Archive for category 4343

Date: 10月 13th, 2010
Cate: 4343, JBL
2 msgs

4343とB310(その11)

High Technic シリーズは、数あるステレオサウンドの別冊のなかで、
発行されるのが、とにかく待遠しくいちばん楽しみにしていた本だ。

4冊出ている。
Vol. 1がマルチアンプの特集、Vol. 2がMC型カートリッジについて長島先生が一冊まるごと書かれたもの、
Vol. 3はトゥイーターの、Vol. 4はフルレンジの特集号である。

Vol. 5、Vol. 6……とつづいていっていたら、ウーファーの特集号もあっただろうし、
マルチアンプの続編となる号も出ていたことだろう。
High Technic シリーズだけは、瀬川先生がいきておられたあいだは、つづけて発行してほしかった。

Vol. 4で、菅野、岡両氏との座談会の中で、フルレンジの魅力について瀬川先生は語られている。
     *
一つのユニットで音楽再生に必要な帯域をカバーしようというからには、スピーカーユニットの構造としての基本であるスピーカーコーンを、あまり重く作れないわけですから、反応の早い明るい音が得られると思います。特にその持ち味が、音楽再生で重要な中低域に発揮され、人の声までを含む広いファンダメンタル領域がしっかり、きれいに再生されるのが、ある意味ではフルレンジの最大の特徴であり、魅力ではないかと思います。
     *
いうまでもないことだけど、重要な中低域は、音楽においての「メロディの音域」のこと。
大口径のウーファーユニットが苦手としはじめる帯域こそが、
フルレンジユニットにとっての得意の帯域となっている。
つまり15インチ(38cm)の大口径のウーファーと、16cmから20cmぐらいのフルレンジを、
200〜300Hzを境にして組み合わせる。

フルレンジユニットも、ウーファーと同じコーン型ゆえに、
やはり口径からくる指向性の劣化が生じはじめる周波数がある。

どんなに高性能で理想的な新素材を振動板に採用しても、
コーン型の形状をとるかぎり指向性の劣化はさけられない。16cmのフルレンジでも、2kHzぐらいまでだ。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その10)

瀬川先生の、この構想のなかで具体的になっているのはウーファーについて、である。
大口径、つまり15インチ口径のウーファーということになる。
それも、f0の比較的高いウーファーではなくて、おそらく20Hz前後のf0のウーファーを想定されている、と思う。

つまり比較的重い振動板のウーファーとなる。
そういうウーファーに、低くても500Hz、高ければ1kHzという音域まで受け持たせることに疑問を抱かれている。
500Hzといかば、音楽の帯域でいえば、低音ではなく中音(メロディの音域)になる。
この大切な音域を、重い振動板のスピーカーユニットにはまかせたくない。

軽い振動板を使いながらも、グッドマンのAXIOM80のようにf0をさげることに成功したユニットがある。
AXIOM80は、外径9.5インチ(約24cm)というサイズにもかかわらず、その値は20Hzと、
軽めの振動板を採用したユニットとは思えないほど低い。
かりにそんなウーファーが存在していたとしても、やはり瀬川先生はウーファーに、1kHzまでは使われないはずだ。

軽い振動板を使い、高域特性もすなおに伸びていたとしても、15インチの口径のものであれば、
すでに指向性が劣化しはじめている。
くりかえすが、瀬川先生の構想には、指向性の広さも求められている。

それに、現実のところ、そのようなウーファーはない。
けれど、小口径から中口径(16cmから20cmぐらい)のフルレンジユニットが、存在している。

Date: 10月 11th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その9)

ステレオサウンド別冊のHigh Technic シリーズVol.1 には、
6畳というスペースに大型スピーカーシステムをあえて持ち込む理由について、次のように述べられている。

6畳という限られたスペースではどうしてもスピーカーとの距離を確保できない。近づいて聴くことになる。
そのため、音の歪、それに音のつながりがよくなかったり、エネルギー的にかけた帯域があれば、
広い空間(響きの豊かな空間)よりも、はるかに耳につきやすい。
音の豊かさは、低音域をいかに充実したエネルギー感で、豊かでそして自然にならすかにかかっている。
しかも6畳、それも和室となると、そのままでは低音が逃げていくばかりだから、
かなりしっかりしたウーファーをもってこないと、低音がの量感がとぼしくなり、
音全体の豊かさ、柔らかさ、深みを欠くことになる。

そして部屋の響きを助けがないということは、そこに指向性の狭い(鋭い)スピーカーをもってくると、
よけいに音が貧弱になりがちで、自然な響きがさらに得られにくくなる。
そのためにも全帯域にわたって均一の広い指向性を確保しなければならない。
そして音量についても、小音量だからこそ、できるだけ口径の大きなウーファーで、
できるだけ(部屋のスペースがゆるすかぎり)たっぷりの容積のエンクロージュアにおさめる。

これらの理由をあげられている。
いいかかれば、真のワイドレンジのスピーカーシステムを求められている、わけだ。
周波数帯域(振幅特性、位相特性ともに)、指向性、そしてダイナミックレンジ、
これらがバランスよく、どこにも欠落感がなく、十分に広くあること。

この構造を実現するために方法として、フルレンジユニットからスタートする4ウェイ・システムである。

Date: 8月 31st, 2010
Cate: 4343, JBL
2 msgs

4343とB310(その8)

ずっと以前から、部屋の大きさとスピーカーシステムの大きさを合わせるのが、常識のようにいわれている。
小型スピーカーが、セレッションSL6以降の変化によって、
広い部屋で小型スピーカーを鳴らす人は、もう珍しくなくなってきてはいても、
その逆、つまり狭い部屋に大型のスピーカーシステムを持ち込むのは、バカげたことで意味のないことだ、
いまだ、そんな間違った考えに捕らわれている人はいるようだ。

そんな人たちの言い分のひとつに、狭い部屋では、そういった大型スピーカーの性能を発揮できない、というがある。

たしかに、広く、美しい響きの部屋、しかもつくりもしっかりとしている環境下で鳴らすのと、
狭く、響きの少なく、残響時間も短い部屋で鳴らすとでは、どちらがスピーカーの性能を発揮できるかといえば、
それは前者であることは、私も認める。
だが、スピーカーの性能を発揮させることが、オーディオの第一の目的だろうか。
自分のおかれている環境において、いい音をだすことが第一の目的のはずだ。

このふたつのことは似ていても、けっして同じではない。
このわかりきったことに気づけば、狭い部屋に大型スピーカーを持ち込む行為に、
とやかく言うことはできないはずだ。

そして部屋が狭いから……、などということで、使うスピーカーの選択を自ら狭くすることもない。

Date: 7月 6th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その37)

4343、4341においてひとつ、どうしても想像してしまうのは、ウーファーが2231Aではなく、
4350に搭載された白いコーンの2230だったら、
52μFのコンデンサーの挿入位置は変っていた、つまり通常の位置になっていたかもしれないということ。

この項の(その23)(その24)で述べたことのくり返しになるが、
2231は2230よりも汎用性の高さを狙った設計となっている。
だから2ウェイの4331、3ウェイの4333でも使われているわけだが、
ウーファーのカットオフ周波数が、4331、4333よりも1オクターブ以上低い4ウェイの4341、4343においては、
2231の汎用性の高さはそれほど必要としないし、2230の問題が生じはじめる周波数帯域は避けられるだろう。

2230は、JBLのユニットのなかでは、なぜか短命で終っている。
4341開発時点では、いちおうカタログ上では残っていたようだが、
おそらく製造中止が決定されていたのではなかろうか。

質量制御リングありの2231、なしの2230。
汎用性ウーファーとしての完成度の高さは、ありの2231の方が上だと思う。
それでも4ウェイであれば、そういう汎用性の高さは、必ずしもメリットとはなりにくい。

もっと低い周波数帯域で使うウーファーとしての設計ということになると、2230にも魅力を感じる。
4343に表面が白のウーファーが似合うかといえば、まぁ似合わないだろう。

似合わなくとも、2230にすることで低音の鳴り方は大きく変化するはずだ。
そうなれば52μFのコンデンサーに、
上3つの帯域の信号をすべて通して、という音づくりの必要性はなくなった可能性がある。

バイアンプ駆動でなくとも、低音の響きの透明感は増したかもしれない。そう思えるからだ。

Date: 6月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その36)

とはいえ、いま4343/4341を、優秀なパワーアンプで、内蔵ネットワークを通して鳴らすとして、
52μFのコンデンサーまわりの配線を変えて……、ということは無理に近い。

4344、4345のネットワークはプリント基板上に部品を配置して、
それをケースにおさめることはしていないから、手を加えることは比較的簡単なのだが、
4343のネットワーク3143は、金属ケースにコンデンサーやコイルをおさめた上でピッチで固めてあるからだ。
配線をやりかえようとしたら、このピッチをすべて取り除いて、という作業が必要になり、
そうしてしまったら、もうピッチを元に戻すことはできないからだ。

4343の場合、バイアンプ駆動も可能としているため、4341のネットワーク3141よりもスイッチは増えているし、
配線も多少複雑になっている。
バイアンプをやらずに内蔵ネットワークでの音を追求していくつもりであるなら、
いっそネットワークを作った方がいいだろう。

回路図はJBLのサイトからダウンロードできる。
それに4343に、4344、4345のネットワークをもってくるというのも、おもしろいと思っている。

3143と同じ回路でも、部品が異り、52μFのコンデンサーの扱いをどうするかにより、音はずいぶん変化する。
それにサイズ考で述べたアースの配線を行うことも可能になる。

Date: 6月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その35)

4341が登場したのは1974年。
マークレビンソンのLNP2が登場して話題になりはじめたころである。

このとき市販されていたパワーアンプは、いまのモノのようなドライブ能力の高さを持ってはいなかった。
トランジスターアンプならではのドライブ能力が実現されはじめたのは、もうすこしあとの、
たとえばスレッショルドのデビュー作の800Aや、GASの、これもデビュー作のAmpzilla、
それからSAEのMark2500あたりからであり、
さらに一段飛躍するのが、マークレビンソンのML2L、スレッショルドのSTASIS1、
SUMOのThe Power、The Goldからだろう。

そして1980年代にはいり、オールリボン型、そして低インピーダンスのスピーカー、アポジーの出現により、
より低インピーダンスでも安定した動作を保証するパワーアンプが登場してくる。

パワーアンプの能力は確実に向上している。
いま、4343でも4341でもいい、
どちらかを優れたパワーアンプで鳴らすとしたら、52μFの挿入位置も変ってくるだろう。
通常のネットワークと同じように、ミッドハイとトゥイーターへの信号は、
この52μFを通らなくてもすむ配線に変更されるだろう。それでも、システムとしてのまとまりはくずれないはずだ。

事実、1981年に登場した4345では、
4343の52μFにあたる60μF(実際は20μFのコンデンサーを3個並列接続)の取り扱いは、
通常のネットワークと同じだ。
ミッドハイ、トゥイーターへの信号は、このコンデンサーを経由していない。

52μFのコンデンサーの存在は、あくまでも1970年代なかばにおける、
4343/4341をとりまく環境での答えであったはずだ。時代が変れば、その答えも変っていく。

Date: 6月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その34)

4340のネットワーク3140に52μFのコンデンサーがないように、
4343のネットワーク3143でも、バイアンプ駆動にした場合には、52μFのコンデンサーはショートされる。

どちらもミッドバスのレベルコントロールは、そのまま生きることになる。

ウーファー駆動に専用アンプを設けることで、ウーファーのローパスフィルターのための5.4mHの、直列に入るコイルと、
72μFの、並列にハイルコンデンサーは、ウーファーへの信号系路から切り離される。
5.4mHも72μFも、それぞれコイル、コンデンサーとしては、かなり大きな値である。
これらの部品を信号が通らないこと、
それにウーファーと、それより上の帯域のアースの配線が独立することなどにより、
適切に調整されたバイアンプ駆動の音は、内蔵ネットワークで全帯域を鳴らす音に較べ、
ひとことであらわすなら、よりクリアーになる。

ウーファーの、つまり低音の透明度がぐんと増す。
そのことによって、上の帯域を、それまでのウーファーの鳴り方に合わせる必要はなくなる。
音をすこしぼけさせることで、システムとしてのまとまりを重視しなくてもいいことになる。

4343も4341もウーファーのカットオフ周波数は、300Hzと低い。
この低さが、コイルとコンデンサーに大きな値を要求しているし、そのための難しさが音にも影響している。

つまりカットオフ周波数が低い4343/4341だけに、バイアンプ駆動のメリット(ようするに音の変化)は、
より高いカットオフ周波数の4331/4333よりも大きいといえるはずだ。

4331と4333の開発担当はグレッグ・ティンバースだが、
もし3ウェイの4333をパット・エヴァリッジが担当していたとしても、
2420のローカットのためのコンデンサーを経由させて、2405を鳴らすという方法はとらないような気がする。

52μFの挿入位置は、
内蔵ネットワークで鳴らす際のシステムとしてのまとまりを重視してのことだ、と私は考えている。

Date: 6月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その33)

さらに、そう考えるようになった理由は、もうひとつある。
ステレオサウンド別冊、HIGH-TECHNIC SERIES Vol.3
「世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方」のなかにある。

巻頭座談会で、井上卓也、黒田恭一、瀬川冬樹の三氏が、JBLの4343のトゥイーターをバイアンプ駆動して、
JBLの2405、パイオニアのPT-R7、テクニクスの10TH1000、YLのD1800、マクソニックのT45EX、
ピラミッドのT1の比較試聴をやられている。

2405をバイアンプしたときの音について語っているなかで、瀬川先生の、こんな発言がある。
「4343の内蔵のネットワークを通したもので聴くとある程度音がぼやけるんですね。」
さらに「4343を全音域マルチアンプドライブしている人がいてその音も聴いているのではっきり言えるのだけれど、
内蔵ネットワークというのは、ユニットの音をずいぶん甘くしているということですね。」

井上先生は「それが、4343というシステムをつくっているということでしょう。」と語られ、
さらに「今度の実験で2405のもっている限界みたいなものがわかりましたね。」と続けられている。

それに対して瀬川先生は「内蔵ネットワークがその辺のところをうまくコントロールしていることも言えますね。」と。

バイアンプ駆動、マルチアンプ駆動すれば、内蔵ネットワークを通した時も、音の鮮度が増すから、
そんなこと当然じゃないか、という反論が聞こえてきそうだが、
この試聴に参加されている瀬川先生も、井上先生も、そんなことは百も承知のうえでの発言であることを、
はっきりしておきたい。その前提を無視して、この記事を読んでも何になる。

Date: 6月 3rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その32)

4343のネットワーク3143と、4343の前身4341のネットワーク3141は、
バイアンプと通常ドライブの切換えスイッチの有無だけの違いで、
回路構成、定数の違いことは、前に書いているとおりだ。

ここで注目したいのは、4343と4341のネットワークについてではなく、
4341と、そのバイアンプ専用モデルの4340のネットワークの違いについて、である。
4340のネットワーク3140には、52μFのコンデンサーはない。
52μFのコンデンサーは、ミッドバス(2121)用の低域カットのためのものだから、
エレクトロニッククロスオーバーネットワークによって、
ウーファー用と、それ以上の帯域用にと分割しているわけだから当然といえば、当然なのだが、
3140は、52μF同様、省略できる部品をじつは省略していない。
ミッドバスのレベルコントロール用のアッテネーターである。

レベルコントロールは、エレクトロニッククロスオーバーネットワーク側で行うわけだから、
ミッドバス用のレベルコントロールは必要ない。
52μFは省略して、レベルコントロールは残したまま。

4340と同じ、4ウェイ構成でバイアンプ駆動仕様の4350には、ミッドバスのレベルコントロールはない。
4340/4341、4350、それに4343は、すべて開発・設計には同じパット・エヴァリッジ。

4350には、前に書いているとおり、レベルコントロールはトゥイーター2405用がひとつだけついてる。
4350と4340/4341の開発時期は、わりと近い。

このへんのことを考え合わせていくと、52μFの挿入位置についての答えが見えてくる。

Date: 6月 1st, 2010
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その31)

52μFのコンデンサーの挿入位置を、あえて通常とは違うところにしているのは、
特性やユニットの保護の意味合いではなく、上ふたつの帯域(ミッドハイの2420とトゥイーターの2405)の音を、
あえて甘くしている、というか、すこしぼけさせるためだ、と考えている。

こういう表現すると、なぜ、メーカーが、わざわざ音を悪くするのか、と疑問ももたれるだろう。
だが、スピーカーシステムとしての完成度は、
必ずしも個々のスピーカーユニットの性能をできるかぎり発揮すればいい、というものではない。

ウーファーとミッドバスはコーン型、ミッドハイとトゥイーターはホーン型。
同じホーン型でも2420と2405はダイアフラムの形状が異る。2405はリング状になっている。
ホーンの構造も、異る。
ウーファーとミッドバスのユニットも、コーン型でも、2121はコンケーブ型で、
センターキャップの形状が、通常型の2231Aとは異る。

これらのスピーカーユニットを、ストレートにそのまま鳴らし切ったとしたら、
システムとしてのまとまりは破綻とまではいかなくても、かなり難しい面が出てくるはずだ。

4343を、スピーカーシステムとして仕上げるにあたって、
多少音を甘くすることで音の鮮度感やストレートさは犠牲にしても、
トータルとしてのまとまりを重視したのではなかろうか。

このことが、4343が、素性的にはいいものをもつアンプであれば、
普及価格帯のプリメインアンプでもそこそこ鳴ってくれたことにもつながっているはずだ。

Date: 5月 28th, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その7)

セレッションのSL6の登場が、小型スピーカーシステムの存在を大きく変えた。

LS3/5Aや、ヴィソニックのDavid50などの小型スピーカーシステムは、
大型のモノからは得にくい性質(たち)の音をたやすく出してくれるし、
音量を限定さえすれば、大型スピーカーシステムの上にさりげなく置き、黙って、何も知らない人に聴かせれば、
その質の高さに、大型のほうが鳴っていると錯覚させることはできる。

ただ、ひっそりという音量において、であり、ボリュウムをあげていけば、破綻の色が濃くなってきた。

ところがSL6は、むしろひっそりとした音量で映えるスピーカーというよりも、サイズの小ささを意識させない、
ゆえに小ささゆえに成り立っていた特色は薄れている。

LS3/5AとSL6、どちらが優れた小型スピーカーシステムかは、一概には判断しにくい。

深夜、ひっそりとした音量でインティメイトな雰囲気で、好きな歌い手のレコードを、
その吐息がかかるような至近距離で、濃密に感じとりたいとき、
ややヘッドフォン的な聴き方に近くなるものの、LS3/5Aの醸し出す世界は、おそらくいまでも魅力的だろう。

SL6以降、そのエキスパンドモデルのSL600(SL700)、
セレッションと同じイギリスのアコースティックエナジーのAE1(2)……などが登場した。
これらのスピーカーシステムは、LS3/5A的小型スピーカーではない。
そして、空気の硬い空間においても、本領を発揮できるスピーカーシステムに成長している。

Date: 5月 23rd, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その6)

部屋の空気の硬さは、感覚的なものと書いたが、
部屋の容積とスピーカーの振動板の変位量の比率で考えれば、
やはり部屋の空気の硬さは、容積によって多少の違いはあるといっていいのかもしれない。

部屋の空気の硬さが感覚的なものであったとしても、実際にそうであったとしても、
その結果として、当時話していたのは、狭い部屋(つまり空気が硬い部屋)ほど、
大型のスピーカーシステムを導入すべき、ということだった。

小型のスピーカーシステムでは、硬めの空気を十分に動かすことができない。
これも感覚的ではあるが、空気の硬さにスピーカー側が、やや負けてしまう。

ただ、このことについて話しあっていたのは、1982年ごろのこと。
このときの小型スピーカーといえば、ロジャースのLS3/5Aが代表的な存在だった。
セレッションのSL6の登場以降、次々と現れてきた小型スピーカーシステムは、存在しなかったときの話である。

LS3/5Aはいいスピーカーではあるが、あくまで手の届くほどの近距離に置いて、
ひっそりとした音量で聴いた時に、その魅力を発揮する。帯域もそれほど広いわけではない。
音像も、うまく鳴らした時は精巧なミニチュア的印象で、限定された枠の中での再現ということになる。

「サイズ考」でも書いたように、同じ小型スピーカーでも、LS3/5AとSL6は出発点が異る。

Date: 5月 21st, 2010
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その5)

実際に体験したわけではないけれど、傅さんから以前聞いた話では、ヨーロッパの石造りのりっぱな部屋に、
スパイクつきのスタンドに設置された小型スピーカーシステムは、
サイズを意識させない鳴り方をする、とのことだ。

スパイクを通じてがっしりした床に伝わる振動が、石造りの構造と重量にうまく作用しての結果らしい。

小型スピーカーシステムをスパイクつきのスタンドで使っていても、日本での一般的な部屋と、
ヨーロッパのそういう部屋とでは、スパイクの意味合い(効用)に違いが生じても不思議ではない。
木造の部屋では、特にそうだろう。

小さな部屋といってもさまざまだ。
木造の和室では、音はこもらずに逃げていくことが多いのに対し、
頑丈な造りのマンションの洋室では、音が逃げていく場があまりない。

私がステレオサウンドで働くようになったとき、先輩編集者の話によく出ていたのが、部屋の空気の硬さ、だった。
同じ容積の小さな部屋でも、木造和室とマンションの洋室とでは、空気の硬さは違うはず。
音が逃げていくことの多い木造和室の空気は比較的やわらかく、密室に近い部屋では硬いはず。
同じような造りの部屋でも、容積が違えば、とうぜん広い空間のほうが空気はやわらかい。

あくまでも感覚的な話ではあるが、部屋の空気の硬さの違いがあるだろう、ということだった。

Date: 5月 21st, 2010
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343とB310(その4)

瀬川先生は、ステレオサウンドの創刊号、同じ年(1966年)に出たラジオ技術の増刊「これからのステレオ」に、
フルレンジからはじめ、2ウェイ、3ウェイ、そして最終的には4ウェイに発展させる記事を発表されている。
同じ内容のものは、1977年にステレオサウンド別冊の High Technic シリーズVol.1にも書かれている。

この記事を書かれた時、瀬川先生は木造の六畳の和室がリスニングルームだった。
この空間でクォリティの高い音を聴こうとして、瀬川先生が考えられたのは、
部屋のサイズに見合った小型スピーカーシステムによるものではなく、
その正反対の大型のスピーカーシステムを持ち込むことを提案されている。

小さな空間に大型のスピーカーシステムを持ち込む込んで聴くなんて、
自己満足でしかなく、いい音なんて得られっこない、と主張する人もいる。

そういわれる理由もわからないわけではないが、私も瀬川先生同様、
小さな部屋こそ大型スピーカーシステムの方が、表情豊かな音を聴けることが多いと考えている。

そして、響きの豊かな部屋であれば、むしろ広い部屋でも小型スピーカーシステムが、
意外にも朗々と鳴ってくれることもある。

少なくとも部屋の広さが……、ということは考えずに、本気で惚れこめるスピーカーがあれば、
そしてそれを購入できるのであれば、導入すべき、といいたい。