Archive for 5月, 2011

Date: 5月 10th, 2011
Cate: 「本」

オーディオの「本」(その9)

CDプレーヤーなりアンプなり、スピーカーシステムを買おうとした思い立ったら、
最初から、これしかない、と、ひとつの機種に絞っている人もいれば、
予算内でいくつかの機種を候補として、ひとつずつ落していき、ふたつの残った、どちらにするか迷う人もいる。

選択の楽しみ、面白さがあるから、たとえばステレオサウンドでも、ライバル対決という企画を行ってきた。
58号では、トーレンス・リファレンス:EMT・927Dst、スペンドール・BCII:ハーベス・Monitor HL、
パイオニア・Exclusive P3:マイクロ・RX5000+RY5500、
ソニー:APM8:パイオニア・S-F1などが取り上げられて入る。

どの機種とどの機種を対比させるのか、そして筆者を誰にするのかによって、
この企画のもつ面白さは、大きく変ってくる。
だから興味深く読めるものもあれば、さほど興味をもてないもの、せっかくの対決なのに……と感じるもの、
というふうにバラついてくる。

このライバル機種の対比は、基本的には面白くなる企画である。
ただ、いまやるならば、昔と同じではなく、さらにもう一歩踏み込んでほしい、と思う。
具体的には、こうすればいいのに、と思っていることはある。
そうしてくれれば、この対比の企画はおもしくなる。

「対比」ということでは、いま作業している瀬川先生の「本」に関しても、
瀬川先生と、たとえば菅野先生との対比で書いていくことを最初は考えていた。
瀬川冬樹:菅野沖彦、瀬川冬樹:岩崎千明、瀬川冬樹:黒田恭一、といったふうに、である。

これも、さらに一歩踏み込んでみると、
瀬川冬樹:菅野沖彦:岩崎千明、という三角形が描けることに気がつく。

瀬川冬樹:菅野沖彦との対比、菅野沖彦:岩崎千明の対比、岩崎千明:瀬川冬樹の対比を、
ひとつの三角形にしていけば、さらにおもしろくなると思う。
しかも瀬川先生を頂点のひとつとする三角形は、他にも描ける。

この三角形は、以前のステレオサウンドならば、いくつも描けた、と思う。
瀬川先生を頂点のひとつとする三角形だけでなく、菅野先生を頂点のひとつとした三角形、
岩崎先生を、山中先生を、岡先生を……というふうに描けていく。

いまはどうだろうか。
オーディオ雑誌に書いている筆者の数は、以前よりも増えているように感じている。
人の数が増えていれば、描ける三角形の数も、その三角形の性質の多様性も増えていくはずなのに……、と思う。

いま三角形は描けなくなった、と私は思っている。

Date: 5月 9th, 2011
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その18)

ステレオサウンド 52号に「ミンミン蝉のなき声が……」という、
黒田先生の文章が載っている。
43号から題名が「さらに聴きとるものとの対話」と変った連載の10回目のものだ。

「この夏、ミンミン蝉のなくのをおききになりました?──と、おたずねすることから、今回ははじめることにしよう。」

いつもの書出しとは、すこしニュアンスの異る、こんな書出しで、「ミンミン蝉のなき声が……」ははじまっている。
(全文は、今月29日に公開予定の「聴こえるものの彼方へ」の増強版・電子本でお読みいただきたい。)

51号の「さようなら、愛の家よ……」で、それまで住まわれていた部屋をとりこわすことを書かれている。
「ミンミン蝉のなき声が……」は、そのつづきでもある。

とりこわし、建替えのあいだに一時的に仮住まいに引越しされている。
かなりの量のレコードや本すべて仮住まいとなるところへは置ききれないため、
建替えの間あずかってくれる方たちのところへ荷物はこびを、5回もされたうえに、
仮住まいへの最後の引越し、その数日後の、札幌での仕事。

札幌からもどられて、
「一刻もはやく、のんびりと、いい音楽をききたかった。そのために、たいして手間がかかるわけではなかった。レコードを選んで、ターンテーブルの上におけば、それでいいはずだった。しなければならないのは、それだけだった。でも,それができなかった。レコードをえらぶのが億劫だった。
 いや、億劫だったのは、レコードをえらぶことではなく、もしかすると音楽をきくことだったのかもしれなかった」
ことに気づかれ、「愕然とした」と書かれている。

仮住まいの引越し先で、最初にされたのは、オーディオ機器の接続で、
ただその日はためしにレコードをかけられている。
次の日には、仕事で聴かなければならないレコードの音楽に、没入できた、と書かれている。

オーディオ機器は「再生装置」としか書かれていない。
このとき以前の部屋で鳴らされていたスピーカーシステムのJBLの4343、
パワーアンプのスレッショルドの4000、
コントロールアンプのソニーのTA-E88を運び込まれたのか、
それとも仮住まいとなれば、スペース的には限りがあって、
本やレコードを知人の方たちのところにあずかってもらっている状況だから、
もっと小型のスピーカーシステムやアンプだったのかもしれない。

このときのことをこうも書かれている。
「あきらかに、頭の半分では、音楽をききたがっていて、もう一方の半分では、音楽をきくことを億劫がっていた。そういう経験がこれまでなかった。それで自分でもびっくりした。」

3日後に、やっとモーツァルトのヴァイオリン・ソナタをきかれている。
シェリングとヘブラーによるK.296だ。
「ミンミン蝉のなき声が……」は、1979年の夏の経験から、
「音楽をきくことの微妙さ、むずかしさ、きわどさ」について書かれている。

「四股を踏まないでもきける音楽と思えた」モーツァルトのヴァイオリン・ソナタK.296を、
黒田先生は、そのときの「自分のコンディションを思いはかりつつ、これならいいだろう」と、
無意識のうちにえらばれて、ターンテーブルの上におかれた。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12の補足)

ステレオサウンド 51号に「♯4343研究」の第一回が載っている。
サブタイトルには、ファインチューニングの文字があり、
JBLのプロフェッショナル・ディヴィジョンのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンをまねいて、
ステレオサウンドの試聴室で、実際に4343のセッティング、チューニングを行ってもらうという企画だ。

いまステレオサウンドでは、過去の記事を寄せ集めたムックを頻繁に出しているが、
こういう記事こそ、ぜひとも収録してほしいと思う。

この記事の中で、スピーカーのセッティングは、
ふたつのスピーカーを結ぶ距離を底辺とする正三角形の頂点が最適のリスニングポイント、となっている。
ステレオ再生の基本である正三角形の、スピーカーと聴き手の位置関係は、大事な基本である。

マルゴリスは、正三角形の基本が守られていれば、
スピーカーのバッフルを聴き手に正面を向くようにする必要はないと語っている。
その理由として、水平方向に関しては60度の指向特性が保証されているから、ということだ。

さらにスピーカーシステムにおいて、指向特性が広帯域にわたって均一になっていることが重要なポイントであり、4343、つまり4ウェイの構成のスピーカーシステムを開発した大きな理由にもなっている、として、
他では見たことのないグラフを提示している。

そのグラフは、水平方向のレスポンスが6dB低下する角度範囲を示したもので、
横軸は周波数、縦軸は水平方向の角度になっている。

十分に低い周波数では指向特性はほとんど劣化していない。周波数が上っていくのにつれて、
角度範囲が狭まっていく。
グラフはゆるやかな右肩下りを描く。

グラフ上には、4ウェイの4343、3ウェイの4333、2ウェイの4331の特性が表示されていて、
ミッドバスユニットのない4331と4333では500Hzを中心とした帯域で指向特性が劣化しているのがわかる。
4331ではこの帯域のほかに、トゥイーターの2405がないためさらに狭まっていく。
4343がいちばんなだらかな特性を示している。

ただしこれはあくまでも水平方向の指向特性であり、垂直方向がどういうカーヴを描くのかは示されていない。

マルゴリスは、指向特性が均一でない場合には、直接音と間接音の比率が帯域によってアンバランスになり、
たとえばヴォーカルにおいて、人の口が極端に大きく感じられる現状として現れることもある、としている。

別項でもふれているように、4ウェイ構成は、なにも音圧だけの周波数特性や低歪を実現するためだけでなく、
水平方向の指向特性を均一化のための手法でもあり、
私は、瀬川先生は指向特性をより重視されていたからこそ、4ウェイ(4341、4343)を選択され、
さらにKEFのLS5/1Aを選択された、と捉えている。

だから瀬川先生のリスニングルームに、4341とLS5/1Aが並んでいる風景は、
瀬川先生が何を求められていたのかを象徴している、といえる。

Date: 5月 8th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その17)

LS5/1では、なぜトゥイーターを直接フロントバッフルに取りつけなかったのか、
その理由はHF1300を2本使っていることと関係している。
つまりできるかぎり2つのHF1300を接近させて配置するため、である。

HF1300をそのままとりつけると、当然取付用のためのフレーム(フランジ)の径の分だけ、
HF1300の振動板の距離はひらくため、これをさけるためにLS5/1では、HF1300のフランジを取りさっている。
だから、そのままではバッフルには取りつけられない。

以前のJBLのトゥイーターの075、2405も初期の製品ではフランジがなかった。
そのため4350の初期のモデル(ウーファー白いタイプの2230)では、2405のまわりに、
いわゆる馬蹄型の金属の取付金具が目につく。

4350のすぐあとに発表された4341では、075にも2405にもフランジがつくようになっており、
バッフルにそのままとりつけられている。
4350もウーファーが2231に変更された4350Aからは、2405のまわりに馬蹄型の金具はない。

LS5/1の、トゥイーター部分の鉄板は、このフランジがわりでもある。
おそらくHF1300からの漏れ磁束を利用して鉄板を吸い付けていると思われる。
もちろんこれだけでは強度が不足するので、コの字の両端をすこし直角に曲げ加工した金属を使って、
HF1300を裏から保持している。

つまりLS5/1のトゥイーターは、2本のHF1300をひとつのトゥイーターとして見做している、といえる面がある。
しかもそれは現実には1つのユニットでは実現不可能な、振動板の面積的には、この部分は2ウェイいえる。
ウーファーとのクロスオーバー周波数の1.75kHzから3kHzまではふたつのHF1300は、同条件で鳴り、
振動板の面積は2倍だが、3lHz以上では上側のHF1300はロールオフしていくから、
振動板の面積的には疑似的に下側のHF1300の振動板の面積にしだいに近づいていく。

LS5/1全体としては、振動板の面積でとらえれば3ウェイという見方もできなくはない。

Date: 5月 7th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その16)

LS5/1はHF1300を、縦方向に2本配置している。
ウーファーとのクロスオーバー周波数は1.75kHzで、3kHzからは上の帯域になると、
トゥイーター同士の干渉を減らすためだろう、上側のHF1300はロールオフさせている。
そして、トータルの周波数特性は付属する専用アンプで補整する。

2つのHF1300はフロントバッフルに直接取りつけられているわけでなく、
四角の鉄板に取りつけられたうえで、バッフルに装着されている。
しかも2つのHF1300はぎりぎりまで近づけられている。

おそらく、これは高域に行くにしたがって、音源がバラバラになることをふせぐためで、
上側のHF1300のロールオフと作用もあってか、実際にLS5/1の音像定位は見事なものがある。

ここも、トゥイーター選びのネックとなる。
いまどきのドーム型トゥイーターをみればわかるがフレーム部分の径が大きすぎる。
LS5/8に搭載されているオーダックスのトゥイーター、
振動板の口径は25mmだが、トゥイーターとしての口径は100mmほどある。
これではぎりぎり近づけて配置したところで、2つのトゥイーターの振動板間が開きすぎてしまう。

こうなってしまうと、LS5/1的なトゥイーターの使い方ではなく、
一般的な、1本だけの使用のほうがいい結果が得られるだろう。

LS5/1的にするためには、トゥイーターのフレーム径が小さくなくてはならない。
しかもカットオフ周波数が1.75kHz付近から使えるものでなくてはならない。

Date: 5月 7th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その15)

本格的に構想を練る前に、ぼんやりと、いまLS5/1を作るとしたら、
トゥイーターには何を選ぼうか、と思っていた時期がある。

LS5/1に採用されていたセレッション製のHF1300はもう入手できない。
いくら妄想組合せ、とはいっていても、いざつくろうとしたときに、
たとえそれが中古であろうと、ある程度入手が可能なものでなければ、完全な妄想で終ってしまう。

できれば新品で入手できるもの、でもそのなかにぴったりのものがなければ、
比較的程度のいいものが入手しやすいユニットでもいい、
それらの中で、HF1300に近いものはないかと探してみた。

LS5/8に採用されたフランス・オーダックスのトゥイーターも考えた。
でも、同じトゥイーターは入手できなくなっている。
仮に入手できたとしても、そのまま使うのは、なんとなくおもしろくない。

私がオーディオに関心をもちはじめた1970年代は、スピーカーの自作もひとつのブームだったようで、
スピーカー自作に関する記事も、そのための本も、いくつも出ていた。
スピーカーユニットを単売しているメーカーも多かった。

トゥイーターだけに関しても、国内メーカーでは、アイデン、コーラル、クライスラー、ダイヤトーン、
フォステクス、ゴトーユニット、Lo-D、マクソニック、日本技研、オンケン、オンキョー、オプトニカ、
オットー、パイオニア、スタックス、テクニクス、ヤマハ、YLがあり、
海外メーカーでは、アルテック、セレッション、デッカ、エレクトロボイス、グッドマン、イソフォン、JBL、
KEF、フィリップス、ピラミッド、リチャードアレンなどが輸入されていた。

80年代にはいり、少しずつ、その数は減っていき、いまはまた、ここにあげたメーカーとは違う、
海外のスピーカーユニットが、インターネットの普及とともに入手できるようになってきたものの、
HF1300の代替品となると、どれも帯に短し襷に長しという感じで、これだ、と思えるものが見つからない。

Date: 5月 6th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その14)

現在のコーン型スピーカーを発明したのは、ゼネラル・エレクトリック社の技術者だった
チェスター・ライスとエドワード・ケロッグで、
1925年に発表したものがその原型というふうに説明されることが多いが、
実はこれより50年ほど前にすでに発明されている。

しかもアメリカとドイツで、ほぼ同時期に特許が申請されている。
けれど、ドイツ・シーメンスの技術者エルンスト・ヴェルマーが申請したのは、1877年の12月。
まだトランジスターはおろか真空管も登場していなかった時代ゆえに、当然アンプなどいうものはなく、
原理的には音が出るはずだということでも、実際に鳴らすことはできずに終っている。

19世紀の後半に逸早く、ピストニックモーションによるスピーカーを発明しているシーメンスが、
ピストニックモーションに頼らないリッフェル型スピーカーを、これまた逸早く生み出し、
その流れを汲むAMT型を、やはりドイツ人のハイル博士が生み出し、
さらにマンガー、ジャーマン・フィジックスからも、ベンディングウェーブのスピーカーが登場していることは、
ドイツという国柄と併せて、興味深いことだと思っている。

実をいうと、LS5/1を、「いま」作ってみたいと思いはじめたときに、
トゥイーターとしてまっ先に頭に浮んだのが、このAMT型である。

Date: 5月 6th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その13)

AmazonのA.M.T. Oneの、その型番が示しているように、
Air Motion Transformer型のトゥイーターを搭載している。

AMT型トゥイーターは、ハイルドライバー型を原形とするもので、
ドーム型、コーン型、コンプレッションドライバーなどが、振動板を前後方向にピストニックモーションさせて、
音の疎密波をつくりだしているのに対して、AMT(ハイルドライバー)型は、
振動板(というよりも膜)をプリーツ状にして、この振動膜を伸び縮みさせることで、
プリーツとプリーツの間の空気を押しだしたり、吸い込んだりして疎密波を生む。

これも、ジャーマン・フィジックスのDDDユニット、マンガーのMSTユニットと同じように、
ベンディングウェーブ方式の発音方式であり、
この動作方式は古くはシーメンスのリッフェル型から実用化されている(日本への紹介は1925年)。

つまりシーメンスも、ジャーマン・フィジックスも、マンガーもドイツである。
ハイルドライバーはアメリカで生まれているが、開発者のオスカー・ハイルはドイツ人である。

ハイルドライバーはアメリカのESS社のスピーカーシステムに搭載されて、1970年代に世に登場した。
のちにスレッショルドを興したネルソン・パス、ルネ・ベズネがいた時代である。

ESSからはずいぶん大型のハイルドライバーまで開発され、
同社の1980年代のフラッグシップモデルTRANSAR IIでは90Hzと、かなり低い帯域まで受け持っている。

オスカー・ハイル博士は、ドイツにいたころ、このAMT方式を考え出したものの、
当時の西ドイツでは製品化してくれるところがなく、アメリカにわたってきている。
ESSはハイル博士の、その情熱に十分すぎるほど応えているといえたものの、
日本ではそれほど話題にならず、ほとんど見かけることはなくなっていった。

そのハイルドライバーがAMTと呼ばれるようになり、ドイツでは、いまや定着したといえるほどになっている。
ELACのCL310に搭載された JETトゥイーターもそうだし、
ムンドルフ、ETONといったドイツのメーカーからも単体のAMTユニットが登場している。
ドイツではないが、スペインのメーカー、beymaもAMT型トゥイーターを出している。
これら以外にも、もうすこしいくつかの会社がAMT型のユニットを作っている。

Date: 5月 5th, 2011
Cate: KEF, LS5/1A

妄想組合せの楽しみ(自作スピーカー篇・その12)

ウーファーの開口部を四角にすることのデメリットはある。
そのデメリットをさけて、さらに指向特性もよくしていこうとすれば、
必然的に2ウェイから3ウェイ、さらに4ウェイへとなっていく。

ここに、瀬川先生が、4ウェイ構成をとられてきたことの大きな理由がある、私は考えている。

もちろん4ウェイにも、メリット・デメリットがあり、指向特性に関してもメリット・デメリットがある。
それぞれのスピーカーユニットに指向特性のいいユニットを採用して、
さらに指向特性が良好な帯域だけを使用したとしても、それで指向特性に関してはすべてが解決するわけではない。

指向特性には水平方向と垂直方向があり、
4ウェイにおいて4つのスピーカーユニットをバッフルにどう配置するかによって、
水平・垂直両方向を均等に保つことは、ほぼ不可能なことだ。

4341、4350、4343、4345などで4ウェイ路線をすすめてきたJBLも、
1981年に2ウェイ構成のスタジオモニター4430、4435を発表している。
ホーンの解析がすすみ、バイラジアルホーンの開発があったからこその、
4300シリーズの4ウェイ・モニターに対する2ウェイの4400シリーズともいえる。

ただ、この項では、2ウェイなのか、4ウェイなのかについては、これ以上書かない。
この項では、独自のLS5/1を作ってみたい、ということから始まっているので、
あくまでも2ウェイのスピーカーシステムとして、どう作っていくかについて書いていく。

ウーファーの開口部は、LS5/1と同じように四角にする。
これはLS5/1と同じように、38cm口径のウーファーに1kHz以上までうけもたせるからである。

BBCモニターも、LS5/8、PM510の初期モデルでは採用していたが、途中からやめている。
そんなぐあいだから、現在市販されているスピーカーシステムで、
この手法を採用しているものはないと思っていたら、意外には、ひとつ見つけることができた。

ドイツのAmazonのA.M.T. Oneという2ウェイのスピーカーシステムだ。

Date: 5月 4th, 2011
Cate: audio wednesday

第4回公開対談のお知らせ

毎月第1水曜日に、イルンゴ・オーディオの楠本さんと行っています公開対談は、
ゴールデンウィークと重なり、できれば翌週にしてほしい、と要望がありましたので、
今月だけ、来週水曜日、11日に行います。

場所は、四谷三丁目にある喫茶茶会記です。
これまでと同じようにスペースをお借りして行うため、1000円、喫茶茶会記に支払いいただくことになります。
ワンドリンク付きです。

今回は、阿佐谷にある「ギャラリー白線」のユニークな折り曲げ式平面バッフル・スピーカーが用意されています。

Date: 5月 4th, 2011
Cate: ステレオサウンド特集

「いい音を身近に」(その17)

黒田先生の文章の中で、見落してほしくないのは、次の一節だ。
     *
シンガーズ・アンリミテッドの声は、パット・ウィリアムス編曲・指揮によるビッグ・バンドのひびきと、よくとけあっていた。「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」は、アップ・テンポで、軽快に演奏されていた。しかし、そのレコードできける音楽がどのようなものかは、すでに、普段つかっている、より大型の装置できいていたので、しっていた。にもかかわらず、これがとても不思議だったのだが、JBL4343できいたときには、あのようにきこえたものが、ここではこうきこえるといったような、つまり両者を比較してどうのこうのいうような気持になれなかった。だからといって、あれはあれ、これはこれとわりきっていたわけでもなかった。どうやらぼくは、あきらかに別の体験をしていると、最初から思いこんでいたようだった。
     *
「両者を比較してどうのこうのいうような気持になれなかった」とある。
ここが、「いい音を身近に」の「身近」であるということが、
どういうことなのかをはっきりとさせていってくれる、と私は感じた。

オーディオマニアの性として、どうしてもなにかと比較してしまう。
たとえばアンプを交換したら、やはり前のアンプとの音の差が気になるし、
いま使っているアンプ・メーカーから改良モデルが出たら、やっぱり気になる。
友人宅、知人宅で、愛聴盤を聴かせたりすると、
表には出さなくとも、頭の中でつい自分のところで鳴っている音と比較しているし、
帰宅後に、やはり自分の装置で、もういちど、その愛聴盤を聴いてみたりする経験はおありだろう。

製品とは関係のないところでも、システムを調整していくことは、いままで鳴っていた音との比較で、
ひとつひとつステップをあがっていくことでもある。

さらには自分の裡で思い描いている音(鳴り響いている音)と、現実に鳴っている音との比較があり、
どんなにオーディオ機器間の比較ということから解放された人ですら、これからは逃れられないはず。

なのに、黒田先生は、テクニクスのコンサイス・コンポを、ビクターの小型スピーカーと、
B&OのBeogram4000との組合せを、キャスターのついた白い台の上にのせた一式に対しては、
比較ということから──それは一時的なことだったか永続的なことだったのかわからないが──、
とにもかくにも忘れることができた、ということだ。

それは解放という言葉であらわされるものだったのか、無縁という言葉であらわされるものだったのかは、
考えていく必要はあるものの、
少なくとも「比較してどうのこうのいうような気持」がなかったことはたしかだし、大事なことだ。

Date: 5月 3rd, 2011
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(資本主義においてこそ)

「持ちつ持たれつ」は、こういう資本主義(むしろ、悪い意味での商業主義)の世の中においては、
もたれ合い的な意味あいで、ネガティヴな印象のほうが強くなっている気もする。

オーディオ雑誌も、資本主義の中で出版されている。
クライアント(国内メーカー、輸入商社)が広告を出稿することで、
いまの雑誌出版というシステムは成り立っているわけで、
それはなにも広告に関してだけでなく、取材のために製品を調達するのにも、
クライアントの存在は不可欠である。

すべてのオーディオ機器を購入して取材すべきだ、ということを言う人がいる。
けれど実際にそんなことをやっていたら、どうなるか。
すこし頭を働かせればわかることである。

購入するにも資金は要る。購入した器材を保管するスペースも要る。
それに購入した器材は資産と見なされるし、調整・修理などの維持に手間がかかる。

だからクライアントから製品を借りることになる。
広告も出してもらっている。

そこで、いわゆる「制約」が生じる。
この制約を一切無視して、文章を書いている人は、いない。
書き手だけでなく、編集者も、その制約の中にいる。

「持ちつ持たれつ」である。
この「持ちつ持たれつ」こそ諸悪の根源だと見なす人がいる。
はたしてそうだろうか。

「持ちつ持たれつ」は、いわば人間関係である。
この関係を無視して、文章を書く人が仮にいたとして、
そんな人の書いたものを読みたいとは思わない。

それに制約があるからこそ、主張が生れてくる、とも思っている。
もちろん制約の中には、取り除かなければならない制約がある。
それらのすべての制約は取り除けるのか、取り除いていいものだろうか。

オーディオは、つくづく「人」だと思うようになった。
持ちつ持たれつが生みだしていくものは、きっとある。

悪しきもたれ合いは、たしかにいらない。
悪しきもたれ合いは、批判的な表現を隠していこうとする。
クライアントに対して、その取扱い製品に対して、批判的なことは表に出せない。
それもわからぬわけではないが、そのことがすでに行き過ぎてしまっているために、
賞讃の表現のもつ輝き・力をも、同時に殺してしまっている。

このことになぜ気がつかないのか。
言葉も「持ちつ持たれつ」という関係の中で生きてきて、輝きをもつものだということを。

Date: 5月 3rd, 2011
Cate: 黒田恭一

黒田恭一氏のこと(「聴こえるものの彼方へ」のこと)

今月の29日に公開できるように、いま黒田先生の文章の入力にとりかかっている。
すでにaudio sharingで公開している「聴こえるものの彼方へ」をEPUBにするのだが、
そのままEPUBにするよりも、未収録の文章もできるかぎり載せたい、と思い立ったからだ。

「聴こえるものの彼方へ」は、
ステレオサウンドに連載されていた「ぼくは聴餓鬼道に落ちたい」が基本になっている。
「ぼくは聴餓鬼道に落ちたい」はいったん42号で終了し、
43号から「さらに聴きとるものとの対話を」と題名が変り、始まっている。

「聴こえるものの彼方へ」には、「さらに聴きとるものとの対話を」は収められていない。

いま入力しながら、読み返していると、あらためて、
これらの黒田先生の文章を最初に読んだときの気持を思い返すことができることに気づく。
もちろん、ほぼ30年以上前に、どう感じていたかをすべて思い出しているわけではないが、
あのとき、黒田先生の文章から、なにを大事なものとして読んでいたのかは、そのまま思い出せる。

黒田先生は、「オーディオはぼくにとって趣味じゃない。命を賭けている」と言われたことがある。
1988年、ゴールデンウィーク明けの、黒田先生のリスニングルームにおいて、はっきり聞いた。

これがどういうことなのかも、「さらに聴きとるものとの対話を」のなかに書かれていたことに、
いま気づき、音楽を「きく」ということとは
(黒田先生は、聴く、とも、聞く、とも書かれずに、つねに「きく」とされていた)、
いったいどういうことなのか──、
あのときとなにが変ってきて、なにが変ってきていないのかを含めて、
ひとりでも多くの人に読んでもらいたいと思っている。

Date: 5月 2nd, 2011
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その14)

瀬川先生は、よく「オーディオパーツ」という表現を使われていた。
アンプやスピーカーシステム、カートリッジなどをひっくるめて、オーディオ機器、とはいわずに、
オーディオパーツといわれていた。

アンプにしろ、スピーカーシステムにしろ、なにがしかのオーディオ機器を買ってくるという行為は、
完成品を買ってきた、とつい思ってしまう。
でも、いうまでもなく、アンプだけでは音は鳴らない。スピーカーシステムだけでも同じこと。
以前ならカートリッジ、プレーヤーシステム、アンプ、スピーカーシステムが、
いまならばCDプレーヤー、アンプ、スピーカーシステムが最低限、音を出すためには必要となる。

つまりCDプレーヤー、アンプ、スピーカーシステムが揃った状態、
つまり音を出すシステムそのものが、実のところ「完成品」であって、
それ単体では音を出すことはできないだけに、アンプも、スピーカーシステムも、CDプレーヤーも、
システムを構築するためのパーツであると考えるならば、オーディオパーツという表現には、
瀬川先生のオーディオに対する考え方が現われている、ともいえるはず。

市販されているアンプやスピーカーシステムを、パーツということに抵抗を感じる方はおられよう。
パーツとは、アンプなりスピーカーを自作するときの構成要素のことであって、
アンプの場合では、トランジスター、真空管、コンデンサー、抵抗、コイル、トランスなどがパーツであって、
アンプそのものはパーツではない、という考え方ははたして正しいのだろうか。

アンプを自作する人がいる。どんなに徹底的に自作するひとでも、トランジスターや真空管は作れない。
コイルはつくれても、コンデンサー、抵抗を作ることも、意外と大変だ。
トランジスターアンプの出力段のパワートランジスターのエミッター抵抗は0.47Ωとか0.22Ωなので、
凝り性の人は自分で巻く人もいるかもしれないが、高抵抗値のものを作っている人はいないと思う。
ここまでやられる人でも、銅線から自分で作る、というわけにはいかない。

つまり市販されているトランジスター、真空管、コンデンサー、抵抗なども、パーツであるとともに、
完成品ともいえるわけだ。
アンプの自作においても、これらの完成品のパーツを買ってきて、それを適切に組み合わせて(設計)して、
組み上げて(作り上げて)いるわけだ。

CDプレーヤー、アンプ、スピーカーシステムを組み合わせてシステムを構築するのと同じことであって、
このふたつの違いは、その細かさ、つまりの量の違いでしかない。

Date: 5月 1st, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々K+Hのこと)

K+HのOL10は当時160万円(ペア)、O92は150万円(ペア)で、
ほとんど価格差はない、といっていい。
どちらも3ウェイのマルチアンプドライブで、
内蔵パワーアンプの型番はO92用がVF92、OL10用がVF10と異っているものの、
ステレオサウンドに掲載されている写真を見るかぎりは、同じもののような気がする。

ユニット構成は、というと、ウーファーは25cm口径のメタルコーンのウーファーを2発、
10cm口径の、やはりメタルコーン型をスコーカーに採用しているのはOL10、O92に共通で、
トゥイーターのみ、O92はドーム型、 OL10はホーン型となっている。

大きな違いはエンクロージュアにある。正面からみれば、どちらも密閉型のようだが、
O92はアクースティック・レゾネーター型と称したもので、
エンクロージュアの裏板を薄く振動しやすいようにしてあり、
中央に錘りをつけてモードをコントロールしてある。

ここが、O92とOL10の音の違いに、もっとも深く関係しているように、
瀬川先生の試聴記を読みなおすと、そう思えてくる。

O92の試聴記には、こうある。
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ただ曲に酔っては、中低域がいくぶんふくらんで、音をダブつかせる傾向がほんのわずかにある。とくに案・バートンの声がいくぶん老け気味に聴こえたり、クラリネットの低音が少々ふくらみすぎる傾向もあった。しかし総体にはたいへん信頼できる正確な音を再現するモニタースピーカーだと感じられた。
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完全密閉型のOL10に対しては、
O92に感じられた2〜3の不満がすっかり払拭されている、と書かれている。

O500CはO92の後継機だが、アクースティック・レゾネーター型ではない、バスレフ型だ。