Archive for category 世代

Date: 4月 16th, 2014
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その10)

プリ・メイン分離機能は、音質最優先という視点からすれば、
余分な接点が増えるし、アンプ内部の引き回しも余計に必要となる。
これらによる、ほんのわずかとはいえ音質への影響は確実にある。

それにプリメインアンプという形態を活かす構成に関しても、
プリ・メイン分離機能をつけることで制約を受けることにもなる。

プリ・メイン分離機能があるということは、コントロールアンプとして、パワーアンプとして、
一般的なセパレートアンプと同じゲイン配分である必要が出てくる。

このころのプリメインアンプの中には、
プリメインアンプという形態だからこそ可能なゲイン配分を試みている製品がいくつかあった。

どちらがプリメインアンプの形態として優れているのか、理想に近いのかは、簡単には決められないし、
どちらとも存在しているのが、いい。

ただ、あのころの私は後者のプリメインアンプの形態に魅力を感じていた。
プリメインアンプはプリメインアンプとしての音を磨いていってほしい、と考えていたからであり、
セパレートアンプへ移行するのであれば、プリメインアンプの一部を使うなんてことはせずに、
一気に本格的なセパレートアンプにするべき──、そう思ってもいた。

でもこれについても、別項のモードセレクターと同じで、歳(経験)を重ねていくことで変化していった。

プリメインアンプでも高級機であれば、
プリメインアンプならではのメリットを最大限に追求した形態であってもいいけれど、
普及クラスのモノならば、音質のために機能を省略することはないほうがいい。
プリ・メイン分離機能もついていれば、それを否定しようとはもう思わないし、
せっかくついている機能なのだから、実験的でもいいから、いちどは使ってほしい、と思うようになった。

Date: 4月 16th, 2014
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その9)

この時代のプリメインアンプのほとんどにはプリ・メイン分離機能がついていた。
つまりプリメインアンプなのに、プリアウト端子とパワーイン端子がついていたから、
一台の筐体におさめられてはいても、
コントロールアンプとしても、パワーアンプとしても独立して使うことができた。

具体的に書けばAU-D607のプリアウトの出力をチャンネルデヴァイダーに入れて、
チャンネルデヴァイダーのウーファー出力を新たに用意するパワーアンプへ、
スコーカー、トゥイーター出力はAU-D607のパワーイン端子に戻せばいい。

HIGH-TECNIC SERIES-1での「既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする」、
この記事の中で井上先生は小型スピーカーにKEFのウーファーB139MKIIを追加する案で、AU607に、
チャンネルデヴァイダー(サンスイCD10)とパワーアンプ(サンスイBA2000)を足すという組合せを提示されている。

HIGH-TECNIC SERIES-1では、菅野先生が「マルチスピーカー マルチアンプの魅力を語る」を書かれている。
そこに「トゥイーターにサンスイAU607のパワーアンプ部を使っている」とある。

ウーファー(JBLの2220)にアキュフェーズのM60、
スコーカー(JBLの375+537-500)にパイオニアExclusive M4を使われている菅野先生が、
トゥイーター(075)にパワーアンプではなくプリメインアンプのパワーアンプ部を使われている。

AU-D607で鳴らすJBL4301からスタートして、
次のステップとして15インチ・ウーファーを足してマルチアンプ駆動する。

グレードアップにつきもののオーディオ機器の無駄が、ここにはない。
もちろんさらに次のステップに進むのであれば、無駄も生じてこようが、
予算30万円の4301の組合せは、相当に楽しめると思う。

そう思うと、円高が一年早かったら、
もしくは私が一年遅く生れていたら、この組合せからスタートできた。
たった一年の違いで叶わなかったわけだが、私よりもひとつ下の人ならば、
この組合せに近いところからスタートした人もきっといると思う。

Date: 4月 13th, 2014
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その8)

「コンポーネントステレオの世界 ’79」で瀬川先生は、
予算60万円の組合せでLS3/5A(ここではチャートウェルを選ばれている)の組合せをつくられている。
アンプはトリオのセパレートアンプ、L07CIIとL05M、
アナログプレーヤーはトリオのKP7600にオルトフォンのMC30とヘッドアンプMCA76。
組合せのトータル価格は647000円。

この組合せの次のステップとして、サブウーファーを加えバイアンプ駆動するという、
予算120万円の組合せを提案されている。

60万円の組合せに追加するものとして、JBLの15インチ・ウーファー136A、
エンクロージュアにはサンスイとJBLが共同開発したECシリーズの中からEC10、
バイアンプ駆動になるので、チャンネルデヴァイダーにサンスイのCD10、
136A用パワーアンプとしてトリオのL07MII。
トータル価格は1296000円。

こういう組合せを読んでいたわけだ。
となると、4301の30万円の組合せの次のステップとして、
サブウーファーを加えることを考えて(妄想)してしまう。

4301は8インチ・ウーファーだから、追加するウーファーとして12インチは選択肢になりにくい。
やはり15インチにしたい。
136A、LE15A、2205A、2231Aなどが候補としてあがってくる。

エンクロージュアは自作という手もあるけれど、
サンスイのEC10は、フロントバッフルに北欧産桜等厚合板、あとの五面には硬質パーティクルボードを使い、
三つあるバスレフポートは閉じたり、ポートを長さの異るものに交換できるようになっていて、
これを使わない手はないだろう。

EC10のフロントバッフルはブルー。
もしこの組合せ。実現するとしたら4301のフロントバッフルもブルーがいい。
そうなると4301Bということになる。

Date: 4月 12th, 2014
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その7)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
瀬川先生は予算30万円の組合せでJBLの4301を使われている。

アンプはサンスイのAU-D607、アナログプレーヤーはKP7600、
カートリッジはエレクトロアクースティック(エラック)のSTS455Eで、組合せトータル価格は298700円。

「コンポーネントステレオの世界 ’79」は1978年12月ごろに出ている。
すでに4301の価格は円高のおかげで安くなっていた。
だから30万円という予算で組合せが可能だった。

この組合せの記事を読んで、また思ってしまった。
もう少し早く4301が安くなっていたら……。

しかも瀬川先生はJBLのL40は「爽やかな感じが強いスピーカー」で、
4301は「そのなかにどこかしっとりとした感じを聴かせる」スピーカーだといわれている。

4301とAU-D607、それにSTS455E。
いい組合せだと思う。けっして乾きすぎない音を聴かせてくれるはずだ。

4301の価格改定が、1978年の春であったなら、
そして「コンポーネントステレオの世界 ’79」が出ていたら、
瀬川先生の組合せそのままが、私の最初の本格的なオーディオ・コンポーネントになっていたかもしれない。

4301にしていたら、聴く音楽のジャンルも違っていたように思う。

それに「コンポーネントステレオの世界 ’79」では、
予算30万円から予算60万円にステップアップする組合せもある。

4301の組合せを60万円の予算にステップアップする組合せはなかったけれど、
ほかの組合せ例をみていて考えていたのは、
4301を買って、次のステップとしてウーファーを追加するという手である。

Date: 10月 6th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBLの型番)

オーディオのことを話していて、最近感じることが多くなったのは、
JBLのスピーカーユニットの型番をを言っても、通じなくなってきたことである。

JBLの2397といっても、それがまずホーンだということを説明して、
それからどういう形状のホーンなのかについて話さなければならない。

JBLのスピーカーユニットのラインナップが充実していたのは1980年代まで、といっていいだろう。
だから若い世代には、JBLのスピーカーユニットの型番をいっても通じないのは、仕方ないことなのだろう。

私がステレオサウンドに入ったころは、
JBLのスピーカーユニットの型番はほぼすべて憶えていなければいけない、という雰囲気があった。
そうでなければステレオサウンドの編集者として勤まらないのではなくて、
まわりにJBLのスピーカーユニットにただならぬ関心をもっている人が数人いたからで、
彼らの話についていくには、ウーファー、フルレンジ、トゥイーター、ドライバーの型番だけでなく、
ホーンの型番、そしてスロートアダプターの型番、ネットワークの型番まで、
しっかりと憶えている必要があった。

ステレオサウンドに入る前からほとんど記憶していた。
ただネットワーク、それもプロ用のネットワークの型番は完全とはいえなかった。

でも、そういう環境にいれば、すぐに憶えてしまう。
そうやって憶えてきたことは、いまでもけっこう憶えているものである。

自分がそうだったから、人もそうだと思いがちなのが、人間であろう。
同世代、もしくは上の世代のオーディオマニアは、みなJBLのスピーカーユニットの型番を諳んじている。
そう思ってきた。ずっとそう思ってきた。

皆がみんなJBLのスピーカーユニットに関心を持っていたわけではないことは、
少し考えればわかることなのに、そんなふうに思ってしまっていた。

JBLのスピーカーユニットの型番だけを言っても通用しないのは、
世代に関係なく一般的なのかもしれない。
とはいえJBLのスピーカーユニットの型番を言った後で、その説明をしなければならないことに、
それでも時代が変ってしまった、と感じてしまうのはなぜなのだろうか。

Date: 4月 11th, 2013
Cate: 世代
3 msgs

世代とオーディオ(JBL 4301・その6)

いま目の前に4301の程度のいい中古品が出て来たら、買ってしまうかもしれない。
うまくタイミングが合ってさえいたら、私にとって初めてのJBLとなっていたかもしれない4301だけに、
いまでも、いい出合いがあれば欲しい、という気持が残っている。

4301は最初はアルニコモデルだった。
けれど1980年ごろからのアルニコ不足の波によって、フェライト仕様のBタイプへと変っていった。

アルニコの4301、フェライトの4301B、
程度が同じであればアルニコ、といいたいところだけれど、
4301に関してはやや事情が、他のJBLのスタジオモニターとは異る。
それはフロントバッフルの色。

4301は側版、天板、底板はウォールナット仕上げ。
4343だと、この場合フロントバッフルはブルーになる。
けれど4301は、なぜか黒だった。

4301Bもウォールナット仕上げだが、
フロントバッフルはブルーになっている。

これは実に悩ましい。
見た目では4301Bにしたいところだから。

こんなふうに書いていくと、
これを読まれている方の中には、
もしかすると4301はいいスピーカーみたいだから……、と思われる方も出てくるかもしれない。

その人たちに、私は積極的に4301はおすすめしない。
他にもっといいスピーカーシステムはいくらでもある。

4301は、あのときもうすこしで手が届きそうでついには買えなかったという経験をもつ、
そしてJBLのスタジオモニターに憧れをもっていた人、
私とほぼ同世代の人ならば、4301への、私のこの想いは理解してくれるはずである。

4月のaudio sharingの例会でも私より上の世代のOさんはすでに書いてるように、
4301の評価は高くない。
でも私と同世代のKさんという、
私とまったく同じ想いで、いまも4301に手を出そうかどうか迷っている人もいる。
彼も4301が買えずにオンキョーのM6を買っている。

そんな想いで4301をみている人は、世代的にも少数のはずだし、
世代が違ってくれば、また別のスピーカーシステムが、Kさんや私にとっての4301と同じ存在になろう。

私と同じ世代でも、JBLの4343に憧れのなかった人にとっては4301は、そういう存在にはならない。

世代と、あの時の憧れ・嗜好が一致しているからこその、ふたりにとっての特別な存在の4301である。

Date: 4月 10th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その5)

4301が登場したころの私のスピーカーの最終目標は、JBLの4343だった。
4ウェイという、鳴らしやすいとはいえない構成の4343をうまく鳴らす──、
オーディオの経験なんて、まだほんのわずかしかないにも関わらず、そんなことを夢想していた私にとって、
4301は、このスピーカーを、このスピーカーと同じ価格帯のアンプとプレーヤーで鳴らせないようであれば、
4343を手にしたとしてもうまく鳴らせないはず。

だから将来4343を手にして鳴らす時のためにも、
いま、この4301で、JBLを鳴らす感覚を身につけ磨いていく──、
そんなことを考えていたからこそ、4301が欲しくてたまらなかったわけだ。

私が編集部にいたときもそれ以前の読者だったころも、
ステレオサウンドは発売日に出たためしがない。
いつも遅れていた。

いまは12月発売の号を除けば1日発売で、それ以前は11日発売。
さらにその前は15日発売だったのだが、たいてい書店に並ぶのは20日すぎ。

ステレオサウンド 46号も、だから私が住んでいた田舎町の書店に並んだのは、3月下旬。
その少し前に国産の3ウェイのブックシェルフ型を買ったばかりだった。
46号が、いまの発売日のように1日であり、発売日に書店に並んでいたら、
4301は第一候補になっていたはず。

けれど実際には、私が手にしたデンオンのSC104は一本43800円。
4301は20000円以上高い。ペアでは40000円以上違ってくる。

この差は大きい。
プレーヤーが買える価格差であるし、
たとえステレオサウンド 46号がもっと早く発売になっていたとしても実際には4301は買えなかったであろう。

4301には、そんな想い出がある。

Date: 4月 10th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その4)

JBLの4301の試聴記が載っているステレオサウンド 46号には測定結果も載っている。
その中にはトータルエネルギー・レスポンスとして、
残響室内でのピンクノイズとスペクトラムアナライザーによる周波数特性がある。

これが他のJBLのスタジオモニター(4331A、4333A)よりもずっと優秀で、かなりフラットに近い。
JBL同士の比較だけでなく、46号で取り上げられているスタジオモニター17機種の中でも、
優秀といえるレベルだった。

意外な感じだった。
17機種の中でももっとも安価な、一本65000円の4301が、
ずっと高価な、スピーカーユニットにしても本格的なものを搭載しているシステムより優秀な特性を示している。
もちろんすべての測定結果について優れているわけではないものの、
トータルエネルギー・レスポンスに関しては、
この結果だけを見ていたら、65000円のスピーカーシステムとは思えなかった。

理由はいくつか考えられるが、
4331A、4333Aよりも、JBLのスタジオモニターとして新しい時代のモノであることも関係しているだろう。

とはいえ一本65000円の4301。
瀬川先生の試聴記にもあるように、
4301と同等クラスのアンプやプレーヤーで鳴らした場合には、
46号での試聴記にあるような結果は得られないことは、これを読んだ時にも思っていた。

だからだろう、この項の(その1)でOさんがL26と比較したけれど、
4301がそれほどいい音は思えなかったのは。

でも、だからこそ46号を読んだ時、4301が欲しくなっていた。

Date: 4月 9th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その3)

4301についてJBLが発表しているスペックで注目したい項目がひとつある。
それはローレベルのリニアリティを加えている点である。

4301の出力音圧レベルは88dB/W/m。
この当時のブックシェルフ型の一般的な値よりやや低い。
この1W入力時の音圧レベルだけでなく、
4301は1mW入力、30フィート(9.1m)で39dBとなっている。

この値に関しては、他に比較対象がないため、
どれだけ優れているのか当時は正確には捉えることはできなかったけれど、
あえてJBLがこういうデータをつけ加えているということは、
4301のローレベルのリニアリティには自信があった、と受けとめていた。

4301の最大許容入力は15Wと、
JBLのスピーカーシステムとしても低い値だが、
同クラスのスピーカーシステムと比較しても低い値といえる。
加えて出力音圧レベルも高いとはいえないわけだから、
単にスペックから判断するに大音量で鳴らす設計とはいえない。

そして4301はJBLがブロードキャストモニターと呼ぶシステムでもあった。
4301は、4311よりも近距離で聴くことを前提としたスピーカーシステムなのだろう。

このことも4301が、JBLからの贈り物と思えたことにつながっている。

Date: 4月 9th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その2)

 アン・バートンの唱う “Go away little boy”(オランダCBS盤。日本盤とは音が違う)の冒頭から入ってくるシンバルのブラッシュ音は、かなりくせの強い録音なのだが、それにしてもアルテックやキャバスやダイヤトーン等では、この音がこう自然な感じで鳴ってはくれなかった。ベースの量感も、このちっぽけなスピーカーを目の前にしては、ちょっと信じがたいほどきちんと鳴る。アン・バートンの声に関してはもう少し滑らかさや湿った感じが欲しいと思わせるようにいくらか骨ばってクールなのだが、それにしても、4301が現代ワイドレインジ・スピーカーでありながら、少し古いジャズ録音をもかなりの満足感を持って聴かせることがわかる。シェフィールドのダイレクトカットの中の “I’ve got the music in me” でのテルマ・ヒューストンの声も、黒人特有の脂こい艶と張りが不足するが、バックの明るく弾みよく唱う音を聴けば、こまかいことをいう前にまず音楽を聴く楽しさが身体を包む。
 要するにそれは、輸入してこの価格、まして小さめのシンプルな2WAYから鳴ってくる音にしては……という前提があるのだが、それにしても4343以来のJBLが新しく作りはじめたトーンバランスは、右のようにポピュラー系の音楽をそれなりの水準で鳴らし分けることはむろんだが、クラシックのオーケストラを鳴らしたときでも、その音色のややドライで冷たい傾向にあるにしても、そして中音域全体をやや抑え込んだ作り方が音の肉づきを薄くする傾向はあるにしても、かんどころをよくとらえた音で鳴る。たとえばブラームスのピアノ協奏曲のオーケストラの前奏の部分などで、低音をアンプで1~2ステップ補整しないと、分厚い響きが生かされにくいし、ハイエンドにはややピーク性のおさえの利かない音がチラチラ顔を出すため、レコードのスクラッチノイズをいくぶん目立たせる弱点もある。
 それにしても、ラヴェルの「シェラザーデ」、バッハのV協、アルゲリチのショパン、ブラームスのクラリネット五重奏……と、それぞれに難しいプログラムソースも、こういうサイズと価格のスピーカーにしては、そしてくり返しになるが総体に質感が乾いているにしては、一応それらしく響きにまとめるあたり、なかなかよい出来栄えの製品ということができる。
 ただ、これを鳴らしたプレーヤーやアンプが、スピーカーの価格とは不相応にグレイドの高いものであったことは重要なポイントで、こういうクラスのスピーカーと同等クラスのアンプやプレーヤーで鳴らしたのでは、音の品位や質感や、場合によっては音のバランスやひろがりや奥行きの再現能力も、もう少し低いところにとどまってしまうだろう。しかしコンシュマー用のL16をモディファイしたような製品なのに、よくもこれほどまとまっているものだと、ちょっとびっくりさせられた。
     *
瀬川先生の4301について書かれた、この文章を読んだのが1977年3月のこと。
ステレオサウンド 46号に載っている。

4301以前にJBLのスタジオモニターには4311というブックシェルフ型があった。
4311は、30cm口径のウーファーをベースにした3ウェイ。
不思議と、この4311には食指が動いたことはなかった。

4311のスピーカーユニット配置は、通常のスピーカーとは違っていて、
ウーファーが上に来て、その下にトゥイーターとスコーカーが並ぶ。
そのせいか、なんとなくクラシックを聴けないスピーカーという印象を勝手に抱いていた。

JBLのスタジオモニターでクラシックを鳴らせるのは最低でも4333、
できれば4343、4350と勝手に思い込んでいた若造の私にとって、
欠点がないわけではないにしろ、10万円を切る価格にも関わらず、
「一応それらしい響きにまとめ」てクラシックを聴かせてくれる4301の登場は、
JBLからの10代の若造への贈り物のようにもおもえたほどだった。

Date: 4月 8th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その1)

1977年春ごろ、JBLから4301というスピーカーシステムが登場してきた。
20cm口径のウーファーと3.6cm口径のコーン型トゥイーターを組み合わせた、
エンクロージュアの高さが48.3cmという、ブックシェルフ型である。
価格は一本65000円だった。

このスピーカーのことが、4月のaudio sharingの例会ですこし話に出て来た。
私より上の世代のOさんは、4301には特別な思い入れはないとのことで、
そのころ大学の寮で友人に買わせた4301と、同じくJBLの2ウェイのブックシェルフ型L26との比較をしたら、
L26のほうが断然音は良かった、らしい。

価格的には4301とL26の差はそれほどない。
L26が少し高いだけで、同価格ともいえなくもない。
だから4301の比較対象としてL26はたしかにあり得るのだけれど、
L26のウーファー口径は25cmで、4301と同じ仕様のコンシューマー版となるとL26の下のモデルL16になる。

おそらくL16と4301との比較であれば、4301のほうが高い評価になるかもしれないが、
L26との比較となると、4301はその程度のスピーカーという評価になってしまうのかもしれない。
事実そうであろう。

それでも4301には思い入れが、私にはある。いまでもはっきりとある。

4301は4350、4343をフラッグシップとするJBlのスタジオモニターの中で、
当時高校生だった私にも、無理をすればなんとか手が届きそうな、そういうところに位置していた。

憧れの4343ではないけれど、
4300シリーズのスピーカーシステムが高校生になったばかりの若造にとって、
現実的な価格とサイズで出て来たのだ。

しかもステレオサウンド 46号での瀬川先生の評価もなかなかいい。
それもジャズやポップスだけがうまく鳴るのではなく、
クラシックもそこそこ鳴ってくれる、とあった。

Date: 2月 25th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(50という区切りをこえて・その2)

私がステレオサウンドに入った年(1982年)は、
井上先生はすでに50になられていたし、菅野先生、長島先生、山中先生は49、9月に50になられる年であった。

いま、私がその歳になった。
だから、よけいにおもうわけだ。

Date: 2月 21st, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(50という区切りをこえて・その1)

誕生日をむかえ歳をとるということは、
自分より年上の人たちが少なくなっていくことでもあり、
自分より年下の人たちが多くなっていくということでもある。

ステレオサウンドにはいったとき、ぎりぎり18だった。
だから、ずっと少年と呼ばれていた。
私より年下の人はいなかった。
みなさん年上の方ばかりだった。

井上先生は1931年、菅野先生、長島先生、山中先生は1932年生れ、
1934年生れの父をもつ私にとって、オーディオ評論家の方の多くは、父とほぼ同世代ということになる。
それだけ私よりも、長い時間を経験してこられている。

試聴のあいまやご自宅に伺ったときにきける話は、だからこそ聞き逃せないものだった。
オーディオ評論という仕事をされているから、
経験されてきたこと、オーディオの歴史を正しく認識されている。
そうもいえるし、正しく認識されているからこそオーディオ評論という仕事が可能なのだともいえよう。

どちらかといえば若く見られることの多い私でも、すでに少年と呼ばれる年代ではなくなったし、
青年でもなくなっている。
ステレオサウンドにいたころは、私より若いオーディオマニアと話すことはなかったのに、
いまでは私より若いオーディオマニアと話すことも増えてきている。

Date: 2月 20th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(その8)

ステレオサウンド 38号といえば、古くからの読者にとっては、
すぐに特集記事がなんであったのかすぐに浮ぶ人が多い、
いわば少し特別な号なのかもしれない。

私の手もとにも、一冊のステレオサウンド 38号がある。
私が買った38号ではない。
私が買った38号は、ずいぶん前に欲しいという人に、
他のバックナンバーもふくめて譲っている。

いま私のところにある38号は、岩崎先生が読まれていた38号である。
この38号を含めて、10年前に岩崎先生のご家族の方から譲っていただいた。
数冊あったステレオサウンドの中で、38号だけがくたびれていた。
つまり他の号より、何度も読み返されたことによる、本のくたびれ方だった。

その38号を手にとって、岩崎先生も、38号をくり返し読まれていたことを確信、実感していた。

38号の特集は「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」である。
黒田先生が井上卓也、岩崎千明、上杉佳郎、菅野沖彦、瀬川冬樹、長島達夫、柳沢功力、山中敬三、
8氏のリスニングルームを訪問されての記事である。

当然、誌面にはそれぞれの方のリスニングルームの写真が見開き・カラーで載っている。
ほとんどの方のリスニングルームにオープンリールデッキがある。
オープンリールデッキが写っていないのは、岩崎先生と井上先生のふたりだけ。

瀬川先生のところにはアンペックスのAG440B-2が、
JBL・4341、KEF・LS5/1Aの二組のスピーカーシステムのあいだに鎮座している。
菅野先生のところにはスカリーの280B-2、上杉先生のところにはスチューダーのB62、
山中先生のところにはアンペックスModel 300とルボックスのG36、
長島先生のところにはルボックスHS77、柳沢氏のところにもHS77がある。

Date: 2月 20th, 2013
Cate: 世代

世代とオーディオ(その7)

私はカセットデッキには夢中にはなれなかった。
いまはあまり聞かなくなったけれど、以前は、サラ派、ヒモ派という、
オーディオマニアをいわば分類するような言葉があった。

サラ(皿)派はディスクをメインのプログラムソースとする人たち、
ヒモ(紐)派はテープをメインのプログラムソースとする人たちのことであって、
ここでいうヒモはカセットデッキ・テープのことではなく、オープンリールテープ・デッキのことを指している。

1970年代のステレオサウンドに載っている広告の中には、
オープンリールテープのミュージックテープの広告もあった。
2トラック38cmのミュージックテープともなると、1本1万円を超える価格だったりした。

私はあきらかにサラ派だったが、それでもオープンリールテープ・デッキには、
カセットテープ・デッキとは比較にならぬほど強い関心があった。

中学生・高校生のころ、いつかはEMTの930st、927Dstと夢見ていたわけだが、
オープンリールデッキに対しても同じで、いつかはスチューダーのA80とか、
そこまで大型のコンソール型でなくてもスチューダーのB67、ルボックスのB77、PR99など、
欲しいと夢見ていたモノはいくつか、こうやってすぐにあげられる。

もし、これらのどれかを買ったとして、いったい何を録音するんだろうと自問したくもなる。
ミュージックテープを買ってきて再生するだけでは、テープデッキの機能の半分しか使っていないことになる。
ならば再生専用のデッキをどこか作ってくれないだろうか、とも考えたこともある。

でもテープデッキは、やはり録音して、再生する器械である。
そういう器械を、ただ再生するためだけで使うのは、宝の持ち腐れという気がしないでもない。