Archive for category 日本のオーディオ

Date: 9月 4th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その3)

64号は1982年のステレオサウンド。
もう30年以上が経っているから書いてもいいだろうと思うことがある。

64号ではアンプの測定を行っている。
52号と53号ではダミースピーカーを使った測定だった。
64号では、負荷インピーダンスを急変させて測定を行っている。

誌面に掲載されているのは、
8Ωから1Ωに瞬時に負荷インピーダンスを切り替えた際の電流供給能力である。
グラフと実際の波形で表している。

これとは別に参考データとして、
8Ω/4Ω瞬時切替THD測定データが、九機種分載っている。
こちらはあくまでも参考データということで機種名はふせてある。

この全高調波歪で、一機種のみ圧倒的に優れた特性を示している。
これがケンウッドのL02Aである。

L02Aの瞬時電流供給能力の波形とグラフをみれば、
おそらくL024Aだろう、と推測していた人もいると思う。

64号では、電流供給能力の高さを謳っていた海外製パワーアンプもある。
マークレビンソンのML3、ハーマンカードンCitation XX(国内生産だが)、
クレルのKSA100などがある。
これらも良好な特性ではあるが、L02Aのデータと比較すると、
片やプリメインアンプで、片やセパレートアンプ。
価格も大きさもかなり違うにも関わらず、プリメインアンプのL02Aの優秀さには及ばない。

測定は長島先生が行われた。
私は補助で、傍らで見ていた。
L02Aの特性は、驚異的といえた。

何度測定しても見事なデータを示す。
驚歎していた。
どこまでL02Aは耐えられるのか、そんなふうになってしまい、
最後には燃やしてしまった。

こう書いてしまうと、L02Aを不安定なアンプ、危ないアンプと勘違いされるかもしれないが、
逆である。
おそろしく動作が安定していたからこそ無茶な領域での測定を試みたためである。

Date: 9月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その2)

このころのケンウッドは、いまとは違い、メーカー名ではなく、
トリオの高級ブランドとしてケンウッドだった。
L02Aは、1982年当時55万円という、最も高価なプリメインアンプだった。

実際にはマッキントッシュのMA6200が68万円していたから、
正確にはもっとも高価なプリメインアンプとはいえなかったわけだが、

MA6200が海外製ということ、当時の為替からいっても、
L02Aがもっとも高価なプリメインアンプといって間違いではない。

L02Aはプリメインアンプ(インテグレーテッドアンプ)とは、素直に呼び難い面ももっていた。
電源部が別筐体になっていたからだ。

MA6200が常識的なプリメインアンプとすれば、
L02Aはプリメインアンプの最高峰をめざして開発されたというよりも、
アンプとして理想を追求した結果としての形態が、電源別筐体のプリメインアンプといえた。

このL02Aが鳴らすNS1000Mの音は、みずみずしかった。
NS1000Mは鮮明な音、もしくは鮮烈な音として、登場当時は評価されていたことは知っていた。

その鮮明鮮烈な音も、発売数年が経ち、こなれてきたおかげか、
それほどでもなくなってきたことも知ってはいた。
それでも、NS1000Mからみずみずしい音が聴けるとは知らなかった。

だからといって鮮度の低い音でもなかった。
水には水の鮮度があって、L02Aが鳴らすNS1000Mの音は、おいしく鮮度の高い水だった。

みずみずしいは、瑞々しい、と書くけれど、水々しい、とも書く。
水々しいのほうが、この時の音にぴったりとはまではいわないが、
瑞々しいと書いてしまうと、これも少し違うニュアンスを感じて、みずみずしいとしておきたくなる。

Date: 9月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ヤマハNS1000M・その1)

別項「prototype(NS1000X)」を書いていたら、
NS1000Mについて書きたくなってきた。

私がこれまで聴くことができた日本のスピーカーシステムで、
自分のモノとしたいと思ったのはそれほど多くはない。

まず挙げたいのはビクターのSX1000 Laboratory。
自分の手で一度は鳴らしてみたい、と思わせる。

次に挙げたいのが、ヤマハのNS1000Mである。
実はNS1000Mに、最初から高い関心をもっていたわけではなかった。

私がオーディオに興味を持ち始めたころ、すでにNS1000Mは高い評価を得ていた。
すでにベストセラーのスピーカーシステムでもあった。
海外のオーディオ機器とは違い、熊本のオーディオ店にも置いてあった。

いいスピーカーなんだろう、と思いながらも、
若さゆえというか、もっともっと上を見ていたかった。

NS1000Mは当時108000円(一本)だった。
安いスピーカーではないが、4343などと比べれば、ずっと身近な存在であり、
そのことが逆に興味を失わせていた。

なのでNS1000Mの音をきちんと聴いたのは、ステレオサウンドの試聴室だった。
64号の特集、プリメインアンプとセパレートアンプの試聴においてだった。

64号では、スヒーカーとの相性をさぐる、という意図で、
スピーカーシステムはJBLの4343のほかに、タンノイのArden II、ヤマハのNS1000Mが用意された。
この試聴でさまざまなアンプで鳴らされるNS1000Mの音を聴いた。
この試聴でもっとも印象に残っているのは、ケンウッドのプリメインアンプL02Aで鳴らした音だった。

Date: 7月 26th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ヤマハNS5000のこと)

関東地方は梅雨明けしていないが、すでに夏である。
2016年夏に、ヤマハのスピーカーシステムNS5000は登場する、と昨秋発表されている。

もうそろそろオーディオ店の店頭に並ぶであろう。
生産ラインにすでにのっているはずだ。
つまり最終的な形に仕上がっている、ということである。

私がNS5000の完成した音を聴けるのは、
今年秋のインターナショナルオーディオショウのヤマハのブースになる。
まだ登場していない製品の音について書くことはこれまで避けてきた。
でも、NS5000についてだけは書いておきたい。

それは不安が大きいからである。

昨秋のインターナショナルオーディオショウで、NS5000の試作品の音が鳴っていた。
私はひさしぶりに期待のもてる国産スピーカーの登場だという予感がして、嬉しくなった。
ただインターネットでみかけるNS5000の評価は芳しいものではなかった。

ヤマハがなぜ半年以上も前に、試作品を多くの人に聴かせたのか。
その本当の意図は推測するしかないが、
聴いた人の評価を集めて最終的な音づくりをやるとしたら、そんなことはやめてほしい、と思っていた。

先日、親しい友人と会って話していた。
ヤマハのNS5000のことを話題に出した。
彼の友人が、最終モデルと思われるNS5000を聴いた、ということだった。

彼の友人とは面識がないが、どういう人なのかは知っている。
信頼できる耳の持主である。
あくまでも親しい友人を通しての話であることはことわっておくが、
どうも芳しくなかったようだ。

彼の友人がどういう音の表現をするのかわからないが、
あいだに親しい友人が入っているから、彼なりの翻訳が加わっているから伝わってくることがある。
その感触からすると、昨秋のNS5000の印象からずいぶん違った音に仕上がっているように感じた。
もっとも危惧していたことになりそうな予感とともに、その話を聞いていた。

私がここでこんなことを書いたところで、NS5000の音がこれから変ることはない。
どう仕上がっているのだろうか。

Date: 7月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス SL1200のこと)

6月24日にテクニクスのアナログプレーヤーSL1200GAEが発売になった。
全世界で1200台の限定生産の、
このアナログプレーヤーがすぐに予約完売になったことはニュースにもなったほど。

9月には通常版のSL1200Gが発売になる。
昨年、テクニクスがダイレクトドライブのアナログプレーヤーを開発中であり、
昨年の音展には、ターンテーブルが参考出品されていた。

私はひそかにSP10をこえるモデルの登場を期待していた。
けれど実際に製品化されたのは、SL1200の後継機だった。

オーディオの市場は、いまや大きくない。
そこで確実な売行きが見込めるモノとなると、
SL1200の後継機であることは理解できる。

でも、SL1200に思い入れのない私は、
SP10クラスのモノでないのであれば、SL01、SL10の後継機か、
まったくの新製品を期待したいところだった。

テクニクスのアナログプレーヤーは、以前からそうなのだが、
レコード盤をかけるとキカイとしての有機的な魅力が欠けている。
それがいいと感じる人もいるようだが、私はなんとそっけない、
もっといえばレコード盤をかける心情を無視したようなアピアランスをいいとは思っていない。

そんな私でもテクニクスのアナログプレーヤーには、関心できることが以前からあった。
奥行きをできるかぎり短くしている点である。

SL1200の最初のモデルの外形寸法はW45.3×H18×D36.6cmである。
当時のテクニクスのラインナップで、
比較的コンパクトなモデルであったSL01がW42.9×H9.9×D36.9cmだった。

意外にも、というか、SL1200が奥行きに関しては小さかった。
テクニクスのアナログプレーヤーは、他社製のアナログプレーヤーよりも奥行きが短い傾向がある。

アナログプレーヤーにはたいていダストカバーがつく。
ダストカバーを開いた状態だと、アナログプレーヤーの設置に必要な奥行きは、
約50cmと見ていた方がいい。

思っている以上に、奥行きを要求する。
だからアナログプレーヤーの奥行きは短い方がいい、といえる。

昔のHI-FI STEREO GUIDEを持っている人は、
アナログプレーヤーの奥行きを各社各製品ごとに比較してみてほしい。
奥行きのことを考慮しているメーカーとそうでないメーカーがあるのがわかる。

テクニクスは前者だった。
だからSL10という、ジャケットサイズのプレーヤーも開発したのだろう。

いまではテレビが液晶になり、ぐんと薄くなった。
そういう時代に奥行きに50cmほど必要とするアナログプレーヤーは、
買って設置してみたら、想像以上に大きかった……、という例はあるはずだ。

SL1200の新モデルは、その点はきちんと踏襲しているようだ。
だから高く評価している、のではなく、なぜここから先がないのかといいたくなる。

ダストカバーを開けてもカタログに記載されている奥行きの寸法以上は必要としない、
そういう構造になぜしなかったのかといいたくなる。

ダストカバーを開けても閉じていても、奥行きは変らないアナログプレーヤーは、
当時すでに存在していたからだ。

Date: 5月 22nd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その4)

アナログディスク復活というブームとともに、
ハイレゾもブームになりつつある。

ハイレゾ(ここではあえて、このハイレゾを使う)とは、
サンプリング周波数および量子化ビット数のどちらかが、
CDのスペックである44.1kHz、16ビットを超えていれば、そうみなされる。

つまりサンプリング周波数はCDと同じ44.1kHzであっても、24ビットであれば、ハイレゾとなる。

サンプリング周波数が44.1kHzということは、20kHz以上の音は録音・再生できないため、
20kHz以上の信号を記録・再生できるアナログディスクも、ハイレゾ扱いされつつある。

ここで考えたいのは、東洋化成でカッティング・プレスされるアナログディスク。
つまりカッティングマスターがCD-Rのアナログディスクの場合である。

CD-RはCDと同じサンプリング周波数、量子化ビット数(44.1kHz、16ビット)である。
つまりアナログ録音のマスターテープに、仮に20kHz以上の信号が記録されていても、
CD-Rに記録するために44.1kHz、16ビットでデジタル変換する。

そうやってつくられるアナログディスク(AADAのディスク)を、ハイレゾ扱いすることは、
理屈のうえで間違っている、といえる。

周波数特性だけで音のよさは決定されるわけではない。
CDは20kHz以上が出ないから音が悪い、といわれがちだが、
FM放送が盛んだったころを思い出してほしい。

ライヴ中継の音の良さを思い出してほしい。
FM放送はアナログだが、高域は20kHzまで出るわけではない。
チューナーにもよるがたいていは15kHz、もう少しのびているモノでも16kHzあたりが限度である。

これはひとつの電波でステレオ放送を可能にするために、送信時に一旦ステレオの合成波にして、
受信時にチューナーの内部で、元のステレオ(2チャンネル信号)に分離される。
このために必要なのがパイロット信号で、この19kHzの信号がいわば目印となり、
まちがえることなく分離できるわけである。

つまりチューナーでは、パイロット信号を取り除くためのハイカットフィルターがある。
このフィルターかあるためチューナーの周波数特性はそれほど上にのびているわけではない。

にも関わらずライヴ中継を一度でも聴いたことのある人ならば、
高域の美しさは、周波数特性とは直接的には関係ないことを実感している。

だからアナログディスクの音の特質は、別のところにあると私は考えている。

Date: 5月 22nd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その3)

CDが出はじめたころ、DDD、ADD、AADという表記がついていた。
Dはデジタル、Aはアナログのことで、
DDDはデジタル録音、デジタルマスタリングによるCD、
ADDはアナログ録音、デジタルマスタリングによるCD、
AADはアナログ録音、アナログマスタリングによるCD。

アナログディスクにはこの種の表記はなかったけれど、
アナログディスクにもアナログ録音のものとデジタル録音のものとがあるから、
AAA、DAA、DDAとやろうと思えば可能だ。

ではDAD(デジタル録音、アナログマスタリングによるCD)と、
ADA(アナログ録音、デジタルマスタリングによるアナログディスク)はあるのか。

理屈でいえば余計な変換が入るだけに音質劣化が予想され、
こんなことをやるレコード会社はないように思えるし、
得られる結果も決して良好ではないだろう、と思われるが、
実際にはCBSソニーは、ブルーノ・ワルターのLPをADAで出したことがある。

CDでも、一旦アナログに戻してマスタリングをして、
もう一度デジタルに変換して制作されたアルバムがある、と聞いている。

いま東洋化成で行なわれていることは、ADAなのか、といえばそうではない。
カッティングマスターテープがつくられる前にマスタリングは終っているのだから、
AAAであるといえるのだが、CD-Rで持ち込まれるため、AADAというべきだ。

東洋化成がなんらかのテープデッキを導入してくれれば、AADAのDはとれる。

現在東洋化成にアナログディスクのカッティング、プレスを依頼するレコード会社のすべてが、
CD-Rでカッティングマスターを持ち込むわけではない。
アナログということにこだわりと誇りをもっている会社は、
カッティングマスターといっしょにテープデッキも持ち込む、ときいている。

けれどそこまでやる会社はどれだけあるだろうか。
ここまでやっている会社でも、すべてのアナログディスクでそうするわけでもないと思う。

アナログディスクのAADAは、いま流行りのハイレゾにも関係してくる。

Date: 5月 22nd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その2)

アナログディスク復活と騒がれている。
確かに売上げは伸びているようだ。
でもそれだけで復活とか、ほんとうのブームだとか、そうは考えたくない。

実態はどうなのだろうか。

いま日本でアナログディスクのプレスができるのは東洋化成、一社だけである。
数が少ないから、そう考えているわけではない。

10年くらい前に、オーディオ関係者の人から聞いたことがある。
東洋化成にはカッティングマスターテープを再生するデッキがない、ということと、
カッティングマスターにはCD-Rが使われることが大半だ、ということを聞いた。

10年くらい前は、その人だけの話だった。
その数年後にも、別の人から、やはり同じことを聞いた。

この人たちのことを信用していないわけではない。
でも、CD-Rがカッティングマスターとして使われている、ということは、
なんと表現したらいいんだろうか、ある種の裏切りともいえるのではないか。
そう思うと、自分の目で確認して書くべきことだと思って、
固有名詞を出して、このブログに書くことは控えていた。

それにアナログディスク・ブームとかいわれるようになって、
東洋化成の業績も、話を聞いたころよりもよくなっているだろうから、
いまではCD-Rではなくて、デッキも導入しているだろう、という期待もあって書かなかった。

カッティングシステムは、カッティングマスターを再生するデッキ、
カッティングへッド、これをドライヴするアンプ、カッティングレース、コントローラーなどから成る。

例えば1970年代ごろのビクターは、カッティングシステムを五つ用意していた。
テープデッキにスチューダーA80、アンプにEL156パラレルプッシュプル、出力200Wのモノ、
カッターヘッドはウェストレックスの3DIIAのシステムがひとつ。
このシステムはおもに大編成のオーケストラ、声楽、オルガン曲に使われたそうだ。

デッキはスチューダーA80、アンプはノイマンSAL74(出力600W)、カッターヘッドはノイマンSX74。
このシステムではロック、歌謡曲、ソウルを。

スカーリーの280デッキに、EL156パラレルプッシュプルのアンプ、カッターヘッドはノイマンSX68。
ピアノ・ジャズ、小編成のオーケストラに使用。

アンペックスのデッキにビクター製、出力300WのトランジスターアンプにノイマンSX74カッターヘッド。
これもロック、歌謡曲、ソウルに使われていた。

スカーリーの280デッキに、オルトフォン製出力800WのGO741アンプに、オルトフォンのカッターヘッドDSS731。
これは室内楽に使われた。

何も同じ規模のシステムを東洋化成も揃えるべきだとは思っていない。
だがスチューダーA80かアンペックス、スカーリーのオープンリールデッキを置こうとは考えないのか。

アナログディスク全盛時代はテレフンケンのM15Aも使うレコード会社もあった。
これらすべてを揃えることができたらいいけれど、
何かひとつ、できればヨーロッパ製とアメリカ製のデッキ一台ずつ導入する気はないのだろうか。

Date: 5月 11th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その1)

私がDE ROSAのロードバイクを買ったのは、1995年5月だった。
20年以上前で、そのころといまとでは、はっきりとブームだといえる。

街に出れば、必ずロードバイクを見かける。
けっこうな数を見かけるし、けっこうな値段のモノを見かけるようになった。
自転車店の数もほんとうに増えた。
自転車関係の雑誌、ムックも増えている。

けっこうなことだと思いたい。
でも、街を走っている人の中には、明らかにバイクのサイズが合っていない人がいる。
20年ほど前もそういう人はいたけれど、いまの方が多く感じられる。

昔からいわれていた、初心者が来ると、
売れ残っているフレームを、サイズが合ってなくとも売りつける店がある、と。
そうかもしれないと思うし、そればかりでもないとも思う。

ロードバイクはそれ単体で見れば、ある程度のサイズの大きさがあったほうが、見栄えがいい。
ホイールサイズとの関係もあるのだから、そのことは解消が難しい。
そのためだろうか、自転車の見栄えを気にして、サイズが合っていなくともあえて購入する人もいるときく。
自転車店の人がよしたほうがいいとアドバイスしても、らしい。

飾って眺めておくだけの自転車(床の間自転車という)なら、そのほうがいいが、
自転車は公道を走るモノだ。
自転車しか走っていなくても、危険はある。
まして実際は歩行者もいるし、車も走っている。

そこをサイズの合っていない、つまり乗りにくさのあるロードバイクで走る……。

こればかりではない。
時速20km以下のゆっくりしたペースで走っているのに、
ドロップハンドルの一番深いところを握っている人も増えてきている。

ブレーキブラケットのほうが安全で快適なスピードなのに、と思う。

電車に乗れば輪行している人が増えた。
以前はほとんど見かけなかったことも関係しているのだろうが、
輪行バッグには前輪、後輪と外して、という人ばかりだった。

でもいまは前輪だけ外して、後輪は装着したままという人が多い。
後輪の脱着が苦手(できない)人が多いのか。

先日見かけた人は、エアロ仕様のロードバイクだった。
ハンドルもドロップハンドルではなく、タイムトライアル仕様である。

こんな仕様では、街では乗りにくいだろうにと思う。
このバイクに乗っていた人は、明らかにロードバイク初心者だった。

おぼつかなく、危なっかしい乗り方だった。
その人のバイクの値段は、かなりする。

街中では乗りにくくても、かっこいいバイクが欲しかったのかもしれない。
なのにペダルがビンディング式ではなく、一般的な自転車のペダルだった。

このバイクを売った店は、どこなんだろう……。

ブームは悪いことではない。
オーディオがブームだったから、「五味オーディオ教室」は出版された、といっていい。
オーディオがブームだったから、私は「五味オーディオ教室」と出逢えた。

ブームだから、そうでないころからすれば、売ることが楽なのかもしれない。
それだからこそ売る側の姿勢は、ブームでないころよりも問われている。

売る側とは、販売店だけではない、メーカー、輸入元も、オーディオ雑誌の出版社もだ。

いまオーディオテクニカのAT-ART1000について厳しいことを書いているのは、
アナログブームと言われていて、そういうことも含めて、だからだ。

Date: 5月 10th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その4)

ステレオサウンドにいたときに感じていたのは、
そして私が先生と呼ぶオーディオ評論家の方たちから聞いていたのは、
優れたスピーカーのエンジニアが必ずしも優れたスピーカーの鳴らし手ではない、ということだった。

なにも、このことはスピーカーだけにかぎらない。
スピーカーと同じトランスデューサーであるカートリッジに関しても、そうだ。

Phile-webの記事を読むかぎり、AT-ART1000の開発担当者のひとりである小泉洋介氏は、
カートリッジの使い手としてはどうなんだろう……、とどうしても思ってしまう。

まったく面識のない人のことを、
たったこれだけの記事でカートリッジを使いこなしの技倆がない、とはいわない。
けれど、小泉洋介氏が考えているカートリッジの使いこなしと、
私が考えているカートリッジの使いこなしとでは、ずいぶん違うものであることは、確実にいえる。

私のカートリッジの使いこなし(アナログプレーヤーの使いこなし)は、
ステレオサウンドの試聴室で鍛えられた、といっていい。
特に井上先生の試聴で、それまでのカートリッジの調整がいかに徹底したものでなかったことを知った。

もちろん、それまでもきちんと調整はできていた。
針圧だけでなく、オーバーハング、インサイドフォース・キャンセラー、ラテラルバランスの調整など、
問題なくできていた。

鍛えられた、というのは、そこから先のことである。
そこのところを、私はカートリッジの使いこなしだと考えている。

そこから先の使いこなしに関しては、耳と指先だけの世界でもある。

Date: 5月 10th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その3)

オーディオテクニカのAT-ART1000の《2~2.5gの間で最適な針圧を個体ごとに割り出して明記》とは、
製造されたばかり、新品の状態での測定による値である。

いくらかはエージングをすませての測定だろうが、ほとんど使い込まれていないことには変りない。
この測定の条件も針圧とともに明記されているのだろうか。

カートリッジは使い込むモノである。
使っていくうちにこなれてくる面ももつ。
新品時に最適だった針圧が100時間ほど使用したあとでも最適なのだろうか。

カートリッジの使用頻度も違ってくる。
毎日最低でもレコード一枚をかける人と、
気が向いたときにAT-ART1000でかけるという人とでは、こなれ方も違ってくる。

それに日本は四季がある。
穏やかな日もあれば、暑い日、寒い日があり、
さらっとした日もあれば、ひどくじめじめした日もある。

気温も湿度も一年のうちに大きく変化する。
使い手によっては、AT-ART1000の測定された環境(気温、湿度)と違う環境で使われる。

一年中、リスニングルームのエアコンは切ることなく、
屋内温度、湿度を常に一定にしている人は、確かにいる。

その人でさえ、AT-ART1000の測定された環境と同じ温度、湿度に設定しているとは限らない。
私の知っている人の中でJBLのスピーカーを鳴らしていた人は、
カリフォルニアの気候に近づけたいというこで、常に除湿器フル稼動で20%くらいを保っていた。

温度にしても寒がりな人、暑がりな人がいて、
真夏、薄着では寒いと感じるほど冷房を効かせる人も知っている。

そういう人もいれば湿度が低いのは喉にも肌にも悪いといって加湿器を使う人もいるし、
冷房も暖房も効かせ方はほどほどにという人もいる。

もっとこまごまと書いていってもいいが、このへんにしておく。
いいたいのはカートリッジを取り巻く環境はさまざまだし、使われ方もそうだし、
カートリッジそのものも含めて変動していく、ということだ。

Date: 5月 9th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その2)

Phile-webの記事には、こうも書かれている。
     *
前述のような方式のためにコイルの適正な位置が極めて重要になるAT-ART1000において、針圧は非常にクリティカルな要素だ。そこで本機では、ひとつひとつの個体を測定・調整することで、2~2.5gの間で最適な針圧を個体ごとに割り出して明記。ユーザーはその針圧に合わせてセッティングすることで、最良の音質を楽しむことが可能となる。
     *
《コイルの適正な位置が極めて重要になる》のはそのとおりである。
だからといって、《2~2.5gの間で最適な針圧を個体ごとに割り出して明記》する必要があるだろうか。
そのことが意味することを、オーディオテクニカはどう考えているのだろうか。

オーディオテクニカは、どこまで最適針圧を明記するのか。
小数点一桁までか、それとも小数点二桁までなのか。

たとえば購入したAT-ART1000の最適針圧が2.1gだったとしよう。
購入した人は針圧計を取り出して、ぴったり2.1gになるように調整するはずだ。
2.11gと明記してあったら、小数点二桁まで測定できる針圧計を用意して2.11gに合わせる。

これでほんとうにコイルの位置がオーディオテクニカが意図した位置にくるといえるだろうか。

オーディオテクニカがAT-ART1000の測定しているのとまったく同じトーンアームの高さであれば、
そういえなくもない。
けれどトーンアームの水平がどこまできちんと出せているかは、使い手によって違ってくる。
それに聴感上完全に水平にするよりも少し上げ気味にしている人もいる。

アナログプレーヤーの調整のレベルは、実にバラバラである。
きちんと調整できている人もいれば、そうでない人も多い。

オーディオのキャリアが長いから、きちんと調整てきているとは限らない。
高級なアナログプレーヤーを所有しているから、調整も万全とはとてもいえない。

そのことは別項「アナログプレーヤーの設置・調整」で書いている。

そういう状況で使われるのがカートリッジであり、
そこに最適針圧を明記したとしても、針圧だけはきちんと調整されたとしても、
オーバーハング、トラッキングアングル、インサイドフォース・キャンセラー、水平(左右の傾き)などが、
きちんと調整されているという保証は、どこにもない、といえる。

トラッキングアングルがずれていたら……、
インサイドフォースのキャンセル量が多かったり少なかったりしたら……、
カートリッジの水平がきちんと出ていなかったりしたら……。

そこに針圧だけをこまかく指定することを、オーディオテクニカはどう考えているのだろうか。
この針圧の明記にも、カートリッジに対する認識不足が感じられる。

Date: 5月 8th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その1)

High End 2016でオーディオテクニカがAT-ART1000を発表した。

AT-ART1000の最大の特徴は、オーディオテクニカがダイレクトパワーシステムと呼ぶ構造にある。
簡単にいえば針先の真上に発電コイルがあるわけだ、

古くはウェストレックスの10A、ノイマンのDSTがあり、
日本でもノイマンのコピーといえるモノ、
MC型ながら針交換が可能なサテン、ビクターからはプリントコイルを採用したシリーズ、
池田勇氏によるIkeda 9などがある。

カートリッジの歴史の中で、このタイプのカートリッジは登場すれば話題になる。
つまり誰もがカートリッジの理想形として描くものでありながら、
いくつかの問題をどう解決するのか、その難しさと、
使い手にも技倆が求められるということもあって、主流とはならなかった。

そういうカートリッジに、いまオーディオテクニカが挑戦した、ということで、
期待したい、という気持は強い。
けれどこのカートリッジの紹介記事(音元出版のPhile-web)を読むと、気になることがいくつかある。

書かずにおくことがいいとは思わないし、
期待しているだけに書いておく。

記事中に、
《なお、AT-ART1000の開発を担当した一人である小泉洋介氏によれば、本機に近い方式を採用していた他社製品が1980年代にあったというが、今回のAT-ART1000では、スタイラスチップ上にコイルを配置することを可能としたため、インピーダンスを3Ωとすることができたのが大きなポイントのひとつとのことだ。》
とある。

具体的なブランド、製品名は書かれていないが、ビクターのカートリッジを指している。
ビクターのMC1は、多くのMC型がカンチレバーの奥(支点近く)に発電コイルを配してるのに対し、
軽量のプリントコイルを採用することで、針先からごくわずかのところに配している。

ビクターはこの方式を改良していく。
MC1から始まったシリーズの最終モデルMC-L1000では、文字通りダイレクトカップルといえる構造を実現している。

MC-L1000の構造こそ、針先の真上に発電コイルがあるカートリッジである。
カンチレバーの先端に針先がある、
この針先はカンチレバーを貫通している。カンチレバーの上部に少し出っ張る。
この出っ張り部分にプリントコイルを接着したのがMC-L1000である。

AT-ART1000の紹介記事の担当者は、MC-L1000のことを知らないのだろうか。
調べようともしなかったのか、Phile-webの、他の編集者も誰も知らなかったのか。

AT-ART1000の紹介記事の担当者は、オーディオテクニカの開発担当の小泉洋介氏の言葉をそのまま記事にしたのだろう。
つまり小泉洋介氏もMC-L1000の存在を知らなかったということになる。

どちらの担当者も認識不足といえる。
この認識不足が、AT-ART1000の完成度に影響していないのであれば、わざわざ書いたりしない。

Phile-webに掲載されている内部構造の写真を見ると、かなり気になる点がすぐに目につく。
AT-ART1000はこのまま製品化されるのか。
その点の処理のまずさは、カートリッジの歴史に詳しい人であれば気づくことである。
この点に関しては、AT-ART1000は未処理といっていい(写真をみるかぎりは)。

気になっていることは、まだある。

Date: 1月 27th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ハイテクと呼べるモノ)

ハイテク(high-tech)。
ハイテクノロジー(high technology)の略であり、
1980年代はよく使われた言葉だったが、いまではあまりみかけることもなくなっきた。

以前はハイテク・オーディオ機器はアンプだっただろうし、
CDプレーヤー登場以降は、CDプレーヤーを始めとするデジタル機器であり、
いまではハイレゾリューション対応であることが、
一般的にはハイテク・オーディオ機器ということになるであろう。

けれどスピーカーこそがハイテク・オーディオ機器という捉え方も可能である。
1980年代にはいり、新素材の積極的な活用が目立ってきた。
それ以前にも新素材の採用に、オーディオ業界は積極的であった。

スピーカーの振動板に限らず、カートリッジのカンチレバーやトーンアームの分野でも、
新素材の採用は活発だった。

1970年代、スピーカーシステムにおいてはウーファーに関しては、紙の振動板が大半だった。
それが’80年代からウーファーへも新素材が採用されることになる。

この新素材の採用という点からスピーカーをとらえれば、
スピーカーシステムこそがハイテク・オーディオ機器ともいえることになる。

もっともこのことは1980年代にダイヤトーンの技術者によって指摘されていることである。
1986年のステレオサウンド創刊20周年記念別冊「魅力のオーディオブランド101」で、
ダイヤトーンのスピーカーエンジニアの結城吉之氏が語られている。
     *
結城 ハイテク時代といわれていますが、素材のほうから見れば、いまやスピーカーはハイテク商品なんですね。
菅野 ある点では一番原始的ですけど、確かにハイテク商品です。
     *
新素材を採用しただけでハイテク・オーディオ機器となるわけではない、もちろんない。
新素材の特質を活かした形状、構造、使い方を吟味した上で、はじめてハイテクと呼べる。

ダイヤトーンの結城氏の発言はいまから30年前のもの。
けれど、いまもう一度、考えてみるべき価値のある発言だと思っている。

Date: 1月 25th, 2016
Cate: ショウ雑感, 日本のオーディオ

2015年ショウ雑感(日本のオーディオ、これから・その8)

ダイヤトーンのふたつのスピーカーシステム、DS1000とDS10000は、
前者をベースに、まるで別モノとおもえるレベルまで磨き上げたのが後者である。

ステレオサウンド 77号には、
菅野先生による「日本的美学の開花」と題されたDS10000についての詳細な記事が載っていて、
そこには囲みで、「DS10000誕生の秘密をダイヤトーンスピーカー技術陣に聞く」もある。

ダイヤトーンの技術陣は、
DS1000と10000は別モノといえるから新規でまったく別の製品を開発したほうがよかったのではないか、
という質問に対して、こう語っている。
     *
ダイヤトーン DS1000は、システムの基本構成の上で非常に高い可能性を持っていると、我々は確信していたのです。基本構成においてもはや動かし難いクリティカルポイントまで煮詰めた上で完成されたDS1000のあの形式で、どこまで音場感が出せるかという技術的な興味もありました。また、システムを再検討するにあたって、ベースとなるデータが揃っているということも大きな理由のひとつでした。まったく別ものにしたとすると、その形態の問題が加速度的に表れてきて、本質を見失ってしまう可能性が出てくる。そこで、既製のものでいちばん可能性の高いものとしてDS1000を選んだのです。
     *
このことはヤマハがNS5000において、
ごく一般的といえる日本独特の3ウェイ・ブックシェルフ型のスタイルをとった理由も、同じのはずだ。
まったく新しい形態のスピーカーシステムの開発に取り組むのもひとつの手であり、
むしろその方が購買層には歓迎されるであろうが、オーディオ雑誌も喜ぶであろうが、
だからといっていいスピーカーシステムになるとは限らない。

「日本的美学の開花」は、そのへんのところも含んでのものといえる。