Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×九 K+Hのこと)

累積スペクトラムが一般に知られるようになったのは1970年代の後半だろう。
ステレオサウンドでも1978年夏号の47号で、46号で取り上げたモニタースピーカーを測定しており、
測定項目の中に、累積スペクトラムがある。
累積スペクトラムの測定結果がステレオサウンドに載ったのは、この号は最初だ。

累積スペクトラムとは、パルスを一波加えた後のスピーカーシステムから出る音の減衰していく様を、
立体的なグラフで表示したもの。
パルスが加わり振動板が動くことで音がスピーカーから放射される。
パルスはすぐになくなるが、スピーカーの振動板はすぐに動きが止るわけではない。
さらに振動板が動くことによって、さまざまな振動がフレームからエンクロージュアに伝わり、
これらからの輻射音も放射される。
さらにエンクロージュア内部にはウーファーの裏側から放射された音がある。
これも時間差をともなって放射される。

ステレオサウンド 47号の説明にもあるが、累積スペクトラムはスピーカーの残響特性ともいえる。
だから理想はパルスが加わった瞬間はフラットな音圧で、
次の瞬間からはすっとすべての帯域において音が消えてなくなっていることだが、
47号に掲載されているグラフを見ると、かなり長い残響特性を、どのスピーカーも持っている。
しかもその残響特性がきれいに減衰していくものはすくなく、うねりや乱れが生じている。

47号には、アルテック620A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンのMonitor1、
JBLの4333Aと4343、K+HのO92とOL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M、
計10機種の特定結果が載っている。
このなかではNS1000Mが減衰が早いほうだが、それでも低い周波数では減衰が遅いし、
時間軸ごとの周波数のカーヴにはうねりが生じている。

ひどい特性ものについては……、いわないでおく。

Date: 5月 18th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×八 K+Hのこと)

スピーカーの物理特性は、オーディオ機器のなかでいちばん遅れている、というのが古くからの認識である。
アンプの周波数特性が定規で直線を引いたようにまっすぐなのに対して、
スピーカーの周波数特性はフリーハンドで描いた直線もどきにとどまる。
同じ変換系のオーディオ機器でも、振動系の質量が小さなカートリッジはスピーカーよりもいい特性だった。

スピーカーの物理特性は確実によくなっている。
それでもオーディオ機器のなかでは、やはりその進歩の歩みは遅く、
スピーカーの発音原理がなにか画期的なものに変りでもしないかぎり、
飛躍的な向上は無理だろうな、と実のところ思いこんでいた。

K+Hのサイトを探したのは、単にOL10の資料探しがおもな目的だった。
これは結局なにも得られなかった。
かわりにO500Cの存在を知った。

写真をみたときは、それほど興味はわかなかった。
英文の説明に”FIR”の文字を見つけた。
ほーっ、と思った。それですこし興味がわいてきた。
それで実測データ(Measurements)をみた。

周波数特性(Frequency Response)、高調波歪率(Harmonic Distortion at 100dB SPL)、
累積スペクトラム(Cumulative Spectral Decay)、インパルスレスポンス(Impulse Response)などがある。

周波数特性も、いまやここまでフラットにできるのか、と思う。
周波数特性のフラットさにかけては、ジェネレックの、やはりDSPを搭載したアクティヴ型の新シリーズも見事だ。
周波数特性に関しては、数ヵ月に前にジェネレックの特性を見ていたから、見事だと思っても、
O500Cの周波数特性には、驚きはなかった。

私が驚いたのは、インパルスレスポンスと累積スペクトラムだ。

Date: 5月 17th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×七 K+Hのこと)

K+HのO500Cは、アナログとデジタルの入力に対応している。
デジタル信号は24ビット、48kHzに対応、アナログ信号はすぐさまA/D変換される。
O500Cの内部ではデジタルによって、当然行われている。

Acoustical Controlsは名づけられているセクションはふたつにわけられていて、
ひとつはIIR型、もうひとつはFIR型デジタルフィルターによって行われている。
そのあとにDSP Crossover(-48dB/oct.のスロープ特性)を経てパワーアンプ、スピーカーユニットとなっている。
詳細を知りたい方は、K+Hのサイトから資料がダウンロードできるので参照していただきたい。

K+Hのサイトには、Integrated digital controller with the latest FIR Filter technology という表記がある。

デジタルディバイディングネットワーク(DSP Crossover)は3ウェイではなく、4ウェイ仕様となっている。
専用のサブウーファーO900と推奨パワーアンプのKPA2220による拡張を行なえるようになっていて、
O500C単独では27Hz(-3dB)だったのが、15Hz(-3dB)と約1オクターヴ近く延びている。

O500CはW400×H750×D447mm。ヤマハのNS1000MがW375×H675×D326mmだから、
ほんの少し大きいだけだが、内容積はO500Cはデジタル回路やパワーアンプ、電源回路を搭載しているだけに、
NS1000Mとほとんど同じぐらいだろう。
ただ重量はNS1000Mは31kgだが、O500Cは65kgとかなり重い。

とはいえサイズ的にはO500Cは、国産3ウェイ・ブックシェルフ型とほぼ同じである。
ウーファーの口径も30cm、スコーカー、トゥイーターはドーム型は、構成、規模も似ている。

けれど、O500Cの特性は、3ウェイ・ブックシェルフ型というイメージからは遠いところにまで達している。

Date: 5月 17th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×六 K+Hのこと)

コンシューマー用オーディオ機器で、FIR型デジタルフィルターの搭載をはっきりと謳ったのは、
パイオニアのC-AX10が最初、だと思う。

けれど最初に搭載していたオーディオ機器は、
おそらくNECの最初のCDプレーヤーだったCD803ではないだろうか。
マランツ、ソニー、オーレックス、トリオ、Lo-Dといったメーカーから少し遅れて登場してきたCD803は、
音の面で話題になった。
お世辞にもスマートとはいえない武骨な外観で、遅れて登場してきたとは思えないCD803は、
でも音を聴いてみると、遅れて登場してきただけの違いを聴かせてくれた。
CD803の音には、少なからず驚いたことを憶えている。

でも動作にはやや不安定なところもあった。
ディスクをセットして最初から再生するのはよかった、
スキップキーで次の曲を再生するのにも問題はなかったけれど、
10キーによる操作をすると、パソコンでいうフリーズみたいに、たびたび固まってしまうことがあった。
そうなるとどうにもできずに、電源スイッチを切ってもういちど入れると問題なく動作した。
そういう使い勝手の未消化な部分はあったものの、井上先生は、当時CD803を試聴に使われていた。

CD803はデジタルフィルターを搭載していることを謳っていた。
とはいえ、デジタルフィルターを搭載した最初のCDプレーヤーではない。
デジタルフィルターを最初に搭載したのは、マランツ(フィリップス)のCD63である。
このときすでに4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターSAA7210を搭載し、
ここでノイズシェーピングを行い、
16ビットのデジタル信号を14ビット動作のD/AコンバーターTDA1540で処理できるようにしていた。

CD63のデジタルフィルターはIIR型だったはずだ。
CD803のデジタルフィルターを、NECはND(ノン・ディレイ)フィルターと呼んでいた。
当時はどんなことをやっていたのかまったくわからなかったが、
10年くらい前に、どこかでCD803のデジタルフィルターはFIR型だった、と読んだ記憶がある。

CD803の次にFIR型のデジタルフィルターを搭載したCDプレーヤーには、
Lo-Dの初のセパレート型のDAD001がある。

Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×五 K+Hのこと)

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークにおけるIIR型とFIR型の音を比較するためには、
だからパイオニアのスピーカーシステム、たとえばExclusive 2404を用意しなければならない。
どれだけの人が、デジタルフィルターのふたつの方式の違いを比較試聴できたかというと、わずかかもしれない。
私も聴けなかった。

だからステレオサウンド 133号に載っている井上先生と朝沼さんの対談による記事を参考にするしかない。
朝沼さんはFIR型にしたときの音をこう語られている。
     *
非常に静かなんです。それから、音像定位と音場感がもっと精密になって、明確に録音の意図が分かる。未体験ゾーンを味わったという感じですね。
     *
井上先生はというと、
     *
これは今までにない音ですよ。デジタルで初めて体験できる音。だから、どう捉えたらいいか……。
録音側も、このリニアフェイズの FIRでモニターしてくれないと、録音モニターと再生モニターの相関性がなくなってしまうんです。そこまで考えないと簡単には言いきれない、何かとてつもないものを持っているんですよ。
(中略)この音を聴くと、そういう問題を提起させながら、これからオーディオは、また面白くなりそうな感じがしますね。
     *
この記事は書き原稿ではなく対談のまとめだから、断言はしにくいけれど、
私の編集経験からすると、井上先生がこれだけのことを発言されているということは、
C-AX10の可能性、つまりFIR型のデジタルディバイディングネットワークの可能性、それがもたらしてくれる、
これから先のオーディオの楽しみ、おもしろさについて感じとっておられることは伝わってくる。

Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続々K+Hのこと)

1999年秋に、パイオニアからデジタル・コントロールアンプとして、C-AX10が登場した。
DSPとA/Dコンバーターを搭載して、内部での信号処理はすべてデジタルで行うもので、
レベルコントロール、トーンコントロールはもちろん、アナログディスクの再生においてもデジタルで処理している。
その他の機能として、16ビット信号を24ビットに再量子化するHi-Bit、
デジタルディバイディングネットワークをもつ。
C-AX10の機能を、こまかく説明していると、それだけでけっこうな分量になってしまうほどの多機能ぶりだ。

C-AX10で、使い手側(つまりオーディオ機器のユーザー)は、はじめてIIR型とFIR型、
ふたつのデジタルフィルターの音の違いを聴くことが可能になった。

メーカーの技術者ならば、IIR型とFIR型を、ほかの条件は同一のまま聴き較べることはできても、
メーカーの製品を聴く側では、そんな機会はまずない。
C-AX10の機能のひとつ、デジタルディバイディングネットワークは、IIR型とFIR型の切替えができる。

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークの機能をみると、
IIR型とFIR型の演算処理の違いが、間接的にではあるがわかる。

クロスオーバー周波数は、IIR型では70Hzから24kHzまでの25ポイントなのに対し、
FIR型は500、650、800、1000Hzの4ポイントだけ。
スロープ特性はIIR型では0、-6、-12、-18、-24、-36、-96dB/oct.に対し、
FIR型ではローパス側は-36、ハイパス側は-12dB/oct.に固定、となっている。
演算処理が増すことにより、設定の自由が狭くなっていることがわかる。

つまりIIR型のデジタルディバイディングネットワークは汎用型として使えるが、
FIR型デジタルディバイディングネットワークは、
基本的にはパイオニアのスピーカーシステム用に限定されてしまう。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続K+Hのこと)

デジタル信号処理の話題が出はじめたとき、
まだそのときはステレオサウンドにいたころで、国内メーカーの技術者の人の話に、
デジタルで信号処理した際に、振幅特性と位相特性に関することがあった。

ある国内メーカーの技術者は、デジタルでは振幅特性と位相特性とをそれぞれ単独でコントロールできる。
けれど、自然現象として、振幅特性が変化すればそれにともなって位相特性も変化するものだから、
そのことを重視して、われわれは振幅特性と位相特性、互いに影響し合う関係処理していく、
つまりアナログフィルター同様にする、ということだった。

そういわれてみると納得するものの、やっぱりデジタル信号処理の強み、
つまり品ログフィルターでは不可能なことがデジタルでは可能になるわけだから、
振幅特性と位相特性は、それぞれ単独でコントロールもできるようにしてくれれば、
使い手側で選択できるのに……、と思ってもいた。

CDが登場して、わりとすぐに聞くようになったのは、
デジタルだから振幅を変化させても位相特性は変化しない、ということだった。
その2、3年経ったころだったと思うが、
今度は、いやデジタルでも振幅を変化させれば位相もそれに応じて変化するのは、
アナログと同じである、ともいわれはじめた。

どちらも正しい。
IIR型デジタルフィルターなのか、FIR型デジタルフィルターなのかによって、それは異るからだ。
IIR(Infinity Impulse Response)型では振幅特性とともに位相特性も変化していく。
FIR(Finite Impulse Response)型では、振幅のみを独立して変化できる。

いまはこんなふうに書いているけれど、私もデジタルフィルターにIIR型とFIR型とがあることを知ったのは、
1980年代の終りごろだった。
それも、どちらがより高度な処理なのかは、
振幅特性、位相特性をそれぞれコントロールできるFIR型であることはわかっていたものの、
それが実際にはどの程度の違いなのか、具体的なことまでは知らなかった。
このときになって思ったのは、あのときデジタル信号処理についての話には、
FIR型に関しては、実際に製品に導入することはあの時点では無理があったんだろうな、ということだ。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その18)

LS5/1はトゥイーターのHF1300に手を加えて搭載している。
LS5/1AのウーファーのグッドマンCB129Bも、
そのままではなく、フレームの左右は垂直にわずかとはいえ切り落している。
そうすることで、フロントバッフルの幅をぎりぎりまで狭めている。

イギリスの、それもBBCモニター系列のスピーカーシステムのエンクロージュアのプロポーションは、
横幅はわりと狭く、奥行が概して長くとられている。
高さ方向も、わりと高い方である。

アメリカのスピーカーシステムでは、どちらかといえば横幅が広く、奥行はわりと浅い傾向にある。
その極端な例のひとつが、1980年代に日本にはいってきたボストン・アコースティックスのA400だ。
ここまで奥行を浅くしたイギリスのスピーカーといえば、
ジョーダン・ワッツのモジュールユニットをおさめたものが薄型エンクロージュアだが、
これ以外では、とくにBBCモニター系列のなかにはまず見当たらない。

エンクロージュアのプロポーションは、とうぜん音の傾向に大きく関係してくる。
それにしても、なぜLS5/1Aでは、ウーファーのフレームを切り落としてまでも、
横幅を狭めているのか、と思う。
板取の関係とは思えない。

LS5/1Aはもともと市販するために開発されたものではなく、
そこで板取を優先した結果としてフロットバッフルの大きさが決り、
それに合わせるためのウーファーのフレームの加工、というふうには考えにくい。

これは、やはりエンクロージュアの横幅を狭めることの音質上のメリットを優先してのことだと思う。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12の補足)

ステレオサウンド 51号に「♯4343研究」の第一回が載っている。
サブタイトルには、ファインチューニングの文字があり、
JBLのプロフェッショナル・ディヴィジョンのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンをまねいて、
ステレオサウンドの試聴室で、実際に4343のセッティング、チューニングを行ってもらうという企画だ。

いまステレオサウンドでは、過去の記事を寄せ集めたムックを頻繁に出しているが、
こういう記事こそ、ぜひとも収録してほしいと思う。

この記事の中で、スピーカーのセッティングは、
ふたつのスピーカーを結ぶ距離を底辺とする正三角形の頂点が最適のリスニングポイント、となっている。
ステレオ再生の基本である正三角形の、スピーカーと聴き手の位置関係は、大事な基本である。

マルゴリスは、正三角形の基本が守られていれば、
スピーカーのバッフルを聴き手に正面を向くようにする必要はないと語っている。
その理由として、水平方向に関しては60度の指向特性が保証されているから、ということだ。

さらにスピーカーシステムにおいて、指向特性が広帯域にわたって均一になっていることが重要なポイントであり、4343、つまり4ウェイの構成のスピーカーシステムを開発した大きな理由にもなっている、として、
他では見たことのないグラフを提示している。

そのグラフは、水平方向のレスポンスが6dB低下する角度範囲を示したもので、
横軸は周波数、縦軸は水平方向の角度になっている。

十分に低い周波数では指向特性はほとんど劣化していない。周波数が上っていくのにつれて、
角度範囲が狭まっていく。
グラフはゆるやかな右肩下りを描く。

グラフ上には、4ウェイの4343、3ウェイの4333、2ウェイの4331の特性が表示されていて、
ミッドバスユニットのない4331と4333では500Hzを中心とした帯域で指向特性が劣化しているのがわかる。
4331ではこの帯域のほかに、トゥイーターの2405がないためさらに狭まっていく。
4343がいちばんなだらかな特性を示している。

ただしこれはあくまでも水平方向の指向特性であり、垂直方向がどういうカーヴを描くのかは示されていない。

マルゴリスは、指向特性が均一でない場合には、直接音と間接音の比率が帯域によってアンバランスになり、
たとえばヴォーカルにおいて、人の口が極端に大きく感じられる現状として現れることもある、としている。

別項でもふれているように、4ウェイ構成は、なにも音圧だけの周波数特性や低歪を実現するためだけでなく、
水平方向の指向特性を均一化のための手法でもあり、
私は、瀬川先生は指向特性をより重視されていたからこそ、4ウェイ(4341、4343)を選択され、
さらにKEFのLS5/1Aを選択された、と捉えている。

だから瀬川先生のリスニングルームに、4341とLS5/1Aが並んでいる風景は、
瀬川先生が何を求められていたのかを象徴している、といえる。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その17)

LS5/1では、なぜトゥイーターを直接フロントバッフルに取りつけなかったのか、
その理由はHF1300を2本使っていることと関係している。
つまりできるかぎり2つのHF1300を接近させて配置するため、である。

HF1300をそのままとりつけると、当然取付用のためのフレーム(フランジ)の径の分だけ、
HF1300の振動板の距離はひらくため、これをさけるためにLS5/1では、HF1300のフランジを取りさっている。
だから、そのままではバッフルには取りつけられない。

以前のJBLのトゥイーターの075、2405も初期の製品ではフランジがなかった。
そのため4350の初期のモデル(ウーファー白いタイプの2230)では、2405のまわりに、
いわゆる馬蹄型の金属の取付金具が目につく。

4350のすぐあとに発表された4341では、075にも2405にもフランジがつくようになっており、
バッフルにそのままとりつけられている。
4350もウーファーが2231に変更された4350Aからは、2405のまわりに馬蹄型の金具はない。

LS5/1の、トゥイーター部分の鉄板は、このフランジがわりでもある。
おそらくHF1300からの漏れ磁束を利用して鉄板を吸い付けていると思われる。
もちろんこれだけでは強度が不足するので、コの字の両端をすこし直角に曲げ加工した金属を使って、
HF1300を裏から保持している。

つまりLS5/1のトゥイーターは、2本のHF1300をひとつのトゥイーターとして見做している、といえる面がある。
しかもそれは現実には1つのユニットでは実現不可能な、振動板の面積的には、この部分は2ウェイいえる。
ウーファーとのクロスオーバー周波数の1.75kHzから3kHzまではふたつのHF1300は、同条件で鳴り、
振動板の面積は2倍だが、3lHz以上では上側のHF1300はロールオフしていくから、
振動板の面積的には疑似的に下側のHF1300の振動板の面積にしだいに近づいていく。

LS5/1全体としては、振動板の面積でとらえれば3ウェイという見方もできなくはない。

Date: 5月 7th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その16)

LS5/1はHF1300を、縦方向に2本配置している。
ウーファーとのクロスオーバー周波数は1.75kHzで、3kHzからは上の帯域になると、
トゥイーター同士の干渉を減らすためだろう、上側のHF1300はロールオフさせている。
そして、トータルの周波数特性は付属する専用アンプで補整する。

2つのHF1300はフロントバッフルに直接取りつけられているわけでなく、
四角の鉄板に取りつけられたうえで、バッフルに装着されている。
しかも2つのHF1300はぎりぎりまで近づけられている。

おそらく、これは高域に行くにしたがって、音源がバラバラになることをふせぐためで、
上側のHF1300のロールオフと作用もあってか、実際にLS5/1の音像定位は見事なものがある。

ここも、トゥイーター選びのネックとなる。
いまどきのドーム型トゥイーターをみればわかるがフレーム部分の径が大きすぎる。
LS5/8に搭載されているオーダックスのトゥイーター、
振動板の口径は25mmだが、トゥイーターとしての口径は100mmほどある。
これではぎりぎり近づけて配置したところで、2つのトゥイーターの振動板間が開きすぎてしまう。

こうなってしまうと、LS5/1的なトゥイーターの使い方ではなく、
一般的な、1本だけの使用のほうがいい結果が得られるだろう。

LS5/1的にするためには、トゥイーターのフレーム径が小さくなくてはならない。
しかもカットオフ周波数が1.75kHz付近から使えるものでなくてはならない。

Date: 5月 7th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その15)

本格的に構想を練る前に、ぼんやりと、いまLS5/1を作るとしたら、
トゥイーターには何を選ぼうか、と思っていた時期がある。

LS5/1に採用されていたセレッション製のHF1300はもう入手できない。
いくら妄想組合せ、とはいっていても、いざつくろうとしたときに、
たとえそれが中古であろうと、ある程度入手が可能なものでなければ、完全な妄想で終ってしまう。

できれば新品で入手できるもの、でもそのなかにぴったりのものがなければ、
比較的程度のいいものが入手しやすいユニットでもいい、
それらの中で、HF1300に近いものはないかと探してみた。

LS5/8に採用されたフランス・オーダックスのトゥイーターも考えた。
でも、同じトゥイーターは入手できなくなっている。
仮に入手できたとしても、そのまま使うのは、なんとなくおもしろくない。

私がオーディオに関心をもちはじめた1970年代は、スピーカーの自作もひとつのブームだったようで、
スピーカー自作に関する記事も、そのための本も、いくつも出ていた。
スピーカーユニットを単売しているメーカーも多かった。

トゥイーターだけに関しても、国内メーカーでは、アイデン、コーラル、クライスラー、ダイヤトーン、
フォステクス、ゴトーユニット、Lo-D、マクソニック、日本技研、オンケン、オンキョー、オプトニカ、
オットー、パイオニア、スタックス、テクニクス、ヤマハ、YLがあり、
海外メーカーでは、アルテック、セレッション、デッカ、エレクトロボイス、グッドマン、イソフォン、JBL、
KEF、フィリップス、ピラミッド、リチャードアレンなどが輸入されていた。

80年代にはいり、少しずつ、その数は減っていき、いまはまた、ここにあげたメーカーとは違う、
海外のスピーカーユニットが、インターネットの普及とともに入手できるようになってきたものの、
HF1300の代替品となると、どれも帯に短し襷に長しという感じで、これだ、と思えるものが見つからない。

Date: 5月 6th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その14)

現在のコーン型スピーカーを発明したのは、ゼネラル・エレクトリック社の技術者だった
チェスター・ライスとエドワード・ケロッグで、
1925年に発表したものがその原型というふうに説明されることが多いが、
実はこれより50年ほど前にすでに発明されている。

しかもアメリカとドイツで、ほぼ同時期に特許が申請されている。
けれど、ドイツ・シーメンスの技術者エルンスト・ヴェルマーが申請したのは、1877年の12月。
まだトランジスターはおろか真空管も登場していなかった時代ゆえに、当然アンプなどいうものはなく、
原理的には音が出るはずだということでも、実際に鳴らすことはできずに終っている。

19世紀の後半に逸早く、ピストニックモーションによるスピーカーを発明しているシーメンスが、
ピストニックモーションに頼らないリッフェル型スピーカーを、これまた逸早く生み出し、
その流れを汲むAMT型を、やはりドイツ人のハイル博士が生み出し、
さらにマンガー、ジャーマン・フィジックスからも、ベンディングウェーブのスピーカーが登場していることは、
ドイツという国柄と併せて、興味深いことだと思っている。

実をいうと、LS5/1を、「いま」作ってみたいと思いはじめたときに、
トゥイーターとしてまっ先に頭に浮んだのが、このAMT型である。

Date: 5月 6th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その13)

AmazonのA.M.T. Oneの、その型番が示しているように、
Air Motion Transformer型のトゥイーターを搭載している。

AMT型トゥイーターは、ハイルドライバー型を原形とするもので、
ドーム型、コーン型、コンプレッションドライバーなどが、振動板を前後方向にピストニックモーションさせて、
音の疎密波をつくりだしているのに対して、AMT(ハイルドライバー)型は、
振動板(というよりも膜)をプリーツ状にして、この振動膜を伸び縮みさせることで、
プリーツとプリーツの間の空気を押しだしたり、吸い込んだりして疎密波を生む。

これも、ジャーマン・フィジックスのDDDユニット、マンガーのMSTユニットと同じように、
ベンディングウェーブ方式の発音方式であり、
この動作方式は古くはシーメンスのリッフェル型から実用化されている(日本への紹介は1925年)。

つまりシーメンスも、ジャーマン・フィジックスも、マンガーもドイツである。
ハイルドライバーはアメリカで生まれているが、開発者のオスカー・ハイルはドイツ人である。

ハイルドライバーはアメリカのESS社のスピーカーシステムに搭載されて、1970年代に世に登場した。
のちにスレッショルドを興したネルソン・パス、ルネ・ベズネがいた時代である。

ESSからはずいぶん大型のハイルドライバーまで開発され、
同社の1980年代のフラッグシップモデルTRANSAR IIでは90Hzと、かなり低い帯域まで受け持っている。

オスカー・ハイル博士は、ドイツにいたころ、このAMT方式を考え出したものの、
当時の西ドイツでは製品化してくれるところがなく、アメリカにわたってきている。
ESSはハイル博士の、その情熱に十分すぎるほど応えているといえたものの、
日本ではそれほど話題にならず、ほとんど見かけることはなくなっていった。

そのハイルドライバーがAMTと呼ばれるようになり、ドイツでは、いまや定着したといえるほどになっている。
ELACのCL310に搭載された JETトゥイーターもそうだし、
ムンドルフ、ETONといったドイツのメーカーからも単体のAMTユニットが登場している。
ドイツではないが、スペインのメーカー、beymaもAMT型トゥイーターを出している。
これら以外にも、もうすこしいくつかの会社がAMT型のユニットを作っている。

Date: 5月 5th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12)

ウーファーの開口部を四角にすることのデメリットはある。
そのデメリットをさけて、さらに指向特性もよくしていこうとすれば、
必然的に2ウェイから3ウェイ、さらに4ウェイへとなっていく。

ここに、瀬川先生が、4ウェイ構成をとられてきたことの大きな理由がある、私は考えている。

もちろん4ウェイにも、メリット・デメリットがあり、指向特性に関してもメリット・デメリットがある。
それぞれのスピーカーユニットに指向特性のいいユニットを採用して、
さらに指向特性が良好な帯域だけを使用したとしても、それで指向特性に関してはすべてが解決するわけではない。

指向特性には水平方向と垂直方向があり、
4ウェイにおいて4つのスピーカーユニットをバッフルにどう配置するかによって、
水平・垂直両方向を均等に保つことは、ほぼ不可能なことだ。

4341、4350、4343、4345などで4ウェイ路線をすすめてきたJBLも、
1981年に2ウェイ構成のスタジオモニター4430、4435を発表している。
ホーンの解析がすすみ、バイラジアルホーンの開発があったからこその、
4300シリーズの4ウェイ・モニターに対する2ウェイの4400シリーズともいえる。

ただ、この項では、2ウェイなのか、4ウェイなのかについては、これ以上書かない。
この項では、独自のLS5/1を作ってみたい、ということから始まっているので、
あくまでも2ウェイのスピーカーシステムとして、どう作っていくかについて書いていく。

ウーファーの開口部は、LS5/1と同じように四角にする。
これはLS5/1と同じように、38cm口径のウーファーに1kHz以上までうけもたせるからである。

BBCモニターも、LS5/8、PM510の初期モデルでは採用していたが、途中からやめている。
そんなぐあいだから、現在市販されているスピーカーシステムで、
この手法を採用しているものはないと思っていたら、意外には、ひとつ見つけることができた。

ドイツのAmazonのA.M.T. Oneという2ウェイのスピーカーシステムだ。