Archive for category 朦朧体

Date: 3月 21st, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その4・補足)

この項の(その4)をすぐあとに、この補足を書くつもりでいたのに、
ころっと忘れてしまっていて、いまごろ思い出した。

(その4)で書いたように、ケイト・ブッシュはオマケで録音したものだった。
だから興味のあった女性ヴォーカリストから聴いていていって、
最後に、これも一応聴いてみよう、という、はじめて耳にする音楽に対しては失礼な態度だった。

写真で見るかぎり、ケイト・ブッシュは私にとって、ちょっとおかしな女の子だった。

なのにイントロが終ってケイト・ブッシュの歌声を聴いたとたんに、
強い衝撃を受けたときによくいわれるように、背筋に電流が走った。
こういう言い方がゆるされるなら、背筋が屹立した。

それはクラシックの名演奏を聴いたときの強い感動とはまた異質の衝動だった。

あの日から30年以上経つ。
いまだに、背筋の屹立による快感がどこかに残っているのだろう、
ケイト・ブッシュの歌から離れることができないでいる。

Date: 3月 7th, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その37)

カザルスのベートーヴェンの交響曲を知ったことが、
ロジャースのPM510に、スレッショルドの800Aを組み合わせようとしていたことを、思い起こさせた。

やはりどこかで鳴ってくる音に「凄み、凄さ」を求めている。
そのためには、十分な音の強さが必要となってくる。

PM510の音色、音の表情は、どんなアンプをもってこようとも、凄みを感じさせるようにはなってくれない、
と思ってしまった。
いまでは、出しにくい、とは思うものの、出ない、とは思ってはいないが、当時、まだハタチそこそこだった私は、
愚かにも、そう思ってしまい、PM510を手ばなした。

次にやってきたシーメンスのコアキシャルは、古いタイプのスピーカーユニットである。
これを90cm×180cmの平面バッフルにとりつけて、6畳足らずの狭い部屋に、文字通り押し込んだ。

コアキシャルの周波数レンジはPM510よりも狭い。
6畳間における平面バッフルとしては、限界に近い大きさのものにとりつけても、
低域は決して伸びていないし、高域に関しても一時代前のスピーカーという程度であった。
ただ能率は高い。
そして、コアキシャルがうち出してくるリズムに、PM510、というよりも、
BBCモニター系のスピーカーシステムにはない強さがあって、しかも硬質である。

カザルスのベートーヴェンが、こちらに迫ってくる、というよりも、なにかをつきつけてくる。

Date: 3月 1st, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続×八・余談)

レヴィンソンのことに触れたついでに書いておくと、
LNP2、JC2のモジュールの特徴は回路構成以外にもある。

LNP2、JC2が日本に入ってきたとき、ある国産メーカーがモジュールのX線写真を撮った、という話がある。
それがどこのメーカーなのか、わからないけれど、おそらくヤマハだと推測できる。

マークレビンソンのモジュールをひっくりかえすと、接続用のピンが出ている。
そして微調整用の半固定抵抗か頭を出している。
ということはモジュールの中にははいっているプリント基板は、上下逆さまになっているわけだ。
通常ならプリント基板の上部に、トランジスター、抵抗、コンデンサーなどがのっかるかたちになる。

ところがマークレビンソンのモジュールはプリント基板に部品がぶら下がる形になっている。

JC2の登場によって、日本のメーカーからも薄型のコントロールアンプがいくつも出てきた。
ヤマハのC2もそうだ。
あまり語られないことだが、C2はマークレビンソンのモジュール同様、プリント基板が上下逆になっている。
改良型のC2aもその次のC2xもそうだ。

プリント基板の向きがどちらでも、音には影響ないだろう、と思う人もいるかもしれないが、
実際には、かなり大きく影響している。
試しに、ヤマハのC2、マークレビンソンのJC2を天地逆にして音を聴いてみると、おもしろい。

Date: 3月 1st, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続×七・余談)

ジョン・カールにいわせれば、マークレビンソンのパワーアンプML2は、
彼の設計によるもので、本来ならばJC3と名づけられるもの、となる。

以前書いたように、JC3がML2のプロトタイプになっていることは確かなことで、
CEショウに最初に出品されたプロトタイプは、15W+15Wのステレオ仕様である。
外観は、ほぼML2と同じで、電源スイッチが左右独立していて、2つある。
おそらくこれがJC3なのだろう。

JC3の回路図には増幅部と電源部しかない。
ML2の回路図には保護回路も含まれている。
実際に試したことはないから、どこまで本当なのかははっきりしないが、
瀬川先生が週刊FMに書かれていた記事のなかに、動作中のML2に水をかけても瞬時に保護回路が働き、
スピーカーを保護する、とあった。もちろんML2本体は故障するだろうけども。

マーク・レヴィンソンらしい、と思う。
ボンジョルノなら、そういう保護回路はつけないはずだから。

保護回路にも、ジェームズ・ボンジョルノとマーク・レヴィンソンの性格の違いは現れてきている。

Date: 2月 23rd, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続×六・余談)

意外なほどThe Goldは安定していた。
保護回路を搭載していないのもうなずけるぼとに安定している。

ただ正月に帰省したあと一週間ぶり電源をいれるときは、わすかなポッという音がしたけれど、
これすら2日目からは出なくなっていく。

電源を切るときにも、何のノイズも出ない。
あまりオーディオ雑誌には書かれないようだが、
海外製のパワーアンプの中には、電源を切るときにウーファー大きく前後に揺れるものや、
いやな感じのノイズを出すものがあったりする。

The Goldは毎日使っていると、きわめて安定していた。
それでも、電源をいれるときには、いつも心の中で
「今日も頼むぞ」とつぶやていた。

ある日、ついうっかり、このつぶやきをわすれて電源を入れた瞬間、
出力段の平滑コンデンサーがひとつダメになってしまった。
部品の劣化による故障。
ウーファーのコーン紙が前に飛び出してボイスコイルボビンが磁気回路から外れてしまった。

このときは手放すことを、ちょっと考えた。
でも修理から戻ってきたThe Goldはそれまでと同じように安定して、それからは故障知らずだった。

私は、ボンジョルノのアンプが不安定だとは、まったく思っていない。

Date: 2月 2nd, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続×五・余談)

いくつかの話から考えられるのは、
ボンジョルノの設計したアンプが故障しやすい、といわれるようになったのは、
GAS以降であること、そして日本において、とくにそうであることから、
回路そのものに原因がある、というよりも、むしろ作りに問題があったのかもしれない。

The Goldの中古を手に入れて、まずしたことは、バラせるところはすべてバラして、
丹念にクリーニングしたこと。
接点はもちろん、プリント基板も、行った。
そして、こわれても惜しくないスピーカーをつないで、一週間、その動作を見守っていた。

最初に電源を入れたとき、ボツッ、という音がした。
ファンの音も、けっこう耳障りだ。
でも、それ以外に、不安にさせる雑音は出てこない。
このとき接いでいたのは、けっこう能率が高いスピーカーだったけれど、問題はなさそうだ。

音を出す。
正直、すぐにでもメインのスピーカーシステム、このときはセレッションのSL600に接いで鳴らしたかった。

でもとにかく一週間は、サブスピーカーを鳴らして、様子をみることに決めていたので、がまん。
2日、3日と聴いていくうちに、SL600を鳴らしたい気持は高まっていく。
まったく安定している。

電源投入時のボツッ、という音も、ポツッにかわり、ポッになり、4日目ぐらいからはまったくしなくなった。

The Goldは出力にリレーがない。
保護回路といえば、電圧増幅段の入力のところにあるFETスイッチのみ。
出力段の温度が異常に高くなったときなどに、入力を遮断するくらい。

なのにまったく電源投入時の音がしなくなった。
ほぼ毎日使っていると、このノイズはしない。

Date: 1月 30th, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続々続々・余談)

Ampzillaのキットが、どういう内容だったのか、その詳細は知らない。

すべての部品が未実装で、
トランジスター、コンデンサー、抵抗をひとつひとつプリント基板にハンダ付けしていく形だったのか、
それともプリント基板にそれらの部品はすでにハンダ付けされていて、電源トランス、平滑コンデンサー、
プリント基板、そういった大きなものをシャーシー内に配置して結線して形だったのか……。

おそらくハフラーのキットがそうだったように後者の形をとっていたのではなかろうか。

どちらしてもキット販売をするということは、かなりアンプの安定度に自信がないとできないことだ。
ひじょうにクリティカルな設計のアンプを、キットで売るようなことは、いかにボンジョルノでもやらないだろう。

それにThe Goldを買う前に、こんなことをきいたことがある。
The Gold、The Powerにしてもアンプそのものは非常に安定している。
問題があるのは、アンバランス/バランスの変換回路のところだ、ということだった。

この話の出どこは、海外アンプのメインテナンスでは、高い技術をもっていると評判の人から、である。

SUMOのアンプは、コンシュマー用パワーアンプとしては、完全にバランス構成となった最初のモノだ。
だからアンバランス入力とフォーンジャックによるバランス入力がある。

フォーンジャックからのバランス信号はそのままバランス構成の電圧増幅部にはいっていくが、
アンバランス信号は、OPアンプで反転信号をつくりバランス化して電圧増幅部へ、といく。
この変換回路を、トランスに置き換えてしまえば、アンバランス信号をバランス信号にでき、
動作に問題はなくなる、ということだ。

Date: 1月 30th, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続々続・余談)

日本ではボンジョルノのアンプは、音は抜群にいいけど、それと同程度に不安定という評価が、一時期できあがった。

復活作となったAmpzilla2000以降は安定しているようで、以前のような噂は耳に入ってこない。
単に私のところに届いてこないだけ、の可能性もあるけれど、大きな問題はないようだ。

だが、ほんとうに以前のボンジョルノのアンプは、不安定だったのか。
不安定だったとして、その原因はどこにあったのか。

少なくとも、日本ではボンジョルノの設計そのものに問題があった、といわれていた。
だが、ほんとうだろうか。

GAS以前に、ボンジョルノが、SAEやダイナコ、マランツのアンプ開発に携わっていたことは書いた。
これらのアンプの不安定で、どうしようもない、という話はきいたことがない。
それにSAEのMark2500とAmpZillaの回路は似ている。

もっともアンプの安定度は回路構成だけで決定されるものではない。
使用部品のクォリティや部品配置、プリント基板・配線の引回し方、それに熱・振動の問題などを、
どう処理するかによっても大きく変ってくる。

ならばボンジョルノは回路設計屋であって、アンプの実装技術には未熟なところがあったのか、というと、
少なくともいくつかボンジョルノが携わったアンプをみてみると、どうもみても、そうは思えない。

時代ごとにみていくと、いかに才能豊かなアンプのエンジニアであることがわかってくる。

それにGAS時代のAmpzillaは、本国アメリカではキット版も売られていた。

Date: 1月 26th, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続々・余談)

日本では、SUMO以降のボンジョルノの消息については、パタッととだえてしまった。

なにをやっていたのか、は、やっぱりThe Goldの愛用者としてはひじょうに気になって、
関係者の方数人にきいたことがある。

ある人の話では、SUMOが日本から撤退した後も、新型のパワーアンプをつくっていた、らしい。
SUMOでだったのか、それとも新しい会社だったのかははっきりしなかったが、
ボンジョルノにとって、かなりの自信作だったそうだ。

それは音だけでなく、安定性・信頼性においても、かなりの自信作で、
とにかくこわれやすいという日本での汚名をはらうためのモノでもあったらしい。

ただボンジョルノとしては、ここで心機一転する意味もあってだろうか、輸入元を変えたかったそうで、
ある輸入商社の社長に相談をもちかけた、ということだ。

その社長いわく、
「日本において、輸入元を変えることは、むしろ良くはとられない。
私のところで扱うよりも、以前からのつきあいのある輸入元でやったほうがいい」
と説得したそうだが、ボンジョルノの情熱に押し切られて、とにかく新型のアンプを聴いてみることになった。

社長の自宅のリスニングルームで、試聴は行われたそうだ。

スピーカーは、名器といわれているモノだ。
ここで、スピーカーの型番を書いてしまうと、詳細がはっきりするのであえて書かない。

とにかく、そのスピーカーの、その社長が所有されていた極上のコンディションのものは、
もうすでに手に入れるがきわめて難しいものであったが、
ボンジョルノの自信にみちた、安定度に対する言葉を信じて、そのスピーカーにアンプは接がれた。

電源スイッチを入れた瞬間、ウーファーのコーン紙が燃えてしまった、ときいた。

だから、新型アンプの輸入の話は、ここで終ってしまう。

そのあとはというと、ボンジョルノは肝臓を壊したときいている。
それも肝臓癌だった、という話だ。
しかもボートピープルだったそうだ。

SUMOのThe Goldの出力段の回路構成は特許を取得していたが、
これも日本のクラウン・ラジオに売ってしまった、という話も、また別のところからきいた。

治療費を捻出するためだったのだろうか。

これらの話は、みな、信頼できる人からきいたものばかりだ。
だからボンジョルノの復活は、もうないな……と思っていた。

事実、ボンジョルノのことは、少なくとも日本のオーディオ界ではずっと忘れられていたといっていいだろう。

だからAmpzilla2000で、ボンジョルノが復活したときは、うれしい、という気持以上に、
やっぱり不思議な男だな、というほうが強かった。

マーク・レヴィンソンは、絶対にボンジョルノのようなことにはならないだろう。
マークレビンソンのあとにチェロ、つづいてレッドローズミュージック。
現在はいくつかの会社のコンサルタント的な仕事をこなしながら、Daniel Hertzという会社もやっている。
あと香水もつくっている。
そんなレヴィンソンは、ボンジョルノのような状況に陥りそうになっても、
うまく回避して、次のステップになんなく進んでしまう人物かもしれない。

そんな器用さ・要領のよさは、ボンジョルノには、ない、と言い切っていい。
だからこそ、ふたりのつくる、どちらのアンプに惚れるか、は人によって違う。

私も、学生時代はレヴィンソンのアンプにつよく憧れてきた。
でもいまは、ボンジョルノのアンプ(ボンジョルノの人柄をふくめて)をとる。

とはいうものの、それでも片足の小指の先っぽぐらいは、LNP2の魅力にまだ浸かったまま。

Date: 1月 20th, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続・余談)

ジェームズ・ボンジョルノは、GASの前には、SAE、ダイナコにも関わっている。

ダイナコではStereo400(パワーアンプ)、AF6(チューナー)の開発に携わっていて、
SAEでは、XXXIB、IIIC/CM、IVD/DM(パワーアンプ)などを設計、
さらに日本で、というよりも、瀬川先生が高い評価をされたMark2500も、
直接ボンジョルノが手がけたものではないけれど、回路の基本的なところはボンジョルノの手によるもの。

たしかにMark2500とGAS・Ampzillaの回路図を見比べると、そのことにうなずける。

その前には、ハドレーの622C(パワーアンプ)、マランツのModel 15(パワーアンプ)を手がけている。

GAS、SUMOの輸入元の人から聞いた話では、
マランツ時代も、ボンジョルノは優秀なアンプ・デザイナーだったらしい。
でも、彼はマランツを辞めたのではなく、辞めさせられたんだ、という話だった。

なんでもいい部品をがあるとポケットに入れて持ち帰ってしまうんだとか。
それが会社にバレてしまい、結果としてマランツを離れることになったらしい。

どこまで本当のことなのかはわからない。
けれども、なんとなくボンジョルノだったら、ありそうな話だとも思う。

これは井上先生から聞いた話。
GAS時代に来日した彼とクラブ(女性のいる店のほう)に行ったら、
音楽、オーディオ、ワインの話を夢中でする一方で、視線はつねに女性のほうを追いかけていた、とか。
当時、彼の靴の色は、紫だったらしい。

いまのAmpzillaのサイトを見ると、赤のジャケットを着たボンジョルノの写真がある。

ピアノの腕前はそうとうなもので、ヴァイオリンも弾く、ときいている。
ボンジョルノのCD(もちろんピアノを弾いている)は、3枚発売されている。
Prelude」「This is the Moment」「Candlelight」だ。

楽器の違いはあるけれど、マーク・レヴィンソンの弾くベースとボンジョルノのピアノ、
ふたりの性格・人間性の違いが現れている、といったらすこし大げさだろうか。
(ここには、演奏時の年齢の違いももちろんあるけれど……)

Date: 12月 6th, 2010
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その36)

私がつくろうとしていた349Aのプッシュプルアンプは、伊藤先生が発表されたもので、
回路はウェストレックスのA10とほぼ同じ。
出力段は349Aを五極管接続で使う。UL接続でもなく、三極管接続でもない。
伊藤先生からは、349Aは、五極管接続で使いなさい、といわれたことがある。
しかもNFBは出力段の手前から初段管に返す。
出力段、出力トランスはNFBのループに含まれない。

つまり出力インピーダンスは、そこそこ高い値になる。
いわゆるダンピングファクターは、この値を気にする人にとっては、まったくの論外といえるアンプである。
だから、どんなスピーカーでも鳴らせるものではない。
出力も8Wだし、ダンピングファクターも低い。

PM510がうまく鳴るのか、は結局試さなかったが、うまく鳴ったと思う。
もちろんボリュウムはあまりあげられない。あくまでもひっそりと鳴らす。

けれどPM510にふくよかなよさがあるし、349Aの音の良さからして、
音量をぐんと絞ったときでも、決して音がやせることなく、つつみこむ良さは発揮された、はずだ。
だが、これではカザルスのベートーヴェンを、そのとき私が望んだようには聴けない、という予感もあった。
たった1枚のレコードによって、スピーカーを変える。
もう少し、あときの部屋が広くて、経済的に余裕があればPM510は手放したくなかった。

Date: 12月 6th, 2010
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その35)

スレッショルドの800Aからすると、349Aのアンプは、トランジスターと真空管、
規模も大きく違うし、出力も違いすぎる。
349Aのアンプには、800A的「凄さ」はない。
それでも、清楚な音ということでは、このふたつのアンプは、少なくとも私の中では共通しているものがあった。

いつかは800A、という気持は残っていた。
もし800Aを手に入れることができたとしても、この349Aのアンプだったら、そのまま手もとに置いておける。
季節や気分によって、800Aと接ぎかえて聴くのも楽しいだろうな、とも思っていた。

そうPM510のために、スタンドをつくろう、とも計画していた。
KEFのLS5/1Aの鉄製のスタンドを参考にして、響きのよい木を使って、ほぼ同じ形にする。
そしてパワーアンプの置き台も、LS5/1Aのスタンドと同じように途中にもうけて、そこに349Aのアンプを置こう。
そんなことをあれこれ考えて、楽しんでいた時期だ。

これらをすべて実現するにはけっこうな時間がかかっていただろう。
けれど、一枚のレコードと出会ってしまい、スピーカーを変えることになる。

カザルスのベートーヴェンの第7番と出会ってなければ、PM510をずっと使い続けていたかもしれない。
このとき、シーメンスのコアキシャルにした。

Date: 12月 6th, 2010
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その34)

このとき鳴らしていた私のスピーカーシステムは、ロジャースのPM510。
このスピーカーは、はっきりと女性的な表情をもつ。
まだハタチそこそこたった私にとって、PM510のやわらかい、その表情は年上の女性であった。

そういうスピーカーからの音に、「凄さ」を持たせようとして800Aを組み合わせたかった。
けれど前に書いたように、そこまでの余裕はなかった。
別項で書いたウェスターン・エレクトリックの五極管349Aのプッシュプルアンプをつくろう、としていたのは、
ちょうどこのころの話である。

あるところで、350Bのプッシュプルアンプと349Aのそれを聴いた。
堂々として、音にゆとりがたっぷりとあったのはやはり350Bのアンプで、
349Aは真空管のサイズも小さくなるし、出力も減る(プッシュプルで8Wだった)。

けれど、私の当時の耳には、349Aアンプの音の消え際、
そしてデクレッシェンドしていくときの音のグラデーションが、350Bのアンプだけでなく、
それまで聴いたアンプの中でも出色の美しさであった。
349Aのアンプの後では、デクレッシェンドしていくときの音の減り方に、余分なものがまじって、
素直に減っていかない印象が残る。
なぜそんなふうに聴こえるのか。
音が減衰していくときの階調表現が、なにか書の名人がさーっと書いたものに見事にグラデーションがある、
そんな感じで、けっして鳴ってくる音自体に色数は少ないけれど、その音の美しさは聴くほどに耳に残っていく。

349Aのアンプも、350Bのアンプと比較するまでもなく、はっきりと女性的な、しかもこじんまりした音である。

このアンプとPM510と組み合わせたら、世界は限定される方向に行くけれど、
なにかすごく魅力的な音が、しんみりと聴けそうな予感があった。
だから、349Aのアンプをつくろうと決心した。

Date: 12月 5th, 2010
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その33)

ちょうどステレオサウンドで働きはじめた頃、スレッショルドは新しいラインナップに入れ換えていた。

STASISシリーズからSシリーズへの変更は、
まず鳴ってきた音が、800Aに感じていた清楚さはまだSTASISシリーズにはほのかに残っていたのが、
Sシリーズからはきれいさっぱりなくなってしまった印象で、
それはフロントパネルがわりとそっけないシルバーパネルになってしまったこととなにか関連しているようで、
私のスレッショルドへの想いは急速に薄れていった……。

そのころにはマークレビンソンもML9、ML10、ML11、ML12とローコストの方向にと進みはじめていたし、
SAEもMark2500(2600)はとっくに製造中止になり、Xシリーズへの移行……。

クレルの登場はあったけれど、全体的に私が興味をもっていたメーカーが、
向っていたのは、私にとっては、なにかさびしさを感じさせる方向だった。

もうGASもSUMOも輸入はされていなかった。

ステレオサウンドにはいって知ったことだが、
GASのアンプの不安定さについて聞かされた。さらにSUMOについても、聞かされた。
「いい音なんだけでねぇ……」という枕詞はつくものの、その不安定さは「故障率200%だよ」といわれた。

故障して修理に出す、戻ってくる。しばらく使っていると、またこわれる。そして修理……らしい。
そんなアンプは、絶対に使わない。話を聞きながら、そう思っていた。

スレッショルドが変り、GAS(SUMO)がなくなり、マークレビンソンも変りつつある。
私の中にあったアンプの位置づけは修正しなくてはならなくなっていた。

そして、このあたりから、男性的、女性的という表現も使われなくなっていたように思う。

Date: 12月 4th, 2010
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その32)

瀬川先生が、1981年夏に出たステレオサウンド別冊のセパレートアンプの巻頭原稿のなかで、
マランツ、マッキントッシュ、JBLのそれぞれのアンプを、
「JBLとマッキントッシュを、互いに対立する両方の極とすれば、その中間に位置するのがマランツ」
と位置づけられている。

私の中で、スレッショルドとGASが、ちょうどJBLとマッキントッシュに近い印象で、
女性的・男性的という意味で互いに対立する両方の極だった。
その中間に位置していたのがマークレビンソン(それもML7以降は特につよく感じていた)。

スレッショルドとGASは、音もそうだけれども、アンプのデザインについても、対立する両方の極といえた。

スレッショルドのアンプのデザインとボンジョルノのつくるアンプのデザインを比較する。
STASISシリーズとSUMOのパワーアンプは、スピーカーでいえばJBLとアルテックの仕上げの関係に近いと思う。
JBLの、スタジオモニターであろうと、そのまま家庭に持ち込んでも異和感のない洗練された仕上げに対して、
アルテックの612やA7といった一連のスピーカーの仕上げは武骨である。けっして丁寧とはいえない。

STASIS1が、他社のアンプにはない独特の色気をもち、細部の仕上げもきちんとなされているのに、
SUMOのThe Power、The GoldはアルテックのA7のように、粗いところがある。
こんなところも、ボンジョルノのアンプに対する反撥になっていったし、
スレッショルド、というよりも800Aに惚れ込んでいた私は、
GASのアンプ、ボンジョルノのつくるアンプとは縁はないだろうな、となんとなく思っていた。

なのにスレッショルドのアンプは一度も買うことはなく、いきなりThe Goldを買うことになるから不思議だ。