私的イコライザー考(妄想篇・その14)
BOSEの901に関しての妄想はまだある。
レオ・L・ベラネクの「音楽と音響と建築」には、こうある。
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聴くことによくならされた人──たとえば眼意外の感覚によって自分のまわりの環境についてすべての手掛りを得る盲目の人は、直接音と最初の反響音との時間の長さによって部屋の寸法を測ったり、自分の後の壁までの距離を判断し得る。部屋の寸法を判定する盲目の聴き手の能力は、1795年に書かれたE. ダーウィン著のズーノミア(第2巻、487ページ)に次のように記述されている。盲目の故フィールディング判事が、初めて私の家を訪れたとき、私の部屋に歩み入り、二言三言話した後、「この部屋は奥行き約6.7m、幅5.5m、高さ3.7mありますね」と言ったが、これらはすべて耳でもって大変正確に推定されたものである。聴くことによってホールの寸法を判定するこの能力は盲人に限られていない。
経験の深い音楽の聴き手は、その中で演奏される音楽の音によってつまり初期到達音の時間遅れの大きさで、ホールの大体の大きさを感じ取ることができるだろう。
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どこまで正確なのかは人によっても訓練によっても違ってくるだろうが、
反響音によって、いまいる空間の大きさはある程度は把握できる。
ならばBOSEの901のような構成のスピーカーシステムであれば、
後面のユニットから放射される音に在る一定の時間遅れを生じさせれば──と思ってしまう。
正面のユニットの音の一部も壁に反射して耳に入ってくるわけで、
ことはそう簡単にうまくいかないかもしれないが、
スピーカーの設置、ディレイのかけ方、正面と後面のレベル差、イコライゼーションなど、
複数のパラメーターをうまく調整することで、意外な効果が得られる可能性はあると思う。
901の前身といえる、BOSE最初のモデル2201が登場したが1966年。
ちょうど50年前。901は1968年に最初のモデルが登場している。
2018年で50年になるのだが、残念なことに日本では901の輸入は終ってしまっていたし、
アメリカでもその後に製造中止になっている(ようだ)。
BOSEの901はきわもののスピーカーではない。
私は幸運にも、ステレオサウンド試聴室で井上先生が鳴らされる901の音を何度も聴いている。
この経験がなかったから、901に対して間違った印象を抱えたままだったかもしれない。
それまでも、901という形態のもつ可能性には、それほど気づいていなかった。
ここ数年、901というスピーカーのおもしろさに目覚めた、といってもいい。