日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その1)
High End 2016でオーディオテクニカがAT-ART1000を発表した。
AT-ART1000の最大の特徴は、オーディオテクニカがダイレクトパワーシステムと呼ぶ構造にある。
簡単にいえば針先の真上に発電コイルがあるわけだ、
古くはウェストレックスの10A、ノイマンのDSTがあり、
日本でもノイマンのコピーといえるモノ、
MC型ながら針交換が可能なサテン、ビクターからはプリントコイルを採用したシリーズ、
池田勇氏によるIkeda 9などがある。
カートリッジの歴史の中で、このタイプのカートリッジは登場すれば話題になる。
つまり誰もがカートリッジの理想形として描くものでありながら、
いくつかの問題をどう解決するのか、その難しさと、
使い手にも技倆が求められるということもあって、主流とはならなかった。
そういうカートリッジに、いまオーディオテクニカが挑戦した、ということで、
期待したい、という気持は強い。
けれどこのカートリッジの紹介記事(音元出版のPhile-web)を読むと、気になることがいくつかある。
書かずにおくことがいいとは思わないし、
期待しているだけに書いておく。
記事中に、
《なお、AT-ART1000の開発を担当した一人である小泉洋介氏によれば、本機に近い方式を採用していた他社製品が1980年代にあったというが、今回のAT-ART1000では、スタイラスチップ上にコイルを配置することを可能としたため、インピーダンスを3Ωとすることができたのが大きなポイントのひとつとのことだ。》
とある。
具体的なブランド、製品名は書かれていないが、ビクターのカートリッジを指している。
ビクターのMC1は、多くのMC型がカンチレバーの奥(支点近く)に発電コイルを配してるのに対し、
軽量のプリントコイルを採用することで、針先からごくわずかのところに配している。
ビクターはこの方式を改良していく。
MC1から始まったシリーズの最終モデルMC-L1000では、文字通りダイレクトカップルといえる構造を実現している。
MC-L1000の構造こそ、針先の真上に発電コイルがあるカートリッジである。
カンチレバーの先端に針先がある、
この針先はカンチレバーを貫通している。カンチレバーの上部に少し出っ張る。
この出っ張り部分にプリントコイルを接着したのがMC-L1000である。
AT-ART1000の紹介記事の担当者は、MC-L1000のことを知らないのだろうか。
調べようともしなかったのか、Phile-webの、他の編集者も誰も知らなかったのか。
AT-ART1000の紹介記事の担当者は、オーディオテクニカの開発担当の小泉洋介氏の言葉をそのまま記事にしたのだろう。
つまり小泉洋介氏もMC-L1000の存在を知らなかったということになる。
どちらの担当者も認識不足といえる。
この認識不足が、AT-ART1000の完成度に影響していないのであれば、わざわざ書いたりしない。
Phile-webに掲載されている内部構造の写真を見ると、かなり気になる点がすぐに目につく。
AT-ART1000はこのまま製品化されるのか。
その点の処理のまずさは、カートリッジの歴史に詳しい人であれば気づくことである。
この点に関しては、AT-ART1000は未処理といっていい(写真をみるかぎりは)。
気になっていることは、まだある。