どんなにいい音がするオーディオ機器でも、
日によって、音がころころ変るモノならば、試聴室という状況・条件ではリファレンス機器としては使えない。
試聴室は、個人のリスニングルームとは違い、ほぼ毎日、そこで音が鳴っているわけではない。
試聴がないときには使われていない。
ときには実験で使うときもあるが、編集作業が〆切間際では試聴室は使われることはない。
そして試聴が始まると、朝から始まることもあるし、長引けば夜中までということもある。
鳴らしているとき、そうでないときの差はどうしても大きくなる。
そういう使われ方であっても、
しばらく鳴らしていれば、安定した性能・音を発揮してくれるオーディオ機器でなければ、
リファレンス機器として使いにくい、ということになる。
それに丈夫である、ということもけっこう重要な要素でもある。
名の通ったメーカーのアンプならば問題はないけれど、
試聴室に持ち込まれるアンプの全てが、なんら問題がないわけではない。
とくに私がいたころのステレオサウンドは外苑東通りに面したビルにあった。
窓から顔を出せば東京タワーがくっきりと見える。
井上先生がステレオサウンドの誌面でたびたび書かれているように、
オーディオ機器をとりまく環境としてはよくないどころか、かなり厳しいものといえる。
電源もきれいで高周波ノイズもないところでは問題を発生しないアンプでも、
このころのステレオサウンド試聴室では問題を発生するモノ、
もしくは発生寸前の、やや怪しい状態に陥るモノがないとはいえなかった。
そういうアンプが接がれても、壊れないことはリファレンス用スピーカーとして意外と重要なことである。
それからパワーアンプならば、どんなに音がよくても、
たとえばマークレビンソンのML2のように出力が25Wしかないモノは、リファレンスとしては使いにくい。
試聴するスピーカーシステムの能率が、すべて93dB(この数字は4343のスペック)以上あれば、
25Wでもなんとか使えるけれど、
それ以下の出力音圧レベルのスピーカーシステムとなると、25Wではあきらかに不足する。
それにCDが登場してきて、さらにパワーは求められるようになってきたから、
リファレンス用パワーアンプには、ある一定以上の出力が要求されるし、
ある程度の低負荷でも安定していることが必要となる。
それにバランス伝送が当り前となってきたため、アンバランス入力、バランス入力の両方を備えていること。
スピーカーシステムについてもパワーアンプについても、
リファレンス機器に要求されることとはどういうことなのか、まだまだある。
それにコントロールアンプ、CDプレーヤー、アナログプレーヤーについてもふれておきたいが、
ここではこれが本題ではないのでこのへんにしておくが、
結局なにがいいたいのか──、
それは批評と評論の違いについて、である。