Archive for category TANNOY

Date: 7月 5th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その17)

いまもそうなのだろうと思うが、
タンノイの同軸型ユニットは、ウーファーの口径に関係なく、
中高域のダイアフラム口径は同じである。

HPD385A、HPD315A、HPD295A、
中高域のダイアフラムは共通である。
そしてクロスオーバー周波数も、三つのユニットとも1kHzで同じである。

ということはウーファーの口径に起因する指向特性の変化を考慮すれば、
38cm口径の場合、ウーファーの受持帯域にわたって良好な指向特性は無理である。
30cm口径でも、やや苦しい、といえる。

単純に指向特性の良好さということだけで判断すれば、
25cm口径ということになる。

それでも、私は、どこかHPD295Aの実力を侮っていたところがあった。
タンノイのユニットを代表するのは、やはり38cm口径である。

30cm口径はそのジュニア版といえる。
HPDシリーズをみても、ウーファーに補強リブがあるのはHPD385AとHPD315Aで、
HPD295Aにはないことからも、
HPD295Aは、ラインナップにおいて上二つのユニットとは設計方針が違うのだろう。

発表時期も、30cm口径は、モニターシルバーになる直前であるが、
25cm口径は1961年、モニターレッドになってからだった。

そして25cm口径のIIILZをおさめたシステムは、
IIILZ in Cabinetは、タンノイ初の密閉ブックシェルフ型であることからも、
25cm口径のタンノイのユニットは、ブックシェルフ型向けといえる。

そのユニットを、見かけの割には内容積が確保しにくいコーナー型とはいえ、
それでも誰の目にもあきらかなフロアー型エンクロージュアにおさめたのが、コーネッタである。

Date: 7月 5th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その16)

その9)で、コーネッタに手持ちのサーロジックのサブウーファーを追加したい──、
そんなことを書いた。

HPD295Aは、25cm口径。
それほど低いところまで再生できるとは考えていなかったからなのだが、
実際にコーネッタを鳴らしてみると、意外にもかなり低いところまで再生できることに気づく。

HPD295Aのカタログ上のf0の値は、22Hzなのは知っていた。
喫茶茶会記のアルテックのシステムのウーファー416-8Cとそれほど変らない。

25cm口径としてはけっこう低いf0である。
ステレオサウンド 38号では実測データが載っている。
HPD295は、シリアルナンバー200427と200003の二本が測定されていて、
200427が18.5Hz、200003が18.4Hzである。

IIILZ MkIIの実測データもある。
シリアルナンバー138822と141464で、前者が38.2Hz、後者が55.3Hzである。

HPD295のf0は低いだけでなく、
この実測データをみるかぎりは、バラツキも少ないことがわかる。

でも、これだけで数値でどれだけの低音の再生能力があるのかを、
正しく予想できるわけではない。

サブウーファーを考えていたぐらいだから、
私は、f0の数値の低さをそれほど重視していたわけではなかった。

なのに聴いてみると、サブウーファーは必要ないかも……、と思っていた。
もちろんサブウーファーを持っているのだから、試すことになるだろう。

かなり低いところをうまく補うだけで、全体の音の印象は大きく変る。
ピアノを聴くと顕著である。
サブウーファーがうまくつながっていると、フォルティシモでの音ののびがまるで違う。

それにaudio wednesdayでかけたクナッパーツブッシュの「パルジファル」は、ライヴ録音。
こういうライヴ録音こそ、サブウーファーがあるとないとでは、
全体の雰囲気が、これまた大きく変ってくる。

そんなことがわかっているから、やることになる。
それでもコーネッタだけで、何の不足があるのだろうか、とも感じていたのは本音でもある。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その15)

タンノイの同軸型ユニットは、ウーファーのコーン紙が中高域のホーンの延長になっている。
このことはすでに書いているし、
それだからこそコーン紙のカーヴ、それから材質、強度などがホーンとして、
その音に関係してくるわけだが、昨晩コーネッタを聴いていて感じたのは、
コーン紙をホーンの延長とする同軸型ユニットは、
プログラムソースがデジタルになってこそ本領発揮となることである。

アナログディスクだと、どうしても低域共振の影響から完全に逃れることはできない。
それゆえに1970年代の終りごろに、
アナログディスクのRIAAカーブの改訂が行われ、20Hz以下を減衰させるようになった。

それまでのRIAAカーヴは、35Hzから15kHzまでは厳格な規格が定められているが、
それ以下、それ以上の周波数帯については、35Hzから15kHzまでのカーヴの延長であればいいとなっていた。

いまでもいるようなのだが、サブソニックの影響でウーファーの振動板が前後に振れているのをみて、
低音が出ている、と勘違いする人がいた。

そういえば二年前のインターナショナルオーディオショウのあるブースでは、
あるアナログプレーヤーのデモで、ウーファーがかなり激しく前後していた。
にも関らず、そのブースのスタッフは誰一人として気にしていない様子だった。

アナログディスク再生の難しさ、大変さを体験していない人は、
サブソニックの影響について何も知らないのだろうか。

とにかくウーファーの振動板の動きが目に見えるようでは、それは音になっていない。
つまりタンノイの同軸型ユニットにおいて、ウーファーの振動板が目に見えるほど動いている、
サブソニックの影響を受けて振動している状態は、
ホーンの前半分が、そういう状態にあるということだ。

低域の安定性に欠けていては、タンノイの同軸型ユニットのメリットは損われる。
そう考えて間違いない。

タンノイが気難しいスピーカーといわれていたのは、
こういうところにも一つ原因があったように考えられる。

デジタルがプログラムソースであれば、機械の故障でもないかぎり、
サブソニックの影響はない。

しかも以前のCDの44.1kHz、16ビットだけでなく、
いまではサンプリング周波数も高くなり、DSD、MQAなども登場してきている。
同軸型ユニットにとって、いい時代といえる。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(余談)

コーネッタは、沈黙したがっている──、
そう書いている私は、コーネッタについて書きたがっている。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その14)

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」でソニーについて、
井上先生が書かれたことを引用しておく。
     *
 とかく趣味の世界には、実際に使ったことがなくても、本やカタログなどを詳細に調べ、同好の士と夜を徹して語り明かし、ユーザー以上に製品のことを熟知しているという趣味人も多い。それはそれでよいのだろうが、オーディオ、カメラ、時計など、物を通じて楽しむ趣味の場合には、対象となる製品は基本的に人間が人間のために作った優れた工業製品であるべきだと考えるため、最初に巡り合った製品が、そのメーカーやブランドの価値を決定することになるようだ。
     *
《最初に巡り合った製品が、そのメーカーやブランドの価値を決定》するところは、
オーディオには、はっきりとある。
しかも、最初に巡り合った製品が同じでも、
どこで、どういう人が鳴らした音を聴いたかによって、また違ってくる。
さらに《同好の士と夜を徹して語り》あうことによっても、左右されてくることだろう。

だから(その13)で、タンノイ、アルテック、JBLといったブランド名をあげているが、
世代が違えば、そのブランドへの印象は大きく違うことは承知している。

私と同世代であっても、どの製品と巡り合っているのかによって、
その時鳴っていた音によっても違ってくる。

そういう危うさがあるのはわかったうえで、(その13)では井上先生の発言を引用した。
わかる人には、よくわかる、となるだろうし、
そうでない人がいることもわかっている。

いまではそうでない人のほうが多数なのかもしれない。
それでも、昨晩コーネッタの音を聴いていて思い出していたので、引用した次第だ。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その13)

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のタンノイ号で、
井上先生が菅野先生との対談で、こんなことを語られている。
     *
井上 ただ、いまのHPDはだいぶ柔和になりましたけれども、それだけに妥協を許さないラティチュードの狭さがありますから、安直に使ってすぐに鳴るようなものではない。現実に今日鳴らす場合でも、JBLとかアルテックなどとは全然逆のアプローチをしています。つまり、JBLとかアルテックの場合、いかに増幅段数を減らしクリアーにひずみのないものを出していくかという方向で、不要なものはできるだけカットしてゆく方向です。ところが、今日の試聴ではLNP2Lのトーンコントロールを付け加えましたからね。いろいろなものをどんどん付けて、それである音に近づけていく。
     *
オートグラフについてのことであり、
このことがそのまますべてのタンノイのスピーカーにぴったりあてはまり、
それ以外の手法はない、ということでもないが、
それでも、昨晩コーネッタの音を聴いていて、確かにそんな感じがする、と思い出していた。

でも、昨晩は、いつものと同じように、
メリディアンの218の出力を、
マッキントッシュのプリメインアンプのパワーアンプ部の入力に接続。
ボリュウムコントロール、トーンコントロールは218でやっていた。

JBL、アルテックを鳴らす場合でも、
トーンコントロールをつけ加えてという手法はもちろんある。

井上先生もそこのところは理解されたうえでの、
タンノイのスピーカー、
特にオートグラフというスピーカーの特質を表現するためのたとえでもある、と思っている。

そして、私にはこのことは、
音の姿勢と音の姿静の違いを、具体的に表わしているとも受け止めている。

音の姿勢、音の姿静」を書いたのは、6月5日。
翌日にコーネッタを落札している。

偶然であるのはわかっていても、
コーネッタを鳴らしてみて、ほんとうにたんなる偶然だったのか、とも思ってしまう。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その12)

昨晩のaudio wednesdayでの音を、ことこまかに書いた所で、
自画自賛のように受け止められるだろうから、そういうことは基本的にしない。

音の描写よりも、コーネッタの音を聴いて考えていたことを書いていこう。
一ヵ月ほど前に「音の姿勢、音の姿静」を書いた。

コーネッタの音は、音の姿静だった。
「五味オーディオ教室」で何度も何度も読み返したことを、
コーネッタを自分で鳴らして実感していた。

《再生装置のスピーカーは沈黙したがっている。音を出すより黙りたがっている》、
五味先生はこれを悟るのに三十年余りかかったように思う、と書かれている。

この三十年余りとは、タンノイを聴いての時間、
イギリスのスピーカーを聴いての時間のようにも感じていた。

タンノイのスピーカーは、沈黙したがっている。
まさに感じていた。

といっても、ことわっておくが、現在のタンノイのスピーカーもそうだ、とはいわない。
否定もしないが、インターナショナルオーディオショウで聴くタンノイの音は、決してそうではない。
そんなふうには感じないが、それはエソテリックのブースの音がひどいからであって、
タンノイのスピーカーが昔とは違ってしまった、ということにはならない。

結局、そのところは自分で鳴らしてみて判断するしかない。

なので、私にいまのところいえるのは、コーネッタは、沈黙したがっている、ということだけだ。
では、他のスピーカーはどうなのか。

すべてのブランドのスピーカーが、沈黙したがっているかというと、
必ずしもそうとは感じていない。

あくでも感覚的な表現なのだが、
アルテックやJBL(ここでの両ブランドのイメージはコーネッタと同時代のもの)は、
最後の一音まで絞り出すようなところがある。

これは、一部のハイエンドオーディオが得意とする精確な音とは、またちょっと違う。
絞り出すには力が必要となる。

その力ゆえ、時として沈黙とは反対の方向に傾いてしまう。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その11)

「タンノイ コーネッタ」検索して表示される記事いくつかを読んでみた。
その多くが、ステレオサウンド 37号、38号、39号の記事を読んでいない、と思われる内容だった。

1976年に出たステレオサウンドだから、
読んだ人でさえ、記憶は朧げだったしても不思議ではない。
読んでいない人が、オーディオ業界に増えていても、そうだろうなぁ……、と思うだけだ。

それでも、もう少しきちんとしたことを書こうよ、と思う。
当時のステレオサウンドを読んでいない人が、
そういった記事を読んで、コーネッタとはそういうものなのか、と信じてしまう。

すべてでたらめな内容ならば、信じる人も少ないだろうからまだいいのだが、
中途半端な内容だから、よけいに始末が悪い、とも感じている。

何を信じて何を信じないかは、その人の自由(というより勝手)なのだから、
私がとやかくいうことでないのかもしれないが、
何も書かずにいると、そういった状況はますますひどくなっていくばかりでもある。

とにかくコーネッタというスピーカー・エンクロージュアに興味を持った人は、
ステレオサウンドのバックナンバーを、まずじっくり読むことから始めてほしい。

インターネット上の、いいかげんな記事は、その後読めばいい。

Date: 7月 2nd, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その10)

昨晩のaudio wednesdayで、コーネッタを鳴らした。
ほんとうにひさしぶりに聴くコーネッタというだけでなく、
自分ので鳴らす初めてのコーネッタでもあった。

すでに書いているように、ヤフオク!で落札したコーネッタだから、
写真だけでの判断だった。
公開されていた写真を、穴が開くほど見たわけではない。
パッと見て、なんとなく程度がよさそうだな、と感じたので、入札した。

コーネッタの中古相場がだいたいどのくらいなのかは知っていた。
私が入札した金額は、その半分以下だった。
その金額で落札できるとは、まったく思っていなかった。

なのに落札できた。
昨晩も訊かれたのだが、ペアで76,000円である。
個人の出品ではなく、リサイクルショップの出品なので、消費税が10%つく。
それでも、コーネッタの相場を知っている人ならば、驚く。

問題は、程度である。
ボロボロだったら、どこかに不具合があったりするのならば、
結果としては高い買い物になる。

見た感じでは、特に問題はなさそうなのだが、
中を丹念にチェックしたわけではないし、音を聴いての判断でもない。

昨晩、音を出してみるまで肝心なことはわからない。
とにかく結線をして、音を鳴らしてみる。

スピーカーの位置、アンプ、CDプレーヤーのセッティングも、
置いただけの状態で、とにかく音を鳴らしてみた。

ほっとした。
その音がいいか悪いかではなく、
鳴ってきた音は、どこかに問題が隠れてそうな印象ではなかった。

なので、ここからセッティングをいつもやっているように詰めていった。

Date: 6月 29th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その9)

いま手元にはコーネッタのエンクロージュアに入ったHPD295Aがあるわけだが、
それでは、このユニットを使って、
四十数年前に夢見たことをやるのかといえば、そうではない。

やろうと思えばやれるわけだ。
ユニットの選択肢は、当時よりも狭くなっていると感じる部分もある一方で、
拡がっていると感じてもいる。

それでもコーネッタというエンクロージュアに、すでにおさまっているのだから、
そこから取り出して、ということはやりたくない。

やるのであれば、あくまでもコーネッタを活かして、ということになる。
ではコーネッタの隣に、38cm口径ウーファーの入ったエンクロージュアを置くのか。
そんなスペースは、もうない。

仮にスペースがあったとしても、大がかりになる過ぎる。
コーネッタではないが、菅野先生がステレオサウンドで、スターリングをベースにして、
サブウーファーとスーパートゥイーターを足した4ウェイという組合せを試みられていた。

私が、いまやるとなると、このスタイルである。
コーネッタをそのまま活かして、サブウーファーを足す。

私のところにはサーロジックのサブウーファーがある。
やりたくなったら、これを使えばいい。

スーパートゥイーターは、そのあとに考える。
スーパートゥイーターはつけたい気持は強いが、
コーネッタの天板の上に、ポツンとトゥイーターがあるのは、やりたくない。

とってつけたような印象になってしまうからだ。
ドーム型にしてもホーン型にしても、なんらかの細工を施して置くことにしたい。

これが簡単なように思えて、実際にあれこれ考えてみると、そうではなかったりすることに気づく。

Date: 6月 28th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その8)

HPD295Aに追加するウーファーとトゥイーターに何を選ぶか。
タンノイには単体のウーファーもトゥイーターもない。
他社製をもってくるしかないわけだが、
心情的にも、トータルとしての音色の統一ということでも、
どちらもユニットもできることならイギリス製をもってきたい──、
そう思っていても、選択肢は少ない。

HPD295Aは25cm口径だから、ウーファーには38cm口径をもってきたい。
そうなると、当時はセレッションのPowercel 15、
リチャードアレンのCG15、ヴァイタヴォックスのAK155/156ぐらいしかない。

Powercel 15はウーファーということになっているが、
センターキャップはたしかアルミ製だったし、周波数特性的には大口径フルレンジといえる。
CG15は、33,000円とHPD295Aのほぼ半分の価格のということで、
なんとなく格負けしそうな印象をもっていた。

AK155/156が本命といえばそういえたが、
このウーファーをバスレフ型エンクロージュアにいれて、
うまく鳴ってくれるのだろうか──、という印象があった。

イギリス製ということにこだわらなければ、アメリカ製がある。
アルテック、エレクトロボイス、JBLが候補としてあがってくる。

アルテックならば416か515ということになるが、
なんとなくタンノイとうまく合いそうにないと感じていた。
聴いたことがあるわけではないのに、そう感じていた。

エレクトロボイスのウーファーは、主として楽器、PA用ということだった。

そうなるとJBLなのか。
2231Aとか2205、LE15Aなどがあるが、HPD295Aの出力音圧レベルは87.5dB/W/mである。
あくまでもカタログ発表値での数値ではあるが、JBLのウーファーのほうが数dB高い。

ヴァイタヴォックスのウーファーは発表されていなかったが、
JBL以上に高能率のはずである。アルテックもそうである。

つまりマルチアンプでなら、出力音圧レベルがウーファーのほうが高いことは問題にならないが、
LCネットワークでシステムをまとめようとすると、やっかいである。

Date: 6月 28th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その7)

私のところにやってきたコーネッタには、HPD295Aがついてる。
HPD295Aは、私がオーディオの世界に興味をもちはじめた1976年秋、
一本60,000円のスピーカーユニットだった。

同軸型2ウェイというフルレンジユニット。
このHPD295Aというユニットに、より関心をもつようになったのは、
1977年に発売されたHIGH-TECHNIC SERIES-1を読んでからだった。

これも何度も書いている瀬川先生のフルレンジユニットから始まる4ウェイ構想である。
フルレンジ(シングルボイスコイル)からはじめて、次にトゥイーター、
その次にウーファー(この時点でマルチアンプ化)、最後にミッドレンジを加えての4ウェイである。

瀬川先生の4ウェイ構想では、ミッドレンジはJBLの175DLHだった。
瀬川先生のプランどおりにフルレンジから始めてもいいし、
フルレンジ+トゥイーターからのスタートもあるし、
最初から4ウェイとして、というやり方もある。

その人のフトコロ具合や力量に応じてのプランともいえる。

この4ウェイ構想は、学生の私にとって、あれこれ考える(想像する)のが、楽しいものだった。
そのうちに、そうだ、タンノイの同軸型ユニットからスタートするという手もあるということに気づいた。

ぴったりなのが、HPD295Aである。
ユニット構成として、25cm口径のコーン型にホーン型の組合せ。
瀬川先生の4ウェイ構想では、ミッドバスとミッドハイのポジションにぴったりとあてはまる。

HPD295Aからスタートして、トゥイーター、ウーファーを足していくことで、
最終的に4ウェイとする。

こんなことを考えはじめると、タンノイのEatonへの関心もましてくる。
HPD295Aが入っているブックシェルフ型。

まずこれを買って、しばらく楽しんだのちに4ウェイ化していく、という考えだ。
けれど、現実的にはEatonは当時80,000円(一本)していた。

ユニット単体の価格からすれば、安いくらい感じるけれど、
当時高校生になったばかりの私には、かなり高価なスピーカーであった。

それにEatonを手に入れたとして、次のステップとして、
どのメーカーの、どのユニットを選択するのか──、
これがけっこう悩ましかった。

Date: 6月 27th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その6)

ステレオサウンド 55号には、
「ザ・スーパーマニア=故・五味康祐氏を偲ぶ」が載っている。

その55号の編集後記八本のうち二本は、ほぼ記憶している、といっていい。
一本は何度か引用している原田勲氏の編集後記。
もう一本は、Ken氏の編集後記だ。
     *
 ぼくのオーディオは「西方の音」で始まった。以来タンノイこそ理想のスピーカーと信じ、いつしか手にすることを夢みたものである。そんなある日、モニターゴールドを譲ってくれるという人が現われ、五味先生ばりにオート三輪ならぬ2トン積トラックで武蔵野まで取りにいった。コンクリートで補強してあるとかでばかに重いコーナー型の国産箱をなんとか荷台に積み、意気揚々わが家に向けて走り出したとたん、後ろでものすごい音がした。最初のかどを曲がったはずみで箱が一本倒れたのだ。壊してしまったのじゃないかと真っ青になって荷台にあがり、初夏の頃だったので寒風吹きすさぶというわけではなかったが、あとは支えて帰った。
     *
Ken氏は、古くからのステレオサウンドの読者ならばご存知のように、
いまステレオサウンドの筆者の一人の黛健司氏である。

五味先生、黛氏、ふたりのように荷台に乗ってスピーカーを支えるという行為は、
いまでは道路交通法違反になってしまう。

おそらく、どちらのクルマも、荷台が平ボディだったのだろう。
私はバンボディ(荷台が箱になっている、いまでは一般的なタイプ)で、
コーネッタはラッシングベルトでしっかり固定していたから、
荷台で支えることはなかった。

五味先生は、この日のことを「わがタンノイ・オートグラフ」でも書かれている。
     *
 この時までのわたくしは、S氏が追放されたグッドマンを拝借し、同じく追放されたガラードのプレヤーで、ひそかに一枚、二枚と買い溜めたレコードを聴いていた。S氏邸のタンノイを聴かせてもらう度に、タンノイがほしいなあと次第に欲がわいた。当時わたくしたちは家賃千七百円の都営住宅に住んでいたが、週刊誌の連載がはじまって間もなく、帰国する米人がタンノイを持っており、クリプッシュホーンのキャビネットに納めたまま七万円で譲るという話をきいた。天にも昇る心地がした。わたくしたちは夫婦で、くだんの外人宅を訪ね、オート三輪にタンノイを積み込んで、妻は助手席に、わたくしは荷台に突っ立ってキャビネットを揺れぬよう抑えて、目黒から大泉の家まで、寒風の身を刺す冬の東京の夕景の街を帰ったときの、感動とゾクゾクする歓喜を、忘れ得ようか。
 今にして知る、わたくしの泥沼はここにはじまったのである。
     *
五味先生の「泥沼」は「オーディオ巡礼」をはじめ、
五味先生の書かれたものを読んでほしい。

黛氏も、格闘十年間と編集後記に書かれているから、そうだったのだろう。

五味先生も黛氏も、ユニットは15インチ口径、
私はというと、10インチ口径と小さい。

それに二人が最初にタンノイに自分のモノにされた年齢よりも、
ずっと上の年齢になってしまった。

泥沼はないだろう、
けれどタンノイとともに過ごした青春はなかったわけだ。

Date: 6月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その5)

コーネッタに取り付けるユニットの違いは、わかりやすい。
HPDじゃなくて、IIILZ(モニターゴールド)なんですよ、と自慢気に語る人がいたとして、
肝心のエンクロージュアはどうなのだろうか。

ステレオサウンドのキットを組み立てたものだから、それで安心、とか、
何かが保証されているわけではない。

ステレオサウンドの古くからの読者ならば、
海外製のスピーカーシステムは、オリジナル・エンクロージュアでなければならない──、
これは、いわば常識ともいえる。

コーネッタにおけるオリジナル・エンクロージュアは、
ステレオサウンドのSSL1ということになる。
これは間違いないわけだが、
くり返すが,組み立てなければならないのがキットだから、
そこから違ってくる要素が大きすぎることに気づいていない人が、どうもいるように感じる。

ヤフオク!にも、ときどきコーネッタは出てくるようである。
そのコーネッタが、どの程度の技術によって組み立てられたものなのかを、
写真だけで判断するのは容易なことではない。

しかもコーネッタは、そうとうに古い。
1977年に登場しているだから。

私はやってしまったわけだが、
こういうモノを、ヤフオク!で落札してしまうのは、控えた方が賢明である。

実物をみて、音を聴いて納得したのであればいいが、
写真だけで判断してしまうことは、場合によってお金をドブに捨てるようなことにつながる。

私がいえるのは、後悔しない範囲の金額にとどめていたほうがいい、ということぐらいだ。
そのくらい運試しと思っていた方がいい。

Date: 6月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その4)

くり返しになるが、コーネッタというスピーカーシステムは、
ステレオサウンドが販売していたエンクロージュア・キットSSL1と、
タンノイの10インチ口径の同軸型ユニットを組み合わせたものである。

SSL1はキットだから、買った人が組み立てることになる。
アンプのキットでも、組み立てる人の技倆になって、結果は違ってくる。

スピーカー(エンクロージュア)のキットも、まったく同じというか、
むしろそれ以上に難しいのかもしれない。

井上先生は、よくいわれていた。
まったく同じエンクロージュアを二つ作ることは、
木工のベテランであっても、そうとうに困難なことである、と。

接着剤の量の、ちょっとした違いや、
その日の気温や湿度、
その他にもさまざまな要因が絡んできて、
しかもスピーカーのエンクロージュアは大型になればなるほど、
ホーン型であったりすればなおのこと、製作日時をより必要とする。

そのためにどうしてもバラツキが生じてしまう。

コーネッタ(SSL1)のキットは、
ある程度は、購入者が組み立てやすいようにと配慮されている。
この点が、記事中のプロトタイプとの違いの一つでもある。

それでも木工の初心者には、そうとうに難しいキットといえるだろう。

コーネッタは、あのころのタンノイのスピーカーを鳴らしている人、
憧れている人からみれば、挑戦してみたくなる存在であったはずだ。

インペリアル工芸だったと記憶しているが、
コーネッタを、15インチ口径用に大型化したエンクロージュアを製品化していた。

コーネッタのキットを購入した人、
ステレオサウンドの記事を見て、板の切り出しから自作した人、
少なくない数のコーネッタが誕生したのではないだろうか。

アメリカにも、コーネッタを自作したマニアがいる、とfacebookのコメントにあった。
ステレオサウンドのキットだけに絞っても、
出来上がりはピンからキリまで、といっていいだろう。

ましてキットには頼らずに自作したモノとなれば、
もっとピンからキリまでなのかもしれないし、
むしろ逆に、これだけの工作に挑戦する人だから、
それなりの技術をもっている人ともいえるだろうから、
むしろ一定の品質の幅におさまっているのかもしれない。