Archive for 6月, 2011

Date: 6月 26th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その8)

SX8000IIの始まりとなったRX5000+RY5500のころから、
マイクロのこのシリーズは、ターンテーブルとモーター間の距離はユーザーが調整していくことになっている。
音を聴いて、ベルト(RX5000、SX8000は糸)のテンションを調整していく。

SX8000IIになり専用のフローティングベースが用意されたが、ターンテーブルとモーターの位置指定はなかった。
このベルトのテンションをどの程度にするかによって、音はとうぜん変ってくる。
ステレオサウンドのリファレンスプレーヤーはSX8000IIだったから、ここの調整は試してみた。

ベルトがパンパンに張るまでにテンションをかける、
つまりターンテーブル本体とモーターユニットの距離を拡げすぎると、
ターンテーブル・プラッターはうまく回転しない。
少しずつ距離をつめてベルトのテンションを緩めていく。
どこまでも緩めていくと、テンションが足らなくなって、
ターンテーブル・プラッターが静止状態から起動しなくなる。

指で少し勢いをつけてやらないと廻らなくなるほど緩くすることは、
マイクロの設定外の使い方となるだろうが、音は緩くしていった方がよくなっていく。
すくなくともそう私の耳は感じていた。

とはいうものの、この状態では試聴では使えないし、最終的にはSX8000IIが持ち込まれたとき、
マイクロの人によるセッティングと、だいたい同じテンションになるようにしていた。

リムドライヴのEMTのプレーヤーを使っていると、モーターのトルクが大きくて、
そのトルクをしっかりターンテーブルに伝えて回転させることが、音の良さにつながっている──、
実はそう思っていた(リムドライヴに関してはいまもそう思っている)。

だからベルトドライヴもリムドライヴと同じであろう、という先入観があった。

Date: 6月 26th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その9)

Twitterを始める理由は、ここに書いている。
自発的に始めたわけではなかった。

始める前は、どこがおもしろいんだろう、とやりもせずにそんなふうに思っていたのに、
1ヵ月、2ヵ月と続けていくうちに、変っていく。

Twitterはアカウントを作られなくとも、読むだけだったらできる。
そうしている人も、けっこういると聞いている。
読むだけでも面白いけれど、やはりアカウントを作ってみなければ、と思う。

Twitterをやっていくうちに思い出したのは、黒田先生が、モーストリークラシックに書かれた最後の文章だ。

ここで書いていることのくり返しになるが、
情報と情報擬きについて、書かれた文章だ。

Twitter、ブログ、掲示板、それに企業、団体、個人のウェブサイト、
これらに表示される言葉の量は、印刷物の言葉の量を超えているかもしれない。

それでもネットから得られるものに対して、いまだ懐疑的な人がいる。
きちんとした会社や団体のウェブサイトならまだしも、
誰がやっているのかはっきりしない個人サイトやブログ、匿名の掲示板、
それにTwitterなどに書かれていることなんて……見方をしている人は、
黒田先生の「情報と情報擬き」について書かれた文章を、ぜひ一度読むべきである。
モーストリークラシックの2009年7月号に載っている。

たしかにそこ(インターネット)に溢れている言葉は、玉石混交だ。
情報擬きもずいぶんと多い。
けれど「情報」が増えてきていることも確かである。

Date: 6月 25th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その25)

LE175DLHをトゥイーターに使うとしたら、ウーファーはやはり同じJBLのD130もしくは130Aというのが、
順当な選択ということになるが、
元のモデルとなったLS5/1Aがイギリス製の、BBCモニターであるからして、ウーファーはイギリス製にしたい。

中高域にJBLのユニットをもってきている時点で、そんなことをいうのはおかしいだろう、という声もあるだろうが、
私の中でのLE175DLHの位置付けは、他の.JBLのコンプレッションドライバーとはすこし違う。
それからジャズをメインとして聴いているのであれば、JBLのウーファーを迷わず選択するが、
私が聴くのはクラシックが圧倒的に多い。

ウーファーの口径は15インチ(適当なものがなければ12インチ)で、
LS5/1A同様、1.75kHzあたりまで使うこと、それに中古であっても入手がそれほど困難でないもの、となると、
思い浮ぶウーファーはひとつしかない。
ヴァイタヴォックスのAK157だ。この古典的なウーファーは、カタログ上の周波数特性は5kHzまで、となっている。
1.75kHzあたりのクロスオーバー周波数を考えているから、AK157はこの点でもぴったりだ。

カタログには出力音圧レベルの記載はないけれど、能率は高いもののはずだ。
同社のシステムCN191、BassBin、Bitone Majorではコンプレッションドライバーとの組合せで使われている。
このことからして低能率のウーファーではないはずだ。

ウーファーが低能率でも、
中高域のコンプレッションドライバーのレベルをアッテネーターで減衰させればすむこと、
それほどウーファーの能率の高さは考慮しなくてもいい、とは私は思っていない。
できることならアッテネーターはなし、ですませたい。
無理なことが多いから仕方なくアッテネーターを挿入するわけだが、
それでも減衰量はできるだけ抑えたい、と思っているからだ。

Date: 6月 25th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その8)

2004年にmixiが登場し話題になりつつあることは、Mac関係の雑誌で知ってはいた。
やってみたらおもしろいかも……、とは思っていても、当時は完全に招待制で、
私のまわりにmixiをやっている人はいなかった。

2005年の夏だったと記憶しているが、mixiからのメールが届いた。
すでにmixiをやられている方の招待によるもの、とあった。
見知らぬ方だったが、オーディオのお好きな方からの招待だった。

最初のうちは面白そうに思えたmixiだったけど、次第に日記も書かなくなってきた。
オーディオ関係のコミュニティがいくつかあって、のぞいてみたけれど参加することはなかった。
どうもmixiの招待制というが、肌に合わなかったようで、どうしても閉鎖性を感じてしまう。
その閉鎖性が、私がmixiに求めていたものを、どこかに追いやろうとしていたからだろうか。

結局、mixiで日記を書いていくんだったら、ブログをやったほうが、少なくとも私の性にはあっている、
そう思い、2008年にmixiを退会してブログを始める。
最初は、無料のブログ・サービスを利用して始めた。
audio identity (designing) というタイトルも書いていったことも、いまここでやっていることも同じ。
試運転として数週間やってみて、自分のサイトにMovable Typeをインストールしたのが2008年の9月のことだった。

書いたものに対するコメントは、mixiの日記のころのほうが比率としては高かった。
いわゆるマイミクの方々が、なにかしらコメントをつけてくれるのに対して、
自分で始めたブログには、そういうことはない。
でもmixiでは書いていくのが億劫になっていたのに、ブログでは書き続けている。

2010年に、Twitterを始める。

Date: 6月 25th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その7)

1988年の取材で、リンのLP12を聴く機会があった。
ヨーロッパ製の、どちらかといえばコンパクトにまとめられたフローティング型プレーヤーを4機種集めての試聴で、
ステレオサウンド 90号に掲載されている(実は88号掲載予定だったが、ページがとれなくなり延びてしまった)。

試聴が終った後に、井上先生がつぶやかれた。
「LP12のベルトははずしてみな」と。
何をされるのか予測できなかった。
ベルトを外したLP12のターンテーブルの上にLPを乗せ、指で廻し始められた。
しばらく眺めたのちに「針を降ろせ」という指示が出た。

この時、スピーカーから出てきた音は、
LP12にヴァルハラを取り付けたときの音を思いださせてくれた。

再生中には手を下さないから、回転はしばらくすれば遅くなり止る。
33 1/3回転を維持しているわずかな時間しか、この良質な音は聴けない。
でも、このわずかな時間の音は、貴重だ。

すべてのプレーヤーで同じような結果が得られるわけではない。
ターンテーブル・プラッターの加工精度、ダイナミックバランスが優れていて、
軸受けの構造も優れたもので、スムーズな回転を実現しているモノでなければ、この時の音は聴けない。

この時の音を聴いて、思い出した音がある。
マイクロのSX8000IIのベルトのテンションを調整していたときの音だ。

Date: 6月 24th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その7)

五味先生の著書のエキスパンドブックづくり、
audio sharingというサイトの制作をやっていきながら、
編集という作業は、何かと何かのあいだに橋をかけることだ、と思うようになっていた。

ステレオサウンドにいたころは、そしてサウンドステージの編集をわずかの期間やっていたころは、
「編集」をこう捉えることはなかった。

編集をやってお金を稼ぐことからけっこうな年月離れてみたことによって、
それにMacが関係してきて、さらにインターネットの登場によって、
編集に対する考えに大きな変化があった。

何かと何かのあいだに橋をかけることは、
まず人と人のあいだに橋をかけることであり、これはなにも作り手側と受け手側だけにとどまらない。
受け手側(読み手側)同士のあいだにも橋をかけることがふくれまれているし、
作り手側に関しても、筆者と筆者、筆者と編集者、筆者とメーカー、輸入商社の人たち、
メーカー、輸入商社の人たちと人たち……など、いくつもの「あいだ」が存在している。

2003年から始めたメーリングリストをやっていくことで、その感を強くしていった。

少なくとも、私がステレオサウンド、サウンドステージでやってきたことを、
ほんとうに「編集」と呼んでよかったのか、と振り返ってもみた。
「編集」は、紙の本をつくる作業だけにとどまらない。

橋をかける──、といっても、ウェブサイトをつくり、メーリングリストをやっていくだけでは、
そこにまどろっこしさがあるのを感じてしまう。

Date: 6月 24th, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その6)

インターネットを始めたかった理由は、実はオーディオではなく、
自転車、とくにロードレースの情報を少しでも早く、少しでも多く知りたかったためだった。

いまでこそ自転車はブームを迎え、東京ではロードバイクを見かけない日はなくなった。
どこにいっても必ず目にするようになった。
でも1996、7年頃はスポーツ新聞でもレース結果が載ることは、
ツール・ド・フランスと世界選手権ぐらいだった。
ツール・ド・フランスもただ結果のみ、というスポーツ新聞のほうが多かった。

自転車関係の情報を得るには、自転車雑誌とインターネットしかなかったから、
最初のころは自転車関係のサイトを探しまくっていた。

始めてみるとウェブサイトを見るばかりではなく、
メールを利用したメーリングリストというサービスがあることをる。
Mac関係のメーリングリストにはいくつか登録していた。
仕事から帰ってくると、これらのメーリングリストからメールが驚くほど届いている。

この活発さに刺激されて、オーディオ関係のメーリングリストをつくれないか、と当時思っていた。
メーリングリストを始めるだけなら、既存のサービスを利用すればとくに難しいことはない。
Macのメーリングリストほど活発にはならないけれど、
そこに人が集まりいろいろな意見が交わされるようになったら、オーディオ関係のウェブサイトをつくろう、
と1999年の夏ごろまでは、そう思っていたのに、
ウェブサイト(audio sharing)の方を先につくることになってしまった。

audio sharingをつくろうと思い立ったのが1999年の暮で、2000年8月に公開した。
そして2002年暮にメーリングリストをやろうと思い、翌年に始めた。

Date: 6月 24th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その6)

ステレオサウンド 65号の新製品の紹介記事に、リンのLP12 Basik Systemが登場している。
傅さんが記事を書かれている。

LP12 Basik Systemは新型のトーンアームと、
LP12本体のグレードアップキット「ヴァルハラ」と「ニルバナ」を搭載したシステムのことだ。

ニルバナは、シリアルナンバー31825以前のLP12のサスペンションを新型にするもの、
ヴァルハラはシンクロナスモーターをより正確にスムーズに動かすための、一種の電源回路である。

ヴァルハラは正弦波をつくり出す発振器とモーターを駆動するだけの電力まで増幅するアンプ部からなるもので、
LP12以前にも、トーレンスのTD125にも同じものが搭載されていた。
当時のオーディオ雑誌では、TD125にはサーボ回路が搭載されている、という記述があったが、
TD125のターンテーブルは速度検出を行なっておらず、それをフィードバックしていたわけではない。

おそらく詳細な技術資料がなかったことと、
シンクロスモーターでありながら50Hz/60Hzの電源周波数の切換えの必要がなかったこと、
それに通常、電子回路は必要としないモーターなのに、モーターのための電子回路基板があったことなどから、
サーボがかけられている、と思われていたのだろう。

このTD125をベースにしたのがEMTの928で、928もシンクロナスモーターを電子回路によって制御している。

この技術がLP12にも搭載されたのが1982年であり、
ヴァルハラありとなしのLP12の音の差は、想像以上に大きかった。

傅さんの文章を引用してみる。
     *
結果は歴然。ローエンドへ1オクターブとはいわぬが、半オクターブは伸びて、しかも従来のLP12は認めていても、文句を言えば低域の解像力、エッジの利きがいまいちだったのがキリッと構築される。
     *
ステレオサウンド 65号は12月発売の号だったから、
「これはLP12のオーナーに朗報であり、良きクリスマスプレゼントである」と傅さんはまとめられている。

Date: 6月 24th, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その5)

ノッティンガムアナログスタジオのAnna LogとEMTの927Dstのあいだに、およそ共通点はないといえる。
このふたつで近いものをあえて挙げるならば、重量くらいだろう。
Anna Logは45kg、927Dstは41kg、とカタログ上はほぼ近い値だ。

だがそれ以外の項目となると、このふたつのアナログプレーヤーはそこかしこにはっきりとした違いがある。
Anna Logはベルトドライヴ、927Dstはリムドライブ。
ここにダイレクトドライヴを比較対象にもってくれば、ベルトドライヴもリムドライヴも、近いものとなるだろうが、
ターンテーブル・プラッターを廻すことに対する考え方は大きく違う。

モーターはどちらもシンクロナス型だが、まず大きさに差違がはっきりと現れている。
927Dstのモーターはそうとうな大型で、アイドラーを介してその強力なトルクをしっかりとターンテーブルに伝える。
さらに回転の微調整とモーターの安定化のために、
シャフト中心部にフェルトパッドによるフリクションブレーキをかけるようになっている。

Anna Logのモーターは、927Dstのモーターとは正反対の低トルクのモーターを使っている。
そのためターンテーブルを廻しはじめるにはトルクが足らず、
使い手が指でターンテーブルを廻してやらなければならない。

プロ用として開発されたEMTのプレーヤーシステムでは、絶対に考えられない方法といえる。

だからAnna Logはターンテーブル・プラッターの慣性モーメントを利用する。
Anna Logの総重量の55%はターンテーブル・プラッターが占める(25kg)
927Dstは直径42cmのアルミ製のメイン・プラッターが4.7kg、
その上にのるガラス製の直径44cmのプラッターが2.58kgで、計7.28kg。
総重量に対する割合は約17%。

Date: 6月 23rd, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その4)

スピーカーシステムの試聴とはまた少し違う意味あいで、アナログプレーヤーの試聴には、
使いこなし、調整といったことが重要になってくる。

オーディオ機器の中で、もっともプリミティヴな構成なのがアナログプレーヤーは、
ほぼすべての機構が目で捉えることができる。
そこで、試聴の対象となる、その前にあるアナログプレーヤーをどう理解し調整し、使いこなしていくのか。

それができるかできないかはオーディオに対する資質も大事だけれど、
それと同じくらいに、その人の中に、アナログプレーヤーに対する理想像が存在しているかどうか、も関係してくる。

昔ながらオーソドックスなスタイルのアナログプレーヤーにおいてもそうだが、
それ以上にCDが登場し普及した後で登場してきた、
それまでのアナログプレーヤーをつくってきたメーカーとは、ひと味ちがうものをもつ新進メーカーのものを、
正しく評価するためには、評価者に「理想像」がなければ、正しく理解することができない。
つまりこれは優れたアナログプレーヤーの良さを引き出すことができないことであるだけでなく、
能書きだけの製品に騙されてしまう、ということになっていくからだ。

ノッティンガムアナログスタジオのAnna Logは、いわゆるオーソドックスなスタイルのプレーヤーではない。
だから、ステレオサウンド 133号の紹介記事がもしほかの人(あえて名前は出さないけれど)だったら、
そこに書いてあることの大半を素直に信じることはしなかった。

133号当時(1999年暮)にステレオサウンドに執筆していた人の中で、
Anna Logの記事を書くのに、最高の適任者は井上先生である。

Date: 6月 23rd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343における52μFの存在(その19・補足 2440のこと)

JBL初の4ウェイのスピーカーシステム、
4350のミッドハイを受け持つコンプレッションドライバー2440につながるネットワークはハイパスのみだと書いた。

4350の後継機4355では2440から2441に変更され、ネットワークもハイパスもローパスもある。
一般的なネットワークと同じ仕様となっている。

2440の周波数特性のグラフを見ればわかるように、ほぼ10kHz以上急峻にレスポンスが低下する。
ほぼ垂直に音圧が減衰している。
このような特性であれば確かにローパス(ハイカット)フィルターは不要かもしれない。
ネットワークでカットするよりもずっと急峻なカーヴで減衰しているからだ。

2441はダイアフラムのエッジをダイアモンド(折紙)状にすることで、高域のレスポンスを広げている。
2440と2441の周波数特性のグラフを重ねてみると、2441の高域の延びはあきらかだが、
4〜5kHzからはなだらかにレスポンスがさがっていく。
このあたりの帯域から10kHzまでのレスポンスをくらべると2440のほうがフラットといえる。

2440と2441の相違点は、ダイアフラムのエッジのみ、であったはずだ。
なのにこれだけ高域の周波数特性において違いが生じている原因は、
2440(375もそうだが)は、エッジの共振点を9.6kHzに設定しているからである。

だから2440(375)の周波数特性は10kHzで肩を張ったようになっている。
肩を張ったような特性だから、
2441(376)よりも再生限界の10kHzまで2440(375)のほうがフラットに近い、というわけだ。

10kHzまでほほフラットで、それから上の帯域では急激にレスポンスが低下するのであれば、
ネットワークのローパスフィルターが不要になるし、なんら問題がないように思えるが、
共振を利用したものは、その共振の悪影響が音として現れる。
2440(375)ではエッジの共振周波数(9.6kHz)あたりが耳につきやすくなることは容易に想像できる。

ここが4350の鳴らし込みの難しさと面白さに大きく関係している、と思っている。
2440の周波数特性を利用してネットワークのローパスフィルターを省いた良さと、
9.6kHzのエッジの共振が耳につきやすいという悪さが同居している。

ならば2440にローパスフィルターを加えればすべて解決するかというと、そうはならない。
2405とのクロスオーバー周波数9kHzである以上、ネットワークでどうこうできる問題ではない。

ではどうしたらいいのか。
ていねいに鳴らし込んでいくしかない。

Date: 6月 23rd, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その5)

エキスパンドブックをCDに喩えはしたが、まだまだこのころのエキスパンドブック、
というよりも電子書籍はCDのフォーマットには追いついていない段階でもあった。

CDの16ビット、44.1kHzというフォーマットからすると、
このころの電子書籍は10ビット、20kHz(これらの数字はあくまでも感覚的なもの)くらいに感じていた。
それでもCDと同じように、受け手のところにデジタル化したものをデジタルのまま届けられる。

電子書籍にとってのビット数、サンプリング周波数にあたるものが向上していくには、
パソコンの処理速度の向上をまつことでもある。

五味先生のエキスパンドブックをつくった1996年にはPower Macが登場した。
CPUがそれまでの68000シリーズから、PowerPCに切り換って2年。
でも私はSE/30にメモリーをふやしてハードディスクを換装して、アクセラレーターの搭載。
さらにビデオカードも追加して、という状況だった。

このころMac関係の雑誌に急速に増えてきたのがインターネット関連の記事だった。
それまでぽつぽつと掲載されていて、インターネット関連の記事は気になっていたし、目は通していた。

インターネットに必要なソフトウェアのウェブブラウザーにいくつかあって、
Mosaicというブラウザーが登場して、はじめてそれまでの他のブラウザーがテキストのみ表示から、
画像表示も可能になった、という記事は、わりとよく憶えている。

そうか、Mosaicというブラウザーを使うんだな、というふうに思っていた。
ブラウザーの変遷に詳しい方には不要だが、このMosaicがNetscape Navigatorになり、
Mosaicのコードを元にマイクロソフトのInternet Explorerが開発されていく。

私がインターネットを始めた1997年にもMosaicはNetscapeになっていたため、
Mosaicを使うことはなかった。

Date: 6月 22nd, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その3)

Anna Logは、ステレオサウンド 133号の新製品紹介の記事に登場している。
カラーページでの写真は、それを見た者の、なにかインスピレーションをかきたてるものがあった。

これ以前に登場してきた数々のアナログプレーヤーの中にも、変り種といいたくなる製品は少なからずあった。
Anna Logも、変り種のひとつということになる。
でも、変り種ではあっても、ただ変り種だけのプレーヤーとは違う、という雰囲気がある。

ノッティンガムアナログスタジオのプレーヤーが評判なのは知っていたけれども、
特に強い関心をもつことは、実のところなかった。
いいプレーヤーなんだろうけど……、というところが私にあったのは、
見た目に負うところが大きかった。
石臼のような黒いターンテーブルプラッターに、それに対して薄い、これまた黒いベース。
この組合せに、使ってみたい、という印象を抱けなかった。

アナログプレーヤーは、アンプやCDプレーヤー以上に、
まずは、こちらに使ってみたいという気にさせてほしいと思っているオーディオ機器と思っているだけに、
ノッティンガムアナログスタジオのプレーヤーは関心の外にあった。

Anna Logは、使ってみたい、と強く思わせてくれる。
写真をまず一目見て、そう感じ、細部を見直していけばいくほど、「使ってみたい!」と思ってくる。

しかもAnna Logについて書かれているのが、井上先生だったことが、またよかった。

Date: 6月 22nd, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その4)

サウンドステージでの仕事は正味一年足らずだった。
そのあいだにMacがClassic IIからQuadra950になってもキーボードは親指シフトのままだった。
まだPowerMacが出る直前のことだから、Quadra950が最も速いMacだったが、
それでも縦書きの文章中に出てくる二桁の数字や単位、たとえば18dBとかだが、
これらは時計方向に90度横向きになって、当時DTPソフトとして使っていたQuarkXPressでは表示される。
これを縦方向にすると一箇所直すたびに全画面を再描画する。
見開きにいくつもこれらがあると、その処理だけでもけっこうな時間がかかっていた。

たいへんなこともあったが、オーディオ関係の雑誌ではサウンドステージが、DTPの導入は最も早かったはずだ。

サウンドステージの仕事をやめて、自分で購入したMacは、中古のSE/30。
これを使っているとき、Expand Book Tool Kitという、電子書籍をつくるソフトが登場した。
このソフトがヴァージョンIIになったとき、五味先生の著書のエキスパンドブック化を、
仕事の後、毎晩こつこつ作業していた。1995年ごろのことだ。

この作業も、時間がかかった。
SE/30は、Expand Book Tool Kit IIの推奨環境を満たしていなかった。
だからどうにか動いてくれる、という感じでも、縦書きができルビもふれるし、カーニング(字詰め)も可能だった。
翌96年には、五味先生の著書「五味オーディオ教室」「オーディオ巡礼」「西方の音」「天の聲」の四冊を、
エキスパンドブックにし終えた。
五味先生の「五味オーディオ教室」を読んで20年が経っていた。

サウンドステージでのDTP、そして個人的につくったエキスパンドブック、
このふたつの作業をやって感じていたのは、
デジタル録音したものをアナログディスク(LP)にするのか、CDにするのか、に似た差違があるということだった。

Date: 6月 21st, 2011
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(編集について・その3)

私がステレオサウンドにいたあいだに、MacのSEが編集作業に使われることはなかった。
そのとき、Macで本をつくれるようになるなんて、夢想だにしなかった。

小さな録音スタジオでミキサーをやっていた友人から、
Macを買いなよ、と会うたびにいわれるようになってきたのは、1990年のおわりから91年にかけてのことだったか。

面白いぞ、楽しいぞ、と言われても、親指シフトキーボードは使えないんだろう、と返していた。
ある日、友人が一冊のムックの、あるページを開いて手渡した。
それのムックは、アスキーが発行していたMacPowerの1年間の総集編といえる内容で、
その年に出たハードウェア、ソフトウェアの新製品の記事をメインにまとめなおしたものだった。
そこに、Macで使える親指シフトキーボードの記事があった。
当時アスキーが発売していたキーボードだった。

親指シフト入力が可能なんだ、とわかっても、Macは高価だった。
すぐに購入できるものではなかった。
それでもMac関係の雑誌は買っていた。
MacPowerはその一冊であり、このMacPowerを買っていたおかげで、川崎先生の存在を知ることができた。

DTP(Desktop Publishing)ができることもわかってくる。
それからしばらくして、サウンドステージ(創刊当時はListen View)の編集に加わらないか、という話がきた。
そこで、MacによるDTPによる本づくりをやってみたら、と話したことから、
私のところにMacがきた。
Classic IIだった。モノクロ9インチのディスプレイの一体型のMac。
CPUは68030の16MHzで、メモリーは4M、ハードディスクは40MBだったと記憶している。
OSは漢字Talk6だった。漢字Talk7は遅れていた。
1992年のいまごろの季節だった、と思う、
借り物ではあったが、専用のMacでとうぜん親指シフトキーボードがつけてもらった。