Archive for category 黄金の組合せ

Date: 6月 10th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その12)

フィードバックといえば、特にことわりがなければ、ネガティヴフィードバック(NFB)のことである。
フィードバックの前にネガティヴがつくことからも推測できるように、
フィードバックにはポジティヴフィードバック(PFB)もある。

PFBは同相で、NFBは逆相で信号を出力から入力側へ戻す。
つまりNFBをかければゲイン(増幅度)は低下し、PFBをかければゲインは増える。

PFBは真空管アンプの時代から使われている。
小容量のコンデンサーを使い高域だけPFBをかける。
NFBをかける前のアンプの高域のゲインを充分に確保するために行う手法である。

AGI・511の小容量のコンデンサーを使ったフィードフォワード、
その手法も理解してしまえば、このPFBの手法と通じるところがあることに気づく。

気づくと、511の設計者、デヴィッド・スピーゲルの発想とセンスに23歳の若者とは思えぬ、
ある種のしたたかさみたいなものを感じるし、
同時に定型なアンプにとどまらない意地に近いもの、
こういうところが、私のなかではQUADのピーター・ウォーカーと重なっていくのである。

Date: 6月 10th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その11)

AGI・511の概略図には、アンプを表す三角マークがふたつある。
左側(つまり入力側)にある三角マークがOPアンプであり、
この三角マークのところには、こう記してある。
“CONVENTIONAL LOW DISTORTION, LOW NOISE, BUT SLOW OP-AMP”

たしかに511の初期モデルに使われていたフェアチャイルド製のμA749は、そういう性格のOPアンプである。

右側(出力側)の三角マークが、511ならではの特徴である。
この三角マークのところには、こう記してある。
“ULTRA HIGH-SPEED SUMMING OUTPUT AMPLIFIER”

このサミングアンプが外付けのトランジスターで構成されているアンプであり、
このアンプには”CONVENTIONAL LOW DISTORTION, LOW NOISE, BUT SLOW OP-AMP”の出力と、
入力の所で分岐された信号(それもハイパスフィルターを通った信号)が入力される。
このふたつの信号が合成され”ULTRA HIGH-SPEED SUMMING OUTPUT AMPLIFIER”から出力される。
この出力信号の一部が、OPアンプへのフィードバックへとなっているし、
RIAAカーヴのイコライジングも行っている。

つまり入力から分岐された高域信号はフィードフォワードであり、
サミングアンプがOPアンプの出力と合成することによりスルーレイトを飛躍的に向上させている。

511がフィードフォワードを採用していたことは知っていたけれど、
全体域にかけているものだとばかり思い込んでいたから、回路図だけをみても理解できなかったわけだ。

電圧増幅にOPアンプを使い、トランジスターによる回路と組み合わせ、
さらにフィードバックだけでなくフィードフォワードをかけている点で、
AGI・511とQUAD・405は共通している、といえる。

Date: 6月 9th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その10)

ステレオサウンド 42号に載っているAGIの輸入元であったRFエンタープライゼスの広告には、
オーディオアンプに初めて採用された〝コンバインド・アンプ〟の手法です、とある。

これを読んでも、何も意味しているのかわからなかった。
いまだからはっきりといえるけれど、このAGIの広告を書いた人も、詳細まではわからずに書いていたはず。
別に批判しているわけではなく、当時、511の回路図を見て、的確にどうい特長をもつのか、
すぐに理解してわかりやすく言葉で説明できる人は少なかったであろうから。

AGI・511の回路がどうなっているのかは、ずっと関心があった。
とにかく知りたかった。
けれどインターネットで検索しても見つからなかった。
ここ数年、やっと不鮮明な回路図が見つかるようになった。

画像そのものが小さいし、解像度も低いため拡大しても細部は確認し難い。
わかるのはOPアンプの外付け部品としてトランジスターが5石使われていることであり、
入力信号はOPアンプに入力される前に分岐され、
ひとつはOPアンプへ、もうひとつは、この外付けトランジスターで構成される回路へと入力される。

ただ外付けのトランジスターによる回路へと直結されているわけでなく、
小容量のコンデンサーを介している。
これでは高域のみしか、この外付けの回路には入力されない。
つまりハイパスフィルターの働きを、この小容量のコンデンサーはしている。

もう少し手がかりとなる資料はないかと探していたら、
スイングジャーナルに載った広告の中に、回路の概略図があった。
この概略図はインターネットでも、いま見ることができる。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その9)

AGI・511には、3つのヴァリエーションがあることが、井上先生の記事からわかる。

511はフォノイコライザーアンプ、ラインアンプともにOPアンプを中心に構成されたアンプである。
初期の511のフォノイコライザーアンプには、フェアチャイルド製のμA749というOPアンプが使われている。
このOPアンプは2チャンネル分を1パッケージにおさめた、いわゆるデュアルタイプで、
井上先生が記事にも書かれているように初段の差動回路はバイポーラトランジスター、
それ以降もすべてバイポーラトランジスターで構成されており、FETは使われていない。

つまり瀬川先生が高く評価されている511は、
このフェアチャイルドのOPアンプμA749がフォノイコライザーに使われているモデルのことである。

μA749のデータシートは、インターネットで検索すればすぐに見つかりダウンロードできる。
検索のときにはμA749ではなく、UA749で検索した方がいい。

等価回路も載っている。
たしかに全段バイポーラトランジスターなのがわかる。
そして、もうひとつわかるのはスルーレイトである。

AGI・511の特長は、フォノイコライザーアンプのスルーレイトの高さである。
250V/usという、非常に高い値を実現している。
けれどμA749のデータシートにあるスルーレイトの値は、250よりもずっとずっと低い値である。

どうすれば、低スルーレイトのOPアンプで、250V/usというスルーレイトを実現できるのか。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その8)

AGI・511は、1981年にbタイプとなる。
ステレオサウンド 60号にて、井上先生が新製品紹介の記事を書かれている。
     *
 AGI511コントロールアンプは、数年前の登場以来、シンプルで簡潔なデザイン、精密感があり加工精度が高い筐体構造、優れた性能が直接音質に結びついた印象のダイレクトでフレッシュなサウンドなどこの種の製品に要求される要素が巧みに盛り込まれているオーディオ製品としての完成度の高さにより、一躍注目され、多くのファンを獲得してきたが、今回ラインアンプのICを変更し、新しくbタイプに発展した。
 詳細は不明だが、511のラインアンプは、最初期のタイプが初段差動アンプがバイポーラトランジスター構成のIC、その後FET差動のICに変更されている様子であり、これがAGI511aとして知られているタイプである。今回新採用のICは、米国NASA系の技術を受け継いだ半導体メーカー、BURR−BROWN社製の最新型で、これの採用により特性面での改善は大変に大きい。
 新ICによりラインアンプのスルーレイトは、従来の50V/μsからフォノイコライザーと同じ250V/μsと高まり、THDは、20Hzから100kHzの超高城まで変化をしないといわれる。なお、bタイプのイニシアルは改良のプロセスを示すが、国内市場では、いわゆるaタイプはパネル面に表示されていなかったために、新採用のBURR−BROWN社製ICの頭文字Bの意味をとってbと名付けられたようである。また、bタイプになっての変更はICのみで、使用部品関係は従来どおりの高精度部品を採用している特長を受け継いでいる。なお、輸入元のRFエンタープライゼスでは、従来機のbタイプへの改良を実費(55、000円)で引受けるという。
 bタイプは、511初期のクッキリとコントラストをつけた音から、次第にワイドレンジ傾向をFET差動IC採用で強めてきた、従来の発展プロセスの延長線上の音である。聴感上の帯域が素直に伸びている点は従来機と大差はないが、内容的には一段と情報量が多くなり、分解能の高さは明瞭に聴きとれるだけの充分な変化がある。音色は明るく、のびやかな再生能力があり、大きなカラーレーションを持たないため、組み合わせるパワーアンプにはかなりフレキシブルに反応をする。内外を含め最近のコントロールアンプとしては最注目の製品だ。
     *
これを読んでもわかるように、井上先生は初期の511よりも改良されていく511の音を高く評価されている。
このへんは瀬川先生と逆である。

となると、人によっては、どちらの書かれていることを信じればいいのか、といいたくなろう。
でも、瀬川先生の511への評価も、井上先生の511への評価も、どちらも正しい、と受けとっている。

このブログでも何度か引合いに出している、
ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 3(トゥイーターの特集号)の巻頭記事、
4343のトゥイーターをピラミッドのT1、パイオニアのPT-R7、
テクニクスの10TH1000などに置き換える試聴記事における
井上先生と黒田先生のJBLの2405とピラミッドT1への評価と瀬川先生による2405とT1への評価、
そして、騙されているとわかっていても2405の切り絵的な音をとる、という瀬川先生の発言。
これらのことを思い出せる方ならば、
511の初期モデルとその後のモデルの音の変化についての評価が、
瀬川先生と井上先生とでは違ってくるのは当然のことである。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その7)

私がAGIの511の音を聴くことができたのは、
瀬川先生が定期的に熊本にあるオーディオ店で行われていた試聴・講演において、である。

そのときの511は、ステレオサウンドでよく見る511ではなく、ブラックパネルの511で、
ずいぶんと印象が違うな、と思うとともに、
ブラックがあったなんて、ステレオサウンドには書いてなかった……、などと思っていた。

試聴が始まり、511の番になったときに、「これは並行輸入品です」と瀬川先生がいわれた。
それも、あえて並行輸入品を聴いてもらいたくて用意してもらった、ということだった。

511は、瀬川先生、井上先生が指摘されているように初期のモデルと、
この試聴が行われたころに輸入されていたモデルとでは、音に違いがあった。

瀬川先生は初期の511の音を評価されていたこともあって、
その音を聴けるということでの並行輸入のブラックパネルの511だった。

音が鳴った。
511の音は、瀬川先生が書かれている通りの、
音楽の持つ表情に鋭敏に反応する生き生きとした鳴り方が魅力、だった。
とにかく聴いていて、楽しい。

この良さが、正規輸入品では薄れてしまっている、ということらしい。

そしてQAUD・405との組合せについても、少し話された。
最初のころは魅力的な組合せだったけれども、
511も405もその後改良されて、必ずしも、いま組み合わせて魅力的かといえば、そうともいえない──、
そんなことをいわれた。

AGI・511との出合いは、こんなだったから、
511ならばブラックパネル、というおもいがずっと続いていくことになる。

Date: 6月 6th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その6)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」から六ヵ月後、
ステレオサウンド 43号のベストバイの記事の中で、瀬川先生はQUAD・405について
「発売後数階にわたって回路が変更されているようで、音のニュアンスもわずかに違うし、
プリノのイズを拡大する傾向のある製品もあるようなので、選択に注意したい。」
とことわりを書かれている。

これが1977年の夏のことである。
さらに約一年がすぎ、また別冊が出た。
「世界のコントロールアンプとパワーアンプ」である。
ここで、AGI・511について、瀬川先生による試聴記は次の通りである。
     *
入力信号に対する反応の速さあるいは音の明瞭度(ディテール)の高さを当初から謳い文句にしていただけあって、いかにも現代のソリッドステートの最尖端の技術はかくあるべしというような、引締ったクールな音を聴かせる。ことにEMTのプレーヤーから入力をAUX(イコライザーアンプを通さずに)直接加えたときの、素晴らしく品位の高い、緻密でしかも音のひと粒ひと粒が生き生きと躍動するのがみえるような音質は、ちょっと類のないほど素晴らしかった。しかしフォノ・イコライザーからのトータルの音になると、ひと幕引いたようでどこか反応の遅い感じの、よく言えばおっとり型の音質で私にはおもしろくない。以前のサンプルよりもこの点がちょっぴり不満に感じた。
     *
QUAD・405だけでなく、AGI・511も初期のモデルからすると変更されていることがわかる。
そうなると、「コンポーネントステレオの世界 ’77」で511と405の組合せが聴かせていた魅力的な音は、
いくらか、それともずいぶんなのかもしれないが、変っていることになる。

511の音が変っていることは井上先生も指摘されている。
     *
 初期のソリッドでタイトな音にくらべると、かなり音の粒子が細やかで、表情がナチュラルで、洗練された滑らかな音を持つようになった。聴感上での周波数レンジは、かなりワイドレンジ型で、バランス的には中域がやや薄く、音色は明るく滑らかなタイプである。
 ステレオフォニックな音場感は、左右方向・前後方向のパースペクティブともに充分に広がり、スッキリとした広い空間の再現性がある。音像はかなり小さくまとまり、輪郭は細くシャープである。音像はスピーカー間のやや奥に定位をする。表情はナチュラルで活き活きとし、オーケストラのトゥッティでの音の分離は素晴らしい。
     *
フォノイコライザーの音に関しては、瀬川先生は以前の511のほうを高く評価されている。
井上先生は、この点正反対で以前の511も評価されているけれど、
今回の511の改良についても高い評価を与えられている。

私は、この時点では511の音も405の音も、まだ聴いていなかった。

Date: 6月 5th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その5)

AGIの511とQUADの405の組合せは、最終的にふたつの組合せで使われている。
ひとつは瀬川先生によるKEFの104aBで、もうひとつは井上先生によるキャバスのブリガンタンにおいてである。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」でつくられている組合せにおいて、
コントロールアンプとパワーアンプの組合せが同じだったのは、
この511と405の組合せ以外に、ラックスのCL32とマランツの510Mの組合せだけである。

LNP2も登場している「コンポーネントステレオの世界 ’77」だが、
LNP2と組み合わせられたパワーアンプは、
SAEのMark2500だったり、スチューダーのA68、ヤマハのBIとすべて異る。

瀬川先生の104aBの組合せは、
メインは4343の組合せであり、4343の組合せが予算的にきついのであれば……、ということでつくられている。
ここでオブザーバーの黒田先生の発言に注目したい。
    *
ぼく自身の正直な感想を申し上げると、さっきもちょっといったように、JBL4343で聴きたいですね。ただアンプのほうは、マーク・レビンソンの組よりも、AGI+QUAD組にしたときの音のほうが気に入りました。この組合せの音は、たいへんすばらしいと思います。
     *
1976年におけるLNP2の価格は1080000円、SAE・Mark2500は650000円。合計1730000円。
AGI・511は230000円、QUAD・405は156000円。合計386000円。

このふたつのセパレートアンプの合計金額の差は大きい。
にも関わらず511と405の組合せのもつ魅力は、
場合によっては、人によっては、より高い組合せよりも魅力的である──、
と当時「コンポーネントステレオの世界 ’77」を読んでそう感じていた。

Date: 6月 5th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その4)

私にとっての最初のステレオサウンド、
41号といっしょに買ったのが別冊「コンポーネントステレオの世界 ’77」だった。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」は読者からの手紙に応じて、
各オーディオ評論家が組合せをつくっていくという内容で、
オブザーバーとして黒田先生が、すべての組合せに参加されている点でも、
この別冊のおもしろさがある。

「コンポーネントステレオの世界 ’77」は1976年12月の発売だから、
発売されて間もないQUADの405とAGIの511はよく登場している。

最終的に組合せに残っているし、アンプ選びの候補としても何度も登場している。
この「コンポーネントステレオの世界 ’77」を読めばわかることは、
AGIの511とQUADの405の組合せが何度か登場し、この組合せが評判のいいものであることが伝わってくる。

QUADとAGI──。
およそ共通するところのない会社のようにもみえる。

QUADのイギリスの老舗メーカー、AGIはアメリカの新進メーカー。
QUADの創立者であり、405の開発者であるピーター・ウォーカーは1916年生れ、
AGIの創立者であり技術者であるデヴィッド・スピーゲルがいつの生れなのかはわからないが、
511の開発・設計のとき23歳だった、と当時の輸入元RFエンタープライゼスの広告にある。

ピーター・ウォーカーとデヴィッド・スピーゲルには30以上(40近い)歳の差がある。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その3)

ステレオサウンド 52号に瀬川先生が、QUADの405のペアとなるコントロールアンプについて書かれている。
     *
QUADから♯405が発売されてからもうずいぶん経っている。最初の頃は405に組合わせるプリが出るものと期待したが、一向にその気配もない。ピーター・ウォーカー(QUADの創設者、現会長)に、そのことを質問すると、「♯33の音でどこか不満か?」逆に質問されて、ぐっとつまった話はもう以前にも書いたが、しかし♯44が発売されてみると、どうやら我々はP・ウォーカーにすっかりとぼけられていたらしい。実は昨年の秋のオーディオフェアの頃、来日したKEFのレイモンド・クックからは、QUADが新型のプリを作っている、という情報を聞いていた。ともかく、いかにもQUADらしいのんびりした製品開発だが、しかし鳴ってきた音は、なるほど、と唸らせるだけのことはあると思った。
     *
405とペアとなる44が登場したのは1979年。405の三年後である。
ほんとうに、QUADらしいのんびりした製品開発である。
それだけコントロールアンプとして優れたモノをつくることがむずかしい、ということでもある。

ピーター・ウォーカーは「♯33の音でどこか不満か?」といっていたとしても、
日本のオーディオマニアの感覚からしたら、不満はないといえばないけれど、
あるといえばある、となる。
33、303とはあきらかに世代の異るアンプであるからだ。

33、303は、QUADらしいセパレートアンプであって、
組み合わせて使うのが至極当然のように受けとめられていた。
他社製のアンプとの組合せ例もあっただろうが、純正組合せで使う例の方が多かったと思う。

405となると、単体で登場したことも影響しているだろうが、
QUAD同士の組合せだけでなく、単体のパワーアンプとして見ても優秀なアンプだった。
だからこそ他社製のコントロールアンプと組み合わせられていった。

AGIの511とQUADの405、
当時比較的多く試みられた組合せである。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その2)

二日前の日曜日、以前の仕事の知合いから、ちょっとした手伝いを頼まれて、彼の自宅までいってきた。
趣味の話などはしたことはほとんどなかったけれど、
彼がAVにはけっこう興味を持っていたことは知っていた。

彼がいう。
「この中にあるもので、いるものあったら持って帰っていいよ」と。
大半がAV関係の機器だったけれど、その中にひとつだけシャーシーの色が黒ではなく、
しかもコンパクトなアンプが、すぐに目についた。

「あっ、405だ」とすぐにわかった。
国産のAV機器の中に、なぜかQUADの405があった。
廃棄する予定だというから、もらって帰ってきた。

こんなモノがもらえるとは思っていなかったから、持ち運ぶためのバッグもなにも用意しておらず、
さほど大きなアンプでもないから、そのまま抱えて電車に乗り持って帰ってきた。

405は1976年に登場した。
パワーアンプ単体の発表だった。
ペアとなるコントロールアンプはまだだった。

QUADには33というコントロールアンプがあったけれど、
この33は1967年に登場している。
小改良は行われていたときいているけれど、
トランジスターアンプにおける1967年と1976年の9年間の技術の進歩は大きい。

33はやはり303とペアとなるコントロールアンプだった。

Date: 6月 4th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その1)

黄金の組合せ。
いまではあまり使われなくなった気もするが、
それでもインターネットを眺めていると、目にすることがある。
今日もtwitterで、あるスピーカーとアンプの組合せについて、
この「黄金の組合せ」という表現が使われていた。

私が「黄金の組合せ」という表現を知ったのも、やはり「五味オーディオ教室」であった。
     *
でも本当に、わが耳を疑うほどよい響きで鳴った。W氏にアンプは何かとたずねるとラックスのSQ38Fだという。「タンノイIIILZとラックス38Fは、オーディオ誌のヒアリング・テストでも折紙つきでした。〝黄金の組合わせ〟でしょう」と傍から誰かが言った。〝黄金の組合わせ〟とはうまいこと言うもので、こういうキャッチフレーズには眉唾モノが多く、めったに私は信じないことにしているが、この場合だけは別だ。なんとこころよい響きであろう。
     *
「五味オーディオ教室」は1976年に出た本だから、
タンノイのIIILZもラックスのSQ38Fもすでに製造中止になっていた。
代るものとして、タンノイはEatonになっていたし、ラックスはSQ38FD/IIになっていた。

EatonとSQ38FD/IIの組合せを聴いたことはないけれど、
これに関しては特に黄金の組合せというふうにはいわれなかった。

黄金の組合せは、なにもスピーカーとアンプとの関係に対してのみいわれるわけではなく、
オーディオはすべて組合せから成り立っているのだから、
カートリッジとトーンアーム、
MC型ならばカートリッジとその昇圧手段であるヘッドアンプ、トランス、
それからコントロールアンプとパワーアンプ、
これらにも黄金の組合せ、もしくはそこまでいかなくともベストマッチと呼ばれる関係はある。