Archive for 12月, 2020

Date: 12月 6th, 2020
Cate: オーディオマニア

オーディオマニアとして(圧倒的であれ・その7)

オーディオマニアを自認するのであれば、圧倒的であれ、とおもう──、
と(その1)で書いた。
五年前に書いている。

圧倒的であれ、とおもう、その理由は、
子供のころから、ブラッグ・ジャックに憧れてきたからなのだろう。

Date: 12月 6th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その7)

ワディアから170 iTransportが登場したころ、あるオーディオ雑誌の編集長が、
「自分が編集長でいるあいだは、絶対にiPodを誌面に登場させない」──、
そう息巻いていた、というウワサをきいたことがある。

そういう人がいるのか、と思ってきいていた。
誰なのかもきいて知っているが、名前を出すこともなかろう。

一人のオーディオマニアとして、
自分のシステムにはiPodは絶対に導入しない、というのは、
その人の拘りとしてあってもいいと思う。
それはご自由に、である。

オーディオ評論家として、絶対にiPodをオーディオ機器としては認めない、も、
その人の拘りとしてあってもいいだろう。

でも、オーディオ雑誌の編集長としては、どうだろうか。
しかも外部にもれるように宣言する、というのもどうだろうか。

オーディオマニアとしての拘りを、オーディオ雑誌の編集長としての拘りとすることは、
読み手へのバイアスなのではないだろうか。

誌面で、iPodはオーディオ機器ではない、と宣言しているわけではないから、
あからさまなバイアスを読み手にかけているわけではない。
けれど宣言していないからこそ、隠れたバイアスともいえる。

拘りそのものが、バイアスである。

2020年は、コロナ禍によって、さまざまな変化が生じてきている。
オーディオの世界もそうであり、
バイアスから解放される方向へと舵を切る人、
バイアスをより深くかける方向へと突き進む人、
そんな流れも出てきているような気がしないでもない。

いまのところはまだはっきりとはいえない。
あと五年、十年経てば、より鮮明な違いとなって現れてくることを期待したい。

Date: 12月 6th, 2020
Cate: ディスク/ブック

JOHN WILLIAMS IN VIENNA

クラシックで、今年一番売れたであろうCDは、
おそらく“JOHN WILLIAMS IN VIENNA”のはずだ。

ジョン・ウィリアムズがウィーン・フィルハーモニーを1月に指揮したこともニュースになったし、
スターウォーズの「帝国のマーチ」は、CDの発売の数ヵ月前から配信されていた。

8月に発売になった。
通常のCDのほかに、MQA-CD、Blu-Ray Audio、LPで出た。
もちろん配信もある。
flacとMQAで、96kHz、24ビットである。

来年の2月には完全収録盤としてSACD(二枚組)も発売になる。

つまり、いま聴くことができる、ほぼすべてのフォーマットが揃うことになる。

録音は96kHz、24ビットで行われている。
録音そのままをなによりも重視する人は、配信ということになる。

SACDは、96kHz、24ビットのオリジナルをDSDに変換しているはず。
MQA-CDも、ユニバーサルミュージックのMQA-CDなのだから、
その変換したDSDマスターをPCMに変換しているはずだ。

96kHzは48kHzの二倍であって、44.1kHzとは整数倍の関係ではない。
96kHzのマスターを、48kHz、44.1kHzの両方に変換した場合、
どれだけ音が違うのかを、同じ条件で比較試聴は、ほぼできない。

やったことがないのでなんともいえないが、さほど差はないのかもしれない。
それでも精神衛生的には、なんとなく整数倍の関係にあるほうがすっきりする。

オーディオマニアのなかには、すべて揃える人もいることだろう。
どれが一番音がいいのか。

私は、そのことにさほど関心はない。
まったくないわけではないが、
それぞれが気に入ったモノで聴けばいい、ぐらいに思っている。

これこそが一番だ、と思えるモノが、人によってはあるだろう。
それでも、他のフォーマットの音がすべての点でダメなわけではないはずだ。

楽しむということは、どういうことなのか。
別項「いい音、よい音(その6)」で書いたことを、ここでもくり返したくなる。

Date: 12月 5th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その6)

iPod、iPhoneを、きちんとしたオーディオシステムに接ぐことに、
特に抵抗感はなかった。
この一年、iPhoneで音楽を聴く時間が多くなって、そのことを再確認したともいえる。

とはいえ、iPhoneで聴くこと、
もっといえばパッケージメディア以外で音楽を聴くことに抵抗感、
そこまでいかなくとも躊躇している人もいるはずだ。

儀式を重視する人は、特にそうであろう。
おもむろにジャケットからLPを取り出して、
ヒゲをつけないように慎重にターンテープルの上におく。
盤面をクリーニングして、慎重にカートリッジを降ろす。
そしてボリュウムをあげてゆく──。

こういう一連の行動があってこそ、音楽を聴くという気構えが持てる人もいる。
それにいい音と利便性は両立しない、と主張する人もいる。

それ以外の理由で、パッケージメディアに拘る人はいるだろう。
でも、そういう人でも、今年はコロナ禍でオーディオショウのほとんどが中止になった。
そのかわりというわけではないが、
YouTubeでプレゼンテーションを行うところが、かなり出てきた。

オーディオ協会もそうだし、オーディオ店もやっている。
これまで個人で、自分のシステムの音をYouTubeで公開している人はけっこういたが、
それが今年はオーディオ関係者に広がってきている。

そうなると、これまで、こういうYouTubeの動画を見てこなかった人、
関心を持たなかった人も、ちょっとたけ見てみようかな、と思うようになるかもしれない。
たぶんいるはずだ。

どのくらいいるのかまでは調べようがないけれど、
YouTubeを通じて、オーディオ機器の音を聴くことに関心を持ち始めた人は、
昨年までよりも増えていよう。

関心をもっただけの人もいるだろうし、
関心をもって実際に聴いてみた人もいるだろう。
今年になってはじめて聴いた人のなかには、
ストリーミングで音楽を聴くことに抵抗感、もしくは避けてきた人もいるだろう。

でも実際に聴いてみることで、そういう抵抗感が薄れてきた人もいるのではないだろうか。
コロナ禍によって、TIDAL、mora qualitas、Amazon Music HDを試してみよう、
e-onkyoも試してみよう、という人が、少ないかもしれないが現れてきているに違いない──、
そう期待している。

Date: 12月 4th, 2020
Cate: audio wednesday

audio wednesday (first decade)が終って……

12月2日に行った118回で、audio wednesdayは終了となった。
2011年2月2日に始めて、ほぼ十年。

来てくださる人は少ない会だったし、
最初の五年間は音を鳴らすことはできずに、話すだけの会だった。
2016年1月から、音を鳴らすようになった。

ちょうど五年、五年である。

音を鳴らした後半の五年間は、やりたいことはいくつもあったが、
器材が用意できなければできないこともあって、やり残したことはけっこうある。

それでも常連だったKさんが、何度かアンプ(マークレビンソン、是枝アンプなど)、
スチューダーのCDプレーヤーを、
ハイレスミュージックの鈴木さんは、メリディアンのULTRA DAC、218を貸し出してくださった。

2018年1月14日に、杉並区の中央図書館の視聴覚ホールにて、
オクタヴィア・レコードの江崎友淑氏による講演会「菅野録音の神髄」が行われた。

スピーカーシステムはB&OのBeoLab 90、
SACDプレーヤー、コントロールアンプはアキュフェーズのフラッグシップモデルが用意されていた。

アキュフェーズはわかるとして、スピーカーはB&Oなのか、と思った来場者は少なくなかったはずだ。
説明があった。
いくつかの輸入元に依頼したところ、ことわられた、
もしくは有償だったら貸し出せる、ということだったそうだ。

世知辛い。
説明をきいてそうおもっていた。
私だけでなく、ほかの人たちもそう感じていたことだろう。
ここでは、どこなのかまでは書かないが、どこなのかは担当者が話されていた。

菅野先生関係のイベントでもそうである。
まして来てくれる人が少ないaudio wednesdayに協力してくれるところは、まずない。
そう考えていたから、どこかに頼むこともしなかった。

古くからの友人のKさんがいる。
上のKさんとは別人のKさんだ。
彼はハイレスミュージックの鈴木さんの友人でもある。
共通の友人のKさんのおかげで、ULTRA DACを聴くことができた。

二人のKさん、鈴木さんには感謝している。

audio wednesdayの最初の十年は終った。
けれど、特にさみしいわけではない。

次の十年が、どうなるのかは、いまのところはまったく見えてこない。
それでも、やりたいこと(やり残したこと)があるだけに、
再開できたら──、ということをあれこれ考えてもいる。

Date: 12月 4th, 2020
Cate: 1年の終りに……

2020年をふりかえって(その5)

iPhoneを、
自分のシステム、喫茶茶会記のシステムに接いで音楽を聴いている。

2008年にワディアから170 iTransportが登場した。
iPodの出力からデジタル信号を取り出して、SPDIFに変換するという機器だった。
つまりD/Dコンバーターである。

続いてゴールドムンドも同種の製品を発表した。
けれど、こちらはなぜか製品化されずに終ってしまった。
ダメになった理由は、はっきりとしたことは誰も知らないから、
いくつかのウワサが飛び交っていた。

どれがほんとうなのかはわからない。
そんなことはどうでもいいわけで、
同時期にワディアとゴールドムンドが、iPodをオーディオ機器として捉えていた事実だ。

オーディオマニアの知人も、このころ、iPodを複数台購入していた。
クラシック用、ジャズ用、ロック・ポップス用といったふうに使い分けるためである。

私はiPodと170 iTransportの実力がどのくらいなのか、聴く機会はなかった。
でも知人からは、興奮気味の電話がかかってきていた。
その後、170 iTransportは171へとヴァージョンアップしている。

私も興味はもっていた。ただD/Aコンバーターももっていなかったし、
デジタル出力が取り出せる世代のiPodも所有していなかった。
でも、いつかはやってみよう、と思っていたから、
七年くらい前だったか、170 iTransportを中古で手に入れていた。

でもD/Aコンバーターがなかったので、試すことはなかった。

そんなことがあったから、Matrix AudioのX-SPDIF2を眺めていると、
形状が170 iTransportに近いな、と思うし、
170 iTransportのように上部にiPhoneを挿し込めるようになっていればなぁ、とも思う。

Appleのライセンスの関係もあるだろうから、たぶん無理なのだろうけども。

iPhoneをトランスポートとして音楽を聴いていて、そんなことを思い出す一年でもあった。

Date: 12月 3rd, 2020
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(Beethoven 250)

昨晩のaudio wednesdayで最後にかける曲は、「第九」と決めていた。
決めていたのは、それだけで誰の演奏にするのかは、直前で決めた。

カルロ・マリア・ジュリーニ、ベルリンフィルハーモニーによる「第九」をかけた。

あれは、ちょうど三十年前だったのか、と気づいたからだ。
あれがなんのことなのかは、
その6)と(その13)で書いているから、ここでは繰り返さない。

Date: 12月 3rd, 2020
Cate: アクセサリー

D/Dコンバーターという存在(その14)

昨晩のaudio wednesdayは、
Mac mini(Late 2014)を持っていった。
それとMatrix AudioのX-SPDIF2である。

かける曲はすべてCDで持っているけれど、あえて昨晩はTIDALだけでやった。

iPhone 12 ProとX-SPDIF2とでは、音が出ないことは、前回書いた通りだ。
前日もいろいろ試してみたけれど、結局ダメだった。

Matrix AudioのサイトにはiOSでも使用できる、とあるのにできないのは、
iOSのヴァージョンが14.2.1だからなのだろうか。
ヴァージョン13ならば動作したのだろうか。

手元に古いiPhoneがないので確かめられないが、
iOSなのかも、と疑っているところもある。

iPhoneには、オンキヨーのHF Playerのほかに、Amarra Play、foobar200を入れている。
foobar200でMQAを再生すると、メリディアンの218がMQAとして認識しない。
D/Dコンバーターは、FX-AUDIOのFX-D03J+である。

HF Playerは、当然のことだが、きちんとMQAとして再生できる。
Amarra Playは、このアプリ自体でコアデコードができるので、
218と接続する際には、その機能をパスする。

設定項目に、Passthrough MQAがある。
ONにしてみると、MQA再生に関しては非常に不安定である。
218のMQAを示すLEDが、なぜか点灯ではなく点滅する。
IP Controlで確認しても、MQA、PCMの表示が一秒足らずの周期で変っている。

いまのところ、どこに原因があるのかはっきりしていない。

Date: 12月 3rd, 2020
Cate: ディスク/ブック

Glenn Gould Plays Beethoven’s 5th Symphony

昨晩のaudio wednesdayのテーマは、Beethoven 250。
最初にかける曲は、まっさきに決めていた。

グレン・グルードのベートーヴェンの交響曲第五番(リスト編曲)である。
20代のころ、よく聴いていた一枚だ。
めっきり聴くことは減っていた。

前回きいたのは、グレン・グールドのリマスター盤のボックスが出た時だから2007年だ。
もう十年以上きいていなかった。

これまではLPとCDできいてきた。
昨晩はTIDALで聴いた。

ぞくぞくした。

Date: 12月 2nd, 2020
Cate: オーディオ評論

二つの記事にみるオーディオ評論家の変遷(その6)

ステレオサウンド 51号に「♯4343研究」が載っている。
JBLのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンが、
ステレオサウンドの試聴室で4343のチューニングを行う、という記事である。

この記事中、ゲーリー・マルゴリスは、
4343はユニットの配置の関係から、音のバランスがとれる最低の距離は2mだ、と語っている。
つまり2m以上離れた位置で聴いて、
音のバランスがとれるようにネットワークのレベルコントロールを調整してほしい、ということだ。

2mよりも短い距離では、個々のユニットの音をバラバラに聴くことになり、
最適なバランスが掴めない、とのことだ。

マルチウェイ・マルチスピーカーの場合、ひとつの目安として、
最も離れているスピーカーユニットの中心と中心との距離の三倍以上離れて聴くこと。

4343の場合、ウーファー2231Aとトゥイーターの2405、
それぞれの中心の距離の三倍が約2mということである。
4343よりも大型の4350の場合、約2.5m離れることになるわけだ。

同軸型ユニットの場合はというと、トゥイーターとウーファーの中心は一致している。
理屈のうえでは、ぐっと近づいてもいいことになるわけだ。

51号は1979年夏に、「HIGH-TECHNIC SERIES-4」は1979年春に出ている。
だからこそ、どちらの記事も記憶にはっきりと残っている。

KEFのModel 105を聴いたのも、このころである。
Model 105は30cm口径ウーファーで、38cm口径の4343よりも、
ウーファーとトゥイーターの距離は近い。
2mも離れる必要はない。

それに中高域ユニットのエンクロージュアを聴き手に向けて調整できる。
熊本のオーディオ店で聴いたときも、三倍程度は離れていた。

どんなにきちんと調整されたとしても、
Model 105にぐっと近づいて聴いていたら、どうなっていただろうか。

マルチウェイ・マルチスピーカーユニットでも、Model 105のような例はある。
同軸型ユニットが、すべての条件において音像定位が優れているわけではない。

このことがごっそり抜け落ちたままで、単に音を聴いての、
《よくコアキシャルは定位がいいとはいうが、それは設計図から想像したまぼろしだ》
という感想のような気もする。

Date: 12月 1st, 2020
Cate: オーディオ評論

二つの記事にみるオーディオ評論家の変遷(その5)

なぜオーディオメーカーは、
やっかいともいえる同軸型ユニットに挑戦するのか、といえば、
それだけの音のうえでのメリットがあるからなのだろう。

その大きなメリットが音像定位に関することである。
そう昔から、同軸型ユニットは、音像定位に優れている、といわれ続けている。

ここで重要なのは、見逃してならないのは、
同軸型ユニットの音像定位の優位性は、至近距離で聴いた場合に発揮される、ということだ。

このことも昔からいわれていたことである。
1979年にステレオサウンド別冊「HIGH-TECHNIC SERIES-4」の巻頭鼎談のなかにも、
そのことは出てくる。
     *
 単純に考えれば、同軸型の良さは、一般のマルチウェイシステムのように各帯域専用のユニットをバッフル面に縦や横に並べることによって出てくる諸問題、特に指向特性のばらつきの問題が最も解決しやすいということですね。つまり、音像定位感を最もシンプルにとりやすいということです。
瀬川 それが第一でしょう。
 ですから、レコード会社によっては依然としてマルチウェイシステムを使わないで、周波数レンジが狭いとかバランスが理想的でないなどいろいろなことをいいながらも、同軸型を使い続けているのだろうと思うのです。
菅野 ぼくも実際にモニター用として同軸型を使っていますよ。
 しかし、同軸型は、薬と毒の両面を持っていると思います。つまり、何らかの形でネットワークを使って帯域分割をしているわけですが、そこに一つの問題点があるような気がするのです。薬の部分は、先ほど岡先生がおっしゃった定位の良さということが一つにはあるわけです。ところが、実際に一般のマルチウェイシステムで考えてみた場合、縦ないし横にそれぞれのユニットが配置されていると、至近距離で聴いた場合、ネットワークのクロスオーバー付近の音が変な音で出てくることに気がつきます。しかも低・中・高域の音が位置関係ではっきり別のところから出てくるという不自然さがあるわけです。同軸型はその辺の不自然さはありませんが、別の問題が生じてくるのです。それは先ほどもいったことですけれども、たとえばトゥイーターから出た音がウーファーによって音響的にモジュレートされたような歪み感を感じることなのです。
 ところが、その、いわば毒の部分が、一般のマルチウェイシステムのクロスオーバー付近の音をうまくマスキングし、しかも位置関係の不自然さを打ち消してくさぱるようなのですね。至近距離で聴いた場合、明らかに同軸型の方がアラは出にくいのです。そして、当然、音は同じポジションから点焦点的に出てくるので、定位も確かにつかみやすいということになります。
瀬川 いま論じられている2ウェイの同軸型の中で、製品としてはいくつかあっても、買うに値する、どうしてもこれでなければといえるくらいに価値あるものは、現在ではタンノイとアルテックぐらいしかないと思うのです。
 その中で、たとえはタンノイの場合、同軸型だからということでタンノイを選ぶという人は少ないだろうと思います。それよりもむしろ、タンノイの、あの総合的なタンノイトーンみたいなものに惚れ込んでいて、もしあれが一般のマルチウェイのように各帯域のユニットが単独に存在していたとしてもあのトーンが出れば、タンノイファンはやはり減らないでしょう。
菅野 それと同時に、同軸だという条件がタンノイトーンの一部分を作っているともいえますね。
瀬川 それはいえますね。ぼくがいまいっていることは荒唐無稽な説なのかもしれないですけれども、実際タンノイもスタジオでモニター用に使われています。その場合には、先ほど菅野さんがいわれた、至近距離で聴いても定位が乱れないということは大事な部分だと思いますね。
 ただ、タンノイをよく聴き込んだ人は音像定位がいいということをいいますが、それでは同軸型以外のマルチウェイでは定位感が悪いのかといえば、やはりそうではないわけです。ですから、同軸型だから定位がいいということは一律にはいえないような気がします。
 たとえば至近距離でという条件があれば、同軸型の良さはある面で絶対的なところがありますが、ある程度スピーカーから離れた場合は、音像が小さいからいいということはむしろ逆なことがいえると思うのです。いまのステレオ再生は左右の2点しか音を出さないだけに、よほどうまくやらないと音場が狭く感じられてしまうのですね。もとの音源は、スピーカーよりもはるかに大きな楽器がたくさんあるわけで、しかも多種楽器が一斉に鳴ったりする。そういう感じは、むしろ一般的なマルチウェイで、しかもウーファーとトゥイーターをうんと離して配置するという方法をとった方が、音像定位は悪くなりますけれども、全体的に広がった良さみたいなものが出てきます。
 ぼくは、同軸型ユニットというのは、帯域を広げたいということと、許容入力を大きくしたいという、この二つ以外の何物でせないと思うのです。ですから、結果的に、菅野さんが先ほどおっしゃったように異質なものを無理に一つにまとめたような〝木に竹を接ぐ〟という性格がどうしてもつきまとうのではないかと思うのです。
菅野 ただ、いまのアルテックとかタンノイの同軸型はよく出来ているので、木に竹ではなく、低域と高域がうまく合わさって一つのアルテックサウンド、タンノイサウンドの魅力にまで消化されていると思います。
 ですから、少し理屈っぽくいえば、どうせ低域と高域の二つに分けるのならば、何も無理して同軸型にすることはないと思うのです。同軸型にするためには、ユニットの形やある面での特性もかなり犠牲にしているわけですからね。逆にいえば、これだけのスピーカーメーカーがたくさんある中で、アルテックとタンノイしか現在は同軸型で成功していないということも成り立ち得るわけです。とにかく現在は、アルテックとタンノイが少しずば抜けて別格的に評価されていますね。
     *
同軸型ユニットの定位のよさは、至近距離において、であるということ、
そして同軸型ユニット、
特に基本設計の古いアルテック、タンノイは薬と毒の両面を持っている、ということ。

これを念頭において、ステレオサウンド 94号、150ページを読み返してほしい。

Date: 12月 1st, 2020
Cate: オーディオ評論

二つの記事にみるオーディオ評論家の変遷(その4)

KEFのUni-Q登場以前の同軸型スピーカーの代表的存在は、
タンノイとアルテックだった。

この二つ以外にも同軸型ユニットは、もちろんあった。
私が昔使っていたシーメンスのCoaxialもそうだし、
JBLの2145、イソフォンのOrchester2000、
パイオニアのPAX-A30などがあった。

とはいえ、やはり同軸型ときいて、オーディオマニアが頭に思い浮べるのは、
タンノイとアルテックだった。

この二つの同軸型ユニットは、中高域にホーン型を採用している。
JBLやシーメンスはトゥイーターはコーン型、
イソフォンはドーム型、パイオニアはホーン型だった。

トゥイーターがコーン型、ドーム型の同軸型ユニットは、
ウーファーの前面にトゥイーターが位置することになる。

ホーン型の場合は、ウーファーの奥にトゥイーターの振動板が位置する。
ウーファーとトゥイーターの位置合せは、構造上、かなり困難である。

特にホーン型の場合は、ウーファーとの距離が、
ドーム型、コーン型よりも離れることになる。

日本で平面振動板が流行り出したときに、パイオニアから、
平面振動板の4ウェイの同軸型ユニットが発表になり、
このユニットを採用したスピーカーシステムS-F1が登場した。

平面振動板だから、表からみれば、それぞれの振動板の位置は合っている。
けれど、ボイスコイルの位置までは一致していなかった。

Uni-Qが特徴的なのは、振動板の位置が合っている数少ない同軸型だったことにある。
実はホーン型トゥイーターの同軸型ユニットでも、
マクソニックのDS405は、ボイスコイルの位置を合せているし、
Uni-Qの約十年前に登場している。

同軸型ユニットは、それほど多くはなかった。
構造上複雑になるため、それにともない制約も生じるためであろうが、
それでも同軸型ユニットに挑戦するメーカーもあった。

手がけたものの、わりと早くやめてしまったメーカーもあれば、
タンノイのようにずっと長く続けているメーカーもあるし、
KEFも、もう三十年以上になる。