真空管アンプの存在(その15)
トランジェント特性に優れた方式は、コンプレッションドライバーとホーンの組合せだけではない。
インフィニティ、マグネパンやコンデンサー型スピーカーが振動板に採用しているフィルム。
この軽量のフィルムを、全面駆動、もしくはそれに近いかたちで駆動する方式だ。
いろんな面でまったく正反対だ。
コンプレッションドライバーとホーン型の組合せには、感覚的にだが、ある種の「タメ」があり、
次の瞬間勢いよく立ち上がる。そんな感じを持っている。
一方、軽量のフィルムを振動板に使ったスピーカーはどうか。
それは親指でおさえずに人さし指でモノを弾くのに似ているように思う。
駆動力が確実に伝われば、軽量のフィルムは、すっと立ち上がる。
しかもフィルム振動板の多くは、フィルムにボイスコイルを貼り合せたり、エッチングしたりする。
コンプレッションドライバーのダイヤフラムのように、ボイスコイル、ボイスコイルボビン、
ダイヤフラムというふうに振動が伝わるわけではない。
コーン型にしろドーム型、コンプレッションドライバーも、
ボイスコイルボビンの強度はひじょうに重要である。
コンプレッションドライバーとホーンの組合せと、フィルム振動板の大きな違いは、
放射パターンにもある。
マグネパンやコンデンサー型スピーカーがそうであるように、
後面にも前面と同じように音が放射される。もちろん位相は180度異る。
インフィニティのEMI型ユニットは、後面の放射をコントロールしているが、
インフィニティはシステムとしてまとめるとき、
エンクロージュア後面にもEMI型ユニットを取りつけている。
前面に取りつけているユニット数よりも少ないものの、
同社のフラッグシップモデルだったIRS-Vは、EMI型トゥイーター、つまりEMITユニットを、
前面24個、後面12個という仕様になっている。
トランジェント特性の優れたもの追求しながら、
日本(コンプレッションドライバーとホーンの組合せ)と
アメリカ(軽量フィルム振動板によるダイポール特性)の違い、
このことがアメリカから登場した真空管のコントロールアンプに大きく影響していると考えている。