ベートーヴェンの「第九」(その6)
ジュリーニ/ベルリン・フィルの「第九」のCDを見かけたのは、
リハビリからの帰りに立寄った吉祥寺のレコード店の新着コーナーの棚だった。
11月の半ばごろの、小春日和の天気のいい日だった。
1990年の夏の終わりに左膝の高原骨折と内側靭帯損傷で一カ月半ほど入院。
このころは毎日リハビリで通院していた。仕事は、していなかった。
(正直、こんなにリハビリが大変だとは思っていなかった。)
部屋にあったオーディオ機器はすべてなくなり、
アナログディスクもCDも、ほんとうに愛聴盤と呼べるディスク以外はなくなっていた。
だから、このCDを買っても聴く術がない。
それでも無性に聴きたい衝動におそわれ、
余分なお金は使えない、使いたくない状況にも関わらず、手を伸ばしてしまった。
CDプレーヤーは、当時住んでいた西荻窪駅近くの質屋に、新品同様の携帯用のモノがたまたまあったので、
他に選択肢があるわけでなく、やっぱりすこし迷ったものの、購入した。
モノが極端に少なくなった部屋に、南向きの窓からは暖かい日差しがはいってくる。
ぽつんとひとりで坐り聴いた。
この日、この瞬間から、ジュリーニ/ベルリン・フィルによる、このディスクは愛聴盤になった。
いまも聴き続けている。