Date: 12月 1st, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その9)

LPは、一部例外的にピンク、白などのディスクもあったけれど、
黒、それも艶のある黒のディスクである。

そのディスクをカートリッジがトレースするわけだが、
トレースしていくためにはトーンアームが必要であり、
レコード、カートリッジ、トーンアーム、
この三つが、アナログディスク再生では動きを表している。

ターンテーブルプラッターももちろん回転しているわけだが、
精度が高く静かに回転しているターンテーブルほど、
それは静止しているようにも見える。

レコードには溝が刻んであるし、中心はレーベルがあり、
どんなにターンテーブルプラッターがわずかなブレもなく静かに回転していても、
レコードが回転していることは、すぐに判別できる。

カートリッジはレコードの外周から内側に向けて、これもまた静かに移動していく。
その移動もトーンアームが弧を描きながら支えている。

レコードに反りがあれば、カートリッジ、トーンアームの動きに上下方向が加わる。
ふわっ、とほんのすこし上昇したかと思えば、すぐにさがり静かに、何事もなかったかようにトレースを続けていく。

こういう場面を頭のなかで描いてみてほしい。
そのときのターンテーブルは、意外にも、というか、当然というか、
マイクロのRX5000と同じような姿をしているのではなかろうか。

RX5000は、ターンテーブルプラッターは砲金製で金色、厚みもけっこうある。
このターンテーブルプラッターを支えるベースは必要最少限の大きさの正方形で、
四隅をカットしている。色は黒。

RX5000の外形寸法はW31.2×H13.2×D31.2cmで、
LPのジャケットサイズとほぼ等しい。

プレーヤーを明るく照らすのではなく、ほのかに照らしたような使い方だと、
ベースの部分は影に埋もれていく。
本金の金色もギラつくわけではない。
視覚的にはレコード、カートリッジ、トーンアームだけが浮び上ってくる。

ターンテーブルのRX5000は、文字通りの縁の下の力持ち的存在でいることを、
自分で使ってみてはじめて知ることとなった。
SMEの3012-Rの優美さを際立たせてくれた。

Date: 12月 1st, 2012
Cate: Wilhelm Backhaus

バックハウス「最後の演奏会」(その10)

関節があるから、人の身体は身体として機能している。
関節がまったくなかったら、大きな骨がただひとつだけあって、
それがたとえ人間の骨格と同じ形をしていようと、関節がなければ人形と同じことになる。

関節は骨と骨を結合させている。

私はまだないけれど、身体のどこかの関節がはずれてしまうと、
たとえば肩が脱臼すると腕はだらりとなってしまう。
関節によって結合しているから、人はあらゆる動きを行える。

関節があってもそれが機能としているから骨格が成り立っているし、
身体も機能しているわけである。

骨があり関節があり、骨格はある。

骨格のしっかりした音、
スピーカーの骨格とはなにか、について考えていて、次に浮んできたのが関節である。

音に骨格がなければ、音は軟体動物のようになってしまう。
骨格があっても関節がなければ、あっても関節として機能(可動)していなければ、
人の身体は動けなくなるように、音もただそこにあるだけとなってしまう──、
骨格のしっかりした音をうまく表現できないから、
逆に骨格のない音、骨格のくずれてしまった音はどういうものかを考えてみた。

やはり関節が重要なキーワードに思えてくる。

関節は人の身体に無数にあるわけではない。
腕にしても肩にあり、肘にあり、手首にあり、指にもある。
だが、肩と肘の間に、肘と手首の間に関節があるわけではない。
それに関節には可動領域がある。
360度、どの方向にも自由自在に動かせるわけではない。方向と範囲がある。

そのため人間にはできない動きが生じる。
関節があるために動きが制限される。

スピーカーはあらゆる音楽を鳴らせるものであってほしい、
とすれば、スピーカーに骨格なんて存在しない方がいい、という考えもできる。
軟体動物のようにどんな動きでも、どんなポーズでもできるのほうが、
骨格のある、骨格のしっかりしたスピーカーよりも、音の自由度は広い──、
果して、そういえるのだろうか。

私には、どうしてもそうは思えない。
骨格のあるほうが、音楽を聴く上では自由度がある、と感じているし、
その点が、自分の音にもってこれるスピーカーとそうでないスピーカーとにわけることにもなっていく。

Date: 12月 1st, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その26)

私にとってJBLのD130というスピーカーは、異相の木だと書いた。
この異相の木を、自分の庭(環境)で鳴らしたい、それもそう遠くないうちに──と考えている。

私にとってJBLのD130は、つねにハークネスとともにある。
この異相の木を、どう鳴らしていくか、
平面バッフルに取り付けて、という手もあるけれど、やはりハークネスしかない。

なぜハークネスなのか、は何度か書いてきていることなので、ここでくり返しはしないが、
ハークネスにいれるユニットとして130Aもあるわけだが、
私にとってハークネスにはD130、D130にはハークネスで、これから先もずっと、
私がくたばるまで、これは変ることがない。

ハークネスはバックロードホーンである。CWホーンである。
D130をバックロードホーンで鳴らす。

基本的には私はワイドレンジ志向だから、D130だけで鳴らすことはどうしても高域の不足を感じてしまう。
なんらかのトゥイーターをもってくる必要があるわけだが、
075ではなく、LE175DLHをもってきたい。
075よりも175DLHのほうが、望む音が得られるという予感が、
175DLHの姿をながめていると感じられる。

基本的にはD130とL175DLHとの2ウェイで聴く。
それでも時には、D130をソロで鳴らしたい──、
きっとそう思うはずである。

だから2ウェイでもD130のソロ(つまりフルレンジ)でも、簡単に接続が切りかえられるようにはしておきたい。
それが異相の木としてD130を迎え、異相の木としてD130を聴くために、
私には必要なことだと、いまはおもえるからだ。

実はバックロードホーンという形式も、私にとっては異相の木的な存在に近く、
D130の異相の木としての性格を際立たせるために、より濃くしていくためにも不可欠の要素といえよう。

Date: 11月 30th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その8)

SME・3012-Rを取り付けるターンテーブル選びは、
ステレオサウンド 58号の瀬川先生の記事を読んだ時から、ずっと考え続けていたことである。
     *
どのレコードも、実にうまいこと鳴ってくれる。嬉しくなってくる。酒の出てこないのが口惜しいくらい、テストという雰囲気ではなくなっている。ペギー・リーとジョージ・シアリングの1959年のライヴ(ビューティ・アンド・ザ・ビート)が、こんなにたっぷりと、豊かに鳴るのがふしぎに思われてくる。レコードの途中で思わず私が「お、これがレヴィンソンのアンプの音だと思えるか!」と叫ぶ。レヴィンソンといい、JBLといい、こんなに暖かく豊かでリッチな面を持っていたことを、SMEとマイクロの組合せが教えてくれたことになる。
     *
ここのところう読んだ直後、というか、読みながら、すでに3012-Rを買う! と決心していた。
その決心と同時に、ターンテーブルは何にしようか、と考えていたわけだから、
ほぼ1年、頭のなかであれこれシミュレーションしていて、
すでに書いたようにマイクロのRX5000 + RY5500にしたわけだ。

RX5000 + RY5500はトーンアームをセットした状態でも、
プレーヤーシステムとは呼べない性格のプレーヤーである。
プレーヤーシステムではなく、プレーヤーを構成するパーツを売っているようなもので、
プレーヤーモジュールと呼ぶべきかもしれない。

デザインに関しても、洗練されているとはお世辞にもいえない。
はっきりいって武骨である。3012-Rの優美さとは似合わない、と最初は思っていた。

けれど、そんな頭のなかだけのシミュレーションと実際は違うわけで、
それはこの項の余談でも書いているように、
自転車のフレームを単体で見ていたときと自転車として組み上げた時とで、
そのフレームに対する印象がまるっきり変ってしまうのと同じことを、体験していた。

Date: 11月 30th, 2012
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(コメントを読んで)

昨晩書いた「菅野沖彦氏のスピーカーについて(その9)」にコメントがあった。

EddieMunsterさんのコメントは、こうだった。
「JBLとマッキンは同じ穴の狢と感じているのは私だけ^^;」

1行だけのコメントで、EddieMunsterさんがどういう方なのか、私はまったくわからないし、
EddieMunsterさんのコメントにあるJBLとマッキントッシュが指しているのは、
昨晩私が書いたDD55000とXRT18(XRT20)のことなのか、
それとももっと広くJBLのスピーカーシステム、
マッキントッシュのスピーカーシステムすべてを含むのかもわからない。

それにコメントの最後に、顔文字(それも汗を書いている)がついていて、
このコメントを、どう受け取ったらいいものかと、すこし考え込んでしまった。
EddieMunsterさんのコメントを読んでおもったことを書いてみたい。
とりとめのない文章になっていくだろうが……。

「同じ穴の狢」とある。
これの意味は、関係のないようにみえても、実は同類・仲間であること、と辞書には載っているし、
「同じ穴の狢」が使われるときは、いい意味ではなく悪い意味でのことが圧倒的に多い。
なのでEddieMunsterさんも、悪い意味で使われていると仮定して書いていく。

ということは、EddieMunsterさんにとって、
JBLもマッキントッシュのスピーカーも、どうでもいい音のスピーカーということになる。
だとしたら、EddieMunsterさんにとっては、
それが表現(XRTシリーズ)であっても、忠実な変換機(JBLのスピーカー)であっても、
どうでもいい、ということになるのだろう……(ここもはっきりとはわからない)。

EddieMunsterさんにとって、JBL、マッキントッシュよりも、音楽を聴く上でずっと信頼できる、
いい音と思えるスピーカーが、なにかあって、
そのスピーカーとの比較においては、JBLとマッキントッシュも「同じ穴の狢」ということなんだろう、
と勝手に思っている。

そのスピーカーがなんなのかでもわかれば、
EddieMunsterさんが「同じ穴の狢」という表現をつかわれた意図も少しははっきりしてくるのだが、
EddieMunsterさんがどういう人で、どういう音楽を好み、どういう音を鳴らされているのか、
そのために使われているスピーカーがなんなのか、はまったくわからない。

わからないから、もしかするとヨーロッパのスピーカーを愛用されている人もかもしれない、
ハイエンドスピーカーと呼ばれているモデルを使われているのかもしれない、
他にもいくつも考えられるが、考えたところで、何かがいまのところ返ってくるわけではない。

JBLのエンジニアは「忠実な変換機」をつくっている、といっている。
忠実な変換機としてのスピーカーは、技術が進歩していくことによって、
その時点時点では忠実な変換機であっても、
いずれその忠実度は、新しいスピーカーの忠実度よりも劣ることになる。

前の世代が超えられなかった壁を、後の世代にとってはそれは壁ではなくなっている、
そういうことだってある。
けれどスピーカーは、前の世代のものであっても、後の世代のものであって、
いまだ完璧というにはほぼ遠いところにある。

後の世代が出し得ない音を、前の世代はたやすく出していることもある。
そういう例は長くオーディオをやっている人ならば、実感されているはず。
だから、ここではあえて旧い世代とはいわず前の世代としたし、
新しい世代とはせず後の世代とした。

スピーカーがいまの形態(原理、構成など含めて)のままでいるかぎり、
画期的な発明がスピーカーにおいてなされて、スピーカーの能力が飛躍的に向上し、
前の世代のスピーカーだけでなく、
いまの世代のスピーカーをふくめてすべてを旧い世代といってしまう日もいつかはくるだろう。
でもそれまでは、いまあるスピーカーすべて「同じ穴の狢」なのではなかろうか。

Date: 11月 29th, 2012
Cate: 菅野沖彦
1 msg

菅野沖彦氏のスピーカーについて(その9)

私にとってマッキントッシュのXRTシリーズのスピーカーシステムといえば、
XRT20とXRT18だけ、ともいえる。

その2機種の後に型番にXRTのつくスピーカーシステムはいくつも登場しているから、
それらも当然マッキントッシュのXRTシリーズのスピーカーの範疇に含まれるといえば、
たしかにそうであるけれど、個人的にはXRTシリーズのもつ特色が色濃く音に反映しているのは、
XRT20とXRT18であり、XRT26、XRT25は形こそXRTシリーズではあるものの、
何かが変ってきてしまったようにも感じてしまう。

XRT20、XRT18とXRT26、XRT25のあいだに登場したXRT22は、
XRT20の後継機といえばそういえなくもないのだけれど、
私としては、なんとなくふたつのXRTシリーズの境界線付近に位置するモデルのようにも見えてしまう。

なぜ、そう感じてしまうのか。

XRT18は、ステレオサウンド 77号(特集はComponents Of The Year)で、
JBLのDD55000、ダイヤトーンのDS10000とともに、ゴールデンサウンド賞に選ばれている。

その座談会で、菅野先生の発言がじつに興味深い。
     *
これはJBLのエンジニアが言った言葉なのですが、マッキントッシュのスピーカーはマッキントッシュの『表現』であると。それに対して我々(JBL)は、忠実な変換機をつくっている、と言うんです。これはある面とても当たっていると思うんです。ですから、マッキントッシュは、自分たちの表現したい方法が見つかれば、変換機としてのオーソドックスなセオリーから外れたとしても、積極的に採用していくという姿勢でしょう。その点で、JBL等の歴史の長いスピーカー専業メーカーとは体質がまったく違う。
(山中先生の発言をはさんで)
ものとしての存在感はJBLの方につよく感じて、マッキントッシュにはものとしての存在よりも、その音の世界の存在を感じますね。
XRT18だと各ユニットの存在は、そのスピーカーの中にある。けれど、JBLはユニットの存在感が強烈にあって、スピーカー全体も大きな存在になっている。それにしてもJBLの人間はうまい表現をしたと思う。
     *
菅野先生も最後にいわれているように、
JBLのエンジニアの、
マッキントッシュにはスピーカーはマッキントッシュの「表現」、
JBLは忠実な変換機をつくっている、は,まさにそのとおりだと思う。

XRT20、XRT18はマッキントッシュの見事な表現であり、
そこのところにおいて、XRT26、XRT25はそこから忠実な変換機でもあろうとし、
マッキントッシュの「表現」に不徹底なところが出てきてしまった……、
そんなふうに私は解釈してしまう。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その25)

スピーカーのネットワークの並列型と直列型で、
もしこんなことが試されるのであれば──と思っていることがある。

アルテックの同軸型604とタンノイの同軸型を、それぞれ直列型、並列型のネットワークで鳴らしてみる、
ということである。
アルテックもタンノイも15インチ口径の同軸型ユニットを長年つくり続けてきている(いた)。
共通するところもあれば、そうでないところもあるアメリカとイギリスの同軸型ユニットである。

アルテックは低域用と高域用のマグネットを独立させている。
ただし磁気回路の一部は兼用しているので、磁気回路すべてが独立しているわけではない。
タンノイは、マグネットを独立させている同軸型ユニットも存在しているが、
このマグネット独立型のユニットが使われるのは、
同軸型ユニットにウーファーなりトゥイーターをつけ足してワイドレンジ化を図ったモデルであり、
同軸型ユニットのみを搭載したモデルに関しては、一貫してマグネット兼用型のユニットとなっている。
ここにタンノイの見識があらわれている、ともいえよう。

そんな違いのあるふたつの同軸型ユニットを、
直列型ネットワーク、並列型ネットワークで鳴らしてみると、どういう結果になるのか。

マグネットの独立と呼応するように、アルテックは並列型、タンノイは直列型が向いていることになるのか、
意外にもアルテックに直列型に向いていて、タンノイには並列型向いている、という結果になるかもしれない。

これは完全な推測にすぎないのだが、
並列型のネットワークのほうが、いわゆる音の分離、明瞭度は高く、
音の細部の表現においては直列型の上をいくのかもしれないが、
音のまとまり、ハーモニーの美しさ、それに音像のしっかりした感じなどは直列型のほうが優位なのでは……、
そんなふうに想像している。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: SUMO

SUMOのThe Goldとヤマハのプリメインアンプ(その11)

アンプの動的ウォームアップはスピーカーを接続して音を鳴らすことでしかすすまないものなのだが、
やっかいなのは電源を入れっ放しにしていて音楽を聴いていて充分に動的ウォームアップがすんで、
いい音で聴ける状態になってきた。

そこで音楽を聴くことを一休みする。
アンプの電源は入れたままで。

アンプによって、その時間は違うから一概にはいえないものの、
たとえば30分、1時間経過して音楽を聴きはじめると、また動的ウォームアップの時間を必要とするアンプがある。
このときの動的ウォームアップにかかる時間は、アンプによって異る。
わりと早く動的ウォームアップがすむアンプもあれば、なかなか目覚めてくれないアンプもある。

この動的ウォームアップは、やっかいというか、聴き手側にとっては面倒なことといおうか、
できれば静的なウォームアップだけで満足のいく音を聴かせてほしいところだが、
アンプの中身のことを考えると、そうもいかないこともわかっているので、
せめて一度動的ウォームアップがすんだら、できるだけ維持できるようにしてほしい。

ウォームアップに時間も手間もかかるアンプを、寝起きの悪いアンプという。
いい音を聴かせてくれるのであれば、寝起きが多少悪くてもがまんしよう。
そのかわり、いちど目覚めたら、ずっと起きていてほしいのだ。
音楽信号が流れてこないと、すぐに寝てしまうアンプ、そしてなかなかしゃきっと目覚めないアンプは、
その分、聴き手の時間を奪っているともいえる。

実際に動的ウォームアップによる音の変化は、はっきりと聴きとれるのか、と疑問に思われる方もいるだろう。
あるレベル以上の音を鳴らしているシステムであれば、はっきりと聴きとれることが多い。

いつ、どんなふうに音が変化するのか、と、まちかまえて聴いているよりも、
ゆったりと音楽に耳をすましている聴き方であれば、
あっ、変った、と感じられる瞬間があるのがわかる。

動的ウォームアップによって、どう音が変化するのかは、アンプによって変ってくる部分もあり、
ここがこんなふうに変りますとはいえない。

でも音楽の鳴り方が明瞭になる、と、これだけは確実にいえる。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: audio wednesday

第23回audio sharing例会のお知らせ(音色と音場について)

12月5日のテーマは、「音色と音場について」を語ろうと考えています。

オーディオにおける術語として、1980年代にはいってから音色よりも音場について語られることが増えてきている。
一部の人たちのことなのかもしれないが、音色の再現よりも音場の再現を優先する、
または音場の再現のほうが音色の再現よりも、より高度である──、
そんな風潮を感じないわけではない。

けれど、これはよく考えてみれば不思議というより、あきらかにおかしなことで、
音色の再現と音場の再現は、絶対に切り離せないものである。

音色といっても、オーディオ機器固有の音色と楽器の音色という、
大きなふたつの音色がある、ということと、
音場の再現に関しては、音場感というように、語尾に感がつく。

このあたりのことを中心に、音色と音場について語っていく予定です。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・余談)

アナログプレーヤーのデザインのことについて書いていて浮んでくることは、
自転車のことである。

自転車もアナログプレーヤーと同じところをもっている。
自転車を構成するものは、大きくわければ3つある。
まずはフレーム、リム、タイヤ、スポークを含めたホイール,
そしてそれ以外のパーツ、
つまりブレーキ、フロント・リアディレイラー(変速機)、クランク、チェーンなどのコンポーネントパーツ。

この3つの構成要素のなかで、もっとも大きく、自転車のデザインを大きく左右するのはフレームだと思い、
1995年、ロードバイクを買おう、としたときに、まず決めたのは当然フレームだった。

オーディオへの取組みと自転車への取組みは若干違うところがある。
自転車はプロの選手になろうんて考えていたわけでもないし、
アマチュアとしても速い選手になりたかったわけでもない。
自転車という趣味を、ひとりでただ楽しみたかった。

そのためには性能の優れた自転車であってもデザインが気に入らなければ買いたい、とは思わず、
逆にデザインが気に入れば、最高の性能を持っていなくてもいい──、
それが私の、そのときの自転車の選び方であり、
とにかく気に入ったフレームで、自分に合うサイズが見つかったら、それで組もうとしていた。

自転車の専門店に行けば、吊し、とよばれる、フレームだけが単体で展示してある。
フレームだけの状態でみていると、イタリアのチネリはカッコイイ。

1995年はスーパーコルサだけでなく、チノ・チネリの復刻フレームが残っていた。
サイズも合うのが見つかった。やっぱりチネリだな、と思っていたし、
チネリとともにイタリアを代表する老舗のフレーム・ビルダーであるデ・ローザは、いかにも武骨だった。

仕上げもチネリの方がいい。フロントフォークの肩の部分が、チネリはなだらかなカーヴを描いているが、
デ・ローザは昔の自転車のフロントフォークのように、肩の部分が水平であり、
チネリに感じられるスマートさが、まったく感じられない。

色も私が見たのは、オレンジ色のデ・ローザだった。
デ・ローザがいいフレームであることは知ってはいたけれど、
デ・ローザにすることはないな、と思い、
チネリを第一候補として、次はどの自転車店で購入するかを決めるために、いくつもの店をまわった。

そうやって結局最初に行った浜松町にあるシミズサイクルで購入することにして、ふたたび向った。

デ・ローザのオレンジ色のフレームを見たのは、このシミズサイクルだった。
二度目のシミズサイクルで見たのは、完成されていたデ・ローザのオレンジ色の自転車だった。

フレーム単体で見ているときと、完成車で見ているときとでは、こうも印象が変ってくるものか。
そのことを実感しながら、フレーム単体で見ていたときには候補から外していたデ・ローザに決めてしまった。

フレーム単体では武骨な見え、欠点のように思えていたところが、
完成されると、そこが力強さを感じさせる長所へと変っていることに気づかされる。

フレーム単体では、雑な仕上げにみえる塗装も完成されてしまうと、
映える印象へとうつっていく。
オレンジ色のフレームなんて、と思っていたのが、いかにもイタリアらしい、とさえ思ってしまうほど、
印象が変る。

アナログプレーヤーもシステムであるのと同じように、
自転車もシステムであることを一瞬にして実感・理解できた。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: SUMO

SUMOのThe Goldとヤマハのプリメインアンプ(その10)

パワーアンプのウォームアップには、
静的なウォームアップと動的なウォームアップとがあり、
静的なウォームアップに関しては電源スイッチをオンにしておけばそれで足りるわけだが、
動的なウォームアップとなると、実際に音を出しながら、ということになる。

オーディオには、このように静的なと動的な、と頭につけたくなることが意外にある。

音のクォリティにしてもそうだ。
静的なクォリティと動的なクォリティがある、といえる。

静的なクォリティと動的なクォリティは、いくつかの意味にわけられる、と考えている。
そのひとつとして、ここで書いておきたいのは、
静的な特性、動的な特性とほぼ同じ意味での、静的なクォリティ、動的なクォリティである。

簡単にいってしまえば、動的なクォリティは、ここでは音楽を聴いてのクォリティということになる。
では静的なクォリティとは、なにかといえば、
静的な特性の測定に使われるのがサインウェーヴがメインであるように、
そんな意味での静的なクォリティである。

ケーブルを変えても音は変化しない、と頑なに主張される人の中には、
よく測定結果を持ち出す人がいる。
そして、測定上の差はほんのわずかであり、そのわずかな差は人間の耳では感知できない、という、
非常に乱暴なこじつけでもって、音は変らない、と結論づけられる。

なぜ、わずかな差は人間は感知できない、と言われるのかが、まずわからない。
その人はわからない、のであれば、納得できても、なぜか、すべての人という意味で「人間は」と書かれる。

そしてもうひとつ不思議なのは、測定上の差はごくわずかといわれる、
その測定に使われるのはサインウェーヴがほとんどだということ。

音楽信号を使っての測定方法が確立されていない以上、サインウェーヴ、パルスを使うのはわかる。
でも、あくまでもそれらを使っての測定結果は、音楽を再生したときの結果を反映しているとは、
誰にもいえない、ということである。

サインウェーヴで測定したら、ケーブルを変えた差はごくわずか。
だから音楽を聴いても音は変らない、は、理屈として通らない。
この場合、理屈として通るのは、
サインウェーヴを再生して聴いたら、ケーブルの違いはわからない、ということでしかない。

それならば、私も納得できる。
私だって、サインウェーヴ(たとえば1kHzのみのサインウェーヴ)のみを音源として、
ケーブルの違いを聴き分けろ、といわれたら、自信がない。

だが何度でも書くが、聴くのは(聴きたいのは)音楽である。

Date: 11月 27th, 2012
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その7)

ガラード301、401とトーレンスTD124の違いは、
トーレンスには専用キャビネットが用意されていた、ということもある。
TD124を専用キャビネットにおさめた姿は、昔も今も見ていると欲しくなる魅力を放っている。
トーンアームが3012-Rというロングアームでなければ、
TD124にしてしまいたい、とすら思ってしまうほど、いいプレーヤーだと思う。

でも、そうするとトーンアームは限られてしまう。
TD124と専用キャビネットの組合せによく似合うのはSMEの3009、
それともEMTの929ぐらいである。

これはこれで私にとって魅力的なプレーヤーシステムとなるけれど、
3012-Rを中心にプレーヤーシステムの構築を考えていたのは、
一にも二にも、ステレオサウンド 58号での新製品紹介の頁での瀬川先生の書かれた文章を読んだからであり、
この文章が頭から切り離すことができなかったわけだから、
私にとって、この時期のプレーヤーシステムは、3012-Rがつねに中心にあった。

散々あれこれ迷って、結局何を選んだかは、
これも以前書いているから憶えておられる方もいるだろう、マイクロのRX5000 + RY5500だった。

できれば瀬川先生が3012-Rの試聴をされたときのターンテーブル、
同じマイクロのSX8000にしたかったのだが、それを買えるほどの余裕はなかった。
RX5000も中古で、かなり安く購入したものである。

はっきり書けば、SX8000(のちのSX8000IIではなく初代のモデルで、ベースが青色)にしても、
RX5000にしても、3012-Rのデザインと肩を並べるモノではない。
だから、正直、これか(RX5000)という気持を持ちながらの購入だった。

とはいえ、オーディオマニアゆえ、自宅にRX5000とRY5500が届いたときは、
これでやっと3012-Rを箱から取り出して、トーンアームとして機能させられる、と喜び、
その取付け作業は、楽しかった。

RX5000のベースを設置、砲金製のターンテーブルをそこにのせる、
それからトーンアームベースを仮止めして、3012-Rの取付けテンプレートで向きをきっちりと決める。
3012-Rをベースに取り付けたら、カートリッジもセットしてオーバーハングの調整。
モーターのRY5500もセットする。

このころはSX8000が登場していたおかげで糸ではなく、専用のベルトが登場していた。
砲金製のターンテーブルプラッターの周囲をきれいにクリーニングしてベルトをかける。
そしてRY5500の位置を、このあたりかな、というところでとりあえず決めて……、
こんな作業を、はやる気持を静めながら行っていたことを、思い出していた。

Date: 11月 27th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(続×六・余談)

スピーカーの型番もアンプの型番も四桁の数字だけで揃えるのならば、
アナログプレーヤーもそうしたい。

数字だけの4桁の型番のアナログプレーヤーは、すぐに思い浮ぶ。
デュアルがそうだ。
1019、1219、1249などがある。
最初の二桁がターンテーブルプラッターの直径をインチで表していて、
1019は10インチ、1219、1249が12インチ(30cm)となっている。

スピーカーのウーファーの口径が10インチだったら1019をあえて選ぶということも考えるけれど、
4411のウーファーは12インチ口径だから、1219、1249のどちらかを選びたい。

デュアルのアナログプレーヤーは、とにかくハウリングに強いことで知られている。
この点でも、本棚にスピーカー、アンプ、プレーヤーを収めようとしているだけに、
ハウリングマージンの大きさは重要な項目だから、デュアル以外のプレーヤーは選びにくい。

ここまできたらカートリッジも、ということになるけれど、
思い出したのはラウンデールリサーチの2118。
たしかに数字だけの四桁の型番なのだが、ここでの組合せの意図には似合わない。
音の傾向としても、4411、マランツの1250とは違うところにあるカートリッジだから、候補から外す。
そうなると、厳密には四桁の数字だけの型番ではなくるけれど、
数字の前には何もつかない、ということで、エンパイアの4000D/IIIを、ここにはもってきたい。

チューナーはプリメインアンプと同じマランツにしたい。
四桁数字の型番のマランツのチューナーは、2100と2120がある。

とここまではわりとすんなり決めていけるのだが、CDプレーヤーだけは見つからない。
四桁の数字のつくモデルは数多くあるけれど、数字だけの型番のモデルはなにがあるだろう……。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: Wilhelm Backhaus

バックハウス「最後の演奏会」(その9)

この項を書き始めて考え続けているのは(ずーっと考えているわけでもないけれど)、
骨格のしっかりした音を、具体的に説明するにはどうしたらいいのか、ということ。

バックハウスのベートーヴェンを愛聴盤とされている人ならば、
なんとなくかもしれないが、私がいいたいことをわかってくださっている、そんな気もする。

でもいまバックハウスのベートーヴェンを愛聴盤としている人は、そう多くないだろう。
それにクラシックを聴く人ばかりとは限らない。
バックハウスのベートーヴェンをまったく聴いたこともない人も少なくないと思う。

そしてスピーカーに関しても、現在市販されているモノで、
骨格のしっかりした音までは求めないものの、
すくなくとも、その音を聴いたときに、音の骨格を意識させるスピーカー、
骨格をいう表現を思いつかせる音のスピーカーでもいいのだが、
はたしてあるのだろうか。

そういう時代にあって、そういう音楽、そういう音しか聴いたことのない人に、
骨格のしっかりした音を説明するのは、どうしたらいいのか、正直わからない。

そういえば、瀬川先生が、読者から「品位のある音というのがわからない」と相談された、という話がある。
そういうものか、と思うし、そうなんだ、とも思う。

どんな音楽を聴いてきたのか、どんなスピーカーを聴いてきたのかによっても、
理解できない(しにくい)音が確かにある。
この問題は、それでは品位のある音を聴かせたり、骨格のしっかりした音を聴かせればすむことじゃないか、
と思われるかもしれない。

けれど人はみなスピーカーから出てきているすべての音を聴き取っているわけではないし、
感じとっているわけでもない。

音の品位に、音の骨格に対する感知能力が聴き手側になければ、
そこで品位の高い音が鳴っていても、骨格のしっかりした音が鳴っていても、理解されることは難しい。

それでも言葉で説明していくとなると、どうしたらいいのか。
骨格のしっかりした音──、とはどういう音なのか。

ひとつ浮んできたことがある。
骨格は文字通り骨から構成されている。
だが骨がただひとつあるだけでは骨格とはなりえない。
骨格には関節がある。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: iPod

「ラジカセのデザイン!」(続×五・余談)

本棚におさめてレベルコントロールを積極的に使うJBLの4411を鳴らすアンプに求めたいことがすこしある。

まずプリメインアンプであること。
それほど大袈裟にならなければセパレートアンプでも……という気持はまったくなく、
プリメインアンプの良質なもの、そして物量を投入したモノにしたい。
なぜかといえば、4411がアメリカのスピーカーシステムであり、
4411がイギリスのBBCモニター系統のスピーカーであれば、
アンプに投入されている物量ということにはまったくこだわらないけれど、
4411はブックシェルフ型ではあるが、はっきりとアメリカのスピーカーシステムなのだから、
スマートなアンプで鳴らすことよりも、物量投入型のアンプで鳴らしたい。

それからA級動作のもの、A級動作でなくとも発熱量が極端に多いものはさけたい。
スピーカーを本棚におさめるくらいだから、プリメインアンプも本棚に置きたい。
そういう使い方をするから、放熱に気をつかうものはなるべくさけたいわけだ。

トーンコントロールがついているアンプ。
それもおまけ的なトーンコントロールではなく、しっかりと機能するトーンコントロール。
できればターンオーバー周波数が選択できるもの、高・低の2バンドに中域を加えた3バンドのもの。

この3つを満たしてくれるアンプとなると、
マランツのプリメインアンプ、それも4411とほぼ同時代のアンプが真っ先に浮ぶ。
Model 1250、Model 1152、もう少し新しいところではPM6、PM8がある。

これらのマランツのプリメインアンプは、いまのマランツのプリメインアンプのパネルフェイスとは異り、
Model 7の流れを汲む、いまとなっては古典的なスタイルのものである。

ツマミが多すぎて……、といまどきのアンプを見慣れた人はそう感じるかもしれない。
でも、あのころのプリメインアンプは、このくらいのツマミがフロントパネルに、
各社、特色のある配置がなされていた。

1250、1152、PM6、PM8、
この4機種ならば、コンディションのいいものが見つかれば、それでいいという気持なのだが、
できれば1250のコンディションのいいものがあれば、と思ってしまう。

1250が、この4機種の中で音がいい、という理由ではない。
スピーカーが4411と四桁の型番だから、アンプもできれば四桁の型番に合せたい、だけなのだ。