Date: 12月 1st, 2020
Cate: オーディオ評論
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二つの記事にみるオーディオ評論家の変遷(その5)

なぜオーディオメーカーは、
やっかいともいえる同軸型ユニットに挑戦するのか、といえば、
それだけの音のうえでのメリットがあるからなのだろう。

その大きなメリットが音像定位に関することである。
そう昔から、同軸型ユニットは、音像定位に優れている、といわれ続けている。

ここで重要なのは、見逃してならないのは、
同軸型ユニットの音像定位の優位性は、至近距離で聴いた場合に発揮される、ということだ。

このことも昔からいわれていたことである。
1979年にステレオサウンド別冊「HIGH-TECHNIC SERIES-4」の巻頭鼎談のなかにも、
そのことは出てくる。
     *
 単純に考えれば、同軸型の良さは、一般のマルチウェイシステムのように各帯域専用のユニットをバッフル面に縦や横に並べることによって出てくる諸問題、特に指向特性のばらつきの問題が最も解決しやすいということですね。つまり、音像定位感を最もシンプルにとりやすいということです。
瀬川 それが第一でしょう。
 ですから、レコード会社によっては依然としてマルチウェイシステムを使わないで、周波数レンジが狭いとかバランスが理想的でないなどいろいろなことをいいながらも、同軸型を使い続けているのだろうと思うのです。
菅野 ぼくも実際にモニター用として同軸型を使っていますよ。
 しかし、同軸型は、薬と毒の両面を持っていると思います。つまり、何らかの形でネットワークを使って帯域分割をしているわけですが、そこに一つの問題点があるような気がするのです。薬の部分は、先ほど岡先生がおっしゃった定位の良さということが一つにはあるわけです。ところが、実際に一般のマルチウェイシステムで考えてみた場合、縦ないし横にそれぞれのユニットが配置されていると、至近距離で聴いた場合、ネットワークのクロスオーバー付近の音が変な音で出てくることに気がつきます。しかも低・中・高域の音が位置関係ではっきり別のところから出てくるという不自然さがあるわけです。同軸型はその辺の不自然さはありませんが、別の問題が生じてくるのです。それは先ほどもいったことですけれども、たとえばトゥイーターから出た音がウーファーによって音響的にモジュレートされたような歪み感を感じることなのです。
 ところが、その、いわば毒の部分が、一般のマルチウェイシステムのクロスオーバー付近の音をうまくマスキングし、しかも位置関係の不自然さを打ち消してくさぱるようなのですね。至近距離で聴いた場合、明らかに同軸型の方がアラは出にくいのです。そして、当然、音は同じポジションから点焦点的に出てくるので、定位も確かにつかみやすいということになります。
瀬川 いま論じられている2ウェイの同軸型の中で、製品としてはいくつかあっても、買うに値する、どうしてもこれでなければといえるくらいに価値あるものは、現在ではタンノイとアルテックぐらいしかないと思うのです。
 その中で、たとえはタンノイの場合、同軸型だからということでタンノイを選ぶという人は少ないだろうと思います。それよりもむしろ、タンノイの、あの総合的なタンノイトーンみたいなものに惚れ込んでいて、もしあれが一般のマルチウェイのように各帯域のユニットが単独に存在していたとしてもあのトーンが出れば、タンノイファンはやはり減らないでしょう。
菅野 それと同時に、同軸だという条件がタンノイトーンの一部分を作っているともいえますね。
瀬川 それはいえますね。ぼくがいまいっていることは荒唐無稽な説なのかもしれないですけれども、実際タンノイもスタジオでモニター用に使われています。その場合には、先ほど菅野さんがいわれた、至近距離で聴いても定位が乱れないということは大事な部分だと思いますね。
 ただ、タンノイをよく聴き込んだ人は音像定位がいいということをいいますが、それでは同軸型以外のマルチウェイでは定位感が悪いのかといえば、やはりそうではないわけです。ですから、同軸型だから定位がいいということは一律にはいえないような気がします。
 たとえば至近距離でという条件があれば、同軸型の良さはある面で絶対的なところがありますが、ある程度スピーカーから離れた場合は、音像が小さいからいいということはむしろ逆なことがいえると思うのです。いまのステレオ再生は左右の2点しか音を出さないだけに、よほどうまくやらないと音場が狭く感じられてしまうのですね。もとの音源は、スピーカーよりもはるかに大きな楽器がたくさんあるわけで、しかも多種楽器が一斉に鳴ったりする。そういう感じは、むしろ一般的なマルチウェイで、しかもウーファーとトゥイーターをうんと離して配置するという方法をとった方が、音像定位は悪くなりますけれども、全体的に広がった良さみたいなものが出てきます。
 ぼくは、同軸型ユニットというのは、帯域を広げたいということと、許容入力を大きくしたいという、この二つ以外の何物でせないと思うのです。ですから、結果的に、菅野さんが先ほどおっしゃったように異質なものを無理に一つにまとめたような〝木に竹を接ぐ〟という性格がどうしてもつきまとうのではないかと思うのです。
菅野 ただ、いまのアルテックとかタンノイの同軸型はよく出来ているので、木に竹ではなく、低域と高域がうまく合わさって一つのアルテックサウンド、タンノイサウンドの魅力にまで消化されていると思います。
 ですから、少し理屈っぽくいえば、どうせ低域と高域の二つに分けるのならば、何も無理して同軸型にすることはないと思うのです。同軸型にするためには、ユニットの形やある面での特性もかなり犠牲にしているわけですからね。逆にいえば、これだけのスピーカーメーカーがたくさんある中で、アルテックとタンノイしか現在は同軸型で成功していないということも成り立ち得るわけです。とにかく現在は、アルテックとタンノイが少しずば抜けて別格的に評価されていますね。
     *
同軸型ユニットの定位のよさは、至近距離において、であるということ、
そして同軸型ユニット、
特に基本設計の古いアルテック、タンノイは薬と毒の両面を持っている、ということ。

これを念頭において、ステレオサウンド 94号、150ページを読み返してほしい。

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