オーディオ 夢モノがたり(その1)
オーディオについて理解しようと思い始めて、
最初にぶつかった難問が、実はスピーカーの動作についてだった。
動作といっても、フレミングの法則が理解できなかったのではなく、
なぜ、振動板が前後に動くことで、音楽(つまりさまざまな音)が再生できるのか──、
その動作が感覚として理解できなかった。
スピーカーはピストニックモーションを前提としている。
だから振動板は分割振動することなく、入力信号に応じて前後運動をすることが、
ピストニックモーションでは理想とされるし、
そのために振動板の実効質量を軽くしたり、剛性を高くしたり、内部音速の速い素材を採用する。
理屈からして、その方向が間違っていないことはわかる。
でもスピーカーから単音が出てくるのであれば、感覚として理解できる。
たとえば1kHzのサインウェーヴを完璧に再生しようとしたら、
正確なピストニックモーションが求められる。
けれど実際にスピーカーから聴くのは、いくつもの音が複雑に絡み混じり合ったものである。
ヴァイオリンが鳴っていれば、チェロも鳴っている。
それだけではなく他の楽器も鳴っている。
ヴァイオリンにしてもソロ・ヴァイオリンのときもあれば、何人もの奏者によるヴァイオリンのときもある。
こういう複雑な音をなぜフルレンジユニットであっても、そこそこに鳴らしわけられるのか。
振動板は基本的に前後にのみ振動している。
振動板が紙ならば、中域以上では分割振動が発生しているとはいえ、
基本はピストニックモーションである。