Archive for category テーマ

Date: 6月 2nd, 2022
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その74)

オーディオに興味をもち、スピーカーの原理を知ったばかりのころ、
いまから四十数年前のことになるが、
正直なところ、振動板のピストニックモーション(前後運動)だけで、
音楽が再現できるとは、すぐには信じられなかった、というか理解もできていなかった。

たとえば1kHzのサインウェーヴであれば、
確かにピストニックモーションでも再生(再現)できるのはすぐに理解できる。
サインウェーヴが二波になったら、どうなるのか。

たとえば1kHzと100Hzである。
再生するスピーカーシステムが2ウェイで、
100Hzはウーファーが受け持ち、1kHzはトゥイーターが受け持つというのならば、
これも理解できる。

けれどフルレンジだったら、どうなるのか。
もちろん理屈としてはわかっていても、直観的に理解できていたわけではなかった。

ましてスピーカーから聴く(鳴らす)のは、音楽である。
一つの楽器のこともあれば、複数の楽器の音が、そこ(スピーカー)から鳴ってくる。

それをスピーカーは、基本的には振動板の前後運動だけで再現しようとしている。
しかもスピーカーの振動板は紙や絹であったり、アルミニュウムやチタンだったりする。

楽器に使われている素材とはそうとうに違う素材が使われていて、
しかも一つのユニットから、複数の楽器の音が出てくる。

なのに、それらの楽器の音が聴きわけられる。
理屈としてはわかっていても、考えれば考えるほど不思議な感じは、
いまも残っている。

と同時に考えるのは、アクースティックの蓄音器のことである。
ここにはピストニックモーションは、一つもないからだ。

Date: 6月 1st, 2022
Cate: 電源

ACアダプターという電源(GaN採用のアダプター・その3)

バッテリーは化学反応によって電気を起している。
それが直流であるから、連続した化学反応が起っていると捉えがちだが、
ほんとうにバッテリー内での化学反応は、一つの化学反応が連続しているのだろうか。

実際のところは、無数に近い一瞬一瞬の化学反応が起っているために、
一つの連続した長い時間の化学反応と捉えているだけではないのだろうか。

電子の移動によって電気が起るのだから、
電子の数だけの化学反応が起っていると捉えれば、
スイッチング電源の動作周波数が高くなっていくほどに、
バッテリー内の化学反応の状態に近くなっていくのではないだろうか。

実際のところ、動作周波数がどれだけ高くなれば、そういえるのかはよくわかっていない。
少なくとも20kHzとか50kHzではないだろう。
もっと高い周波数、私はなんの根拠もなしに1MHzあたりを超えたあたりから、
そういえるようになるのではないか──、
そんなふうにスイッチング電源について、ある程度の知識を得たころから、
そう考えるようになっていた。

GaN採用のACアダプター(スイッチング電源)は、1MHzくらいの動作周波数のようだ。
もっと動作周波数は高くなっていくのかもしれない。
2MHz、5MHz、そして10MHzとなっていったとしよう。

どこかにさらに大きく音が変るポイントがあるような気がする。

GaN採用のACアダプターが、理想の電源というつもりはないが、
かなり可能性を感じているし、
リニア電源が必ずしもスイッチング電源よりも優れているとも考えていない。

優れたリニア電源もあるし、優れたスイッチング電源もある。
これからスイッチング電源は、さらに優れたモノが出てくる可能性がある。

Date: 5月 31st, 2022
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その73)

まったくの仮説である。
科学的根拠が少しでもある、というわけでもない。

ただそれでも、これまでいろんなスピーカーを聴いてきて感じているのは、
ピストニックモーションを追求していけばいくほど、
血の通った音と感じられる音からは遠くなっていく──、
そういう仮説である。

分割共振を完全に排除して、
完全なピストニックモーションの実現を目指す。
そして同時にピストニックモーションしている振動板以外からの輻射も一切排除する。

科学技術の産物としてスピーカーシステムを捉えるのならば、
この方向が間違っているとは思わない。

けれど、そうやって開発されたスピーカーの音を、
血の通った、というふうに感じられない。
まったくないとはいわないけれど、
そういうスピーカーの理想により近づいていると思われるスピーカーの音は、
私の耳には、血の通った、という感じが稀薄になってきているように聴こえる。

これはもしかすると不気味の谷と呼ばれることなのだろうか。
もっともっと完全なピストニックモーションの実現、
それが可能になれば、不気味の谷をこえて、血の通った音と感じられるのかもしれない。

そう思うところはあるももの、ピストニックモーションの追求と実現では、
音に血が通うことはない──、
このことのほうが私の中では大きいままである。

Date: 5月 30th, 2022
Cate: トランス, フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(パワーアンプは真空管で・その19)

初めて直列型ネットワークで音出ししたとき、
バイワイヤリングのスピーカーをシングルワイヤリングで鳴らす感覚で、
ウーファーを優先(上側)にした結線だった。

以前、書いているように6dB/oct.ならば、
並列型と直列型のコイルとコンデンサーの値は同じになるから、
直列型、並列型の組替えはすぐに行える。

そうやって並列型と比較試聴したうえで直列型を採用したわけなのだが、
しばらくはウーファーを上側にしたままだった。

パワーアンプの出力(プラス側)がまずウーファーに入り、
そのあとにトゥイーター(アース側)という結線である。

でも、やはり試してみないことには、ということで、
ウーファーとトゥイーターを逆にしてみた。
トゥイーターを上側(プラス側)、ウーファーを下側(アース側)である。

あくまでも試しにやってみただけであった。
聴く前から、バイワイヤリングのシングルワイヤリングでの音のような変化だろう──、
そんなふうに高を括っていたところがなかったとはいえない。

だから、鳴ってきた音にびっくりすることになる。
ウーファーが下側のほうが、より表現力が増す。

直列型ネットワークにおいては、トゥイーターを優先する結線がいいのか。
最初はそう考えた。

けれどどう聴いても、ウーファーがうまく鳴っている。
ということは、この結線(ウーファーがアース側)こそが、
ウーファー優先なのだとしたら──、
そんなふうに見方をかえてみると、
直列型ネットワークにおいて、アース側にウーファーをもってくることこそが、
ウーファー優先となること。

このことはアースに対して、ウーファーが直結されていること。
このことが大事なのだろう。

Date: 5月 30th, 2022
Cate: トランス, フルレンジユニット

シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(パワーアンプは真空管で・その18)

バイワイヤリングのスピーカーシステムがある。
スピーカーケーブルが二組あれば、バイワイヤリングで接続するけれど、
一組しかなければ、まずは上下どちらかの端子に接いで聴くことになる。

下側(ウーファー側)に接続するのか、
上側(トゥイーター側)に接続するのか。

これは人によって、違う。
私の感覚では、まずはウーファー側に接続した音を聴いた上で、
トゥイーター側の音を聴き、どちらにするのか判断するわけだが、
人によっては、トゥイーター側にまず接続して──、だったりする。

バイワイヤリングのスピーカーシステムをシングルワイヤリングで鳴らすさい、
どちらを優先するのか。
こういうところでも、その人の音の聴き方がなんとなく感じられるわけなのだが、
直列型ネットワークを採用すると、
この選択は、もっとはっきりした音の違いとなって出てくる。

バイワイヤリングのスピーカーの場合、
スピーカーケーブルを二組用意できれば、
どちらを優先するのか、という問題はなくなるけれど、
直列型ネットワークの場合は、そうはいかない。

ウーファーとトゥイーターが直列に接続されているわけだから、
ウーファーを上側(プラス側)にしてトゥイーターを下側(アース側)にするのか、
その逆にするのか。

パワーアンプが完全なバランス出力なのであれば、
ここでの音の差はかなり小さくなるのだろうが、
大半のパワーアンプはアンバランス出力なのだから、
直列型ネットワーク使用におけるウーファーとトゥイーターの接続の順番は、
あとまわしにせず、最初に試聴して決めておくべきことといえる。

Date: 5月 29th, 2022
Cate: 朦朧体
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ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その72)

その71)で、
輪郭線に頼らない音像の描写。
そこに肉体の復活を感じられるかどうかは、その骨格にあると感じているからだ、
と書いたが、それだけでなく、
血が通っているか、と感じられるかどうかも、とても大事なことである。

音像は、どこまでいっても虚像でしかない。
その虚像に肉体の復活を感じるのは、ようするに錯覚でしかない。

骨格うんぬんも錯覚でしかない、といえるし、
血が通っているも、同じことである。

わかっている。
それでも、やはりそう感じられる音とそうでない音とがある。

Date: 5月 29th, 2022
Cate: 「オーディオ」考

時代の軽量化(その17)

不遜な人たちを叱れる人がいなくなってしまったのも、
時代の軽量化なのだろうし、
叱る(叱られる)と怒る(怒られる)を同じに捉えてしまう人がいるのも、
そうなのかもしれない。

倫理がどこまでも曖昧になっていくのだろうか。

Date: 5月 29th, 2022
Cate: 電源

ACアダプターという電源(GaN採用のアダプター・その2)

別項「スイッチング電源のこと(その1)」で書いているように、
私が聴いたアンプのなかでスイッチング電源を搭載したアンプは、
ビクターのパワーアンプ、M7070が最初だった。

いまでは小型軽量化のためにスイッチング電源を使われることが多いが、
M7070はそうではなく、理想の電源を追求した結果としてのスイッチング電源の採用、
少なくともビクターは当時、そう謳っていた。

M7070は、瀬川先生が定期的に来られていた熊本のオーディオ店で聴いている。
国内・海外のいくつかのセパレートアンプとの比較試聴でなかで聴いたM7070。
瀬川先生は、そのとき「THE DIALOGUE」を鳴らされたのだが、
他のアンプでは聴けない、と思わせるほど、パルシヴな音の鋭さは見事だった。

それは聴く快感といえた。
M7070の音でクラシックを聴きたいとはまったく思わなかったけれど、
スイッチング電源というのは、すごい技術なのかも──、と高校生の私に思わせるほど、
強烈な音の印象を残してくれた。

M7070のスイッチング電源の動作周波数は35kHzであった。
同時代のソニーのTA-N86、N88、TA-N9もスイッチング電源搭載だった。
これら三機種の動作周波数は20kHzだったことからも、
当時、このあたりが動作周波数の上限だったのだろう。

より高速な半導体素子が登場すれば、動作周波数は高くできる。
高くなれば電源として高効率となる。

こういう考え方もできる。
スイッチング電源の動作周波数が高くなるということは、
ある意味、バッテリー的動作に近くなっていくのではないのか、である。

Date: 5月 28th, 2022
Cate: オーディオ入門

オーディオ入門・考(いつまでも初心者なのか・その6)

「初心者ですよ」と、オーディオ歴がながいにもかかわらず、
ずっとそう言い続ける大人がいる。

謙虚なわけではない。
覚悟がないから、逃げているだけだ。

だから、一本の柱も持つことができないままだ。
ずっとこれまでも、これからも。

Date: 5月 28th, 2022
Cate: 電源

ACアダプターという電源(GaN採用のアダプター・その1)

去年あたりからソーシャルメディアで、
GaN(窒化ガリウム)採用のACアダプターを使うと、いい結果が得られる。
つまり音がよくなる、というのをみかけるようになった。

製品の数も増えてきた。
AppleからもGaN採用のACアダプターが登場した。

製品の数が増えるのは結構なことなのだが、
選択肢が増えすぎると、どれをまず選ぼうか。
そのことで多少迷うことになる。

私のシステムにもACアダプターは複数ある。
GaN採用のACアダプターでいい結果が得られれば、リニア電源を自作することもなくなる。
それもいいかもしれない、と思い、
とりあえず一つ買ってみた。

オーディオに使って割と評判がよさそうな製品があった。
安価である。
とりあえず試してみる分には、ちょうどいい。

まずルーターで試してみたかったので、12Vのトリガーケーブルと一緒に購入。
ルーターで使っていたACアダプターは付属のもの。

ずっと他のACアダプターに交換してみたら──、
そんなことを考えながら、三年ほど使っていた。

結果は、というと、いい感触が得られた。
今回選んだのがよかったのか、
それとももっといいGaN採用のACアダプターがあるのか。
そのへんは、これから試して確認していきたい。

それにトリガーケーブルは、自作するつもりでいる。
トリガーデヴァイス(数百円)を買ってくれば、自作可能である。
ここのところでも、いくつか試してみたいことがあって、自作した方が試しやすい。

Date: 5月 27th, 2022
Cate: 冗長性

冗長と情調(その9)

ベーシック版のラインインプットモジュールB200を、
プレミアム版のP200よりも音がいい、という人の理屈は、
信号経路がシンプルだから、音の鮮度がいいはず、というものだった。

LNP2でREC OUTから信号を取り出す方が音がいい、というのと同じ理屈だった。
この理屈は聞くまでもなく予想できていた。

信号経路にアンプの数は少ないほうが、絶対にいい──。
その理屈がわからないわけではないし、
マーク・レヴィンソン自身が、ML6で市販品のコントロールアンプとしては、
これ以上機能を削ることはできないところで、音の純度を大事にしていたのだから。

マーク・レヴィンソンは自身が興したマークレビンソンを離れ、
Celloを興し、Audio Paletteを発表し、続けてAudio Suiteを出してきた。

マーク・レヴィンソンはインタヴューのなかで、
ピュアリスト・アプローチを忘れたわけではない、と語っている。

この言葉をどう受けとるか、どう解釈するのかは、
その人の自由(勝手)である。

ゲインが十分であれば、
信号が通過するアンプの数は少ない方がいいに決っている──、
これが間違っているわけではない。
けれど、絶対的に正しいことなのだろうか。

ここでのタイトルである「冗長と情調」について考えると、
Audio Suiteにおけるアンプ構成についてどうしても触れておきたかった。

Date: 5月 26th, 2022
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その32)

出力管が五極管の場合、
出力トランスの二次側からNFBをかけることが常識というか、不可欠とまでいっていいだろう。

もちろん何事にも例外はあって、
私が初めて聴いた伊藤先生のアンプ、
ウェスターン・エレクトリックの349Aのプッシュプルアンプは、
出力トランスからのNFBはなし、である。

このアンプのオリジナルとなっているウェストレックスのA10も同じである。
こういう例外はあるものの、
伊藤先生の発表されるアンプでも、五極管であればNFBがかかっている。

Stereo35もNFBはかかっている。
NFBがかかっているアンプで重要なのは、
NFBループの面積(サイズ)といえる。

このことは以前に別項「サイズ考」で触れているので詳細は省くが、
出力トランスの二次側から初段管のカソードまでのライン、
初段から位相反転回路、出力段、出力トランスまでの信号経路、
この二つのラインが描く面積を無視しては、
アンプを取り囲む環境が著しくひどくなってきている現代においては、
優れたアンプを作るのは無理だといっておく。

Date: 5月 26th, 2022
Cate: 「オーディオ」考

オーディオにおける「かっこいい」とは(その8)

ながくオーディオという趣味を続けていれば、
かなりの金額をオーディオに費やしただろうし、
それにともないオーディオマニアとしての自信もついてきていることだろう。

けれど、そこに覚悟がなければ、
自信だけでは、かっこよくはならないのではないか。

Date: 5月 26th, 2022
Cate: 冗長性

冗長と情調(その8)

Audio Suiteのモジュールには、二つのグレードが用意されていた。
プレミアム・モジュールとベーシック・モジュールである。

モジュールにも、当然だが型番があって、
プレミアムのアウトプットモジュールはP301、
ラインレベルのインプットモジュールはP200、
フォノ用のインプットモジュールはP100という具合にだ。

型番の最初のPは、premiumを指していて、
ベーシック・モジュールはBがつく。

私が聴いたAudio Suiteは、プレミアム・モジュールである。
ベーシック・モジュールは聴いていない。
なので、プレミアム・モジュールとベーシック・モジュールが、
どれだけ違うのか、知らないので、私がAudio Suiteの音として書くのは、
だからプレミアム・モジュールのAudio Suiteである。

音は聴いていないものの、
ラインレベルのインプットモジュールのベーシック版の写真は見ている。

プレミアム・モジュールと何が大きく違うのかというと、
ベーシック・モジュールにはアンプ回路が省略されている。

このモジュールのパネルには入力セレクターかわりの出力のON/OFFスイッチ、
プリント基板には配線のパターンがあるだけ。

プレミアム・モジュールのP200は当時400,000円だったが、
ベーシック・モジュールの方は、かなり安かったはずだ。

ここでも、(その7)で書いている、オレはわかっている──、
そう自慢したい人は、
Audio Suiteのラインレベルのインプットモジュールは、
プレミアム版よりもベーシック版のほうが音がいい、という。

これを私に言った人は、ベーシック版の音を聴いていないにも、関わらずだ。

Date: 5月 25th, 2022
Cate: 「オーディオ」考

オーディオにおける「かっこいい」とは(その7)

 オーディオ製品に大のおとなが一生をかけんばかりに打ち込んでしまう。音楽にならまだ話はわかるが、近頃では若い前途洋々の人生をひたむきにまで賭けて、オーディオマニアたることを誇りにもとうとする。なぜか。
 オーディオには、いまや男の夢を托し得るだけのロマンがあるからだ。そう、こうしたロマンを求められ得る男の世界は、はたして他に存在するといえるだろうか。(ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」ラックス号より)
     *
岩崎先生が、「私のラックス観」で書かれていることだ。
1975年に書かれていることだ。

このころハタチ前後だった人たちは、七十近くになっている。
このころの若い人たちは《オーディオマニアたることを誇りにもとうと》したわけだ。
いまはどうなのだろうか。