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Date: 5月 9th, 2009
Cate: 930st, EMT, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その52)

(その23)での冒頭で引用した、瀬川先生によるEMT 930stの試聴記。

この文章こそ、瀬川先生の音の好みを知る上で好適と言えよう。
     ※
中音域から低音にかけて、ふっくらと豊かで、これほど低音の量感というものを確かに聴かせてくれた音は、今回これを除いてほかに一機種もなかった。しいていえばその低音はいくぶんしまり不足。その上で豊かに鳴るのだから、乱暴に聴けば中〜高音域がめり込んでしまったように聴こえかねないが、しかし明らかにそうでないことが、聴き続けるうちにはっきりしてくる。ことに優れているのが、例えばオーケストラのバランスと響きの良さ。まさにピラミッド型の、低音から高音にかけて安定に音が積み上げられた見事さ。そしてヴァイオリン。試聴に使ったフォーレのソナタの、まさにフォーレ的世界。あるいはクラヴサンの胴鳴りが弦の鋭い響きをやわらかく豊かにくるみ込んで鳴る美しさ。反面、ポップスのもっと鋭いタッチを要求する曲では、ときとしてL07Dのあの鮮鋭さにあこがれるが、しかし一見ソフトにくるみ込まれていて気づきにくいが、打音も意外にフレッシュだし、何よりもバスドラムの重低音の量感と、皮のたるんでブルンと空気の振動する感じの低音は、こんな鳴り方をするプレーヤーが他に思いつかない。
なお、試聴には本機専用のインシュレーター930−900を使用したが、もし930stをインシュレーターなしで聴いておられるなら、だまされたと思って(決して安いとはいえない)この専用台を併用してごらんになるよう、おすすめする。というより、これなしでは930stの音の良さは全く生かされないと断言してもよい。内蔵アンプをパスするという今回の特殊な試聴だが、オリジナルの形のままでもこのことだけは言える。
     ※
「ハイクォリティプレーヤーの実力診断」の記事の冒頭、「テストを終えて」という文章が掲載されている。

ここで「良くできた製品とそうでない製品」の音を、「果物や魚の鮮度とうまさ」に例えられている。

Date: 5月 8th, 2009
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その51)

ステレオサウンド 55号の「ハイクォリティプレーヤーの実力診断」の記事中で、
トーレンスのTD126MKIIICのところで、こんなことを、瀬川先生は書かれている。
     ※
今回の試聴盤の中でもなかなか本来の味わいの出にくいフォーレのVnソナタなどが、とても優雅に、音楽の流れの中にスッと溶け込んでゆけるような自然さで鳴る。反面、ポップス系では、同席していた編集の若いS君、M君らは、何となく物足りないと言う。その言い方もわからないではない。
     ※
SさんとMさんは、ステレオサウンド 56号での、
トーレンスのリファレンスの新製品紹介記事(これも瀬川先生が書かれている)でも登場する。

リファレンスは、TD126同様、フローティングプレーヤーではあるが、その機構はまったくの別物。
TD126がコイル状のバネで、比較的十慮の軽いフローティングボードを支えているのに対し、
リファレンスでは、ベースの四隅に支柱を建て、板バネと金属ワイヤーによる吊下げ式となり、
プレーヤー本体の重量も、TD126が14kg、リファレンスは90kgと、
構造、素材の使い方、まとめ方など、異る代物といえる。

リファレンスは、ワイヤーの共振点を変えられるようになっていた。
瀬川先生は、試聴記のなかで、いちばん低い周波数に設定したときが好ましかったが、
ここでも編集部のSさんとMさんは、その音だと、ポップスでは低音がゆるむから、と、
高い周波数にしたときの音の方がいい、と言っていた、と書かれていた(はず)。

ここでも、瀬川先生は、やわらかく、くるみ込むような低音を好まれていることが、はっきりとわかる。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その19・補足)

A740のXLR端子がバランス入力ではないわけだから、
コンシューマー用パワーアンプで、最初にバランス入力を装備したのは、マークレビンソンのML2Lだろう。

すくなくとも日本で販売されたアンプということに限れば、ML2Lで間違いないはず。
次は、ジェームズ・ボンジョルノ主宰のSUMOのThe PowerとThe Goldだろう。
ML2LはXLR端子、SUMOの2機種はフォーンジャックを採用していた。

SUMOのアンプは、バランス入力のインピーダンスは10kΩと一般的な値なのに、
アンバランス入力は1MΩと、100倍も高くなっている。
正しくいえば、バランス入力の10kΩは、片側だけの入力(+側だけ、−側だけ)だと、
その半分の5kΩだから、200倍高い値である。

マーク・レヴィンソンが、CelloのEncore Preampのライン入力を1MΩにしたのは、1989年だから、
ボンジョルノは9年前に高入力インピーダンスをとり入れていたわけだ。
そのことを謳うかそうでないかは、ふたりの性格の違いからきている、と私は思っている。

SUMOの前に設立したGASでのデビュー作、Ampzillaの入力インピーダンスは、
ごく初期のものは、記憶に間違いがなければ、7.5kΩだった。
1974年の、そのころのパワーアンプの入力インピーダンスは、50k〜100kΩだったから、
かなり低い値だったわけで、ペアとなるコントロールアンプのティアドラが、
8Ωのスピーカーを、3WまではA級動作で鳴らすことができるほどの、
小出力のパワーアンプ並のラインアンプだから、可能な値といえる。

それが6年後のSUMOでは、200倍ちかい1MΩに設定することが、
なんともボンジョルノらしいといえば、そう言えるだろう。

私がSUMOのThe Goldを使っていたころ、ボンジョルノの人柄について、
井上先生がいくつか話してくれた内容からすると、
そうとうにユニークな人であることは誰も否定できないほどだ。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その19・訂正)

(その19)で、ルボックスのパワーアンプA740にバランス入力が装備されていると書いてしまったが、
たまたまA740と、その元となったスチューダーのパワーアンプA68のサービスマニュアルが
PDFで入手できたので、いったいどこがどう違うのか見比べていたら、間違いだったことに気がついた。

A740にはRCAピンジャックにすぐ下にXLR端子が設けられている。
A68はプロ用ということもあって、XLR端子のみで、もちろんバランス入力。
だからA740もそのままバランス入力を備えているものと思い込んでしまっていた。
A740のXLR端子は、RCA入力に並列に接続されているだけのアンバランス入力である。

A740とA68の内部は、よく似ている。
A740には、A68にはないメーターが装備され、スピーカー切替スイッチもついてる。
短絡的に捉えるなら、そういった装備により、多少音は影響されるように思いがちだが、
瀬川先生は、A68よりもA740の音を高く評価されていた。
性能が向上している、といった書き方だったように記憶している。

だがいったい、どこがどう違うのだろうかと、ずっと知りたかったことがやっとわかった。
A740とA68は、パワーアンプ部と電源の回路は同じだ(細かい定数までは、まだ比較していない)。
ブロックダイアグラムをみると、どちらもパワーアンプの前段にプリアンプとフィルターをもっており、
ここが2機種の相違点である。

A68は、まずRFフィルターを通り(バランス構成で、コイルが直列に挿入されている)、
入力トランス、ゲイン14dBのプリアンプ、その後にハイカットフィルター、
そしてパワーアンプへと信号は渡されていく。

A740にはRFフィルターはなく、レベルコントロールを経て、
ゲイン7dBのプリアンプ(回路構成はA740と同じ、上下対称回路)、
その後のフィルターはハイカットとローカットの2段構成で、パワーアンプの回路へとつながっている。

プロ用、コンシューマー用と、使用状況に応じての信号処理の使い分けである。

Date: 5月 5th, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その25)

井上先生は黙っておられた。

だからというわけではないが、つい反論が口から出ていた。
「逆でしょう。アナログのほうがすべての現象が目や耳で確認できるし、
きちっと使いこなしができればコントロールできる。
CDプレーヤーは、トレイが引っ込んでしまうと、もう中の動作に対してはいっさい手が出さない。
何がどうなっているのかも直接確認することはできない。出てくる音も、つねに同じわけじゃない。」

こんなことを一気に言ってしまった。
真っ向から否定したわけだから、Hさんは、私を、失礼なヤツだな、と思われていただろう。

すると井上先生が、「うん、宮﨑の言う通りだよ。CDプレーヤーはブラックボックスだし、
アナログプレーヤーはコツ、ツボがわかっていれば、きちんとコントロールできるもの」と、
井上先生と会われた方ならわかってくださるだろう、あの口調で言われた。

嬉しかった。
井上先生に認められたようで、嬉しかった。

Date: 5月 4th, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その24)

1982年10月1日に登場したCDとCDプレーヤーを、
自分の装置に導入したのは、1984年の後半だったと記憶している。

アナログプレーヤーに、トーレンスの101 Limitedを無理して買って、それほど時間も経っていなかったことで、
正直、金銭的にCDプレーヤーまで手が回らなかった。
一方、ステレオサウンドでの取材では、確実にCDに、使用プログラムソースは移行していた。

私が最初に使ったCDプレーヤーは、京セラのデビュー作のひとつである、DA910。
といっても自分で購入したものではなく、まだCDプレーヤーを導入していない私を見兼ねて、
傅さんが貸してくださったから、なんとかCDを聴くことができるようになった。

自宅で使いはじめて、ステレオサウンドの試聴でもなんとなく感じはじめていたことを確認できた。
意外にも、CDは再現性が低いということで、これは、この項の(その14)で述べている再現性である。

CDをトレイにセットして、プレイ・ボタンを押せば、つねに同じ音がする、そんなイメージがあったと思うし、
事実、井上先生とある筆者の方(Hさん)の取材のとき、Hさんが
「CDになって試聴が楽になりましたね。再現性が高いから。アナログディスクのような不安定要素がないから」と、
井上先生に同意を求めるように言われたことがあった(Hさんは早瀬さんのことではない。念のため)。

85年ごろのことだ。確かにCDの音に手ごたえを感じられるようになってきていた。
だから余計に、CDの再現性の低さも感じとれるようになってきてもいたと言えよう。

正直、Hさんの発言を聞いて、「えっ?」と思った。

Date: 5月 3rd, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その8・補足)

五味先生がお使いだったヤマハ製のラックは、BLC103シリーズで、
イタリアのデザイナー、マリオ・ベリーニによるもの。

BLC103は、縦型タイプ(下段がレコード収納用、その上にアンプ、チューナー類を収められるように3段)、
スクエア型タイプ(下段はレコード収納用で、その上に小物入れの引出しが2段)、
このふたつを連結する天板をデスクタイプと分類し、かなり自由に組み合わせることが可能だった。

ヤマハでは、単なるラックとは呼ばず、コンポーネントファニチャーと名付けていた。

モダンなラックだと、中学生の頃、思っていたし、
そのころは五味先生が使われていたことは知らなかったけど、BLC103が欲しかった、使いたかった。

でも基本セットで、8万円ほどしていたラックは、学生には高すぎた。
そんなこともあって、ステレオサウンド 55号の五味先生の追悼記事中の写真に、
このラックを見つけたときは、なんとなく嬉しかった。

練馬区役所で、五味先生のマッキントッシュやEMTが収められているラックは、
盗難防止のため扉と鍵が必要なのは理解できるけど、なんと武骨なだけなんだろうか。

余談だが、1970年代のヤマハは、
このラックとカセットデッキのTC800GL、ヘッドフォンのHPシリーズは、マリオ・ベリーニに、
アンプやチューナーなどは、日本のGKデザインに依頼していた。

瀬川先生は、GKデザインのヤマハの製品についてひと言、
「B&Oコンプレックス」と言われていたのを思い出す。

TC800GLは1975年、コントロールアンプのC2は翌76年に、
イタリア・ミラノHiFiショーで、トップフォルム賞を受賞している。

Date: 5月 2nd, 2009
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと
2 msgs

瀬川冬樹氏のこと(その50)

フェログラフはイギリスのオーディオメーカーで、日本に紹介されたのは、スピーカーシステムのS1と、
オープンリールデッキのStudio 8(本格的なコンソール型で、価格は1980000円)ぐらいだけだろうか。

S1は、価格的にはスペンドールのBCIIと同クラスのスピーカーシステムで、
ユニット構成は、ウーファーにKEFの楕円型ユニットB139、スコーカーは12cm口径のプラスチックコーン型、
トゥイーターはドーム型で、クロスオーバー周波数は、400Hzと3.5kHz。
縦にラインのはいったサランネットと、白く塗装された一本脚のスタンドが外観上の特徴となっている。

S1の音について、瀬川先生は、「ステレオのすべて ’73」では、
低音のうんと低いところがふくらみ、そのため、他のスピーカーと並べて聴くと、
S1だけ低音が別に出てくる。だぶついているという受け取り方もあるくらい、と述べられている。

さらに中域については、うまく押えられている、と言われ、
それに対し菅野先生は、押えられているというよりも足りない、と指摘され、
具体例として、ソニー・ロリンズのテナーサックスが、アルトになるという感じがある、
図太い音楽があきらかに痩せてしまう、と。

その点は瀬川先生も認められている。
高いほうもややしゃくれ上った、いわゆるドンシャリの高級なやつというふうに、
S1の全体のイメージを表現されている。

そんなS1の、中域の薄さを補う意味で、ダイナコとオルトフォンを選択されている。
つまりS1の組合せにおいて、低音のふくらみに関して、どうにかしようとは考えておられないことがわかる。

おそらく傅さんだけでなく、クラシック好きのひとでも、
S1とダイナコの組合せの低音を「ゆるい」と感じられる方がいても不思議ではない。

Date: 5月 1st, 2009
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その49)

この項の(その35)を読まれた傅さんから、すぐにメールをいただいている。

傅さんが、マークレビンソンのML7Lの購入のために手放されたオーディオ機器がリストアップされていた。
そのなかにフェログラフのS1があった。
「例のスピーカーですね」というコメントがついていた。
その下には、ダイナコの管球式のモノーラルパワーアンプのMark IIIがあり、
「これはS1との組合せを瀬川先生が推薦されていましたが、ポップスでは低音が緩かったです」
と書き加えられていた。

フェログラフのS1にダイナコのMark IIIとは、意外な感じがして、
何に掲載されていたんだろうか……、と思っていたら、
実は、この組合せも、「ステレオのすべて ’73」で紹介されていたものだった。

コントロールアンプには、やはり管球式のラックスのCL35/IIを使われている。
プレーヤーは、トーレンスにオルトフォンの組合せだ。

参考までに書いておく。
フェログラフ S1(135000円×2)
ラックス CL35/II(98000円)
ダイナコ Mark III(56000円×2)
トーレンス TD125(88000円)
オルトフォン SPU-GT/E(27500円)
オルトフォン RS212(26000円)

傅さんも、これに近い組合せで、鳴らされていたわけだ。

「ステレオのすべて ’73」は、25年ほど前にいただいた本、
それをいまになって、きちんと読み、知りたいと思っていたことが、そこに書いてある。
まさに「灯台下暗し」だし、当時は、いただいた本が、いまこんなにも役立つことになろうとは、
当然だけど、まったく想像できなかった。
伊藤喜多男先生からいただいた本だから、ずっととっておいていたわけだ。
自分で購入したものだったら、かなり以前に処分していただろう。

そう思うと、本一冊のことではあるが、縁の不思議さを感じている。

Date: 4月 30th, 2009
Cate: 伊藤喜多男, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その48)

「ステレオのすべて ’73」は、伊藤アンプに関心のある人にとっては、特別な号であるはず。

私が持っている「ステレオのすべて ’73」は伊藤先生からいただいたもの。
伊藤先生の「ステレオアンプ逸品料理論」が載っている。
シーメンスのオイロダイン用に製作されたウェスタン・エレクトリックの300Bのシングルアンプ、
それにコントロールアンプが発表された号だからだ。
(記事の扉には、伊藤先生のサインもいただいている。)

うれしくて、伊藤先生の記事は何度も読み返したのに、
我ながら不思議なのだが、他の記事はほとんど読んでなかった。

他のことで調べものをしたくてひっぱり出してきた「ステレオのすべて ’73」に、
瀬川先生のことで確認したかった発言が載っているとは、まったく思っていなかった。
だから本をぱっと開いたところに、引用した言葉を見つけたとき、
何がどこでどうつながっているのか、まったく予測できないと思った次第である。

「ステレオのすべて ’73」は、私のところにあるオーディオの雑誌のなかでは、いちばん古い。
まだ、マッキントッシュのC22とMC275が現役なのにも、すこし驚く。
記事によると、アメリカでは数年前に製造中止になっているが、日本からの要望で注文生産しているとある。

参考までに価格を書いておくと、C22が286000円、MC275が349000円。
すでにC28とMC2105も販売されていて、こちらは336000円と434000円となっている。
広告を見ていくと、タンノイの輸入元はシュリロ貿易だし、
クライスラー電気のページには、リビングオーディオの文字があり、
「リビングオーディオ」がクライスラーのブランド名だったこともわかった。

Date: 4月 29th, 2009
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その47)

瀬川先生の音の好みについて、どうしても確かめておきたいことがあった。
低音に関して、である。

低音に関しては、それが下品にならなければ、洗練されているのであれば、
ふくらんでも良しとされる、というよりも、どちらかというと、量感豊かでふくらむのも、
もしかしたら好まれているのではないか、と思ってきた。

愛用されてきたEMTの930st、SAEのMark2500だけでなく、
瀬川先生が好まれるオーディオ機器のなかには、スリムという一言では片付けられないモノがいくつもある。

だから、ずっと低音のふくらみについて発言されていないのか、さがしていた。

1972年暮に、音楽之友社から出た「ステレオのすべて ’73」で、
瀬川先生と菅野先生、それに長岡鉄男氏の鼎談が載っている。
そこで「ふくらみ方が、低音のうんと低いところでふくらむのはかまわない。
中域でふくらむのはいやなんだ」と語られている。

この発言のすこし前には、さらに
「いい方によってはふくらむというような鳴り方、あれはむしろぼくにとっては非常に快い」とまで言われている。

やっと見つけた、と思っている。
同時に、灯台下暗しだった、とも思っている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その40)

瀬川先生が、病室で飲まれたホワイト&マッケイの話を、
当時オーデックスに勤められていたYさんから聞いたとき、
そして、そのことを「瀬川冬樹氏のこと(その16)」に書いたとき、
この水こそが、瀬川先生にとってのコントロールアンプなのではないか、と思っていた。

長い間寝ていた酒を起こす水の役割──、
レコードやテープに収められている(寝ている)音楽を、すくっと起こす役割を担っているのが、
コントロールアンプの存在意義のように感じはじめていた。

Date: 4月 27th, 2009
Cate: Mark Levinson, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その46)

瀬川先生が、ベストバイのマイベスト3に、マークレビンソンのML2Lを選ばれていないことについては、
「思い出した疑問」にも書いている。

ML2Lの音は、それまでのA級動作のアンプの音が、やわらかく素直で透明な音というイメージを覆してしまった。
それほどスピーカーとの結合が密になった感じで、全体的な音の形は、贅肉をまったく感じさせないスリムさで、
スピーカーに起因するユルさまでもタイトに締め上げているような、強烈な印象を持っている。

線が細く、スリムでタイト。なめからで透明であることを徹底して追求し、
音が下品にふくらむことを拒否したところは、そのまま瀬川先生の音の好みともいえるし、
4350や4343をML2Lを6台用意して、低域をブリッジ接続にしてバイアンプで鳴らした音が、まさにそうであろう。

なのにML2Lを選ばれていないのは、なぜなのか。

瀬川先生がML2Lを導入される前に使われていたパワーアンプは、SAEのMark2500である。
そのときのアナログプレーヤーは、EMTの930st。
どちらも低域の豊かさは、他の機種からはなかなか得られないよさであり、
ピラミッド型の、安定した音のバランスは、聴き手をくるみ込む。

ステレオサウンド 55号のアナログプレーヤーの試聴記事で、
瀬川先生は、930stの低音を「いくぶんしまり不足」と表現されている。
55号のマイベスト3に挙げられているパイオニア/エクスクルーシヴP3についても、
「ひとつひとつの音にほどよい肉付き感じられ、弾力的で、素晴らしく豊かな気分を与える」と、
930stとともに高く評価されている。

パワーアンプのマイベスト3は、ルボックスのA740、マイケルソン&オースチンのTVA1、
アキュフェーズのP400で、
ML2Lの、タイトで無駄な肉付きのない音は反対の、
エクスクルーシヴP3に通じる、美しい響きをもつモノを選ばれている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十四 825Ω)

現行製品で、MC型カートリッジを、数kΩ以上の高い入力インピーダンスで受けられるモノのひとつに、
コード(CHORD)のフォノイコライザーアンプ、Symphonicがある。

Symphonicの入力インピーダンスは、アンバランス入力が33、100、270、4.7k、47kΩの5段階、
さらにバランス入力も備えており、こちらはアンバランス時の2倍、66、200、540、9.4k、94kΩとなる。
フォノ入力でバランスということは、MC型カートリッジ用ということであり、
94kΩは、現在市販されているアンプの中では、もっとも高い値だ。

ところでML7LのL3Aカードの入力インピーダンスは、825Ωという、中途半端な数字なのだろうか。
MC型カートリッジをハイインピーダンスで受けることは理に適っている。
ならば切りのいい数字で1kΩでもいいわけだし、さらに高い10kΩ、100kΩでもいいだろうし、
プリント基板上にDIPスイッチを設けて、インピーダンスを切り替えることもできたはず。
にも関わらず825Ωだけである。

マーク・レヴィンソンは、ある特定のカートリッジで、この値を選んだのだろうか……。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×十三 825Ω)

つまりMC型カートリッジをヘッドアンプで受ける場合、入力抵抗による減衰量を極力なくすためには、
カートリッジの内部インピーダンスに対し、数100倍から1000倍程度の入力インピーダンスということになる。

実は、このことは目新しいことではなく、かなり以前から指摘されていたことである。
1969年に出版された「レコードプレーヤ」(山本武夫氏、日本放送出版協会)には、
「ムービングコイル形カートリッジ使用上の注意」として、次のように書かれている。
     ※
ヘッドアンプを用いる場合には、カートリッジの電気インピーダンスにくらべてアンプの入力インピーダンスがかなり高く、カートリッジが無負荷状態で動作できるものが必要です。ヘッドアンプを使う場合には、インピーダンス関係より、カートリッジの出力電圧が大きくなった場合のひずみに注意すべきです。
     ※
いまから40年以上前、ML7Lが825Ωを採用する10年以上前に、
すでにMC型カートリッジは、かなり高いインピーダンスで受けるものだと、山本氏は指摘されていた。

入力抵抗でのロスを極力なくすだけでも、ヘッドアンプのSN比は向上する。
微小レベルの信号を扱うヘッドアンプで、何も入力のところで信号を減衰させていい道理はひとつもない。

そういえば、日本では、無線と実験の筆者である金田明彦氏が、やはりMC型カートリッジ、
金田氏の場合は、デンオンのDL103を、560kΩで受けられている。