You’re Under Arrest
ステレオサウンド 76号をひっぱり出してきたのは、
表紙がJBLのDD55000だからである。
このころのステレオサウンドには、黒田先生の連載「ぼくのディスク日記」がある。
「ぼくのディスク日記」は黒田先生の発案だった。
76号で取り上げられているディスクのなかに、
マイルス・デイヴィスの“You’re Under Arrest”がある。
黒田先生は、こんなことを書かれている。
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感覚は、甘やかしていると、鈍ってくる。鈍った感覚は、自分が鈍っているとは気づかない。ききとして、まず恐れるべきは、そのことである。感覚が鈍ると、あたりの景色も硬化する。こうあらねばならない、あああらねばならない、といったような教条主義的な発言は、いずれにしろ、鈍った感覚から発せられる。自分の感覚の健康診断がしたくなったときに、ぼくはマイルス・デイビスのレコードをきくことが多い。そういえばと、ふりかえってみて、最近、しばしばこの新しいマイルス・デイビスのレコードをきいているような気がするけれど、はたしてこれはいいことかどうか。
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マイルス・デイヴィスも黒田先生も、もうこの世にはおられない。
もし黒田先生がいまも存命だったら、マイルス・デイヴィスのかわりに、
誰のレコード(録音物)で、感覚の健康診断をされたのだろうか。