

Date: 9月 12th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その3)

復活した現在のテクニクスではなく、以前のテクニクスはどんなオーディオメーカーだったのか。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号で、菅野先生は書かれている。
     *
 こうしたブランド名としての成功とともに、テクニクスに対して見のがすことのできないのは、テクニクスがオーディオ技術の進展に真剣に取り組んで、この世界をリードしてきたということだ。テクニクスというメーカーがなければ、オーディオ技術の進展はもっと遅いものだったかもしれない。それだけにテクニクスは技術色の強いメーカーだし、自他ともに、技術集団であることを認めている。
 こうした環境のなかで生まれるテクニクス製品は、その結果、出た音が良いとか悪いとかといった感覚的な、芸術的な領域には、触れようとしていないのが大きな特徴だ。これは私のオーディオ観からすれば、少々異論をとなえたいところでもある。オーディオという人間の感性を満足させるものにあっては、技術はその手段であり、その目的を見ないで手段だけを追求するのは、中途半端であり片手落ちでもあると思う。しかし、これはあくまでも私の持論であって、テクニクスのとり続けてきた姿勢は、メーカーとして立派に評価できるものだと思う。手段を生半可にしたまま、あいまいに感覚や芸術の領域に首を突っ込んで、いいかげんな技術で製品を作る、虚勢をはったメーカーと比較すれば、テクニクスはオーディオメーカーとして非常に高い水準をもっているといえよう。
     *
この文章をはじめて読んだ時、確かにテクニクスはそういうメーカーかもしれない、と思った。
テクニクス号は1978年に出ている。
その前に、私はステレオサウンド 43号を読んでいた。43号は1977年6月に出ている。

ベストバイの特集号で、テクニクスのMM型カートリッジEPC100Cが選ばれている。
このカートリッジに対する菅野先生の文章も、またテクニクスというメーカーをよく表している、といえる。
これを読んでいたから、テクニクス号、読む人によっては少々意外に思える内容かもしれないが、
すんなりと受け入れることが出来た。

43号のEPC100Cについての文章だ。
     *
 技術的に攻め抜いた製品でその作りの緻密さも恐ろしく手がこんでいる。HPFのヨーク一つの加工を見ても超精密加工の極みといってよい。音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが、ここまでくると、両者の一致点らしきものが見え、従来のテクニクスのカートリッジより音楽の生命感がある。
     *
ここに、「音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが」とある。

SP10は名器ではなく原器としての存在だということに気づいた後に、菅野先生の文章を読めば、
すでにテクニクスがそういうメーカーであることが書かれていることに気づく。

Date: 9月 12th, 2014
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その2)

State of the Artの意味については、別項「賞からの離脱」で触れている。
日本語にするのが難しい。
いまだ端的な日本語に置き換えることはできないでいる。

State of the Art──、
artがつくから、State of the Art賞に選ばれたオーディオ機器はすべて名器といえるのか、となると、
これも即答するのが難しい。

State of the Art賞が始まったステレオサウンド 49号を読むかぎり、
State of the Art賞に選ばれたオーディオ機器すべてが名器ということではない、というのは伝わってくる。

結局、テクニクスのSP10MK2が選ばれたのは、State of the Art賞だったから、ともいえよう。
誰もが、その性能の高さは認めている。
単体のターンテーブルとして、SP10MK2の性能は、標準原器と呼ばれるにふさわしいレベルであった。

ようするにSP10MK2がState of the Art賞に選ばれたのは、標準原器であったからではないのか。
名器ではなく、原器としてのSP10MK2に、State of the Art賞が与えられた、ともいえる。

原器とは、測定の基準として用いる標準器で,基本単位の大きさを具体的に表すもの、
同種類の物の標準として作られた基本的な器、と辞書には書いてある。

SP10はターンテーブルである。
ターンテーブルは正確な回転の実現が求められるオーディオ機器である。
アンプやスピーカー、他のオーディオ機器よりも、原器としての機器のあり方がはっきりとしている、ともいえる。