Archive for category テーマ

Date: 6月 27th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(その11)

「世界のコントロールアンプとパワーアンプ」(ステレオサウンド1978年春別冊)、
SAEのMark 2600の瀬川先生の試聴記が載っている。
     *
 音の透明感と表現力のずば抜けて優れたアンプだと思う。透明感という点でこれに勝るのは、マーク・レビンソンのML2Lぐらいのものだから、SAE♯2600はその点でわずかに負けても、どこか凄みのある底力を感じさせるダイナミックなスケール感と音の肉づきのよさで勝る。旧モデルの♯2500も含めて、低音の量感がこれほどよく出るパワーアンプは少ないし、ハイパワーでいながら高域のキメの細かいこと、ことに音量をどこまで絞っても音像がボケず、濁りもないこと、まさに現代の最上級のパワーアンプだろう。♯2500にくらべると、低域がややひきしまり、中〜高域の音色がわずかに冷たく硬質な肌ざわりになったところが、多少の相違点といえる。
     *
この時点で、Mark 2600は、マークレビンソンのML2の半額よりも少し安かった。
ML2も、このころの私にとっては憧れのパワーアンプの一つだったが、
いかんせん高すぎた。

Mark 2500(2600)も手が届かない存在だったのだが、
ML2はさらにその上にいた存在だった。

それでも音は、その実力は、価格ほどの違いはないんだな、と、
瀬川先生の試聴記を何度も読み返して、納得しようとしていた。

Mark 2500(2600)には、ML2よりも優る点があるということ。
これは当時の私にとっても、とても大事なことだった。

ならば、Mark 2500を手に入れたとしよう。
それに手を加えたら、ML2の透明感にそうとう近づけるのではないのか。

そのためにはどうやったらいいのかは、当時の私にわかっていたわけではないが、
それでも、なんとなく手を加えれば、それも適切にやれば、ML2よりもよくなる──、
そんなふうに思い込もうともしていた。

それが、いまもどこかでくすぶっていたように感じている。
十年くらい前から、Mark 2500に手を加えたら、その実力をどこまで発揮できるようになるのか。

インターネットでMark 2500の内部写真が、
かなりのところまで見ることができるようになってから、
よけいにそんなことを妄想するようになっていた。
二年くらい前には、具体的にどこをどうするのか、ほぼ決っていた。

ここのところをこんなふうにしたら、こういう変化が得られるはず──、
そんな妄想を、入浴中、ぼんやりしているときに何度もしていた。

Date: 6月 27th, 2021
Cate: バランス

Xというオーディオの本質(その5)

カルロ・マリア・ジュリーニは、積極的に聴いている。
TIDALがあるから、これまで聴いていなかった演奏(録音)も聴けるようになり、
この人の演奏をコンサートホールで直に聴いてみたかった──、とあらためて思っている。

ジュリーニの演奏で聴くと、これまで何度となく聴いてきた曲に、
こんな表情があったんだ、と気づかされることがある。

私の場合、こういう気づきは、ジュリーニの場合がいちばん多い。
その理由を考えると、結局バランスということにいきつく。

ジュリーニの演奏はバランスがいいからこそ、
ほかの音・響きに埋もれることなく聴こえてくる表情がある。

このことは、オーケストラの各楽器のバランスだけではなくて、
テンポをふくめてのバランスという意味において、である。

Date: 6月 26th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(2500と他社のアンプのこと)

SAEのMark 2500に入札しているあいだ、ヤフオク!には、
私が興味をもちそうな、お探しの商品からのおすすめが表示される。

そこにいくつかのアメリカのパワーアンプが表示されていた。
Mark 2500と同時代か、少し新しい時代のモノがいくつかあった。

製品としての規模も近いモノがあった。
その中に、動作不良のためジャンク扱いというパワーアンプがあった。

出品者の説明文を読んでも、あきらかに修理が必要なアンプである。
このアンプに入札する気はなかったけれど、
最終的にいくらで落札されるのかは、興味があった。

Mark 2500を落札して数日後、その落札価格を見たら、2500よりも高かった。

私だったら、そのアンプの状態が良くてもMark 2500を選ぶのだが、
世の中には、私の感覚とはずいぶん違う人がいる、ということを改めて実感する。

そのアンプの故障の具合がどの程度なのかははっきりしないが、
いま、そのブランドの輸入元はないし、ブランド自体もなくなっている。

修理に出すか、自分で直すか。
自分で直せる人は、そう多くないと思う。
とすると、修理業者に出すわけだが、そうすればそこそこの費用がかかってしまう。

費用がいくらになるのかは、そのアンプの状態次第なのだからなんともいえないが,
落札価格と修理費用をあわせると──、私はヤフオク!で入札するときは、
そのことを考える。

動作しているモノであっても、メインテナンスは必要になるから、
その費用も見込んで、最大でここまで、という金額を決めての入札をする。

多くの人が、そうしていると思っていた。
でも、どうも違うようである。

人それぞれだから、そこまでしても欲しいアンプだったのだろう。
でも、そのアンプが現役だったころ、ステレオサウンドでまだ働いていたから、
そのアンプの実力、人気のほどは知っていたから、
落札した人は、そこまでの愛着があってのことなのか、
落札したアンプをどうするのか、
そんなことを考えると、疑問符が浮ぶだけだ。

Date: 6月 26th, 2021
Cate: ディスク/ブック

Elena Fischer-Dieskau(その1)

TIDALでクラシックの新譜をチェックしていて、
目に飛び込んできたのは、モノクロのジャケットだった。

きりっとした顔付きの女性が写っている。
iPhoneで見ていたので、表示される写真は小さく、
パッとみて、最初は歌手? と思った。

名前をみたら、Elena Fischer-Dieskauとある。
よけいに歌手と思ってしまった。

ピアニストだった。
Elena Fischer-Dieskauは、
名前からわかるようにディートリッヒ・フッシャー=ディスカウの孫にあたる。

収録されているのは、ブラームスの七つの幻想曲、二つのラプソディ、
それからシューマンのクライスレリアーナである。

日本での発売は6月30日とのこと。

この数ヵ月、TIDALでフランスの女性ピアニストをけっこう聴いてきた。
昔と違い、いまの時代、国の違いによって演奏スタイルが、といったことは、
あまりいえなくなってきたのかもしれないが、
Elena Fischer-Dieskauの演奏を聴いていると、ドイツのピアニストだ、と強く感じる。

それとも祖父のディートリッヒ・フッシャー=ディスカウの血なのか。

いまのところ、一枚だけである。
これからどんな録音をしてくれるのかも知らない。

エレナ・フッシャー=ディスカウのブラームスとシューマンを聴いていて、
ベートーヴェンとバッハを聴いてみたい、と思っていた。

この人のベートーヴェンとバッハは、どんな感じなのだろうか。
この数ヵ月聴いてきたフランスのピアニストで、そんなふうにおもったことはなかった。

音楽の骨格の違いゆえか。

Date: 6月 25th, 2021
Cate: ショウ雑感

2021年ショウ雑感(その19)

大阪ハイエンドオーディオショウは、
インターナショナルオーディオショウの二週間後に開催予定だったが、
今日中止が発表になった。

二年連続の中止である。
インターナショナルオーディオショウが開催を発表しているので、
大阪ハイエンドオーディオショウもやるのか、どうするのか。
開催を期待していた(楽しみにしていた)人は多かっただろう。

大阪ハイエンドオーディオショウは会場がホテルということもあって、
ほとんどのブースが狭い。

いまのところはインターナショナルオーディオショウは開催する方向である。

半年先、どうなっているのか。
正確に予想できる人はいない。

それでもひとついいたいのは、決断と判断は似ているようでいて、違うということ。
三年前に、別項でリーダーとマネージャーについてふれた。

マネージャーは判断できても決断できない。

Date: 6月 25th, 2021
Cate: VUメーター

VUメーターのこと(その22)

音だけに関していえば、メーターはないほうがいい。
アンプによっては、メーターのON/OFF機能がある。

OFFにした音を一度でも聴くと、ONにしようとは思わなくなる。
ではOFFにしたから、メーターによる音への影響はゼロにできるかというと、
決してそうではない。

フロントパネルにメーターが取り付けられている時点で、音への影響は生じている。
メーターが大きいほど、フロントパネルに開けられる取り付け穴は大きくなる。

その分だけフロントパネルの強度は低くなる。
振動モードも当然変化する。

しかもそこに空間をもつメーターがとりつけられるわけで、
この部分の共振も、また音への影響となっていく。

メーターを構成する部品の共振も無視できない。

それにメーターの駆動部分には磁石が使われている。
メーター機能をOFFにしていても、この磁石は生きている。

他にもあるけれど、メーターがついてるだけで、
メーターとして機能していなくても、音への影響をゼロにできるわけではない。

そんなことはわかったうえで、今回のSAEのMark 2500である。
マークレビンソンのLNP2にしても、メーターがなければ、もっと音が良かったはずだ。

けれどメーターのないLNP2を想像してほしい、
メーターのないMark 2500を思い浮べてほしい。

メーターのON/OFF機能は、私はいらない、と思っている。
こういうスイッチがついているから、ついOFFにした音を聴くことになる。
OFFにした音を聴くと、ONにしようとは思わない。
ならば、最初からメーカーをつけなければいいのに──、そう思ったりするからだ。

ON/OFF機能がなければ、メーターの音への影響があるのはわかっていても、
簡単にたしかめることはできないから、そのままで聴く。
それでいいではないか。

Date: 6月 24th, 2021
Cate: Noise Control/Noise Design

聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その17)

太い音は、褒め言葉だ、と(その16)で書いているが、
太い音が出てますね、こちらが褒め言葉としていったとしても、
受けとる側は人によっては、貶されたと受けとることだってある。

二、三年前だったか、ある人があるディスクをかけてほしいと、
audio wednesdayにもってきた。

聴き終って、雑談の感じで、ある人が「テレビ的な音」といった。
それに私も同意したわけだが、二人とも、その録音がひどいという意味で、
テレビ的な音といったわけではなかった。

けれど、そのディスクをもってきた人はそうではなかったようだ。
かなり心のどこかに「テレビ的な音」といわれたことがひっかかっていたようだ。

そのディスクの録音を貶された、侮辱された、とでも思っていたようだった。

けれど、そう受けとってしまうのは、ディスクをもってきた人の心に中に、
「テレビ的な音」を貶す表現として持っているからだろう。

もしかすると、彼自身、テレビ的な音と表現して、
ある種の音をバカにしているのかもしれない。

そうだからこそ、もってきたディスクに対して「テレビ的な音」といわれての反応のようだった。

こういう時に、ことこまかに説明したところで通じることは、まずない。

結局、その人が、その表現を普段どう使っているかが、こういうときに顕になるだけだ。

Date: 6月 24th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(その10)

ボンジョルノのアンプということとははなれてしまうが、
EMTのアナログプレーヤー内蔵のイコライザーアンプの155st。

このアンプもFETは一切使わずに、トランジスターのみで構成されている。
155stの設計は古いし、プロ用ということで、入力と出力にはトランスが入っているし、
DCアンプなわけでもない。

多くのアンプが初段には差動回路を採用するが、155stは違う。
基本的に真空管アンプの回路に近い、といえる。

もし155stの後継機として157stといったモデルが登場した、としよう。
FETを採用し、初段は差動回路、DCアンプ構成になっていたかもしれない。

157stというモデルは存在しないから、こんなことは妄想でしかないのだが、
155stとはずいぶん違った音になっていたであろう。

私はEMTのアナログプレーヤー(930st、927Dst)に感じているヴィヴィッドな音は、
かなり失われてしまっていたようにも想像できる。

だからといってFETがダメだ、と断言したいわけではない。
私自身、ディネッセンのJC80の初期モデルの音には、ずいぶんしびれたものだった。
ジョン・カール設計のJC80は、全段FETのコントロールアンプである。

AMPZiLLA 2000はどうなのだろうか。
出力段にはFETを採用しているのではないだろうか。
輸入元のエレクトリのサイトをみても、そのへんの記述はない。

なのに、そう思う理由は、
ジェームズ・ボンジョルノが、2004年6月に取得している特許、
“HIGH FIDELITY FLOATING BRIDGE AMPLIFIER”では、FETによる出力段だからだ。

ボンジョルノは1980年10月に、The Goldに採用された回路で特許をとっている。
2004年の特許の回路はAMPZiLLA 2000に採用されているはずだ、と思うからだ。

Date: 6月 23rd, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(2500と2400の関係)

Mark 2500の時代、Mark 2400というモデルもあった。
2500が300W+300Wに対し、2400は200W+200W。

パネルフェイスは、2500と2400は基本的に同じで、
2500には入力レベル調整のプッシュボタンがあるのが、2400にはないぐらいだ。

小さな違いなのだが、製品を前にすると、
この違いはけっこう大きくて、2500のほうに、私は魅力を感じる。

外形寸法は2500がW48.3×H17.8×D40.0cm、2400はW48.3×H17.8×D28.0cm。
重量は、2500が26.4kg、2400が19.1kg。

価格は2500が650,000円のときには、420,000円だった。

Mark 2500は、中学生にとっては手の届かない存在だった。
だからといってMark 2400も無理だったのだが、
それでも2500と2400の価格差は小さくない。

2400の音は聴いていない。
Mark 2400はステレオサウンドにもそれほど登場していない。
41号の特集「世界の一流品」で岩崎先生が書かれているくらいだ。
     *
 MK2400も、決してプラックフェイスという外観だけに止まらず、技術的な内容もさらにその音にも、はっきりと感じられる。きわめてスッキリして、透明そのもの、無駄を廃した端正の極地といったような音だ。
     *
同じページで、瀬川先生がMark 2500について書かれている。
どちらもいいパワーアンプなんだ、と思いながら読んでいた。

その数年後、熊本のオーディオ店に定期的に来られていた瀬川先生が、
「SAEのアンプでいいのは、2500だけ」、そんなことをいわれていた。

そうなのか、2500と2400は、けっこう違いがあるのか……。
よく似ているモデルなのに。

そんなことを思いながら、瀬川先生の話をきいていた。

Mark 2400の音を聴いていない。
実際のところ、2500と2400の音の違いがどれだけなのかは確認できないでいる。

回路図を比較すると、2500も2400もほほ同じといっていい。
出力段の規模が、2500は2パラレルなのに対して2400はパラレルではないことぐらいだ。

回路図だけでみれば、2500と2400の音の違いは小さいはずなのだが、
2500と2400はコンストラクションが大きく違う。

この違いはそうとうに大きく音にあらわれるであろう。
それだけに、いま程度のいい状態の2400があれば、2500と比較試聴してみたい。

Date: 6月 23rd, 2021
Cate: 楽しみ方

STUDER A101 + Pass DIY BA-3(その6)

コントロールアンプでも、コレクター出力のモノは、
私が知るかぎりはそう多くはない。

これがパワーアンプになると、もっと少なくなる。
コレクター出力のパワーアンプで、すぐに浮ぶのは、
ミュージカル・フィデリティのA1くらいである。

A1はプリメインアンプで、パワーアンプ部はA級動作で、コレクター出力。
しかもA1のジェームズ・ボンジョルノのアンプと同じく、FETを使っていない。
全段トランジスターである。

初段もトランジスターなので、入力には電解コンデンサーが挿入されている。

いまもA1の音のファンは多い、ときいている。
A1の音には、私も惹かれるものを感じた。

A1のファンの人たちは、A1の音の魅力はA級動作にある、というが、
私はむしろコレクター出力であることが大きいし、
次に全段トランジスター構成ということを挙げたい。

Date: 6月 23rd, 2021
Cate: ディスク/ブック

はっぴいえんど写真集「ゆでめん」

写真家・野上眞宏さんによるはっぴいえんどの写真集「ゆでめん」が、
8月5日、ミュージック・マガジンから発売になる。
ミュージック・マガジンのサイトでの告知は、まだない。

6月18日には、iPad写真集アプリ「野上眞宏のSNAPSHOT DTARY」もヴァージョンアップして、
最新のiPadOSにも対応している。

Date: 6月 23rd, 2021
Cate: VUメーター

VUメーターのこと(その21)

SAEの創業者のモーリス・ケスラー(Morris Kessler)は、1988年にSAEを売却している。
その後のSAEがどうなっていったのか、くわしいことは知らないが、
ケスラーはATI(Amplifier Technologies, Inc.)を新たに作っている。

そのケスラーが2015年ごろに、SAEブランドを買いなおしていること、昨晩知った。
SAEのMark 2500を手に入れて、そういえば、SAEのその後は……、と検索していったら、
新生SAEのサイトを見つけた。

コントロールアンプのMK ONE、
パワーアンプが三機種、SAE 8300、SAE 2HP-D、SAE 2HPである。

2HP-Dと2HPの違いは、メーターの有無である。
2HP-Dには液晶のパワーメーターがついている。

当時のSAEのパワーアンプすべてにメーターがついていたわけではない。
Mark 2500はついていた。
弟分にあたるMark 2400もついていた。

2400はわりとすぐに2400Lになり、LED式の表示に変更になった。
こちらのほうがコストがあまりかからないからだろう。

MarkシリーズのあとにXシリーズを展開していったSAEなのだが、
メーターはすべての機種でLED式だった。

なので、新生SAEのパワーアンプは指針式のメーターがついていたのは、
少し意外でもあった。

液晶なのか、という気持はある。
(その14)、(その15)で、OPPOのヘッドフォンアンプの、
やはり液晶のVUメーターについてちょっと触れているが、
私の知るかぎり、どのオーディオメーカーも、液晶式のメーターのデザインが未熟である。

SAE 2HP-Dのメーターが、どんな感じなのか、
動いているところを見ているわけではないが、
写真でみるかぎり、とってつけたような感じが拭いきれていない。

Mark 2500を手に入れたばかりの目で見ているから、そう感じるのではないはずだ。

Date: 6月 22nd, 2021
Cate: 世代

世代とオーディオ(若い世代とバックナンバー・その8)

オーディオ雑誌のバックナンバーを、ある程度まとめて揃えることには、
基本的に賛成である。

それでもいくつかいいたいことはあって、それはすでに書いてきた。

今回、また書いているのは、
SAEのMark 2500を手に入れたから、である。
これも、ある意味、バックナンバーを手に入れたようなものだ、と感じているからだ。

Mark 2500は、五万円を切る価格で落札できた。
ストアだったので、それに10%の消費税がつき、送料を含めても五万三千円ほどだった。

これだけ安価に手に入れられると、しかも程度もなかなかよかったこともあって、
オーディオ雑誌のバックナンバーをまとめて入手するのに必要な金額と、
たいして変らないのでは──、そんなふうに思う。

雑誌のバックナンバーの相場も変動する。
高い時もあればそうでない時もあるから、簡単な価格の比較はできないだろうが、
それでも1970年代のステレオサウンドを十冊程度集めるとなると、数万円は必要だろう。

しかもバックナンバーがまとめて手に入ればまだいいが、実際は一冊ずつだったりして、
そこにかかる手間も換算すれば、安くはない。

バックナンバーから伝わってくる時代の空気がある、
同時に、その時代のオーディオ機器から伝わってくる時代の空気というものもある。

Mark 2500が届いて、細部の造り、質感などをしげしげ眺めていると、
1970年代後半のパワーアンプの雰囲気がつかみ取れる。

音を聴けば、それがわかるかというと、必ずしもそうではない。
Mark 2500にしても四十年以上前のアンプなのだから、
その時代の音をそのまま伝えてきている、とは言い難い。

それでも、といいたいのは、たとえ故障していて音が出ないオーディオ機器であっても、
実際に手にして、じっくりと眺めてみる。
外観だけでなく、内部までしっかりと。

そうすれば雑誌のバックナンバーではわからなかったことがあるのに気づくはずだし、
バックナンバーの理解にもつながっていくはずだ。

つながっていく、と書きたいところだが、
ここに関しては、人それぞれだから、どうやってもつながっていかない人もいるからだ。

Date: 6月 22nd, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(その9)

SAEのMark 2500とGASのAMPZiLLAの回路図はGoogleで検索すれば、
すぐに見つかるから、この二つのパワーアンプの回路図を見較べてみるといい。

回路のこまかなことについて書いていくと、どんどん長くなるので、
いつかは別項で書くつもりだが、今回は割愛する。

一つだけ挙げると、
Mark 2500もAMPZiLLAも、FETを一石も使っていないことだ。

この時代のアンプはDCアンプ化が一般的になっていた。
そのこともあって初段はトランジスターではなくFETが使われることがほとんどだった。

二段目以降はすべてトランジスターで構成されたアンプでも、
初段だけはFETというのが当然だったし、
それはメーカー製のアンプだけではなく、
無線と実験、ラジオ技術に発表されていた自作アンプもそうだったし、
OPアンプにおいても初段はFETというのが増え始めてきていた。

そういう時代にあっても、Mark 2500とAMPZiLLAは全段トランジスターである。

ボンジョルノはFETを嫌っていたのだろうか。
SUMOのThe Gold、The Powerでも増幅系はすべてトランジスターである。
FETがまったく使われていないわけではなく、
初段(もちろんトランジスター)の前に、スイッチとしてのFETが使われているくらいだ。

SUMOのアンプは、いわゆるリレーによる保護回路をもたない。
けれど出力などに異状を感知したら、入力信号をカットするようになっていて、
そのためのFETスイッチである。

もっともそのため入力にはコンデンサーが直列に挿入されている。
1970年代から、ICL、OCLという単語がアンプのカタログ、広告に登場するようになった。

ICLは、Input Condenser Lessの略である。
そういう時代になっていても、ボンジョルノはFETを、初段の採用まで拒否して、
コンデンサーを使っている。
そのことによるメリットが大きいとの判断なのだろう。

Date: 6月 21st, 2021
Cate: Noise Control/Noise Design

CR方法(その22)

ファン付きのパワーアンプの場合、
アンプのACの極性を合せるだけではなく、
ACモーターのファンであれば、ここのところのACの極性も合わせる必要がある。

ファンのACの極性を変えるだけで、どれだけ音が変化するのか、
と疑問に思われるかもしれないが、ACモーターのファン付きアンプをもっているならば、
試してみるのがてっとり早い。

アンプのACの極性と同じ音の変化をする。
極性があっていれば、音場はきれいにひろがる。

ジェームズ・ボンジョルノはこのことに昔から気づいていたようで、
SUMOのアンプはアンプのACの極性をあわせれば、ファンの極性も合うようになっている。

井上先生が、ボンジョルノに、ACファンの極性について訊ねられている。
ボンジョルノはわかっている、といわれていた。

そのことを聞いてはいたけれど、自分のThe Goldで確認してみた。
確かに合っていた。

けれど、アンプ・エンジニアのみながみな、そのことに気づいているわけではない。

このことでわかるのは、ファンの問題点は、その動作音、振動だけではない、ということ。
ファンはないほうがいい。

それでもファンがあって、
強制空冷することで可能になるコンストラクションがあるのも事実だ。

それでもファンを止めた音を一度聴いてみると、
なんとかファンの影響を抑えられないか、とあれこれ考えることになる。

The Goldで、一度試したことがある。
真夏には到底できない実験なのだが、気温が低ければ、
そして聴く時間が短ければ、やれない実験ではない。

それでも試すのであれば、最悪アンプを壊すことになるから、
十分すぎる注意が必要になる。

ファンを止めた音、
これがThe Goldのほんとうの音(実力)なのか、とただただ驚いた。

それでもThe Goldを使っていたころは、
どうすればファンの影響を少しでも小さくできるのか。
よくわかっていたわけではない。