複数のスピーカーシステムを鳴らすということ(その23)
スタニスフラフスキー・システムのことを書こう、とは、五年以上前から思っていた。
けれど、スタニスフラフスキー・システムという言葉を正確に思い出せなかった。
「七色いんこ」で、スタニスフラフスキー・システムが登場したエピソードでは、
主人公の七色いんこという代役専門の役者が、自分の演技の限界について悩む、という内容だった。
そこでスタニスフラフスキー・システムのことが語られていた。
当時、そういうのがあるのか、ぐらいの関心だった。
それにそれ以上調べるには、演技関係の書籍に頼るしかない。
インターネットで調べるなんてなかった時代である。
結局、そんなシステムがあるんだ、ぐらいのままで、終っていた。
なので、この項を書いていて、そういえば、と思い出しても、
スタニスフラフスキー・システムの名称が正確に思い出せないままだった。
スタニスフラフスキー・システムにからめて続きを書いていこう、と考えていても、
肝心のスタニスフラフスキー・システムが正確に思い出せないまま数年が経ってしまった。
つい最近、まったく違うことからの偶然で、
スタニスフラフスキー・システムに、ふたたび出合った。
そうだそうだ、スタニスフラフスキー・システムだ、と、
30数年ぶりに、スタニスフラフスキー・システムについて調べることもできた。
調べるといっても、インターネットで検索するぐらいで、
演技の専門書をひもといて、というわけではない。
それでもスタニスフラフスキー・システムについて、概略程度を知るだけでも、
スピーカーという存在は、役者と捉えてもいいという考えは、
案外的を射ているのではないか、と思ったし、
スピーカーシステムには、スピーカーシステムの鳴らし方には、
スタニスフラフスキー・システム的といえるものと、そうでないものがある──、
そう感じるようにもなってきている。
同時に、そのスピーカーの鳴らし手であるオーディオマニアは、
演出家なのか、という考えもできる。