Date: 6月 18th, 2020
Cate: ベートーヴェン, 正しいもの
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正しいもの(その17)

その4)でも、
さらには他の項でも何度か引用していることをまた一度やる。

中野英男氏の著書「音楽 オーディオ 人々」に「日本人の作るレコード」という章がある。
     *
シャルランから筆が逸れたが、彼と最も強烈な出会いを経験した人として若林駿介さんを挙げないわけにはいかない。十数年前だったと思うが、若林さんが岩城宏之──N響のコンビで〝第五・未完成〟のレコードを作られたことがあった。戦後初めての試みで、日本のオーケストラの到達したひとつの水準を見事に録音した素晴しいレコードであった。若くて美しい奥様と渡欧の計画を練っておられた氏は、シャルラン訪問をそのスケジュールに加え、私の紹介状を携えてパリのシャンゼリゼ劇場のうしろにあるシャルランのスタジオを訪れたのである。両氏の話題は当然のことながら録音、特に若林さんのお持ちになったレコードに集中した。シャルランは、東の国から来た若いミキサーがひどく気に入ったらしく、半日がかりでこのレコードのミキシング技術の批評と指導を試みたという。当時シャルラン六十歳、若林さんはまだ三十四、五歳だったと思う。SP時代より数えて、制作レコードでディスク大賞に輝くもの一〇〇を超える西欧の老巨匠と東洋の新鋭エンジニアのパリでの語らいは、正に一幅の画を思わせる風景であったと想像される。
事件はその後に起こった。語らいを終えて礼を言う若林さんに、シャルランは「それはそうと、あなた方は何故ベートーヴェンやシューベルトのレコードなんか作るのですか」と尋ねたのである。録音の技術上の問題は別として、シャルランはあのレコードの存在価値を全く認めていなかったのである。若林さんが受けた衝撃は大きかった。それを伝え聞いた私の衝撃もまた大きかった。
     *
今年は、ベートーヴェンの生誕250年である。
音楽関係の書籍も、ベートーヴェンに関係するものが出ている。

河出文庫から吉田秀和氏の「ベートーヴェン」が出ている。

そこにおさめられている「ベートーヴェンの音って?」に出てくるエピソードが、
まさにこのことに関係してくるからである。

長くなるので(その18)で引用することになるが、
読まれれば、同じことが起っている、と思われるはずだ。

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