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Date: 11月 9th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その7)

ステレオサウンド54号の特集では、
黒田先生、菅野先生、瀬川先生がガウス・オプトニカのCP3820を試聴されている。

三氏の試聴記はthe re:View (in the past)で公開している。
下記のリンク先をクリックしてほしい。

黒田先生の試聴記
菅野先生の試聴記
瀬川先生の試聴記

黒田先生は
《個々のサウンドのクォリティはかなり高いと思う。音のエネルギーの提示も、無理がなく、このましい》
と高く評価されている。
それでも《もし、音の風格というようなことでいうと、もう一歩みがきあげが必要のようだ。このスピーカーシステムの魅力ともいうべき独特の迫力を殺さず、全体としてのまとまりのよさを獲得するためには、使い手のそれなりの努力が必要だろう。》
とつけ加えられている。

もう一歩みがきあげが必要のようだ、は、つまりはオプトニカに対しての注文である。
ガウスのユニットのポテンシャルの高さは黒田先生の試聴記から伝わってくる。
けれどスピーカーは、個々のユニットの性能がどんなに高くとも、あくまでもシステムであるかぎり、
それだけでいい音が聴けるわけではない。

この当り前すぎることが、黒田先生の試聴記から読みとれるのではないだろうか。
だからこそ《使い手のそれなりの努力が必要だろう》とされている。

菅野先生の試聴記も、黒田先生の試聴記と基本的には同じと読める。
やはりガウスのユニットのポテンシャルは高い、と思いながら、当時は読んでいた。
それでも最後に《欲をいえば高音と低音の柔軟さだ》と書かれている。

CP3820はガウスのトゥイーター1502を購入して取りつければ,すぐに使えるように、
トゥイーター用のネットワークも内蔵されていたはずだ。
バッフルには取りつけ穴もある。すぐにも3ウェイにすることができる。

1502を加えた3ウェイであったならば、菅野先生の最後の一言は変っていたはずだ。

Date: 11月 8th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その6)

瀬川先生が、以前こんなことを書かれていた。
     *
 エンクロージュアの板の厚さは、厚ければ厚いほど良いというようなものでもない。どれほど厚くしても、板材はスピーカーの駆動エネルギーによって振動する。板が厚ければ振動しにくいが、一旦振動をはじめるとなかなか抑えにくい。それよりも、ほどよい厚さの板に、適切な補強を加えて振動を有効に制動する方がよい。
 欧米の著名メーカーのスピーカーシステムの多くが、板厚は3/4インチ(約19ミリ)近辺を採用している点は参考になる。近年、JBLのプロ用が1インチ(約25ミリ)に板厚を増したが、アマチュアが大がかりになることをおそれずに試みるにしても、30ミリ以上にするのはよほどの場合と思ってよさそうだ(もっとも、わたくしは以前、なかばたわむれに、板厚=使用ユニット口径の1/10説、をとなえたことがあった。たとえば30センチ口径=30ミリ、20センチ口径=20ミリ……。しかし38センチ口径となるとたいへんだ。わたくしは本当に38ミリ厚の箱を作ったけれど)。
(ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES-4「フルレンジスピーカーユニットを生かすスピーカーシステム構成法」より)
     *
板厚=使用ユニット口径の1/10説。
25cm口径までなら実現はそう難しくないけれど、それ以上の口径となるとたいへんである。
それでも瀬川先生は一度は38mm厚のエンクロージュアを作られている。

《なかばたわむれに》とは書かれているが、
これは《なかば本気で》ということでもあろう。

ユニットの口径が増せばバッフルに開ける穴は大きくなる。
大きくなければバッフルの強度は落ちるし、
一般的にいって口径が増せばユニットの重量も増していくのだから、
バッフルの強度を十分に確保するためには口径とともに板厚が厚くなっていく。

38cm口径に38mm厚のバッフル。
一度は聴いてみたい、と思うが、同じ38cm口径のユニットでも、
JBLとガウスとでは重量に約4kgの差があるわけだから、
JBLの38cm口径に十分な板厚であったとしても、
ガウスのユニットに対しては必ずしも十分とはいえなくなるかもしれない。

こんなことを考えるのは、
ステレオサウンド 54号の特集に登場したガウス・オプトニカのCP3820の試聴記を憶えているからだ。

Date: 11月 1st, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その5)

JBLのスピーカーシステムのユニットをガウスに換装する──、
そんなことをあれこれ考えていたのは、ガウスのユニットへの強い関心だけでなく、
ガウスの音がどういう音なのかがつかめていなかったことも大いにある。

ガウスの音を聴く機会はいなかにいたころはなかった。
となるとオーディオ雑誌のでの評価が気になるわけだが、
ガウスの輸入元となったシャープによるスピーカーシステムの第一弾、CP3830は、
ステレオサウンドの新製品紹介では取り上げられていなかった、と記憶している。

第二弾のCP3820は52号の新製品紹介に登場している。
さらに54号の特集でも取り上げられている。

52号の新製品紹介のページをみて、やっと登場した、と思い読んだ。
CP3820は2ウェイのスタジオモニターであり、
あとからトゥイーターの1502を追加して3ウェイに対応できる。

このことからわかるようにCP3820はJBLの4331を意識したモニターである。
ドライバーは4331は2420だが、CP3820には2440相当のHF4000という違いはあるものの、
コンセプトそのものは4331そのものといえる。

できれば1502を最初から搭載した3ウェイで出してほしかった、と思っていた。
そうすれば、もっとガウスの音についてはっきりしたことがわかるのに……、と思っていた。

HF4000は、52号の記事によれば、
《ハイエンドまでスムーズで、決してレンジが狭い感じがない》と山中先生が発言されている。
そうであろう。
でも1502ほどには高域が伸びているわけではないし、
JBLの4331と4333の関係からしても、ガウスの3ウェイの音が聴きたい、と思う。

それに井上先生がいわれている。
《最良の状態で鳴るガウスのウーファーは、厚みのある低音が特徴となっているのですが、その点にやや不満が残りました。もう少し分厚く、しっかりした質感のクリアーな音が出てしかるべきだと思います。しかし、ウーファーが強力なだけに、エンクロージュアづくりはむずかしいのでしょう。》

CP3820が中途半端なまとめ方のスピーカーのように思えたものだ。

Date: 10月 29th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その4)

JBLの4350は4ウェイ5スピーカーのシステムで、
フロントバッフルにはウーファー用の開口部が二つ、ミッドバス用が一つ、
ミッドハイとトゥイーターに関してはバッフルの左右どちらにでも取りつけられるように、
計四つの開口部がある。
これにプラス、バスレフのダクトが六つある。
これだけで十四もの穴がフロントバッフルに開けられている。

もっといえばトゥイーターのレベルコントロール用の小さな穴もあるから、正確には十五である。

これだけの開口部をもつ4350のフロントバッフルに、
ガウスのユニットにすべて換装した状態で約18kgの重量がプラスして加わるわけだから、
フロントバッフルの強度について配慮する必要が出てくるだろうし、
フロントバッフルへの荷重が増えたことで振動モードも変化しているとみるべきである。

フロントバッフルの振動モードが変れば、
この影響はエンクロージュアの他の面に対しても波及していく。
フロントバッフルの変化ほど大きくなくとも、
フロントバッフルが振動的に遮断されていないのだから、
対向面のリアバッフルの振動も変化して、他の面に関しても変化していく。

それからシステム全体の重心も、よりフロントバッフル寄りになる。
4350を床にベタ置きしている場合は床への荷重が変化するし、床の振動も変化する。
なんらかの台にのせていたら、台への荷重が変る。

台の上での4350の位置を前後に動かした時の音の変化も、
JBLの純正ユニット装着時よりも大きくなるはずだ。

4350Aのユニットをガウスに換装して、音がどう変化するのかはなんともいえない。
うまくいくのかもしれない。

そうであっても、JBLのユニットよりガウスのユニットが優秀だからとは言い切れない。
スピーカーシステムとして捉えてみると、結局総合的に判断するしかないからだ。

いまはそんなこまかなことまで考えてしまう。
ガウスが登場したころは、こんなことは考えもしなかった。
ただただガウスに換装した4350Aの音を聴きたい、と思っていた。

Date: 10月 27th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その3)

そんな妄想をしていた高校時代にはインターネットはなかった。
技術的な資料を得ようとしても、なかなか目的の資料にたどりつくことはできないことも多かった。

だから4350のネットワークがどうなっているのか、正確には何も知らなかった。
4350Aのユニットをガウスに換装する──、
これは実のところ、そう簡単なことではないというのは、後になってわかった。
4350のネットワークの回路図を見て、はじめてわかった。

以前書いているように、4350のミッドハイ(2440)に対するネットワークは、
ローカットフィルターのみである。
ハイカットフィルターはない。
2440がエッジの共振を9.6kHz利用して高域をのばしているため、
これより上の周波数では音圧が急峻に減衰していく。
いわば音響的ハイカットフィルターつきドライバーである2440(375もそうである)だから、
4350のようなネットワーク構成ができる。

ここに設計思想の異るドライバーを持ってくるとなると、
なんらかのハイカットフィルターが必要となる。
それに4350Aではミッドバスとミッドハイにはレベルコントロールもない。

4350において、音楽の中核を成す帯域に関しては、アンタッチャブルとなっている。
この点に関しても、JBLからガウスへの換装はすんなりいくわけではない。

でも、当時はこんなことは知らなかった。
だから妄想が楽しめた、ともいえる。

ガウスに換装したら、システムトータルの重量が増す。
大雑把にいって、ガウスのユニットはJBLのユニットよりも約4kgほど重い(カタログ上の比較)。
トゥイーターは約2kgの差だから、約18kg重くなる。

ユニット個々の価格もガウスが高かった。
重くなり高くなる。

こんな単純なことを電卓片手に計算しては喜んでいた。

Date: 10月 24th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その7)

オンキョーGS1の能率の低さに関しては、他の方も発言されている。
     *
山中 グランセプターの良さは充分認めた上でのことですが、さっき、菅野さんがちょっと振れられたけれど、ネットワークの問題というのは、ぼくはあのスピーカーでいちばん気になるところなんです。あれだけの高能率のスピーカーが、あそこまで能率を落とされてしまうというのは。例えばアクティブなイコライザーとか、そういうものを早く開発してもらいたいですね。そうしないと、本当のグランセプターの実力を発揮した音は出てこないんじゃないかと思うんです。
(中略)
 ぼくは、やっぱりホーンスピーカーというのは、能率がいいというのが大きなメリットだと思う。本当はそうあるべきなのが、86dB/W/mというのは、非常に低い。
菅野 単に能率が高いか低いか、大きな音を同じパワーで出せるか出せないかじゃなくて、リニアリティに関係してくるんですよ。もったいないですね。
     *
菅野先生はステレオサウンド 74号での特集では、
《今までこのスピーカーを聴いた体験から、200Wや300Wではちょっと足りない》
とされている。74号ではGS1を鳴らすパワーアンプとして、
マッキントッシュのMC2500を組合せの第一候補にされている。

MC2500の出力は500W+500W。
菅野先生は《本当は1kWぐらい欲しいところ》とされているが、
1985年時点ではコンシューマー用パワーアンプとしては500Wが上限だった。

オンキョーはGS1を鳴らすためにGrandIntegra M510を出している。
出力300W+300Wの、かなり大型のパワーアンプである。
外形寸法はW50.7×H26.4×D21.2cmで、重量63kgのパワーアンプである。

M510もステレオサウンド 73号で、Components of the years賞に選ばれている。

Date: 10月 23rd, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その6)

ステレオサウンド 73号の特集、Components of the years賞。
オンキョーのGS1はカウンターポイントのパワーアンプSA4とともに、この年のゴールデンサウンド賞でもある。

岡俊雄、井上卓也、上杉佳郎、菅野沖彦、長島達夫、柳沢功力、山中敬三、
七氏の座談会で、GS1について語られている。

GS1についての座談会のまとめは三ページ、
SA4のそれは二ページと、同じゴールデンサウンド賞受賞機種であっても、扱いに差があるとみることもできる。

GS1についての各氏の発言を読んでいくと、いくつかの注文がつけられている。

まず、その能率の低さがある。
カタログ値は88dB/W/mである。

いまどきのスピーカーシステムとしての低い値とはいえないけれど、
GS1は1984年登場のスピーカーシステムで、しかもオールホーン型でもある。

この88dBという値は、ホーン型としてはかなり低いといわざるをえない。
ただ、カタログをみると、100dB/W/mとも書いてある。
こちらの値は外部イコライザー使用時のもので、
この100dBがGS1本来の出力音圧レベルということになる。

なのになぜ12dBも低い値になっているのか。
この点について、菅野先生の発言はこうである。
     *
 ただし、スピーカーはどんなスピーカーでもそうですが、いろんな点であちらを立てれば、こちらは立たずということろがあり、このスピーカーも、何でもかんでも全面的にいいスピーカーというふうに理解すると問題もあろうかと思います。
 例えば、オールホーンシステムで、あんなに低い能率しか持っていない。その低い能率というのは、結果的に高い能率のものを、かなりアッテネーターで絞り込んで使っているからですが、そういう点では変換機としてある部分、全く問題がなしとも言えないと思います。
     *
72号のGS1の記事には、この点に関しての記述がある。
高域ホーン部の端子部分の写真の下に、
周波数特性補正用イコライザーをネットワークに内蔵するため能率は88dB/W/mでしかないが、とある。
周波数特性を良くするために能率を12dB犠牲にしているわけである。

もっともネットワークでそういう補正を行っている関係で、最大入力は高い。
カタログには300Wとあり、瞬間最大入力は3000W(3kW)である。

Date: 10月 22nd, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その5)

ステレオサウンド 72号で、菅野先生がオンキョーのGS1をどう書かれているかは、
the re:View (in the past)“で全文を公開しているので、興味ある方はお読みいただきたい。

とはいえ、一部だけ、最後のところだけを引用しておく。
     *
しっとりと鳴る弦、リアリティに満ちたピアノの音色の精緻な再現、ヴォーカリストの発声の違いの細部の明瞭な響き分け、たった一晩のグランセプターとのわが家におけるつき合いであったが、このスピーカーはそんな正確な再生能力に、しっとりと、ある種の風格さえ加えて鳴り響いた。
 このわずかのつき合いの間に、私は、このスピーカーを欲しくなっている私自身を発見した。ただ、せっかくの仕上げの高さにもかかわらず、あの〝グランセプター〟のエンブレムはいただけない。前面だけならまだしも、サランをはずした時にはホーンの開口部にまで〝ONKYO〟と貼ってある。このユニークな傑作は誰が見てもオンキョーの製品であることを見誤るはずがない。本当はリアパネルだけで十分だ。エンクロージュアやホーンと看板とをごちゃまぜにしたようなものだ。
 私がこのシステムを買わないとしたら、このセンスの悪いブランドの誇示と、内容からして決して高いとは思わないが、とにかくペアで200万円という大金を用意しなければならないという理由ぐらいしか見つからない。
     *
エンブレムに関してだけは注文をつけられているが、
肝心の音に関しては、絶賛に近いといえよう。

なにしろ《わずかのつき合いの間に、私は、このスピーカーを欲しくなっている私自身を発見した》
とまで書かれている。

72号の記事では、菅野先生の一万字を軽くこえる本文とともに、
写真の枚数も少なくない。
その中に「グランセプター開発の歩み」として、14枚の写真が載っている。
数々の試作品の写真である。

20以上のホーンが写っている写真がある。
この写真の下には、《これでも全数の何分の一かにすぎない》とある。
また別の写真には大理石の中高域ホーンがある。
この写真の下には、こうある。
《某雑誌の編集長の発言がもとで、大理石のホーンを作ってみたこともある。
しかし固有の音色があるのと、あまりにも高価になりすぎるため結局あきらめざるを得なかったという。》

あえて書くまでもないだろう。
某雑誌とはステレオサウンドのこと、編集長とは原田勲氏である。

オンキョーGS1は、翌73号にも登場している。
この項の(その1)にも書いたComponents of the years賞である。

GS1はステレオサウンド 71、72、73と、
さらに74号の特集「ベストコンポーネントの新研究」でも菅野先生が取り上げられている。
つまり四号続けてカラーページに登場することになる。

Date: 10月 19th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その4)

ステレオサウンド 72号でオンキョーのGS1を取り上げているのは、
「エキサイティング・コンポーネントを徹底的に掘り下げる Dig into the Exciting Components」である。

この記事は71号から始まった企画で、
71号ではマイクロのターンテーブルSX8000II(5000II)、
京セラのCDプレーヤーDA910、アナログプレーヤーPL910、
コントロールアンプC910、パワーアンプB910が取り上げられている。筆者は柳沢功力氏。

カラー口絵があり、それぞれの本文は、マイクロが6ページ、京セラが10ページ。
それまでの新製品紹介の記事では無理だったページ数を割いている。

二回目となる72号では、アキュフェーズのC200LとP300Lのペア、
それとオンキョーのGS1で、前者を柳沢氏、後者を菅野先生が担当されている。

アキュフェーズ、オンキョーともに11ページが割り当てられている。
アキュフェーズはコントロールアンプとパワーアンプの二機種で11ページ、
オンキョーはGS1の一機種で11ページとなっている。

GS1の試聴はステレオサウンドの試聴室だけでなく、
菅野先生のリスニングルームにも持ち込んでも行っている。

菅野先生のご自宅は一階が車庫になっているから、
GS1は玄関の階段を担ぎ上げなければならない。
GS1の重量はカタログ発表値は117kg。
ウーファー部とトゥイーター部に二分割できるとはいえ、
それぞれ77kgと40kgで、けっして持ちやすい形状ではない。

そういう大変さがあるけれど、じっくり聴いてもらうために菅野先生のリスニングルームに運び込んでいる。

そしてステレオサウンドの試聴室での試聴でも、
それまでであれば編集部が設置するのだが、このときはオンキョーの人たちによるセッティングだった。
これも異例のことである。

Date: 10月 18th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(その15)

チューナーというオーディオ機器をどう捉えるのか。
それによって、いわゆる高級チューナーの必要性に対しての、人によっての考え方が違ってくる。

ステレオサウンド 59号の特集「ベストバイ」で長島先生が書かれていることを思い出す。
     *
 チューナーにもスーパーマニア向けといってよい超高級チューナーがある。これらの持つ魅力とはいったい何なのだろうか。昔、マランツ♯10Bやマッキントッシュのチューナーは、どう考えても放送局が送り出している元の音より美しいと話題になったことがある。簡単に考えるなら、チューナーは単なる伝送系の一部に過ぎず、このようなことが起るはずがないのだが、実際は、チューナーは単なる伝送系ではなく、ある意味ではリプロダクションシステムと考えることができるである。なぜならば、チューナーを通してオーディオ信号が出てくる仕組みは、受信電波を単に増幅しているだけではなく、受信検波、ステレオ復調という部分でチューナーがオーディオ信号を再組立しているともいえるからだ。したがって、回路構成、使用部品によって、前述のようなことが起り得る。この良い意味での個性を持つということが超高級チューナーの必要条件のひとつだと考えている。
     *
私がFM誌を読んでいたころ(1970年代終りごろ)、
何かの雑誌の相談コーナーで、自分のプレーヤーでレコードをかけるよりも、
同じレコードがFMで放送されるのを聴いたほうが音がいいのはどうしてでしょうか、という質問があった。
これはこういった相談コーナー以外でも取り上げられていた。

この場合のチューナーは、決して高級チューナーではない、普及型のチューナーであり、
アナログプレーヤーに関しても同じである。

FM放送のほうがよく聴こえるのであれば、
アナログプレーヤーのクォリティが低いのか、調整がうまくなされていない。
そう回答されていた。

中にはNKH FMの場合、使用カートリッジはデンオンのDL103なのだから、
FMよりも音が悪いということは、あなたが使っているカートリッジがDL103よりもクォリティが低い、
そんなことを書いているのも読んだ記憶がある。

この話も、同じ普及型のチューナーを使っていても、アンテナが違っていれば、
受信地域が違っていれば、その他の条件の違いによって変ってくるにしても、
当時、アナログプレーヤーの音の基準として、
同じレコードがFMで放送されたのよりも悪かったから、まだまだということだった。

このふたつの話は、レベルの違いはあるし、同一視できないところもあるけれど、
たとえレコードの放送であっても、
場合によっていい音、美しい音で聴けることが起り得ることを、考えさせる。

Date: 10月 18th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その2)

ガウスのスピーカーユニットは、バート・ロカンシーが開発に携わっていたおかげでだろう、
JBLのユニットと寸法的な互換性があった。

コンプレッションドライバーのHF4000は、JBLのホーン、スロートアダプターが使えた。
アルテックのコンプレッションドライバーはホーンとは三本のネジで取りつける、
JBLは四本であり、ガウスの四本である。

だからJBLの既存のスピーカーシステムのユニットの換装が、
なんらかの加工やアダプターを必要とせず行える。

ガウスにはコンプレッションドライバーはHF4000だけだった。
HF4000はJBLの2440に相当するモノで、2420に相当するモノはガウスにはなかった。

ようするにガウスのユニットにすべて換装したければ、
対象となるJBLのシステムとなると限られてくる。
4343は、この点でもすべてガウスに換装するのは無理だった。

4350はホーンと音響レンズはそのままで、あとのユニットは換装できる。
4350のウーファー、2231Aに相当するガウスのウーファーは5831Fである。
Fのつかない5831もあったが、こちらはf0が32Hz、5831Fは18Hz。
ガウスのウーファーの中で5831Fがいちばんf0が低い。
2231Aは16Hzである。

ミッドバスの2202に相当するの2842。
ガウスに30cm口径は他に2840と2831があったが、
2840はコルゲーション入りのコーン紙だし、2831はコーン紙が白い。

確かガウスのコーン型ユニットの型番の末尾二桁が31なのがHiFi用であり、
42がホーンローディング用ユニット、40が楽器用、PA用だったはずだ。

こんなことをステレオサウンドが当時刊行していたHi-Fi STEREO GUIDEをみながら、考えていた。

Date: 10月 15th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その1)

「世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって)」で書いていきたいことを考えていると、
ガウスのことを思いだし、なぜガウスはいつの間にか話題にのぼらなくなり、消えてしまったのか、
その理由を考える。

ガウス(Gauss)はブランド名で、会社名はセテックガウス(Cetec Gauss)だった。
JBLでいくつもの実績を残したバート・ロカンシーが中心となったスピーカーメーカーである。

ガウスの登場は華々しかった。
ウェストレックスのスピーカーシステムに搭載された、ウェストレックスに認められたスピーカーユニットとして、
ガウスの名前は輝いていたといえる。

日本の輸入元はシャープだった。
当時はスピーカーシステムは開発しておらずユニットの輸入からだった。

新しいメーカーとは思えないほど、ラインナップは揃っていた。
フルレンジユニットは2841、2641、5841、1841、
トゥイーターは1502、コンプレッションドライバーはHF4000、
ホーンは4140、4075(どちらもディフレクションホーン)。

ウーファーは充実していた。
2840、5840、5640、5440、5831、5842、5642、5831F、8840、8442、8440、8842があった。

シャープもオプトニカ・ブランドでHF4000用に4110というホーンを作っていた。
この4110を使った3ウェイのスピーカーシステムを最初に出し、ガウス・オプトニカ・ブランドで展開していく。

アメリカではウェストレーク・オーディオがガウスを採用しはじめた。
それまではJBLのユニットを使っていたのがガウスに鞍替えした。
(ただしTM3は最高域だけはJBLの2420を使っていた)

日本では天然チーク材を使ったディフレクションホーンで知られていた赤坂工芸が、
ガウスのユニット搭載の3ウェイのシステムPHG8000を出した。

ガウスに勢いはあった、と感じていた。
個々のユニットの価格も重量もJBLの同口径のユニットよりも高く重かった。

高校生のころ、JBLの4343のユニットをすべてガウスに置き換えたら……、そんなこともけっこう真剣に考えていた。
ただし、ガウスのラインナップには25cm口径のユニットは1841だけで、
このユニットはフルレンジということもあってセンターキャップがアルミ製だったから、
ガウス版4343は難しいところがある。

だから物理的にユニットの置き換えが可能な4350は、どんな音を聴かせてくれるのか、
そんなことを夢想していた。

ガウスの存在は、私をわくわくさせていた。

Date: 10月 14th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その3)

オンキョーのGS1が、ステレオサウンドに初めて登場したのは71号(1984年夏)である。
71号には、GS1の広告も載っている。

それまでのオンキョーの広告、他の製品の広告とはかなり印象の違う仕上りであった。
このときのGS1の広告のキャッチコピーは、こうだった。

マーラーの「響き」を再現できるか?
ブラームスの「影法師」の漂いを再現できるか?
ベルリオーズの「幻想」表現のひだを再現できるか?

キャッチコピーが三本、つまりカラー6ページの広告だった。
ひとつの製品でカラー6ページの広告は、過去に例があっただろうか。

それに応えるわけではないのだが、GS1の記事もカラー扱いだった。
菅野先生が書かれている。

GS1がなぜ生れてきたのかについて書かれている。
     *
 オンキョーは、 もともと、スピーカー専門メーカーである。そのンキョーが今回発売した「グランセプター」は、同社の高級スピーカーシステム群「セプター・シリーズ」の旗艦として登場した。しかし、このシステムは元来商品として開発されたものではなく、研究所グループが実験的に試作を続けていたもので、それも、ごく少数の気狂い達が執念で取組んでいた仕事である。好きで好きでたまらない人間の情熱から生れるというのは、こういう製品の開発動機として理想的だと私は思う。ただ、情熱的な執念は、独断と偏見を生みがちであるから、商品としての普遍性に結びつけることが難しい。
 変換器として物理特性追求と具現化が、どこまでいっているかに再びメスを入れ、従来の理論的定説や、製造上の問題を洗い直し、今、なにが作れるか、に挑戦したオンキョーの研究開発グループの成果が、この「グランセプター」なのである。そして、その結果が音のよさとしてどう現われたか? このプロトタイプを約一年前に聴く機会を得た私は、条件さえ整えば、今までのスピーカーから聴くことのできないよさを、明瞭に感知し得るシステムであることを認識したのであった。
     *
そして、GS1の、システムとしての大きな特長と、その成果について書かれている。
そして最後にこう書かれている。
     *
 使用にあたっては、かなり厳格に条件を整えなければならない。決してイージーに使えるようなシステムではない。それだけに条件が整った時の「グランセプター」は得難い高品位の音を聴かせるのである。
 とにかく、この徹底した作り手側のマニアックな努力と精神は、それに匹敵した情熱をもつオーディオファイルに使われることを必要とし、また、そうした人とのコミュニケイションを可能にする次元の製品である。そして過去の実績を新たなる視点で洗い直して、歩を進めるという真の〝温故知新〟の技術者魂に感銘を受けた。
(全文は”the re:View (in the past)“で公開している。)
     *
GS1の、この記事は”THE BIG SOUND”である。
カラー三つ折りの記事であり、扱いとしてもっとも目立つ記事としてつくられている。

ステレオサウンドは注目の新製品をカラーページで扱う。
同じカラーページであってもページ数に違いがある。
このころのステレオサウンドはそうだった。

“THE BIG SOUND”は、注目製品の中の注目製品というわけである。
三つ折りの”THE BIG SOUND”は71号で終り、
72号からは”BIG New SOUND”となり通常のカラーページになった。

GS1は翌72号にも登場している。

Date: 10月 14th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その2)

どんなことを書いていくのか、その詳細はまだ決めていない。
それでも、オーディオ評論にも関係してくるテーマだし、ジャーナリズムということにも関係してくる。
だから、タイトルをどうしようかと迷っていた。

それでも今回の「世代とオーディオ」にしたのは、
GS1の登場が今から30年以上前のことであり、
このスピーカーシステムのことをまったく知らない若いオーディオマニアがいても不思議ではないし、
そのころからオーディオをやっていた人でも、
GS1の実物を見たことはない、音は聴いたことがないという人も少なくないと思うからだ。

聴いたことのある人でも、きちんと鳴っている音を聴いている人はわずかなはずだ。
どうしてかということについてはこれから書いていくが、
GS1は、いくつかの制約のあるスピーカーシステムでもあった。

だから、うまく鳴らすには鳴らし手にかなりの技倆が求められるし、
試聴条件も十分に気を使うことを要求するスピーカーであった。

そういうスピーカーシステム(といっても他のスピーカーにも基本的には同じことがいえる)だから、
きちんと鳴っているとは言い難いGS1の音しか聴いたことがない、という人もいるはずだ。

そんな存在であったGS1を、登場から30年以上が経ってGS1について語るということは、
それだけに配慮が語り手側には求められる。

GS1に限らない、あるオーディオ機器の開発に携わった人が、
その製品について語ってくれるのはユーザー側にとって興味ある話のはずだ。

だが気をつけなければいけないのは、その評価をめぐって開発者が語るケースである。

GS1ほどの製品ともなれば、開発者の思い入れはそうとうなものである。
だからといって、自分が開発したオーディオ機器の評価がどうであったのかを、
歪めて伝えていいものだろうか。

私のようにGS1登場を現場で見て聴いた者であれば、そこに違和感をおぼえる。
けれどGS1を見たことも聴いたこともない世代に対して、
そういう語りを作り手側がした場合、そういった世代にはなかなか検証手段もないから、
そのまま鵜呑みという危険性もある。

あのころオーディオをやっていた人でさえ、GS1の存在を忘れている人なら、
開発者の語りをそのまま信じてしまうかもしれない。

何も私がこれから書いていくことが絶対的に正しい、と主張するわけではないが、
少なくとも実際にどんな評価を得ていたのかを知ってほしいし、
その上で、どう評価するのか、GS1というスピーカーシステムの存在をどう認識するのかは、
その人の自由であり、私がとやかくいうことではない。

GS1の評価ひとつとっても、こういうことを書いていけるというのは、
こういうところにも世代による断絶(に近いもの)があるのではないのか。
だからタイトルは「世代とオーディオ」にしている。

Date: 10月 14th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その1)

facebook、twitterといったSNSをやっていると、
オーディオのことだけにかぎってみても、あることについてこう思っている、こう感じている人がいることがわかる。

だからこそさまざまな人がいる理由があるわけだし、それを多様性といいかえることもできるのかもしれない。
それでも……、とおもうことがないわけではない。

あるスピーカーシステムについてのことだ。
このスピーカーシステムについて、このことについて書こうと以前から思っていいたが、
そのスピーカーシステムが何であるのか、
その開発者であるのであるのかをふせたまま書くのか、はっきりとさせるのか。
それでためらっていた。

こうやって書き始めたのだから、はっきりと書こう。
そしてはじめにことわっておくが、個人批判や特定のスピーカー批判ということではなく、
どうして、そういうすれ違いが起ったのか、
その理由について書くことは無理かもしれないが、それでもいくつか書いておきたいことがある。

そのスピーカーシステムとは、オンキョーが1984年に発表したGrand Scepter GS1(以下GS1と略す)であり、
その開発者は由井啓之氏である。
由井氏は現在タイムドメイン・ブランドのスピーカーシステムを主宰されている。

由井氏は、GS1は海外では高く評価されたにも関わらず、
日本での評価は不当なものだったといった趣旨のことを何度か書かれている。
それを目にするたびに、そうじゃないのになぁ……、と思っていた。

私は1984年のころステレオサウンドにいた。
だから、その場にいた者の一人としてオンキョーのスピーカーシステムGS1について、
その評価がどうであったのかについて、書いておく。

GS1は、不当に評価されていたのか。
私はそうは思っていない。
ステレオサウンド誌上での評価は、かなり高いものだった。
ステレオサウンド 73号ではComponents of the years賞に選ばれているだけでなく、
さらにゴールデンサウンド賞にもなっている。

ステレオサウンドで、GS1の評価がどうであったのかは、これから詳しく書いていくし、
そのために当時のステレオサウンドを引っ張り出し、いくつかの記事を読み返したが、
私には、由井氏が「日本では不当な評価」だったとされる理由が思い当たらなかった。