Date: 5月 14th, 2013
Cate: スピーカーとのつきあい

複数のスピーカーシステムを鳴らすということ(その5)

私はというと、ずっと若いころは、ストイックであることがかっこいいことであると強く思い込んでいたから、
スピーカーシステムは一組にかぎる。
ほんとうに惚れ込んだスピーカーシステムを鳴らしきることこそ……、そんなふうに思っていたこともある。

もちろん複数のスピーカーシステムを持ちたい、鳴らしたいという気持もあって、
でもあくまでもストイックで、そして理想主義であらねば、などと思っていたものだから、
複数のスピーカーシステムを鳴らしたいのであれば、
スピーカーの数だけ部屋を用意する。
とにかくひとつの空間には一組のスピーカーシステム、と決め込んでいた。

そんな若いときの私でも、
複数のスピーカーシステムを持っていたことがある。
メインのスピーカーシステムに対して、サブのスピーカーシステムとして、であった。
ロジャースのLS3/5Aを持っていた。

でも結局、そのころ住んでいた住空間では、LS3/5Aを満足に鳴らす環境は整えられなかった。
サブスピーカーなのだから……、という気持はあっても、
実際にLS3/5Aの音を聴くと、サブスピーカーとは思えなくなってくる。

そうなるとアンプもLS3/5A用に用意して……、そんなことを考えやっていくには、
若いころの私の経済力では無理があった、ともいえるし、
あまりにもメインのシステムに熱をいれすぎていた。

欲しいという友人に結局譲ってしまった。

後悔は譲った後にするから後悔なのだが、
やっぱりLS3/5Aは場所的に邪魔になるわけではなかったのだから、
持っておけばよかった、といまでもすこし思わないわけではない。

そんなことはあっても基本的にスピーカーシステムは一組だったけれど、
歳を重ねていけば考え方・捉え方も、音の聴き方も、その他のことも変っていく。
変っていかないところもあるけれど、スピーカーシステムの数については、
私の場合、変っていった。
と同時にスピーカーの存在をどう捉えるかも変っていった。

Date: 5月 14th, 2013
Cate: スピーカーとのつきあい

複数のスピーカーシステムを鳴らすということ(その4)

いまスピーカーシステムを二組以上所有して、しかも鳴らしている人はどのくらいの割合なのだろうか。

同じ空間に二組以上のスピーカーシステムをおけば、相互に影響が出る。
ある一組のスピーカーシステムを鳴らしている時、
そのスピーカーシステム以外のスピーカーシステムは音を出していないわけだが、
いろいろな面で、出ている音に対して影響を与えている。

これに関しては以前から言われていたことであり、
だからひとつの部屋には一組のスピーカーシステム、
複数のスピーカーシステムを鳴らしたいのであれば、
スピーカーシステムの数だけの部屋を用意する、という人もいないわけではない。

それができるだけの人はそう多くはないだろうけれど、
それだけのことができる人でも、ほんとうに気に入ったスピーカーシステムが一組あれば、
それでいい、という人もいる。

というより、そういう人は、きっと他のスピーカーに浮気したくない、という気持が強いのかもしれない。
あるひとつのスピーカーシステムに、オーディオの情熱をすべて捧げる。
そのスピーカーと同じだけの能力をもつ他のスピーカーもいらないし、
サブ用のスピーカーすらいらない。

とにかく惚れ込んだスピーカーとだけ、と一途な人はけっして少なくない、と私は思っている。
こういう人は、スピーカーを音楽を聴いていく人生における、
いわば配偶者としてスピーカーをとらえているからこそなのかもしれない。

Date: 5月 13th, 2013
Cate: 岩崎千明, 瀬川冬樹

岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代(現在よりも……)

表面的な意味ではなく、
それに単に製品の数の多さや価格のレンジの広さとか、そういったことでもなくて、
まったく違う意味での「豊かさ」が、
「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」のオーディオの世界にはあったように思えてならない。

Date: 5月 13th, 2013
Cate: 手がかり

手がかり(その14)

アナログディスクは、どこまで低い音をカッティングできるかというと、
カッターヘッドがラッカー盤(マスターディスク)にカッティングできるのは8Hzまでフラットに刻める。

この8Hzという値はアナログ式のテープレコーダーよりも、
ずっと低い周波数まで記録できるということを表している。
ダイレクトカッティング以外では一度テープに記録して、ということが行われる。
そこではアナログ時代にはテープスピードが15インチ(38cm)、さらには30インチ(76cm)というものもあった。
テープスピードが速いほど音質的には有利になるわけだが、
こと低域に関してはテープスピードを増すことによって、不利になる面もある。

テープに録音するヘッドには必ずギャップが設けられている。
このギャップがあるからこそ録音、再生が可能になるわけだが、
このギャップがコンターエフェクトという、低域のうねりを生じさせる。
アメリカではヘッドバンプというらしい。

このコンターエフェクトは、テープスピードが上るほど、発生する周波数も上昇していく。
テープスピードが増すことで高域の録音・再生限界は上に移動するわけだが、
テープスピードが増したからといって、低域の再生限界が下に移動するわけではない。

こと低域の録音能力に関しては、テープよりもディスク録音が優っているといえる。
つまりダイレクトカッティング、もしくはデジタル録音をマスターテープとすれば、
アナログディスクは8Hzまでフラットにカッティングできるわけだ。

CD登場以前と記憶しているから、1981年か1980年だったか、
震度計が記録した波形をデジタル処理して音としてカッティングしたアナログディスクが出たこともある。

とにかくカッティング時には8Hzという、そうとうに低い周波数まで記録できる。
だからといって、8Hzまで再生できるというわけではない。

Date: 5月 13th, 2013
Cate: 598のスピーカー

598というスピーカーの存在(その18)

10万円のアンプでネジを一本増やすのに稟議書、という話は1980年代半ばごろの話であって、
時代が違えば、それに同じ1980年代でもメーカーが違えば、こまかな事情は少しは違ってくるだろう。

とはいえ大量生産される製品ほどコスト管理は非常にシビアだということがわかる。
1980年代半ばごろといえば、598のスピーカーシステムも同時代のものであるわけだから、
10万円のアンプよりも定価の安い598のスピーカーシステムともなれば、
もっとコストの制約は厳しいものになると考えられる。

それがどのくらい厳しいものだったのかは具体的には聞いていないけれど、
10万円のアンプでネジ一本に稟議書なのだから、
598のスピーカーシステムで、例えばスピーカーユニットの固定用のネジ(ボルト)の数を増やすのも、
メーカーによっては稟議書が必要となるか、
さらには稟議書だけでは無理で会議が必要となるのかもしれない。

例として挙げた1982年の598のスピーカー三機種のうち、
オンキョーD7R、ビクターZERo5Fineはウーファーの固定ネジの四本、
ダイヤトーンDS73Dは八本。

それが1987年の三機種はすべてウーファーの固定ネジの本数は八である。
アンプの天板の小体に使われるネジと、ウーファーの小体に使われるネジとでは、
大きさ、強度が違ってくる。当籤ウーファー固定用のほうが大きく長い。

ネジ一本のコストも、アンプ用よりも高い。
1987年の598のスピーカーシステムでは、スコーカーの固定ネジも八本(ビクターは六本)に増えている。

定価が数十万円、百万円を超える価格の製品であれば、ネジの本数の増加は大きな問題ではなくとも、
一本59800円のスピーカーシステムにとっては、ネジの本数は決して小さくなく問題のはず。

598のスピーカーシステムは、単に外観からわかるだけでも、
1982年よりも1987年の製品のほうがコストがかけられている、ともいえる。

そうなると削れるところは削っていくしかない、ということになろう。

Date: 5月 12th, 2013
Cate: 598のスピーカー

598のスピーカーという存在(その17)

オーディオはメカトロニクスであり、
スピーカー、プレーヤーだけではなくアンプも振動による音の変化が生じることを的確に指摘され、
実際にどう音に影響していくのかを示してくれたのは井上先生だった。

ある試聴の時、訊ねたことがある。
このアンプの天板、ここにネジを一本追加するだけでずいぶん天板の鳴りが抑えられるはずなのに……、と。

井上先生はいわれた。
「10万円のアンプでもネジを一本増やすには稟議書がいるんだよ。」

ネジといっても、天板をとめているネジの径は大きなものではない。
値段はごくわずか。しかも小売りと違い、メーカーが大量に注文・購入するのであれば、
さらに安くなるはず。

なのに10万円のアンプでも、一本増やすために稟議書が必要になるとは。
この井上先生の話をきいたときは、私自身、若かったこともあり、
すぐには、このことがどういうことを表しているのか、すぐには理解できなかった。

国内メーカーにとって10万円のアンプは、売れ筋の商品ということになろう。
となると生産台数は少なくないわけがない。
正確な生産台数を知っているわけではないから、ここで出す数字はあくまでも例えである。

1万台、10万円のアンプを生産するのであれば、ネジを一本増やすことは総数で一万本増えることになる。
しかもネジを増やすだけですむわけではなく、
そのネジのための穴を開け、ネジが締るように加工しなければならない。
当然1万個の穴を開け加工することになる。

そしてネジを締る作業もある。
これも生産台数的に考えれば、一万箇所のネジをよけいに締ることになるわけだ。

ユーザー側は一台のコストで考える。
メーカー側は生産台数のコストで考える。

その違いに気づいて、ネジ一本に稟議書ということが理解はできた。

Date: 5月 12th, 2013
Cate: 型番

型番について(その6)

1970年代のエレクトボイスのスピーカーシステムは、
プロ用としてのSentry(セントリー)、コンシューマーとしてのInterface(インターフェース)があった。

SentryシリーズもInterfaceシリーズも、外観が黒っぽかった。
Interfaceシリーズにはフロアー型のInterface:Dはそうでもないけれど、
最初にステレオサウンドに掲載されていた写真で見たInterfaceシリーズの印象が強く、
どうしても私の頭の中には、エレクトロボイスのスピーカー=黒っぽい外観、というイメージが消え去らない。

そんなこともあって、なんとなくではあるけれど、クラシックを聴くためのスピーカーとは思えなかった。
つまり、あまり強い関心を、1970年代のエレクトロボイスのスピーカーシステムに持つことはなかった。

そうなると不思議なもので、オーディオ店やその他の場所でも見かけることもなくなる。
Sentryシリーズは1980年代にも続いていたし、Sentry500が登場している。

Sentry500も黒っぽい外観を特徴とするスピーカーシステムで、
やはりクラシックをしっとりと聴くスピーカーとは感じなかったけれど、
ホーンの素材をプラスチックから木に変え、
それに応じて外観のイメージを一新したSentry500SFVは、自分のモノにしたいとは思わなかったけれど、
聴いていて気持ちのいい音のするスピーカーシステムであった。

でもInterfaceシリーズは、ついに聴く機会がなかった。
でも、いまおもうと”Interface”という型番は、
エレクトロボイスがどういう意図で名づけたのかは知らないけれど、
スピーカーというものをエレクトロボイスがどう考えていたのかを顕していて、実にいい型番である。

interfaceには、境界面という意味もある。

Date: 5月 12th, 2013
Cate: 598のスピーカー

598のスピーカーという存在(その16)

1982年の598のスピーカーシステム三機種にはフロントバッフルに、
スコーカーとトゥイーターのレベルコントロールのツマミと表示パネルがついている。
1987年の598のスピーカーシステム三機種のフロントバッフルにはレベルコントロールはない。
リアバッフルにもない。レベルコントロール機能自体が省かれている。

なぜレベルコントロールがなくなったのか。
これも聴感上のS/N比と関係してのことであある。

レベルコントロールの表示パネルはたいていプラスチック製だった。
エンクロージュアは木製。
フロントバッフルを叩いた時の音と較べると、
レベルコントロールのプラスチック製のパネルを指ではじいた音は異質なものである。

この異質な音はスピーカーユニットに信号が加わり振動が発生することで、
その振動がフレームからフロントバッフルに伝わり、このプラスチック製のパネルとも振動させ、
不要輻射の発生源となる。

しかもレベルコントロールのツマミも多くはプラスチック製で、回転できるように周辺どの間に溝がある。
この溝も不要輻射の発生源となっている。

昔の国産のスピーカーシステムはフロントバッフルに、こういったつくりのレベルコントロールがある。
それが音にどのくらい影響しているのかは、
このレベルコントロールをフェルトなどで覆い隠してみることではっきりと耳で確認できる。

その意味ではレベルコントロールを廃したことは決して悪いことではない。
そう考えることもできる。
実際にイギリス製のスピーカーシステム、
それもBBCモニターのスピーカーではレベルコントロールがないものも多い。
そのことに批判めいたことはいう人はいなかった。

けれど598のスピーカーシステムからレベルコントロールが消えたことに対しては、
批判の声もあった。
それはなぜだろうか。

実は598のスピーカーシステムの重量が増し、重量バランスが悪くなってしまったことと関係している。

Date: 5月 11th, 2013
Cate: 598のスピーカー

598のスピーカーという存在(その15)

1982年の598のスピーカーシステムとして、ビクターZERO5Fine、オンキョーD7R、ダイヤトーンDS73D、
1987年の598のスピーカーとして、ビクターSX511、オンキョーD77X、デンオンSC-R88Z、
それぞれ三機種ずつ挙げているのは、たまたまステレオサウンド 87号でも挙げているからだ。

沢村とおる氏による「スピーカーエンクロージュアづくりの秘密をさぐる」の記事の担当は私ではなかったけれど、
写真の選定と、その説明分を書くのは私がやることになった。
つまり87号で、上記六機種を挙げたのは私なのだから、ここでもそのままいくことにしただけである。

1982年の598のスピーカーと1987年の598のスピーカーの写真を見比べるとわかることがある。
まず1987年の598のスピーカーシステムにはラウンドバッフルが採用されている。

ラウンドバッフルの採用といえば、指向特性の改善ととらえる人が少なくないのだが、
このころの598のスピーカーに採用されているr(半径)の小さなラウンドバッフルでは、
音の波長を考えればすぐにわかることだが指向特性の改善とはあまり寄与していない。

指向特性の改善目的であれば、ダイヤトーンの2S305のようなラウンドバッフルを必要とする。

では何のためのラウンドバッフルかといえば、聴感上のS/N比を高めるためのものである。
フロントバッフルと側版の接合部には角があり、
この直角の部分(エンクロージュアのエッジ)からの不要輻射が聴感上のS/N比を悪化させる。
この部分を丸くするだけでもずいぶんと違ってくる。
ほんとうはすべてのエンクロージュアのエッジを丸めたいところだが、
598という価格帯のスピーカーではそれは無理というものである。

このラウンドバッフルの採用とともに、
外観上1982年と1987年で違いがあるのはレベルコントロールの有無である。

Date: 5月 11th, 2013
Cate: 598のスピーカー

598のスピーカーという存在(その14)

例に挙げた1982年当時の598のスピーカー三機種、1987年当時の三機種。
1982年からステレオサウンドで働きはじめた私は、
いずれのスピーカーシステムも持ち運び設置している。

ステレオサウンドの特集の試聴、新製品の試聴、
これら以外の試聴もあるわけだが、とにかく日常的にオーディオ機器を持ち、運び、設置する作業は、
この仕事を経験したことの内人には想像できないほど多い。

スピーカーの試聴で一日に20機種を聴くことがある。
もっと多い場合もあるし、少ないこともあるわけだが、
20機種ということは、スピーカーは必ず二本一組だから40本のスピーカーシステムを運ぶことになる。
運んで設置して聴き終ったら試聴室の隣の倉庫に戻し、次のスピーカーシステムを運び設置する。
これをくり返すわけだ。
腰を痛めることにもなる。

とはいえ、このことは、他ではまず体験できないことだし、
オーディオ機器の重さに対しての感覚も変っていく。
そうやっていくうちに日常的感覚として、
オーディオ機器の重量には、そのバランスを含めて敏感になっていくものだ。

その日常的感覚からもはっきりといえることだが、
1982年の598のスピーカーシステムより、1987年の598のスピーカーシステムは重量が約10kg増すとともに、
重量バランスが悪くなっている(前側に偏っている)。

このことによる音の影響については、(その3)にも書いている。
この他にもスピーカースタンドの、音に対する比重が大きくなり、
スピーカーシステムの値段は同じ59800円でも、
1982年の598のスピーカーシステムと1987年の598のスピーカーシステムとでは、
スピーカースタンドにより丈夫で重量的にもバランスのとれるものを要することになる。
つまり、より高価なスタンドということになる。

Date: 5月 11th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その4)

なぜこんな大がかりで、思いついた時には実現がほぼ無理なことを考えたかというと、
グラフィックイコライザーである帯域を絞ったとする。
例えばテクニクスのグラフィックイコライザーSH8065は±12dBとなっている。
100Hzのノブを下まで下げれば12dB減衰する。

100Hzといえば、ほとんどのスピーカーシステムでウーファー受け持つ周波数である。
ウーファーのカットオフ周波数が低く設定される4ウェイ構成であっても、
100Hzはウーファー受け持っている。

JBLの4343は300Hzがミッドバスとのクロスオーバー周波数となっているから、
グラフィックイコライザーで100Hzを12dB減衰させたとして、
本当にきっちり12dB減衰するのだろうか、という疑問がまずあった。

つまり4343のウーファー2231Aは、音楽信号に含まれていれば、
100Hz近辺の信号を音に変換している。
80Hzの音も125Hzあたりの音も2231Aが出していて、
100Hzの音を12dB減衰させたとしても、100Hz近辺の音が鳴っていれば、
2231Aのコーン紙は近辺の周波数の振動の影響を受けているわけだから、
きっちり100Hzを中心とした1/3オクターヴの帯域幅を12dB減衰させることはできないのではなかろうか、
そう考えたわけである。

ならば100Hzの音をきっちりグラフィックイコライザーでの減衰量と一致するようにするには、
グラフィックイコライザーが33素子であるならば33ウェイとするしかない。
それで、こんな馬鹿げたことを考えていた。

そしてこれならばある帯域の音を完全に鳴らないようにもできる。
100Hzの帯域を受け持つパワーアンプの電源をきるなり、入力にレベルコントロールがあれば絞りきればいい。
そうすればグラフィックイコライザーでの100Hzと表示されている帯域に関しては完全に削りとることができるし、
櫛の歯が何本も欠けたような周波数特性もつくれる。

そういう音を聴いてみたい、確認したい、と思っていた時期があった。

Date: 5月 10th, 2013
Cate: 手がかり

手がかり(デザインに関しては……)

ステレオサウンドの存在を知り、ステレオサウンドを熱心にくり返し読みはじめたころ、
とにかく、いい音への手がかりをステレオサウンドに求めていたように思う。

経験は圧倒的に少ない。
それを少しでも補うためてもあり、いい音とはいったいどういう音なのか、
音を判断するということはどういことなのか、
その手がかりが欲しかった。

欲しかった手がかりは、音に関することだけではなかった。
デザインに関しての手がかりも、ステレオサウンドにあのころの私は求めていた。

私のオーディオの始まりといえる「五味オーディオ教室」には、B&Oのデザインについて書かれている文章があり、
これを読んだ時、とにかくB&Oがどういうデザインなのかを知りたかったのを想い出す。

中学生の視点で、いいデザインということを判断できるとは思っていなかった。
好きなデザインのオーディオ機器はあった、面白いと思うオーディオ機器のデザインはあった。
いいとおもえるデザインのオーディオ機器もいくつかあった。

でも、それがオーディオ機器のデザインとして優れているのかどうかを判断できる「もの」が、
あのころの私にはなかった。
だから、デザインに関しての手がかりも、音への手がかりと同じくらいに欲していた。

ステレオサウンド 43号に瀬川先生の文章がある。
     *
 最近のオーレックスの一連のアンプは、デザイン面でも非常にユニークで意欲的だが、SY77は、内容も含めてかなり本格的に練り上げられた秀作といえる。ただしこの新しいセパレートシリーズでは、プリアンプの方が出来がいい。適当な時間を鳴らしこまないと本領を発揮しにくいタイプだが、それにしてももう少し踏み込みの深い、艶のある音になれば一層完成度が高められると思う。
     *
オーレックスのコントロールアンプSY77について書かれたものだ。
SY77は、中学生ながらいいデザインだな、と感じていた。
とはいっても、断言できるほどのデザインの判断に関するものがなかったから、
この瀬川先生の文章は「やっぱりそうなんだ!」とおもえ、嬉しかったのを憶えている。

そして同じオーレックスのチューナーST720についてはこう書かれている。
     *
 物理データや音質面で、この価格のチューナーとしてほんとうに他社と同格あるいは以上かといえばその点は注文もあるが、画一的な表現の国産チューナーの中にあって、ユニークな操作性を大胆な意匠で完成させたところに絶大な拍手を送りたい。こういう製品が、モデルチェンジなしに育つ土壌を大切にしよう。
     *
ここでもオーレックスのデザインについてふれられている。
ステレオサウンド 43号は、私にとっては別冊を含めて四冊目のステレオサウンドであった。
それでも四冊をくり返し読んでいれば、瀬川先生の書かれたものに、何かを感じることはできていた。

この人が、「絶大な拍手を送りたい」と書かれている。

SY77、ST720が、その後の私にとってどういう意味をもつモノになるのかは、
まったく想像できなかった遠い日に得た、
オーディオ機器のデザインに関する、小さいけれど、確実な「手がかり」であった。

Date: 5月 10th, 2013
Cate: audio wednesday

岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代(再掲・第29回audio sharing例会のお知らせ)

ひとりでも多くの方に来ていただきたいので、5月1日に公開したものを再掲します。
5月1日の段階では片桐氏と西川氏、おふたりでしたが、
ビクターに勤務されていた西松朝男氏も来てくださることになりました。

−−−−−以下再掲−−−−−
「昔はよかった」と書いている。
だからいまは、そのよかった昔よりもずっとよい、といいたい。
本音で、心からそういいたい。

すべてがその昔よりも悪くなっているとは言わないけれど、
それでも「昔はよかった」といわざるをえないのが現実であり現状である。

「昔はよかった」と書いている私は、いま50。
私より上の世代の人は大勢いる。
私が「昔はよかった」といっている時代よりも、もっと前のことを体験してきている人たちがいる。

私は瀬川先生とは何度かお会いできた。
話をすることもできた。
けれど五味先生、岩崎先生には会えなかった。

オーディオ界には、岩崎先生、瀬川先生と仕事をされてきた人たちがいる。
その人たちに、いまのうちに話をきいておこう、と思っている。

「昔はよかった」のはなぜだったのかを、より深く知りたいという気持もあるからだ。

6月5日(水曜日)のaudio sharingの例会には、
岩崎先生、瀬川先生と仕事をされてきた国内メーカーに勤務されていた、
いわばオーディオの先輩といえる人たちに来ていただく。

パイオニアに勤務されていた片桐陽氏、
サンスイに勤務されていた西川彰氏、
ビクターに勤務されていた西松朝男氏、
お三方に「岩崎千明・瀬川冬樹がいた時代」について語っていただく。

折しも5月31日には、ステレオサウンドから岩崎先生の「オーディオ彷徨」が復刊、
さらに瀬川先生の著作集の出版も予定されている。

時間はこれまでと同じ、夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

「岩崎千明・瀬川冬樹がいた時代」についてなら、
私にも語らせろ、という方いらっしゃいましたらご連絡ください。

こんなスピーカーもあった(その1)

駅までの1km弱のあいだの歩道に、いま松ぼっくりが落ちている。
私は実物を見たわけではないけれど、
昔、松ぼっくりがエンクロージュア内にはいっていたスピーカーがあった、ときいたことがある。

井上先生の話だと、
ある国産メーカー(ごく小さなメーカーだったそうだ)が新製品としてスピーカーシステムを、
ステレオサウンド試聴室に持ち込んできた。
音を聴くと、残念ながら評価に値するモノではなかったそうだ。
というよりも、あきらかに変な音がするスピーカーシステムで、
どこかこわれているんじゃないか、と中を確認しようと持ち上げたところ、
エンクロージュアの中からカサコソという、本来あり得ない音がきこえてきた。
部品でも外れているのかと思い確認したところ、
エンクロージュア内部には松ぼっくりと銀紙(アルミホイルだったかも)が吸音材の代りとして使われていた。
松ぼっくりは拡散のためで、銀紙は反射のためで、
つまりは定在波対策らしい、ということだった。

ずいぶん前の話だ。
こまかなことを聞いたのかどうかも忘れてしまっているが、
おそらくステレオサウンドが創刊されて数年ぐらいのことだと思っている。

私が体験した例では、やはり音がおかしい、どこか故障とまではいえないものの、
どこかおかしなところがあるんしじゃないか、と思われるスピーカーシステムがあった。
海外製だった。

それで開けてみよう、ということになった。
実は、これもエンクロージュアを揺すってみると異音がしていた。
案の定、ネットワークのプリント基板の固定が片チャンネルだけいいかげんだった。

そんなこともあるんだ、という笑い話である。

Date: 5月 9th, 2013
Cate: 手がかり

手がかり(その13)

そのきっかけとなったのは、RIAAカーヴの改訂だった。

RIAAカーヴは、それまで35Hzから15kHzまでは厳格な規格が定められているが、
それ以下、それ以上の周波数帯については、35Hzから15kHzまでのカーヴの延長であればいいとなっていた。

だからハイ上りのカーヴも実際にあったし、
低域に関してもローカットの周波数に関しては規定はなかった。
メーカーの考え方によって、そうとうに低いところまでフラットに再生するカーヴであったり、
ある周波数からなだらかに減衰するカーヴであったりもした。

新RIAAカーヴにいつ改訂されたのかは正確には憶えていないが、
新RIAAカーヴに関する記事を読んだのは、電波科学だった。
それからしばらくしてステレオサウンド 55号にも、
ダイレクトカッティングで知られるシェフィールドのダグラス・サックスのインタヴュー記事の中でふれられている。

新RIAAカーヴは、録音特性を含めてのものではなく、あくまでも再生特性のみである。
20Hz以下の周波数を減衰させる新RIAAカーヴは、レコードの反りや偏芯、
アナログプレーヤーのワウや低域共振などの悪影響から逃れるためであり、
私の知る範囲ではDBシステムズのDB1は新RIAAカーヴに対応していた。

新RIAAカーヴとそれまでのRIAAカーヴ、
フォノイコライザーのカーヴの設定ということになるわけだが、
実際にどちらが音がいいのかというと、一概には言いにくいところがある。