瀬川冬樹氏のこと(その46)
瀬川先生が、ベストバイのマイベスト3に、マークレビンソンのML2Lを選ばれていないことについては、
「思い出した疑問」にも書いている。
ML2Lの音は、それまでのA級動作のアンプの音が、やわらかく素直で透明な音というイメージを覆してしまった。
それほどスピーカーとの結合が密になった感じで、全体的な音の形は、贅肉をまったく感じさせないスリムさで、
スピーカーに起因するユルさまでもタイトに締め上げているような、強烈な印象を持っている。
線が細く、スリムでタイト。なめからで透明であることを徹底して追求し、
音が下品にふくらむことを拒否したところは、そのまま瀬川先生の音の好みともいえるし、
4350や4343をML2Lを6台用意して、低域をブリッジ接続にしてバイアンプで鳴らした音が、まさにそうであろう。
なのにML2Lを選ばれていないのは、なぜなのか。
瀬川先生がML2Lを導入される前に使われていたパワーアンプは、SAEのMark2500である。
そのときのアナログプレーヤーは、EMTの930st。
どちらも低域の豊かさは、他の機種からはなかなか得られないよさであり、
ピラミッド型の、安定した音のバランスは、聴き手をくるみ込む。
ステレオサウンド 55号のアナログプレーヤーの試聴記事で、
瀬川先生は、930stの低音を「いくぶんしまり不足」と表現されている。
55号のマイベスト3に挙げられているパイオニア/エクスクルーシヴP3についても、
「ひとつひとつの音にほどよい肉付き感じられ、弾力的で、素晴らしく豊かな気分を与える」と、
930stとともに高く評価されている。
パワーアンプのマイベスト3は、ルボックスのA740、マイケルソン&オースチンのTVA1、
アキュフェーズのP400で、
ML2Lの、タイトで無駄な肉付きのない音は反対の、
エクスクルーシヴP3に通じる、美しい響きをもつモノを選ばれている。