Archive for category 真空管アンプ

Date: 11月 15th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その19)

実は、一度、ある真空管アンプの輸入商社の担当の方に訊いたことがある。
「ノイズの多さを、設計者は気にしないのか」と。
返ってきた答えは、予想していたとおりのもので、
「彼らが使っているスピーカーは能率が低いですから、気にならないんです」と。

ひとつことわっておくが、この時代、CDはまだ登場していなくて、
アナログディスクが、メインのプログラムソースだったため、
ここで言うノイズは、フォノイコライザーアンプとラインアンプのノイズの加算されたものである。

その答えも理解できなくはない。
ノイズが質や出方が同じで、SN比だけが異る(そんなことはありえないが)のならば、
スピーカーの能率次第で、気にならなくなるだろう。
しかし、前述したように、楽音に粒子の小さな砂が混じっているようなノイズの出方では、
スピーカーの能率の高低で、気にならなくなるということはない。

当時は、それ以上、訊かなかったし、自分なりの結論を出すこともできなかったが、
いまは、スピーカーの能率よりも、スピーカーの形態そのものの違いによるものだと思っている。

Date: 11月 15th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その18)

現在のコントロールアンプだと、S/N比向上にともない、
聴感上のノイズが気になることはあまりないのかもしれない。

アメリカから新興ブランドの真空管アンプが登場したころは、トランジスターアンプでも、
能率の高いスピーカーや近接距離での試聴では、ノイズの出方に注意が行く。

レコードに針を降ろしてボリュームをあげ、音が出るまでのわずかな時間のノイズ、
音楽がピアニシモになったときのノイズの出方はさまざまで、
サーッとワイドレンジで、ホワイトノイズのように広い帯域に分布しているものもあれば、
比較的に耳につきやすい中高域にシフトしているもの、ザーッという感じのもの、
へんな言い方だが、ノイズが左右にきれいに広がり、
バックグラウンドノイズと言いたくなるものもあれば、
ふたつのスピーカーのセンター付近に定位するものもある。

測定上のSN比とは別に聴感上のSN比がいいものは、音楽が鳴り出すと、
ノイズは、楽音と混じりあわない。
けれど、なかには砂をまぶしたように、楽音に絡みつく類のノイズを出すアンプがある。

測定上は同じ値のSN比でも、後者のアンプは、ノイズが耳についてしまう。

砂をまぶしたようなノイズも、砂の粒子がいろいろで、
やはり粒子が小さくなり、しかも乾いてさらさらしているならば、
粒子が大きく湿ってジャリジャリした感じのものよりも、ずいぶんいい。

粒子が小さくて、乾いてさらさらしている感じのノイズを、
新興ブランドの真空管のコントロールアンプに共通してあるように感じていた。

Date: 11月 15th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その17)

アメリカでも、オーディオリサーチ、ダイナコが真空管アンプをつくり続けていた。
とはいえ、アメリカの新興ブランドの真空管アンプと、
真空管アンプ全盛時代のマランツ、マッキントッシュ、QUAD、リークといったブランドのそれらとは、
あきらかに技術の断絶がある、と言いたい。

トランジスターは小信号用も含めて、基本的には電流増幅素子である。
一方、真空管は、出力管もそうだが、電圧増幅素子と考えたほうが良い。
つまり回路全体のインピーダンスが大きく異る。

それから真空管にはヒーター(フィラメント)が必要不可欠で、熱も出す。
機械的な電極から構成され、外側を被っているのは、金属もあるが、大半はガラスだ。
サイズも、トランジスターと比較するとそうとうに大きい。

回路構成も重要だが、真空管の取りつけ方法、それから向き、配線の引き回しなど、
コンストラクションに関して、トランジスターとは、また違う注意が必要になるのに、
技術の断絶からか、トランジスターと同じように扱っているという印象を、
個人的に、新興ブランドの真空管アンプに対して持っている。

もっとも、従来の真空管の使い方にとらわれないから、
従来の真空管アンプとは異る、
そして最新のトランジスターアンプとも違う魅力を持っているのは、確かにそうである。

Date: 11月 3rd, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その16)

伊藤先生を始めとする真空管アンプの製作記事に共通していえるのは、プリント基板を使ったものは、
私が当時見たかぎりではひとつもなかった。

トランジスターアンプでは、プリント基板を使うのが、メーカー製でも自作でも当然だが、
真空管アンプでは使用パーツ点数がトランジスターアンプに比べてそれほど多くないこと、
真空管まわりのパーツも、ソケットとラグ板を利用することで、
プリント基板を使う必要性があまりないこともあってのことだろう。

それにマランツやマッキントッシュの真空管アンプも使っていなかった。
だから真空管アンプ・イコール・プリント基板レスというイメージができあがっていた。
もちろん配線の美しさに、つくった人の技倆がはっきりと現われるけれど。

サウンドボーイ誌には、伊藤先生のワイヤリングを、「美しく乱れた」と表現してあり、
まさしくそのとおりだな、と納得したものだ。

手配線は、つくる人の技倆によって出来不出来が、多少ならずとも生じてしまう。
メーカーが、同じ性能をモノをいくつもつくらなければならない、
そのためにプリント基板を使うのは理解できる。

それでも、当時のアメリカから登場した新興メーカーの真空管アンプの内部のつくりは、
写真を見ると、かなりがっかりさせられた。

Date: 11月 2nd, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その15)

トランジェント特性に優れた方式は、コンプレッションドライバーとホーンの組合せだけではない。
インフィニティ、マグネパンやコンデンサー型スピーカーが振動板に採用しているフィルム。
この軽量のフィルムを、全面駆動、もしくはそれに近いかたちで駆動する方式だ。

いろんな面でまったく正反対だ。
コンプレッションドライバーとホーン型の組合せには、感覚的にだが、ある種の「タメ」があり、
次の瞬間勢いよく立ち上がる。そんな感じを持っている。

一方、軽量のフィルムを振動板に使ったスピーカーはどうか。
それは親指でおさえずに人さし指でモノを弾くのに似ているように思う。
駆動力が確実に伝われば、軽量のフィルムは、すっと立ち上がる。

しかもフィルム振動板の多くは、フィルムにボイスコイルを貼り合せたり、エッチングしたりする。
コンプレッションドライバーのダイヤフラムのように、ボイスコイル、ボイスコイルボビン、
ダイヤフラムというふうに振動が伝わるわけではない。

コーン型にしろドーム型、コンプレッションドライバーも、
ボイスコイルボビンの強度はひじょうに重要である。

コンプレッションドライバーとホーンの組合せと、フィルム振動板の大きな違いは、
放射パターンにもある。

マグネパンやコンデンサー型スピーカーがそうであるように、
後面にも前面と同じように音が放射される。もちろん位相は180度異る。

インフィニティのEMI型ユニットは、後面の放射をコントロールしているが、
インフィニティはシステムとしてまとめるとき、
エンクロージュア後面にもEMI型ユニットを取りつけている。
前面に取りつけているユニット数よりも少ないものの、
同社のフラッグシップモデルだったIRS-Vは、EMI型トゥイーター、つまりEMITユニットを、
前面24個、後面12個という仕様になっている。

トランジェント特性の優れたもの追求しながら、
日本(コンプレッションドライバーとホーンの組合せ)と
アメリカ(軽量フィルム振動板によるダイポール特性)の違い、
このことがアメリカから登場した真空管のコントロールアンプに大きく影響していると考えている。

Date: 11月 1st, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その14)

トランジェント特性、いわゆる過渡特性の優れたスピーカーを語るとき、ホーン型は無視できないだろう。
ここで言うホーン型は、コンプレッションドライバーとの組合せを指す。
ドイツのアバンギャルドは、ホーンを採用しているが、コンプレッションドライバーには否定的である。

最初に断っておくが、コンプレッションドライバーとホーン型スピーカーについて、
感覚的なことを書いていく。

20年ぐらい前からなんとなく思ってきたというか、感じてきたことだが、
コンプレッションドライバーとホーン型スピーカーの動作は、
指で何かモノをはじくときに似ていないかということ。

ふつう人さし指(もしくは中指)を親指で抑えて、
人さし指にある程度力が蓄えられたときに、
親指からはなれると、勢いよく人さし指が前に動く。

親指で抑えずに、人さし指だけを動かしてみると、
どんなに速く動かそうとしても、軌道も安定しないし、スカスカといった感触の動きになる。

コンプレッションドライバーには、この親指の抑えの働きみたいなものが作用しているのでは。
いうまでもダイヤフラムが人さし指にあたる。

親指で抑えられた人さし指は、抑えられていないときに較べて、
力が蓄えられるまでの間、わずかとはいえ時間を必要とする。
コンプレッションドライバーのダイヤフラムも、
コーン型やドーム型のダイレクトラジエーター型にくらべて、
ほんのわずかかもしれないけど、時間を必要とするのかもしれない。
そのかわり、ダイヤフラムは解きはなたれたように、パッとすばやく立ち上がる。

この間(ま)というか、ほんの一瞬の「タメ」と、
すばやいダイヤフラムの動きが、
コンプレッションドライバーとホーン型スピーカーの魅力をつくっているようにも思える。

さらにつけ加えるなら、コンプレッションドライバーのダイヤフラムのエッジも、
ドーム型やコーン型とくらべると硬いことも関係しているだろう。

Date: 10月 31st, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その13)

同じ平面型スピーカーでも、日本とアメリカとではずいぶん異る。
スピーカーの振動板に求められる、高剛性、内部音速の速さ、適度な内部損失、そして軽さ、
これらすべてを高い水準で満たしている材質はないため、さまざまな工夫が生れている。

日本の平面型スピーカーが追求していたのは、当時のカタログや広告からわかるように、
分割振動をなくし、ピストニックモーション領域の拡大、
それからコーン型の形状からくる凹み効果から逃れることだろう。

アメリカはというと、トランジェント特性の追求だと、私は見ている。

だから、日本のメーカーは、多少質量は増えても、まず高剛性であることを重視して、
振動板の材質を選んでいる。

アメリカはどうか。インフィニティのEMI型にしても、マグネパンやコンデンサー型にしても、
振動板の材質は、軽いフィルム系のものである。高剛性よりもまず軽いことを重視している。

Date: 10月 30th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その12)

平面振動板実現へのアプローチ、素材の選択、システムとしてのまとめかたは違っていても、
ほぼ同時期、日本とアメリカで出てきたのは偶然とも言えるだろうし、
素材や加工・製造技術が進歩して、それまでは大量生産が無理だったものが可能になったためかもしれない。

とはいえ結果としてまとめ上げられたシステムは、アメリカと日本では、そうとうに異る。
メーカー間の差よりも大きいと感じている。

日本のメーカーは、平面振動板を実現するのに、高剛性の素材を積極的に採用している。
一方のアメリカのメーカーは、コンデンサー型にしてもフィルムというやわらかい素材のものが目立つ。
そして、システムとしての能率もアメリカのほうが低い。
アメリカのほうがリスニング環境はスペース的にめぐまれているにも関わらず。

やわらかい振動板と低い能率、このことと新しく登場したコントロールアンプの性能と音が、
関係していないと言えないだろう。

Date: 10月 30th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その11)

アメリカから真空管アンプの新顔が登場しはじめた1979年ごろ、
日本のスピーカーには、平面化が流行しはじめていた。

Lo-Dは、従来のコーン型(振動板は金属)のくぼみに充填材をつめ表面をフラットにするとともに、
最上級機のHS10000では、フロントバッフルの寸法が、横90cm、縦180cmの大型エンクロージュアを採用し、
さらに壁に埋め込むことで、バッフル面積をさらに稼ぐよう指定されていた。

ソニー、テクニクス、パイオニアはアルミハニカムコアを振動板に採用。
ソニーは四角い振動板で、テクニクスはアルミハニカムを扇状に広げて円の振動板、
パイオニアは振動板の形状は四角だが、4ウェイを同軸構造とするなど、
一言で平面型といっても、各社のアプローチはずいぶん異っていた。

アメリカでも、似た状況のようで、
コンデンサー型フルレンジユニットに、サブウーファーを足したシステムが第1作のインフィニティは、
その後、ウォルッシュドライバーを採用したりするが、78年ごろ、独自のEMI型ユニットを開発。

エレクトロ・マグネティック・インダクション(EMI)型と名付けられた、このユニットは、
極薄のフィルムに薄膜状のボイスコイルを貼り合せたものを振動板にしている。

同じような構造のユニットはフォステクスから出ているし、
77年、テクニクスから出たリーフトゥイーターも、振動板にボイスコイルをエッチングしている。
リーフトゥイーターをリボントゥイーターの一種と混同されている方がおられるが、
リーフトゥイーターは振動板前面にあるディフューザーに見えるもの、これがないと動作しない。

古いところではマグネパンも存在していたし、KLHも屏風状のコンデンサー型スピーカーをつくっていた。
前述のアクースタットやビバリッジもあったし、カナダからはガスを封入することで
コンデンサー型スピーカーの弱点の解消をはかったデイトンライトも登場している。

Date: 10月 30th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その10)

アメリカから現われた真空管アンプはコントロールアンプに集中している。
これらコントロールアンプと同じころ、
イギリスから登場したのがマイケルソン&オースチンのパワーアンプTVA1だ。

マッキントッシュのMC275と同じ、KT88のプッシュプルアンプで、
トランスのカバーがクロームメッキされていることもあってか、MC275の現代版と呼ばれることもあった。

イギリスという、いわば保守的なイメージがある国からの登場ということもあってか、
古典的な真空管パワーアンプのような印象を持たれがちだったが、
当時、マッティ・オタラ博士が発表し、話題になっていたTIM歪に対して、
オーバーオールのNFB量を最少限にとどめることで、改善を図っていることをうたっていた。

TVA1は、ステレオサウンド 55号のベストバイ特集で、
瀬川先生がパワーアンプのマイベスト3に選ばれている。
日本で、TVA1を高く評価されていたのは瀬川先生だった。

亡くなられる数カ月前に出たスイングジャーナルの別冊では、
アルテックの620Bに、このアンプを使われ、組合せをつくられている。

Date: 10月 29th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その9)

アクースタットのAcoustat Xは、3枚のフルレンジのパネルを、角度をつけた構成で、
専用アンプが内蔵されている。

Acoustat Xの輸入元はバブコで、カタカナ表記はアコースタットだが、
輸入元がファンガティにかわり、表記もアクースタットになり、
こちらのほうが認知されているようなのでアクースタットと表記する。

内蔵アンプは、電圧増幅部はトランジスターで、出力段は真空管で構成されている。
コンデンサー型スピーカーの動作上、パワーアンプからの入力信号を、
かなりの高電圧に昇圧しなければならない。
そのためコンデンサー型スピーカーは昇圧用トランスを内蔵している。

真空管アンプでコンデンサー型スピーカーを鳴らす場合、出力トランスが出力管の信号を降圧して、
その信号をスピーカー内蔵のトランスで昇圧するという、いわば無駄なことをやっている。

Acoustat Xは、出力管の出力をそのままコンデンサー・ユニットにつないでいる。
使用真空管は不明だが、かなり高圧が出力できるものだろう。
そうでなければ、昇圧トランスを省くことはできないから。

数年後、ファンガティが輸入をはじめたモデル3は、アンプは省かれ、
昇圧トランスを低音用、高音用とふたつ分け使っている。
もちろんユニットは、フルレンジのコンデンサー型だ。

このファンガティ取扱い時代、推奨アンプはオーディオリサーチの真空管アンプだった。

Date: 10月 29th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その8)

ビバリッジが開発したコンデンサー型スピーカーは、他社とは一寸違っていた。

フルレンジ型のユニットを用い、振動膜の前面にスリットを複数設け、
平面波を、上から見れば、半円筒状に広がっていくように工夫されている。
設置方法も、通常のスピーカーとは異り、壁にぴったりくっつけることが指定されていた。
マッキントッシュのスピーカーXRT20と、ある部分、設計思想が似ていると言えるだろう。

しかもXRT20はリスナーの前面の壁に設置する。
これが当然だが、ビバリッジのスピーカーは、リスナーの真横の設置が標準になっていた。

どんな音がしたのか、というよりも、どういう音場感を提示してくれたのか、
ステレオサウンドの新製品紹介の記事で見た時から、ひじょうに興味があったが、
残念ながら実物を見たこともない。

RM1/RM2は、このスピーカーと同時期に出ている。

おそらく、このコンデンサー型スピーカーの能率はかなり低かったのだろう。
RM1/RM2は聴いていないが、同じ設計者によるRM5が、わずかな間で出ていて、
聴いた印象では、おそらくノイズレベルでは大差ないと思われる。

ビバリッジのコンデンサー型スピーカーと前後して、
アクースタットからもコンデンサー型スピーカーが登場している。

Date: 10月 29th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その7)

ミュージック・リファレンスも登場していた。

主宰者のロジャー・モジャスキーによると、同社のコントロールアンプRM5と
カウンターポイントのSA5の回路はそっくりらしい。
ふたつの回路図を見ると、使っている真空管は6DJ8だし、基本回路構成はたしかに似ている。
とはいえ回路定数はもちろん違うし、コンストラクションも大きく違う。
ただミュージック・リファレンスとカウンターポイントに共通していることは、
どちらも真空管でMCカートリッジ用のヘッドアンプを製品化していることである。

ミュージック・リファレンスがRM4、カウンターポイントがSA2が、それぞれの製品だが、
真空管全盛の時からアンプをつくってきたメーカーが考えもしない、
アマチュア的な挑戦を、いい意味で感じさせてくれるところは、
新興メーカーならではの強みかもしれない。

とはいえ、どちらも聴いたことがあるが、誰でもが容易に使えるというレベルには、
残念ながら達していなかった。

思うに、これらのメーカーのエンジニア、主宰者が使っているスピーカーの能率は、
極端に低いものなのかもしれない、
だからこのノイズレベルでも、おそらく問題とならないのだろう、と。

当時、ステレオサウンドの試聴室のスピーカーのJBL 4344はカタログ上は93dBである。
真空管アンプ全盛のころのスピーカーと比べるとけっして高くはないが、
それでもアメリカから登場した真空管アンプにとっては、能率の高いスピーカーなんだろうと思える。

ミュージック・リファレンスのRM4、RM5の型番から気がつかれているだろうが、
ビバリッジのRM1RM2の設計もロジャー・モジャスキーである。
そしてビバリッジはコンデンサー型スピーカーのメーカーでもあった。

Date: 10月 28th, 2008
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その6)

伊藤アンプに魅了されているころ、海外から真空管アンプがぽつぽつと現われはじめていた。

まず登場したのがコンラッド・ジョンソンのPreAmplifier(たしかこういう型番だった)で、
そっけないパネルでアマチュアの手作りの雰囲気を残していたが、
井上、山中両氏の新製品紹介の記事では、新鮮な音の印象といったことが書かれていたと記憶している。
このあたりから、新しい──音も回路技術も──真空管アンプが登場してくることになる。

順不同だが、プレシジョン・フィデリティ(Precision Fidelity》から、
金色のフロントパネルのコントロールアンプはC4が登場した。
プレシジョン・フィデリティは、スレッショルドのネルソン・パスのプライベート・ブランドだときいている。

それからビバリッジのRM1/RM2。外部電源採用のコントロールアンプで、
アンプ本体と電源部のシャーシは同じサイズで、たしかアンプ部がRM1、電源部がRM2だった。
多少不安定さがありながらも、調子が良いときの音は格別だったと聞いている。
山中先生が、組合せの特集で、このビバリッジとSUMOのThe Goldを、最高のペアだと言われていた。

カウンターポイントのSA1も登場している。
このころのカウンターポイントは、マイケル・エリオットではなく、
創立者エドワード・フマンコフの設計である。
エリオット設計のSA5から安定していったが、SA1は気難しい面を持っていた。

SA1はステレオサウンドの試聴室で聴いている。
上に挙げた機種とくらべてまずパネルフェイスがこなれていた。
もうすこし安定してくれたら、欲しいのに……と思ったほど、ソノリティの良さは見事だった。

こうやって書いていくと気がつくが、アメリカから登場した真空管アンプはコントロールアンプばかりである。

パワーアンプは、と言うと、イギリスのマイケルソン&オースチンのTVA1が挙げられる。

Date: 10月 28th, 2008
Cate: 伊藤喜多男, 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その5)

伊藤先生のアンプは、他の筆者の方の自作アンプとは、たたずまいがまるっきり異っていた。
それは、まだ自作の経験のない中学生にもはっきりとわかるくらいの違いであった。

真空管アンプを自分の手で作るなら、これだ、これしかない、と瞬間的に思い込んでしまった。

次に伊藤先生のアンプを見たのは、
ステレオサウンドで連載が始まった「スーパーマニア」という記事の1回目だった。
その方は、シーメンスのオイロダインとEMTの927Dstを使われていて、
アンプは伊藤先生製作のの300Bシングルアンプとコントロールアンプの純正の組合せ。
カラーではじめて見る伊藤アンプに、またも魅了された。

3回目は、ステレオサウンドの弟分にあたるサウンドボーイ誌に載った、
EL34のプッシュプルアンプの製作記事だ。
この記事がありがたかったのは、製作過程をカラー写真で細部まで明らかにしてくれたことだ。
この記事の写真をよく見るとわかるが、登場するEL34のアンプは1台ではない。
少なくとも2台のアンプを撮影しているのがわかる。
そんなことに気づくほど、写真を何度も見つづけた。