Date: 8月 10th, 2013
Cate: 音の良さ

音の良さとは(好みの音、嫌いな音・その2)

私の目の前で、かつては嫌いだったグリーンピースをおいしそうに頬張る元同僚を見ながら、
私が考えていたのは、やはりオーディオのこと、音のことだった。

人の感覚の中で、味覚がもっとも早い時期から好みが生まれてくるのではないだろうか。
私は、こういうことを専門的に勉強しているわけではないので、
あくまでも私自身の経験、それに周りの人たちを眺めて感じていることだけにすぎないのだが、
味覚と同時か、その次にくるのが嗅覚であり、
聴覚に関しては、つまり音の好みということに関して当人が目覚めるのは、最後になるのではないだろうか。
もしくは、食べ物の好き嫌いはあっても、音に関しては、意識していない、特にない、という人もいる気がする。

食事は基本的には一日三回、毎日摂る。
生れたばかりのころは母乳で育ち、離乳食を経て、
親と同じものを少しずつ食べるようになっていく。

どこまで真実なのかは私にはわからないけれど、
味覚で最初に目覚めるのは甘さを感じるところだと何かの本で読んだことがある。
だから小さいうちは、甘いものを欲するのだ、と。

子供の頃は好き嫌いがある。
好き嫌いが激しい子供もいる。
私も好き嫌いは激しい方だった。

だからといって、この時期に好きなものばかりを口にしていたら、
味覚の好き嫌いはひどく偏ってしまうのかもしれない。

親が適度に、うまく味の領域を広げるようにしてくれないと、いびつな味覚となってしまうのだろうか。

元同僚が頭を事故で打ち、それ以前は食べられなかったグリーンピースをおいしそうに食べ、
嫌いだったことすら忘れているのは、
味覚の記憶が、どの程度なのかはわからないけれどリセットされたと考えていいだろう。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その13)

1996年12月に発売になったラジオ技術 1997年1月号には、ある特殊なスピーカーのことが記事になっていた。
記事のタイトルは、
 イギリスからやって来たスピーカの革命児
 〝曲げ振動〟を制御するNXTシステムとは
である。

4ページのインタヴュー記事で、
まず、このNTXシステムを完成させたイギリスのヴェリティ(Verity)研究所であり、
このNTXシステムを普及させるためにつくられた会社、New Transducers Ltd、
この会社の副会長ノーマン・クロッカー、技術担当重役ヘンリー・アズマ両氏が登場する。

記事の最初に登場する図は、
QUAD ESL63の振動板の様子を捉えたもの、
その下にはNTXシステムの振動板の様子を捉えたものが載っている。

ESL63はご存知の通り中高域以上に関しては、
同心円状に電極を配置し、それぞれの電極に異る時間差を与えることで、
疑似的な球面波を実現したものである。

ESL63の図はきれいな波紋ができている。
一方のNTXシステムは、いくつもの山谷がランダムにできている。
しかも山の高さ、谷の深さは均一ではなくバラバラである。

何の説明もなく、この二枚の図を見せられたら、
NTXシステムのほうは、分割振動を捉えたものと勘違いしそうになる。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その12)

そんなソフトドーム型トゥイーターを、マッキントッシュのXRT20は片チャンネルに24個使っている。
ピストニックモーションこそが全てだ、と考えている人にとっては、
XRT20というスピーカーシステムは、なぜ、こんなふうに設計したのか、理解できないだろうし、
評価の対象にもはいってこないのではなかろうか。

事実、口汚く否定的なことを言う人を知っている。
その人には、その人なりの理想のスピーカー像というのが確固としてあって、
その理想像という基準からみれば、XRT20はどうしようもないスピーカーシステムということになるのだろう。

けれど自分の中にあるスピーカーの理想像だけが、評価の基準として存在しているわけではない。
別項で書いているように、ラジオ技術のトーンアームの評価に、
長岡鉄男氏は、テクニクスのEPA100を基準とすればRS-A1はダメだし、
反対にRS-A1を基準にすればEPA100がダメということになる、と発言されるように、
たったひとつの基準──それは往々にしてひとりよがりに陥りがちである──、
それだけでオーディオを捉えてしまうことの怖さと愚かさを、
XRT20を認めない人は気がついていないのかもしれない。

とにかくXRT20はソフトドーム型トゥイーターを24個使っている。
しかも24個のトゥイーターの配線は、24個すべてが同一条件になるようにはなされていない。

ピストニックモーションの正確さをどこまでも求めるのであれば、
スピーカーユニットを複数個使う場合には、すべてのユニットは並列接続が原則となる。
それもできることならそれぞれのユニットへの配線の長さも等しくしたい、ということになる。

ところがXRT20の24個のトゥイーターは直列と並列接続の両方がなされているし、
インピーダンスを合せるために抵抗も挿入されている。

ソフトドーム型トゥイーターの多数使用ととともに、この点を絡めて、
だからXRT20は……、と否定的なことをいうのは難しいことではない。

けれど、実はここにこそXRT20でゴードン・ガウが実現したかったものが隠れている、
ということに私は1996年12月にやっと気がつくことができた。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーのこと(その11)

振動板がピストニックモーションからはずれて、脹らんだり縮んだりするのであれば、
逆のこの現象を積極的に利用すれば、ソフトドーム型は呼吸体のような発音方式になるのではないか、
そんなことを考えたこともある。

そのためには伸縮性に富む柔らかい素材でなければならないし、
実際に振動板と磁気回路との間の空間の空気圧の影響を逆手にとることがそううまく行くとは思えない。
でも、ひとつの可能性として、ソフトドーム型だから、それも口径の小さなトゥイーターであれば、
呼吸体の実現も考えられないことではないはずだ。

私が考えつくことだから、誰かがすでに考えていたのではないか、と調べてみれば、
ビクターのSX3のトゥイーターが、まさにそうだった。
40年も前に出ていたわけだ。

当時のSX3の広告をみれば、このことについて触れてあるし、測定結果も載っている。
だからといって、トゥイーターが受け持つすべての帯域において、
ビクターが広告で謳っているとおりに動作しているわけではない、とも考えられる。
それでも振動板を正確に前後に振動させるというピストニックモーションにだけとらわれることなく、
音を出すということを捉え直したビクターのスピーカー・エンジニアリングは高く評価したい。

そして思うのは、同じドーム型の振動板をもつとはいえ、
ソフトドームとハードドームとでは、振動板そのもののモードを考えると、
まったく同じには捉えることはできないものということである。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(RS-A1のこと・その6)

ラジオ技術 1997年1月号のベスト・ステレオ・コンポ・グランプリを読むと、こうある。
     *
菅野 基準というなら、このアームの音は、僕はもとのテープの音に近いと思いましたよ。
若林 おっしゃるとおり。ほんとうにそう。音の世界がぜんぜん違うんだけど、いいですよ。
菅野 自分が録音したレコードをかけてみたんですが、ディスクにするときに考えていたつもりの音が、もとのテープの音へ戻っちゃった(笑)、という感じなんだね。
高橋 よくわかります。
若林 とにかくもとに音に近いですよ。今までのアームとは音の出かたぜんぜん違う。
     *
いうまでもなく菅野先生も若林氏も録音の仕事をやられてきている。
そのふたりが口を揃えて、RSラボのトーンアームで聴くアナログディスクの音は、
「もとのテープの音」に近い、といわれていることに注目したい。

とにかくこれまでのトーンアームの音とはまったく異ることがわかる。
だから長岡鉄男氏は、こう語られている。
     *
長岡 僕はRS-A1に辛い点をつけましたが、家でテクニクスのアームと比べたんです。で、そのアームを基準にすれば、これはダメだし、逆にこれを基準にすればテクニクスはダメなんですね。音がまるで違うんですよ。
     *
長岡氏のいうテクニクスのアームとは、おそらくEPA100のことだろう。
チタンをアームパイプに採用したモノで、1976年に出ている。

こう発言されている長岡氏だが、あとの発言を読めば、RS-A1を評価されていないわけではないことはわかる。
ただ何を基準にして評価するのかをはっきりさせた上で、
長岡氏は自宅で使用されているEPA100を基準としての評価というだけの話だ。

長岡氏は、こうも発言されている。
     *
長岡 1つの方法としては、カートリッジは完全に固定してレコードを動かすとういのがあるけど、RS-A1を聴くと、このフラフラでもいいのかなという気もするね。
     *
RS-A1は、それまで登場してきたトーンアームと同じ評価基準では判断を誤ってしまうかもしれない、
そういう難しさと同時に、使い手がいくつかの意味で試されているところをもっている。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: チューナー・デザイン

チューナー・デザイン考(ラジオのこと・その2)

FM誌が出した女性ヴォーカルのムックでの、ケイト・ブッシュの取り上げ方は、
いちばん大きかったわけではなかった。といって小さいわけでもなかったけれど、
そのムックが推していたのは、他の女性歌手数人だったように憶えている。

そんなムックを見ながら、この人はレコードは聴いてみよう、
この人の次は、この人かな、そんなことを考えながら眺めていた。
とはいえ、そうそう聴きたい(買いたい)LPが買えるほどのこづかいがあったわけではないので、
FM誌の番組欄をチェックすることになる。

そんなとき、いいタイミングでNHK-FMが、
夕方の番組で一週間、女性ヴォーカル特集をやってくれた。
そこには、ムックを見て聴きたい、と思っていた歌手の名があった。
次に聴きたいと思っていた歌手の名前もあった。

たまたまカセットテープも一週間分録音するだけの手持ちがあった。
せっかくの機会だから、それほど強く聴きたいとは思っていない、
他の歌手の日も録音することにした。
そんななかのひとりが、実はケイト・ブッシュだった。

録音はしても、聴きたい順から聴いていく。
ケイト・ブッシュの日を録音したカセットテープを聴いたのは、だから最後だった。

たしか女性アナウンサーによる番組だったはず。
ケイト・ブッシュについての説明があって、曲が流れてきた。

このとき聴いた女性ヴォーカルのなかで、いまも聴き続けているのはケイト・ブッシュだけである。

そのケイト・ブッシュを知ることができたのは、出あうことができたのは、FM放送のおかげであり、
チューナーのおかげである。
そのことを、目の前のパイオニアのチューナーが思い出させてくれた。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: 菅野沖彦

菅野沖彦氏のスピーカーについて(その10)

マッキントッシュのスピーカーシステム、XRT20を特徴づけている24個のトゥイーター・コラム、
ここに搭載されているのはソフトドーム型ユニットである。

ソフトドーム型ユニットの振動板は、柔らかい素材を使っている。
ドーム型ユニットの構造として、ドーム状の振動板の後方には磁気回路がある。
振動板と磁気回路の間にある空間は、それほど大きなものではない。

つまりこのことは振動板の変形につながっていく。
長島先生から以前きいているし、
ステレオサウンド 111号で、
イギリスのATCのウィリアム・グッドマンにインタヴューされている長島先生の記事でも語られている。
     *
ソフトドーム型ユニットは、ボイスコイルが引っ込んだときに中の空気圧が上がってドームが脹らみ、プラスの音圧が出る。逆にボイスコイルが前へ出たときは、ドームがへっこむわけです。普通、振動板は弾力性があるため、ボイスコイルと空気圧の変移に対してヒステリシスを持つことが多いのです。これがおそらく、いわゆるソフトドームの音を決定づけているのではないかと思うのです。
     *
振動板後方の磁気回路に空気圧を一定にするための逃げ道(孔)を開けるという手法もあるが、
ソフトドーム型ユニットの振動板の動きは、ピストニックモーションの追求には不向きといえよう。

ボイスコイルにプラスの信号が加わるとボイスコイルは前に出る。
ピストニックモーションのユニットであれば、振動板も前に動く。
けれどソフトドーム型ユニットでは振動板とドームとの間に空間が拡がろうとするために、
空気孔がなければ空気圧は低下して、柔らかい振動板であれば内側に向けて変形することは考えられる。

反対にマイナスの信号が加われば後に動こうとするわけで、その空間は縮まろうとするため、
空気圧は増し、振動板は膨れることになる。

Date: 8月 10th, 2013
Cate: チューナー・デザイン

チューナー・デザイン考(ラジオのこと・その1)

チューナーのことをどこか軽視してきたのは、
新しい音楽、いままできいたことのない音楽とであうのは、レコード(LPやCDなどのパッケージソフト)だ、
という意識、こだわりが強かったためで、
聴きたいと思っている音楽が、聴きたいときに必ずしも流れてくるわけではない、
その意味では受動的な聴き方となってしまうラジオだから、ということがあった。

そんな私でも、いま目の前にチューナーがある。
それもパイオニアのExclusive F3という、立派なチューナーだ。
開発・発売から30年以上経過しているチューナーだから……、とは思わせない堂々としたモノだ。

優れたデザインとは必ずしもいえなくとも、このチューナーを見ていると、
ラジオ放送を聴く、ということを再考しなければならない、そんな気持にしてくれる。

それで思い出すのは、ケイト・ブッシュのことだ。

ケイト・ブッシュという、イギリスの不思議な歌手がデビューしていたのは、
当時読んでいたFM誌、それにそのFM誌が別冊で出した女性ヴォーカルのムックで知っていた。

東京で行われた歌謡音楽祭での写真を見て、
ケイト・ブッシュという歌手の音楽を聴くことはない、と実は思っていた。

その写真は、嵐が丘をパフォーマンスしながら歌うケイト・ブッシュだった。
そのケイト・ブッシュの服、マイクロフォンの位置、そういった歌とは本質的にまったく関係のないところで、
生理的な嫌悪感があり、聴くことはない、と思った。

Date: 8月 9th, 2013
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その83)

数年前、ある海外のオーディオのサイトをみていたら、タンノイからKingdom Royalが登場する、とあった。
さっそく検索してみて、画像を見付けた。
正直、がっかりしてしまった。

ウェストミンスターがウェストミンスター・ロイヤルになっていったのを見ている。
だからKingdomがRoyalになることで、どれだけ優れたスピーカーシステムとなるのか、
それは内容だけでなく外観においても、細かなところに手が加えられ、
より緻密で堂々とした風格のあるスピーカーシステムになって現れてくる──、
そんなふうに勝手に期待してしまっていたからくる失望でもあった。

そのとき見つかった画像はピンボケのものだった。
細部に関してははっきりしたことはわからない。
それに試作品かもしれない。
最終的には違ってくる可能性だってある。

そうおもいながら、Kingdom Royalの正式発表を期待して待っていた。
結果は、最初に見つけた画像のイメージのままだった。

スピーカーのユニット構成からすれば、たしかにこれもKingdomである。
けれどKingdomが持っていた堂々とした風格は、Kingdom Royalには私は感じない。
“Royal”がついてしまったことで、
オリジナルのKingdomがもっていた厳しさが、すっかり優しさに変質してしまった。

これを今風というのかもしれない。
時代に即した変化なのだ、といわれれば、ハイそうですか、というしかない。

写真を見て、インターナショナルオーディオショウのエソテリックのブースで実物を見て、
やっぱりがっかりしてしまった。

音のことではない。
あくまでもスピーカーシステムとしての面構えについて、であって、
Kingdomが男だとしたら、Kingdom Royalは女性といいたくなる感じさえ受けた。

ここにもタンノイのスピーカーシステムの歴史をみて、
オートグラフとウェストミンスターを対比した時に感じる同室のものを、
KingdomとKingdom Royalに感じとってしまう。

これはどちらがスピーカーシステムとして優れているかではなく、
性格の違いであり、その性格の違いがあるからこそ、
私にはKingdom RoyalよりもオリジナルのKingdomこそが、オートグラフの継承スピーカーシステムとして、
より魅力的に映ってしまう。

Date: 8月 9th, 2013
Cate: ケーブル

ケーブル考(その3)

ケーブルを換えると音は変る。
どの箇所のケーブルを換えても音は変る。

夢中になる時期は誰にでもある、と思う。
たとえばある時期、コントロールアンプとパワーアンプ間のラインケーブルを集中して、
いくつものケーブルを聴いたとする。
そして、ひとつの、ぴったりのケーブルが見つかった、としよう。

どういうケーブルを集めてくるかによっては、
大同小異のときもあるし、ひとつだけとびぬけて良く聴こえてくるモノもある。

そういうとびぬけて良く聴こえてきたケーブルに気を良くして、
友人のオーディオマニアにも教えようと、その彼のところに持っていく。

そこでも同じような結果が得られることもあれば、そうでないこともある。
アンプやスピーカーシステムに違いがあれば、必ずしも同じ結果が得られる、とは限らない。

何も誰かのところにもっていかなくてもいい。
複数のシステムを持っている人ならば、
あるひとつのシステムで好結果が得られたケーブルを、
もうひとつのシステムに接続してみても、同じ結果が得られないことは体験されているはずだ。

私もそういう経験がある。
その経験が、いまケーブルを関節だと捉えることにつながっている。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その5)

もちろんどんなに軽い材質の振動板であろうと、質量はある。

たとえばイオン化した空気を入力信号に応じて変調させ放電強度を変化させることで、
イオン化された空気の変化が気圧の変化として音が発生させるイオン型(放電型)には、
いわゆる振動板がなく質量ゼロの発音体という認識で受けとめられているが、
実際にはイオン化された空気が振動板(振動体)であるから、
そのイオン化された空気の質量分だけは存在する。

ベンディングウェーヴの振動膜にも質量はあるのだが、
ピストニックモーションのように振動板(振動膜)全体をいっきょに前後に動かすわけではない。
ボイスコイルが取り付けられている端から振動膜が波打ち、振動膜全体が振動する。
だからこそ振動膜の動きやすさ(波打ちやすさ)が重量になり、
その意味での可動質量はピストニックモーションとは異り、無視できる、
さらには解放されている、といえるのではないか。

とすればである。
ここから先が、この項のテーマである「真夏の夜の夢」なのだが、
カートリッジにおけるベンディングウェーヴ方式が実現できれば、
可動質量から解放されるのではないか──、と夢見ているわけだ。

実際にはどういう構造にすればいいのか、
果してステレオ・カートリッジが成立するのか、
トレース能力は充分に確保できるのか、
実現はかなり困難のように思えるのだが、
ベンディングウェーヴのスピーカーユニットが現実のモノとして、
素晴らしい音を聴かせてくれているのだから、
ベンディングウェーヴ方式のカートリッジがもし実現すれば、
誰も聴いたことがない音をアナログディスクから抽き出してくれるはずだ。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その4)

世の中の大半のスピーカーはピストニックモーションであるけれど、
ごくわずかではあってもピストニックモーションではない発音原理のスピーカーが存在する。
ベンディングウェーヴによるもので、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニット、マンガーのBWTユニットがある。

DDD型ユニットにしてもBWTユニットにしても、振動板がないわけではない。
どちらにも振動板(板というよりも膜といったほうがいい)はある。

このふたつのユニットは振動板をピストニックモーションさせてない。
ここが決定的に異る点である。

マンガーのBWTユニットの振動板に触れたことはないが、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットのチタンの振動板には触れている。

チタンといえば強度の高い金属と思われている方もいると思うが、
DDD型ユニットに採用されているチタン膜は薄く、感触としてはぷにょぷにょしている。

つまりボイスコイルから伝わってきた振動は、振動板を前後に動かす(ピストニックモーション)のではなく、
振動膜を波打たせる。

ベンディングウェーヴ方式にとって、ピストニックモーションにおける振動板の質量は、
振動膜の動きやすさ(きれいに波打つことができるかどうか)である。
これは考えようによっては、振動板の質量からの解放である。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その3)

スピーカーの振動板と同じように、振動系の軽量化、可能であれば質量ゼロこそが理想といえるものに、
カートリッジがある。

カートリッジはダイアモンドの針先があり、形状や材質に違いはあるもののカンチレバーの先端に、
その針先は埋めこまれる。
つまりこれをスピーカーにあてはめてみれば、針先はボイスコイルにあたる。
カンチレバーは振動板といえる。

スピーカーの場合、振動板は空気が相手になる。
カートリッジの場合、MC型であれば、それは発電コイルと考えていいだろう。

カートリッジはスピーカーと異り、ひとつのカートリッジで左右チャンネルとなる。
スピーカーのように、左右チャンネルで独立したモノではない。
だから針先の動きは前後(カートリッジでは上下というべきか)にだけ動けばいいわけではない。
そのことはわかったうえでいうのだが、
これまで登場してきたカートリッジの、それぞれの構成部品の関係性は、
スピーカーにおけるピストニックモーションと基本的に同じである、といえるのではないか。

それだからこそカンチレバーの材質に求められる条件は、
スピーカーの振動板に求められる条件とほぼ重なる。

つまりカートリッジもまた振動系の質量から解放されることはない。
新素材の採用や軽量コイルの実現などで軽量は果せても、解放は絶対にない。

だが、けれども……と最近考えるようになってきた。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その2)

理屈として、音楽信号をフーリエ変換すれば、複数のサインウェーヴの合成によるものとなるわけだから、
すべての可聴帯域のサインウェーヴを完璧に再生できれば、
つまり正確なピストニックモーションを実現できれば、音楽信号を再生できる。

こんなふうに考えればいいことはわかっていても、
それと感覚的な納得とはまた別のことである。

なぜ紙の振動板のスピーカーから、馬のしっぽのヴァイオリンの音が聴こえてくのか、
金属の皿をひっぱたいたシンバルの音がしてくるのか、
皮をピンと張った太鼓の音がそれらしく聴こえるのか、
これも感覚的納得のいかないことだったし、
考えれば考えるほどわからなくなっていた。

考えた。でもあの時、自分を感覚的に納得させられる答を見付けることはできなかった。
だから、とにかくピストニックモーションの実現が大事なことなのだと思い込ませた。

ピストニックモーションを追求していくと、振動板の質量はできるだけ小さくしたい。
とはいえただ軽いだけの振動板ではピストニックモーションの実現は困難である。
すくなくともダイナミック型のスピーカーでは無理である。

そこで振動板全面に駆動力を与えるコンデンサー型があるし、
それに類似した方式がいくつか考え出されてきた。

けれどピストニックモーションである以上、
振動板の質量をどれほど軽量化しようとも振動板の質量から解放されることは絶対にない。

Date: 8月 8th, 2013
Cate: 夢物語

オーディオ 夢モノがたり(その1)

オーディオについて理解しようと思い始めて、
最初にぶつかった難問が、実はスピーカーの動作についてだった。

動作といっても、フレミングの法則が理解できなかったのではなく、
なぜ、振動板が前後に動くことで、音楽(つまりさまざまな音)が再生できるのか──、
その動作が感覚として理解できなかった。

スピーカーはピストニックモーションを前提としている。
だから振動板は分割振動することなく、入力信号に応じて前後運動をすることが、
ピストニックモーションでは理想とされるし、
そのために振動板の実効質量を軽くしたり、剛性を高くしたり、内部音速の速い素材を採用する。

理屈からして、その方向が間違っていないことはわかる。
でもスピーカーから単音が出てくるのであれば、感覚として理解できる。
たとえば1kHzのサインウェーヴを完璧に再生しようとしたら、
正確なピストニックモーションが求められる。

けれど実際にスピーカーから聴くのは、いくつもの音が複雑に絡み混じり合ったものである。
ヴァイオリンが鳴っていれば、チェロも鳴っている。
それだけではなく他の楽器も鳴っている。
ヴァイオリンにしてもソロ・ヴァイオリンのときもあれば、何人もの奏者によるヴァイオリンのときもある。

こういう複雑な音をなぜフルレンジユニットであっても、そこそこに鳴らしわけられるのか。
振動板は基本的に前後にのみ振動している。
振動板が紙ならば、中域以上では分割振動が発生しているとはいえ、
基本はピストニックモーションである。