Archive for category イコライザー

Date: 3月 2nd, 2011
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8・続×五 補足)

グラフィックイコライザーになれるために、実際にためしてほしいと思っていることは、
この項の(その1)で書いていることだ。

グラフィックイコライザーを使いはじめたとき、
まずはどこかの周波数のレバーを上げ下げするはず。
現在の主流である1/3バンドのものだと、ときにはその効果・変化が聴きとりにくいこともあり、
たいていは両隣のレバーもまとめて上げ下げする。

このとき点対称となる周波数のところもいっしょに動かしてみる。

つまり可聴周波数帯域を20Hzから20kHzとして、このふたつの積の平方根632Hzを中心点として、
点対称となる周波数を、反対に動かすわけだ。
632Hzの1オクターヴ下の周波数をあげたら、632Hzの1オクターヴ上の周波数をさげるわけだ。

いいかえれば、操作する、ふたつの周波数の積がつねに40万となるようにするわけだ。

Date: 2月 5th, 2011
Cate: イコライザー, 瀬川冬樹

私的イコライザー考(その8・続々続々補足)

瀬川先生が、1966年12月に発行された ’67ステレオ・リスニング・テクニック(誠文堂新光社)で、
ビクターのPST1000について、こんなふうに書かれている。
     *
コントロール・アンプとしてこれくらい楽しいものは他にあるまい。使いはじめて間がないので批評めいたことはさしひかえたいが、小生自身はこのアンプを一種の測定器としても使いたいと考えているので、いずれ何らかの発見があると思う。
     *
PST1000は、当時、ビクターがSEA(Sound Effect Amplifier)コントローラーとして発売していた、
7素子のグラフィックイコライザー機能を搭載したコントロールアンプのこと。
7つの中心周波数は、60、150、400、1k、2.4k、6k、15kHz。

いまの感覚からすると7素子はローコストのアンプにでもついてくるようなものととらえてしまうが、
PST1000は、145,000円していた。
マランツの7Tが150,000円、マッキントッシュのC22が172,000円の時代のことだ。

瀬川先生の発言は、コントロールアンプとしてではなく、
グラフィックイコライザーとしてとらえられてのもの、と思う。
このあと、グラフィックイコライザーを積極的には使われていないはずだし、
上の発言は、あくまでも1966年当時のことだから、時代とともに変化していった可能性もある。

もうそのへんのことは確かめようがないけれど、
グラフィックイコライザーを積極的に使うと言う選択も、導入しないという選択も自由だ。
どちらが正解というわけではない。
それでも、一度はグラフィックイコライザーを徹底的に使ってみてほしい、といいたい。

そこには、瀬川先生も言われているように「何らかの発見があると思う」からだ。

Date: 1月 7th, 2011
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8・続々続補足)

あえて最初はモノーラルで調整することについて、もうすこし補足しておこう。

このとき使うプログラムソースは、編成の少ないものがいい、と思う。
そしていろいろなヴァリエーションをもたせて、枚数を用意する。

たとえば男の人の声のもの、女声のもの、それからチェロのソロ、ヴァイオリン・ソロなどなど。

モノーラルで再生するわけだから、
左右のスピーカーの中央にそれぞれ歌い手だったり、チェリストがぴたっと定位するはずだが、
現実には帯域によってずれることがある。

これをグラフィックイコライザーで調整してみると、
定位がずれているところを補整するために、その部分がどの周波数あたりなのか、
それをツマミを上下させながら探し出していくことをくり返していく。
そうやっていくうちに、たとえば男の人の声のどのあたりが、
どのへんの周波数からどこまでなのか、そういったことが、やっていくうちにつかめてくる。

音楽における中域とオーディオ帯域における中域とが、周波数的にはけっこう違うこともわかってくる。

イコライザーへの馴れ方は人それぞれだから、この方法よりもいい方法が、人によってはあるだろう。
でも、いちどグラフィックイコライザーに試してみて諦めてしまった人は、ぜひモノーラルでやることで、
もういちど挑戦してほしいと思う。

最終的にグラフィックイコライザーを採用するかしないか、よりも、
グラフィックイコライザーにとり組むことで、音の正体、というものが見えはじめてくる、と思う。

Date: 7月 7th, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その12)

なぜかオーディオの世界では、振幅特性のみを周波数特性といってきた。
けれど周波数特性には、振幅項(amplitude)と位相項(phase)があり、
それぞれを自乗して加算した値の平方根が周波数特性となる。

数学に詳しいひとにきくと、このことはオイラーの公式からわりと簡単に導き出せることだそうだ。

大事なのは、周波数特性は振幅特性だけでもなく、位相特性だけでもないということ。
振幅特性が変化すれば位相特性も変化するということ。
このことを頭に入れておけば、この項の(その11)で書いたようにグラフィックイコライザーの試聴をやるとして、
その出力(つまり振幅特性)を測定し、他の機種も同じ振幅特性にしたところで、
それぞれの回路構成が違うことにより、位相特性まで同じになるわけではない。

つまり「周波数特性」は微妙に異っていることになり、
その異っている周波数特性に調整したグラフィックイコライザーを比較試聴したところで、
グラフィックイコライザーの何を聴いているのか、そのことをはっきりと指摘できる人はいないはずだ。

おそらく一台ごとに帯域バランスが変化すると思われる。

これと同じことは、マルチアンプに必要なエレクトロニッククロスオーバーネットワークにもいえることだ。
エレクトロニッククロスオーバーネットワーク(チャンネルデバイダー)の比較試聴をやろうとして、
グラフィックイコライザーと同じように出力をどんなに正確に測定し、同じ値になるように調整したところで、
周波数特性が振幅特性と位相特性から成り立っている以上、
実際の試聴では音を聴きながら帯域バランスを微調整して、ということが要求される。

Date: 6月 13th, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8・続々補足)

グラフィックイコライザーなりパラメトリックイコライザーを導入される人は、
あたりまえすぎることではあるが、当然、それらの調整によって音を良くしたいからである。

だから、音を良くするための調整から取り組みはじめる。

けれどイコライザーの使いこなしを身につけるためのひとつの方法として、
意図的に音を悪くするために使ってみるという考えもある。
ドンシャリな音をつくってみる、中抜けの音をつくってみる、ボンボンというだけの品のない低音にしてみる、
あえて胴間声にしてみる、キンキンするだけの中域のやたら張った感じの音にしてみる……。

いろんなクセの強い音を意図的につくってみるわけだ。
そのためにはどの帯域をどういじればいいのか、それに悪くするためだから、調整量も大胆に設定できるはずだ。

遊びというゆとりをもって取り組んだ方が、いいこともあるはずだ。

Date: 5月 22nd, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8・続補足)

ずいぶん前に、自転車に乗れない人にむけてのコツをを教えている人のインタビューを、読んだか聞いたことがある。

その人の教え方は、自転車のペダルを外して、足で地面を蹴らせたり、
後から支えながら押して自転車を前にすすめながら、まずバランスの取り方をマスターさせるそうだ。
バランスがきちんととれるようになった後で、ペダルを取りつけて、ペダリングをマスターさせる。

自転車に乗るということは、バランスをとリながら、ペダルをまわしていくこと。
このふたつを同時に身につけようとすると、ときにつまずいた人は、そこであきらめてしまいがちになるため、
その人は、ひとつひとつこなしていくように指導しているらしい。

グラフィックイコライザーも、この自転車の乗り方の身につけ方と同じでいいと思う。
理想のリスニングルームがあって、左右のスピーカーシステムの置かれている条件はまったく等しくて、
さらに左右のスピーカーシステムのバラつきもまったくなく、もちろんアンプやCDプレーヤーも、
左右チャンネルにわずかな差違すらない、そんな条件であるならば、
グラフィックイコライザーの、最初の使いこなしは、帯域バランスを整えることからやってもいい。

いうまでもなく、そんな理想の条件はそろわない。
左右のスピーカーシステムまわりの条件は、けっこう違うことが多いし、
スピーカーシステムそのものに、左右のバラつきが大なり小なりある。
アンプにしてもCDプレーヤーにしても、左右チャンネルでまったく同じ音を出すモノは、ほぼありえない。

ならば最初の取組みは、どうすればいいのかは、おのずと答えが出てくるはずだ。

Date: 5月 22nd, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8・補足)

この項の(その8)で、モノーラルにして、音像が全帯域にわたってぴたっとセンター定位になるように、
グラフィックイコライザーを調整するのが、
扱いに馴れていない人が、最初にためす調整として、すすめられる、と書いた。

お気づきの人もおられるだろうが、この方法では、おそらくはじめてグラフィックイコライザーを使う人だと、
センター定位を出せるようになったときの音は、帯域バランスがくずれている可能性が高い。

もちろん帯域バランスもうまく整うこともあるだろうが、たいていはドンシャリになったり、
ナローレンジになったり、ある帯域にピーク・ディップが生じることもあろう。

それでも、最初は、やはりセンター定位に注意して、グラフィックイコライザーに触れてもらいたい。
くり返すが、あくまでも最初の調整は、
モノーラルにして、左右のスピーカーシステムから同一の音を出してやること。

帯域バランスの調整は、それからやっても遅くはない。
馴れていないのに、帯域バランスを整えることと、
センター定位を合わせることのふたつをこなしていこう、というのは、無理がある。

その無理にあえて挑戦するのもいいが、
無理ゆえにグラフィックイコライザーを調整することを諦めてしまうことになっては……と思う。

まず最初はひとつひとつステップをこなしていくこと。

Date: 2月 11th, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その11)

グラフィックイコライザーを捉えるうえで考えてみてもらいたいのが、
グラフィックイコライザーの比較試聴について、である。

オーディオ雑誌の編集者として、グラフィックイコライザーの記事をつくことになり、
各メーカーの製品を集めてきた。比較試聴をやることになった。
どういう手順で行うのか。

まずリファレンスとして、どれか一台を選ぶ。それをテスター(オーディオ評論家)に調整してもらう。
満足のいく調整がおわったところで、そのグラフィックイコライザーの出力を測定する。
測定結果と同じカーブになるように、他のグラフィックイコライザーも調整する。

そしてグラフィックイコライザーを入れ替えて、比較試聴……。

グラフィックイコライザーの試聴は、おそらく、これではうまくいかないはずだ。
私も実際に比較試聴は行なったことはない。
それでも断言するが、リファレンス機器と同じイコライジングカーブにしても、
実際に入れ替えて試聴すると、帯域バランスは、微妙に変化するもの、そうとうに変化するものがあるはずだ。
帯域バランスがまったく同じになるグラフィックイコライザーは、存在しない(はず)。

なぜなら、ほんとうの意味での「周波数特性」は、振幅特性だけではないからだ。

Date: 2月 9th, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その10)

気に入って愛用しているコントロールアンプにモードセレクターがない場合には、
自分で作ればすむことである。
すこし電気に詳しい人がいたら、すぐに回路図を描いてくれる。
部品点数もすくないし、良質の部品を使っても費用はそれほどかからない。
もっとも高価な部品は切替えスイッチだ。

こういうものを信号系に入れると、音の透明度、鮮度が劣化する、と拒否する人も、
オーディオ機器の使いこなしにおいて、絶対の自信はもてないのであれば、
コントロールアンプとパワーアンプ間に挿入してみて、その重宝さを、まずはあじわっていただきたいと思う。

モードセレクターを使って、グラフィックイコライザーの調整、使いこなしのコツを掴めたという手ごたえを感じたら、
そのときは外せばいいのだから。

Date: 2月 9th, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その9)

グラフィックイコライザーをつかいはじめるときも、使いこなしをあれこれやっていこうとする場合にも、
使ってみると、その有用性が感じられるのが、
いまは大半のコントロールアンプから省かれてしまったモードセレクターである。

ステレオ/モノーラルの切り替えとバランスコントロールがついてるだけで、
ステレオで聴いていては、つかみどころなく感じていたものが、
モノーラルで聴くことで、はっきりと手ごたえを感じとれるところもあるからだ。

もちろんモノーラルで聴いて、すべてが解決するわけではない。
それでもステレオでだけ聴いてるよりも、ときにモノーラルにしてみてほしい。
録音状態のよいモノーラル盤を使うのもいいが、最新録音をモノーラル化した音を試してほしい。

マッキントッシュのコントロールアンプ、C29、C32などには、7ポジションのモードセレクターがついていた。
ステレオ、モノーラル、ステレオ・リパースのほかに、
左チャンネルの音を両チャンネルから出すポジション、その逆のポジション、
モノーラル信号を左チャンネル(右チャンネル)から出すポジションである。

これだけあると、かなり重宝すると思う。

Date: 2月 8th, 2010
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8)

グラフィックイコライザーを導入したものの、どう使えばいいのか、
いまひとつ掴みきれないという人もいるだろう。

よく、とにかく使ってみるしかない、慣れるしかない、と言われるけど、
人には向き不向きがあるから、それだけで使える人もいれば、そうでない人もいる。

なかには、測定器とペアでなければならない、という人もいる。
たしかに、それらの発言は正しいといえばそうだが、
これらがグラフィックイコライザーをすすめた人の発言だとしたら、少し無責任じゃないか、と言いたくなる。

適確なコツを言えないのは、そういう人は、グラフィックイコライザーの捉えかたが、
実は少しずれているのじゃないかとも思えてくる。

私がいえるのは、とにかく周波数バランスをグラフィックイコライザーで調整しよう、と考えない、ということ。
周波数特性的バランスを耳をかたむけていても、
はじめていじる人には、グラフィックイコライザーを使いこなすことは難しい。

もちろんそういう使い方を全面否定はしないが、
まずプログラムソースはモノーラルで再生してみることをすすめる。
そして「音像」がぴしっと、ふたつのスピーカーの中央に、どの帯域において安定して定位するように、
このことをだけに注意を払って、各帯域のレバーを動かしていく。

まず、このことから入っていくべきだ、と考えている。

Date: 4月 2nd, 2009
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その7)

パラメトリックイコライザーやトーンコントロール、
QUADのティルトコントロールやラックスのリニアイコライザーなどの単独使用はあっても、
グラフィックイコライザーは、必ず上記のイコライザーと併用するものだと、
私は、グラフィックイコライザーの原理・仕組み・特性からいって、そう捉えている。

つまりグラフィックイコライザーは、周波数特性をいじるものではない。
周波数特性をいじるのであれば、パラメトリックイコライザーなりトーンコントロールを使えばいい。

グラフィックイコライザーにスライド式ボリュームがいつから採用され、
現在のスタイルになったのかは不明だが、
この、一見、周波数特性を連想させるアピアランスが、
グラフィックイコライザーの本質を隠してしまったように思えてならない。

まだ回転式ポテンショメーターを採用したほうが、いい。
グラフィックイコライザーは、そのデザインが見直されるべきモノである。

Date: 10月 8th, 2008
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その6)

アナログ式のイコライザーで、グラフィックイコライザーのようなカーブを作り出せないか。
櫛形フィルターを使わずに、しかも6dB/oct.のフィルターによって、ということを考えていた。

そんなとき、スピーカーのレベルコントロールによる
スピーカーシステム全体の周波数特性がどう変化するのを表したグラフを見て思いついた。

2ウェイのネットワークだと、当然だが低域と高域だけの変化である。
3ウェイだと、それに中域が加わり、4ウェイでもせいぜい2.5オクターブの粗さである。

ならば、この3つを加えたらどうなるか。
けっこう複雑なカーブを作り出せそうな気がしてきた。

ラインレベルの入力をまず3系統にわける。
後につながる負荷が小さくないのでバッファーアンプを設けたい。
それぞれのフィルターは、
抵抗とコンデンサーだけで形成した6dB/oct.のチャンネルデバイダーと同じである。

つまり2ウェイ、3ウェイ、4ウェイの、パッシヴのチャンネルデバイダーを用意する。
そしてそれぞれのチャンネルデバイダーに信号を振り分けたのち、
それぞれの信号、つまり2+3+4の7つの信号をミキシングして出力する。
ミキシングの段階で、それぞれのレベルをコントロールする。

この方式のポイントは、それぞれのチャンネルデバイダーのクロスオーバー周波数の設定である。
うまく設定できれば、グラフィックイコライザーには及ばないものの、
かなり自由にイコライジングカーブがつくり出せるのではないだろうか。

Date: 10月 8th, 2008
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その5)

スピーカーのレベルコントロールを、電気的に細かくいくつもにわけたものが、
グラフィックイコライザーと、乱暴な表現だけど、そう言えるだろう。

スピーカーだと4ウェイでも、低域、中低域、中高域、高域の4つの帯域だから、
ひとつのレベルコントロール当り大ざっぱに言えば2.5オクターブだが、
グラフィックイコライザーは、1オクターブに満たない、
1/3オクターブという狭い帯域でコントロールできる。

そのために櫛形フィルターを使う。

非常に狭い帯域でピーク・ディップをコントロールする際、櫛形フィルターは有効だ。
だが一般的と思われる使い方、
たとえば500Hzを中心にゆるやかにもちあげて、3kHzあたりをやや下げて、
その上の帯域をゆるやかに上昇させるという帯域バランスを得たいとき、
グラフィックイコライザーのツマミを、そういうカーブに配置する。
なるほどグラフィックである。

だが、櫛形フィルターを採用していることを思い出してほしい。
微視的に見れば、櫛の歯の長短を変えて、そういうカーブを作り出しているわけだ。
櫛の歯同士の間はどうなっている?

アメリカの技術書に、単発サイン波を、グラフィックイコライザーを通すと、
どう変化するかが載っている。

だからグラフィックイコライザーは使用すべきではない、と言いたいわけではない。
どんなモノにもメリット・デメリットがあるということだ。

そして、これはアナログ技術のグラフィックイコライザーについててである。
デジタル式が、どういうふうにカーブ通りのイコライジングを行なっているのか、
じつのところ調べていないが、アナログ式とはそうとうに異っているはずだろう。

個人的には、デジタル技術の導入によって、デメリットの面が薄れ、
グラフィックイコライザーの本領発揮の時代がきたと考えている。

Date: 10月 7th, 2008
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その4)

UREIの813は、新しいスタジオモニタースピーカーとして開発され、
メインユニットにアルテックの同軸ユニット604-8Gを採用している。

604が搭載されているアルテック純正のスピーカーシステム612との大きな違いは、
サブウーファーの採用ではなく、ネットワークにある。

604-8Gの構造図を見ればわかるが、中高域を受け持つドライバーの振動板と
ウーファーの位置関係はかなり離れている。
ホーン型ということもあり、中高域が後ろに配置されている。
とうぜんウーファーからの音とドライバーからの音には時間差が生れる。

同軸ユニット構造とすることで、発音源の一体化をはかっても、これでは効果も薄れる。
デジタル器材が進化し安価になった今なら、
デジタルチャンネルデバイダーを用いてのマルチアンプ駆動で、
ウーファー側にディレイをかけて補正するところだが、
77年当時で、しかもマルチアンプではなくアンプ1台で、
同じことを実現するのは無理のように思われていた。

UREIは独自のネットワーク技術で時間差を補正している。
このネットワークの存在と、
604-8Gのオリジナルのセルラホーンを、独自の濃い水色のホーンへの変更のふたつからは、
鮮やかな印象を受けた。

このネットワーク技術をタンノイの同軸型ユニットにも採用したら、
素晴らしい音が聴けるに違いない、と当時中学生だった私は、そんなことを想っていた。

当時はどういう技術なのか具体的なことはまったくわからなかったが、
UREIはいまJBLの一部門であるため、JBL Proのウェブサイトにアクセスすれば、
813のネットワークの回路図をダウンロードできる。

813だけではなく、QUADのESL63も、この場合、ネットワークとは言えないが、
デジタル技術ではなくアナログ技術で、時間差をつくりだすことと、
同心円上に8分割に配置された固定電極の採用で、
平面波しか出せないコンデンサー型スピーカーから、中高域のみ球面波を可能としている。
ESL63もコイルの複数使用での実現である。

ESL63は球面波を実現したと言われるが、
この動作によって生れるのが、ほんとうに球面波なのかは、すこし疑問に思う。
たしかに球面波に近いと思うのだが……。

UREIの813とQUADのESL63を例に挙げたが、
技術書に書かれていることだけでなく、実際の製品から学べることは多い。
技術書に書かれていることだけがすべてではないということである。