オーディオの「本」(その9)
CDプレーヤーなりアンプなり、スピーカーシステムを買おうとした思い立ったら、
最初から、これしかない、と、ひとつの機種に絞っている人もいれば、
予算内でいくつかの機種を候補として、ひとつずつ落していき、ふたつの残った、どちらにするか迷う人もいる。
選択の楽しみ、面白さがあるから、たとえばステレオサウンドでも、ライバル対決という企画を行ってきた。
58号では、トーレンス・リファレンス:EMT・927Dst、スペンドール・BCII:ハーベス・Monitor HL、
パイオニア・Exclusive P3:マイクロ・RX5000+RY5500、
ソニー:APM8:パイオニア・S-F1などが取り上げられて入る。
どの機種とどの機種を対比させるのか、そして筆者を誰にするのかによって、
この企画のもつ面白さは、大きく変ってくる。
だから興味深く読めるものもあれば、さほど興味をもてないもの、せっかくの対決なのに……と感じるもの、
というふうにバラついてくる。
このライバル機種の対比は、基本的には面白くなる企画である。
ただ、いまやるならば、昔と同じではなく、さらにもう一歩踏み込んでほしい、と思う。
具体的には、こうすればいいのに、と思っていることはある。
そうしてくれれば、この対比の企画はおもしくなる。
「対比」ということでは、いま作業している瀬川先生の「本」に関しても、
瀬川先生と、たとえば菅野先生との対比で書いていくことを最初は考えていた。
瀬川冬樹:菅野沖彦、瀬川冬樹:岩崎千明、瀬川冬樹:黒田恭一、といったふうに、である。
これも、さらに一歩踏み込んでみると、
瀬川冬樹:菅野沖彦:岩崎千明、という三角形が描けることに気がつく。
瀬川冬樹:菅野沖彦との対比、菅野沖彦:岩崎千明の対比、岩崎千明:瀬川冬樹の対比を、
ひとつの三角形にしていけば、さらにおもしろくなると思う。
しかも瀬川先生を頂点のひとつとする三角形は、他にも描ける。
この三角形は、以前のステレオサウンドならば、いくつも描けた、と思う。
瀬川先生を頂点のひとつとする三角形だけでなく、菅野先生を頂点のひとつとした三角形、
岩崎先生を、山中先生を、岡先生を……というふうに描けていく。
いまはどうだろうか。
オーディオ雑誌に書いている筆者の数は、以前よりも増えているように感じている。
人の数が増えていれば、描ける三角形の数も、その三角形の性質の多様性も増えていくはずなのに……、と思う。
いま三角形は描けなくなった、と私は思っている。