Archive for category 真空管アンプ

Date: 10月 29th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その9)

アクースタットのAcoustat Xは、3枚のフルレンジのパネルを、角度をつけた構成で、
専用アンプが内蔵されている。

Acoustat Xの輸入元はバブコで、カタカナ表記はアコースタットだが、
輸入元がファンガティにかわり、表記もアクースタットになり、
こちらのほうが認知されているようなのでアクースタットと表記する。

内蔵アンプは、電圧増幅部はトランジスターで、出力段は真空管で構成されている。
コンデンサー型スピーカーの動作上、パワーアンプからの入力信号を、
かなりの高電圧に昇圧しなければならない。
そのためコンデンサー型スピーカーは昇圧用トランスを内蔵している。

真空管アンプでコンデンサー型スピーカーを鳴らす場合、出力トランスが出力管の信号を降圧して、
その信号をスピーカー内蔵のトランスで昇圧するという、いわば無駄なことをやっている。

Acoustat Xは、出力管の出力をそのままコンデンサー・ユニットにつないでいる。
使用真空管は不明だが、かなり高圧が出力できるものだろう。
そうでなければ、昇圧トランスを省くことはできないから。

数年後、ファンガティが輸入をはじめたモデル3は、アンプは省かれ、
昇圧トランスを低音用、高音用とふたつ分け使っている。
もちろんユニットは、フルレンジのコンデンサー型だ。

このファンガティ取扱い時代、推奨アンプはオーディオリサーチの真空管アンプだった。

Date: 10月 29th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その8)

ビバリッジが開発したコンデンサー型スピーカーは、他社とは一寸違っていた。

フルレンジ型のユニットを用い、振動膜の前面にスリットを複数設け、
平面波を、上から見れば、半円筒状に広がっていくように工夫されている。
設置方法も、通常のスピーカーとは異り、壁にぴったりくっつけることが指定されていた。
マッキントッシュのスピーカーXRT20と、ある部分、設計思想が似ていると言えるだろう。

しかもXRT20はリスナーの前面の壁に設置する。
これが当然だが、ビバリッジのスピーカーは、リスナーの真横の設置が標準になっていた。

どんな音がしたのか、というよりも、どういう音場感を提示してくれたのか、
ステレオサウンドの新製品紹介の記事で見た時から、ひじょうに興味があったが、
残念ながら実物を見たこともない。

RM1/RM2は、このスピーカーと同時期に出ている。

おそらく、このコンデンサー型スピーカーの能率はかなり低かったのだろう。
RM1/RM2は聴いていないが、同じ設計者によるRM5が、わずかな間で出ていて、
聴いた印象では、おそらくノイズレベルでは大差ないと思われる。

ビバリッジのコンデンサー型スピーカーと前後して、
アクースタットからもコンデンサー型スピーカーが登場している。

Date: 10月 29th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その7)

ミュージック・リファレンスも登場していた。

主宰者のロジャー・モジャスキーによると、同社のコントロールアンプRM5と
カウンターポイントのSA5の回路はそっくりらしい。
ふたつの回路図を見ると、使っている真空管は6DJ8だし、基本回路構成はたしかに似ている。
とはいえ回路定数はもちろん違うし、コンストラクションも大きく違う。
ただミュージック・リファレンスとカウンターポイントに共通していることは、
どちらも真空管でMCカートリッジ用のヘッドアンプを製品化していることである。

ミュージック・リファレンスがRM4、カウンターポイントがSA2が、それぞれの製品だが、
真空管全盛の時からアンプをつくってきたメーカーが考えもしない、
アマチュア的な挑戦を、いい意味で感じさせてくれるところは、
新興メーカーならではの強みかもしれない。

とはいえ、どちらも聴いたことがあるが、誰でもが容易に使えるというレベルには、
残念ながら達していなかった。

思うに、これらのメーカーのエンジニア、主宰者が使っているスピーカーの能率は、
極端に低いものなのかもしれない、
だからこのノイズレベルでも、おそらく問題とならないのだろう、と。

当時、ステレオサウンドの試聴室のスピーカーのJBL 4344はカタログ上は93dBである。
真空管アンプ全盛のころのスピーカーと比べるとけっして高くはないが、
それでもアメリカから登場した真空管アンプにとっては、能率の高いスピーカーなんだろうと思える。

ミュージック・リファレンスのRM4、RM5の型番から気がつかれているだろうが、
ビバリッジのRM1RM2の設計もロジャー・モジャスキーである。
そしてビバリッジはコンデンサー型スピーカーのメーカーでもあった。

Date: 10月 28th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その6)

伊藤アンプに魅了されているころ、海外から真空管アンプがぽつぽつと現われはじめていた。

まず登場したのがコンラッド・ジョンソンのPreAmplifier(たしかこういう型番だった)で、
そっけないパネルでアマチュアの手作りの雰囲気を残していたが、
井上、山中両氏の新製品紹介の記事では、新鮮な音の印象といったことが書かれていたと記憶している。
このあたりから、新しい──音も回路技術も──真空管アンプが登場してくることになる。

順不同だが、プレシジョン・フィデリティ(Precision Fidelity》から、
金色のフロントパネルのコントロールアンプはC4が登場した。
プレシジョン・フィデリティは、スレッショルドのネルソン・パスのプライベート・ブランドだときいている。

それからビバリッジのRM1/RM2。外部電源採用のコントロールアンプで、
アンプ本体と電源部のシャーシは同じサイズで、たしかアンプ部がRM1、電源部がRM2だった。
多少不安定さがありながらも、調子が良いときの音は格別だったと聞いている。
山中先生が、組合せの特集で、このビバリッジとSUMOのThe Goldを、最高のペアだと言われていた。

カウンターポイントのSA1も登場している。
このころのカウンターポイントは、マイケル・エリオットではなく、
創立者エドワード・フマンコフの設計である。
エリオット設計のSA5から安定していったが、SA1は気難しい面を持っていた。

SA1はステレオサウンドの試聴室で聴いている。
上に挙げた機種とくらべてまずパネルフェイスがこなれていた。
もうすこし安定してくれたら、欲しいのに……と思ったほど、ソノリティの良さは見事だった。

こうやって書いていくと気がつくが、アメリカから登場した真空管アンプはコントロールアンプばかりである。

パワーアンプは、と言うと、イギリスのマイケルソン&オースチンのTVA1が挙げられる。

Date: 10月 28th, 2008
Cate: 伊藤喜多男, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その5)

伊藤先生のアンプは、他の筆者の方の自作アンプとは、たたずまいがまるっきり異っていた。
それは、まだ自作の経験のない中学生にもはっきりとわかるくらいの違いであった。

真空管アンプを自分の手で作るなら、これだ、これしかない、と瞬間的に思い込んでしまった。

次に伊藤先生のアンプを見たのは、
ステレオサウンドで連載が始まった「スーパーマニア」という記事の1回目だった。
その方は、シーメンスのオイロダインとEMTの927Dstを使われていて、
アンプは伊藤先生製作のの300Bシングルアンプとコントロールアンプの純正の組合せ。
カラーではじめて見る伊藤アンプに、またも魅了された。

3回目は、ステレオサウンドの弟分にあたるサウンドボーイ誌に載った、
EL34のプッシュプルアンプの製作記事だ。
この記事がありがたかったのは、製作過程をカラー写真で細部まで明らかにしてくれたことだ。
この記事の写真をよく見るとわかるが、登場するEL34のアンプは1台ではない。
少なくとも2台のアンプを撮影しているのがわかる。
そんなことに気づくほど、写真を何度も見つづけた。

Date: 10月 27th, 2008
Cate: 伊藤喜多男, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その4)

私がオーディオに興味をもったころ、
すでにマランツもマッキントッシュも真空管アンプの製造をやめていた。QUADもそうだ。
五味先生の著書に登場するアンプは、どれも現行製品では手に入らない。

自作という手もあるな、と中学生の私は思いはじめていた。
「初歩のラジオ」や「無線と実験」、「電波科学」も、ステレオサウンドと併読していた。
私が住んでいた田舎でも、大きい書店に行けば、真空管アンプの自作の本が並んでいた。
それらを読みながら、真空管の名前を憶え、なんとなく回路図を眺めていた時期、
衝撃的だったのが、無線と実験に載っていた伊藤喜多男氏の名前とシーメンスEdのプッシュプルアンプの写真だった。

伊藤先生の名前は、ステレオサウンドに「真贋物語」を書かれていたので知っていた。
その内容から、オーディオの大先輩だということはわかっていた。

それまで無線と実験誌で見てきた真空管アンプで、
「これだ、これをそのまま作ろう」と思えたものはひとつもなかった。

それぞれの記事は勉強にはなったが、どれもアンプとして見た時にカッコよくない。
そんな印象が強まりつつあるときに読んだ、伊藤先生の製作記事は文字通り別格だった。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その3)

前にも書いているが、LX38はスペンドールのBCIIとの組合せで聴いた。

五味先生が書かれている、倍音の美しさに関しては、販売店でのイベントということもあって、
実を言うとそれほど感じられなかったが、音の湿りけには魅了された。

音の湿度感は、私にとってけっこう重要というか、乾き切った音は生理的に苦手なところがある。
例えが古いが、エンパイアの4000D/III(カートリッジ》は世評も高いし、
他のカートリッジでは聴けない、見事な乾きっぷりは、ドラムの音や打楽器の爽快感を体感させてくれ、
その魅力は理解できるし、そのためだけにお金が余裕があったら欲しい、と思っても、
4000D/IIIで、私が聴きたい音楽のすべてを聴きたいとは思わない。

断っておきたいのが、音の湿度感の感じ方、捉えかたは、
人によってずいぶん違うことを経験している。
私は4000D/IIIの質感を乾いている、乾き切っていると感じるが、
そんなことはいちども感じたことがはない、という人もいる。
反応の鈍い音を、湿りけをおびた音とネガティヴな意味で使う人もいる。

人の声を聴いた時の、口やのどの湿り、弦楽器の陰の部分の、ほのかな暗さ、
そういうものを無視したかのような音が、私にとっての乾いた音である。

Date: 10月 26th, 2008
Cate: 五味康祐, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その2)

分解能や、音の細部の鮮明度ではあきらかに520がまさるにしても、音が無機物のようにきこえ、こう言っていいなら倍音が人工的である。したがって、倍音の美しさや余韻というものがSG520──というよりトランジスター・アンプそのものに、ない。倍音の美しさを抜きにしてオーディオで音の美を論じようとは私は思わぬ男だから、石のアンプは結局は、使いものにならないのを痛感したわけだ。これにはむろん、拙宅のスピーカー・エンクロージァが石には不向きなことも原因していよう(私は私の佳とするスピーカーを、つねにより良く鳴らすことしか念頭にない人間だ)。ブックシェルフ・タイプは、きわめて能率のわるいものだから、しばしばアンプに大出力を要し、大きな出力Wを得るにはトランジスターが適しているのも否定はしない。しかしブックシェルフ・タイプのスピーカーで”アルテックA7”や”ヴァイタボックス”にまさる音の鳴ったためしを私は知らない。どんな大出力のアンプを使った場合でもである。
     *
五味先生の、「オーディオ愛好家の五条件」のひとつ「真空管を愛すること」からの引用である。

これを書かれたのは1974年。
マークレビンソンのLNP2の輸入をRFエンタープライゼスがはじめたころで、
LNP2の登場以降、著しく進歩するトランジスターアンプ前夜の話とはいえ、
真空管アンプでなければ出ない音が確実にある、ということはしっかりと、
当時中学生の私の心には刻まれていった。

私が、この文章を読んだのは76年。LNP2だけでなく、SAEのMark 2500、スチューダーのA68、
スレッショルドの800A、AGIの511などが登場しており、
明らかに新しいトランジスターアンプの音を実現していたように、
ステレオサウンドを読んでも、感じられた。

76年は、ラックスからCL32が登場している。薄型のシャーシを採用することで、
ことさら真空管かトランジスターかを意識させないよう、
そういうコンセプトでつくられていたのかもしれないが、
76年ごろ、現行製品の真空管アンプの数はいまよりもずっと少なく、
ラックスの他にはダイナコとオーディオリサーチぐらいで、
しばらくしてコンラッド・ジョンソンが登場している状況だっただけに、
強烈に聴きたかったアンプのひとつであった。

実際に聴いた真空管アンプは、同じラックスのプリメインアンプのLX38だった。
もっとも私が生れたころ、家にあったテレビは真空管式だったので、
LX38がはじめて聴いた真空管アンプの音ではないわけだが、
五味先生の文章を読んだ後ではじめて聴いたのは、LX38である。

Date: 10月 25th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その1)

小学校低学年のころ、ひどいゼンソクで、学校を早退したり休んだりが多かった私は、
この時間を利用して、世の中に出ているマンガのすべてを読んでやろう、と思っていた。
でも数年もすれば、いかに無謀なことか小学生でもわかる。
それでは、と考えたのは手塚治虫作品をすべて読もう、ということ。

いまでこそ講談社から手塚治虫全集が出ているが、当時、そんなものはなく、
初期の作品「新宝島」(トレース版)が復刻されたのが、ひじょうに珍しいことだった。

「鉄腕アトム」ももちろんまっさきに買って読んでいた。

オーディオに興味をもちはじめてから読みなおすと、
アトムの腹部には真空管が3本使われていることに気がついた。
真空管が切れたから、といって交換するシーンがある。

ウェスターン・エレクトリックの211Eのような、大型の真空管だ。

なんと強引なこじつけだと自分でも思うのだが、
鉄腕アトムが、他の漫画家の描くロボットに比べ、表情がゆたかで、多くのひとに愛されるのは、
真空管が使われているからだ、と。

五味先生は、オーディオ愛好家の五条件に、「真空管を愛すること」と書かれている。