スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(余談)
スペンドールのBCIIは、菅野先生も購入されていた。
ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界」でも、
1978年度版と1979年度版で組合せをつくられているくらいである。
けれどBCIIIの評価は……、というと、すぐには思い出せなかった。
ステレオサウンドには載っていない、と思う。
レコード芸術・ステレオ別冊の「ステレオのすべて」の1977年度版に、
「海外スピーカーをシリーズで聴く」という企画がある。
菅野先生と瀬川先生による記事だ。
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菅野 色っぽいですよ。まあこれでもうひとつ、僕はだいたい大音量だから、ガンと鳴らせるものがほしいとこう思ってBC−IIIを聴いたわけ。そしたらねえ、いやぁ残念ながらその印象がねえ、このBC−IIがそのままスケールが大きくなったということじゃなくて、これはやっぱり重要なものだと思ったのは、同じ形のものも大きくすれば異なった形に見えるというのがあるでしょう。
瀬川 だったらさっきの言い方の方がいいよ。
菅野 ああそうですか。つまり自分の女房にね、もうちょっとグラマーだったらなっていうその要求をね、するのはやはり無理なんだと。
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《同じ形のものも大きくすると異なった形に見える》、
たしかにそうなのだろう。
BCIIとBCIIIは少なくとも、そうであろう。
むしろBCIIのスケールを大きくした、といえるスピーカーは、
ロジャースのPM510といえよう。
ステレオサウンド 56号で、瀬川先生は書かれている。
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全体の印象を大掴みにいうと、音の傾向はスペンドールBCIIのようなタイプ。それをグンと格上げして品位とスケールを増した音、と感じられる。BCIIというたとえでまず想像がつくように、このスピーカーは、音をあまり引緊めない。
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私は、これだけでPM510をとにかく聴きたい、と思った。
BCIIの品位とスケールを増した音──、
実際に音を聴いて、そのとおりだった。
だからBCIIIへの関心を失っていった、ともいえる。
結局違った形で大きくすることで、同じ形(音)に見えたわけだ。