Archive for category スピーカーとのつきあい

Date: 11月 8th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その14)

瀬川先生の予算120万円の他の組合せは、
エレクトロボイスのInterface:Dの組合せ、
チャートウェルのLS3/5A(もしくはヤマハのNS10M)の組合せ、
JBLのL300の組合せがある。

LS3/5Aは、予算60万円から120万円へのグレードアップでも使われている。

瀬川先生の組合せは、
Interface:Dの組合せは価格的バランスがとれている、といえるが、
他の組合せは、
アナログプレーヤー重視、
コントロールアンプ重視、
スピーカーシステム重視となっている。

この中で瀬川先生が気に入られているのは、アナログプレーヤー重視の組合せ、
スピーカーにLS3/5A(もしくはNS10M)を使った組合せである。

アナログプレーヤーにEMTの928を選択。
これだけで70万円だから、予算の半分以上を占めている。
928にはフォノイコライザーアンプが内蔵されているから、コントロールアンプはなし。
パワーアンプはルボックスのA740、538,000円で、
928とA740で予算を使い切っている。

スピーカーを買う予算がなくなってしまったので、
あと五万円を追加してのNS10Mという組合せである。
これで組合せ合計は1,288,000円。
できればLS3/5Aということで、こうなると組合せ合計は1,388,000円となってしまう。

記事では、この、価格的に相当にアンバランスな組合せについて、
多くを語られている。
「たいへん密度が高い音で、いかにも音楽を聴いているんだという喜びが感じられる」と。

岡先生はBCIIIの組合せをベストワンだ、といわれている。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その13)

岡先生はBCIIIの組合せについて、語られている。
     *
 じつは120万円の組合せで、ぼくがまっさきに頭に浮かべたスピーカーが、スペンドールのBCIIIだったのです。このスピーカーは、本誌のスピーカー・テストなどでいつも書いているように、ぼくがもんとも気に入っているスピーカーのひとつなんですね。そして価格が、ペアで専用スタンドを含めて45万円ちょっとですから、アンプその他にかなり予算をまわせられることにもなります。
 クラシックのプログラムソースを再生するという場合、この価格帯では抜群の安定感をもった、そして表現力のデリカシーのをもった、スピーカーである──というのが、このBCIIIに対するぼくの固定観念みたいなものなんですよ。だから、今回もためらわずに選んだわけです。
     *
岡先生の120万円の組合せは、他にもあって、
JBLのL220の組合せ、UREIのModel 813の組合せの他に、
予算60万円から120万円へとグレードアップする組合せでは、パイオニアのCS955を選ばれている。

瀬川先生のBCIIIの組合せは、アンプを重視した組合せである。
     *
瀬川 ええ、そういうことになります。ただ、アンプ重視といっても、これはなんとなく奥歯にものがはさまったようないいかたですが、プリメインではいくら最高級でも重視ということにはなりませんから、やはりセパレートアンプにしたいわけだけれど、その場合にコントロールアンプとパワーアンプの両方にぜいたくをするわけにはいかないんです。
 120万円の予算では、どこかひとつに充填をかけるといっても、50万円か、せいぜい70万円ということになるでしょう。そうすると、セパレートアンプの最高級機は、ちょっと手がとどきません。
(中略)
 これまでの組合せでは、価格の点でやや中途半端で使いにくかったスペンドールBCIIIを、ここにもってきたわけですね。これがペアで43万円、となると、アンプに7万円は仕えないことになります。
 そこでコントロールアンプとしては、アキュフェーズの新製品であるC240を選びました。価格が約40万円ですから、予算の枠の中に収まることと、最近のコントロールアンプの中では、ぼくのお気に入りのひとつということで、最初から120万円の組合せで使おうと思っていたわけです。
     *
同じ120万円の予算で、同じBCIIIの組合せであっても、
岡先生は積極的に、最初からBCIIIを使うことを考えての結果(組合せ)であり、
瀬川先生はコントロールアンプ重視で、C240を最初から使うことを考えての結果(組合せ)である。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その12)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」での、
岡先生と瀬川先生によるBCIIIの組合せのつぎのとおり。

岡先生は120万円の予算で、組合せ合計1,110,000円。
 スピーカーシステム:スペンドール BCIII(458,000円・スタンド込み)
 コントロールアンプ:ヤマハ C2a(170,000円)
 パワーアンプ:ヤマハ B3(200,000円)
 ターンテーブル・ラックス PD441(125,000円)
 トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR64S(69,000円)
 カートリッジ:フィデリティ・リサーチ FR7(55,000円)
 昇圧トランス:フィデリティ・リサーチ FRT5(33,000円)

瀬川先生は120万円の予算で、組合せ合計1,147,900円。
 スピーカーシステム:スペンドール BCIII(430,000円)
 コントロールアンプ:アキュフェーズ C240(395,000円)
 パワーアンプ:サンスイ B2000(120,000円)
 ターンテーブル・ラックス PD121(135,000円)
 トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR14(38,000円)
 カートリッジ:エラック STS455E(29,900円)

スピーカーシステムは同じ、
ターンテーブルはどちらもラックスの同クラスのモノ、
トーンアームもどちらもフィデリティ・リサーチ。
瀬川先生はステンレス製のFR64SやFR66Sよりも、アルミパイプの方を評価されていた。

ほぼ同じところも見受けられるBCIIIの組合せで、組合せ合計もほぼ同じであっても、
組合せの意図は違うし、そこで 鳴ってくる音(聴くことはできないが)、
ずいぶんと違っていた、と思う。

Date: 10月 31st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その11)

「コンポーネントの世界」からはあとひとつだけ、
岡先生の発言を引用しておく。
     *
 いやそうではなく、ぼくの場合は欲が深いというか、なんでも聴いてやれという主義でずっときたからですよ。そういう考え方は、いい音楽なんてレコード以外では聴けなかったころからレコードを聴いていたために、ひとりでに身についてしまったんでしょうね。だからこのレコードに他のレコードと違うところがあるとすれば、それはなんだろう。そのよさはどこにあるんだろう。どんなレコードからだって、ぼくはそういうものを発見したいのです。いいかえると、自分が一歩退いたかたちで、受け身のかたちで、レコードを聴いているんです。瀬川さんはそうてはなく、ずっとアクティヴなレコードに対する考え方をもっていると思いますね。
     *
レコードの聴き手として、岡先生と瀬川先生は、その姿勢に違いがある。
瀬川先生は、菅野先生がレコード演奏、レコード演奏家という表現を使われる以前から、
レコードを演奏する、という表現を使われていた。

「コンポーネントの世界」でも、
菅野先生のレコード演奏家論に通じる発言もされている。

一歩退いて受け身のかたちでレコードを聴かれる岡先生、
ずっとアクティヴなレコードに対する考え方をもって、レコードを聴かれる瀬川先生。

スペンドールのBCIIIの、岡先生と瀬川先生の評価は、
そのことを抜きにしてしまっては、オーディオ評論のおもしろさがわかってこないし、
BCIIIという、一度も聴いたことのないスピーカーのことを、
こうやって書いている理由も、そこである。

Date: 10月 31st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その10)

「コンポーネントの世界」の座談会での試聴には、下記のスピーカーが登場している。

ボザーク B410 Moorish
アルテック A7-500
タンノイ Rectangular GRF
JBL 4320
ダイヤトーン 2S305
QUAD ESL
タンノイ IIILZ
アコースティックリサーチ AR3a
ビクター SX7
ヤマハ NS690
ダイヤトーン DS303
KEF Model 104
ブラウン L810
JBL L26
フェログラフ S1

「コンポーネントの世界」から引用したいところはいくつもあるが、
すべてを引用していると、脱線しかねないし、
瀬川先生の著作集「良い音とは、良いスピーカーとは?」といまも入手可能だし、
そこで全文読めるので、最少限にしておきたい。
     *
瀬川 ぼくのさっきの居直りといういいかたを、岡さんにそう受けとられたのだったら、こんどはほんとうに居直っちゃう。つまりぼくは、こまかく分析してみると岡さんと同じなのですよ。岡さんがぼくと何年も付き合ってくださっているのに、ぼくをいちばん誤解している面だと思うのは、たとえばスピーカーで意見が対立したときに、岡さんはいつも、いちばんこれが自然に再生できる、というような言葉で反論なさるでしょう。ぼくだって、ぼくの好きなスピーカーがいちばん自然だと思っているんです。すごく挑発的ないいかたをすると、ARの音なんて、レコード制作者の意図した音とまったく違うとさえ思っているわけ。
 そこの違いを、ぼくのほうからいいますと、ぼくはまったく瀬川さんと反対のことを考えているわけなのですね。つまりあなたがKEFで鳴っている音をいい音だという、KEFで鳴っている音をいい音だという、ぼくはそれは間違いだと思っている。
瀬川 そうでしょう。ぼくだってやはり同じことを思っているわけ。だからそこうずっとつきつめてゆくと、さっきの頭の中のイコライザー論になってしまう……。
(中略)
瀬川 そこでいまいい議論になったと思うのですが、じつはぼくも岡さんが思っていらっしゃるほど、そういう聴き方をしているのではないのです。いろいろなスピーカーで、チェンバロの音やファゴットの音の出方を聴いていて、ぼくはARのときにすごくいらいらしました。もちろんフェログラフはよくなかったけれど、他のわるいスピーカーはもちろん、ARのときになにかいらいらしたんです。それがKEFにかえたときに、ああ、ぼくにはこれがちょうどいいバランスで出ているなと思ったんですね。だからぼくだって、けっしてうわずみだけを聴いているわけではない。ぼくにとっては、ARのバランスだとどうもだめなのです。
 ぼくはARの場合、同じピッチで鳴っているファゴットとチェロとコントラバスのセパレーションが、とにかくわかるのですね。
瀬川 だから、岡さんの耳のイコライザーAR向きにできているのですよ。ところがぼくのイコライザーはARではぜんぜん動かなくなるのです。ARだと、もやもやもやっと聴こえてしまうわけ。
     *
これはほんの一例であって、
岡先生と瀬川先生のオーディオ機器の評価、
特にスピーカーシステムにおいては、こうなることは珍しいわけではない。

Date: 10月 30th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その9)

岡先生が、ステレオサウンド 61号に書かれている。
     *
 とくに一九七五年の「コンポーネントステレオの世界」で黒田恭一さんを交えた座談会では、徹底的に意見が合わなかった。近来あんなにおもしろい座談会はなかったといってくれた人が何人かいたけれど、そういうのは、瀬川冬樹と岡俊雄をよく知っているひとたちだった。
     *
1975年の「コンポーネントの世界」の座談会は読みたかった。
といってもバックナンバーは手に入らず、
読むことができたのはステレオサウンドで働くようになってからだ。
といっても二ヵ月ほどしか経ってない。
(岡先生は「コンポーネントステレオの世界」と書かれているが、
1975年版は「コンポーネントの世界」で、’76年以降「コンポーネントステレオの世界」となる)

おもしろかった。
岡俊雄、黒田恭一、瀬川冬樹、三氏の座談会は、
「コンポーネントステレオの世界」’76年度版でも行われている。

「コンポーネントの世界」でのタイトルも、
’76年の「コンポーネントステレオの世界」でのタイトルも、
「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」である。

この座談会で、「頭の中のイコライザー」という表現が出てくる。
瀬川先生の発言の中に、出てくる。
     *
たとえばこの試聴のようにいろんなスピーカーを聴いてみると、それぞれ違った音の鳴り方をします。その音が、われわれ三人の耳もとまでは、客観的に違った音色でとどいているんだけれど、それぞれの頭の中に入ってしまうと、岡さんがARで聴かれた音と、ぼくがKEFで聴いた音とが、じつは同じような音になっているのではないのか、という気がしてならないわけです。極論すれば、ひとりひとりの頭の中にイコライザーがあって、それが人によってAR向きにできていたり、JBL向きにできていたりしているんではないのか。したがって耳もとまできた音と、それぞれの人の頭の中に入った音とは、じつは全然違ったものになっているのではないのかという気がするんです。しかも、頭で聴きとった音をつぎに口でいい表わしてみると、たとえばどんな音がいいのかといったことをいうとき、いい音というのがいいにくいとしたら、少なくともどんな音は避けたいということを言葉でいってみると、三人ともあまり違わないのではないか。そんな気がしてなりませんね。
     *
この座談会は、「良い音とは、良いスピーカーとは?」で読むことができる。

Date: 10月 28th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その8)

ステレオサウンド 44号の試聴以来、
瀬川先生もBCIIIを高く評価されている。

43号のベストバイではBCIIIに票は入れられてなかった。
47号のベストバイでは、星二つに、
《媚びのない潔癖な品位の高さ。ただし鳴らしこみに多少の熟練を要す。》
と書かれている。

瀬川先生はBCIIには星三つ、
岡先生は反対で、BCIIIが星三つに、BCIIが星二つ。

岡先生も瀬川先生も高く評価されているが、
だからといってまったく同じに評価されているわけではない。

ステレオサウンドがおもしろかったころからの読み手ならば、
岡先生と瀬川先生の音の好みはまったく違っている。
音楽の好みも全く違っている、といってもいい。

岡先生も瀬川先生もそれを承知しながら、互いに理解し合っていた、といえる。
そのことはしばしば、特にスピーカーの評価に、はっきりとあらわれる。

たとえばアコースティックリサーチ(AR)のスピーカーシステム。
岡先生はAR3が日本に入ってきたとき、その第一号を購入されている。
AR3は、その後AR3aになり、LSTへとなっている。

ステレオサウンド 38号に、こんなことを書かれている。
     *
 おかげでおいつはAR屋だと見られているわけだけれど、ぼくはAR−LSTがベストのスピーカーだと思っているわけではない。リスニングルームのスペースやシステムをおける条件その他いろいろなことう睨みあわせ、またいろいろなレコードをきいていて、ぼくのうちではいまのところこのシステムが一ばん安定して鳴っているように自分では思っているだけのことで、充分に満足しているわけではない。
     *
瀬川先生は、AR嫌い、といってもいい。

Date: 10月 25th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その7)

スペンドールにD40というプリメインアンプがあった。
1977年に登場し、ステレオサウンド 44号の新製品紹介のページで取り上げられている。

価格は145,000円(1980年頃には、198,000円に値上り)だが、
国産の同価格帯のプリメインアンプと比較するまでもなく、見た目は貧相ともいえる。
内部も、これが15万円もするアンプなの? と思われただろう。

それでもスペンドールのBCIIと組み合わせたときの音は、素晴らしかった。
BCII専用アンプといってもいいくらいに、よく鳴らしてくれた。

私はD40を他のスピーカーと組み合わせた音は一度も聴いていない。
BCIIIを、D40はうまく鳴らせるのだろうか。

ステレオサウンドは、年末に「コンポーネントステレオの世界」を出していた。
’78年度版で、山中先生がBCIIとD40の組合せをつくられている。
’79年度版に、BCIIIの組合せが、二例ある。
岡先生による組合せと瀬川先生による組合せだ。

岡先生、瀬川先生はともに予算120万円の組合せで、
BCIIIをスピーカーとして選択されているが、どちらにもD40のことはひと言も出てこない。

このふたつの組合せで注目したいのは、
岡先生の組合せでは、BCIIIの専用スタンド込みの価格に対し、
瀬川先生の組合せでは専用スタンドは除外されている、ということだ。

44号の、瀬川先生の試聴記に、こうある。
     *
今回何とか今までよりは良い音で聴いてみたいといろいろ試みるうち、意外なことに、専用のスタンドをやめて、ほんの数センチの低い台におろして、背面は壁につけて左右に大きく拡げて置くようにしてみると、いままで聴いたどのBCIIIよりも良いバランスが得られた。指定のスタンドを疑ってみなかったのは不明の至りだった。
     *
だから、「コンポーネントステレオのステレオの世界 ’79」で、
瀬川先生は専用スタンドを使われていないし、
組合せ写真においても、岡先生の組合せでは専用スタンドのうえにBCIIIが置かれているが、
瀬川先生の組合せ写真ではスタンドの姿はない。

Date: 10月 25th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その6)

スペンドールのBCIIとBCIIIのインピーダンスカーヴの違いをみていると、
BCIのインピーダンス特性もぜひとも知りたくなるところだが、
いまのところ見つけられないでいる。

BCIIIがBCIをベースに、スーパートゥイーターとウーファーを追加したモデルと仮定して、
20cmウーファーとトゥイーターHF1300間のネットワークは、
BCIもBCIIIも同じだとしたうえで、
BCIIIのインピーダンスカーヴを考えてみると、低域、高域両端のカーヴは不思議である。

以前書いているように、ボイスコイルのインダクタンス成分によって、
トゥイーターのインピーダンスは高域に従って上昇していくものだ。

コイルに使う線材の断面が丸ではなく四角のエッジワイズ巻きのほうが、
インピーダンスの上昇は抑えられるが、下がるということは基本的にはありえない。

低域に関しても、20cmウーファーの下側をカットして、
30cmウーファーの上側をカットして、といういわゆる通常の方法で接続しているのであれば、
こういうカーヴになるだろうか。

低域のインピーダンスはユニット、ネットワークの他にエンクロージュアも関係してくる。
いったいBCIIIの内部はどうなっているのか。
BCIIIのインピーダンス特性をみれば見るほど、BCIIIの内部をつぶさに見たくなる。

低域で高く高域にいくに舌癌手インピーダンスが下がっていくスピーカーといえば、
コンデンサー型が、まさにそうである。
QUADのESLのインピーダンス特性が、ステレオサウンド 37号に載っている。

ESLとBCIIIのインピーダンス特性。
アンプの選択が難しいといわれるESLのほうが、BCIIIよりも素直なカーヴといえる。

BCIIIはアンプを選ぶのだろうか。

Date: 10月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その5)

ステレオサウンド 44号掲載のBCIIIのインピーダンス特性を最初見たとき、
測定ミス? と思うくらい、他社のどんなスピーカーよりも変ったカーヴだった。

けれど測定ミスということは冷静に考えるとありえない。
BCIIIのカーヴに疑問を抱けば、再確認でもう一度測定するはずである。
測定ミスでないことを確認したうえでの掲載であろう、と思った。

事実、ステレオサウンドで働くようになって、測定は三回行なっていた。
測定ミス、測定誤差をなくすためである。
44号ての測定も、長島先生なのだから三回やっているはずである。

測定ミスでない証拠に、46号でもBCIIIのインピーダンス特性は、やはり不思議なカーヴだった。
しかも44号のBCIIIと46号のBCIIIは、同じ個体ではないようだ。

46号の試聴記に、瀬川先生は次のように書かれていることからも、それはわかる。
     *
 44号(219ページ)でも触れたが、BCIIIを何回か試聴した中で、たった一度だけ、かなりよく鳴らし込まれた製品の音をとても良いと思ったことがあった。今月のサンプルは、44号のときよりもさらに鳴らし込まれたものらしく生硬さのないよくこなれた音に仕上っていた。
     *
インピーダンス特性にわずかな違いがあるだけでなく、
残響室内での能率(リアル・エフィシェンシー)は、91.0dB(44号)と94.0dB、
リアル・インピーダンスは10.0Ω(44号)、13.3Ω(46号)という違いがあり、
入・出力リニアリティ、トーンバースト波による低域第3次高調波歪率のグラフを比較しても、
少なからぬ違いがみてとれる。

インピーダンス特性もその数値に少なからぬ違いはあるが、
カーヴそのものの形はほぼ同じといえる。

BCII同様に50Hzにゆるやかピークがある。
その値は約50Ω(44号)、約80Ω(46号)。
30Hzまではインピーダンスは低下するが、それ以下でインピーダンスは上昇する。
20Hzでは約40Ω(44号)、約80Ω(46号)である。
10Hz、もっと下の周波数まで測定してあれば、もっと多くのことが読みとれるが、
残念ながら20Hzまでの測定である。

50Hz以上になると、全体としてはゆるやかに下降していく。1kHzで5Ω前後になり、
2kHzにゆるやかなピークがあり、約10Ω(44号)、約15Ω(46号)となり、
また下がり5kHzあたりで少し盛り返して、10kHz以上でまた下降していく。
20kHzでは約4.5Ω(44号)、約4Ω(46号)まで低下する。

44号のBCIIIと46号のBCIIIとでは、
インピーダンス特性の変動は、46号のBCIIIのほうが大きい。
可聴帯域内での傾向としては、うねりはあるが右肩下がりのカーヴである。

スーパートゥイーターの違いはあるものの、
20cmベクストレンウーファーとトゥイーター(HF1300)のクロスオーバー周波数は3kHz、
HF1300とスーパートゥイーターとのクロスオーバー周波数は13kHzと、
BCIIもBCIIIもカタログ発表値は同じである。
にも関らず、中高域のインピーダンス特性は、BCIIとBCIIIとではカーヴの形が違う。

詳しく知りたい方は、ステレオサウンド 44号、45号、46号、それに47号をご覧いただきたい。

Date: 10月 22nd, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その4)

BCII、BCIIIの型番のBはウーファーの振動板に採用しているベクストレン(Bextrene)、
CはトゥイーターHF1300のメーカーであるセレッション(Celestion)の頭文字である。

BCのあとのII、IIIは二番目のモデル、三番目のモデルという意味で、
BCIというモデルが、スペンドールの第一作にあたる。

BCIは日本では発売されなかったが、BBC仕様モニターである。
使用ユニットは、20cmベクストレンウーファーとHF1300の2ウェイで、
エンクロージュアの外形寸法はBCIIと同じ。

BCIIはBCIをベースに、ウーファーの磁気回路を強化し、
スーパートゥイーターとして13kHz以上を受け持つITTのSTC4001を追加している。
このふたつの変更により、耐入力はBCIの40Wから100Wに向上している。

BCIIは、BCIAとして、LSナンバーをもつ正式モデルはないが、BBCでも使われている。

BCIIIは、BCIIに30cmベクストレンウーファーを追加し4ウェイとしたシステムであるが、
スーパートゥイーターはBCIIとは違い、セレッションのHF2000に変更されている。
つまりBCIに、30cmベクストレンウーファーと、
スーパートゥイーターとしてHF2000を追加したモデルと考えた方が、より正確といえる。

BCIは日本に入ってきていないので、ステレオサウンドでも取り上げていない。
なのでインピーダンス特性がどうなっているのか確認できないが、
BCIIのインピーダンス特性は45号に載っている。

5Hzにゆるやなピークを持ち、500Hzから2kHzにかけて10Ω以上、
そこから上の帯域になると低くなり、4kHzあたりからゆるやかな傾斜で上昇していく。

この当時の他社製のスピーカーシステムと比較しても、特に変っているとはいえない。
BCIIよりも、優秀なインピーダンス特性のスピーカーもあるが、
同程度にうねっているスピーカーシステムは他にもあった。

ところが44号掲載のBCIIIのインピーダンス特性は、相当に奇妙なカーヴを描いている。

Date: 10月 21st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その3)

スペンドールはBCIIの復刻は手がけても、BCIIIは復刻しなかった。
理由はいくつかあるのだろう。

新しくなった輸入元からのリクエストもあったのかもしれない、
そのリクエストにしても、売行きがあまり見込めない機種の復刻を打診することはない。

BCIIIは、イギリスでの評価はどうだったのか知らないが、
日本ではBCIIばかりが評価されていたし、
BCIIIを早くから(BCIIよりも)評価されていたのは岡先生ひとりくらいだった。

オーディオ評論家ではないが、トリオの創業者の中野英男氏もBCIIよりもBCIIIを高く評価されていた。
     *
 私の仕事部屋、つまりトリオの会長室には、今十二本のスピーカーが並んでいる。正確に申せば六セット。うちニセットは机の前あとの四セットは左手の壁ぎわに置かれてある。最近机の前に据えられて定位置を獲得したスピーカーのひとつにスペンドールBCIIIがある。このスピーカーは永い間名器BCIIの名声に隠れて世に喧伝されるところまことに少なかった。BCIIは、菅野沖彦、瀬川冬樹両先生をはじめ、何人かの方によってしぱしぱとりあげられ、その独特の硬質かつ艶麗な語り口が世のクラシック愛好者の注目を集めたが、BCIIIについては今迄推す人はほとんどなく、かの瀬川さんすら幾分疑問視する向きがないでもなかった。
 私はここ何ヵ月かBCIIを聴き込ん来たが、その良さは認めるにせよ、ブルックナーやマーラーの再生時におけるスケール感の貧しさは覆うべくもなかった。
(「音楽、オーディオ、人びと」より)
     *
《かの瀬川さんすら幾分疑問視する向きがないでもなかった》とある。
たしかにそうだった。

ステレオサウンド 44号の試聴記の冒頭に書かれている。
     *
 弟分のBCIIがたいへん出来が良いものだから、それより手のかかったBCIIIなら、という期待が大きいせいもあるが、それにしてはもうひとつ、音のバランスや表現力が不足していると、いままでは聴くたびに感じていた。たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない。
     *
《たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない》
とある。
これは中野英男氏のBCIIIのことなのではないのか。

もちろん別の人なのかもしれないが、
私には中野英男氏のことだと思えてならない。

Date: 10月 21st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その2)

スペンドールのBCIIは、ステレオサウンド 45号の特集に、
BCIIIは44号と46号の特集に登場している。

44号と45号は「フロアー型中心の最新スピーカーシステム」が特集で、
二号にわたってのスピーカーの総テストが行われている。

46号は「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質を探る」で、
モニタースピーカーに限ってではあっても、ここでもスピーカーの総テスト、
つまり三号続けてのスピーカー特集だった。

スピーカー特集のひとつの前の43号はベストバイが特集だった。
BCIIの存在はそれ以前に知っていたけれど、
その評価の高さを知ったのは43号だった。

上杉佳郎、岡俊雄、菅野沖彦、瀬川冬樹、山中敬三の五氏が、
BCIIをベストバイコンポーネントとして選ばれている。
「光沢をおびたみずみずしい音が魅力的(上杉)」、
「ピアノより弦楽器やヴォーカルが見事である(岡)」、
「音の美しさでは、ベストといってよく(菅野)」、
「クラシック中心の愛好家には、ぜひ一度耳にする価値ある名作だ(瀬川)」、
「かけがえのないコンパクト機である(山中)」、
コメントの一部だけの抜粋だけでも、
BCIIというスピーカーシステムが、1977年当時、どれだけ高く評価されていたのかわかる。

とにかく品位の高い音、みずみずしい音を特徴とすることは伝わってくる。
BCIIの音は、はやく聴きたい、と思っていた。

BCIIの音を聴けたのは、瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られた時だった。
43号に書いてあったとおりの音が鳴っていた。

43号でBCIIIは……、というと、岡先生の一票を得ただけだった。
BCIIIについての文章は掲載されてなかったが、
岡先生はBCIIのところで、BCIIの若干の弱みも指摘されていて、
「こうした不満はBCIIIではほとんど感じさせないことは附記しておきたい」と書かれていた。

Date: 10月 20th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その1)

私にとってスペンドールの代表的スピーカーといえば、やはりBCIIである。
私だけに限らないはずだ。
少なくとも私と同世代、上の世代のオーディオマニアの人に同じことを聞けば、
九割以上の人がBCIIと答える、と言い切れる。

それほどBCIIの評価は好ましいものだった。
輸入元が今井商事からかわり、復刻されたBCIIの音は聴いていない。
ここでのBCIIとは、あくまでも今井商事が輸入元だったころのBCIIのことである。

BCIIには、BCIIIという上級機があった。
BCIIは3ウェイ、というより2ウェイ・プラス・スーパートゥイーターといえる構成。
BCIIIは、そのBCIIにウーファーをさらに加えたかたちだ。

BCIIのウーファーは口径20cmのベクストレンのコーン型、
BCIIIは、この20cmウーファーに、30cmのベクストレンコーン型を足している。
カタログには、ふたつのウーファーのクロスオーバー周波数は700Hzとなっている。
20cmウーファーは3kHzまで受け持つのは、BCIIもBCIIIも同じである。

この700Hzという値は、もう少し低く設定することは考えなかったのだろうか、と思わせる。
BCIIにも採用されている20cmウーファーをもう下の帯域まで受け持たせていれば、
スピーカーの印象もずいぶん変ってきたはずなのに……。
それはつまりBCIIのイメージそのままに、
スケールアップしたよさをBCIIIは出せたかもしれない、と思うからである。

日本ではBCIIとBCIIIとでは、圧倒的にBCIIのほうが人気が高く、
売行きも大きな差があったはずだ。

BCIIは、よく見かけたし、何度も音を聴いている。
ステレオサウンドの試聴室でも聴いている。

BCIIIは、というと、これも聴きたくても聴く機会がなかったスピーカーのひとつである。
見かけることも、数えるほどもなかった。

Date: 8月 31st, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

ホーン今昔物語(その15)

Interface:Dを開発していたころ、
エレクトロボイスは、ジム・ロングが語っているように他社ほど成功しているとはいえなかった。

過去の名器としてPatricianシリーズがあっても、
メーカーには、そういう時期も必ず来る。
JBLもそういう時期があったし、アルテックにもARにもあり、
他のメーカーにもある。

そういう時期だったからエレクトロボイスは、
他社が取り入れていない理論を受け入れやすかった、ともいえよう。
だから定指向性ホーン(Constant-Directivity Horn)が、
エレクトロボイスに在籍していたドン・キールによって打ち立てられた、ともいえよう。

ドン・キールはエクスポーネンシャルホーンが、それほど神聖か、という論文も書いているそうだ。

アルテックのマンタレーホーンの縦長のスリットをみていると、
トーンゾイレ型スピーカーと重なってくる。

トーンゾイレ型も、
スピーカー軸上から外れたところでも指向特性の範囲内でのエネルギー分布を均一するという目的で、
マッキントッシュのXRT20のトゥイーターアレイも同じ設計思想であり、
これをホーンを上下に何段も積み重ねるでなく目指したのが、定指向性ホーンである。

そう考えると、トーンゾイレ型スピーカーにホーンを取り付けたら……、となる。
コーン型ウーファーに縦方向に数発並べてのトーンゾイレ型をつくり、
その前にホーンを置く。

そんなことを考えていたら、アルテックの817Aエンクロージュアは、それに近い。
15インチ口径ウーファーを二本、縦方向に配置し、フロントショートホーンがつく。

817Aをひとつではなくもうひとつ用意して重ねれば、
よりトーンゾイレ型に近づく。

下側の817Aには515Eを二発、
上側の817Aには604-8KS(フェライト仕様になり奥行きが短くなったことで収まる)を二発、
その上にマンタレーホーンを置く。

604-8KSのトゥイーターを使うことで3ウェイにできる。
あまりにも大型すぎて、聴くことは叶わないが、悪くはないはずだ。