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Date: 6月 12th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その19)

BBCモニター系列のスピーカーシステムが、LS5/1から採用してきた、
ウーファーの開口部を矩形にすることを、ストロットと呼ぶ。

LSナンバーをもつBBCの正式モニターでは、このストロットを採用したのはLS5/8が最後だが、
1981年にスペンドールから登場したSAIIIにもストロットは採用されている。
さらに日本のオーディオクラフトが、LS5/8の原型となったチャートウェルのPM450Eを設計し、
ポリプロピレンのコーン型スピーカーに関する特許をもつステビング氏を招いて、
スピーカーシステムの開発を行なっていた。
1982年ごろのことだ。ステレオサウンド 65号のオーディオクラフトの広告で、そのことが触れられているし、
この年のオーディオフェアでも試作品が展示されていた。

型番はAP320で、ロジャースのPM510とほぼ同じ構成で、30cm口径のポリプロピレン・コーン型ウーファー、
ソフトドーム型トゥイーターの2ウェイ構成。
PM510との相違点はトゥイーターが片チャンネルあたり2発使われている。
といってもLS5/1的な使い方ではなくて、フロントバッフルを見る限りは通常の2ウェイ・システムだが、
表から見えるトゥイーターの後ろ側にもう1発のトゥイーターがあり、
表側のトゥイーターの周囲にいくつも開けられている小孔から、そのトゥイーターからの音が放射されるもの。

製品化を待っていたスピーカーシステムだったが、登場することはなかった。
このAP320も、ウーファーの開口部はストロットである。

LS5/1のときは矩形だったストロットは、LS5/8のときには四隅を斜めにカットした形状に変更されている。

この項の(その12)に書いたAmazonのA.M.T. Oneは、
BBCモニターのようにフロントバッフルの裏側からウーファーを取り付けるのではなく、
表側からとりつけ、エンクロージュアの両端にサブバッフルを用意することで、ウーファーの左右を覆っている。
これもAmazon流のストロットといえる。
しかもエンクロージュアの横幅は、これもBBCモニターと同じようにぎりぎりまで狭めている。

Amazonのサイトでは日本の取扱いはスキャンテックになっているが、
スキャンテックのサイトには、取扱いブランドにAmazonはない。
いま日本には輸入代理店がない状態のようだが、A.M.T. Oneは興味をそそるスピーカーシステムだ。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その18)

LS5/1はトゥイーターのHF1300に手を加えて搭載している。
LS5/1AのウーファーのグッドマンCB129Bも、
そのままではなく、フレームの左右は垂直にわずかとはいえ切り落している。
そうすることで、フロントバッフルの幅をぎりぎりまで狭めている。

イギリスの、それもBBCモニター系列のスピーカーシステムのエンクロージュアのプロポーションは、
横幅はわりと狭く、奥行が概して長くとられている。
高さ方向も、わりと高い方である。

アメリカのスピーカーシステムでは、どちらかといえば横幅が広く、奥行はわりと浅い傾向にある。
その極端な例のひとつが、1980年代に日本にはいってきたボストン・アコースティックスのA400だ。
ここまで奥行を浅くしたイギリスのスピーカーといえば、
ジョーダン・ワッツのモジュールユニットをおさめたものが薄型エンクロージュアだが、
これ以外では、とくにBBCモニター系列のなかにはまず見当たらない。

エンクロージュアのプロポーションは、とうぜん音の傾向に大きく関係してくる。
それにしても、なぜLS5/1Aでは、ウーファーのフレームを切り落としてまでも、
横幅を狭めているのか、と思う。
板取の関係とは思えない。

LS5/1Aはもともと市販するために開発されたものではなく、
そこで板取を優先した結果としてフロットバッフルの大きさが決り、
それに合わせるためのウーファーのフレームの加工、というふうには考えにくい。

これは、やはりエンクロージュアの横幅を狭めることの音質上のメリットを優先してのことだと思う。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12の補足)

ステレオサウンド 51号に「♯4343研究」の第一回が載っている。
サブタイトルには、ファインチューニングの文字があり、
JBLのプロフェッショナル・ディヴィジョンのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンをまねいて、
ステレオサウンドの試聴室で、実際に4343のセッティング、チューニングを行ってもらうという企画だ。

いまステレオサウンドでは、過去の記事を寄せ集めたムックを頻繁に出しているが、
こういう記事こそ、ぜひとも収録してほしいと思う。

この記事の中で、スピーカーのセッティングは、
ふたつのスピーカーを結ぶ距離を底辺とする正三角形の頂点が最適のリスニングポイント、となっている。
ステレオ再生の基本である正三角形の、スピーカーと聴き手の位置関係は、大事な基本である。

マルゴリスは、正三角形の基本が守られていれば、
スピーカーのバッフルを聴き手に正面を向くようにする必要はないと語っている。
その理由として、水平方向に関しては60度の指向特性が保証されているから、ということだ。

さらにスピーカーシステムにおいて、指向特性が広帯域にわたって均一になっていることが重要なポイントであり、4343、つまり4ウェイの構成のスピーカーシステムを開発した大きな理由にもなっている、として、
他では見たことのないグラフを提示している。

そのグラフは、水平方向のレスポンスが6dB低下する角度範囲を示したもので、
横軸は周波数、縦軸は水平方向の角度になっている。

十分に低い周波数では指向特性はほとんど劣化していない。周波数が上っていくのにつれて、
角度範囲が狭まっていく。
グラフはゆるやかな右肩下りを描く。

グラフ上には、4ウェイの4343、3ウェイの4333、2ウェイの4331の特性が表示されていて、
ミッドバスユニットのない4331と4333では500Hzを中心とした帯域で指向特性が劣化しているのがわかる。
4331ではこの帯域のほかに、トゥイーターの2405がないためさらに狭まっていく。
4343がいちばんなだらかな特性を示している。

ただしこれはあくまでも水平方向の指向特性であり、垂直方向がどういうカーヴを描くのかは示されていない。

マルゴリスは、指向特性が均一でない場合には、直接音と間接音の比率が帯域によってアンバランスになり、
たとえばヴォーカルにおいて、人の口が極端に大きく感じられる現状として現れることもある、としている。

別項でもふれているように、4ウェイ構成は、なにも音圧だけの周波数特性や低歪を実現するためだけでなく、
水平方向の指向特性を均一化のための手法でもあり、
私は、瀬川先生は指向特性をより重視されていたからこそ、4ウェイ(4341、4343)を選択され、
さらにKEFのLS5/1Aを選択された、と捉えている。

だから瀬川先生のリスニングルームに、4341とLS5/1Aが並んでいる風景は、
瀬川先生が何を求められていたのかを象徴している、といえる。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その17)

LS5/1では、なぜトゥイーターを直接フロントバッフルに取りつけなかったのか、
その理由はHF1300を2本使っていることと関係している。
つまりできるかぎり2つのHF1300を接近させて配置するため、である。

HF1300をそのままとりつけると、当然取付用のためのフレーム(フランジ)の径の分だけ、
HF1300の振動板の距離はひらくため、これをさけるためにLS5/1では、HF1300のフランジを取りさっている。
だから、そのままではバッフルには取りつけられない。

以前のJBLのトゥイーターの075、2405も初期の製品ではフランジがなかった。
そのため4350の初期のモデル(ウーファー白いタイプの2230)では、2405のまわりに、
いわゆる馬蹄型の金属の取付金具が目につく。

4350のすぐあとに発表された4341では、075にも2405にもフランジがつくようになっており、
バッフルにそのままとりつけられている。
4350もウーファーが2231に変更された4350Aからは、2405のまわりに馬蹄型の金具はない。

LS5/1の、トゥイーター部分の鉄板は、このフランジがわりでもある。
おそらくHF1300からの漏れ磁束を利用して鉄板を吸い付けていると思われる。
もちろんこれだけでは強度が不足するので、コの字の両端をすこし直角に曲げ加工した金属を使って、
HF1300を裏から保持している。

つまりLS5/1のトゥイーターは、2本のHF1300をひとつのトゥイーターとして見做している、といえる面がある。
しかもそれは現実には1つのユニットでは実現不可能な、振動板の面積的には、この部分は2ウェイいえる。
ウーファーとのクロスオーバー周波数の1.75kHzから3kHzまではふたつのHF1300は、同条件で鳴り、
振動板の面積は2倍だが、3lHz以上では上側のHF1300はロールオフしていくから、
振動板の面積的には疑似的に下側のHF1300の振動板の面積にしだいに近づいていく。

LS5/1全体としては、振動板の面積でとらえれば3ウェイという見方もできなくはない。

Date: 5月 7th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その16)

LS5/1はHF1300を、縦方向に2本配置している。
ウーファーとのクロスオーバー周波数は1.75kHzで、3kHzからは上の帯域になると、
トゥイーター同士の干渉を減らすためだろう、上側のHF1300はロールオフさせている。
そして、トータルの周波数特性は付属する専用アンプで補整する。

2つのHF1300はフロントバッフルに直接取りつけられているわけでなく、
四角の鉄板に取りつけられたうえで、バッフルに装着されている。
しかも2つのHF1300はぎりぎりまで近づけられている。

おそらく、これは高域に行くにしたがって、音源がバラバラになることをふせぐためで、
上側のHF1300のロールオフと作用もあってか、実際にLS5/1の音像定位は見事なものがある。

ここも、トゥイーター選びのネックとなる。
いまどきのドーム型トゥイーターをみればわかるがフレーム部分の径が大きすぎる。
LS5/8に搭載されているオーダックスのトゥイーター、
振動板の口径は25mmだが、トゥイーターとしての口径は100mmほどある。
これではぎりぎり近づけて配置したところで、2つのトゥイーターの振動板間が開きすぎてしまう。

こうなってしまうと、LS5/1的なトゥイーターの使い方ではなく、
一般的な、1本だけの使用のほうがいい結果が得られるだろう。

LS5/1的にするためには、トゥイーターのフレーム径が小さくなくてはならない。
しかもカットオフ周波数が1.75kHz付近から使えるものでなくてはならない。

Date: 5月 7th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その15)

本格的に構想を練る前に、ぼんやりと、いまLS5/1を作るとしたら、
トゥイーターには何を選ぼうか、と思っていた時期がある。

LS5/1に採用されていたセレッション製のHF1300はもう入手できない。
いくら妄想組合せ、とはいっていても、いざつくろうとしたときに、
たとえそれが中古であろうと、ある程度入手が可能なものでなければ、完全な妄想で終ってしまう。

できれば新品で入手できるもの、でもそのなかにぴったりのものがなければ、
比較的程度のいいものが入手しやすいユニットでもいい、
それらの中で、HF1300に近いものはないかと探してみた。

LS5/8に採用されたフランス・オーダックスのトゥイーターも考えた。
でも、同じトゥイーターは入手できなくなっている。
仮に入手できたとしても、そのまま使うのは、なんとなくおもしろくない。

私がオーディオに関心をもちはじめた1970年代は、スピーカーの自作もひとつのブームだったようで、
スピーカー自作に関する記事も、そのための本も、いくつも出ていた。
スピーカーユニットを単売しているメーカーも多かった。

トゥイーターだけに関しても、国内メーカーでは、アイデン、コーラル、クライスラー、ダイヤトーン、
フォステクス、ゴトーユニット、Lo-D、マクソニック、日本技研、オンケン、オンキョー、オプトニカ、
オットー、パイオニア、スタックス、テクニクス、ヤマハ、YLがあり、
海外メーカーでは、アルテック、セレッション、デッカ、エレクトロボイス、グッドマン、イソフォン、JBL、
KEF、フィリップス、ピラミッド、リチャードアレンなどが輸入されていた。

80年代にはいり、少しずつ、その数は減っていき、いまはまた、ここにあげたメーカーとは違う、
海外のスピーカーユニットが、インターネットの普及とともに入手できるようになってきたものの、
HF1300の代替品となると、どれも帯に短し襷に長しという感じで、これだ、と思えるものが見つからない。

Date: 5月 6th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その14)

現在のコーン型スピーカーを発明したのは、ゼネラル・エレクトリック社の技術者だった
チェスター・ライスとエドワード・ケロッグで、
1925年に発表したものがその原型というふうに説明されることが多いが、
実はこれより50年ほど前にすでに発明されている。

しかもアメリカとドイツで、ほぼ同時期に特許が申請されている。
けれど、ドイツ・シーメンスの技術者エルンスト・ヴェルマーが申請したのは、1877年の12月。
まだトランジスターはおろか真空管も登場していなかった時代ゆえに、当然アンプなどいうものはなく、
原理的には音が出るはずだということでも、実際に鳴らすことはできずに終っている。

19世紀の後半に逸早く、ピストニックモーションによるスピーカーを発明しているシーメンスが、
ピストニックモーションに頼らないリッフェル型スピーカーを、これまた逸早く生み出し、
その流れを汲むAMT型を、やはりドイツ人のハイル博士が生み出し、
さらにマンガー、ジャーマン・フィジックスからも、ベンディングウェーブのスピーカーが登場していることは、
ドイツという国柄と併せて、興味深いことだと思っている。

実をいうと、LS5/1を、「いま」作ってみたいと思いはじめたときに、
トゥイーターとしてまっ先に頭に浮んだのが、このAMT型である。

Date: 5月 6th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その13)

AmazonのA.M.T. Oneの、その型番が示しているように、
Air Motion Transformer型のトゥイーターを搭載している。

AMT型トゥイーターは、ハイルドライバー型を原形とするもので、
ドーム型、コーン型、コンプレッションドライバーなどが、振動板を前後方向にピストニックモーションさせて、
音の疎密波をつくりだしているのに対して、AMT(ハイルドライバー)型は、
振動板(というよりも膜)をプリーツ状にして、この振動膜を伸び縮みさせることで、
プリーツとプリーツの間の空気を押しだしたり、吸い込んだりして疎密波を生む。

これも、ジャーマン・フィジックスのDDDユニット、マンガーのMSTユニットと同じように、
ベンディングウェーブ方式の発音方式であり、
この動作方式は古くはシーメンスのリッフェル型から実用化されている(日本への紹介は1925年)。

つまりシーメンスも、ジャーマン・フィジックスも、マンガーもドイツである。
ハイルドライバーはアメリカで生まれているが、開発者のオスカー・ハイルはドイツ人である。

ハイルドライバーはアメリカのESS社のスピーカーシステムに搭載されて、1970年代に世に登場した。
のちにスレッショルドを興したネルソン・パス、ルネ・ベズネがいた時代である。

ESSからはずいぶん大型のハイルドライバーまで開発され、
同社の1980年代のフラッグシップモデルTRANSAR IIでは90Hzと、かなり低い帯域まで受け持っている。

オスカー・ハイル博士は、ドイツにいたころ、このAMT方式を考え出したものの、
当時の西ドイツでは製品化してくれるところがなく、アメリカにわたってきている。
ESSはハイル博士の、その情熱に十分すぎるほど応えているといえたものの、
日本ではそれほど話題にならず、ほとんど見かけることはなくなっていった。

そのハイルドライバーがAMTと呼ばれるようになり、ドイツでは、いまや定着したといえるほどになっている。
ELACのCL310に搭載された JETトゥイーターもそうだし、
ムンドルフ、ETONといったドイツのメーカーからも単体のAMTユニットが登場している。
ドイツではないが、スペインのメーカー、beymaもAMT型トゥイーターを出している。
これら以外にも、もうすこしいくつかの会社がAMT型のユニットを作っている。

Date: 5月 5th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12)

ウーファーの開口部を四角にすることのデメリットはある。
そのデメリットをさけて、さらに指向特性もよくしていこうとすれば、
必然的に2ウェイから3ウェイ、さらに4ウェイへとなっていく。

ここに、瀬川先生が、4ウェイ構成をとられてきたことの大きな理由がある、私は考えている。

もちろん4ウェイにも、メリット・デメリットがあり、指向特性に関してもメリット・デメリットがある。
それぞれのスピーカーユニットに指向特性のいいユニットを採用して、
さらに指向特性が良好な帯域だけを使用したとしても、それで指向特性に関してはすべてが解決するわけではない。

指向特性には水平方向と垂直方向があり、
4ウェイにおいて4つのスピーカーユニットをバッフルにどう配置するかによって、
水平・垂直両方向を均等に保つことは、ほぼ不可能なことだ。

4341、4350、4343、4345などで4ウェイ路線をすすめてきたJBLも、
1981年に2ウェイ構成のスタジオモニター4430、4435を発表している。
ホーンの解析がすすみ、バイラジアルホーンの開発があったからこその、
4300シリーズの4ウェイ・モニターに対する2ウェイの4400シリーズともいえる。

ただ、この項では、2ウェイなのか、4ウェイなのかについては、これ以上書かない。
この項では、独自のLS5/1を作ってみたい、ということから始まっているので、
あくまでも2ウェイのスピーカーシステムとして、どう作っていくかについて書いていく。

ウーファーの開口部は、LS5/1と同じように四角にする。
これはLS5/1と同じように、38cm口径のウーファーに1kHz以上までうけもたせるからである。

BBCモニターも、LS5/8、PM510の初期モデルでは採用していたが、途中からやめている。
そんなぐあいだから、現在市販されているスピーカーシステムで、
この手法を採用しているものはないと思っていたら、意外には、ひとつ見つけることができた。

ドイツのAmazonのA.M.T. Oneという2ウェイのスピーカーシステムだ。

Date: 4月 26th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その11)

丸いコーン型ウーファーの開口部を四角にすることのメリット・デメリットは、
音量によって、そのバランスが変化してくる。

このごろはどうなのか知らないが、1970年代ではイギリスから来日したオーディオ関係者が、
日本で耳にした音量の大きさに「われわれの耳を試しているのか」と驚いたという話があったし、
ヨーロッパでのレコーディング時のモニターの音量は、アメリカ、日本の感覚すると、
こんどはアメリカ人、日本人が驚くほど小さい、といわれていた。

事実、ヨーロッパでは、QUADのESLがモニタースピーカーとして使われていた、という話もある。

そういうひっそりとした音量では、開口部を四角にして、ウーファーの一部を隠すようなかたちになっても、
このことによるデメリットよりも、メリットのほうに傾くだろう。
反対に音量レベルをあげていくにしたがって、徐々にデメリットのほうに傾いていくだろうし、
あるレベルの音量を超えたら、メリットよりもデメリットのほうが大きくなることだろう。

だから、四角の開口部は、いかなる場合にでもすすめられる手法ではないけれど、
それほど音量をあげないのであれば、しかもあまり帯域分割をしないマルチウェイのスピーカーにおいては、
いまでも有効な手法だと、捉えている。

そして、このことは、瀬川先生がなぜ4ウェイ構成を考えられていたのか、
KEFのLS5/1Aを高く評価されていることとも関係してくる。

瀬川先生の音量は、ひっそりしたものだった。

Date: 4月 23rd, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その10)

実測グラフは、水平方向の周波数特性、つまり0°、30°、60°の出力音圧レベルを表示している。

LS5/5のグラフは、ほぼ全帯域にわたり0°と30°の線は一致している。
10kHz以上で2つのカーブは差を生じるが、そこまでは見事である。
これほどの帯域の広さで0°と30°の特性が一致しているのは、
「スピーカシステム」に掲載されている5機種のなかにはない。

比較的良好なのが、アルテックのA7-500で、数kHz以上から30°の高域特性がかなり下降ぎみで、
0°との特性のあいだに差がでてくる。
ただ0°の周波数特性のフラットさも考慮すると、LS5/5の特性は見事である。

さすがに60°の特性は30°の特性ほどではないけれど、
それでも大きな乱れもなく、やはり良好といえる。

LS5/5の20cm口径のスコーカーの開口部の横幅は10cmである。
写真をみるかぎり、ウーファーの開口部も、同じ寸法のようだ。

コーン型ユニットの開口部を四角にして、横幅を狭くすることによる指向特性の改善は、
LS5/5の実測データからはっきりと確認できる。

ただ指向特性は改善できるけれど、
スピーカーユニットの前にバッフル板が部分的に張り出しているわけだ。
この部分とコーン紙とのあいだには空間が生じる。密閉された空間ではないものの、
通常のスピーカーシステムでは生じない空間であることにはかわりない。

とうぜん、この部分でのデメリットも生じているわけで、これは誰しも考えることだ。
そう、誰しも考えることだから、BBCの技術者の当然そのことには気づいていたはず。
得られるものもあれば、失われるものもある。
それでも、彼らは、メリットとデメリットを天秤にかけて、四角い開口部を採用してきた。
1978年に登場したLS5/8まで、この手法は採用されてきた。

Date: 4月 22nd, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その9)

引用した岡先生によるショーターの論文の要約を見て気づくのは、
指向特性のことが、周波数特性、位相特性そのほかの項目よりも先に書いてあること。

ここでの順番については、ショーターの論文そのものをみなければはっきりしたことはいえないし、
それにショーターの論文どおりの並び方だとしても、
ショーター自身がそこに意味を持たせていたのかどうかもはっきりはしない。

牽強付会といわれそうだが、どちらかというと、こういとときの並び方では最後にきそうな指向特性が、
最初に記述してあることは見逃せない、と思う。

それからナマの音楽との比較試聴のところの記述では、
マイクロフォンの位置とその指向性についても考慮が必要とある。

LS5/1の開発において、音楽による試聴は1950年代半ばにもかかわらず、
すでにステレオの音源が使われていたように、上に挙げたことから推測できる、そんな気がする。

実際にLS5/1の指向特性がどうなのか知りたいところだが、
残念ながら実測データを見つけることはできなかった。

ただLS5/5の実測データは、
ラジオ技術社から1977年に出版された「スピーカシステム」(山本武夫編著)の下巻に載っている。

LS5/5は、30cm口径のベクストレン・コーンのウーファー、20cm口径のベクストレン・コーンのスコーカー、
トゥイーターはセレッションのドーム型HF1400(HF1300のマグネットを強化したもの)による3ウェイ構成で、
トゥイーターはウーファーとスコーカーのあいだにはさまれる形で、3つのユニットはインライン配置されている。

LS5/5でも、ウーファー、スコーカー、2つのコーン型ユニットは、フロントバッフルの裏側から取りつけられ、
開口部は円ではなく縦に長い四角なのはLS5/1と同じだ。

「スピーカシステム」には、LS5/5以外のモニタースピーカーの出力音圧指向周波数特性のグラフが載っている。
アルテックのA7-500、612A、JBLの4320、タンノイのレクタンギュラー・ヨーク、
ダイヤトーンのR305(2S305)などだ。

これらのどれと比較しても、LS5/5のグラフは見事だ。

Date: 4月 21st, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その8)

ステレオLPが登場したのは1958年(実際には前年暮にフライング発売したレーベルはある)。

デッカは1955年にはステレオ録音を行なっている。
実験的な録音ではなく、実際にLPとして発売されているし、CDにもなっている。
エーリッヒ・クライバー指揮のモーツァルト「フィガロの結婚」である。

BBCに関する詳しい資料をもっていないため推測で書くことになるが、
BBCもデッカと同じころか、
もしくはその前からステレオ録音・再生システムについて研究・実験をしていた可能性は充分に考えられる。

1981年春にステレオサウンド別冊として出た「ブリティッシュサウンド」号に、
岡先生が、BBCのモニタースピーカーに関する開発者ショーターの論文の要点をまとめられている。
     *
スピーカーの性能基準を客観的に定めるのはむずかしいことだが、リファレンスとなり得るスピーカーは、指向特性、帯域の広さ、位相特性、リニアリティ、高調波および混変調歪のそれぞれにおいて、すぐれていないければならないとする。
それらの諸特性の測定とあわせて、最終的にはヒアリングテストで判断されなければならない。ヒアリングテストは、主観的な性格をもつものだが、ノイズ(ランダムのイズ)、スピーチ、音楽の種々のソースによって、多角的に行なわなければならないとする。ノイズテストは、二種類のスピーカーをきりかえながら、ノイズのスペクトルを判断するのが有効な方法であり、スピーチは男声がとくにこの目的にふさわしいといっている。
音楽のソースのテストは、スタジオに隣接したリスニングルームで、たとえば音楽のリハーサル中に、スタジオとリスニングルームを自由に出入りして、ナマと再生音を自由に聴き比べる条件をもったところであることが望ましいが、奏法の遮音が充分なされている必要があり、超低域においては少なくとも35dBはとれている必要が或る。
さらに、マイクロフォン(の位置とその指向性)やミキシング・バランスがいかになされているかという考慮も念頭におくべきだとする。スピーチテストでも、話し手とマイクの間隔は不自然なバランスにならない位置にとられていなければならない。
     *
このショーターの論文が発表されたのは、1958年である。
すでにLS5/1の最初のモデルは完成していた。

BBCモニターのLSナンバーの区分については、BBC engineering のサイトのページを参照されたし。

このページをめくっていくと気がつかれるはすだが、LSS/1とかLSS/2という型番がでてくる。
これはLS5/1、LS5/2のことである。
どうもこれらのページは、印刷物をスキャンしてOCRソフトでテキスト化したもののようで、
校正が不十分で、5がSと誤認識されたまま公開されている。

Date: 2月 26th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その7)

LS5/1をみていくことではっきりしてくるのは、指向特性を、
LS5/1以前のスピーカーシステム以上に重要視していることだ。

周波数特性が、振幅特性だけでないことは、別項で書いた。
位相特性も関係してくる。
スピーカーシステムにおいては、そこに指向特性も大きく関係してくる、といってもいいだろう。

無響室でスピーカーシステムの正面軸上では周波数特性に、ほとんど指向特性は関係していない。
けれど、われわれがスピーカーシステムを設置する部屋は、どんなに響きの少ないデッドな部屋でも、
無響室とはまったく異る空間である。
そこに置いて鳴らす以上は、周波数特性に関係してくる項目のひとつとして、指向特性は決して無視できない、と
BBCモニターの開発陣は、考えたように私は思う。

LS5/1が開発され、最初のモデルが登場したのは1958年ごろ。
すでにステレオ録音は登場していた。
このこともLS5/1の指向特性重視の設計に関係しているように思っている。

Date: 2月 23rd, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その6)

ウーファーの開口部を横幅の狭い四角にすることで、
トゥイーターとのクロスオーバー周波数附近の指向特性を改善する手法を見つけ出したハーウッドが、
1976年に設立したハーベスのスピーカーシステムには採用していない。

ハーベスの最初スピーカーシステム、Monitor HLはクロスオーバー周波数は2kHzだが、
ウーファーの口径は20cm。たいてい、この口径の有効直径は18cmを切る。
つまり開口部を四角にすることで、指向特性を改善する必要性がほとんどない、からだ。

ウーファーをフロンドバッフルの裏側から取りつけることに、
ウーファーの前にいかなるものであろうと置けば、音が悪くなる、という理由をつける人がある。

裏側から取りつけて、しかも開口部がウーファーの振動板より狭く、形も四角ということになると、
よけいに音が悪くなりそうだという人がふしぎではない。

でも必ずしもデメリットばかりではなく、
指向特性の改善のほかにも、ウーファーのフレームからの輻射音を大幅に低減できる。
またLS5/1ではエッジ部分もほとんど隠れているため、この部分からの輻射も減らせる。

ウーファーのフレームからの輻射音が、振動板が動くことによって音が鳴りはじめる前に放射されていることは、
1980年代にダイヤトーンが解析をして発表していることからも明らかである。

ウーファーをバッフルのどちら側からとりつけるかは、実際に耳で判断すればいいこと。
どんな方法にも、メリットとデメリットがあるわけだから、何を望むのかを明確にすることのほうが大切である。