Archive for category デザイン

Date: 6月 15th, 2018
Cate: デザイン

表紙というデザイン(テクニクスのSL1000Rの場合)

やはりanalog誌の表紙も、テクニクスのSL1000Rだった。
5月発売の管球王国、
6月になってからステレオサウンド、無線と実験、
すべて表紙はSL1000RかSP10Rだった。

どの表紙がいちばん良かったか。
やはりステレオサウンドでしょう、という人が多いのかもしれないが、
私は、あえて順位をつけるなら、analogである。

写真として優れていたから、という理由ではない。
ターンテーブルシートを装着した状態の写真であったからだ。

管球王国の表紙もターンテーブルシートは装着されているが、
アナログディスクが載った状態なので、ターンテーブルシートの存在はほぼ感じない。

SP10R、SL1000Rが発表されたときから感じていたのは、
なぜターンテーブルシートを外した写真ばかりなのか、だった。
ターンテーブルシートは単体での写真だった。

どの写真も真鍮製のプラッターを露出させたままだった。
ターンテーブルシートがなく、
真鍮製のプラッターの上にじかにアナログディスクを置くのが、
テクニクスの推奨する聴き方だとすれば理解できるが、どうもそうではない。

なのに、どのオーディオ雑誌もゴム製のターンテーブルシートを無視している。
ステレオサウンド 207号では表紙だけでなく、
三浦孝仁氏の紹介記事中での写真でもターンテーブルシートは無視されている。

アルミ製のベースの色と真鍮製の色とのコントラストを強調したいのか、
それにしてもくどいし、そればかり見せられても……、と思っていた。

なぜ実使用のスタイルではないのか。
そう思ってきた人は少なくないはずだ。

analogだけはターンテーブルシートを無視していなかった。

Date: 5月 17th, 2018
Cate: デザイン

鍵盤のデザイン(その3)

菅野邦彦氏による未来鍵盤の記事を読んで、
誰もが菅野邦彦氏の演奏で、未来鍵盤のピアノ演奏(音)を聴いてみたい、と思うだろう。

オーディオラボでの録音を聴いてきた人ならば、絶対に思うはずだ。
私もそうだった。

それもできればDSD録音で聴いてみたい、と思った。
このことは同時に思ったことがある。

この鍵盤は、バッハの曲のための鍵盤である──、
そう思えてならなかった。
特に理由はなく、直観でそう感じた。

未来鍵盤(王様鍵盤)でのバッハ演奏。
できれば平均律クラヴィーアを聴きたい。

Date: 5月 13th, 2018
Cate: デザイン

鍵盤のデザイン(その2)

一年前に(その1)を書いたままだった。
未来鍵盤のピアノを、菅野邦彦氏の演奏で聴きたい、と思って一年がすぎたわけだ。

GQ JAPANの記事「ピアノ300年の歴史を変える──未来鍵盤が音もデザインする」、
いったいどれだけの人が読んだのだろうか。

この記事を読んだときには、「菅野邦彦」で検索することはしなかった。
われながら不思議に思うけれど、やらなかった。

今日、やってみたら、菅野邦彦氏の公式サイトがあるのに、いまさらながら気づいた。
このサイトによると、未来鍵盤のピアノがあるのは、下田ビューホテルであるのがわかる。

ライヴスケジュールも確認できる。
東京や各地でのライヴの当日と翌日以外は、連日行われている。

菅野邦彦氏の公式サイトを見ていたら、クラウドファンディングが行われていたことを知った。
5月1日で締め切られていて、目標額には達しなかった、とある。

プロジェクトは、未来鍵盤の完成形「王様鍵盤」の製作、それによる録音(CD制作)という内容。
目標額は四百万円。1/3ほどが集まった、とある。

現在ある未来鍵盤と、その完成形の王様鍵盤とには、
どれだけの違いがあるのか、はっきりしないが、
こういうプロジェクトをやったことのない者が思うに、
なぜ、ふたつのことを、ひとつのプロジェクトでやろうとしたのか、という疑問である。

まず未来鍵盤の良さを伝えることだけに集中すべきだったのではないのか。
GQ JAPANの記事によれば、未来鍵盤は完成している、とあるのだから。

Date: 4月 24th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その22)

そこにあったハンガーは、たしかにハンガーなのだけれど、
いわゆるハンガーではなかった。

いろいろなモノがデザインされていることは、
まだ若造だった私でもわかっていたけれど、
ハンガーがこんなに美しくデザインされるなんて──、
想像をはるかに超えていた。

買おうと思えば変える値段だった、と記憶している。
でも買わなかった。

いつか、この美しいハンガーが似合うような環境を実現したら……、
そんなことを思って、買わなかった。
(もっとも、オーディオを最優先していたことも理由なのだけれど)

後になって、その時買っておかなかったことを後悔する。
後悔したときに、そのハンガーをデザインしたのが、誰なのかを知った。

倉俣史朗氏のデザインだった。
その店は、倉俣史朗氏のデザインしたモノばかりがあった(はずだ)。

そのころは倉俣史朗氏の名前も知らなかった。
知らなくても関係なかった。

あれだけ美しいハンガーを見たのは、それ以降ない。
そしてアクリルは、こんなにも美しく仕上がるのか、と感嘆した。

これを書くにあたって、Googleで「倉俣史朗 ハンガー」で検索しても、
私の記憶にあるハンガーは出てこない。
記憶違いなのか……、とも思うけれど、あれだけインパクトのあるハンガーのことを、
その材質のことを勘違いしているとも思えない。

Date: 4月 24th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その21)

六本木交叉点を東京タワーに向って進む。
しばらく行くと、ステレオサウンドが以前入っていたビルがある。
さらに進むと、AXISビルがある。

私がステレオサウンドで働き出したのは1982年1月。
AXISビルは1981年9月23日にオープンしている。

出来たばかりといえる、真新しいそのビルは、
田舎から出てきて、一年弱の私にとっては、ひとりで入るには気後れしそうな感じがあった。

AXISビルの地下一階に和食の店があった。
そこには、先輩に連れられて昼食に行っていた。
いまも和食の店は入っているが、違う店である。

週に一回は必ず行っていた。
先輩と一緒だから、最初のうちは行けた、ともいえる。
慣れてきてからはひとりでも行くようになったけれど、
それでもAXISビルのすべてを見てまわるのは、まだまだ早いような気がしていた。

地下一階の和食の店のすぐ近くの店は、特にそうだった。
ガラス張りだから和食の店に行くために、その店の前を通る。
どんなモノが置いてあるのか、なんとなくわかる。

近寄り難い雰囲気を、勝手に感じていて、なかなか中に入る勇気が出てこなかった。
入ってみたい、とは思ってても、入れなかった。

若さはバカさ、で、思い切って入ってしまえばいいんだ、と言い聞かせても、
いつも素通りするばかりだった。

どのくらい素通りしただろうか。
なぜ入ってしまったのか、いまとなっては思い出せないが、
素通りしなかった日がある。

いまもはっきりと憶えているのは、ハンガーである。
なんて素敵なハンガーなのか、と思った。

Date: 4月 24th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その20)

瀬川先生は、ダストカバーの項目のひとつ前、コントロールスイッチのところで、
こんなことを語られている。
     *
 それから感覚的なことをいえば、さっきいったことの繰り返しになるんだけれども、パワースイッチ、あるいは速度調整のツマミを押し、あるいは回したときのボタンなりツマミなりレバーなりの感触──指ざわり──というものが、非常に冷たいメカニックな感じでなく、どこか暖かみというか、柔らかさを感じさせるオーガニックな感触であってほしい。
 つまり、レコードというビニールの材料を取り出して、ターンテーブルに載せる。このレコードを触った感触というのはある柔らかい感覚をもっている。その感触が手に残っている間に、同じ手でレバーなりボタンをなりをいじるのだから、そこに極端な違和感があるのは、ぼくはとってもおかしなことだと思う。いま柔らかいビニールを持った手が、こんどはすごくとがった、シャープなボタンをカチンと押すというそういう感覚は、ちょっとおかしいですね。非常にドライにストンとスイッチが入るよりも、ある種の粘りみたいなものが感じられる、やはり一種のオーガニックな動き方の方が好ましい。レコードの感触がそのまますべてに延長されているというのがいいプレーヤーだということを、ぼくは非常に強調したいわけです。
     *
EMTの930st、927Dstはそうだった。
レバーの感触には、ある種の粘りがある。
使っている(いた)人ならばわかるはずだ。

930st、927Dst、どちらにもダストカバーはないから、
使っている時には気づかなかったが、
ダストカバーには、レコードの感触が残っているうちに触れる。

このことを無視して、ダストカバーの材質、形状、それに操作性は語れない。

ダストカバーの材質が冷たく硬いもので、しかも角がとがっていたら……。
若いころは、プレーヤーのダストカバーがアクリル製が大半なのは、
安く作れるからだ、と思っていた。

確かに大量生産によって安価に生産できていたはずだが、
そればかりがダストカバーがアクリル製で、
ああいう形状なことの理由のすべてではないではないことに気づいた。

Date: 4月 24th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その19)

瀬川先生がダストカバーについて述べられていたのは──、
すぐに思い出せるのはステレオサウンド 40号の特集「世界のプレーヤーシステム最新50機種の総試聴」、
「瀬川冬樹の語るプレーヤーシステムにおける操作性の急所」である。

以下の項目について語られている。
 プレーヤー全体の大きさ
 インシュレーターとキャビネット
 ターンテーブルの形状
 ストロボスコープ
 センタースピンドルの形状
 トーンアーム
 トーンアーム(ヘッドシェル)
 トーンアーム(アームレスト)
 トーンアーム(アームリフター)
 トーンアーム(カウンターウェイト)
 コントロールスイッチ
 ダストカバー

ダストカバーには、性能的な問題と、
使ったときの心理的、機能的な問題がある、とまず語られている。

性能的なことでいえは、ペラペラなつくりであれば、ダストカバーを閉じた状態で、
ハウリングを誘発(もしくは増幅)することがある、と指摘されている。

40号では、「操作性の急所」がテーマとなっているから、
心理的、機能的な問題についてがメインである。

こう語られている。
     *
 ダストカバーの動き方の理想というのは、使用者の好みによって、どの角度でもとまってくれるのがいいのだけれども、それは普通の機械では無理ですね。しかしできれば、一番開けたところで90度まで開いて、そこから45度くらいまでの間ではフリーストップするというのが理想なのですけれどね。
 それから閉まる直前でバタンと落ちるのはまずいわけです。これは気分的な問題だけじゃなくて、実際レコードに針をのせてふたを閉めようとしたときに、ちょっと手がすべってカバーがバタンを落ちれば、針が飛んでしまったりする。
 話がそれるかもしれないけれども、昔の〝クレデンザ〟という蓄音器の名器はものすごく重いマホガニーのふただったけれど、それをたたきつけるように閉めようとしても、エアーダンパーが働いてスーッと静かにおりてくる。そういう設計をしてあったわけです。しかし、 いまのダストカバーに使われている蝶番のほとんどは絶対的な大きさが小さすぎるから、この程度のメカニズムではふたの重さをカバーしきさない。ですから、ある程度ていねいに扱ってやるよりないですね。
     *
ここで語られていることも、デザインに含まれる。

Date: 4月 22nd, 2018
Cate: デザイン

プリメインアンプとしてのデザイン、コントロールアンプとしてのデザイン(その4)

私がオーディオに興味を持ち始めたころは、
セパレートアンプブームが起きはじめていたころでもある。

つまり安価なセパレートアンプが各社から登場しはじめた。
ステレオサウンドを読みはじめのころ(1976年末から)、
プリメインアンプは20万円を超える機種は、例外的だった。

海外製品では、マッキントッシュのMA6100(378,000円)、
ラドフォードのHD250(249,000円)、
ギャラクトロンのMK10(300,000円)といったモデルがあったし、
国産でも、ラックスのL100(235,000円)、サンスイのAU20000(280,000円)、
ソニーのTA8650(295,000円)、ビクターのJA820(250,000円)、
マランツのModel 1200(325,000円)などがあった。

とはいえ、これらの機種は最新機種とはいえなくなっていて、
実際にステレオサウンド 42号のプリメインアンプ総テストには登場していない。

42号から二年後あたりから、20万円を超えるモデルが、
国内メーカーからも登場しはじめてきた。

たとえばマランツのPm8(250,000円)、アキュフェーズのE303(245,000円)、
ケンウッドのL01A(270,000円)、サンスイのAU-X1(210,000円)などだ。
Pm8について、瀬川先生は52号で次のように評価されている。
     *
 今回のテストの中でも、かなり感心した音のアンプだ。この機種を聴いた後、ローコストになってゆくにつれて、耳の底に残っている最高クラスのセパレートアンプの音を頭に浮かべながら聴くと、どうしてもプリメインアンプという枠の中で作られていることを意識させられてしまう。つまり、音のスケール感、音の伸び、立体感、あるいは低域の量感といった面で、セパレートの最高級と比べると、どこか小づくりになっているという印象を拭い去ることができない。しかしPm8に関しては、もちろんマーク・レビンソンには及ばないにしろ、プリメインであるという枠をほとんど意識せずに聴けた。
     *
プリメインアンプの水準が、それまでの枠から踏み出してきて、
同価格帯のセパレートアンプに匹敵するか、部分的には上廻るようになってきた。

そのころのペアで20万円ほどのセパレートアンプといえば、
思い出せないわけではないが、それほど印象深く残っているモノはない、といえる。

つまりセパレートアンプは、プリメインアンプ(一体型)では、
達成不可能なレベルに挑むための形態であり、だからこそセパレートアンプへの要求は、
プリメインアンプへの要求とは比較にならないほど厳しくなる。

このことは、当時のステレオサウンドにも、何度か指摘されていた。
私はそういう時代を経てきている。

Date: 4月 22nd, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その18)

ステレオサウンド 48号特集
「ブラインドテストで探る〝音の良いプレーヤーシステム〟」では、
ダストカバーが付属する機種に関しては、開いた状態での写真が撮影・掲載されている。

当時の広告は、というと、ダストカバー付きの写真のメーカーは少ない。
ダストカバーは外した状態、しかもヒンジまで取り外した状態での撮影もけっこうある。

ステレオサウンドも、組合せの記事、
たとえば年末の別冊「コンポーネントステレオの世界」では、
ダストカバーは取り外しての撮影である。

瀬川先生の「コンポーネントステレオのすすめ」でも、
ダストカバーは外しての撮影である。

だから48号でのダストカバー付きの撮影は、
しかも掲載されている写真はダストカバーの一部がカットされることなく、
そのプレーヤーの全景が掲載されているのは、評価すべきことである。

これが55号の「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」では、
ダストカバーを外した撮影となっている。

ダストカバーとは、ヤッカイモノなのか。
そんな印象を、知らず知らずのうちに植え付けられていたかも……、と思えなくもない。

国産のプレーヤーならば、安い製品であってもダストカバーはついていた。
アクリル製のダストカバーがついているのだが、
だからといって、ダストカバーを特註しようとすると、意外に高くつく。

ステレオサウンドにいたころ、ある人が、
ダストカバーなしのプレーヤーのために、アクリル製のダストカバーを、
アクリル加工を専門とするところに見積もりを出してもらったことがある。

もう正確な金額は忘れてしまったが、ちょっと驚くほどの金額だった。
「アクリルなのに、そんなにするんですか?」と訊きなおしたほどだった。

大量生産だから安くできていたのであって、一品製作となると、
アクリル製ダストカバーは決して安くはない。

Date: 4月 22nd, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その17)

瀬川先生のリスニングルームの写真をみても、
ダストカバーは取り外されている。

ステレオサウンド 38号特集での写真では、
EMTの930stとラックスのPD121があるが、
930stはもともとダストカバーはないし、PD121もダストカバーは取り外されている。

その少し前の写真では、PD121ではなくテクニクスのSP10があるが、
こちらもダストカバーは取り外された状態で写っている。

世田谷のリスニングルームでは、EMTの927DstとマイクロのRX5000+RY5500。
どちらにもダストカバーはもともとない。

中目黒のマンションではパイオニアのExclusive P3だった、ときいている。
ここではダストカバーはどうされていたんだろうか。
やはり外されたままで使われていたのか、それとも……。

私もダストカバーがないプレーヤーを使ってきた。
高校生のころはデンオンのダイレクトドライヴ型で、もちろんダストカバーはついていた。
最初のころは開閉していたが、途中から取り外していた。

閉じた状態の音、開けた状態の音、取り外した状態の音を比較して、
ダストカバーはヒンジにつけることもせず、
使わない時はプレーヤーにかぶせたままにしていた。

デンオンの後に使ってきたアナログプレーヤーは、いずれもダストカバーがもともとないモノばかり。

例外はテクニクスのSL10だ。
これはダストカバーにあたる部分を含めての全体構造であるため、
取り外したりはできないからである。

Date: 4月 15th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その16)

ステレオサウンド 55号の特集2の「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」、
瀬川先生と山中先生が試聴を担当されている。
記事には、試聴中の写真が各機種毎に載っている。

山中先生はダストカバー付きだったり外した状態だったりしているが、
瀬川先生は少なくとも写真をみるかぎりではすべて外した状態での試聴である。

そこで思い出すのが、下に引用する文章だ。
     *
プレーヤーを選択するのに、しかし、必ずしも厳格な意味での音質本位で選ぶとはかぎらない。これはすでに岡俊雄氏が「レコードと音楽とオーディオと」(ステレオサウンド社刊)の中で紹介された話だが、音楽評論家の黒田恭一氏は、かつて西独デュアルのオートマチックのプレーヤーを愛用しておられた。このプレーヤーは、レコードを載せてスタートのボタンを押すだけで、あとは一切を自動的に演奏し終了するが、ボタンを押してから最初の音が出るまでに、約14秒の時間がかかる。この14秒のあいだに、黒田氏は、ゆっくりと自分の椅子に身を沈めて、音楽の始まるのを待つ。黒田氏がそれを「黄金の14秒」と名づけたことからもわかるように、レコードを載せてから音が聴こえはじめるまでの、黒田氏にとっては「快適」なタイムラグ(時間ズレ)なのである。
 ところが私(瀬川)はこれと反対だ。ボタンを押してから14秒はおろか、5秒でももう長すぎてイライラする。というよりも、自分には自分の感覚のリズムがあって、オートプレーヤーはその感覚のリズムに全く乗ってくれない。それよりは、自動(オート)でない手がけ(マニュアル)のプレーヤーで、トーンアームを自分手でレコードに載せたい。針をレコードの好きな部分にたちどころに下ろし、その瞬間に、空いているほうの手でサッとボリュウムを上げる。岡俊雄氏はそれを「この間約1/2秒かそれ以下……」といささか過大に書いてくださったが、レコードプレーヤーの操作にいくぶんの自信のある私でも、常に1/2秒以下というわけにはゆかない。であるにしても、ともかく私は、オートプレーヤーの「勝手なタイムラグ」が我慢できないほどせっかちだ。
(「続コンポーネントステレオのすすめ」より)
     *
「5秒でももう長すぎてイライラする」瀬川先生にとって、
レコードのかけかえのために閉じたり開けたりするする必要が生じるダストカバーは、
自分の感覚のリズムをを乱す邪魔な存在でしかなかったのだろう。

そのためか、55号の瀬川先生の試聴記には「デザイン・操作性」という項目があるが、
そこでダストカバーについては一切触れられていない。

Date: 4月 15th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その15)

音がこもる──、
そこまでせはいいすぎとしても、ダストカバーを閉じた状態では、
音ののびやかさがいささか損われる。

このことはなにもアナログプレーヤーにだけいえることではなく、
アンプであってもCDプレーヤーであっても、閉じた空間の筐体、
しかもその筐体ががっしりとしていると、
それは強くなってくる傾向があるように感じている。

とはいえダストカバーは大半がアクリル製とはいえ、
そこにはある程度の重量がある。
そのおかげで、閉じた状態ではプレーヤーキャビネットのf0が低くなる場合もあるのは、
「プレーヤー・システムとその活きた使い方」掲載の測定データから読みとれる。

アナログプレーヤーのダストカバーは、
スピーカーシステムのサランネットのような存在なのか。

いまでも大半のスピーカーシステムにサランネットはついている。
昔はほぼすべてのスピーカーシステムについていた。
けれど、サランネットがつけた状態で聴くのか、外した状態で聴くのか、
そのスピーカーを製造しているメーカーは、どちらを標準としているのか、
スピーカーシステムの試聴においては、このことは決して忘れてはならない。

瀬川先生がステレオサウンドで試聴されていた時、
編集者がサランネットを外したままで音を出した始めたことがあるそうだ。
その時、かなり怒られた、ときいている。

編集者は気をきかせたつもりだったのだろうが、
瀬川先生にとっては、それはよけいなことというより、
試聴をいい加減なものにしてしまう行為であったのだろう。

そんな瀬川先生なのだが、アナログプレーヤーの試聴の際には、
ダストカバーは外されていた、ようだ。

Date: 4月 1st, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その14)

ダストカバーはダストカバーとしてのみ機能しているわけではない。
ハウリングマージンとの関係がある。

ダストカバーを閉じている状態、開いている状態、取り外した状態で、
ハウリングマージンは変化してくる。

1976年に無線と実験別冊として出た「プレーヤー・システムとその活きた使い方」に、
ハウリングの実測データが載っている。

八機種のアナログプレーヤーにおけるダストカバーの状態での測定、
九種類のターンテーブルシートの違いの測定、
置き台、インシュレーター、プレーヤーキャビネットによる違いの測定が載っている。

ダストカバーの状態(開いている、閉じている、取り外している)での違いは、
一概にどの状態がいい結果が得られるとはいえない。

ダストカバーが開いていると、前面からみた面積が閉じている状態よりも大きくなるし、
ダストカバーはヒンジでのみ支えられているため、いわゆる片持ち状態である。

きちんと閉じていれば片持ちは解消されるし、
スピーカーからの直接の音圧を、ある程度はダストカバーが防いでくれる。

大きくみれば、ダストカバーを閉じていたほうがハウリングマージンは改善できる。
それでもこまかく測定データを見ればわかるように、全帯域で改善されるわけではない。

アナログプレーヤーのキャビネットの構造、重量などによって、
部分的な変化には違いが生じている。

ハウリングマージンだけでみればダストカバーは閉じていた方がいいが、
音の面では必ずしもそうとはいえないところもある。

Date: 3月 31st, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その13)

テクニクスのSL1000Rは、別売のトーンアームベースを装着することで、
トーンアームを三本まで増やせる。
以前からあるアイディアである。

トーンアームを一本から二本、二本から三本へと増やしたとき、
ダストカバーはどうなるのか。
おそらく一本用のままであろう。

増設したトーンアームを覆うカバーはない(はず)。
となるとダストカバーはダストカバーとして数割しか機能していないことになる。

もしかするとテクニクスは、二本用、三本用のダストカバーを出してくるのかもしれない。
にしても、最初から三本にしてしまう人ならば、三本用ダストカバーを最初に買えばいいが、
一本から増やしていく人に、その度にダストカバーの買い替えをテクニクスはさせるのか。

それとも一本用のダストカバーを下取りしてくれて、差額分で二本用、三本用を提供してくれるのか。

SL1000Rにはダストカバー用のヒンジがない。
トーンアームを増設することを考えての、ヒンジ無しなのだろう。

それにダストカバーを必要としない人にとっては、
ヒンジの存在は、わずかとはいえ音質を損う要因ともなる。

けれどダストカバーは、アナログプレーヤーをホコリから守るためだけのものではない。
そのことをテクニクスは、
テクニクス・ブランドをなくしてしまっているあいだに忘れてしまったのか。

Date: 3月 28th, 2018
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ダストカバーのこと・その12)

テクニクスのSP10R、SL1000Rが正式に発表になり、5月25日に発売になる。
ターンテーブルとしての性能(動特性ではなく静特性)は、
さすがはテクニクスといえるレベルに仕上がっている(ようだ)。

デザインは……、
写真を見ただけで語るのは、いまのところ控えておこう。

それでもひとつだけいいたい。
SL1000Rのダストカバーについて、である。

ほんとうに、このダストカバーのままで出荷されるのか。
そこには何のセンスも感じられない。

発表されている写真をみるかぎり、ヒンジはない。
いわば蓋である。
けっこうな大きさの蓋である。

アナログディスク再生時にダストカバーをした状態とそうでない状態とでの音は、
どんなアナログプレーヤーであっても違うものである。

テクニクスは、ダストカバーをした状態の音を標準としているのか、
それともなしの状態の音を標準としているのか。

どちらであったとしても、ダストカバーをどうするのかは、
使う人次第でもある。

必ず再生時にはダストカバーをしている人もいる。
そういう使われ方の場合、SL1000Rのダストカバーにはヒンジがないのだとしたら、
ディスクのかけかえのたびに両手でダストカバーを外したり被せたりしなくてはならない。

再生時にはダストカバーをしない人の使い方では、
再生時には決して小さいとはいえないサイズのダストカバーを、
リスニングルームのどこかに置く場所を確保しなければならない。

何の配慮も感じられないSL1000Rのダストカバーである。