UREIの813は、新しいスタジオモニタースピーカーとして開発され、
メインユニットにアルテックの同軸ユニット604-8Gを採用している。
604が搭載されているアルテック純正のスピーカーシステム612との大きな違いは、
サブウーファーの採用ではなく、ネットワークにある。
604-8Gの構造図を見ればわかるが、中高域を受け持つドライバーの振動板と
ウーファーの位置関係はかなり離れている。
ホーン型ということもあり、中高域が後ろに配置されている。
とうぜんウーファーからの音とドライバーからの音には時間差が生れる。
同軸ユニット構造とすることで、発音源の一体化をはかっても、これでは効果も薄れる。
デジタル器材が進化し安価になった今なら、
デジタルチャンネルデバイダーを用いてのマルチアンプ駆動で、
ウーファー側にディレイをかけて補正するところだが、
77年当時で、しかもマルチアンプではなくアンプ1台で、
同じことを実現するのは無理のように思われていた。
UREIは独自のネットワーク技術で時間差を補正している。
このネットワークの存在と、
604-8Gのオリジナルのセルラホーンを、独自の濃い水色のホーンへの変更のふたつからは、
鮮やかな印象を受けた。
このネットワーク技術をタンノイの同軸型ユニットにも採用したら、
素晴らしい音が聴けるに違いない、と当時中学生だった私は、そんなことを想っていた。
当時はどういう技術なのか具体的なことはまったくわからなかったが、
UREIはいまJBLの一部門であるため、JBL Proのウェブサイトにアクセスすれば、
813のネットワークの回路図をダウンロードできる。
813だけではなく、QUADのESL63も、この場合、ネットワークとは言えないが、
デジタル技術ではなくアナログ技術で、時間差をつくりだすことと、
同心円上に8分割に配置された固定電極の採用で、
平面波しか出せないコンデンサー型スピーカーから、中高域のみ球面波を可能としている。
ESL63もコイルの複数使用での実現である。
ESL63は球面波を実現したと言われるが、
この動作によって生れるのが、ほんとうに球面波なのかは、すこし疑問に思う。
たしかに球面波に近いと思うのだが……。
UREIの813とQUADのESL63を例に挙げたが、
技術書に書かれていることだけでなく、実際の製品から学べることは多い。
技術書に書かれていることだけがすべてではないということである。