Archive for 9月, 2011

Date: 9月 6th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その8)

井上先生は「見えるような臨場感」、「音を聴くというよりは音像が見えるようにクッキリとしている」と、
瀬川先生は「精巧な縮尺模型を眺める驚きに緻密な音場再現」、
「眼前に広々としたステレオの空間が現出し、その中で楽器や歌手の位置が薄気味悪いほどシャープに定位する」、
こんなふうに表現されている。

どちらも視覚的イメージにつながる書き方をされている。
それこそガリバーが小人の国のオーケストラや歌手の歌を聴くのと同じような感覚が、そこにはある。
いうまでもなく、これは正しくLS3/5Aを設置して、正しい位置で聴いてこそ得られるものであって、
いいかげんな設置、いいかげんな位置で聴いていては、このような音場感は得られないし、
そうなるとLS3/5Aはパワーも入らないし、低域もそれほど低いところまでカヴァーできないし……など、
いいところなどないスピーカーシステムのように思われるだろうが、
それは鳴らし方・聴き方に問題がある、といえる。

とにかく、そういうLS3/5Aが小音量時に聴かせてくれる、
「見えるような臨場感」を、私は、LS3/5Aをすこしばかり上から眺めるような位置で聴きたい、と思う。

スピーカーシステムの位置と耳の位置の、それぞれの高さの関係については、
使っているスピーカーシステムによっても、その人の聴き方にも関係してくることであって、
ここには正解は存在しない、といえる。

たとえば瀬川先生は、背の高いスピーカーシステムを好まれない。
というよりも、音楽之友社から出ていた「ステレオのすべて」の1976年版のなかで、
菅野先生、山中先生との鼎談「オーディオの中の新しい音、古い音」でこう語られている。
     *
たとえば見た目から言ったってね、ぼくはご在じの通りね、昔から背の高いスピーカー嫌いなんです。どうしても目の高さよりね、音の出て来る位置が高くなっちゃうとね、なんだか全然落ち着かないわけね。これは本当に、この部屋に入って来て座った時から、見れば見るほど、ますます大きくなっていく感じがするわけね。すごい背が高い。
 ちっとも小さくならない、慣れても。たとえばこういう大きいスピーカーだったらぽくはどうしたって横倒しにしちゃいたいぐらいの感じです。これは横倒しにできないスピーカーだけれども。
     *
ここで語られている「この部屋」とは山中先生のリスニングルームであり、
「横倒しにしちゃいたい」スピーカーシステムは、エレクトロボイスのパトリシアン600のことである。

Date: 9月 6th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その6)

80Hzから5kHzのバンドパスフィルターを通して、
国産の、ウーファーが30cm口径のブックシェルフ型スピーカーシステムを鳴らしたとしよう。

高域を5kHzでカットしているから、どのスピーカーシステムの音も、高域が伸びていないと、まず感じるだろう。
そしてしばらく、といっても数分間ではなく数十秒ほどそのまま聴いてみると、
高域が5kHzでカットしてあることをずっと意識させられる音を出すスピーカーシステムと、
意外にも耳が馴れてしまうのか、最初に聴いたときほど意識しない音を出すスピーカーシステムとに分れるはず。

高域の伸びが足りないことをずっと意識させられる音のスピーカーシステムでは、
そのまま音楽を聴きつづけていくことはしんどく感じられるようになる。
もう一方の、それほどナロウレンジになったことを意識させない音のスピーカーシステムでは、
そのまま音楽を聴きつづけていくことはできる。

なぜ、このようなことがおこるのか(前回書いたように実際に試したわけではないが、ほぼこうなるはず)。
それはスピーカーシステムそのものの音の質に関係している、と言われるだろう。
では、その音の質は、スピーカーシステムのどういうところと関係しているのか。

国産の30cm口径のウーファーをもつ3ウェイのブックシェルフであるなら、
どのメーカーのスピーカーシステムをもってきても、その周波数特性は80Hz〜5kHzは余裕でカヴァーしており、
ほぼフラットな特性でもある。
つまりこのことは80Hz〜5kHzのバンドパスフィルターを通して状態では、
周波数特性的には同じになるといっていい。
多少この帯域内において凹凸があっても、それすらもレベル的には小さい。

なのに高域が常に足りないと意識させる音と、そうでない音とに分れるということは、
聴感上の周波数特性的に差が出るということは、ほぼ間違いなく応答性・過渡特性に密接に関係しているはずだ。

Date: 9月 5th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その38)

12インチ・シングルでは、クラシックのディスクは出ない(まったく、というわけではないけれども)。
少なくとも私にとっては、12インチ・シングル = ケイト・ブッシュであり、
ロック・ポップスを堪能するためのメディアということである。

だから当時妄想していたのは、アナログプレーヤーを2台用意することだった。
1台はクラシックのディスクをうまく鳴らすために(つまり33 1/3回転用)、
もう1台は12インチ・シングル専用(45回転用)で、
プレーヤーについている回転数切替えを使うのではなく、
かけるディスクにおさめられている音楽の性格、傾向、鳴らし方がまるっきり違うのだから、
いっそのことそれぞれにうまくピントをあわせたプレーヤーを用意した方がいいのではないか、
そう考えて、リンのLP12を2台使いについて、妄想していたわけだ。

LP12は33 1/3回転専用のシングルスピード仕様だが、
モーターのプーリーを変えることで45回転のシングルスピード仕様にすることができた。

それぞれのLP12には、それぞれの目的(ディスク)に応じたカートリッジとトーンアームを組み合わせる。
33 1/3回転専用には、トーンアームはSMEの3009RかオーディオクラフトのAC3000MC。
ただオーディオクラフトにすると、ダストカバーが閉まらなくなる。

45回転専用には、12インチ・シングルの音楽によりぴったりとくるカートリッジを使いたい、
そうなるとEMTやエラック、オルトフォンといったヨーロッパ系のカートリッジではなく、
エンパイア、ピカリング、スタントンなどのアメリカのカートリッジをもってきたい。
これらは比較的軽針圧のものだから、トーンアームはSMEでも3009Rではなく、3009/SeriesIIIでまとめたい。
さらに贅沢が許されれば、それぞれにフォノイコライザーアンプも選びたくなる。

12インチ・シングルを楽しむためにできることは何があるのか。
こんなことをあれこれ妄想させるだけの「何か」が、
ケイト・ブッシュの12インチ・シングルから感じとれていたわけだ。

Date: 9月 5th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その7)

CDの登場は、アナログディスクにはつきものであったサブソニックから解放されたことであり、
LS3/5Aにかぎらず、1970年代に開発されたBBCモニタースピーカーに共通してあった耐入力のなさは、
ある程度解消されていった。
あきからにLS3/5Aから得られる音量は、CDによって増していた。
もっとも、増した、といっても、あくまでもLS3/5Aでの話ではある。

CDの普及とともに、LS3/5Aサイズの小型スピーカーシステム用のスタンドがいくつか出はじめたことも関係してか、
LS3/5Aは、CD登場以前とは異る聴き方がされるようになってきた。

それまでは(アナログディスク時代)は、スタンドは使わず、
しっかりした造りの机の上に、手の届く距離に置いて聴く、というスタイルが多かったのではないだろうか。
すくなくとも私は、瀬川先生や井上先生がLS3/5Aについて書かれたものを読んで、
そういう使い方をイメージしていた。

こういう置き方を含め、低域の適切なコントロールなど、
制限された使いこなしの中でうまく鳴らしたとき、LS3/5Aの魅力は最大に発揮される──、
こんなふうにも思っていた。

実際にそうやって聴くLS3/5Aのひっそりとした親密な空気をかもしだす雰囲気は、
聴く音楽も音量も聴取位置も限定されるけれど、そんなことを厭わず鳴らしたときの魅力は、
何度でも書きたくなるほどのものを、私は感じている。

でも、いい変えれば、やや面倒なスピーカーシステムといえなくもなかったのが、
CDの安定した低域によって、すこしばかり気軽に鳴らせるようになった。

いまLS3/5Aをお使いの方は、スタンドに乗せて、という方が多いのかもしれない。
けれども、私にとっては、机の上に置くスピーカーシステムであり、
つまりこのことはスピーカーを上から眺めるようなかたちで聴く、ということでもある。

Date: 9月 5th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その6)

CDが登場する以前、アナログディスクがメインのプログラムソースであったころには、
LS3/5Aを鳴らすコツのひとつとして低域の適切なコントロールがあげられていた。
サブソニックによってLS3/5Aの小口径のウーファーがフラフラしていたら、
ただでさえ耐入力不足のところに、さらに不利な再生条件になってしまう。

ステレオサウンドでの組合せでQUADの405がよくとりあげられていたのも、このことが関係している。
405は大出力になると低域をカットするような設計になっている。
同じことは管球式パワーアンプについても、いえる。
アウトプットトランスを背負っていないOTLアンプは関係ないが、
アウトプットトランスの性格上、管球式パワーアンプの周波数特性をみると、
1W出力時と定格出力時とでは、低域のカットオフ周波数が、定格出力時ではどうしても高くなってしまう。
これはアウトプットトランスの性格上避けられないことでもある。

1982年にラジオ技術別冊として出た「集大成 真空管パワー・アンプ」の巻頭に、
管球式パワーアンプ15機種の回路図と実測データが載っている。
QUAD II、サンスイ AU111、ダイナコ MKIII、ダイナベクター DV8250、テクニクス 20A、40A、
デンオン POA1000B、フッターマン H3、マイケルソン&オースチン TVA1、マッキントッシュ MC275、MC3500、
マランツ Model 98、ラックス MQ36、MQ68C、SQ38FD。
測定を担当されたのは、オーディオノートの創設者、近藤公康氏。

これら15機種のなかでOTL方式なのは、テクニクスの20A、ラックスのMQ36、フッターマンのH3だけで、
残り12機種はすべてアウトプットトランスをもつ。

周波数特性は1W出力時、10W出力時、定格出力時の3つのデータが載っている。
出力に余裕があるアンプ、もしくは設計の新しいアンプでは、
!W出力時と10W出力時の周波数特性はほぼ同じか、すこしだけ低域のカットオフ周波数が上昇する傾向があるが、
小出力のものでは1Wと10W出力時でもずいぶんカットオフ周波数が違うものがあり、
定格出力時では200Hzあたりから低域のレスポンスが下降していくアンプもある。

ソリッドステートの優秀なパワーアンプの周波数特性と比較すると、
なんというひどい周波数特性なんだ、ということになりそうだが、
LS3/5Aのようなスピーカーシステムにとっては、これはむしろいい方向に働くこともある。

Date: 9月 4th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その5)

メリディアンのM20はパワーアンプ内蔵の、メリディアンがアクティヴラウドスピーカーシステムと呼ぶもので、
使用ユニットはウーファーが11cm口径のベクストレン・コーン型、トゥイーターは35mm口径のソフトドーム型で、
トゥイーターを2発のウーファーで挟み込むインライン配置、つまり仮想同軸配置を採用している。
内蔵パワーアンプはウーファー用が70W、トゥイーター用が35Wの出力によるバイアンプ仕様。

見た目はこれといった特徴的なところはない、地味な印象のほうが強いスピーカーシステムだから、
期待はほとんどしていなかった。
だから、音が鳴ってきた瞬間に、M20が醸し出す、いい雰囲気の音に、どきっとした。
LS3/5Aの音をスケールアップした音が、いまここで鳴っている──、
その事実に、とにかく嬉しくなった。

実は試聴の前に、サランネットを外してユニットを見たわけではなかった。
もともと期待していなかったスピーカーシステムだったから、
サランネットを外すことなく音を聴くことになったわけで、だからこそ驚きは大きかった。

試聴が終り、好奇心からネットを外すと、そこにはLS3/5Aで見慣れたウーファーがあった。

ウーファーのメーカーについては発表されていないが、あきらかにKEFのB110である。
LS3/5Aと同じウーファーを奥行きが38cmと、かなり深いバスレフ型エンクロージュアにおさめている。
内容積は、LS3/5Aにくらべかなり余裕をもったものとなっている。

トゥイーターはLS3/5Aに搭載されているKEFのT27ではないが、
これも見た目から判断するとKEFのユニットだと思われる。

KEFの105のような厳格さは、メリディアンのM20にはない。
もっと音楽を楽しんで聴く、という目的のためには、
結果として、わずかな音の演出を認めているようにも聴き手には感じられるM20の音は、
艶っぽく、底光りする音で、品位も高く、LS3/5Aには求められなかったスケール感がある。

そのスケール感は大型フロアー型のようなスケールの大きさではないけれど、
当時(1980年代まで)のイギリス的な家庭で楽しむ音量としては、充分なスケールがあった。

いま、この音を聴かせてくれたM20(現物)を、そのまま持ち帰りたくなるくらい、
私にとってはLS3/5Aの、正しく延長線上にあるスピーカーシステムだった。

Date: 9月 4th, 2011
Cate: 組合せ

妄想組合せの楽しみ(その48・余談)

暑い暑い夏だけは、ユニゾンリサーチのP70ではなく、
コードのCPM2800も用意して……ということを書いておきながら、
こんなことを書くのも矛盾するような気もしなくはないが、
それでもひとつの暑い夏の、音楽の聴き方のひとつとして実践しているのは、
あえて熱い音楽を、熱い音で、しかもエアコンを止めた部屋で聴く、というのは、いかがだろうか。

こんな聴き方を何時間もやれ、というのではなく、1枚もしくは2枚、すこし大きめの音量が出せるのであれば、
できる範囲内で大きな音を出して、熱い魂の持主の音楽家のディスクをかける。

具体的にはパブロ・カザルス(チェロよりも指揮したもの)、
アルゼンチンのハーモニカ奏者のユーゴ・ディアス(同姓同名のバンドネオン奏者もいるのでご注意)、
そのユーゴ・ディアスと同じアルゼンチンのアストル・ピアソラ、
彼らのディスクを聴く。聴き終わるころには汗をかいているかもしれない。

クーラーという文明の利器があるのに、汗をかきながら音楽を聴くという自由もオーディオにはある。

Date: 9月 3rd, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その4)

Reference Systemは一度聴いてみたかった。
XA75に内蔵されているパワーアンプではなく別途、サブウーファー用にパワーアンプを用意すれば、
より高品質な音が得られる可能性は、Reference Systemにはあったことだろうが、
写真でみるかぎりでは、大型エンクロージュアの上に、ポツンとLS3/5Aが乗っかっている感じで、
システムとしてのまとめ方のよさ──
しかもそれがロジャース純正であるだけにそういったことをより強く求めたくなるものだが──、
残念ながら備えていなかったように思える。

LS3/5Aのよさをいささか損なうことなく、スケール感をもうすこし欲することは無理な要求なのだろうか……。
KEFの105(Uni-Qユニット採用の105ではない)は、
それに近い印象を受けていたけれど、LS3/5Aの底光りする品位の良さまでは、
KEFの音は磨きあげられていないようも感じた。
105も、もちろん高品位でこれ単体で聴いている分には、その点に関しては申し分なく感じけれども、
すこし厳格すぎる性格、というか真面目すぎる性格が禍しているのだろうか、
音楽をより魅力的に響かせる方向での音の磨き方ではないようなところがある。

LS3/5Aの音には、私は、磨かれることで底光りしている音は、黒光りしている、とも感じている。
この光りの感じに、私は惚れてきたところがある。

だから、この磨きあげられることで生れてくる光りが音の中にはあり、
あとすこしのスケール感を……、ということになると、
そう難しくはないようなことに思えがちだが、意外に、そういう要求を満たしてくれるスピーカーシステムは少ない。

私がステレオサウンドにいたころ、ひとつだけ出合えた。
メリディアンのM20である。

Date: 9月 3rd, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その3)

LS3/5A──、私にとってのLS3/5Aは最初に聴いたものも、
そののち手に入れたものもロジャースの15Ωタイプだったので、
私にとってのLS3/5Aといえば、ロジャース製のモノということになる。

ロジャースのLS3/5Aが、
パワーに弱い(音量を上げられない)、低音は出ないなどのいくつかの欠点をもっていながらも
日本では高い評価と人気を獲得したこともあってなのかどうかははっきりとしないが、
イギリスの各スピーカーメーカーからも、LS3/5Aが登場した。
KEF、スペンドール、チャートウェル、オーディオマスターなどがある。
これらすべて同一条件では聴いたわけではないし、チャートウェルのLS3/5Aは聴いたこともない。

同じ規格でつくられてはいても、製造メーカーが異るとLS3/5Aの音も微妙に違ってくる。
LS3/5Aに高い関心をもつ者にとっては、
どのLS3/5Aが音がいいのか、もしくは自分の求める音に近いのかが気になるところだろうが、
私はといえば、それぞれのメーカーの音の差に関心はあるけれど、
それでも私にとってのLS3/5AはロジャースのLS3/5Aであり、
ロジャースのLS3/5Aは他社製のLS3/5Aよりも、多少劣る面を持っていたとしても、
それはそれでいいではないか、と思っているところがある。

私が気になるのは、LS3/5Aそれぞれの音の違いではなくて、
LS3/5Aの良さを受け継いで、あとほんのすこしスケール豊かに鳴ってくれるスピーカーシステムに関して、である。

LS3/5Aの欠点を解消するために、ロジャースからはサブウーファーが2度、登場している。
最初はL35Bと呼ばれるもので、33cm口径のウーファーをW46×H83×D42cmの密閉型エンクロージュアにおさめ、
このエンクロージュア上部の指定された位置にLS3/5Aを置くようになっている。
LS3/5Aとのクロスオーバ周波数は150Hzで、
専用のエレクトロニック・デヴァイディングネットワークXA75にはパワーアンプも搭載されており、
L35BとXA75、そしてLS3/5Aによるシステムを、ロジャースはReference Systemと名づけていた。
1978年の製品だ。

2度目は、1990年代なかばごろに登場したAB1がある。
このモデルはLS3/5AのウーファーB110を採用し、シンメトカリーロデット方式とよばれるエンクロージュアを採用、
このサブウーファーの出力は、B110から直接ではなく、
エンクロージュア上部サイドに設けられているポートから、となっている。
AB1にはLS3/5A用の出力端子が備えられていて、バイアンプ仕様のReference Systemとは異り、
それまでLS3/5Aを鳴らしてきたシステムにそのまま組み込める簡便さをもっていた。

Date: 9月 3rd, 2011
Cate: 書く

9月3日(2008年〜2011年)

このブログ、audio identity (designing)をはじめたのは、2008年9月3日。
まる3年が経過して、今日から4年目が始まる。

audio sharingをやってきて、このaudio identity (designing)を毎日書いてきて、いま感じているのは、
なにかを「預っている」という感じが、この1年ほどのあいだに徐々に強くなってきている、ということだ。

なにを「預っている」のか、それは具体的なかたちをもっているようでいて、そうでないところもあって、
実感が強くある一方で、稀薄さ、というよりも、はかなさに近いものを感じることもある。

とはいうものの「預っている」以上は、
それを活かし、生かしていくことを考えていかなければならない、と思っている。
そのことが「編集」である、とも思っている。

Date: 9月 2nd, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その37)

グラシェラ・スサーナの45回転盤はリマスターは行われていたようだが、リミックスが行われていたわけではない。
ケイト・ブッシュの12インチ・シングルにおさめられていたのはリミックスである。
アルバム”Hounds of Love”に収められている曲をそのまま12インチ・シングルにリカットしたものではなく、
12インチ・シングルの片面に1曲のみのカットだから、
曲の時間も12インチ・シングル用に長く、リミックスしたものだった。

そのこともあって、音の傾向もアルバムとはやや異るところもある。
それがリミックスだけによるのではなく、
12インチ・シングルというアナログディスクがもてる特質を活かしたものであったように思っている。

12インチ・シングルにリカットされた曲を聴いた後では、アルバムにおさめられている同じ曲が、
すこし稀薄といったらいいのだろうか、最初にアルバム(LP)で聴いたときの強烈な印象が、
12インチ・シングルのより強烈な印象の後では、どうしても色褪せて聴こえてしまうところを認めざるをえない。

なにが違っていたのか。
まずリズムの刻みが、より力強く深く感じられる。
そのことによってだと思うのだが、ふたつのスピーカーシステムの間にあらわれるケイト・ブッシュの存在感が、
33 1/3回転のLPで聴いたときよりも、CDで聴いたときよりも、
あきらかにケイト・ブッシュの体温が感じられるかのように生々しい。
当り前すぎることだが、ケイト・ブッシュは日本人ではない。
ケイト・ブッシュはそれほど大柄ではないようだが、それでも同じ身長の日本人女性と比較すれば、
横からみたときの体格の差がはっきりとするところが、音のうえにもあらわれる。

どちらかといえば薄っぺらな日本人の体格ではなく、厚みを感じさせる体格から声が出てくるという感じは、
12インチ・シングルの音から、誰の耳でもはっきりと感じられることだと思う。

Date: 9月 1st, 2011
Cate: 音楽性

AAとGGに通底するもの(その18)

音のみを純粋に追求しているのであれば、
そこで鳴ってくる音に対して、肉体を感じることこそ理屈に合わないことでおかしなこととなろう。

だが、演奏者──ここではグールドであったりアリス・アデールであったりするわけだが──の肉体を、
つまりは息吹を感じさせない音が、作曲者の息吹を伝えてくれるとは到底思えない。

この項の(その12)、(その13)にも書いているように、演奏者は作曲者の息吹を伝えてくれる。
だから、音を音楽の息吹として感じとり、その音をよりよい音で鳴らそうと、われわれはしているわけだ。

なのに、肉体を拒否し息吹も拒否した音を、聴きたいとは、私は思わない。
もちろん、スピーカーから鳴ってくる音に対して求めるものは各人各様だから、
そういう肉体という存在を不純物のように受けとる人がいても不思議ではないし、
そういう音しか鳴らせないスピーカーシステムが、一部では高く評価されているのは知っている。

だが、そういう音が、「ベートーヴェン(動的平衡・その3)」でふれた音の構築物を、
私の眼前に再現してくれようはずがない。

思い出すのは、アンドレ・シャルランが、ある日本人の録音エンジニアに言ったといわれることだ。

Date: 9月 1st, 2011
Cate: 名器

名器、その解釈(その4)

「名器」ときいて、私がすぐに思い浮べるオーディオ機器は、すでに製造中止になったものばかりである。
でも、これは私だけのこと、とは思えず、「名器」ときいて、最新製品を思い浮べる人は少ないように思う。

少なくともオーディオにおいての「名器」は、
新製品として世に登場して、それからある長さの期間を経たモノではないだろうか。

この、ある長さの期間は、具体的に何年と決まっているわけではない。
たとえばタンノイのウェストミンスターは1982年に登場している。
約30年が経ち、その間に、幾度かの改良が保護され、ウェストミンスター・ロイヤル/SEとなっている。
これは、もう名器と呼んでいい、と思いながらも、なぜか、私の中ではオートグラフは名器と素直に呼べても、
ウェストミンスターに対しては、抵抗感とまではいえないけれども、
素直に名器とは呼べないのはなぜかと、自分でも不思議に思っている。

ウェストミンスターに、とくに現行のウェストミンスター・ロイヤル/SEに、
オートグラフと比較して云々、というケチをつけるところはない。
フロントショートホーンのつくりにしても、オートグラフは直線的なホーンだったのに対して、
ウェストミンスターでは手間をかけて曲線に仕上げている。
搭載されているスピーカーユニットも、最初のウェストミンスターはフェライト磁石採用で、
この点ですこしがっかりしたのが正直なところだが、タンノイもそのことは理解していたのか、
現在のユニットは見事だと感心してしまう。

それにウェストミンスター・ロイヤル/SEは2006年登場とはいうものの、ポッと出の新製品ではなく、
その時点で24年の月日を経てきている。

オートグラフを名器と呼ぶのであれば、
ウェストミンスター・ロイヤル/SEを、名器と呼ばない理由は思い浮ばない。
にも関わらず、こういうふうに書いていっても、ウェストミンスター・ロイヤル/SEは、
私にとって名器として、いまのところ存在していない。

Date: 9月 1st, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その18)

テープデッキに詳しい方には不要な説明だが、
なぜ昔のテープデッキには録音アンプは搭載されているのに、再生アンプがなかった理由のひとつは、
録音にはバイアスを電流が必要になることがあげられる。

録音ヘッドには音声信号だけが録音アンプから流されているわけではない。
音声信号を録音ヘッドによって磁気変化に変換され、それによりテープが磁化されるわけだが、
そのままではテープ表面の磁性体がうまく磁化されないからである。

これを解決するために録音時に音声信号とは別の、
テープを磁化させるために必要な強さをもつ交流を録音ヘッドに加えている。
これがバイアス電流と呼ばれているもので、その周波数は、テープデッキによって異る。
ローコストのデッキでは50〜70kHz程度、
プロ用のデッキともなれば100kHzをこえ、高いものでは200kHzのものもある。
このバイアス電流の周波数が低ければ、たとえば20kHzあたりだと可聴帯域にはいってしまい、
音声信号と干渉するため、できるだけ高い周波数が理想的ということになるが、
録音ヘッドの性能との兼ね合いもあり、どこまで高くできるものでもない。

バイアス電流は、その周波数とともに強さも、録音性能に関係してくる。
周波数が高くて、バイアス電流が多ければ、それですむというものではない。
録音に使うテープの種類、それにオープンリールデッキではテープスピードなども考慮して最適値が決められる。

このバイアス電流が必要なため、テープデッキには録音アンプは内蔵されてきたわけだ。
そして録音には、このバイアスだけでなくイコライザーもテープによって調整することになっている。

だが、この録音時のイコライザーカーヴには、
アナログディスク再生のRIAAカーヴのような規格があるわけではない。
テープデッキのイコライザーカーヴに関しては、国際的に規格として決められているの再生時だけである。
だから、プリメインアンプ、コントロールアンプ側にテープ再生のイコライザーが搭載されていたわけだ。

Date: 9月 1st, 2011
Cate: audio wednesday

第8回公開対談のお知らせ(再掲)

今月の公開対談は、7日(水)に行います。
今回から、「幻聴日記」の町田秀夫さんとの対談になります。
対談のテーマは、「音を語る言葉・表現について」です。

このテーマに合せたわけではありませんが、facebookで公開している「オーディオ彷徨」で、
「バラエティーに富んだ音のニュアンスと形容詞を語る」を公開しましたので、よろしければお読みください。
岩崎千明・菅野沖彦・長岡鉄男、三氏による座談会です。

時間はこれまでと同じ夜7時からです。
場所もいつものとおり四谷三丁目の喫茶茶会記のスペースをお借りして行ないますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。