Archive for category イコライザー

Date: 10月 3rd, 2014
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(音の純度・その2)

グラフィックイコライザーもパラメトリックイコライザーも積極的に調整する器材である。
それをまったく調整せずに、ただそれまでのシステムに挿入する。
それでは、イコライザーも、イコライザーを接続するために必要なケーブルも、余分なものということになる。

余分なものがあれば、電気的な音の純度は低下する。
そんな当り前すぎることを指摘して「イコライザーは……」といわれても、私は納得しない。
けれど、世の中にはそれで納得してしまう人がいる。おしかな話だ。

これは比較試聴とはいえない。
イコライザーに関しては、きっちりと調整した状態で、
イコライザーを挿入した音と、外した音を聴き比べることが、正しい比較試聴ということになる。

イコライザーの適正な調整は容易いことではない。
集中的に調整していくことが必要だし、長い時間をかけてじっくりと調整していくことも求められる。

そうやって調整されたイコライザーは、音の純度を低下させるどころか、向上させることがある。
ある、というよりも、向上させるまで調整すべきもの、ともいえる。

つまりイコライザーは、スピーカーが置かれた環境による影響をうまく抑えることで、音の純度を高めてくれる。
電気的・電子的な音の純度は、わずかとはいえ低下する。
けれど、音はスピーカーから聴き手の耳に到達するまでに距離がある。
その間に、さまざまな影響を受け、音響的な音の純度は低下する。

よほど理想的なリスニングルームでないかぎり、そうである。
ヘッドフォンでのみ聴くのであれば、イコライザーは余分なモノということになろう。
けれど、多くのオーディオマニアはヘッドフォンを使うことはあっても、メインはあくまでもスピーカーである。

ならば、音の純度とは、いったいどういうことなのかを、いまいちど考え直してみる必要がある。

Date: 10月 2nd, 2014
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(音の純度・その1)

周波数特性を電気的に変化させるイコライザーの類を毛嫌いする人は、いまも昔もいる。
その理由として、必ず出てくるのが「音の純度が低下する」ということだ。

グラフィックイコライザーにしろパラメトリックイコライザーにしろ、
システムに追加することで、信号はそれまでなかった回路を通過することになる。

音の純度、それに鮮度も低下するから、余分(ほんとうにそうだろうか)なモノは挿入しない、
そういう考え方は、絶対的に正しいように思える。

どんなに電子回路技術が進歩しようと、イコライザーのために必要な回路がシステムに挿入されれば、
まったく音が変化しない、ということはありえない。

ずっと以前のイコライザーよりも、いまのイコライザーは進歩しているといえ、
イコライザーをシステムに追加するにはケーブルも余分に必要になる。
接点も増える。
そういったことも含めて音の純度・鮮度は、(わずかとはいえ)確かに低下する。

とはいえ、これはあくまでも電気的・電子的な音の純度である。
スピーカーから出てくる音としての純度とは、必ずしも同じとはいえない。

でも、イコライザーは追加すれば音は変化する。
出てくる音としての純度も同じことではないか──。

そうではない。
こういう比較試聴の時に、イコライザーのツマミは0のところにある。
つまり周波数特性はフラットのまま。
機能的に未使用の状態で、音の純度が低下する、という。

Date: 6月 12th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その11)

BOSE博士が不満をもったヴァイオリンの再生が、
いったいオーケストラにおけるヴァイオリンなのか、弦楽四重奏におけるヴァイオリンなのか、
それともヴァイオリン・ソロなのか、
そのあたりははっきりとは、どこにも書いてない。

だから勝手な想像でしかないけれど、
私がこのエピソードを読んだ時に頭に浮んでいたのは、ヴァイオリン・ソロについてだった。

ヴァイオリンの再生は、たしかに難しい。
それはオーケストラにおけるヴァイオリンでも、ソロであってもそうなのだが、
ソロのほうが気になるとこがいくつもありすぎて、
ヴァイオリン・ソロの再生は、いまでも難しいと感じている。

ヴァイオリン・ソロも、モノーラル録音よりもステレオ録音になって、
難しさはある面で難しくなってきたのではなかろうか。

ヴァイオリンは、その音の放射パターンが音域によってかなり変化する。
これも含めてヴァイオリンの音色は形成されていることはわかっているけれど、
このことがステレオによる再生面で難しさにもなっている。

Date: 6月 12th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その10)

BOSE・2201は半径が22インチの1/8球体。
専用イコライザーとパワーアンプも内蔵しているわけだから、
それほどサイズとしては大型とはいえない、と思う反面、
見慣れぬ形状のスピーカーゆえに、実際に部屋に置いたときに、
どういう印象を抱くのかは、正直想像しにくいところがある。

形状的にもコーナーに設置することになるだろうから、
スペースファクターは悪くはない、といえる。

エンクロージュアの製作は大変だろうな、と思う。
とにかく2201は60セット程度しか売れなかった、らしい。

901はBOSE博士が二週間こもりっきりで考え出したアイディアを基に開発されたスピーカーシステムで、
2201の22本のフルレンジユニットは半分以下の9本に減り、
サイズも、そして見た目も、2201よりもずっと家庭に受け入れやすいモノとして仕上っている。

2201のコンセプトと901のコンセプトは完全に同じものとはいえないにしても、
まったくの別物のスピーカーシステムというわけではない。
その意味で、901は2201のコンパクト化に挑んだがゆえに誕生した形態ともいえるのかもしれない。

BOSEはボストンにある。
ボストンといえば、ブックシェルフ型スピーカーの元祖であるアコースティック・リサーチ(AR)もそうである。
そのことが901が、あのサイズにまとめられたのにどこかでつながっていくのかもしれない。

901は成功した。

BOSE博士が学生のころに、ヴァイオリンの再生がひどく悪かったことから始まったともいえるBOSE。
ふり返ってみると、901の音はたびたび聴いている。
にも関わらずヴァイオリン・ソロを聴いたことがないのに気づいた。

Date: 6月 12th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その9)

BOSE・901は1967年に発表され、翌68年から発売されている。
これだけ長い間、いまも現役のスピーカーシステムは他に何があるだろうか。
もう40年以上、小改良を何度か受けているというものの、
基本的な形・構造にほとんど変化なく、いまもBOSEのトップモデルである。

901に続くロングセラーのスピーカーシステムとなると、
タンノイのウェストミンスターだけだろう。

そういうスピーカーシステムなのに、いま日本には正式に輸入されていないということを、
日本のオーディオマニアとして、どう受けとめるべきなのだろうか。

901はBOSEを代表するスピーカーシステムではあるが、
BOSEの最初のスピーカーシステムではない。
これはBOSEの広告にも使われていたのでご存知の方も多いだろう、
1/8球体のエンクロージュアに22本のフルレンジユニットを取り付け、
疑似呼吸体を目指したスピーカーシステムである。
1966年に世に登場している。

このスピーカーシステム、2201の開発時のエピソードも、
オーディオ雑誌に何度か記事になっている。

BOSE博士がまだ大学生だったころ、
オーディオを購入し、ヴァイオリンのレコードをかけたところ、あまりにもひどかった。
それで疑問を抱き、音響に関する勉強を始めたことがきっかけとなっている。
これが1956年のこと。価格はペアで2000ドル。

いい音がしていた、ときいている。
けれど商業的には成功とはいえず、1967年ごろのBOSEは経営に行き詰まる。
そして登場したのが、901である。

Date: 6月 11th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その8)

1970年代の前半、BOSEの輸入元はラックスだった。
ラックスはB&Wのスピーカーも輸入していたことがある。

1972年ごろの、そのラックスの広告に、
「日本で苦戦しています」というキャッチコピーがつけられて、
BOSEの901が、日本市場で良さが認められにくく苦戦していることを訴えていた。

このころは、まだオーディオに関心をもっていなかったけれど、
日本のそのころの住宅事情を考えても、
901は、なかなか理解されにくいコンセプトのスピーカーシステムである。

70年代後半になり、ボーズコーポレーションが取り扱うことになった。
そのころは901の広告は、著名な人が使っている実例をだったり、
海外のオーディオ雑誌で高い評価を得ていることの紹介だったりした。

音場再生ということを厳密に考えれば、
録音されたプログラムソースには、録音現場の音場に関する情報が含まれている。
充分に含まれいてることもあれば、わずかな情報量だったりすることもあるにせよ、
とにかく録音現場の音場に関する情報はなにがしか記録されている。

そのレコードを再生する聴き手のリスニングルームにも、
部屋の大小、部屋のつくりなどによって異ってくるものの、
やはりここにも音場空間が存在し、
録音の音場と再生の音場がまじり合うことになる。

901のようなスピーカーシステムは、そこにスピーカーの音場といえるものがはっきりと附加される。

狭い理屈だけで考えれば、901による音場はよけいなものとして受けとめられる。
それに専用イコライザーを使わなければならないことも、901への抵抗となっていたはず。

901はロングセラーを続けている。
けれど私の知る人で、901を鳴らしている人はいない。
いまも受け入れられにくいスピーカーであることに変りはないようだ。

そのためなんだろう、いま日本では901は取り扱われていない。
BOSE本社ではいまもつくられている、にも関わらず。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その7)

BOSEの901というスピーカーシステムへの興味はそこそこあったものの、
901の音そのものについては、すこしがっかりしていたところもあった。

最初に聴くことができたのは901IIIだったか。
条件も決していいとはいえなかったし、それで901の本領発揮とはいえないことは重々わかっていたものの、
とにかく音の品位が、イギリスのBBCモニター系スピーカーの音にそのころは強く魅かれていただけに、
いっそう乏しいように感じられた。

これでスピーカーユニットが、たとえばジョーダン・ワッツのModule Unitだったら、
きっといい音がするんじゃないんだろうか……、そんなことを思ったこともある。

ステレオサウンドにはいり、901を聴く機会はけっこうあった。
井上先生が気に入っておられたことも関係しているし、
井上先生が鳴らす901の音は、たしかによかった。

そして901もシリーズを重ねるごとに、
以前は不満に感じていた音の品位やしっとりした感じもけっこう表現できるようになってきた。
そうなると、901って、いいスピーカーだなぁ、と思うようになってきていた。

特に井上先生がマッキントッシュのMC275にCDプレーヤーを直接接いで鳴らした901の音は、
こんな書き方は誤解を招くことは分かっていても、それでもあえて書けば、
小口径フルレンジと真空管アンプの相性の良さは、捨て難い魅力がある。

こんな感じで901は鳴ってくれるんだ、と聴き惚れていた。
(この試聴は記事にはなっていない。)

そう思うようになると関心は自然と強くなっていく。
901の良さをもっと引き出すには、正面のフルレンジユニット、
後面のフルレンジユニット──これも内側と外側にわけて──、
計3つの、イコライジングを含めた補整が必要なのかもしれない。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その6)

BOSE・901はインピーダンスが0.9Ωというスピーカーユニットを9つ直列接続することで、
一般的なスピーカーシステムとほぼ同じインピーダンス8Ω(0.9×9=8.1)としている。
そのため専用イコライザーによるイコライジングはすべてのユニットに対して作用する。

けれどBOSEの広告を見ていると、
これを実現するにはスピーカーシステムを片側9本用意するだけでなく、
パワーアンプも1台では無理がある。
1本のスピーカーシステムに対して1台のパワーアンプとまでいかなくとも、
正面を向いているスピーカーシステムに1台、
後向きのスピーカーシステムには2本を並列接続して、それを直列にすれば8Ωになる。
つまり4本に1台のパワーアンプをあてる。
そうすれば全体で3台のステレオ・パワーアンプでいけるわけだ。

こういうパワーアンプ駆動にすれば、
正面を向いているスピーカーシステムにはイコライジングは不必要なのではないか、と思えてくる。
イコライジングは後向きのスピーカーシステムに対してのみ必要なのではないのだろうか。

むしろ、こういうイコライザーのかけ方が本来のやり方なのではないのか。
だとすれば、BOSE・901も、
正面を向いているユニットに対してはイコライジングなしの信号を、
後向きの8本のユニットに対してのみイコライジングありの信号を入力することで、
イコライジングの補整は変ってくるだろうし、より901の独自の放射方法の良さが活きるのではないのか。

こんなことを考えていたことが、いまここで書いている妄想的なことにつながっていっている。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その5)

こんな、傍から見れば馬鹿げたことでしかないのを考えるようになったのには、
あるきっかけがある。BOSE・901の広告である。

1979年ごろ、オーディオ雑誌に載っていたBOSE・901の広告に、
ブックシェルフ型スピーカーを片チャンネルあたり9本、両チャンネルで18本を並べたものがあった。

「生演奏の再現には、これだけのスピーカーが必要です。」というキャッチコピーがついていた。

ブックシェルフ型スピーカーはアメリカ製と思われる、いわば標準的なサイズのもので、
バスレフ型の3ウェイ仕様。
これを3段重ねにして3列。これが片チャンネルにあたる。
そして中央の1本だけが正面を向き、残りの8本は後向きである。

つまりBOSE・901のスピーカーユニット配置と同じことを、
3ウェイのブックシェルフ型スピーカーで実現しようとすると、
こういう大変な規模になる、ということでもあり、
こういう大変な規模を、BOSE・901は常識的なサイズにまとめあげたともいえる広告である。

この広告を見た時、私は高校生。
なんと馬鹿げたことを……、と思うよりも、実際にこれを試してみたい、と思った。
思っただけでなく、これを実際に試聴してほしい、とステレオサウンド編集部に手紙も書いている。
それもブックシェルフ型ではなく、できればJBL・4343を片側9本、計18本集めてやってほしい、と。

BOSE・901には専用イコライザーが付属している。
このイコライザーによる周波数特性の補整なしでは、
901の音は中域だけに音のエネルギーが集中したナロウレンジである。

Date: 5月 11th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その4)

なぜこんな大がかりで、思いついた時には実現がほぼ無理なことを考えたかというと、
グラフィックイコライザーである帯域を絞ったとする。
例えばテクニクスのグラフィックイコライザーSH8065は±12dBとなっている。
100Hzのノブを下まで下げれば12dB減衰する。

100Hzといえば、ほとんどのスピーカーシステムでウーファー受け持つ周波数である。
ウーファーのカットオフ周波数が低く設定される4ウェイ構成であっても、
100Hzはウーファー受け持っている。

JBLの4343は300Hzがミッドバスとのクロスオーバー周波数となっているから、
グラフィックイコライザーで100Hzを12dB減衰させたとして、
本当にきっちり12dB減衰するのだろうか、という疑問がまずあった。

つまり4343のウーファー2231Aは、音楽信号に含まれていれば、
100Hz近辺の信号を音に変換している。
80Hzの音も125Hzあたりの音も2231Aが出していて、
100Hzの音を12dB減衰させたとしても、100Hz近辺の音が鳴っていれば、
2231Aのコーン紙は近辺の周波数の振動の影響を受けているわけだから、
きっちり100Hzを中心とした1/3オクターヴの帯域幅を12dB減衰させることはできないのではなかろうか、
そう考えたわけである。

ならば100Hzの音をきっちりグラフィックイコライザーでの減衰量と一致するようにするには、
グラフィックイコライザーが33素子であるならば33ウェイとするしかない。
それで、こんな馬鹿げたことを考えていた。

そしてこれならばある帯域の音を完全に鳴らないようにもできる。
100Hzの帯域を受け持つパワーアンプの電源をきるなり、入力にレベルコントロールがあれば絞りきればいい。
そうすればグラフィックイコライザーでの100Hzと表示されている帯域に関しては完全に削りとることができるし、
櫛の歯が何本も欠けたような周波数特性もつくれる。

そういう音を聴いてみたい、確認したい、と思っていた時期があった。

Date: 8月 7th, 2012
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その3)

スピーカーはどうするかといえば、
アンプに関係する問題よりも、こちらはずっと、この妄想を思いついた時から実現は可能といえる範囲におさまる。

理想をいえば、あるひとつのユニット、
たとえば20cm口径のフルレンジで20Hzから20kHzまで完全にカバーできるユニットが存在するのであれば、
そのユニットを11発、縦方向にスタックして3列ならべればいい。
かなり背の高いシステムになるけれど、一般家屋に収まらないほどの大きさではない。

でも現実にはそういうユニットは存在していない。
そうなるとウーファー、スコーカー、トゥイーター用に開発されたユニットをうまく組み合わせてつくることになる。
33個のユニットを使う、いわば33ウェイだが、なにもすべての帯域に異るユニットを使う必要はない。
同じユニットを複数個使っていけば、それで充分である。

たとえば46cm口径ウーファーを5本用意して、16Hz、20Hz、31.5Hz、40Hz、50Hzの5バンドを受け持たせる。
その上に30cm口径のウーファーなりフルレンジユニットを8本持ってきて、
63Hz、80Hz、100Hz、125Hz、160Hz、200Hz、250Hz、315Hzの8バンドを受け持たせる。
38cmユニットも30cmユニットも縦に並べる程度であれば、
エンクロージュアの高さも部屋に収まらないほどの高さにはならない。

さらにその上に20cm口径のフルレンジ、もしくは16cmのフルレンジを持ってくる。
400Hz、500Hz、630Hz、800Hz、1kHz、1.25kHz、1.6kHz、2kHzまでか、
その上の2.5kHz、3.15kHzにも使う。

4kHz以上の帯域となるとドーム型でもいいと思うし、
ここまですべてコーン型ユニットを使っているのだから、すべて同じ形式のユニットで揃えるという手もある。
コーン型トゥイーターを使うとする。
これで33個のユニットを搭載したスピーカーシステムの構想(妄想)となるわけだ。

かなり大型のシステムとなるし、ユニットの数も多いからユニットを揃えるだけでもけっこうな金額となる。
けれど、決して実現が非常に困難というわけではない。
それに世の中には、すでに33個以上のユニットを搭載したスピーカーシステムは、いくつか存在している。

こんなスピーカーに33台のDクラスのパワーアンプを組み合わせることで、
1/3オクターヴのグラフィックイコライザーの33個のスライドボリュウムが、
それぞれのユニットにいわば直結しているかたちになるわけだ。

Date: 8月 3rd, 2012
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その2)

グラフィックイコライザーは櫛形フィルターの集合体である。
1/3オクターヴ33素子のグラフィックイコライザーは、
33の中心周波数をもつバンドパスフィルターの集合体といえる。

バンドパスフィルターを搭載したオーディオ機器には、
グラフィックイコライザーの他にデヴァイディングネットワーク(チャンネルデヴァイダー)がある。
正確に記せば、2ウェイのデヴァイディングネットワークはハイパスとローパス、
ふたつのフィルターの組合せであってバンドパスフィルターはないのだが、
3ウェイ以上となるとバンドパスフィルターが加わる。

そんなふうにグラフィックイコライザーをみれば、
デヴァイディングネットワークの帯域を分割を、2〜4といった数ではなくて、
極端に増やした33にしたものと捉えることもできなくはない。
強引にそうだと考えて、
それぞれのバンドから出力端子があれば、
1/3オクターヴ(33素子)のグラフィックイコライザーは、
33ウェイのデヴァイディングネットワークへとなっていく。

こんなモノに実用性は、はっきりいってない。
でも、こんな妄想を考えたのは、
グラフィックイコライザーのそれぞれの帯域のスライドボリュウムを動かした時の音の変化を、
どう聴き取るのか、からの発想である。

つまり33素子のグラフィックイコライザーならば、
33ものスピーカーユニットを搭載したスピーカーシステムを用意する。
そしてひとつひとつのユニットに専用パワーアンプも用意して、
33台のパワーアンプは、それぞれグラフィックイコライザーのそれぞれのバンドの出力端子に接続する。
グラフィックイコライザーが、ここではデヴァイディングネットワークを兼ねることになるので、
スピーカー側にLCネットワークは必要としない。

ただ33台のパワーアンプが必要となり、
30年前に、こんなばかげた妄想をしていたときには、
これがネックとなり実現困難な実験となっていた。

けれど現在はなかなか優秀なDクラスのパワーアンプが登場してきた。
Dクラス・アンプであれば、33台のパワーアンプを用意することも、
30年前と比較すれば、ずっとそれは容易なことといえる。

Date: 8月 2nd, 2012
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その1)

テクニクスが1983年ごろに1/3オクターヴのグラフィックイコライザーSH8065と、
その上級機のSH8075を、それぞれ79800円、100000円で発表した時には、
オーディオ界のちょっとしたニュースになるくらいの、衝撃的な価格設定だった。

それまで1/3オクターヴのグラフィックイコライザーといえばプロ用機器の世界のものであり、
価格も試してみたいから、ちょっと手を出すには充分高価なものだった。

その1/3オクターヴのグラフィックイコライザーを、100000円で出してくれた、と言いたくなる。
もっともいまではもっと安い1/3オクターヴのグラフィックイコライザーがいくつか存在している状況であるから、
10万円のグラフィックイコライザーの登場の衝撃は、
この時を知らない世代にとっては実感として理解しにくいことかもしれない。

SH8075が登場してしばらくたったころに、ばかげたことを考えていた。
あまりにも馬鹿げていたので、当時だれにも話したことはない。
本人もすっかり忘れていた。
それを、別のことを考えていた時に思い出した。

どんなばかげたことかというと、
グラフィックイコライザーの出力を1/3オクターヴで出力するというものだ。
SH8065は16Hzから25kHzまでを33分割している。
だからSH8065のフロントパネルには片チャンネルあたり33個のスライドボリュウムが並ぶ。
この33分割の中心周波数は16Hz、20Hz、25Hz、31.5Hz、40Hz、50Hz、63Hz、80Hz、100Hz、125Hz、
160Hz、200Hz、250Hz、315Hz、400Hz、500Hz、630Hz、800Hz、1kHz、1.25kHz、1.6kHz、2kHz、
2.5kHz、3.15kHz、4kHz、5kHz、6.3kHz、8kHz、10kHz、12.5kHz、16kHz、20kHz、25kHzとなっている。

これらの周波数を中心周波数とする1/3オクターヴの信号を出力する。
つまり片チャンネルあたり33個のライン出力がリアパネルに並ぶことになる。
パワーアンプもその数分用意する。
ということは、もちろんスピーカーユニットも片チャンネルあたり33個並べる、
という妄想をしていたのが、いまから約30年前の私だった。

Date: 7月 23rd, 2011
Cate: BBCモニター, イコライザー

BBCモニター考(余談・グラフィックイコライザーのこと)

グラフィックイコライザーは進歩してきている。
まず素子数が増えてきて、S/N比も向上してきて、最近では低価格化の方向へも向っている製品もある。
そしてアナログからデジタルへと処理そのものが変化している。

道具としてグラフィックイコライザーが変化・進歩してきているわけだから、
グラフィックイコライザーに対する見方も、変化していって当然だと思う。

昔のグラフィックイコライザーのイメージを引っ張ったまま、
現在の良質なグラフィックイコライザーを判断することはできない。
グラフィックイコライザーに対する捉え方・考え方は、柔軟でありたい。
必要と感じたら使ってみる、試してみたいと思ったら臆せず使ってみる、というふうに、である。

ただひとつ気をつけたいのは聴取位置からすぐに手の届くところにグラフィックイコライザーを、
使いはじめたころは、どうしても置きたくなる。
早く使いこなせるようになるためにも、すぐにツマミをいじれるように、と近くに置いてしまう。
このやり方は、ある期限を決めておいたほうがいい。
そうしないと、いつまでたっても椅子から立たずにいじれることに、面白さとともに楽さをおぼえてしまうからだ。

それまでだったら、どこか気になる音が出ていたら、こういう音を出したいと思ったら、
椅子から立ち上がりスピーカーのところに行ったり、アンプやプレーヤーのところへ向った。
それがグラフィックイコライザーが聴取位置のすぐ近くにあれば、
つい楽な方を選んでしまうことに、本人が気がつかぬうちに陥っている。
そうなってくると、グラフィックイコライザーに頼り過ぎることへ向う危険性が生れてくる。

グラフィックイコライザーは、アナログだろうがデジタルだろうが電気的に信号処理することに変りはない。
この電気的だけの信号処理に頼り過ぎてしまうと、つまり電気的だけで合せてしまうと、
ある録音(レコード)ではうまくいくけれども、もっといえば、あるレコードのある一部分(パッセージ)だけは、
とてもうまくなっても、そこからはずれてしまうと精彩を欠いた音になったり、
そのまま違う録音を鳴らしたら、ひどい場合には音楽を変質させてしまうこともないわけではない。

そうなると、今度は、いまどきのグラフィックイコライザーの中にはメモリー機能を搭載しているものもあるから、
音楽のジャンルや録音、レーベルの違いなどによって、イコライザーカーヴをいくつも設定して、
それらを再生するたびに違うカーヴを呼び出すことになる。

それでも音楽は時間とともに変化していくものである。ひとつの曲の中でも音楽は変化している。
グラフィックイコライザーに頼り過ぎた使い方から生じたカーヴは、いわゆるスタティックなバランスであって、
ごく狭い範囲ではそれが活きることはあっても、動的な音楽の変化には対応し切れず、
中には曲の途中でカーヴをいじるということになる。

こうなってしまったら、グラフィックイコライザーに頼り過ぎである。

椅子から立ち上ること、離れることを忘れてしまっては、うまくいかない。
それに似た陥し穴が、いまPCオーディオ、コンピューターオーディオと呼ばれているものにもある。

Date: 4月 26th, 2011
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その13)

グラフィックイコライザーはスライド式のツマミが横にいくつも並ぶ、というのが通常のスタイルだ。
ある周波数のツマミを上げたり下げたりして、複数のツマミがカーヴを描く。
そこから、グラフィックイコライザーという名前がきているわけだが、
ここまで述べてきたように、ツマミを動かすことで変化するのは、振幅特性と位相特性であって、
ツマミが表わしているのは、振幅特性のみ、となる。

これでは片手落ちの「グラフィック」である。
その12)に書いたように、
周波数特性は振幅項と位相項をそれぞれ自乗して加算した値の平方根であるからだ。

そしてもうひとつ。再生側でグラフィックイコライザーを使用する際は、
おもにスピーカーシステムの特性をふくめて、リスニングルームの音響特性を補整する。
たとえば中域を抑えたいと思い、グラフィックイコライザーでそのへんの帯域のツマミのいくつかをまとめてさげる。

グラフィックイコライザーのツマミの並びは、中域のレベルを下がった状態を示している。
けれど目指している音は、基本的にはフラットな音であって、そのために中域を下げたわけである。

つまりスピーカーシステムの特性、部屋の特性を補整するために使い、
ツマミの並び方は、その補整カーヴであって、
いま出ている音のおおまかな傾向を表しているわけではない、ということだ。
ようするに補正後の特性(つまりスピーカーシステムから出てくる音の特性)を表示しているわけではない。

このふたつの理由から、私は、グラフィックイコライザーのデザインは、
再検討されるべきものだと考える。