オーディオ 夢モノがたり(その5)
もちろんどんなに軽い材質の振動板であろうと、質量はある。
たとえばイオン化した空気を入力信号に応じて変調させ放電強度を変化させることで、
イオン化された空気の変化が気圧の変化として音が発生させるイオン型(放電型)には、
いわゆる振動板がなく質量ゼロの発音体という認識で受けとめられているが、
実際にはイオン化された空気が振動板(振動体)であるから、
そのイオン化された空気の質量分だけは存在する。
ベンディングウェーヴの振動膜にも質量はあるのだが、
ピストニックモーションのように振動板(振動膜)全体をいっきょに前後に動かすわけではない。
ボイスコイルが取り付けられている端から振動膜が波打ち、振動膜全体が振動する。
だからこそ振動膜の動きやすさ(波打ちやすさ)が重量になり、
その意味での可動質量はピストニックモーションとは異り、無視できる、
さらには解放されている、といえるのではないか。
とすればである。
ここから先が、この項のテーマである「真夏の夜の夢」なのだが、
カートリッジにおけるベンディングウェーヴ方式が実現できれば、
可動質量から解放されるのではないか──、と夢見ているわけだ。
実際にはどういう構造にすればいいのか、
果してステレオ・カートリッジが成立するのか、
トレース能力は充分に確保できるのか、
実現はかなり困難のように思えるのだが、
ベンディングウェーヴのスピーカーユニットが現実のモノとして、
素晴らしい音を聴かせてくれているのだから、
ベンディングウェーヴ方式のカートリッジがもし実現すれば、
誰も聴いたことがない音をアナログディスクから抽き出してくれるはずだ。