バックハウス「最後の演奏会」(その9)
この項を書き始めて考え続けているのは(ずーっと考えているわけでもないけれど)、
骨格のしっかりした音を、具体的に説明するにはどうしたらいいのか、ということ。
バックハウスのベートーヴェンを愛聴盤とされている人ならば、
なんとなくかもしれないが、私がいいたいことをわかってくださっている、そんな気もする。
でもいまバックハウスのベートーヴェンを愛聴盤としている人は、そう多くないだろう。
それにクラシックを聴く人ばかりとは限らない。
バックハウスのベートーヴェンをまったく聴いたこともない人も少なくないと思う。
そしてスピーカーに関しても、現在市販されているモノで、
骨格のしっかりした音までは求めないものの、
すくなくとも、その音を聴いたときに、音の骨格を意識させるスピーカー、
骨格をいう表現を思いつかせる音のスピーカーでもいいのだが、
はたしてあるのだろうか。
そういう時代にあって、そういう音楽、そういう音しか聴いたことのない人に、
骨格のしっかりした音を説明するのは、どうしたらいいのか、正直わからない。
そういえば、瀬川先生が、読者から「品位のある音というのがわからない」と相談された、という話がある。
そういうものか、と思うし、そうなんだ、とも思う。
どんな音楽を聴いてきたのか、どんなスピーカーを聴いてきたのかによっても、
理解できない(しにくい)音が確かにある。
この問題は、それでは品位のある音を聴かせたり、骨格のしっかりした音を聴かせればすむことじゃないか、
と思われるかもしれない。
けれど人はみなスピーカーから出てきているすべての音を聴き取っているわけではないし、
感じとっているわけでもない。
音の品位に、音の骨格に対する感知能力が聴き手側になければ、
そこで品位の高い音が鳴っていても、骨格のしっかりした音が鳴っていても、理解されることは難しい。
それでも言葉で説明していくとなると、どうしたらいいのか。
骨格のしっかりした音──、とはどういう音なのか。
ひとつ浮んできたことがある。
骨格は文字通り骨から構成されている。
だが骨がただひとつあるだけでは骨格とはなりえない。
骨格には関節がある。