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Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その18)

この項の(その11)で書いたスピーカーシステムは、
6dB/oct.のネットワークとスピーカーユニットに音響負荷をかけることで、
トータル12dB/oct.の減衰特性を得ているわけだが、
これまでの説明からおわかりのように伝達関数:1ではない。

スピーカーシステムとしての出力の合成は、位相特性は急激に変化するポイントがある。
つまり6dB/oct.ネットワーク採用の技術的なメリットは、ほぼないといえよう。
もちろん12dB/oct.のネットワークを使用するのとくらべると、ネットワークのパーツは減る。
ウーファーのハイカットフィルターであれば、通常の12dB/oct.では、
直列にはいるコイルと並列に入るコンデンサーが必要になるのが、コイルひとつで済むわけだ。

パーツによる音の違い、そして素子が増えることによる、互いの干渉を考えると、
6dB/oct.のネットワークで、
12dB/oct.のカーブが、スピーカーシステム・トータルとして実現できるのは意味がある。

けれど、事はそう単純でもない。

Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その17)

チャンネルデバイダーを例にとって話をしたが、スピーカーのネットワークでも同じで、
ネットワークの負荷に、負荷インピーダンスがつねに一定にするために、
スピーカーユニットではなく、8Ωなり4Ωの抵抗をとりつけて、その出力を合成すれば、
6dB/oct.のカーブのネットワークならば、振幅特性、位相特性ともにフラットである。

他のカーブでは、伝達関数:1は実現できない。
ただし6dB/oct.のカーブのネットワークでも、実際にはスピーカーユニットが負荷であり、
周波数によってインピーダンスが変動するために、決して理論通りのきれいにカーブになることはなく、
実際のスピーカーシステムの出力が、伝達関数:1になることは、まずありえない。

ただインピーダンスが完全にフラットで、まったく変化しないスピーカーユニットがあったとしよう。
それでも、現実には、スピーカーシステムの出力で伝達関数:1はありえない。
スピーカーユニットの周波数特性も関係してくるからである。

ひとつひとつのスピーカーユニットの周波数帯域が十分に広く、しかもそのスピーカーユニットを、
ごく狭い帯域でのみ使用するのであれば、かなり伝達関数:1の状態に近づけることはできるが、
実際にはそこまで周波数帯域の広いユニットはなく、
ネットワークの減衰特性とスピーカーユニットの周波数特性と合成された特性が、
6dB/oct.のカーブではなくなってしまう。

Date: 11月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その16)

最近のオーディオ誌では、ほとんど伝達関数という言葉は登場しなくなったが、
私がオーディオに興味をもち始めた1976年ごろは、まだときどき誌面に登場していた。

チャンネルデバイダーがある。
入力はひとつで、2ウェイ仕様なら出力は2つ、3ウェイ仕様なら3つあるわけで、
通常なら、それぞれの出力はパワーアンプへ接続される。

このチャンネルデバイダーからの出力を合成したとしよう。
当然、入力信号と振幅特性、位相特性とも同じになるのが理想だが、
これができるは、遮断特性が6dB/oct.だけである。つまり伝達関数:1である。

12dB/octのカーブでは振幅特性にディップが生じ、位相特性も急激に変化する。
18dB/oct.のカーブでは振幅特性はほぼフラットでも、位相特性はなだらかにシフトする、といったぐあいに、
6dB/oct.カーブ以外、入力と合成された出力が同じになることは、アナログフィルターを使うかぎり、ありえない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その44)

バッファーアンプ用のモジュールLD2を抜きとれば、バッファーアンプなしの音が聴けるのであれば、
すぐにでも試してみるところだが、残念ながらそうはいかない。
バッファーアンプの有無により、どれだけ音が変化するのは、だから想像で語るしかない。

マークレビンソンのLNP2、JC2の音は、あきらかに硬水をイメージさせる。
ここが、ML7と大きく違うところでもある、と私は思っている。

パッファーアンプ仕様にするということは、LNP2を構成するLD2モジュールのもつ硬水的性格を、
より高めていくことになるのではなかろうか。
その意味では、単に音としての純度ではなく、LNP2としての純度、
マークレビンソンのアンプとしての純度を高めていくことでもあるように感じられる。

硬水をさらに硬水にすることで、細部に浸透させるミネラル分を濃くすることで、
音楽の細部の実体感を増し、音像のクリアネスを高めていくことにつながっていくようにも思う。

世田谷のリスニングルームに移られるまでは、音量を絞って聴くことの多かった瀬川先生にとって、
これらの音の変化は、大切なことであったのかもしれない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その43)

LNP2を構成するモジュールは、信号系に使われているLD2が、片チャンネルあたり3つ、
その他にVUメーター駆動用のモジュールの、両チャンネルで8つである。

モジュールが取付けられているプリント基板には、あと2つスペースがあり、
ここにコンデンサーマイクロフォン用のファントム電源用モジュールか、
LD2を、バッファーアンプとして、もう1組追加することができる。

瀬川先生は、何度か書かれたり語られているように、バッファーアンプつきのLNP2Lを愛用されていた。
理由は、音がいい、からである。
バッファーアンプを加えた場合、カートリッジからの信号は、計4つのLD2を通って出力されるわけだ。
信号経路を単純化して、音の純度を追求する方向とはいわば正反対の使い方にも関わらず、
瀬川先生は、このほうが、音楽の表現力の幅と深さが増してくる、と言われている。

ステレオサウンドに常備してあったLNP2Lも、このバッファーアンプ搭載仕様だった。

Date: 11月 9th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その8)

民主主義的なつくられかたをされたスピーカーは、なるほど精確かもしれない。
それはオーディオに対して、音響的な精確さにとどまることも多いようにも思う。

一方、VC7やオートグラフのようなスピーカーは、精確さということでは、
その他多くのスピーカーの方が、ずっと、その点では高く評価されるであろう。

けれど、音楽的な正確さ(精確さ、ではない)ということになると、
必ずしもどちらの側のスピーカーが上とは、断言できないところが、オーディオの難しさと面白さとして存在している。

オーディオの技術の限界は、つねに存在する。
そのなかで、技術を高度に発展させていくことも大事なのはわかったうえで、
洗練させていくことも大事なのではなかろうか、と感覚的にそう思っている。

VC7やオートグラフの語り口に、気品を感じるのは、
どちらのスピーカーの設計者も、もてる技術を洗練させた努力の結果であるからだ。

Date: 11月 9th, 2009
Cate: Bösendorfer/Brodmann Acoustics, VC7

Bösendorfer VC7というスピーカー(その7)

VC7の音を思い出すと、語り口という言葉が浮んでくる。
VC7は、VC7ならではの、音楽の語り口をもっている。

その語り口に、私は、少なくとも気品を感じているのかもしれない。

スピーカーは、いまのところどこまでいっても、からくりであることには変わりはない。
だからこそ、からくりならではの語り口が、必然的に生れてくるように思っているのだが、
なんだか最近の一部の、ある種素っ気無さをまとっているスピーカーには、語り口を感じることはない。

オートグラフにも、オートグラフならではの語り口がはっきりとある。
いまも高い評価を得ているスピーカーは、古い新しいに関係なく、
そのスピーカーならではの語り口を、立派な語り口をもっているからこそ、人を魅了してやまないのではないか。

もちろん、その語り口が気になる人にとっては、スピーカーとして論外ということになるかもしれない。
だからといって、なんら語り口をもたないスピーカーを、私は選ぼうとは、まったく思っていない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その42)

カートリッジが、レコード盤から音を拾ってくる。
機械的な音溝を、電気的な信号に変換する。
優秀なプレーヤーシステムを、見事に調整していれば、驚くほどの音を拾いあげる。

その拾いあげられた音を、
つまり音溝という形で眠っていた音を、完全に目覚めさせるのはコントロールアンプの役割なのかもしれない。

感覚的な表現でいえば、寝起きの乾いた体に新鮮な水を飲むのと同じように、
水を浸透させ目覚めさせるといった具合に。

コントロールアンプによっては、その水の量が足りないものがある。
水そのものが澱んでいるものもある。
細部まで水が浸透しないものもある。

軟水もあれば硬水もある。
マークレビンソンのLNP2やJC2は、硬水を音の細部にまで浸透させ、音が目覚める。

Date: 11月 9th, 2009
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(その33)

「小悪魔 ageha」という、
当ブログをお読みの方のほとんどはご存じないだろうが、
いま売行きを伸ばしている、勢いのある雑誌がある。

編集長は、中條氏という30代の女性。
ある雑誌のインタビューによると、週の大半は、夜の歌舞伎町をひとりで歩きまわっている、とのこと。
編集者が、一日会社の中にだけいては「会社の人」になってしまうから、と、
「小悪魔 ageha」にとっての現場である歌舞伎町の空気を感じとるためらしい。

では、オーディオにおける「現場」とは、どこなのだろうか。
すぐに明快な答を返せる人がいるだろうか。
自分で問いかけながら、私も即答はできない。考えているところだ。

それでもいえることは、「現場」を無視しては、語れないということだ。

Date: 11月 8th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その50)

再生系でも、トランスがまったくないラインに、ひとつトランスを挿入すると、
いわゆる「トランス臭さ」を音の面で指摘することはできる。

トランスが挿入されたことによる音の変化のさまざまな面のどこに耳をすませるかによって、
トランス臭い音に聴こえたり、トランスらしい音と、好適にうけとめることもできる。
たしかに、トランス臭い音は、トランスのメリットを高く評価している私でも、
たとえば、あまりできのよくないトランスだったり、トランスの使い方で適切でない場合には、ある。

優れたトランスを適切に使用したとしても、メリットばかりでないことは、音の面にも、やはり現われてくる。
それでも、面白いのは、トランスひとつだけだと、トランス臭さが、多少なりとも気になるものの、
優れたトランスの適切な使用法であれば、ふたつみっつ……とトランスを数を増やしていくと、
むしろひとつだけのときよりも、トランス臭さが増すかというと、
私が体験した少ない例ではあるけれど、ふしぎとトランス臭さが、逆に薄れてくるような印象がある。

トランスが全くない系にとって、ひとつだけのトランスは明らかに異物なのかもしれない。
それが、数が増していけば、感覚的には異物ではなくなってくる、といったら、すこし大げさすぎるだろうか。

Date: 11月 7th, 2009
Cate: 瀬川冬樹

単なる偶然

1981年の11月7日は、土曜日だった。
今日、11月7日も、土曜日。

別に珍しいことではないことはわかっている。

今日、六本木の国際文化会館で行なわれた「新渡戸塾 公開シンポジウム」をきいてきた。
ここで、私のとなりに座っていた女性の方の名前が、瀬川さんだった。

「瀬川冬樹」はペンネームだから、瀬川先生とはまったく縁のない人とはわかっていても、
不思議な偶然があるものだ、と思った次第だ。

Date: 11月 6th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その49)

また1次側のインピーダンスは、とうぜん使用するカートリッジのインピーダンスを考慮しなければならない。
インピーダンスの低いもので1.5Ω前後、高いものだと40Ω程度だから、
これらの値から大きく外れることは、まずできない。

つまりトランスの設計においては、扱う信号の大きさ、
1次側、2次側に接続される機器のインピーダンスなどの制約の中で、
うまくバランスをとってつくられるものである。
それに較べると、アンプの設計の自由度は、そうとうに大きいといえる。

こうやってみていくと、トランスの使用にメリットはあまりないように思われるだろう。
MC型カートリッジの昇圧手段としてぐらいならまだしも、
あえてコントロールアンプの終段やパワーアンプの入力にトランスをつけるなど、考えはしないであろう。

ネットワークのところで述べた信号系のループのことを思い出してほしい。
ループの問題に対して、トランスの有用性は高いものがあると、私は考えている。

Date: 11月 6th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その48)

入力信号が増幅されるものは、アンプである。
ただ厳密に言えば、入力信号が、文字通り増幅されて出力にあらわれるわけではない

入力信号に応じて、DC電源から必要なエネルギーを取り出しているわけで、
アンプに、入力信号だけでなく、電源というエネルギー源が接がれている点が、
トランスと大きく異るところで、アンプにとって最大出力電圧は、電源電圧によって定まる。

高耐圧の素子を使い、回路を構成し、高電圧をかければ、どれだけでも高い電圧を取り出せることになる。

トランスはというと、巻線比で昇圧比が決まるため、2次側の巻線を限りなく増やしていけば、
最大出力電圧はどこまでも高くできるかというと、そうではなく、
トランスにおいては、小信号用と大信号用とでは,設計方法が異る。
まずコアの大きさがまったく違う。

微小な信号を扱うMC型カートリッジ用の昇圧トランスでは、コアの容積が小さくなり、
物理的に2次側の巻線を限りなく巻くことは不可能であるとともに、
仮に巻けたとしても、2次側のインピーダンスがおそろしく高くなってしまう。

そうなると昇圧トランスの後にくるアンプの入力インピーダンスにそれだけ高い値が要求されることになるわけだが、
実際にはMM型カートリッジ用のフォノ入力のインピーダンスは、大抵47kΩ前後である。

つまり昇圧トランスの2次側のインピーダンスは、この値よりも大きくすることはできない。

Date: 11月 5th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その47)

トランスの原理は、難しいものではない。

1次側の巻線(コイル)に信号が流れると、1次側巻線が捲かれているコア内に磁束の流れが発生する。
この磁束の流れは、2次側の巻線の中を通る。そのとき2次側の巻線に電流を発生させるわけだ。
1次側と2次側の巻線数が同じであれば、入力信号と同じ電圧で出力される。

もし理想のコア、理想の巻線による、理想のトランス(つまりロスがまったくない)が存在するならば、
入力信号のエネルギーと出力信号のエネルギーは、まったく同じである。
実際にはロスがあるため、同じ巻線数でも、まったく同じにはならないわけだが、
少なくとも加えられた信号のもつエネルギー以上のものが出力に現われることは、絶対にありえない。

くり返すが、トランスを通るエネルギーは、入力信号のみなのだから。

エネルギーは電力であり、電力は電圧と電流の積である。
入力信号以外のエネルギーは、どこからも加えられないトランスにおいて、
昇圧比10のトランスがあれば、出力信号の電圧は10倍になるかわりに、出力電流は1/10になる。

つまりトランスはインピーダンス変換を行うことで、昇圧を可能にしている。
言葉をかえれば、信号が増幅されているわけではない、ということだ。

Date: 11月 5th, 2009
Cate: サイズ

サイズ考(その46)

トランスは、コア(磁性体)と2組以上の巻線から構成されるもので、1次側の巻線が入力、
2次側の巻線が出力となり、
この2組の巻線比が昇圧比であり、1次側の巻線数よりも2次側の巻線数が多ければ、信号は昇圧される。

1次側の巻線数が10、2次側が100であれば、昇圧比は10となる。
ヘッドアンプでは、ゲイン20dB(増幅率:10倍)のものを用意すれば、
入力に0.1mVが加われば、出力電圧はどちらも1mVと同じになる。

といっても、同じ性質の1mVでは、ない。
ヘッドアンプには電源というエネルギーを供給するものがあるのに、
トランスに電源はない。

トランスに加わるエネルギーは、入力信号のみ、である。